MidnightInvincibleChildren

悪でもって悪を討つ!/『スーサイド・スクワッド』

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あらすじ

そこはスーパーマンの存在する世界。政府は彼のような能力を持つ「邪悪」な存在の出現を懸念し、「タスクフォースX」計画を発動した。それは凶悪犯罪者専門刑務所に収監されている悪党どもだけで結成された特攻部隊(スーサイド・スクワッド)の創設。恩赦と引き換えに人権もコンプライアンスも関係ない無謀な任務を強制される使い捨て集団だ。そんな中、人類の脅威となるメタヒューマンが活動を開始。世界を破滅の危機に陥れる。出番だ暴れろ!スーサイド・スクワッド

 

「タスクフォースX」選抜メンバー

ハーレイ・クインマーゴット・ロビー)】

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ハ~イ♡わたしはハーレイ・クイン。昔はハーリーン・クインゼルとか名乗ってたかも。元々精神科医をやってたんだけどアーカムアサイラムプリンちゃんに出会ってから人生が一変!脱走に協力して二人でたくさん悪いことしまくる最高の日々を過ごしていたんだけどお邪魔虫のバッツィに捕まえられてあたちだけ刑務所へ。ガーン!プリンちゃんと離れ離れになっちゃったよ~~~ファックザバッツィ!ロビン同様殺してやる!ってことで毎日退屈だしさみしいから布にぶら下がったり鉄格子を舐めたりして過ごしてるの……。そんな折、首に爆弾?仕込まれてテロリストと戦う?ことを命じられちゃうんだけどう〜んやっぱり興味なし。世界の危機よりふたりの愛。わたしはただプリンちゃんに会いたいだけ。会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい……。

 

【デッドショット(ウィル・スミス)】

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クソったれめ!俺はフロイド・ロートン。デッドショットと呼ばれる百発百中の殺し屋さ。数少ない楽しみである娘とのデート中にクソったれバットマンに捕まえられたのが運の尽き。いまは独房暮らしだがいつの日か必ず脱獄してみせるぜ。なんて考えていた矢先、政府の連中からの勧誘が。冗談じゃねえ。ただし俺と娘の明るい未来を約束してくれるのなら話は別だ。ちゃんとメモしときな、お偉いさん!

 

エル・ディアブロ(ジェイ・ヘルナンデス)】

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ヘイYOワッサップ?俺はチャト・サンタナa.k.a.エル・ディアブロ。炎を自在に出現させ、操作できる能力を持っているが、そのおかげで最低最悪の事態を招いてしまったことがある。こんな力、ない方がいいのさ。例え政府の連中に「利用できる」と期待されたところで関係ねえ。任務?参加したくないよ。どうでもいい。ほっといてくれ。

 

キラー・クロック(アドウェール=アキノエ・アグバエ)】

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ガハハ。俺はウェイロン・ジョーンズ。通称キラー・クロックだ。ワニ男呼ばわりがウザってえから下水でのんびり暮らしていたってのにあのコウモリ野郎に捕まえられちまった。政府のスカウトは鬱陶しいがまたシャバの下水に戻れるのは嬉しいから頑張るぜ。

 

【キャプテン・ブーメラン(ジェイ・コートニー)】

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どきやがれ!俺はジョージ・ハークネスだ。人呼んでキャプテン・ブーメラン。人間と違ってブーメランは裏切らねえ。ぬいぐるみもな。オーストラリアで強盗しすぎたせいで襲う場所がなくなってきた俺はアメリカに遠征、よくわかんねえ光速野郎に捕まっちまった。もち、任務になんて興味ねえよ。隙を突いて逃げてやるぜ!!!なあ!スリップノット

 

スリップノット(アダム・ビーチ)】

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やあ!俺はスリップノット!お得意のロープを使えばどこにだって上れるぜ。そんな俺に目をつけた政府の人間たち。ある特殊任務につくことになったんだ。首には小型の爆弾。逃げたら死ぬって?上等、上等!いっちょ暴れてやりますか!え?キャプテン・ブーメラン、いまなにか言った……?

 

【リック・フラッグ大佐(ジョエル・キナマン)】

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諸君、俺はリック・フラッグ大佐だ。今回とある事情によりならずもの軍団の指揮を執ることになった。危険な狂人どもめ、貴様らの首に仕掛けた爆弾は俺の采配で起爆させることができる。俺に危害を加えようとしたり、逃げようとしても同じだ。各々、肝に銘じるように。あと余計なことを口走るな!指示に従え!うるさいぞ!魔女とのファックは最高に決まってる!

 

【カタナ(福原カレン)】

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初めまして、わたくしはカタナと申します。本名はヤマシロ・タツです。この日本刀でリック大佐をお守りするべく参上いたしました。悪党どもに慈悲などいらぬ。余計な動きを見せたものは即一刀両断。重々覚悟をしておくように。

 

【エンチャントレス(カーラ・デルヴィーニュ)】

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こんにちは、ジューン・ムーンです。考古学の博士をしています。以前、ある洞窟に調査に赴いたときに長年封印されていたエンチャントレスと言う……私はエンチャントレス。長い眠りから目覚めた古よりの支配者。私の大事な心臓が人間の手によって管理されているので、奴隷のような扱いを受けている。我慢ならない。同じく封印されている弟を復活させ、この世界を支配してやるわ!

 

その他

ジョーカー(ジャレッド・レト)】

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 HAHAHA!オレだよ~!スウィートハート!いま迎えに行くからね~~~!

 

感想

デヴィッド・エアー監督といえば、少年時代をロスにあるサウスセントラルで過ごし、17で海軍に入隊したというザ・タフな監督。ガラの悪い人がガラの悪いやつらとぶつかって誰かが死ぬ、そんな映画を多く撮ってきた印象だ。そんな監督にとって悪が悪を討つストーリーである今作なんて最適じゃん!と思ったのは紛れもない事実であり、ヤンキーイズムむき出しの衣装や美術がグッとくるスチール、Queenの『ボヘミアン・ラプソディ』流れる予告編などを見るにつれ、期待に胸中を温かくしていた。監督の過去作は全部好きだもんね。『バッドタイム』なんて心の一本だぜ!ということで、今回は自分がなぜ今作にのれなかったのか、それを記しておこうと思う。いつかこの作品の光る部分を能動的に見つめられたときに、過去の自分を振り返るためだ。

 

身も蓋もなく言っちゃえば、おおよそ期待していたことが起こらなかった。ここでの「期待」が何かといえば、悪党の活躍に自由を見たり、ならずものの心が通じ合う気持ちよさだったり、ケレン味溢れるアクションのことを指しています。そんでいざ鑑賞すると、全然そういうことじゃなかった。なにがケレン味溢れるアクションだ馬鹿野郎!ぼくはアクションが退屈だという一点だけで急に冷めてしまうところがあるが、それを除いても、いまのぼくの頭じゃこの映画のいびつさを補完する力が足りない。映画、盛り上げちゃダメなの?と思った場面が何度もあった。同時に、監督めちゃくちゃ大変だったのかも、という心配も胸をよぎった。魂を込めたのに、その縁取りを邪魔されたとか、そういう拭い去り難い「本当はこんなつもりじゃなかったんだけど」感を感じてしまった。好き嫌いで言えば好きだけど、それで片付けるにはこの混乱を無視することができない。この映画を嫌う気にはならない。でもちょっとどうしていいかもわからない。だから人と話したい。そんな感じでまた面疔ができた。

 

今作のジョーカーに関してもぼくはなかなかに複雑な想いを抱いている。ヒース版ジョーカーとの比較はお門違いだとの声もあるが、別にそういうことじゃない。ジャレッド・レトの演じ方に文句はない。ただあのキャラクターが、ぼくの高校時代のある友人を想起させるものでつらかっただけだ。そいつは高校に通って初めてできた彼女と近所でも問題視されるほどの愛欲の日々に溺れるのだけど、次第に感情はねじれを見せ、ついにはその彼女をきつく束縛するようになった。彼女が自分に冷たい態度をとれば、誰かと浮気しているんじゃないか、その相手はお前なんじゃないかといった内容の長文メールをぼくに寄越してくるほどの攻撃性を見せる一方で、そんな自分の行動を「愛」という乱暴なくくりで美化し、吹聴できる傲慢さを持っていた。殺そうと思ったこともある。なので今回のジョーカーも自分の「所有物」であるところのハーレイちゃんを「愛」という名の独占欲のもと奪い返そうとしては人の邪魔ばかりする男にしか見えず、今回のバットマンがやむを得ない殺生は実行するタイプで本当に良かったと思った。しまった、今回のジョーカーがどうこうって話じゃなくなっている。ぼくはかつてのあの友人へ抱いた怒りを再燃させているだけに過ぎない。

※ちなみに調べてみたところ、今回、ジョーカーのシーンが大量に削除されているとの話だが、その中には彼のDV彼氏的側面の描かれたシーンが含まれていたそうだし、マーゴット・ロビー本人もこのふたりの関係には肯定的じゃないらしい

 

 ということで『スーサイド・スクワッド』、願わくば登場人物の中にショットガンを操るキャラクターがいれば最高だった。ぼくは映画に出てくるショットガンが大好きだし、絶対この映画にもショットガンが似合うはずなのだ。ふざけてなんかいない。ぼくは真剣にそう思っている。

 

 

 

 

 

時代遅れのジジイを止めろ!/『X-MEN:アポカリプス』

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神の目覚め

かつて人類史上初であり最強のミュータントが世界を支配した時代があった。最も神に近い存在として君臨する男の名はエン・サバー・ヌールa.k.a.アポカリプス(オスカー・アイザック)。しかし!新しい体に魂を移送する儀式の最中、色々あって長い眠りに入ってしまう。時は過ぎ1983年。カルト集団の儀式によって復活したアポカリプスは、かつての習慣から四人の下僕a.k.a.黙示録の四騎士(フォー・ホースメン)探しの旅へと出ることに。一方カルト集団を追っていたCIAのエージェントことモイラ・マクタガートローズ・バーンは、記憶こそ消されてはいるがミュータント周知のきっかけとなった事件に大きく関わった重要人物。異変を察知したチャールズa.k.a.プロフェッサーX(ジェームズ・マカヴォイはかつてキスをした仲でもあるモイラにコンタクトを取り、アポカリプスのあとを追うのだった。アポカリプスの目的は退廃した現文明のスクラップアンドビルド。そうはさせまい!X-MENを再結成だ!

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ということでX-MEN』シリーズ六作目(スピンオフを除く)にして後期トリロジーの完結編でもあるっぽいX-MEN:アポカリプス』(ややこしすぎる)。ぼくは2000年公開のX-MEN以外はすべて劇場でリアルタイム鑑賞してきた。いろいろ言われている三作目X-MEN:ファイナル・ディシジョン』も大好きだったりする。マグニートーが道路の真ん中に立って列をなす車を磁気操作能力で潰しては投げ潰しては投げしていくシーンなんて嫌なことのあった帰り道なんかよく想像する。そう、いまでも。シリーズに対するそんな感じの思いをまとめた過去記事があるのでよければ読んでください。

sakamoto-the-barbarian.hatenablog.com

 

さて、今回の『アポカリプス』はどうだったか。ざっくりと振り返っていきたい。

 

黙示録の四騎士(フォー・ホースメン)

今回は史上最強のミュータントが数千年の眠りから目覚め、テレビを観ることで人類の堕落を知り、この文明を一旦無に帰すべきだと地球規模の大破壊を始める。アポカリプスは様々な能力を保持した万能ミュータントなので、世界の一つや二つ朝飯前と言わんばかりにめちゃくちゃにしていく。そんな彼が黙示録の四騎士としてスカウトしたのは以下のミュータントたちだ。

 

【ストーム/オロロ・モンロー】(アレクサンドラ・シップ)

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天候を操るミュータント。突風を起こして気をそらせつつ物を盗む、というせこい盗賊をしていたがアポカリプスに見初められ仲間入り。シリーズを追ってきた人はご存知のとおり前期トリロジーではX-MENの主要メンバーでもあった人。なので予想通りそんなに悪いやつではない。

 

【サイロック】(オリビア・マン)

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日本刀とエネルギーソードであらゆるものを切り裂くミュータント。ミュータント情報屋のもとでボディーガードをしていたところ、アポカリプスにスカウトされた。ちなみに谷間と太ももガッツリな過激コスチュームはアポカリプスがつくったものだ。アポカリプスは偉そうなうえにスケベなのである。最悪だ。

 

【エンジェル】(ベン・ハーディ)

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背中に天使の羽が生えたミュータント。ドイツでミュータント版ジ・アウトサイダーのような地下格闘に参加しては他のミュータントを血祭りにあげていた。ぶっちゃけ羽が生えているだけなので飛行能力以外の利点があまり感じられないが、アポカリプスがなぜか気に入り、羽を鋼鉄製にしてくれる。そのため羽毛をナイフのように飛ばすことが出来るのだが、それでもまだもう一声ほしいところだ。メンバー内に天候を操るやつがいるのも彼をよりいたたまれなくさせる。現実でもたまに見かける「あいつ、大したことないくせに妙に上に気に入られてるよな……」系ミュータントなのかもしれませんね。

 

マグニートー/エリック・レーンシャー】(マイケル・ファスベンダー

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磁力を操るミュータント。これまで受けた余りにもひどい仕打ちの数々から人類への底なしの怒りに震えるテロリストでもある。しかし今回は色々あって人間社会に順応し、幸せに生きていこうと努力しているのだが、新たな災厄が彼の安寧をいたずらに乱し、破壊衝動に再び点火させるのであった。そんなタイミングでアポカリプスに声をかけられたもんだからもう大変。もともと最強クラスであるその能力をより高めてもらったことで、その強さはアラレちゃんレベルに。とはいえ誰かの下僕に成り下がるようなタマかよ!辛いのはわかるけど、つけ込まれないで!と、みんなが心配している。

 

このように実に頼もしい面子を引き連れてなお、アポカリプスはチャールズの能力にも並々ならぬ興味を抱き、接触を図ってくるのであった。こうしちゃいられねえ。世界崩壊を防ぐために立ち向かうは以下のメンバーだ!

 

 

新生X-MEN

【ミスティーク/レイヴン】(ジェニファー・ローレンス

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驚異的な身体能力と変身能力を持ったミュータント。 前作での活躍からミュータントたちの間で英雄視されている。身を潜めながら世界中の悩めるミュータントを救済すべく動き回っているが、アポカリプスの復活に伴い、かつての家族であるチャールズの元を訪れるのだった。

 

【ビースト/ハンク・マッコイ】(ニコラス・ホルト

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 天才的な頭脳と野獣のような凶暴性を併せ持つミュータント。普段は自分で開発した薬を用いて人間の姿を維持している。チャールズと一緒に「恵まれし子らの学園」に暮らしていたが、アポカリスに連れ去られたチャールズ奪還と世界崩壊を止めるため、ミスティークとともに頼れる先輩としてみんなをまとめる。

 

サイクロップス/スコット・サマーズ】(タイ・シェリダン)

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目から破壊光線が出続けるミュータント。そのため目隠しをして生活していたが、兄であり初代X-MENメンバーでもあったハボック(ルーカス・ティル)に連れられ「恵まれし子らの学園」を訪れる。そこで偶然ぶつかったジーンにドキドキ。ビーストの開発した光線を抑えるサングラスを装着することで、日常生活を快適におくれるようになった。

 

【ジーン・グレイ】(ソフィー・ターナー

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テレパシーとテレキネシス(念力)が使えるミュータント。しかしその能力があまりに強大なため、ときおり制御不能になってしまう。 シリーズを追ってきた人からすれば、「でもこいつがいるのなら……」そう思わずにはいられないはずだろう。とはいえ相手は「神」。油断はできまい。

 

ナイトクローラー/カート・ワグナー】(コディ・スミット=マクフィー)

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「見える場所」と「行ったことのある近場」へなら瞬間移動できるミュータント。青い肌と尻尾を持っている。ドイツのサーカス団にいたが拉致され地下格闘試合に参加させられていたところをミスティークに助けてもらう。人懐っこくお茶目な性格をしている。戦闘は得意じゃないが、触れた人も一緒に瞬間移動させることができるのでかなり助かる。

 

クイックシルバー/ピーター・マキシモフ】(エバン・ピーターズ)

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 めちゃくちゃ速いミュータント。あまりにも速すぎてあらゆる雑念にも追いつかれないためか、あっけらかんとした性格をしている。高速での大仕事の前になるとお気に入りの曲を再生することがある。フォー・ホースメンのメンバーの中に思い入れのある人物がいるようで、プロフェッサーXに会うため「恵まれし子らの学園」を尋ねてくる。今回もとびきりアガる活躍シーンが用意されていて、超最高!

 

かくしてアポカリプス&フォー・ホースメンvs新生X-MENの世界をかけた戦いがいま始まるのであった……。

 

アポカリプスとは……

X-MEN史上最強の敵……それは神」といったふうに宣伝されている強敵アポカリプスだが、彼は一体なにを象徴とする存在なのだろう?数千年も寝ていたくせに、目覚めるやいなや「ひどい時代だ」と順応を拒否。その気持ちだってわからいじゃないが、とはいえもうちょっと人の話を聴いてくれ、と思ってしまう。なぜならぼくは、いきなりスマホを向けられても笑顔で応えるアスガルドの神、マイティ・ソーをすでに知っているんだし……。

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愛される神様の代表例。神対応とはまさにこのことである。

 

今作『X-MEN:アポカリプス』は、傲慢な態度で「まったく今どきのやつは……」とのたまう目上の人に対し、新たな若い世代が立ち向かう話となっている。初めこそ高圧的な態度、インパクトのある顔面や能力に気圧されていたX-MENだったが、「いい加減にしろクソジジイ!紀元前に帰れ!」と次々と己の持つ能力をフル活用して牙を剥く様には大変胸を打たれた。よくみりゃ背も低いし、大したことねえよこんなやつ。顔がちょっと怖くて偉そうなだけじゃん。ぼくたちはミュータントではないので、モノを操ったり得体の知れないエネルギーを放出したり空を飛んだりはできない。しかし、空気に飲まれることなく、相手と自分の力量を客観的に見極める能力は、頑張れば身につけることができるのではないだろうか?ぼくらはやれる。一人じゃ難しくとも、力を合わせ、頭を使い、強大な敵を打ち倒すことができる。なぜならぼくらは、恵まれし子なのだから。

 

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こ、こわい……!

 

でも

 

時代遅れのジジイを止めるのだ。

 

今すぐに。

 

 

いつか夢見たあの仕事/『ゴーストバスターズ』

 

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~あらすじ~

大学で教鞭をとるエリン・ギルバート(クリステン・ウィグはかつて友人と超常現象を研究した本を出版するも、時間の経過と社会の軋轢の中で黒歴史化していき、大学での終身雇用の話にもかげりが出てしまう。そこで共同著者である友人のアビー(メリッサ・マッカーシーに「Amazonでの販売をやめてもらう」ようお願いに行くのだが、アビーは相棒のジリアン・ホルツマン(ケイト・マッキノン)といまだに超常現象に関する研究を進めており、怪奇現象のあった屋敷の調査に赴くことに。同行したエリンは、そこで本物の幽霊を目の当たりにして興奮をカメラにまくし立ててしまうが、その動画がYouTubeアップされ、結果失業。同じくアビー&ホルツマンのコンビも大学を追い出され、仕事のない三人は地下鉄職員のパティ・トーナン(レスリー・ジョーンズ)と面接に来たバカ、ケヴィン(クリス・ヘムスワーズ)を仲間に加え、超常現象を専門に取り扱う会社「ゴーストバスターズ」を設立するのだった。

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前作『ゴーストバスターズ』が1984年の映画らしい。ぼくがそれを観たのも20年ほど前の話で、テレビのゴールデン洋画劇場で放送していたやつを一回っきり。観た直後は興奮のあまりノートを開き、マシュマロマンにビームを放つ棒人間の絵を描いたほどだった。で、今作を鑑賞するにあたり一作目くらい鑑賞しなおすか、Amazonプライムビデオで見放題だし、と思っていたぼくだったのだが

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のシーンで10秒くらい笑ってそのときの気持ちを誰かに伝えたくなったままふらふら外に出てしまったので、続きを観ることもなく、時節柄、情緒的な不安定に悩まされたこともあって、けっきょく冒頭中の冒頭しか確認せずに最新作へと臨むこととなったのだ。やややケッタイな!

 

でもいざ鑑賞してみると続編ではなくリブートだったのだ。やったー!話によればメインキャストを女性にしたことで一部の人間が炎上したらしいし、それをとりまくみっともない有様なんかも情報として事前にバンバン入ってきたこともあってうんざりしていた部分もあったのだけど、映画はそういう空気を意に介さないゴキゲンな内容だったので、ぼくは改めて「映画っていいなあ~」と思ったのだった。 ぼくはクリステン・ウィグの「ズーイー・デシャネルの実家に遊びに行ったら奥から出てきそう」な感じが好きなので今回の主演も嬉しかったし、『ブライズメイズ』以来の共演となるメリッサ・マッカーシーとの掛け合いも楽しい。そもそも同性同士の気の張らないやりとりが好きなぼくは、今回のゴーストバスターズに溢れる大人の放課後感が心地よかった。なによりメンバーの4分の3が職を失ってから物語が動き始める点にも勇気をもらえる。ぼくは映画を観ながら、ゴーストバスターズのイントロを背にしてつなぎを身にまとい、中腰で廊下を進みたい願望を自分の中に見た。そうだ、ぼくは小学生のころ、「ゴーストバスターズ」という職業に憧れを抱いていたのだ。胸が震えた。

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胸が震えたといえばクリス・ヘムズワース演じるケヴィンだ。今年観た映画に出てくる誰よりもバカだった。出てくるだけで劇場がざわついたので、このキャラクターは大勝利を収めたことになるのだろう。『トロピック・サンダー』も彷彿とさせるあのエンディングも最高だ。マッチョでハンサムなケヴィンがあまりにも屈託なく病的な行動に出るので、先述したように同性同士の心地いいやりとりの阻害要因にもなりようがなかった点が素晴らしかった。サックスに耳を当てても「聴いてる」ことにはならないんだぜケヴィン。

 

リブート版『ゴーストバスターズ』はテンポよく進んでくれる。二時間があっという間だった。ゲラゲラ笑って劇場を後にし、一緒に鑑賞した弟とふたりおなじみのテーマ曲をハミングしながら帰った。あのリズムに足を踊らせるぼくらはきっと仲良くなれるはずなのさ。こんな世の中だろうとニヒリズムに甘えず、DMXの『Party Up』を聴きながら踊っていようぜ。ゴーストを狩れ。いますぐに。

 

 

 

 

 

 

 

書き下ろし短編:『Good morning, everyone.』

 

 深夜四時を回っていた。煙草を一本手に取り、先端を眺め始めてから一体どれだけの時間が経ったのだろう。矢野は考えていた。特別気になる箇所がある訳ではなかったが、そうすることで落ちつくことができた。矢野はライターを持っていない。そもそも煙草を吸う習慣さえなかった。マッチならどこかにあるはずだったが、それより先にコンロが目に入った。ガスの元栓を開け、つまみを捻ると、真っ暗な部屋に青い炎が浮かび上がり、仄かに空気を焦がした。煙草を青い光に近付ければ先端が赤くなり、鼻孔をくすぐる甘い香りが漂ってくる。矢野はそのまま煙草の燃える様を眺めていようと思ったが、コンロから離した途端に赤い光はみるみる弱まり消えてしまった。同時に先ほどまで滾っていた「燃やしたい」という衝動さえも醒めてしまったため、矢野は煙草を流し台に放り投げて水で濡らした。漂う残り香さえ鬱陶しく思えた。窓へと向かいカーテンを引く。朝日はまだ昇っておらず、触れられそうな闇が広がっていた。しばらく目を凝らしてみれば、夜空に浮かぶ雲がぼんやりと確認できる。直に朝日を拝めるだろう。矢野は椅子に腰を下ろし、机の上に置いてあった包丁を手に取った。広げられた新聞紙の上には、皮と実が削り取られ、蝋燭のように細くなったりんごの芯がのっている。矢野は窓に向かったまま、新聞紙目がけて包丁の刃を振り下ろした。芯は二つに折れ、床の上に落ちて転がった。肘かけに肘を置き、重力に任せ、包丁を握る手を地面目がけて振り下ろした。包丁は雑誌の上に突き立つと、静かに角度を変え、床の上に倒れる。目の前の窓ガラスには何も映っていない。実際には映っているのだけれど見えていないだけなのかもしれない。矢野は顔を近づけ息を吹きかけた。曇りは霧散してしまうが、残された黒い窓ガラスには、微かに自分の輪郭が映っていたので安心した。僅かに開かれた窓からは湿った風が入りこみ、室内をじめじめと汚していくかのような気がしてならなかったが、矢野はそれを放っておくことにした。この部屋に住み始めてまだ二週間ほどだが、今となってはすっかり矢野の安住の地へと変化を遂げている。色、温度、匂い、全てが矢野を安堵させた。日中はほとんど外に出ることもなくこの部屋で本を読んだり、ごくたまにテレビを見たりして過ごしていた。矢野は定職に就いていない。以前薬局でアルバイトをしていたことがあったが、頭痛薬を購入した男性の後をつけ、自宅前でその両足の骨を踏み砕いて以来通わなくなった。その男性客と面識はなかった。怨恨など生まれる余地すらないほどの関係性だったが、矢野はそうしなければならないと感じたのだ。風の匂いはかつて嗅いだことのあるものだったが、妙な郷愁に浸るのは避けたいと窓を閉めることにした。時計の針は四時三十分を指している。ふと、矢野は窓ガラスに映る自分に話しかけたい衝動に駆られた。しかし何を話せばいいのかが思い浮かばず、そんな自分を情けないと苛んでいるうちに涙が溢れてきた。二時間前にコンビニに行った。アパートから歩いて五分の場所にあるそのコンビニに、矢野は週に二回ほど買い物に行く。時間は決まって深夜だ。店員は主に床を磨いている。大学生だと思われる目の細い青年で、店内には彼の姿しか見えなかった。矢野が自動ドアを抜けてその店員の横を過ぎる際、小さな声でいらっしゃいませと聞こえた。矢野はその日発売の週刊誌を手に取っては適当にめくり、元の場所へ戻した。客は矢野一人だけだった。五分ほど経って自動ドアが開き、二人の男が入ってきた。一人は四十代ほどの背の低い男で、色の薄いサングラスをかけ、頭を角刈りにしていた。その後ろに続く若い坊主頭はくっきりとした二重瞼で、頭が小さく、両耳の鈍い光沢を放つピアスがやけに目立っていた。再び店員の小さなあいさつが矢野には聞こえたが、果たしてあの二人には届いたのだろうか。二人の男は首や肩を回しながら栄養ドリンクを一人三本ずつ手に取り、他の商品には目もくれずレジへと向かう。床にモップをかけていた店員は小走りでレジの中へと入り清算を始めた。矢野はその様子をじっと眺めていた。店員が釣銭をうっかり落としてしまわないかと期待した。その時に二人の男がどういう反応を見せるのかが気になったのだ。結局店員は無事清算を終えてしまったので、矢野は週刊誌を棚に戻し、果物の缶を五つかごに入れてレジへと向かった。坊主頭が栄養ドリンクの入ったビニール袋を手に、自動ドアに近づく。しかし外には出ずに、先に角刈りを通してからその後に続いた。店員がか細い声で値段を告げる。彼の鼻の頭にはぬらぬらと光る脂が浮いていた。矢野は脇に抱えていた焦げ茶色の袋を店員の前に差し出す。それは底の方に大きな染みの付いた布製の袋で、色を合わせる意思の伺えない白や緑や赤や青の糸で所々縫合されていた。その薄汚い袋を見て店員は細い目の奥で真っ黒な瞳を左右に動かし「困惑」の色を一瞬、その顔に浮かべた。その様子がどうしても演技にしか見えなかった矢野は、この店員はどこか自分に似ていると思った。袋を手にコンビニを出て辺りを見回し、矢野は先ほどの二人を探した。すぐ前の横断歩道を渡っている人影が目に入った。信号は赤だったが矢野もその後を追い横断歩道を渡った。車のライトが遠くに確認できる程度で、道路は実に静かだった。距離を十メートルほど保ったまま、矢野は二人の後をつけた。どちらも矢野の存在に気付いている様子はなく一度も振り返らない。どこかで彼らが、彼らの居場所、例えば住居などの矢野の侵入できない領域に入ってしまったら、この尾行は終了させるつもりだった。先を歩く二人は何かを話している。矢野がかすかに足を速めると、夜の冷たい空気が頬を撫でる。矢野にはそれが、堪らなく鬱陶しかった。二人の男はテナント募集の張り紙が窓に貼られている、老朽化した建物の脇に入った。矢野の靴底がアスファルトを蹴る。袋がズボンに擦れ、缶がぶつかり合う小さな音が届いたのか、角刈りの男が音もなく振り返った。口には着火前の煙草が咥えられている。矢野はその煙草の先端を見つめたまま袋を振り上げると、その男の頭頂部目がけ、勢いよく振り下ろした。袋によって一つの塊と化した五つの缶は、男の頭皮を容易く裂いて骨を砕き、意識を遥か遠くへと一瞬で飛ばしたようだった。続いて膝を踏み潰そうと考えた矢野は足を持ち上げたが、角刈りの男は声一つ発さないまま、アスファルト目がけてうつ伏せに倒れ込んだ。坊主頭の男は、隣で肩をすくめたまま動かない。袋を手放すと、缶のぶつかり合う音がくぐもりながら響き渡った。矢野は角刈りの背中に跨り、その頭を両手で掴むと、顔面を地面に叩きつけた。角刈りの頭頂部の裂傷から血が跳ね、地面に無数の斑点を描いた。坊主頭が何かを叫び、矢野の肩を殴るように押した。矢野は崩れた体制を整えると、再び単調な動作に戻った。両腕を動かしたまま、坊主頭の方を見た。その男は瞬きをしていなかった。血で滑り、その手が角刈りの頭から離れると、矢野は立ち上がってポケットに入っていたスプーンの柄を握りしめる。坊主頭は必死で頭の中を整理している様子で、地面に横たわったまま髪の毛の隙間から血を噴き出している角刈りを、虚ろな目で眺めている。矢野は坊主頭の耳を鷲掴みにし、路地のさらに奥へと引きずり込んだ。坊主頭が声を上げたので、その喉に何度も拳を打ちつけた。坊主頭の真っ黒な瞳のみが、闇の中でぬらぬらと光っていた。手に握られたスプーンは、肌に張り付くかのようだった。坊主頭のくっきりした二重瞼にスプーンの先端をねじ込むと、時計の針と同じ向きに拳を回した。瞼のささやかな弾力に抗い、スプーンの先端は坊主頭の眼球を押し潰した。矢野の手が生温かい液体で濡れる。坊主頭が悲鳴を上げようとしたため、矢野はもう一度その喉に拳を叩きこんだ。咳き込むと同時に、坊主頭の口から唾液に交じった血が飛んだ。自らの顔に押し付けられる矢野の拳を、坊主頭は力強く掴み、退けようとするが、スプーンの先端は更に奥へと突き進み、遂には脳へと達した。力のない擦れた声を絞り出しながら、矢野の腕を掴む力を弱めていく坊主頭は、身体を震わせ地面に膝から崩れ落ちた。眼孔から抜けたスプーンの先には黒い塊が付着していて、矢野は虫を追い払うような仕草でそれを地面に振り落とす。坊主頭は顔を両手で押さえたままアスファルトの上で依然震え続けている。矢野はその様子を眺めながら、手に付いたあらゆる液体が不快だったので、着ている服の裾で拭った。生温かい鉄の臭気が漂っている。強烈な焦燥が矢野を襲った。しかしそれは不愉快なものではなかった。ふと足元に転がっている栄養ドリンクが目に入ったので矢野はそれを強く蹴飛ばした。静まり返った道路の真ん中でビンが軽快な音を立てて回り、夜の闇の中へと消えていった。角刈りの男は爪先で脇腹を突いても反応を見せなかったが、念のために血の噴き出している頭部を思い切り踏みつけると、五度目でその硬い骨が陥没し、更に大量の血が溢れ出て足元を広く濡らした。焦燥は少しずつ消失していった。矢野は血でじっとりと湿った袋を拾うと、破れていないか手でなぞった。無事だった。この頑丈さが気に入っており、これまでずっと使い続けていたのだ。袋の下に落ちていた一本の煙草。矢野はそれを拾ってポケットに入れる。坊主頭の耳に刺さったピアスが、男の揺れに合わせて外灯の光を反射し続け、矢野の目にはそれがストロボのように映った。先ほどの焦燥は、視覚の片端に入り込んだこの点滅を無意識に察知していたからなのかもしれない。血に塗れたスプーンはそのままポケットの中へ入れておいた。少し遠回りをして帰ろう。公園で手と靴を洗わなくては。矢野はふと、さっきの店員の顔を思い出した。しかしその理由が自分でもわからず、まあいいかと地面に靴底を擦りつけながら最寄りの公園へと向かった。遠くで連なるビルの隙間から、微かな光が漏れている。今日もまた朝がやってきたのだ。コンビニで買った缶の内、破れていない三つを次々と平らげた。帰ってきて鏡を見ると頬に糸くずのような黒い塊がついていた。しかし矢野にとってはそれ以上に、鏡に映る自分の顔が知らない誰かのように思え、しばらくの間、不安な気持ちのまま眺めていた。汚れた服と袋は、風呂場の浴槽に張った「スープ」に浸してある。生温かい臭気は未だ漂っていたが、もう気にならなかった。そろそろ布団に入ろう。椅子の上で窓を眺めるのにも飽きた矢野は欠伸をする。窓に映る自分の顔が、相変わらず疑わしく思えてならない。今日はきっと気持ちの良い日になるだろう。矢野は目を細め朝日をしばらく眺めていた。そういえばあの角刈りはうつ伏せに倒れたままだった。どうせなら仰向けにしてやればよかっただろうか。そうすれば朝日を拝むことができただろうに。布団の中に潜り込み目を閉じる。窓から差し込む陽光に顔を照らされていると、再び涙が溢れてきた。この涙がどの感情によって流れ出たものなのか皆目見当もつかなかった。それでも矢野は毎日、朝日を受ける度に泣いている。明日もまた泣いてしまうのだろうか。涙の止め方を矢野は知らない。

 
 
 
 

ぼくはジャックの上昇する血圧です

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つい最近のことだけど、血圧の高さが原因で臨床試験のボランティアに参加することができず、大金を逃すというさんざんな目に遭ってひどく荒れた。高血圧の原因であるはずの酒をあえてあおり、飲み屋で喧嘩し、好きでもない女を抱いてぶん殴って追い返した。ぼくはこの血圧をどうにかしたい。でもそう上手くは回らないのが世の常らしいのだ。

 


MONGOL800 神様/ 歌詞付き

 

 

村上龍の書いた『昭和歌謡大全集』という小説がある。「カラオケが趣味のキモい若者たちが、同じ名前のおばさんで結成されたグループ『ミドリ会』の面々と血で血を洗う殺し合いを始める」というキャッチーさだけに惹かれたぼくは当時高校二年生。同じく村上龍の書いた『69 sixty nine』が好きだったこともあり、その流れで手にとった部分もあるのだが、これが予想を上回る楽しさですぐさまお気に入りの一冊となった。なにが楽しかったのかというと、全編を占める不謹慎さと豪快なハッタリ、それらを心から楽しむかのような筆の走った文体。「いい大人がこんなものを書いていいんだ……」という喜びに胸が弾み、そこに詰まるものすべてが刺激的だった。ぼくにとって、フィクションの醍醐味を痛感したエポックな一冊でもあったのだ。 

 

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ぼくには会うたび……というよりも会ってすらいないのに必ず喧嘩になる友人がいる。根本的に考えが合わず、互いに頑固なので、摩擦させると火花を撒き散らさずにはいられない。また悲しいことにどちらも脳機能の発達に大きな問題を抱えているため、議論というものができないのである。そのため関係は悪化の一途を辿り、たぶん今後よくなることもありえないだろう。そんな犬と猿、水と油なぼくらが二人きりになる機会が久しぶりに訪れた。とはいえぼくは人と争うことが嫌いなので、極力ことを荒立てないよう、揉めそうな話題を避けるよう、落ち着いた態度で、彼と会話しようと思った。ぼくは当たり障りのない会話党支持派だ。力のこもっていない当たり障りのない会話にこそ、透き通る瞬間が舞い降りると信じている。今日はなんだか上手くいけそうだなと思った。友人が今日一日どう過ごしたのかを聞いたり、会社の社長の悪口を聞いたり、ジムにいる怖いお兄さんの職業を予想したりと、穏やかな時間が流れていった。こんなふうに過ごすのも久しぶりだな、と思うぼくは大学の頃に彼と仲良くなり始めた当初、互いにどぎまぎしながらも、一生懸命に言葉を紡いだあの日々を振り返ったりもした。話題は本棚に収められていた『限りなく透明に近いブルー』へと移る。村上龍の句点がなかなか使われない独特の文体について「すごいねえ」と繰り返し、そこから川上未映子芥川賞受賞作『乳と卵』の文体にまで言及、やはり「すごいねえ」を繰り返していた。すると彼が突然「ごめん」と一言、“先に謝っておくけど”的不穏な前置きをしたのである。嫌な予感に顔をこわばらせるぼくに、彼は慇懃無礼ともとれる申し訳なさそうな表情を作ってみせ、こう続けた。

 

「『昭和歌謡大全集』なんですけど……燃料気化爆弾? あれ個人で作るのは無理です。はい。そもそも燃料気化爆弾でもない。核兵器の代替とか、そういうんでもない。あんなに広い範囲を吹き飛ばせる威力もないんですね~、はい。いや、ほんとYouTubeとか見ればいっぱい出てくるからペチャクチャペチャクチャペラペラペ〜ラ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

う、うわあああああああああああ!!!

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ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!

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ぼくは彼と話していると、人を殺す人の気持ちを理解できる気がしてくる。彼はぼくが『昭和歌謡大全集』を好きだということを知っていて、この話題をわざわざ持ち出したということに間違いはない。ぼくが一番理解に苦しむのは、「その話題を出すことで、ぼくにどうしてほしいのか?」という点である。「てことはこの作品には考証的に誤りがあるのか。じゃあダメだね」とでも言ってほしいのだろうか? ぼくのこの作品への愛情が、その程度の情報で揺らぐような脆弱さだとでも思っているのだろうか? だとしたらぼくの想いを見くびったひどく傲慢な態度であるので、彼は死ぬべきだ。あるいは、「おまえは考証的に間違った作品をベストに上げているのだ」ということを親切心から指摘してくれているのだろうか?「YouTubeとか見ればいっぱい出てくるから」という言葉から感じられる高圧的なニュアンス。「それくらい調べればわかるから」「知らないで褒めてたら恥かくよ?」ということなのだろうか? “余計なお世話”という恥ずべき行為への恐れはないのだろうか?ぼくはひとまず落ち着くことにした。血圧を下げるためにいろいろ調べた際に学んだ、ゆっくり長く息を吐く、という技を用い、撃鉄を起こしたこの心をなだめることにした。震えながら息を吐き続けるぼくのそばでも彼はしゃべり続けていたが、ショーツに包まれた女の人のお尻を想像してやりすごす。いくら彼でも、さすがにそこまで好戦的な振る舞いをするとは思えない。そもそも本人にこれが好戦的に受け取られてしまいかねない言動だという自覚があればの話だけど。自覚がないのであれば、それもひどく浅薄で傲慢で無神経な行いなので、人間的欠陥を恥じて死ぬべきだ。しかし仮に、いま挙げた二つの理由がどちらも違うとした場合、彼はいったいこの発言で何を伝えたかったのだろうか。ぼくが思うに、彼はただ単純に「正しい情報」を伝えたかっただけなのかもしれない。聞き手がそれを受けてどう思うかなどにはいっさい考えを巡らせず、そういうことを吐き出し、すっきりしたかっただけなのかもしれない。だとしたらぼくは、彼の拙く幼稚で扇情的な言葉からではなく、インターネットから直接学んだほうがいくらかマシだと思う。そもそも、考証的な誤りが作品評価に甚大な影響を与えるという考え方自体、ぼくは持ち合わせていない。それは、これまで数多くの言い合いを経て、彼にもちょっとくらい伝わっているものだと思っていた。彼はかつて、SF映画に出てくるレーザー光線に文句をつけたことがあった。そこまでくるとはっきり言って、彼はフィクションを鑑賞することそのものが向いていない。ぼくは『昭和歌謡大全集』という作品の持つフィクショナルな部分にこそ魅力を感じているし、物語がエスカレートする快楽を愛していた。そんなぼくからすれば、「実際は~」などと、とくとく説明してくること自体がナンセンスなのだけど、人の心のそういう繊細な部分はうまく理解できないのだと思う。ぼくは短く息を吐き続ける。君の信奉するその退屈な「正しさ」で、人の感動に水を差さないでほしい。ぼくの好きなものに、金輪際、触れないでいてほしい。その汚く礼節のなっていない足で、上がってこないでほしい。偉い、すごいと思われたいのなら、瞳孔の開いた目で御託を並べるのではなく、小手先以外の考えでもってぼくを感動させてほしい。いつまでそういう「インターネットが大好きな中学生」じみたスタンスでいるつもりなんだ。ぼくらもう25だろ。周りはみんな結婚とかしてるんだぞ。ぼくもなんでこんなことをブログに長々と書いているんだよ。本当に恥ずかしい。誰も得をしないし。あと前例がいくつもあるから一応書いておくけど、人が曲がりなりにも考えたり感じたりしたことの表明を「ひねくれてる」の一言で一蹴するのもやめてね。そういうことを平気で言ってくる無神経なやつらに高らかな笑い声をぶつけるためにぼくら面白いことを求めているんじゃなかったのかよ。いつからこんなにつまらないことになっちゃったんだよ。でも違ったね。君が最初からそういう人間だったということに遅れて気がついたぼくが悪いってことくらい知っている。勝手に期待したほうが悪いのだ。だからぼくはぼくの人生のために頑張ることに決めた。君の些細な言葉でカッとなるのも、ぼくがひどく狭い環境の中で君を寄る辺として捉えているからに過ぎない。数少ない友人である君に、元も子もない、つまらないことを言ってほしくない、そんな独りよがりな希望ありきの絶望こそ、なにもかもをだめにさせた原因なのかもしれない。「期待なんてしないほうが楽」みたいな悲しい言葉がある。そのそっけない「正しさ」にそれでも抗いたいと思うこの気持ちがしょうもない青臭さなのだとしたら、ぼくはもっと広い世界を知り、もっと面白い人がいることを実感し、大らかな態度で君に接せられるよう頑張ろうと思う。

 

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彼がその話題を出したとき、ぼくはテレビの真っ黒な画面に映る自分の輪郭を眺めていた。肩幅が狭くて、猫背で、ひどく情けない形をしていた。結局、本当に考証的誤りを指摘しただけで、そのあとに続くものはなにもなかったことにも驚いた。ぼくの好きなものをなんとか否定してみせたかった、以外に受け取り様がなくて、本当に困った。ぼくは散らばった愛をまとめる時間に、もう振り回されたくないので、彼のいないところで頑張って、彼がしょうもないわがままをぶつける対象としてぼくを選ばなくなるまで、どんどん広い世界を見つめようと思った。最後に『昭和歌謡大全集』最終章のタイトルでもある尾崎紀世彦の『また逢う日まで』を彼に送ろうと思う。できることなら町ごとてめえを消し去ってやりたいところだけど、現実的には、ありえないことなので。さようなら。

 

 


また会う日まで 尾崎紀世彦

 

 

 

【PS】

彼は件の話題を出す前に『サウスポー』のムビチケとスミノフをぼくに恵んでくれました。優しいだけではなく、筋肉質でスタイルもよく、顔もかっこよければ、喧嘩も強いので、それを踏まえたうえで改めて上記の内容を振り返ってみてください。そのときあなたの目に映るのは、いったいどちらの愚かしさなのでしょうか……

 

 

 

 

 

若きウェルテルのポコチン

 
【前回までのあらすじ】
ある日突然、原因不明の腰痛に見舞われたぼくは、『ダークナイト ライジング』に勇気付けられ、病院へ向かう決意を固めたのであった。
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腰の痛みがまったく鎮まらないせいで、ついにはしゃがみこんで靴紐を結ぶことさえままならなくなったぼくは、ネットで調べて二番目に出てきた駅近くの整形外科へと向かった。看護師さんにいろいろ話を聞かれ、原因がまったくわからないことを伝えると、念のため腎臓も調べることになる。ぼくは糖尿病がとにかく怖いくせに、不摂生な生活を送っている自覚もあり、検尿用の紙コップを手渡されたときは、心の中でいろいろを諦める準備をしていた。
 
尿を提出後にレントゲンで骨の様子も撮ってもらい、いよいよ診察室へ。そこでは日に焼けた実業家風のドクターが待っており、物腰柔らかな対応をしてくれた。彼の触診に対して痛い、痛くないを訥々と返していると、ドクターは何かを納得したように息を吐いたのだ。椎間板ヘルニアだった。ぼくは保険適用のコルセットを購入し、日中はそれを身につけて過ごすこととなった。
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これが思いのほか苦痛を和らげてくれる代物だったのでもうゴキゲン。痛みを感じるような行動を極力避け、安静にすることで様子を見るとのことだったので、ぼくは寝るときもコルセットを巻いた。するとどうだろう。みるみるうちに痛みが軽減されていくではないか。単に慣れたというのもあるかもしれないが、腰痛に関するストレスはみるみるなくなっていった。その一方で、コルセットは素肌の上に直接巻くと肌が荒れてしまうとの説明を受けていたので、外出時には必ず2枚服を重ねなければならない。それがとても面倒だった。暑いのだ。とはいえやむを得ない代償だ。人並みに動ける幸せに集中しようと思った。

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それからしばらくして、ぼくは歌舞伎町へと向かった。『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』を鑑賞するためだ。劇中では、超高性能の義手を左に持つ哀しき暗殺者・ウィンターソルジャーが大暴れする。事もあろうにこのぼくは、ウィンターソルジャーと腰にコルセットを巻いた自分を重ねてしまった。コルセットを巻くことで突き出た神経をいたずらに刺激することなく動くことのできるぼくと、人間を放り投げられるほどの義手を持った殺し屋とじゃ、かなり趣が違うことは理解している。しかし、これからの気温の高い時期を思うと気が滅入る、そのバリバリとうるさい腹巻を、どこか誇らしく思えたのも事実なのだ。

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映画といえば、『アイアムアヒーロー』も観た。そのタイトルそのものをテーマに据え、散弾と血と肉片山盛りで描き切る気持ちのいい映画だった。原作を読んでいない人からすれば蛇足にすら思える有村架純でさえ、その有村架純力に魅了される始末。前半の日常崩壊シークエンスによって、息を呑む気配が劇場に満ちていくのを肌で感じた。痛快ですらあった。英雄の最後のセリフも原作には出てこない、素晴らしい一言だったと思う。大好きな映画だ。

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立て続けに「ヒーロー」が活躍する映画を観たこともあって、人並みにあったヒーロー願望が二倍近くに膨れ上がってしまった。『ボーダーライン』を観たあとはサイレンサーの付いた45口径が欲しくなったり、下半身のガッシリした男に憧れたりしたので、そもそもそういう人間なのである。特殊能力も金もないコルセット野郎にできることといえば見回りである。ぼくはGWで浮かれる夜の街をパトロールしていた。すると近所の公園に足を踏み入れてすぐ、怪しい人影が目に入った。男の子だ。たぶん高校生ぐらいだろうか。そしてその正面には、地面に膝をついた女の子の後ろ姿があった。ちょうど女の子の頭が、男の子の股間部分に重なっている形だ。口淫だろう。ぼくは驚きと興奮と怒りと疲労を同時に覚え、なにも見なかったふりをした。その男の子が慌てて女の子の肩をタップするのは見えた。続けて、ゴポッ、という音も聞こえた気がしたが、気のせいかもしれない。公園の、よりにもよって人目につくところで行為に及ぶなんて、大胆不敵もいいところだ。あまりのショックに泣きそうになった。少し離れたところにあるベンチに座り、おそるおそる振り返ると、彼らはまだその場所にいた。逃げる素振りすら見せなかった。それからぼくが再度確認しに戻った三十分ほど後まで、彼らはその場から動くことなく“なにか”を続けていたのだった。いったい何を考えているんだと頭を悩ませれば悩ませるほどに、足を取られるような感覚に襲われた。ぼくはヒーローにはなれなかったのだ。

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もしもう一度あのカップルと出会うようなことがあれば、ぼくはガツンと言ってやりたい。とはいえ、怒りを言葉にしてぶつけることがぼくは苦手である。自分の怒りを形にしようとした途端、白々しい気持ちになって、最後まで怒り切ることができないのだ。なので可能な限り、フリースタイル風にブチギレることができたらと思っている。ついさっきまでフリースタイルダンジョンを観ていたせいもあるだろう。MCコルセットの殺戮ライムであいつらを泣かしたい。そしてぼくも泣きたい。それからコンビニでサイダーを買って、みんなで飲みたい。ついさっきまでのことなんて忘れてしまったかのように、どうでもいい話をして、別れ、二度と会いたくない。それでも数年後、ラブホテルから出てきた二人とばったり遭遇したい。言葉はなくていい、意味のある会釈を交わしたい。そんなヒーローに、私はなりたい。

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P.S.それ町最高✌️
 
 

 

『ダークナイト ライジング』が沁みる春


埼玉に舞い戻って早々に腰を痛めた。原因は不明だけどかなり長引いている。湿布を貼ってみたけどダメ。体操もダメ。人とは争ってばかり。何もかもが嫌になる。腰痛といえば『ダークナイト ライジング』が挙げられよう。

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強敵ベインに背骨をやられたバットマンは、「奈落」と呼ばれる穴の中で、なにかいろいろなことをしてもらい、腰を治していた。

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ぼくはこの映画を大学四年の誕生日翌日に鑑賞した。トム・ハーディ演じるベインが好きだ。筋肉隆々のルックスにくぐもった声。ジョーカーとはまた違い、フィジカルな方法でバットマンを苦しめていく様など、気持ちのいい男だった。しかしその実、一番苦しんでいたのもベインだった、と解釈することのできるラストは、今思い出しても胸に迫る。


明日にでも整形外科に行こう。この春、ぼくはriseする。早く不労所得でも得て、友達と対等に接したい。



橋本環奈が悪いヤクザと戦う映画『セーラー服と機関銃-卒業-』

 

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sakamoto-the-barbarian.hatenablog.com

 

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〇どっひゃ~!なんて企画を……

とはいえ橋本環奈がサブマシンガンを撃ちまくるってだけで個人的にはもう充分。最高ったら最高。ほかに何も言えないし映画も楽しみ。つっても基本的に橋本環奈に都合のいい世界のおはなしなんだろうけど、橋本環奈が幸せならそれでいい、そう思っていたぼくはこの映画セーラー服と機関銃-卒業-』を観てびっくりした。意外とそうでもなかったからだ。

 

〇本編内の“奇跡”たち

 以下、ぼくが今作を愛するに至った要素をざっくばらんに紹介していきたいと思う。まあまあネタバレはあるかと思うので、気になるという人はごめんなさい。

 

①橋本環奈と穏やかな日々

今作で橋本環奈が演じる星泉は、ご存知『セーラー服と機関銃』の主人公。愛する伯父さん(ヤクザ)を殺した敵対ヤクザどもにお礼参りをするため、自らもヤクザの組長になったという異色の過去を持つ女子高生だ。現在、いわゆるヤメ暴である彼女は、元組員らと一緒に「メダカカフェ」を経営中。これって巷で話題のJK社長ってことなのでは?と思っていると、カフェ自体は元組員武田鉄矢の的外れなテンションによって閑古鳥が鳴きっぱなし。堅気の仕事はどうも苦手らしい愉快な仲間たちとともに、それでも幸せな日々を過ごしていた。この「穏やかな日常」パートでは橋本環奈の姐御肌な態度がとても魅力的で楽しい。ヤクザをやめた身であれ、因縁の浜口組に呼び出されれば臆することなく乗り込んでいく。組長役の伊武雅刀相手にも啖呵を切ったりするが、思いのほか堂に入った姿に惚れ惚れだ。

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学校生活はというと、一番前の席であるにも関わらず授業中に居眠りをしている。先生も元組長を注意するのが怖いのだろう。星泉は事もあろうに、かつて敵対する組に殴り込んでサブマシンガンを乱射した際の夢を見ていたりする。そんな強烈な演出からも、彼女の豪胆なキャラクターが見て取れる。アンドロイドは電気羊の夢を、星泉は殴り込みの夢を見るのであった。

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②橋本環奈と恋

この映画は橋本環奈の様々な面を見せてくれる。こっちだってそれが見たくて劇場に足を運んでいるのだ。 映画の中盤、協力を持ちかけてきた長谷川博己a.k.a永月との待ち合わせのため、橋本環奈が武田鉄矢とラブホテルに入るというシーンがある。見慣れぬ室内の様子に興味津々の橋本環奈。ここで彼女が「恥ずかしがる」という演技を要求されていない点にも、「橋本環奈」という存在のありかたが見てとれるのではないだろうか。彼女がいちいちその程度のことで動じたり、あえてドギマギして見せるようなまどろっこしさなんかを持ち合わせているわけがないのである。武田鉄矢が「昔はモテた」というどうでもいい思い出話を延々垂れながしているその脇で、お湯の張られていない湯船に入り、楽しげに脚を伸ばす橋本環奈。そこで一瞬、彼女が自らのふくらはぎをつまむ。本当に一瞬なので、決して見逃してはならない。別に後半の伏線でもなんでもないただのふとした仕草だが、物語に奉仕をしないからこその豊かさに胸を打たれるはずだ。

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本作で星泉は、敵対する浜口組の若頭・月永に淡い恋心を抱く。ラブホテルで待ち合わせた彼が廊下でお水っぽい女と濃厚なキスをしている姿を偶然目にして呆然としたり、雨の中を二人で走りながら思わず楽しくなって笑っちゃうというインヒアレント・ヴァイスのようなシーンもある。環奈ちゃん、雑誌のインタビューで今は恋愛に興味ないって言ってたじゃん!とはいえこれは映画だし、環奈ちゃんや長谷川博己さんが絶妙なバランスで演じ、前田監督の丁寧な演出のおかげもあって、「星泉の恋」として割り切ることができた。この映画は実にうまいバランスで成り立っている。

 

③橋本環奈と暴力

さらに自分の驕りを痛感させられたのは、暴力の描き方に関してだった。ヤクの売人に尋問を試みようとする星泉はなぜか「拷問」という言葉をさらりと使う。ふと振り返ってみるに、この作品内において彼女は「暴力反対」といった態度は特にとらない。決して強調されているわけではないが、「やむを得ない場合はそれ相応の行動をとる」といった冷たいスタンスが根底に流れているのである。なかなかにザラついた世界だ。そして暴力の結果としての「死」だって当然のように描写されていく。本作は思っていた以上に人の死ぬ映画なのだった。そしてそれらの死によって磨り減っていく星泉a.k.a.橋本環奈。クラブでの大銃撃戦シーンでは、あろうことか首を吊られた彼女は身動きをとることもできず、ただただ凄惨な状況を見つめることしかできない。銃だけじゃなく、カランビットナイフを操る慢性鼻炎の殺し屋も出てきたりするし、長谷川博己も短刀を振り回す。そのため、結構な血が流れたりする。

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星泉はヤクザなので、山中に死体を遺棄したりもする。この場面がクラブでの大銃撃戦から順撮り(物語の流れ通りに撮影すること)されているということはドキュメンタリー番組で確認済みだった。つまり橋本環奈は、深夜の大銃撃戦から朝方の死体遺棄シーンまで、ぶっ続けで星泉を演じ続けているのである。疲労の色は隠しきれない。涙で目を腫らし、憔悴した表情で俯く姿のなんと画になることか。因縁の過去が明らかになった永月に銃を向けるその眼差しには、演技を超えた迫力が宿っている。普段から自らのネガティブな面の表出を良しとしないことでも有名な橋本環奈。そんな彼女の溢れんばかりの生々しい殺気に、誰もが息を呑むことであろう。

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④橋本環奈とみんな

 ここまで橋本環奈の素晴らしい点ばかりを挙げてきた。しかしそれらは、制作側の努力や工夫、他のキャストの好演あってこそ、あれだけのものになり得たとも言えるはずだ。

 

大野拓朗宇野祥平コンビは、星泉を献身的に支える組員を好演。「組長は背も小さければ器も小さいですもんね」とのイジリで消沈する彼女を元気づけるシーンなんて胸に沁みる。彼らの組長愛と、レディースのような声と態度でそれに応える橋本環奈の化学反応は思いのほか素晴らしかった。

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もうひとりの古参組員を演じた武田鉄矢も、いつも通りの武田鉄矢好演。やたらと捨て身の作戦ばかりを実行する特攻野郎な性格は後半のある展開にも生きてくる。鬱陶しいけどそばにいてくれるシークレット・サンシャイン』のソン・ガンホのような男にも思えなくもない、ような気もする、なかなか憎めないキャラクターだった。

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長谷川博己といえばここのところ過剰にアッパーな(というかおどけた)演技で苦手に感じていた俳優の一人なのだけど、いやいや、とはいえこの人は別にそれだけの人じゃないってことを思いださせてくれた。ダークスーツの似合うスタイルの良さと抑えた演技で、浜口組若頭を好演。そんなに多くはなかったけどアクションもかっこよかった!これからは園子温と組んでいるときだけ注意するね!

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敵対するヤクザのボスを演じた安藤政信は、記憶に新しい『GONIN サーガ』でのボンボンヤクザ以上の凶暴さで熱演。さすがはクラスメイト41名中13名を殺害した男、橋本環奈めがけて手元のコップを全力で投げつけるというシーンでは、こちらも思わずヒヤリとしてしまう。あとになって調べてみたところ、そのシーンは完全に安藤政信のアドリブらしく、本当に当たったらどうするつもりだったんだ……。しかし安藤政信といえば『GONIN サーガ』の撮影においても監督の「平手で」という指示を無視して土屋アンナグーで殴り続けたという前科がある。「橋本環奈を本気で傷つけるんじゃないのか?」とこちらが不安になるほどの迫力の甲斐あって、この映画から「主人公がちやほやと庇護されるだけの生ぬるい空気」が排され、絶妙なバランスの作品となり得たのかもしれない。安藤政信、偉い!なにより「それでも微動だにしない橋本環奈」という最高の画を引き出せた功績も併せて称えるべきだ(その隣に立つ武田鉄矢も動じていなかった。みんなすごい)。

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その他、セーラー服と機関銃で刑事を演じていた柄本明の息子・柄本時生がドラッグ事情に詳しいアッパーな情報屋で登場していたり、魚眼レンズっぽい画だったり、長回しだったりと、過去作へのオマージュ、のようなものも随所に見られた。星泉のその後の物語と謳いつつも、続編ともリブートともとれるという点がマッドマックス 怒りのデス・ロードみたいなつくりの映画だ。

 

なにより、橋本環奈の「生命力」に着目して演出を手がけたという前田弘二監督の功績を讃えなければならない。この企画上、主演の橋本環奈が魅力的に見えないと話にならないわけだけど、そこは早々にクリアしてみせ、さらに作品のクオリティを向上させるべく尽力している真摯さがちゃんと結果として現れていた。長回しでちょっとだけ目が回ったものの、そこには確かに「いまこの瞬間の橋本環奈」が活写されていて、ぼくは嬉しかった。

 

 

〇ありがとう、橋本環奈

今作を観てなによりも嬉しかったのは、橋本環奈がまだまだ全然底知れない存在だということを再認識させてもらった点だ。「演技はどうなんだろうな……」という一抹の不安もかき消されるほどの堂々とした演じっぷりに、ぼくは早くも橋本環奈の次回作が楽しみになっている。青春ミステリーである『ハルチカ』の制作が決定している今、彼女の躍進をどこまでも見届ける覚悟は出来ている。

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並べられた仲間の生首を前に、血の復讐を誓う彼女をスクリーンで拝めるその日まで首を長くして待とうではないか。

 

 

 

期待値との激しい攻防/『エージェント・ウルトラ』

 

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“ダメなぼくが殺人マシン?”

田舎町でコンビニバイトをしているマイクは、暇を見つけては猿のヒーロー「アポロ」が活躍する漫画を描いて過ごすボンクラ野郎。現在は「最高の彼女」ことフィービーとマリファナを吸いながら幸せな日々を送っている。人生で一番のラッキーは彼女と出会えたことだった。彼女と出会う前のことなんて覚えてすらいない。プロポーズを決意してハワイ旅行を計画するマイクだったが、町を出ようとするたびに現れるパニック発作のせいですべては台無し。そんな自分が情けないのに、フィービーは「怒ってない」なんていってくれるからたまらない。夜、2人で車のボンネットに寝そべりマリファナを吸う。遠くでは木に衝突した車がレッカー移動されていた。マイクは言う。「ぼくが木で君は車。ぼくが君を引き止めてるんだ」。メソメソするマイクをフィービーは優しく抱きしめる。

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そんなトロい男マイクがコンビニに現れた中年女性になぞの言葉を吹き込まれて覚醒、武器を持った男二人を瞬殺する殺人スキルをスパークさせるのが本作『エージェント・ウルトラ』。実は彼、CIAが極秘に進めていた「ウルトラ計画」の被験者であり、政府が秘密裏に管理する殺人マシンだったのだ。覚醒してしまった彼をCIAは放っておかない。田舎町を封鎖し、暗殺部隊「タフガイ」を送り込んでくる。国家重要機密であり殺人マシンでもあったボンクラが愛する彼女との日常を守るため、迫り来る脅威に立ち向かう……!

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「実は殺人マシンでした」ムービー界に投じられた新たな一石

ボンクラ男版『ボーン・アイデンティティー』な本作、あらすじ、予告編の雰囲気などからも、「これは絶対に好きなやつだ!」という気配をすごく感じていた。

 

ゴキゲンな予告編 ↓


「エージェント・ウルトラ」予告編

 

主演のジェシー・アイゼンバーグといえば『ソーシャル・ネットワーク』でFacebookの創設者マーク・ザッカーバーグを演じたことでもお馴染み「頭の回転は早いけど人の気持ちを察しないまま早口で捲し立てる」演技に定評のある男。『ボーン』シリーズのマット・デイモンは沖縄でもそのへんを歩いていそうなよくいる米兵顔のため「実は殺人マシンでした」と言われたところで受け入れるのもやぶさかではないのだが、見るからにもやしっ子なジェシーの場合だとそのギャップはより大きい。またヒロインを演じるクリスティン・スチュワートはやっぱりべっぴんさん。思えばこの二人、アドベンチャーランドへようこそ』の主演コンビじゃない?さらに監督はエスカレートしていく狂乱の一夜をPOV方式で描いたあのプロジェクトXニマ・ヌリザデ監督。ここまでの情報ですでにこの映画の面白さは保証されているようなものだ!ぼくはそう思っていた……のだが。

 

負けないで、もう少し

「あ!」とか「お!」と口を開けるも、そのままの状態で固まり、静かに口を閉じるような、そんな96分間だった。別に全然ダメとは言わないよ!言わないけど……という感じで、あれだけ楽しみにしていた過去の自分に気を遣ってしまうような、妙ないたたまれなさを味わうなんて思ってもみなかったのだ。やりたいことはわかる。でもはっきり言って、あまりにも中途半端すぎる気がした。なんだか妙にシリアスなのもそう思わせる一因なのかもしれない。別にシリアスなのはいいし、それで活きるギャグだってあるはずだ。ただ本作に関しては、明らかに羽目を外すべきところでも遠慮しているのか、気が利かないのか、いまいち盛り上げずに見せてしまうので、本来なら爆発できるはずだった面白いはずのシーンも湿気ちゃっている印象だ。

 

ぼくは欲深い豚

そもそもこの設定でお客さんがまず期待するのって、どれだけあのボンクラ野郎が強いのかという振り幅だと思うんだけど、その描き方が淡薄で弾けない。ここで温めておかなきゃ中盤だれるんじゃない?と思っていると、大きな見せ場もないまま進むので案の定中盤がだるくて仕方がない。人の死ぬ様子や弾着効果なんかは結構気合が入っているのに、展開として盛り上がるように配置されていない。歯がゆい……。

 

悔しかったのでどんどん言葉があふれてくる。そもそも作り手は覚醒した主人公の活躍にあまり重きを置いていないのかもしれない。じゃあ何が描きたいのかというと、主人公とヒロインのラブストーリーだ。こういうめちゃくちゃな設定の中で展開する、ふたりの切ない関係を描きたかったのかもしれない。『トゥルー・ロマンス』っぽい感じだろうか。でももしそうなのだったら、だからこそ観客を温めなくちゃいけない。土台となる「殺人マシンでした」展開もしっかり力を入れて描くべきだったのではないでしょうか。どうなんでしょうか。

 

フレーミング・スイッチON

もちろんいいところもたくさんあった。あらすじの方で書いた「ぼくは木で君は車」のシーンなんて、あまりに切なくて泣いてしまったのも事実だ。覚醒後、敵の持っている銃器や死因などを一瞬で理解してしまう自分に混乱しながらも思考を止められないといった演技なんてまさにジェシー・アクトの真骨頂だ。あとクリスティン・スチュワートは冷たい目元に憎々しげな態度も魅力的だが、同時にダメ男をほうっておけない割を食ってばかりいそうな感じも素晴らしい。捨て犬とかもバンバン拾ってきそうだ。なにより本作の一番の山場と言えばホームセンターでの大殺戮長回しのシーンが挙げられよう。『イコライザー』+『キングスマン』といった感じで、日用品を駆使した暗殺部隊との大立ち回りを披露してくれる。あそこは楽しかった。ただ、この映画は2013年くらいに公開されていたらもっと違った評価のされ方をしていたのかもしれないとも思った瞬間だった。ぼくらはもうすでに『イコライザー』や『キングスマン』を通過してしまっているのだ。

 

なのでぼくは中盤あたりから、もうこの映画を『アドベンチャーランドへようこそ』の続編的作品として楽しむことにした。『アドベンチャーランドへようこそ』は瑞々しくて切ない青春の黄昏を描いた大好きな映画だ。ぼくはたまに思い出しては「またあのふたりに会いたいな」と思っていたのだから、ちょうどいいじゃないか。本作は『アドベンチャーランドへようこそ2』なのである。

 

アドベンチャーランドへようこそ』

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アドベンチャーランドへようこそ2』

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そんなスタンスでいると、いい感じに気持ちがシフトしてきたところで「あ!」という面白くなりそうなシーンが登場して感情をゆり戻されてしまう。結局「面白くなり得た」可能性の瞬きがひとつひとつ消えていくのを見守る悲しみにくじけそうになるのだった。ぼくはもうどういうスタンスになればいいのか分からず、かといって怒る気にもなれないので、ちょっとだけ寂しくなった。ぼくは木でこの映画が車。いちいち引き止めてしまってごめんよ。

 

最高のロマンチックを求めて

ここまで複雑な心境を長々と綴ってしまったが、作り手が本作でたぶん一番やりたかったことだと思えるラストのあるシーンでケミカル・ブラザーズ『Snow』が流れた瞬間に関しては、ぼくの中の鬱陶しい感情は止まった。なるほどとも思った。シチュエーション的にもバカバカしくて、でも最高にロマンチックだ。だからもっとちゃんと地盤を固めておけば、なお良かったのにとも思ったけど。


The Chemical Brothers - Snow

 

不器用だけど悪い奴じゃない

そんなこんなで、事前の期待値を超えてくることはなかったものの、本作は憎たらしい映画ではない。感じは悪くないのだ。さながら、この映画の主人公のようだ……というのは強引だけど、またいつか再鑑賞することだってあるはずだとは思う。そのときは『アドベンチャーランドへようこそ』も用意して、ぶっ通しで鑑賞してみようと思う。『アドベンチャーランドへようこそ』は本当に素晴らしい映画だ。思えば監督は我が心の一本『スーパーバッド 童貞ウォーズ』を撮ったグレッグ・モットーラだ。あ!『エージェント・ウルトラ』もグレッグ・モットーラが撮っていればもしかしたら……なんてifは尽きないので、このあたりで筆を置こうと思う。好きな人は好き。そういう映画でした。ありがとうございました。

 

暗順応

 

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2016年が始まった。開始早々、穏やかじゃない事ばかり起こっている。ベッキーゲスの極み乙女の人と不倫をした。橋本環奈がサカナクション山口一郎のツイートにいいねしていた。SMAPの解散騒動はなんともキナ臭い感じになってきた。あと高岡奏輔が三軒茶屋で人を殴って逮捕された。ぼくはといえば嫌いな友人に毎日LINEで汚い言葉を送り続けている。世界の終焉が近づいているんじゃないかと思うくらい陰鬱な毎日だ。

 

映画初めは『ブリッジ・オブ・スパイ』だった。スピルバーグ作品は面白いに決まってるが、実のところ全然観るつもりじゃなかった作品だ。ここのところ映画を観るにあたっての心の弾力が弱くなってきている。でもやっぱり、いざ鑑賞すると面白かった。終わりを予見しながらも淡々と会話続ける男たちの姿は涙が出るほど美しい。

 

印象的な夢も見た。夢の話は、人からすれば絶対に退屈だからやめておけという定説は承知の上で書くけど、ぼくは見知らぬイオンに映画を観に行く。そこで上映している映画は『イット・フォローズ』。Twitterでも話題だし楽しみだと浮つく自分。始まったのは以下のような内容だった。

 

 ・アメリカ人の主人公(20代)はフラフラした日々を送っている

 ・高校の同級生であるヒロインとも付かず離れずな関係

 ・ここのところ主人公は過去のことばかり振り返っている

 ・頻繁に挿入される回想シーン。そのほとんどが高校時代の淡い日々

 ・一方現在の主人公は、ぼんやりとした「なにか」に日常を蝕まれていく

・出口のない日常への不安をホラーとして演出した映画なのか、と思っているとクライマックスへ

 ・画面が暗転し4 Non Blondesの『Wat's UP』のイントロが流れ始める。

 
 4 Non Blondes - What's Up

 ・主人公の暮らす町のいたるところで暴動が起こっている空撮映像

 ・スタジアムのような場所では観客が全員腕を波打たせながらグラウンドへとなだれ込んでいく

 ・主人公はそんな街をさまよいながら、荒れ狂う人々の中にヒロインを見つける

 ・ヒロインも主人公と同じく正常な様子で、こちらを見つめ返す

 ・微笑むヒロイン。ぼくはその顔を見て、「この事態はヒロインの仕業」なのだと思う

 

そこで映画は終わる。夢も覚める。ぼくはまたLINEで友人に汚い言葉を送り続ける。ちなみに実際の『イット・フォローズ』がどんな内容かは知らない。地元じゃ上映していないからだ。

 

LINEと言えば、こんな話ばかりで申し訳ないんだけど、ここのところ心から退会したいと思っているグループがある。それは高校時代のクラスメートで構成されたグループなのだけど、どういうわけか頻繁に結婚だの妊娠だのの報告と共に、祝福の言葉とありとあらゆるスタンプが流れていく。もちろんおめでたいことではあるし、それを見て焦りを感じたりするわけじゃないから気にしなきゃいいだけの話ではあるのに、ぼくはなんだか気にしないことを咎められている気になって、結果それを気にして、おめでとうの文字や諸手を上げた動物のスタンプなどを片っ端から硬い棒で殴りつけたい気持ちになる。でも祝福ムードの最中、「○○が退会しました」なんて表示をみんなに見せるわけにもいかないし、「あ、こいつ……」と言われるのも怖いので、定期的にグループごと会話を全削除することによりささやかな勝利に微笑んでいる。勝利の味はとても苦い。

 

とにもかくにも、眠れない日々が続いている。厳密に言えば、夜眠れないのである。なので日中とにかく眠い。幸いにも定職についていないので、睡魔に屈することも多いのだけど、定職についていないからこそやらなければならない数多くのことが蔑ろになってしまう。昼夜逆転生活は恐ろしい。朝日を浴びることによって分泌されるセロトニンを感じたい。今日だってこんなブログを書くはずじゃなかったのに、眠れないし頭も痛いので何か気の紛れることをしたくなり、なんの起伏もない近況の報告をしている。

 

腹が立ってきたので、腹が立ってきたついでに許せないものについて思いを巡らせてみたら、自分の腕っぷしを自慢する人間への不満が湧いてきた。実はケンカが強いみたいなことを匂わせるのは、はっきり言ってしちゃダメだ。許せない。そんなこと言われたら怖いに決まってるのに、怖がらせるようなことをあえて言う神経にうんざりする。たぶん舞城王太郎芥川賞候補作『好き好き大好き超愛してる。』のタイトルを見たときの石原慎太郎くらいうんざりしている。そもそも飲みの席なんかで喧嘩強い自慢をされたら、そんなこと自分で言うな、人にでも言わせてろとぼくは思うかもしれない。でもぼくは同時に、「俺の知り合いはマジでやばい」トークを始める人も苦手なので、お前自身の話じゃないのならその本人を連れてきて喋らせた方がマシだから黙ってろと思うだろう。そうやって行き場をなくした「自慢」が渦を巻き、1つの宇宙になればいい。

 

 

 

 

 

 

いますぐ奴らの喉を突き、鼻を叩き潰せ。膝を踏み抜け。頚動脈を圧迫しながら、長渕剛の『Capten of the Ship』をフルコーラスで歌え。

 

 

 

 

 

 

 

 

橋本環奈a.k.a.胸キュン特殊工作員 belong to Rev.from DVL【機密報告書】

 

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橋本環奈のことを考えながらご飯を食べることは胃に優しい。それだけ時間を忘れて咀嚼してしまうからである。咀嚼回数は多いほうがいいらしいので、橋本環奈について考えることは、すなわち健康増進への第一歩なのだ。

 

ぼくは昨年末にOVERTUREという名の雑誌を購入した。多くのアイドルを特集している雑誌だ。その2015年12月の号には特集として、プロインタビュアーである吉田豪氏による橋本環奈インタビューが掲載されていた。ぼくが橋本環奈について知っていることといえば、彼女がものすごく可愛いということだけだ。それで充分だとも思っていたが、ここは勇気を出してその内面も覗いてみようと思った。

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ちなみにそのインタビューは本当に素晴らしい内容だったので、気になる人はぜひ雑誌を買って隅から隅まで読んでほしい。以下には、ぼくがインタビューを読んで見つけた印象的な発言や新たに知ることのできた情報、ぼく個人の思ったことなどをざっくばらんに書いていきたいと思う。(出典:「アイドルであり続けること」橋本環奈×吉田豪 【OVERTURE No.005】 )

OVERTURE No.005

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インタビューではまず、彼女の普段の言動などに触れている。以下引用。

 

 

 

(ブログやインタビューでの発言なんかを見ていてもネガティブな要素がゼロと言われ)

私ですか? そうですかね?

この堂々たる態度にやられる。

 

(戸惑いや不安があってもリアルタイムで発言しない姿勢を指摘され) 

言いたくないです。だって言葉は悪いですけど、ウザくないですか?

かっこいい!

 

 (悩みとして過去に挙げられていたことが、「ほくろが多いこと」くらいだったことを指摘され)

そうそうそうそう! すごくしょうもない悩みですみません(笑)

んなことないよほくろもすごくかわいいよ。

 

(自分を売るよりもメンバーを紹介していきたいという思いがすごく伝わると言われ)

 なんでわかったんですか(笑) 私はグループで売れたい気持ちもすごくあるし、いまはこの形だけど、メンバーひとりひとり個性があるから、それはやっぱりみなさんに伝えていきたいじゃないですか。だけどすっごい一部ですけど、「もっとメンバーの名前を出したほうがいいんじゃないか」とか言われて。私、言ってるけどなと思いつつ。だからそれは伝わってないのかなって。

 メンバーへの熱い思いを吐露する一幕。後半ではやるせない感情を覗かせている。ぼく自身、「もっとメンバーの……」とか言っている「すっごい一部」の連中に対する激しい怒りを禁じえない。物事の上澄みのみ汲み取って、鬼の首を取ったかのように大声を上げているだけの愚か者に違いないので、決して許してはいけない。しかし、それでもファンを喜ばせることが第一だと言い切る彼女の姿勢には、激しく感服する次第である。

 

まずライブに来てほしいっていう気持ちが一番大きいんですよ。観てほしいし、観ずしてほかのメンバーどうこうって 書いてる人はちょっとなって。まず知ってほしいです。

 この発言を読んだ直後、ぼくはTwitterRev. from DVL全メンバーのアカウントをフォローしました。

 

(メンバーに会わないだけで寂しいという過去の発言について)

ああ、なんか寂しくなっちゃうんですよ、あのうるささがいいというか。 

 彼女のメンバー愛に疑いの余地はない。

 

(グループ名、よく間違われないかという質問に対して)

はい。「Rev.fromデビル」って呼ばれたりしますけど、REVってハイチの言葉で夢っていう意味がありますし、レボリューションの略でもあって。そこにはすごく思いはこもってるので……革命を起こしたいですね。

後半でいきなりチェ・ゲバラになる彼女。内で滾る魂の熱さを垣間見せた瞬間である。

 

(垣間見せる気の強さから九州女的な部分はあるのかとの質問に対して)

ああ、でもよく言われます。九州って、九州男児で亭主関白が多いって思われがちですけど、九州男児より九州女子のほうが強いんですよ。みんなお母さんのほうが強いって言いますし、私もその血は受け継いでるかもしれない(笑) 

 襟を正さずにはいられない発言である。

 

(同じ福岡出身の漫画家、松本零士の口癖が「ぶち殺すぞ」であることに関して) 

あの……私、そんな言葉は……。 

 

 (「福岡の人間にとっては挨拶代わりだ」という松本零士の発言を伝えられ)

ヤバいですね。訂正させてください! そんなことはないです! 女子はそんな言葉は遣わないですね(笑)

 男子に関しては否定していないところが心憎い。ちなみに橋本環奈の映画初出演作である『奇跡』(監督:是枝裕和)では、「バリクソいてえ」という彼女のはつらつとした発言を聞くことができる。

 

その後、インタビューは昨今のアイドルブームとその終焉の気配について踏み込んでいく。それに伴い、彼女の考えるアイドル論に関しても、次々と熱い発言が飛び出す。インタビューを読む限り、橋本環奈はアイドルという生き方に真摯に向き合っていることが明らかである。それもまた闇雲なひたむきさとは違い、自分の進むべき道を冷静に見据えるクレバーさが感じられるところも素晴らしい。ある時期を境に「私もうアイドルじゃないんで~」とか言い出すようなタイプに関してはっきり「嫌」だと言ってのける姿勢にも一切の迷いがない。アイドルを辞めるときも「夢のない辞め方」だけはしてほしくないとの言葉に対しても、あっさり同意を示す。ここでさらにインタビュアーの吉田氏は踏み込む。彼女が好きなタイプについて「器の大きい人」を挙げていることに関してである。彼女はここでもブレない。

 

だって好きなタイプを聞かれたらそう答えるしかないんですよ。特にないから。いま興味がないっていうのもありますけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

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どこからでもかかってこいと言わんばかりの、その態度。「神様!仏様!かんな様!ちっちゃいけど態度はデカイw」というキャッチフレーズに負けない威風堂々。彼女に認知すらされていないぼくが言うのも至極おかしい話ではあるが、彼女の眼中にないことがこんなにも嬉しいなんて、不思議な気分である。ここまで開かれた存在となると、もはや彼女が神々しい概念のようにすら思えてくる。ちなみに彼女は、好みのタイプを聞かれて身長何センチ以上だとか、かっこよくて脚が長くてだとかをピーチクパーチクのたまってせめてもの夢さえ抱かせないアイドルに対してもはっきり「嫌ですね」と言ってのけている。ありがとう。本当にありがとう。肩こりが治りました。腰痛が嘘のようです。慢性鼻炎が気にならなくなりました。心が穏やかになりました。人に優しくなれました。空を覆うような寂しさが晴れました。いくつもの眠れない夜がなんてことのない過去になりました。ちょっとだけ頑張ろうと思えました。言い訳より先に頑張ってみようと思いました。

 

2016年。

 

ぼくらの新しい年が始まる。

 

 

 

 

2015年劇場公開映画ベストワーストいろんな賞

【2015年劇場公開映画ベスト10】

 

      1位 恋人たち

 2位 クリード チャンプを継ぐ男

 3位 マッドマックス 怒りのデス・ロード

 4位 キングスマン

 5位 ストレイト・アウタ・コンプトン 

 6位 ハイヒールの男

 7位 ナイトクローラー

 8位 ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション 

 9位 ハッピーボイス・キラー

 10位 誘拐の掟

 

ベスト10選評

10位:『誘拐の掟』

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『ラン・オールナイト』も素晴らしかったけど、個人的な好みとしてはこちら。ド外道の手がかりを追って薄汚く寒々しい街を私立探偵が黙々歩く。それだけで楽しい。幸せ。「7:30」a.k.a.鬼畜なサイコ野郎である犯人コンビが獲物となる少女に出会ったその瞬間、ドノヴァンの『アトランティス』が流れ出すシーンの不謹慎な高揚感が忘れられない。45口径をガンガン撃ちながら強盗を追い詰める冒頭やDEAへのガラス越し顔面パンチ、ホームレスの少年との交流、地下室の惨劇など今振り返っても好きなシーンがたくさん。

 

9位『ハッピーボイス・キラー』

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なんといってもエンディング。謎の多幸感に苦笑しながらも号泣。ぼくにはこの主人公を身勝手な人間だと切り捨てることができませんでした。

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8位『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』

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前作も最高だった『M:I』シリーズ最新作。もはやトム・クルーズは観客に「どうかしている……」と思わせる天才になってしまったので、こっちの心配もよそにどんどん次のステージへと進んでいってしまうが、その姿はずっと見ていたくなるような謎の多幸感で溢れている。本人が喜々としてやっているからなんだろうけど、超人でありながらも今作では引き立て役を買って出るなど実にスマートな余裕まで見せてくれて、それがまたたまらない。ジャッキー・チェンに次ぐエンタメ・クレイジーなトム・クルーズにはまだまだ死んでほしくないけど、次回作だってこの高すぎるハードルを越えてくれるんじゃないか、まあ越えるんだろうなと思わずにはいられないのであった。あとレベッカファーガソン、超好き。足を引っ張る女性キャラなんてとっくに時代遅れだと、超大作映画がどんどん宣言してみせる年だった。

 

 

7位『ナイトクローラー

「進めサイコパス!」映画。おぞましい一方で痛快なところもたまらないですね。

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6位『ハイヒールの男』

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「どこまでが真面目なんだ……?」と思わせつつも、作り手の迷いのなさで一切白けることなく突き進む怪作。同じ枠に『神の一手』もある気がしますが、主演俳優のアンニュイで色っぽい表情と繰り出すアクションのキレが好みだったので、こちらを選出。ブスなオカマにビンタしてはっとしちゃうシーンなんて何度でも観たい。

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5位『ストレイト・アウタ・コンプトン』

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ヒップホップ弱者であるぼくだけど、創作することにまつわる快感であったり、大きな流れの中にいる高揚感、なによりぼくの大好きな青春の黄昏を描いているところがたまらない。実録ものは大体そうなんだけど、この映画でもエンドロールで号泣しました。それにしてもアイス・キューブの息子、似すぎだな~。

 

 

4位『キングスマン』

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ぼくは「ざまあみろ!」って気分になりたくて映画を観ているところがあるので、この映画におけるある「ざまあみろ!」シーンには感涙。教会大殺戮シーンなどもそうだけど、不謹慎で軽薄なものだからこそ表現できたこの映画の豊かさをかなり楽しみました。

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3位『マッドマックス 怒りのデス・ロード』

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 全水準が高騰している奇跡のような映画なのは言うまでもないけど、パーソナルな部分に引き寄せて拳を握ることだってちゃんとできたところもありがたい。走って撃って飛んで壊す。小賢しいセリフ抜きにあれだけのことを繊細に語り切った作り手たちの手腕にも感服仕り候。層が厚すぎてめまいがします。

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2位『クリード チャンプを継ぐ男』

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数多の熱いシーンもさることながら、さりげない演出の数々も心憎い一本。何人かの方も感想でおっしゃっていたけど、この映画はゆとり世代と揶揄された経験のある人なんかにこそ観てほしい。ぼくは泣き腫らした虎の目で劇場を後にしました。いまここで新しい物語が動き出したのだから、これから戦っていかなければならないぼくらも階段を駆け上がり、開けた視界に広がるフィラデルフィアの街並みを共に望もうじゃないか。ロッキー・バルボアはちゃんと存在しているんだぜ!

 

 

1位『恋人たち』

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誰かに話を聞いてほしい人々のままならない日常と、ちょっとした折り合いのつけ方は、普段ぼくらの生きる世界ではあまりにありふれていることだからこそ、映画として目の当たりにすることで強烈に身につまされる。とにかくぼくなんかは人の痛みに構ってられるほど強くないから、だからこそ、この理不尽な世界でどうにかこうにか生きていられるんじゃないかと思う一方で、人のなんてことない言動の中に、温度のある光のようなものを見いだせて初めて、今日は空が綺麗だとか、連なるように視界が開けていくのかもな、とも思う。以下、人生は続くのでした。

 

 

いろいろアワード

 

【オープニング賞】

 『ワイルド・スピード SKY MISSION』より

お見舞いオープニング

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 このシーンによって本作がどういった「ものの限度」で進む物語なのかが一発でわかるという最高の場面です。この映画のステイサムは範馬勇次郎っぽさがありましたね。思い出すたび観たくなります。

 

 

【ベストファイト賞】

 『ネイバーズ』より

ディルドーヌンチャクファイト

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 小型のディルドーを構えるザック・エフロンに対し、セス・ローゲン「俺のはお前のよりデカいぜ!」という顔をするところとか、たまらないものがあります。

 

 

【ベストガイ賞】

 『クーデター』より

ハモンドピアース・ブロスナン

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 クーデターによって外国人狩りの始まった東南アジア某国において、またとないほど頼りになった不良オヤジ。元007俳優というキャリアを楽しむかのような役柄も相まって超クールでした。ここのところのブロスナンを見ていると『エクスペンダブルズ』シリーズにも喜々として出てくれそうな温もりを感じる。

 

 

ファムファタール賞】

 『薄氷の殺人』より

ウー・ジージェン(グイ・ルンメイ

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エッチだった。

  

 

【オムファタール賞】

 『フォックスキャッチャー』より

デイヴ・シュルツ(マーク・ラファロ

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その圧倒的な、周囲を狂わせるほどの父性にくらくら。

 

 

【悪役賞】

 『マッドマックス 怒りのデス・ロード』より

イモータン・ジョー(ヒュー・キース=バーン)

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 はっきり言って全ての賞を『マッドマックス 怒りのデス・ロード』に捧げてもいいくらいの気持ちだってあるのですが、全部が全部そうなってしまうとただの『マッドマックス』の記事になってしまうため、すべてを代表してこのあたりでイモータン・ジョーを選出させていただきます。核戦争後の世紀末を生きる彼は、奪われた女たちを奪還しようと自ら率先して改造車を飛ばすなど、その行動力、統率力は紛うことなきリーダー。股間に二丁のリボルバーをぶら下げていたりとそのシンボリックな外見からもわかるように、彼は野郎どもの神でもあるのでした。休憩時に目を閉じて鼻歌を歌う姿もV8! 

 

 

【無職賞】

 『ナイトクローラー』より

ルイス・ブルーム(ジェイク・ギレンホール

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  今年は『キングスマン』に出てきたスパイになって世界を救うような無職もいた一方で、無職にありがちなすねた態度が一切見られなかった謎の好無職がこのルイス・ブルーム。金網などを盗んで生計を立てる後藤祐樹じみた彼は、自分を売り込むことになんのためらいもなければ出世意欲も絶倫状態。ズケズケ自分を売り込んでは鬼畜の所業をやってのけるアクティブガイなので、目的達成への最短距離を爆走し続ける。痒いから掻くくらいのノリでモラルを唾棄するその様は現代社会の歪さに順応してみせるニューヒーロー。みんなも彼に師事しよう!塗装が剥げるからガソリンは垂らすなよ!VPN

 

 

【皆殺し賞】

 『キングスマン』より

教会大殺戮

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  アメリカ南部にある教会で大規模な殺し合いが発生する様をワンカット風の演出で描いた壮絶なシーン。手間、見応え共に最高。レイナード・スキナードの『Free Bird』が流れる中キリスト教右翼の人々と英国紳士が阿鼻叫喚を築き上げるという不謹慎なギャグでありながら、あるキャラクターの尊厳が踏みにじられるという物語上の悲劇の場面でもあるところが胸に迫る。

 

 

【ベストダンス賞】

 『薄氷の殺人』のアレ

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 なんなら憎たらしくさえ思える絶妙なダンスを披露する主人公。このシーンのふてぶてしい感じが、ラストの奥ゆかしさに呼応していてまたいいんです。

 

 

【主題歌賞】

 『ハッピーボイス・キラー』より

The O'Jays『Sing A Happy Song』


The O'Jays - Sing A Happy Song (Philadelphia Intern. Records 1979)

 主人公が職場のレクリエーションでコンガ・ラインをつくって踊る際に流れる曲であり、エンドロールでも軽快に鳴り響くゴキゲンなナンバー。脚本では元々『恋のマカレナ』が流れるという設定だったが、監督がその曲を嫌いだったためにこちらになったとか。そもそもこういう明るく楽しい曲ってつらい感情があってこそ生まれるような気もするので、この映画の構造にもマッチしていて最高でした。楽しい歌を歌おうなんて言葉、なんの悩みもない人からは出てこないだろうし。

 

 

【エンディング賞】

 『ワイルド・スピード SKY MISSION』より

"FOR POUL

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 主要キャストが亡くなったという現実に対して、映画だからこそできる最も熱く切ないお別れではないでしょうか。映画と現実の境界が曖昧になる瞬間。直前までニヤニヤしていたというのにいきなりの号泣。ありがとう。お疲れ様でした。

 

 

 


 

 

 

【ワースト……】

 『96時間/レクイエム』

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の監督 オ リ ヴ ィ エ ・ メ ガ ト ン

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こ、このやろう……!

 今年はいい映画ばかり観てきたので、昨年の『渇き。』や『TOKYO TRIBE』のように個人的に癪に障る映画には出会いませんでした。なので特別取りざたすほどのものでもないって感じですが、一応『96時間/レクイエム』がキツかったです。一作目のおいしかったところが何も残っていない味のしなくなったガムのような映画で……って観る前から惰性で作っている感じプンプンだったのにリーアム・ニーソンが頑張ってるらしいのでワクワクして観たんですが、オリヴィエ・メガトンの、作品を撮るごとに酷くなる嫌がらせじみたカット割りの応酬とか、そのくせモタモタして見える人の生理に逆らうような編集とか、アクション映画を観に来たというのに、劇場の暗闇の中、前の人の後頭部をしばらく眺めてしまうほど憂鬱に。アクションに興味がないとかもう別にそれでもいいんだけど、せめて俳優の演技を殺すような真似だけはしないでほしい。リーアム・ニーソンは老体にムチ打ってスタントを使わなかったシーンなどもあるらしいので、おいメガトン、コラ!ジャンルへの興味のなさが演出の客観性に一役買っているならよかったのにね。本当に興味がないって態度だけ伝わって来るから、むしゃくしゃするんだろう。なんでぼくはどの作品の感想よりも長く『96時間/レクイエム』なんかに怒っているんだろう。ただメガトン監督、セガールとの相性は良さそうだとは思いました。セガールと大暴れしてくれたら文句なし。ふと思ったのですがメガトン監督、スマホをいじりながら観るのにちょうどいい映画をつくる才能は高いのかもしれません。映画館向きじゃなかっただけかもしれませんね。ずっと画面観ててごめんなさい。ぼくが悪かった。

 

 

 


 

 

 2015年も数多くの映画に出会えました。全体的に新しい時代の幕開けを告げるような映画を多く観たような印象です。また新しい一年が始まります。それではみなさん、良いお年を!