MidnightInvincibleChildren

ドラマ版『ハンニバル』を観た(season2)

 

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残酷で陰鬱でリッチなドラマ『ハンニバル』 にどハマリしたぼくは、変に間をあけてはならぬと意気込み、世に言うIkkimi(一気観)を敢行したのであった。

 

【警告】以下ネタバレあり

 

season1までのあらすじ

FBIアカデミーの講師ウィル・グレアム(ヒュー・ダンシー)は、自閉症スペクトラムの一種として異常なまでの共感能力を有していた。そんな彼の能力を買ったFBI行動分析課のボス、ジャック・クロフォード(ローレンス・フィッシュバーン)は、アメリカ各地で起こる事件の捜査協力者としてウィルの起用を提案する。しかしFBIコンサルタントで元心理学者のアラーナ・ブルーム(カロリン・ダヴァーナス)は精神的な負荷を懸念してウィルの起用に反対。そこでジャックは起用の条件として、高名な精神科医ハンニバル・レクター博士(マッツ・ミケルセン)にウィルの精神鑑定を依頼。かくして全米各地で起こる猟奇事件の捜査が始まるのだった。

 

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が、いろいろあった末にウィルは殺人容疑で逮捕されてしまう。

すべては元外科医の精神科医で美食家でありながら食人天才サイコパスという素顔を隠し持ったレクター博士の策略だった……。

 

 

 

第1話『懐石』FBI捜査官のジャックとレクター博士が壮絶な殺し合いをする。致命傷を負うジャック。物語は「12週間前」まで遡る……。ウィルのことを心配する面々と心配する演技を続けるレクター博士。その日々と併せて今回も事件が発生。川の中から大量の遺体が発見され、それらすべてに魚の剥製をつくる工程と同じ処理が施されていた。

 

冒頭からFBI捜査官ジャックとレクター博士の激しい殺し合いシークエンス。こちらが呆気にとられていると、そこから時間をさかのぼってみせるという憎い演出が。この作品に限らず、ドラマは「引き」をつくるためのためらいがないので楽しい。

一方でちゃんと殺人事件を起こしてくれるところもサービス過剰な感じでありがたいですね。

今回は大量の死体を使って「作品」を作るアーティストタイプの殺人鬼が登場。

過多な情報が錯綜するなか第2話へ。

 

 

第2話『先付』拘留中のウィルはレクター博士の動向を探るために、自らのセラピーを依頼する。一方、川からは新たに遺体が発見される。

 

一線を越えてくる相手に対し、こっちも一線を越えてやるというウィルの意気込み感じられる回でした。犯人の所業と、迎える結末にはハンニバル・レクターという男のいやらしいほどのカリスマが見てとれますね。相変わらず時間と労力のかかる異常な犯罪を犯すやつらが後を絶たないので、そういう意味でもリッチな気分に浸れる素晴らしいドラマだと思いました。

あと、レクター博士が悪いことを行う際に着用する透明な雨合羽みたいなやつ。あれを着て年末の大掃除などに励んだらテンションが上がりそうです。

 

 

 第3話『八寸』ウィルの裁判中に切断された耳が届けられる。その切断面から使用されたナイフはウィルに容疑がかけられている事件の証拠品であることが判明。保管庫の管理担当者が犯人か?と警察がその人物の家に突入したところ、トラップが作動し部屋が爆発。消火された部屋からは、保管庫管理担当の男が鹿の角に突き刺された状態で発見される。 

 

 鹿の角に突き刺された遺体はこれで何体目なのでしょうか。しかしこの一件のおかげで裁判中で動けないウィル以外の異常犯罪者が隠れているのでは?とみんなが思ってくれてひと安心。どうせレクターだろ、と思っていると、レクター以外の第三者の存在が匂わされ、さらに情報が混み合ってきます。ぼーっとしているとおいていかれてしまうのがこのドラマの魅力。最後の方でもう一体派手な遺体が出てきますが、そのころになるともはや異様な遺体ごときじゃ驚けなくなった自分に気づけます。

 

 

 第4話『炊合せ』ウィルは面会に来た行動科学捜査員のビヴァリーに、死体絵画の中央に位置していた人物を徹底的に調べるよう助言する。その人物こそ死体絵画を作成した張本人であり、レクターによる説得で自らアートの一部となった被害者であるとウィルは読んでいた。一方、森の中では新たな遺体が発見される。遺体の脳と眼球はくり抜かれ、そこに蜂たちが巣を作っていた。

 

人間養蜂場というseason1「人体きのこ栽培」に次ぐ異常な遺体の登場。

犯人の正体は善意を暴走させたロハス系サイコでしたが、みんないろんな技術を持っていて恐ろしいですね。一方で本筋であるレクター絡みの事件ですが、ウィルの助言によってビヴァリーがレクター宅に侵入し、「なにか」を発見。その背後に佇むレクター。銃声が轟いて次回へ。

主要キャラクターも平気な顔して退場させていく点も海外ドラマの醍醐味って感じがしてたまりません。

 

 

第5話『向付』ビヴァリーの切断遺体が発見される。ウィルは「彼女は僕を信じたから死んだ。同じことは繰り返さない」と宣言。精神病院の看護師であり彼のファンだと声をかけてきた保管庫担当職員惨殺事件の犯人を名乗る若い男を懐柔、レクター殺害を指示するのだった。

 

ビヴァリーのあまりにあんまりな切断遺体にドン引き。レクターの悪行&涼しい顔に怒りを禁じえません。そこにきてついに一線を越えるウィルの行動にも興奮。「バケモンにはバケモンをぶつけるんだよ」という『貞子vs伽椰子』 っぽい発想に胸が熱くなります。そんなウィルの刺客ですが、とはいえ天下のレクターと渡り合えるかと言ったら……意外と善戦していましたね。ジャックの登場がもう少し遅れていればレクターは死んでいたはずです。後一歩でした。彼の健闘を称えましょう。

 

 

第6話『蓋物』桜の木と一体化した遺体が発見される。ウィルはseason1に登場した殺人鬼ギデオンと接触し、レクターを挑発する。ウィルの策略に気づいたレクターは、ウィルと仲のいいFBIコンサルタントのブルームと寝る。また、二年前に「チェサピークの切り裂き魔」によって殺害されたと思われていたFBIアカデミーの訓練生ミリアムが発見される。

  

発生する猟奇殺人事件と並行して白熱するウィルvsレクター。ウィルはかつてレクターと接触した殺人鬼のギデオンと精神病院内で接触。一方のレクターはウィルの淡い恋心を弄びます。この過程でどんどん名も無きものたちが死んで行くので胸が痛い……。見張りの警官にだって人生があるんだぞ!

 

 

第7話『焼物』「チェサピークの切り裂き魔」の被害者であり唯一の生存者でもあるミリアム。彼女に面通しをしてもらうが、レクター博士には反応を見せない。一方でもうひとりの容疑者として浮上したのが精神病院の院長チルトン。彼の家に現れたレクター博士はチルトンを眠らせ、チルトン宅を訪問したふたりのFBI捜査官を派手に殺害。さらには四肢を切断されて死亡したギリアムの遺体も放置することでチルトンにすべての罪をなすりつける。ジャックに逮捕されたチルトンをマジックミラー越しに確認したミリアムは突然パニックに陥り、一瞬にして拳銃を奪い取るとチルトンの頭めがけて発砲してしまった。 

 

チルトン博士が不憫すぎる!全部の罪をなすりつけられ、挙句の果てに銃撃されるなんて。レクター博士の偽装工作技術はやや豪快すぎて、逆に疑われなさそうな感じが嫌ですね。細かいことはいいから撃っちゃえよ、というのは責任を持たない外野の意見でしかありませんし、ぼくらは事の成り行きを見守ることしかできません。

 

 

第8話『酢肴』死んだ馬の胎内から人間の遺体が発見される。勾留を解かれたウィルはレクター博士にセラピーの再開を依頼。一方、レクター博士のもとに通う女性患者マーゴは自らの兄を殺しかけたことをセラピーで報告。レクター博士守秘義務を守ると告げたあと、お兄さんを殺すことこそ一番の治療になると伝え、計画をさらに練るか、代行者を探すように助言する。

 

馬の胎内から遺体が発見され疑われる動物保護施設職員のピーターだけど、真犯人の正体はそのソーシャルワーカーという展開に唸らされました。レクター博士精神科医。犯人のソーシャルワーカーも含めて人を助ける立場を利用して弱者を操作する卑劣なやつら。福祉業界の暗部を見せられたような回でゾクゾクします。ちなみに新たな登場人物マーゴといえば原作『ハンニバル』 にも登場する大富豪メイスン・ヴァージャーの妹。『ハンニバル』的展開に突入しそうなので興奮します。ちなみにこの回の監督は『CUBE』 『スプライス』 ヴィンチェンゾ・ナタリです。「馬の胎内」とかそういう要素がぽかった気もします。

 

 

第9話『強肴』獣に襲われたかのような無残な惨殺死体が発見される。損傷は激しいながらも食べられた形跡がないことなどから、これは獣になりたいと願う人間の犯行だとウィルは推理。いろいろ調べた結果、レクター博士の患者の中に、かつてそのような願望を持った少年がいたことが発覚。現在、そのランドールという名の男性は博物館に勤めていた。

 

とても好きな回です。というのも「生まれ持った自分の肉体に違和感を覚えながら生活してきた“獣”の心を持った男」というランドールのキャラクターが素晴らしい。また動物の骨で作成したアーマーで武装して、夜な夜な人間を狩るという行動もさることながら、かつてお世話になったレクターに操られウィルを殺しに向かうという展開も楽しかったです。しかもウィルが見事返り討ちにしてランドールの亡骸を持参しレクター邸に現れるシーンもクール。神経衰弱王子ウィルというよりはすっかりタフガイ。レクター博士も「君にはサイコパスを送りつけれたのでこれでおあいこだよ」とか言っていました。確かに!

 

 

第10話『中猪口』前回、獣男ランドールを返り討ちにしたウィルは、レクター博士に「生の実感を得た」と過激な告白をする。レクター博士はそんな彼に傷の手当てを施し、協力的な態度を示すのだった。後日博物館では、バラバラにされ、動物の骨と組み合わされたランドールの遺体が発見される。悪に染まったウィルはマーゴと寝る。レクター博士はマーゴの兄でありサディストの大富豪メイスンと接触、君もセラピーを受けてはどうかと誘う。

 

このあたりからぼくは物語の先行きに不安を覚え始めます。レクターvsウィルを楽しんでいた者としては、ウィルがレクターに取り込まれちゃう展開なんて見ていられません。ラストのある行動なんてもう……。その一方でヴァージャー家絡みの話が盛り上がってきたため興味は持続されます。妹にモラハラしまくり、泣かした子供の涙を採取して酒に入れて飲むという気持ち悪い嗜好を持つメイスン。映画『ハンニバル』ではとんでもない姿になっていましたが、彼もこれからそうなるのでしょうか。期待が膨らみます。

 

 

第11話『香の物』FBIの駐車場で車椅子に固定されたまま焼かれた遺体が発見される。検死の結果、遺体は新聞記者ラウンズのものだった。一方でマーゴが妊娠する。父親はウィルだ。マーゴは後継者である息子を手に入れるためウィルと関係を持ったのだった。それを知った兄のメイスンは、マーゴを襲わせ、腫瘍が発見されたと適当な理由をつけてマーゴの子宮を摘出してしまう。それを知ったウィルは激怒。メイスンを殴り、「お前の豚にはすべての元凶であるレクターを食わせろ」と唆す。 

 

前回に引き続きウィルへの気持ちが離れつつあるぼくは、サイコな大富豪メイスンから目が離せません。レクター博士とイチャイチャするウィルよりも、妹の心体と尊厳をここまで蹂躙するのかという鬼畜な所業にドン引きすること請け合いの展開でした。しかしその一方でラストのウィルの発言から、ウィルは決してレクター博士に篭絡されたわけではなく、密かに反撃の機会を狙っているらしい様子がうかがえます。これにはとてもテンションが上がりました。

 

 

第12話『止め椀』マーゴの復讐案として「メイスンの殺害」で意見を一致させるレクターとウィル。一方でウィルはメイスンにレクター博士を拉致させる。豚小屋で吊るされたレクター博士の前に登場するメイスンとウィル。しかしここぞという隙を突いてウィルはレクターの拘束具をナイフで切断。メイスンの手下たちに殴られ気絶したウィルが目を覚ますと、そこにメイスンやレクターの姿はなく、豚の餌食となったメイスンのボロボロになった手下がぶら下がっているだけだった。そのころ、レクターはウィルの家に。彼はメイスンに薬を飲ませたあと、自らの顔の肉を削ぎ落としたあとで犬に食べさせるよう暗示をかける。かけつけたウィルはドン引き。トドメをさせというレクター博士の指示も拒否。レクター博士は、やれやれといった様子でメイスンの首の骨を折るのだった。

  

メイスンの顔面破壊、ついにきました。首の骨が折れても生きながらえたようで、ものすごい顔のまま車椅子生活に突入、ということで映画『ハンニバル』のあの姿になったわけです。ウィルはレクターに篭絡されたふりをして彼の逮捕を画策しているようですが、レクターにバレてないはずはない、そんな気がして落ち着きません。なにはともあれ次回でseason2は最終回。ウィルがレクターに対し、みんなに正体をばらすよう諭していました。これでようやく第1話の壮絶な殺し合いにつながることになりそうですね。楽しみ。

 

 

第13話『水物』ウィルはレクターと逃亡の計画を立てるその裏で、FBIのジャックとレクター逮捕の作戦を進めていた。

  

ついにレクター博士が大量殺人の容疑者としてジャックと衝突。

激しい殺し合いの末にジャックは致命傷を負い、ワインセラーに篭城。ドアを破ろうとするレクターの姿をブルームまで目撃、というラストにふさわしい本性大公開っぷりに興奮が抑えきれません。

ジャックの加勢としてレクター邸を訪れるウィルですが、そこには死んだはずのアビゲイルの姿が。彼女はブルームを2階から突き落としたあと、ウィルの目の前でレクターに首を切られてしまいます。これってseason1第1話の模倣ですね。ウィルからアビゲイルを何度でも奪ってみせるレクターの底意地の悪さ、超憎たらしいです。

ということで、結果全員がレクター相手に惨敗を喫したわけですが、これだけ派手に暴れたらもう陰湿な裏工作は通用しなくなりそうなので、season3でどういった展開になるのでしょうか。外国に逃げるのだとしたら、映画『ハンニバル』のような展開が待ち受けていそうです。  

 

 


 

 

ということで以上、『ハンニバル』season2でした。season1を意図的にざっくりまとめたこともあったので、その反動からか大変長くなってしまいました。

season3の感想はまた次回。「メイスンリベンジ編」に期待大!

 

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ドラマ版『ハンニバル』を観た(season1)

 

みなさんお元気ですか。

 

ぼくは最近いろいろあった末にネットを開通させました。なので心が浮ついてしまい、あのHuluに登録してみたのです。なぜかというと、前々から気になっていたドラマ『ハンニバル』が配信されているから。NetflixAmazonプライムビデオなど、定額制動画配信サービスは数あれど、ドラマ版『ハンニバル』を配信しているのはいまのところHuluだけっぽいですよね。ということで土日を使ってseason1の一気観を試みたので、その感想を疲れるよりも先に書ききろうと思います。急がなきゃ。時はすべてを破壊する。

 

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あらすじ

FBIアカデミーの講師ウィル・グレアム(ヒュー・ダンシー)は、自閉症スペクトラムの一種として異常なまでの共感能力を有していた。そんな彼の能力を買ったFBI行動分析課のボス、ジャック・クロフォード(ローレンス・フィッシュバーン)は、アメリカ各地で起こる事件の捜査協力者としてウィルの起用を提案する。しかしFBIコンサルタントで元心理学者のアラーナ・ブルーム(カロリン・ダヴァーナス)は精神的な負荷を懸念してウィルの起用に反対。そこでジャックは起用の条件として、高名な精神科医ハンニバル・レクター博士(マッツ・ミケルセン)にウィルの精神鑑定を依頼。かくして全米各地で起こる猟奇事件の捜査が始まるのだった。

 

 

【以下ネタバレあり】

 

第1話『アペリティフ若い女性ばかりが被害に遭っている連続殺人事件が発生

 

残酷かつ陰鬱。なによりも美術や映像に凝っていてとてもリッチ。幸先いいスタートです。

 

 

第2話『アミューズ・ブーシュ』山中で人間の体を栄養源としたキノコ栽培畑が発見される

 

ひーキモチワルイ!グロに関してはかなり踏み込んで見せてくれるドラマなので、こちらも気が抜けません。

 

 

第3話『ポタージュ』第1話の事件の続き

 

あちゃー!

 

 

第4話『ウフ』綺麗に整えられた食卓での一家射殺事件が発生するが、その家の息子だけが失踪中で……

  

明らかになった犯人の目的にグッときました。グロに関しては控えめでしたが、犯行や動機の面がグロテスクに造形されており、とても好みの回です。

 

 

第5話『コキーユ』モーテルの一室で背中の皮を剥がされ「天使」に見立てられた夫婦の遺体が見つかる

 

第5話にして、何かが吹っ切れたようなインパクトの遺体が登場です。犯人の行動や被害者の正体など、どことなく韓国映画『悪魔を見た』 イズムを感じました。

 

 

第6話『アントレ』精神病院で看護師が惨殺される。その手口から、容疑者である患者の男が、二年前に大勢の犠牲者を出した「チェサピークの切り裂き魔」ではないかとの疑念が生まれるがウィル的には微妙で…… 

 

盛り沢山な内容になってまいりました。この回に関してはハンニバルの所業にドン引きです。

 

第7話『ソルベ』ホテルで臓器を取り除かれた遺体が発見される。この事件も「チェサピークの切り裂き魔」なのか……

 

比較的落ち着いた回でした。

 

 

第8話『フロマージュ喉を裂かれ弦楽器にされた男の遺体が発見される。レクターのもとに通う患者の友人が楽器職人で……

 

レクターにライバル心を燃やす人物の登場です。レクターvs殺人鬼の格闘シーンが観られる愉快な回でした。よくわからない紐を急に振り回すシーンが好みです。

 

 

第9話『トゥルー・ノルマン』ビーチで、17体の遺体で構成されたトーテムポールが発見される

 

第5話と並んでインパクト大な遺体が素晴らしい。「発想とその実現」に毎回唸らされるシリーズです。

 

 

第10話『ビュッフェ・フロワ』女性が何者かに惨殺される。現場検証を行っていたウィルは、ベッドの下に皮膚の変色した謎の女を見つける。

 

そんな病気が!?というびっくり医学回。そしてレクター博士の所業冴え渡る回でもありました。あの透明スーツがかっこいい。

 

 

第11話『ロティ』第6話に登場した殺人鬼が護送中に逃走。かつて自分を診た精神科医たちの殺害行脚を開始する

  

この犯人にはもっと厳しくするべきだ、というモヤモヤは多少残るものの、グロシーンのオンパレードでビュッフェのような満腹感。今回のエピソードタイトルがビュッフェだったらうまいことかけてたんですけどね。「ロティ」は蒸し焼きにした肉料理のことらしいです。

 

 

第12話『ルルヴェ』ウィルがどんどん不調を見せる

 

主人公の情緒がめちゃくちゃになってきます。不穏な空気が濃厚です。レクターがとんでもなくよからぬことを企んでいるようで気が気じゃありません。

 

 

第13話『ザヴルー』朦朧としたウィルが起床即嘔吐すると、そこには人間の耳が混じっていて……

  

ウィル!しっかりしろ!負けないで!!!と思っていると予想外(レクター的には狙い通り)の展開に。はっきり言ってとても悔しいですが、ラストのウィルの目力に期待が高まりますね。心は折れていないようです。反撃開始はまた次回!

 

 

 

総評

面白すぎて一気観してしまいました。全米各地で起こる猟奇殺人と同時進行する本筋、それらすべてをコントロールし、支配するレクター博士。ひどすぎる。サイコパス界のスーパースターを演じるマッツ・ミケルセンのハマりっぷりも憎いです。それにしてもよくもまあこんなに異常な事件を思いつくなあと感動しました。画的なインパクトで言えば第5話の「天使の羽根」と第9話「死体トーテムポール」が最高。犯人の異常度で言えば、個人的には第4話が好み。なによりもレクター博士バイタリティとサイコパスとしての矜持には頭が上がりません。頼むウィル。映画『レッド・ドラゴン』 ではレクターを捕まえた伝説の捜査官、という扱いだったので、いくらドラマが映画版と関係ないとはいえ、今後に期待しているぜ。

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ちなみに今作、season3で打ち切られたという事前情報が伝わっているので、その点では気持ちが塞ぎかけますが、変な死体や変な動機を拝めるのであればどこまでもついていくぜという気持ちでおります。クラリス捜査官は出てくるのでしょうか。ドラマ版でも玉隠しダンスが拝めるのかも!?

 

season2の感想も書く予定なのでまた次回。

 

 

 

 

 

のんと能年玲奈/『この世界の片隅に』&『海月姫』

 

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能年玲奈が「のん」への改名を発表してから4ヶ月。 その報せを初めて聞いたとき、ぼくははっきりとした違和感を覚えていた。「いや、のんって!」ということではない。そもそも「能年玲奈」という名が彼女の本名のはずなのに、なんでその使用を禁じられているんだ、バカ野郎、冗談じゃねえ、ということだ。いくらかわだかまりも残ってはいたが、なにはともあれ能年玲奈が戻ってくる。その点に関してはまごうことなき吉報で、ぼくはとても嬉しかった。振り返ってみればなんと1年半もメディア露出がなかったのだ。ぼくは週刊誌が大好きなので、彼女の「騒動」に関するいろいろな記事を読んでいたし、彼女に対するネガティブな記事を書いた媒体すべてを記録したメモに「どうでもいい圧力に屈した雑魚ども」と銘打ち、これらを二度と読まないと誓ったりもした。メディアの露出が減ろうとも日々ブログを更新し続けていた能年ちゃん。あわよくばを期待して新宿御苑周辺をウロウロしたこともあった。そんな彼女がようやく、その才を発揮できる場を得るためだというのなら、改名だってなんのその。いろんな戦い方をしてほしいし、できる応援ならしていきたいと思っている人は大勢いるのだ。

 

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ということで『この世界の片隅に』を鑑賞してきた。能年玲奈が「のん」に改名して初の主演作品ということになる。アニメーション映画なので声での出演だ。こうの史代さんの描いた原作は未読だけど、映画におけるその柔らかなタッチで描かれた「日常」のあまりの情報量とテンポに、のんびり構えていた頭がちょっと混乱した。しかしそれも押し付けがましい圧の強いものではなく、映画で描かれている時代、場所で、確かに流れている時間を、いっしょになって体験しているかのような没入感を与えてくれるものだった。なにより主人公すずを演じたのんa.k.a.能年玲奈の声。「ぼーっとしている」と自嘲気味に話すすずに、文字通り息を吹き込む、命を宿すという偉業を彼女はやってのけていたと思う。そのおかげもあって、ぼくらは知りもしない昭和の、反省や後知恵で構築された初めから忌むべき対象としてあるのではない、そこにある「戦時」を味わうことができたのだ。だからこそ、彼女がなにを喪失するかも痛く響いてくるのではないだろうか。やったぜ能年ちゃん!ぼくはこの映画に携わったあらゆる人に畏敬の念を抱いるけど、これまでの経緯などをふまえたうえで、今作の能年ちゃんには顔面の失禁をこらえることができなかった。今年公開された中でもベスト級の作品に能年ちゃんが出演していて、かつめちゃくちゃいい演技をしていた、それを大勢が観て感動して褒めてくれている、その構図がぼくの胸中をぬくもりで満たしてくれた。

 

結果ぼくは『この世界の片隅に』及びのんa.k.a.能年玲奈のことが頭を離れなくなった。しかし原作や関連商品に手を出そうにも現在清々しいほどお金がないので、その欲求に関してはただじっと耐え忍ぶしかない。いまの自分に出来ることといえばかねてから気にはなっていたものの中々手が伸びなかった彼女の主演作『海月姫』 を鑑賞すること。ということで『海月姫』を鑑賞した。ぼくは能年玲奈を吸収し、明日へと歩を進める活力に変えたかったのだ。

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はっきりいって『海月姫』の能年玲奈はとてつもなくかわいい。魅力が溢れていて、尊い。この映画には、彼女の輝かしい瞬間がギュッと詰められている。さらに書くとすれば、キャストもとても豪華だ。能年玲奈のほかにも菅田将暉長谷川博己が好演を見せている。2016年に話題となった映画(『ディストラクション・ベイビーズ』『シン・ゴジラ』『この世界の片隅に』)の出演者たちがこぞって共演している様を見ると、未来人として感慨を覚えてしまう。また、『アイアムアヒーロー』で見事なゾンビっぷりを見せつけてくれた片瀬那奈のコメディエンヌぶりにもびっくり。周りが漫画っぽい演技を「頑張る」中、片瀬那奈の演技はこちらが気を遣わずにすんなりコメディとして受け入れられる「技」を感じた。それにしてもこの映画の能年ちゃん、撮影がさぞ楽しかったんだろうなと思えるほど目を爛々とさせていて、この勢いが2016年に復活したことを考えたときに、改めてジーンとした。

 

いろいろあるけど、頑張ろうよ。ぼくはのんa.k.a.能年玲奈について考えるとき、決まって最後はそう思う。なんてことのない言葉だけど、それを実践する様を見せられると言い訳するのも野暮に思えてくるから不思議だ。彼女の今後の活躍が、いまから楽しみで仕方がありません。

 

 

 

 

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Twitter最高!/『何者』

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『何者』予告編

 

 

『何者』を観た。朝井リョウの書いた原作 は発売直後に購入して一気読み。当時大学四年生だったぼくは無内定のまま就職活動を放り投げ、せめて卒業だけはしようと卒論を書いていた時期だったので、読了後は原作を宙に放り投げたあとでワンワン泣いて過ごした。ぼくは朝井リョウ早稲田大学在学中に『桐島、部活やめるってよ』で華々しくデビューし、卒業後はあえて専業作家の道を選ばず就職したことも知っていた。会社での業務をこなしながら「就活とSNSによって浮かび上がる大学生の危うい自意識」を描いたこの『何者』を上梓したってことなのか?物語のそんな背景にまず心を折られていたし、それがのちに直木賞を受賞することも併せて、ひとり絶望感を募らせていた。さらにぼくは劇中にも登場するSNSTwitterにちょうどドハマリしていた時期でもあったので、そんな思いをあーだこーだTwitter上に書き散らしもしたが、まるでやつの手のひらで踊らされているような気分だった。できるやつはできて、できないやつはできないという身も蓋もない現実を見せつける朝井リョウという存在に怒りを燃やしたぼくは、それまで苦手だった腕立て伏せを休まずに百回こなせるほどに落ち着きがなくなった。どう考えたって『何者』はいけすかない小説だ。就活という大学生の一大イベントで明らかな勝利を収めた作者が、下々のすったもんだをこういう風に描くなんて、下々である当時のぼくには見過ごせなかった。いったいいくつ痛いところを突けば気が済むんだとの怒りで湯が沸きそうだった。それくらい大学四年時のぼくは混乱していたのだ。将来というものの得体の知れなさに。

 

この物語において、登場人物たちは人生の分岐点に立ち、混乱している。まだ自分のことをどう捉えていいのかもわからないのに、社会からは上手く提示するよう求められ、試行錯誤を重ねる。それが「得意」である人間もいれば「苦手」な人間も当然いて、その違いはいったいなんだ? というドツボにはまってしまう。

 

はっきり言って今回映画化された『何者』を観て、ぼくはかつてのようなバツの悪さを味わうことはなかった。バツの悪さが極限で炸裂するあのラストも、いま観ると「君たちはお似合いなんだからそのまま付き合っちゃえば……?」くらいに思えたほどだ。それはたぶん演者が全員超魅力的だったおかげもあると思う。就活のために髪を短くしました感あふれる佐藤健、狂おしいほどの人たらし菅田将暉、象徴としての有村架純、感じ悪いのにちゃんとダサエロい二階堂ふみ、妙に清々しい岡田将生、安定の山田孝之と、各々がキャラクターをしっかり立てていた。旬の実力派若手俳優たちが一堂に会するという点だけでも、観ていてとても楽しかった。

 

 「Twitterに垂れ流される自意識問題」みたいな点に関しても、別にいいじゃないのと思う程度で、まるで自分の心臓が左から右に移動してしまったかのような気持ちで観終えることができた。Twitterは最高だ。なにを隠そう、今回こうやって『何者』を鑑賞できたのも、Twitterがご縁で仲良くさせてもらっている方にポイントを恵んでもらえたからだ。Twitterは最高なのだ。そもそもぼくのいま使っているアカウントだって元々は「裏アカ」だったわけだし、そんな小さなことを気にしてぐるぐるしている間は、朝井リョウの思うツボなのだ。

 

Twitter最高!

 

ぼくはついに勝利を収めた。かつての自分にフォロワー数で。

 

 

 

 

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「出逢う」というSF/『君の名は。』

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君の名は。』を観た。新海誠監督の作品は『秒速5センチメートル』しか観たことがなかったので、綺麗な絵を描くいじけた童貞といった印象しか持っていなかったのだけど、その最新作である『君の名は。』を観た弟が興奮のあまりネタバレさせてほしいと懇願するほどに感動していたので、冗談じゃない、ぼくも劇場へと急いだのだった。綺麗な絵を描くいじけた童貞の何が悪い?ていうかそもそも、いじけてなんかいなかった。ごめんよ!

 

アラン・ムーア原作のアメコミ『ウォッチメン』に登場する無敵のヒーロー、Drマンハッタンは「地球上のあらゆる人間が奇跡だ」と言った。酸素が自然と金に変わるほどの天文学的低確率で我々はこの世に誕生しているのだ。人と人とが出逢うことも、その奇跡を成す重要な一部なのだ。本作は人と人とが出逢うことの、狂おしいほどの奇跡的側面を、美しい作画と糸のように織り成す時間を用いて描いていた。

 

はっきり言ってこの映画そのものが監督の祈りのようなもので、劇中で描かれていたようにフィクションの中で救える命があるのならいくらでも救えばいいとぼくは思う。もう戻れない過去に祈りが届いたっていい。忘れるべきではないと思うのに、忘れてしまっていたあらゆる過去に、いま一度振り返る機会をこの映画はくれたようにも思う。

 

ということで弟がエモいエモいと繰り返したのも納得のバックトゥザ思春期……以上の映画だった。大学生のころ、大阪で芸人をやっていた友達と『涼宮ハルヒの消失』を観に行った帰りの電車で「背景とかあれだけリアルに描かれるともう実写でよくない?と思わない?」と言われたことを思い出した。「いや!それは違う!」と返そうと思ったのに理由がうまく説明できずに言葉を飲んだのだけど、今のぼくなら言える気がする!言うぞ!アニメーションとはなにかを再現する行為であって、そこには描き手の表現したい、伝えたい想いがはっきりと込められる。的なあれをあの日友人に言ってやりたかったのだ。そしてぼくは新海誠監督の描く美しいアニメーションから監督自身の強い祈りを感じた。今作は、より明確に多くの人たちに祈りが届くよう開かれた物語でもあった。今作がこれだけヒットしているということは、その祈りは確実に多くの人の内側に隠れていたあらゆる感情を揺さぶったということなのだとぼくは思う。

 

P.S.

朝起きて異性の身体になっていたらまずすること、という話題で盛り上がれるのもこの映画の特徴だ。個人的にはパンツを穿いた自分のお尻を鏡に映しながら、飽きるまで撫で回したい。

 

 

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感想(54件)

 

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悪でもって悪を討つ!/『スーサイド・スクワッド』

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あらすじ

そこはスーパーマンの存在する世界。政府は彼のような能力を持つ「邪悪」な存在の出現を懸念し、「タスクフォースX」計画を発動した。それは凶悪犯罪者専門刑務所に収監されている悪党どもだけで結成された特攻部隊(スーサイド・スクワッド)の創設。恩赦と引き換えに人権もコンプライアンスも関係ない無謀な任務を強制される使い捨て集団だ。そんな中、人類の脅威となるメタヒューマンが活動を開始。世界を破滅の危機に陥れる。出番だ暴れろ!スーサイド・スクワッド

 

「タスクフォースX」選抜メンバー

ハーレイ・クインマーゴット・ロビー)】

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ハ~イ♡わたしはハーレイ・クイン。昔はハーリーン・クインゼルとか名乗ってたかも。元々精神科医をやってたんだけどアーカムアサイラムプリンちゃんに出会ってから人生が一変!脱走に協力して二人でたくさん悪いことしまくる最高の日々を過ごしていたんだけどお邪魔虫のバッツィに捕まえられてあたちだけ刑務所へ。ガーン!プリンちゃんと離れ離れになっちゃったよ~~~ファックザバッツィ!ロビン同様殺してやる!ってことで毎日退屈だしさみしいから布にぶら下がったり鉄格子を舐めたりして過ごしてるの……。そんな折、首に爆弾?仕込まれてテロリストと戦う?ことを命じられちゃうんだけどう〜んやっぱり興味なし。世界の危機よりふたりの愛。わたしはただプリンちゃんに会いたいだけ。会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい……。

 

【デッドショット(ウィル・スミス)】

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クソったれめ!俺はフロイド・ロートン。デッドショットと呼ばれる百発百中の殺し屋さ。数少ない楽しみである娘とのデート中にクソったれバットマンに捕まえられたのが運の尽き。いまは独房暮らしだがいつの日か必ず脱獄してみせるぜ。なんて考えていた矢先、政府の連中からの勧誘が。冗談じゃねえ。ただし俺と娘の明るい未来を約束してくれるのなら話は別だ。ちゃんとメモしときな、お偉いさん!

 

エル・ディアブロ(ジェイ・ヘルナンデス)】

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ヘイYOワッサップ?俺はチャト・サンタナa.k.a.エル・ディアブロ。炎を自在に出現させ、操作できる能力を持っているが、そのおかげで最低最悪の事態を招いてしまったことがある。こんな力、ない方がいいのさ。例え政府の連中に「利用できる」と期待されたところで関係ねえ。任務?参加したくないよ。どうでもいい。ほっといてくれ。

 

キラー・クロック(アドウェール=アキノエ・アグバエ)】

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ガハハ。俺はウェイロン・ジョーンズ。通称キラー・クロックだ。ワニ男呼ばわりがウザってえから下水でのんびり暮らしていたってのにあのコウモリ野郎に捕まえられちまった。政府のスカウトは鬱陶しいがまたシャバの下水に戻れるのは嬉しいから頑張るぜ。

 

【キャプテン・ブーメラン(ジェイ・コートニー)】

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どきやがれ!俺はジョージ・ハークネスだ。人呼んでキャプテン・ブーメラン。人間と違ってブーメランは裏切らねえ。ぬいぐるみもな。オーストラリアで強盗しすぎたせいで襲う場所がなくなってきた俺はアメリカに遠征、よくわかんねえ光速野郎に捕まっちまった。もち、任務になんて興味ねえよ。隙を突いて逃げてやるぜ!!!なあ!スリップノット

 

スリップノット(アダム・ビーチ)】

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やあ!俺はスリップノット!お得意のロープを使えばどこにだって上れるぜ。そんな俺に目をつけた政府の人間たち。ある特殊任務につくことになったんだ。首には小型の爆弾。逃げたら死ぬって?上等、上等!いっちょ暴れてやりますか!え?キャプテン・ブーメラン、いまなにか言った……?

 

【リック・フラッグ大佐(ジョエル・キナマン)】

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諸君、俺はリック・フラッグ大佐だ。今回とある事情によりならずもの軍団の指揮を執ることになった。危険な狂人どもめ、貴様らの首に仕掛けた爆弾は俺の采配で起爆させることができる。俺に危害を加えようとしたり、逃げようとしても同じだ。各々、肝に銘じるように。あと余計なことを口走るな!指示に従え!うるさいぞ!魔女とのファックは最高に決まってる!

 

【カタナ(福原カレン)】

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初めまして、わたくしはカタナと申します。本名はヤマシロ・タツです。この日本刀でリック大佐をお守りするべく参上いたしました。悪党どもに慈悲などいらぬ。余計な動きを見せたものは即一刀両断。重々覚悟をしておくように。

 

【エンチャントレス(カーラ・デルヴィーニュ)】

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こんにちは、ジューン・ムーンです。考古学の博士をしています。以前、ある洞窟に調査に赴いたときに長年封印されていたエンチャントレスと言う……私はエンチャントレス。長い眠りから目覚めた古よりの支配者。私の大事な心臓が人間の手によって管理されているので、奴隷のような扱いを受けている。我慢ならない。同じく封印されている弟を復活させ、この世界を支配してやるわ!

 

その他

ジョーカー(ジャレッド・レト)】

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 HAHAHA!オレだよ~!スウィートハート!いま迎えに行くからね~~~!

 

感想

デヴィッド・エアー監督といえば、少年時代をロスにあるサウスセントラルで過ごし、17で海軍に入隊したというザ・タフな監督。ガラの悪い人がガラの悪いやつらとぶつかって誰かが死ぬ、そんな映画を多く撮ってきた印象だ。そんな監督にとって悪が悪を討つストーリーである今作なんて最適じゃん!と思ったのは紛れもない事実であり、ヤンキーイズムむき出しの衣装や美術がグッとくるスチール、Queenの『ボヘミアン・ラプソディ』流れる予告編などを見るにつれ、期待に胸中を温かくしていた。監督の過去作は全部好きだもんね。『バッドタイム』なんて心の一本だぜ!ということで、今回は自分がなぜ今作にのれなかったのか、それを記しておこうと思う。いつかこの作品の光る部分を能動的に見つめられたときに、過去の自分を振り返るためだ。

 

身も蓋もなく言っちゃえば、おおよそ期待していたことが起こらなかった。ここでの「期待」が何かといえば、悪党の活躍に自由を見たり、ならずものの心が通じ合う気持ちよさだったり、ケレン味溢れるアクションのことを指しています。そんでいざ鑑賞すると、全然そういうことじゃなかった。なにがケレン味溢れるアクションだ馬鹿野郎!ぼくはアクションが退屈だという一点だけで急に冷めてしまうところがあるが、それを除いても、いまのぼくの頭じゃこの映画のいびつさを補完する力が足りない。映画、盛り上げちゃダメなの?と思った場面が何度もあった。同時に、監督めちゃくちゃ大変だったのかも、という心配も胸をよぎった。魂を込めたのに、その縁取りを邪魔されたとか、そういう拭い去り難い「本当はこんなつもりじゃなかったんだけど」感を感じてしまった。好き嫌いで言えば好きだけど、それで片付けるにはこの混乱を無視することができない。この映画を嫌う気にはならない。でもちょっとどうしていいかもわからない。だから人と話したい。そんな感じでまた面疔ができた。

 

今作のジョーカーに関してもぼくはなかなかに複雑な想いを抱いている。ヒース版ジョーカーとの比較はお門違いだとの声もあるが、別にそういうことじゃない。ジャレッド・レトの演じ方に文句はない。ただあのキャラクターが、ぼくの高校時代のある友人を想起させるものでつらかっただけだ。そいつは高校に通って初めてできた彼女と近所でも問題視されるほどの愛欲の日々に溺れるのだけど、次第に感情はねじれを見せ、ついにはその彼女をきつく束縛するようになった。彼女が自分に冷たい態度をとれば、誰かと浮気しているんじゃないか、その相手はお前なんじゃないかといった内容の長文メールをぼくに寄越してくるほどの攻撃性を見せる一方で、そんな自分の行動を「愛」という乱暴なくくりで美化し、吹聴できる傲慢さを持っていた。殺そうと思ったこともある。なので今回のジョーカーも自分の「所有物」であるところのハーレイちゃんを「愛」という名の独占欲のもと奪い返そうとしては人の邪魔ばかりする男にしか見えず、今回のバットマンがやむを得ない殺生は実行するタイプで本当に良かったと思った。しまった、今回のジョーカーがどうこうって話じゃなくなっている。ぼくはかつてのあの友人へ抱いた怒りを再燃させているだけに過ぎない。

※ちなみに調べてみたところ、今回、ジョーカーのシーンが大量に削除されているとの話だが、その中には彼のDV彼氏的側面の描かれたシーンが含まれていたそうだし、マーゴット・ロビー本人もこのふたりの関係には肯定的じゃないらしい

 

 ということで『スーサイド・スクワッド』、願わくば登場人物の中にショットガンを操るキャラクターがいれば最高だった。ぼくは映画に出てくるショットガンが大好きだし、絶対この映画にもショットガンが似合うはずなのだ。ふざけてなんかいない。ぼくは真剣にそう思っている。

 

 

 

 

 

時代遅れのジジイを止めろ!/『X-MEN:アポカリプス』

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神の目覚め

かつて人類史上初であり最強のミュータントが世界を支配した時代があった。最も神に近い存在として君臨する男の名はエン・サバー・ヌールa.k.a.アポカリプス(オスカー・アイザック)。しかし!新しい体に魂を移送する儀式の最中、色々あって長い眠りに入ってしまう。時は過ぎ1983年。カルト集団の儀式によって復活したアポカリプスは、かつての習慣から四人の下僕a.k.a.黙示録の四騎士(フォー・ホースメン)探しの旅へと出ることに。一方カルト集団を追っていたCIAのエージェントことモイラ・マクタガートローズ・バーンは、記憶こそ消されてはいるがミュータント周知のきっかけとなった事件に大きく関わった重要人物。異変を察知したチャールズa.k.a.プロフェッサーX(ジェームズ・マカヴォイはかつてキスをした仲でもあるモイラにコンタクトを取り、アポカリプスのあとを追うのだった。アポカリプスの目的は退廃した現文明のスクラップアンドビルド。そうはさせまい!X-MENを再結成だ!

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ということでX-MEN』シリーズ六作目(スピンオフを除く)にして後期トリロジーの完結編でもあるっぽいX-MEN:アポカリプス』(ややこしすぎる)。ぼくは2000年公開のX-MEN以外はすべて劇場でリアルタイム鑑賞してきた。いろいろ言われている三作目X-MEN:ファイナル・ディシジョン』も大好きだったりする。マグニートーが道路の真ん中に立って列をなす車を磁気操作能力で潰しては投げ潰しては投げしていくシーンなんて嫌なことのあった帰り道なんかよく想像する。そう、いまでも。シリーズに対するそんな感じの思いをまとめた過去記事があるのでよければ読んでください。

sakamoto-the-barbarian.hatenablog.com

 

さて、今回の『アポカリプス』はどうだったか。ざっくりと振り返っていきたい。

 

黙示録の四騎士(フォー・ホースメン)

今回は史上最強のミュータントが数千年の眠りから目覚め、テレビを観ることで人類の堕落を知り、この文明を一旦無に帰すべきだと地球規模の大破壊を始める。アポカリプスは様々な能力を保持した万能ミュータントなので、世界の一つや二つ朝飯前と言わんばかりにめちゃくちゃにしていく。そんな彼が黙示録の四騎士としてスカウトしたのは以下のミュータントたちだ。

 

【ストーム/オロロ・モンロー】(アレクサンドラ・シップ)

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天候を操るミュータント。突風を起こして気をそらせつつ物を盗む、というせこい盗賊をしていたがアポカリプスに見初められ仲間入り。シリーズを追ってきた人はご存知のとおり前期トリロジーではX-MENの主要メンバーでもあった人。なので予想通りそんなに悪いやつではない。

 

【サイロック】(オリビア・マン)

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日本刀とエネルギーソードであらゆるものを切り裂くミュータント。ミュータント情報屋のもとでボディーガードをしていたところ、アポカリプスにスカウトされた。ちなみに谷間と太ももガッツリな過激コスチュームはアポカリプスがつくったものだ。アポカリプスは偉そうなうえにスケベなのである。最悪だ。

 

【エンジェル】(ベン・ハーディ)

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背中に天使の羽が生えたミュータント。ドイツでミュータント版ジ・アウトサイダーのような地下格闘に参加しては他のミュータントを血祭りにあげていた。ぶっちゃけ羽が生えているだけなので飛行能力以外の利点があまり感じられないが、アポカリプスがなぜか気に入り、羽を鋼鉄製にしてくれる。そのため羽毛をナイフのように飛ばすことが出来るのだが、それでもまだもう一声ほしいところだ。メンバー内に天候を操るやつがいるのも彼をよりいたたまれなくさせる。現実でもたまに見かける「あいつ、大したことないくせに妙に上に気に入られてるよな……」系ミュータントなのかもしれませんね。

 

マグニートー/エリック・レーンシャー】(マイケル・ファスベンダー

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磁力を操るミュータント。これまで受けた余りにもひどい仕打ちの数々から人類への底なしの怒りに震えるテロリストでもある。しかし今回は色々あって人間社会に順応し、幸せに生きていこうと努力しているのだが、新たな災厄が彼の安寧をいたずらに乱し、破壊衝動に再び点火させるのであった。そんなタイミングでアポカリプスに声をかけられたもんだからもう大変。もともと最強クラスであるその能力をより高めてもらったことで、その強さはアラレちゃんレベルに。とはいえ誰かの下僕に成り下がるようなタマかよ!辛いのはわかるけど、つけ込まれないで!と、みんなが心配している。

 

このように実に頼もしい面子を引き連れてなお、アポカリプスはチャールズの能力にも並々ならぬ興味を抱き、接触を図ってくるのであった。こうしちゃいられねえ。世界崩壊を防ぐために立ち向かうは以下のメンバーだ!

 

 

新生X-MEN

【ミスティーク/レイヴン】(ジェニファー・ローレンス

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驚異的な身体能力と変身能力を持ったミュータント。 前作での活躍からミュータントたちの間で英雄視されている。身を潜めながら世界中の悩めるミュータントを救済すべく動き回っているが、アポカリプスの復活に伴い、かつての家族であるチャールズの元を訪れるのだった。

 

【ビースト/ハンク・マッコイ】(ニコラス・ホルト

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 天才的な頭脳と野獣のような凶暴性を併せ持つミュータント。普段は自分で開発した薬を用いて人間の姿を維持している。チャールズと一緒に「恵まれし子らの学園」に暮らしていたが、アポカリスに連れ去られたチャールズ奪還と世界崩壊を止めるため、ミスティークとともに頼れる先輩としてみんなをまとめる。

 

サイクロップス/スコット・サマーズ】(タイ・シェリダン)

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目から破壊光線が出続けるミュータント。そのため目隠しをして生活していたが、兄であり初代X-MENメンバーでもあったハボック(ルーカス・ティル)に連れられ「恵まれし子らの学園」を訪れる。そこで偶然ぶつかったジーンにドキドキ。ビーストの開発した光線を抑えるサングラスを装着することで、日常生活を快適におくれるようになった。

 

【ジーン・グレイ】(ソフィー・ターナー

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テレパシーとテレキネシス(念力)が使えるミュータント。しかしその能力があまりに強大なため、ときおり制御不能になってしまう。 シリーズを追ってきた人からすれば、「でもこいつがいるのなら……」そう思わずにはいられないはずだろう。とはいえ相手は「神」。油断はできまい。

 

ナイトクローラー/カート・ワグナー】(コディ・スミット=マクフィー)

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「見える場所」と「行ったことのある近場」へなら瞬間移動できるミュータント。青い肌と尻尾を持っている。ドイツのサーカス団にいたが拉致され地下格闘試合に参加させられていたところをミスティークに助けてもらう。人懐っこくお茶目な性格をしている。戦闘は得意じゃないが、触れた人も一緒に瞬間移動させることができるのでかなり助かる。

 

クイックシルバー/ピーター・マキシモフ】(エバン・ピーターズ)

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 めちゃくちゃ速いミュータント。あまりにも速すぎてあらゆる雑念にも追いつかれないためか、あっけらかんとした性格をしている。高速での大仕事の前になるとお気に入りの曲を再生することがある。フォー・ホースメンのメンバーの中に思い入れのある人物がいるようで、プロフェッサーXに会うため「恵まれし子らの学園」を尋ねてくる。今回もとびきりアガる活躍シーンが用意されていて、超最高!

 

かくしてアポカリプス&フォー・ホースメンvs新生X-MENの世界をかけた戦いがいま始まるのであった……。

 

アポカリプスとは……

X-MEN史上最強の敵……それは神」といったふうに宣伝されている強敵アポカリプスだが、彼は一体なにを象徴とする存在なのだろう?数千年も寝ていたくせに、目覚めるやいなや「ひどい時代だ」と順応を拒否。その気持ちだってわからいじゃないが、とはいえもうちょっと人の話を聴いてくれ、と思ってしまう。なぜならぼくは、いきなりスマホを向けられても笑顔で応えるアスガルドの神、マイティ・ソーをすでに知っているんだし……。

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愛される神様の代表例。神対応とはまさにこのことである。

 

今作『X-MEN:アポカリプス』は、傲慢な態度で「まったく今どきのやつは……」とのたまう目上の人に対し、新たな若い世代が立ち向かう話となっている。初めこそ高圧的な態度、インパクトのある顔面や能力に気圧されていたX-MENだったが、「いい加減にしろクソジジイ!紀元前に帰れ!」と次々と己の持つ能力をフル活用して牙を剥く様には大変胸を打たれた。よくみりゃ背も低いし、大したことねえよこんなやつ。顔がちょっと怖くて偉そうなだけじゃん。ぼくたちはミュータントではないので、モノを操ったり得体の知れないエネルギーを放出したり空を飛んだりはできない。しかし、空気に飲まれることなく、相手と自分の力量を客観的に見極める能力は、頑張れば身につけることができるのではないだろうか?ぼくらはやれる。一人じゃ難しくとも、力を合わせ、頭を使い、強大な敵を打ち倒すことができる。なぜならぼくらは、恵まれし子なのだから。

 

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こ、こわい……!

 

でも

 

時代遅れのジジイを止めるのだ。

 

今すぐに。

 

 

いつか夢見たあの仕事/『ゴーストバスターズ』

 

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~あらすじ~

大学で教鞭をとるエリン・ギルバート(クリステン・ウィグはかつて友人と超常現象を研究した本を出版するも、時間の経過と社会の軋轢の中で黒歴史化していき、大学での終身雇用の話にもかげりが出てしまう。そこで共同著者である友人のアビー(メリッサ・マッカーシーに「Amazonでの販売をやめてもらう」ようお願いに行くのだが、アビーは相棒のジリアン・ホルツマン(ケイト・マッキノン)といまだに超常現象に関する研究を進めており、怪奇現象のあった屋敷の調査に赴くことに。同行したエリンは、そこで本物の幽霊を目の当たりにして興奮をカメラにまくし立ててしまうが、その動画がYouTubeアップされ、結果失業。同じくアビー&ホルツマンのコンビも大学を追い出され、仕事のない三人は地下鉄職員のパティ・トーナン(レスリー・ジョーンズ)と面接に来たバカ、ケヴィン(クリス・ヘムスワーズ)を仲間に加え、超常現象を専門に取り扱う会社「ゴーストバスターズ」を設立するのだった。

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前作『ゴーストバスターズ』が1984年の映画らしい。ぼくがそれを観たのも20年ほど前の話で、テレビのゴールデン洋画劇場で放送していたやつを一回っきり。観た直後は興奮のあまりノートを開き、マシュマロマンにビームを放つ棒人間の絵を描いたほどだった。で、今作を鑑賞するにあたり一作目くらい鑑賞しなおすか、Amazonプライムビデオで見放題だし、と思っていたぼくだったのだが

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のシーンで10秒くらい笑ってそのときの気持ちを誰かに伝えたくなったままふらふら外に出てしまったので、続きを観ることもなく、時節柄、情緒的な不安定に悩まされたこともあって、けっきょく冒頭中の冒頭しか確認せずに最新作へと臨むこととなったのだ。やややケッタイな!

 

でもいざ鑑賞してみると続編ではなくリブートだったのだ。やったー!話によればメインキャストを女性にしたことで一部の人間が炎上したらしいし、それをとりまくみっともない有様なんかも情報として事前にバンバン入ってきたこともあってうんざりしていた部分もあったのだけど、映画はそういう空気を意に介さないゴキゲンな内容だったので、ぼくは改めて「映画っていいなあ~」と思ったのだった。 ぼくはクリステン・ウィグの「ズーイー・デシャネルの実家に遊びに行ったら奥から出てきそう」な感じが好きなので今回の主演も嬉しかったし、『ブライズメイズ』以来の共演となるメリッサ・マッカーシーとの掛け合いも楽しい。そもそも同性同士の気の張らないやりとりが好きなぼくは、今回のゴーストバスターズに溢れる大人の放課後感が心地よかった。なによりメンバーの4分の3が職を失ってから物語が動き始める点にも勇気をもらえる。ぼくは映画を観ながら、ゴーストバスターズのイントロを背にしてつなぎを身にまとい、中腰で廊下を進みたい願望を自分の中に見た。そうだ、ぼくは小学生のころ、「ゴーストバスターズ」という職業に憧れを抱いていたのだ。胸が震えた。

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胸が震えたといえばクリス・ヘムズワース演じるケヴィンだ。今年観た映画に出てくる誰よりもバカだった。出てくるだけで劇場がざわついたので、このキャラクターは大勝利を収めたことになるのだろう。『トロピック・サンダー』も彷彿とさせるあのエンディングも最高だ。マッチョでハンサムなケヴィンがあまりにも屈託なく病的な行動に出るので、先述したように同性同士の心地いいやりとりの阻害要因にもなりようがなかった点が素晴らしかった。サックスに耳を当てても「聴いてる」ことにはならないんだぜケヴィン。

 

リブート版『ゴーストバスターズ』はテンポよく進んでくれる。二時間があっという間だった。ゲラゲラ笑って劇場を後にし、一緒に鑑賞した弟とふたりおなじみのテーマ曲をハミングしながら帰った。あのリズムに足を踊らせるぼくらはきっと仲良くなれるはずなのさ。こんな世の中だろうとニヒリズムに甘えず、DMXの『Party Up』を聴きながら踊っていようぜ。ゴーストを狩れ。いますぐに。

 

 

 

 

 

 

 

書き下ろし短編:『Good morning, everyone.』

 

 深夜四時を回っていた。煙草を一本手に取り、先端を眺め始めてから一体どれだけの時間が経ったのだろう。矢野は考えていた。特別気になる箇所がある訳ではなかったが、そうすることで落ちつくことができた。矢野はライターを持っていない。そもそも煙草を吸う習慣さえなかった。マッチならどこかにあるはずだったが、それより先にコンロが目に入った。ガスの元栓を開け、つまみを捻ると、真っ暗な部屋に青い炎が浮かび上がり、仄かに空気を焦がした。煙草を青い光に近付ければ先端が赤くなり、鼻孔をくすぐる甘い香りが漂ってくる。矢野はそのまま煙草の燃える様を眺めていようと思ったが、コンロから離した途端に赤い光はみるみる弱まり消えてしまった。同時に先ほどまで滾っていた「燃やしたい」という衝動さえも醒めてしまったため、矢野は煙草を流し台に放り投げて水で濡らした。漂う残り香さえ鬱陶しく思えた。窓へと向かいカーテンを引く。朝日はまだ昇っておらず、触れられそうな闇が広がっていた。しばらく目を凝らしてみれば、夜空に浮かぶ雲がぼんやりと確認できる。直に朝日を拝めるだろう。矢野は椅子に腰を下ろし、机の上に置いてあった包丁を手に取った。広げられた新聞紙の上には、皮と実が削り取られ、蝋燭のように細くなったりんごの芯がのっている。矢野は窓に向かったまま、新聞紙目がけて包丁の刃を振り下ろした。芯は二つに折れ、床の上に落ちて転がった。肘かけに肘を置き、重力に任せ、包丁を握る手を地面目がけて振り下ろした。包丁は雑誌の上に突き立つと、静かに角度を変え、床の上に倒れる。目の前の窓ガラスには何も映っていない。実際には映っているのだけれど見えていないだけなのかもしれない。矢野は顔を近づけ息を吹きかけた。曇りは霧散してしまうが、残された黒い窓ガラスには、微かに自分の輪郭が映っていたので安心した。僅かに開かれた窓からは湿った風が入りこみ、室内をじめじめと汚していくかのような気がしてならなかったが、矢野はそれを放っておくことにした。この部屋に住み始めてまだ二週間ほどだが、今となってはすっかり矢野の安住の地へと変化を遂げている。色、温度、匂い、全てが矢野を安堵させた。日中はほとんど外に出ることもなくこの部屋で本を読んだり、ごくたまにテレビを見たりして過ごしていた。矢野は定職に就いていない。以前薬局でアルバイトをしていたことがあったが、頭痛薬を購入した男性の後をつけ、自宅前でその両足の骨を踏み砕いて以来通わなくなった。その男性客と面識はなかった。怨恨など生まれる余地すらないほどの関係性だったが、矢野はそうしなければならないと感じたのだ。風の匂いはかつて嗅いだことのあるものだったが、妙な郷愁に浸るのは避けたいと窓を閉めることにした。時計の針は四時三十分を指している。ふと、矢野は窓ガラスに映る自分に話しかけたい衝動に駆られた。しかし何を話せばいいのかが思い浮かばず、そんな自分を情けないと苛んでいるうちに涙が溢れてきた。二時間前にコンビニに行った。アパートから歩いて五分の場所にあるそのコンビニに、矢野は週に二回ほど買い物に行く。時間は決まって深夜だ。店員は主に床を磨いている。大学生だと思われる目の細い青年で、店内には彼の姿しか見えなかった。矢野が自動ドアを抜けてその店員の横を過ぎる際、小さな声でいらっしゃいませと聞こえた。矢野はその日発売の週刊誌を手に取っては適当にめくり、元の場所へ戻した。客は矢野一人だけだった。五分ほど経って自動ドアが開き、二人の男が入ってきた。一人は四十代ほどの背の低い男で、色の薄いサングラスをかけ、頭を角刈りにしていた。その後ろに続く若い坊主頭はくっきりとした二重瞼で、頭が小さく、両耳の鈍い光沢を放つピアスがやけに目立っていた。再び店員の小さなあいさつが矢野には聞こえたが、果たしてあの二人には届いたのだろうか。二人の男は首や肩を回しながら栄養ドリンクを一人三本ずつ手に取り、他の商品には目もくれずレジへと向かう。床にモップをかけていた店員は小走りでレジの中へと入り清算を始めた。矢野はその様子をじっと眺めていた。店員が釣銭をうっかり落としてしまわないかと期待した。その時に二人の男がどういう反応を見せるのかが気になったのだ。結局店員は無事清算を終えてしまったので、矢野は週刊誌を棚に戻し、果物の缶を五つかごに入れてレジへと向かった。坊主頭が栄養ドリンクの入ったビニール袋を手に、自動ドアに近づく。しかし外には出ずに、先に角刈りを通してからその後に続いた。店員がか細い声で値段を告げる。彼の鼻の頭にはぬらぬらと光る脂が浮いていた。矢野は脇に抱えていた焦げ茶色の袋を店員の前に差し出す。それは底の方に大きな染みの付いた布製の袋で、色を合わせる意思の伺えない白や緑や赤や青の糸で所々縫合されていた。その薄汚い袋を見て店員は細い目の奥で真っ黒な瞳を左右に動かし「困惑」の色を一瞬、その顔に浮かべた。その様子がどうしても演技にしか見えなかった矢野は、この店員はどこか自分に似ていると思った。袋を手にコンビニを出て辺りを見回し、矢野は先ほどの二人を探した。すぐ前の横断歩道を渡っている人影が目に入った。信号は赤だったが矢野もその後を追い横断歩道を渡った。車のライトが遠くに確認できる程度で、道路は実に静かだった。距離を十メートルほど保ったまま、矢野は二人の後をつけた。どちらも矢野の存在に気付いている様子はなく一度も振り返らない。どこかで彼らが、彼らの居場所、例えば住居などの矢野の侵入できない領域に入ってしまったら、この尾行は終了させるつもりだった。先を歩く二人は何かを話している。矢野がかすかに足を速めると、夜の冷たい空気が頬を撫でる。矢野にはそれが、堪らなく鬱陶しかった。二人の男はテナント募集の張り紙が窓に貼られている、老朽化した建物の脇に入った。矢野の靴底がアスファルトを蹴る。袋がズボンに擦れ、缶がぶつかり合う小さな音が届いたのか、角刈りの男が音もなく振り返った。口には着火前の煙草が咥えられている。矢野はその煙草の先端を見つめたまま袋を振り上げると、その男の頭頂部目がけ、勢いよく振り下ろした。袋によって一つの塊と化した五つの缶は、男の頭皮を容易く裂いて骨を砕き、意識を遥か遠くへと一瞬で飛ばしたようだった。続いて膝を踏み潰そうと考えた矢野は足を持ち上げたが、角刈りの男は声一つ発さないまま、アスファルト目がけてうつ伏せに倒れ込んだ。坊主頭の男は、隣で肩をすくめたまま動かない。袋を手放すと、缶のぶつかり合う音がくぐもりながら響き渡った。矢野は角刈りの背中に跨り、その頭を両手で掴むと、顔面を地面に叩きつけた。角刈りの頭頂部の裂傷から血が跳ね、地面に無数の斑点を描いた。坊主頭が何かを叫び、矢野の肩を殴るように押した。矢野は崩れた体制を整えると、再び単調な動作に戻った。両腕を動かしたまま、坊主頭の方を見た。その男は瞬きをしていなかった。血で滑り、その手が角刈りの頭から離れると、矢野は立ち上がってポケットに入っていたスプーンの柄を握りしめる。坊主頭は必死で頭の中を整理している様子で、地面に横たわったまま髪の毛の隙間から血を噴き出している角刈りを、虚ろな目で眺めている。矢野は坊主頭の耳を鷲掴みにし、路地のさらに奥へと引きずり込んだ。坊主頭が声を上げたので、その喉に何度も拳を打ちつけた。坊主頭の真っ黒な瞳のみが、闇の中でぬらぬらと光っていた。手に握られたスプーンは、肌に張り付くかのようだった。坊主頭のくっきりした二重瞼にスプーンの先端をねじ込むと、時計の針と同じ向きに拳を回した。瞼のささやかな弾力に抗い、スプーンの先端は坊主頭の眼球を押し潰した。矢野の手が生温かい液体で濡れる。坊主頭が悲鳴を上げようとしたため、矢野はもう一度その喉に拳を叩きこんだ。咳き込むと同時に、坊主頭の口から唾液に交じった血が飛んだ。自らの顔に押し付けられる矢野の拳を、坊主頭は力強く掴み、退けようとするが、スプーンの先端は更に奥へと突き進み、遂には脳へと達した。力のない擦れた声を絞り出しながら、矢野の腕を掴む力を弱めていく坊主頭は、身体を震わせ地面に膝から崩れ落ちた。眼孔から抜けたスプーンの先には黒い塊が付着していて、矢野は虫を追い払うような仕草でそれを地面に振り落とす。坊主頭は顔を両手で押さえたままアスファルトの上で依然震え続けている。矢野はその様子を眺めながら、手に付いたあらゆる液体が不快だったので、着ている服の裾で拭った。生温かい鉄の臭気が漂っている。強烈な焦燥が矢野を襲った。しかしそれは不愉快なものではなかった。ふと足元に転がっている栄養ドリンクが目に入ったので矢野はそれを強く蹴飛ばした。静まり返った道路の真ん中でビンが軽快な音を立てて回り、夜の闇の中へと消えていった。角刈りの男は爪先で脇腹を突いても反応を見せなかったが、念のために血の噴き出している頭部を思い切り踏みつけると、五度目でその硬い骨が陥没し、更に大量の血が溢れ出て足元を広く濡らした。焦燥は少しずつ消失していった。矢野は血でじっとりと湿った袋を拾うと、破れていないか手でなぞった。無事だった。この頑丈さが気に入っており、これまでずっと使い続けていたのだ。袋の下に落ちていた一本の煙草。矢野はそれを拾ってポケットに入れる。坊主頭の耳に刺さったピアスが、男の揺れに合わせて外灯の光を反射し続け、矢野の目にはそれがストロボのように映った。先ほどの焦燥は、視覚の片端に入り込んだこの点滅を無意識に察知していたからなのかもしれない。血に塗れたスプーンはそのままポケットの中へ入れておいた。少し遠回りをして帰ろう。公園で手と靴を洗わなくては。矢野はふと、さっきの店員の顔を思い出した。しかしその理由が自分でもわからず、まあいいかと地面に靴底を擦りつけながら最寄りの公園へと向かった。遠くで連なるビルの隙間から、微かな光が漏れている。今日もまた朝がやってきたのだ。コンビニで買った缶の内、破れていない三つを次々と平らげた。帰ってきて鏡を見ると頬に糸くずのような黒い塊がついていた。しかし矢野にとってはそれ以上に、鏡に映る自分の顔が知らない誰かのように思え、しばらくの間、不安な気持ちのまま眺めていた。汚れた服と袋は、風呂場の浴槽に張った「スープ」に浸してある。生温かい臭気は未だ漂っていたが、もう気にならなかった。そろそろ布団に入ろう。椅子の上で窓を眺めるのにも飽きた矢野は欠伸をする。窓に映る自分の顔が、相変わらず疑わしく思えてならない。今日はきっと気持ちの良い日になるだろう。矢野は目を細め朝日をしばらく眺めていた。そういえばあの角刈りはうつ伏せに倒れたままだった。どうせなら仰向けにしてやればよかっただろうか。そうすれば朝日を拝むことができただろうに。布団の中に潜り込み目を閉じる。窓から差し込む陽光に顔を照らされていると、再び涙が溢れてきた。この涙がどの感情によって流れ出たものなのか皆目見当もつかなかった。それでも矢野は毎日、朝日を受ける度に泣いている。明日もまた泣いてしまうのだろうか。涙の止め方を矢野は知らない。

 
 
 
 

ぼくはジャックの上昇する血圧です

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つい最近のことだけど、血圧の高さが原因で臨床試験のボランティアに参加することができず、大金を逃すというさんざんな目に遭ってひどく荒れた。高血圧の原因であるはずの酒をあえてあおり、飲み屋で喧嘩し、好きでもない女を抱いてぶん殴って追い返した。ぼくはこの血圧をどうにかしたい。でもそう上手くは回らないのが世の常らしいのだ。

 


MONGOL800 神様/ 歌詞付き

 

 

村上龍の書いた『昭和歌謡大全集』という小説がある。「カラオケが趣味のキモい若者たちが、同じ名前のおばさんで結成されたグループ『ミドリ会』の面々と血で血を洗う殺し合いを始める」というキャッチーさだけに惹かれたぼくは当時高校二年生。同じく村上龍の書いた『69 sixty nine』が好きだったこともあり、その流れで手にとった部分もあるのだが、これが予想を上回る楽しさですぐさまお気に入りの一冊となった。なにが楽しかったのかというと、全編を占める不謹慎さと豪快なハッタリ、それらを心から楽しむかのような筆の走った文体。「いい大人がこんなものを書いていいんだ……」という喜びに胸が弾み、そこに詰まるものすべてが刺激的だった。ぼくにとって、フィクションの醍醐味を痛感したエポックな一冊でもあったのだ。 

 

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ぼくには会うたび……というよりも会ってすらいないのに必ず喧嘩になる友人がいる。根本的に考えが合わず、互いに頑固なので、摩擦させると火花を撒き散らさずにはいられない。また悲しいことにどちらも脳機能の発達に大きな問題を抱えているため、議論というものができないのである。そのため関係は悪化の一途を辿り、たぶん今後よくなることもありえないだろう。そんな犬と猿、水と油なぼくらが二人きりになる機会が久しぶりに訪れた。とはいえぼくは人と争うことが嫌いなので、極力ことを荒立てないよう、揉めそうな話題を避けるよう、落ち着いた態度で、彼と会話しようと思った。ぼくは当たり障りのない会話党支持派だ。力のこもっていない当たり障りのない会話にこそ、透き通る瞬間が舞い降りると信じている。今日はなんだか上手くいけそうだなと思った。友人が今日一日どう過ごしたのかを聞いたり、会社の社長の悪口を聞いたり、ジムにいる怖いお兄さんの職業を予想したりと、穏やかな時間が流れていった。こんなふうに過ごすのも久しぶりだな、と思うぼくは大学の頃に彼と仲良くなり始めた当初、互いにどぎまぎしながらも、一生懸命に言葉を紡いだあの日々を振り返ったりもした。話題は本棚に収められていた『限りなく透明に近いブルー』へと移る。村上龍の句点がなかなか使われない独特の文体について「すごいねえ」と繰り返し、そこから川上未映子芥川賞受賞作『乳と卵』の文体にまで言及、やはり「すごいねえ」を繰り返していた。すると彼が突然「ごめん」と一言、“先に謝っておくけど”的不穏な前置きをしたのである。嫌な予感に顔をこわばらせるぼくに、彼は慇懃無礼ともとれる申し訳なさそうな表情を作ってみせ、こう続けた。

 

「『昭和歌謡大全集』なんですけど……燃料気化爆弾? あれ個人で作るのは無理です。はい。そもそも燃料気化爆弾でもない。核兵器の代替とか、そういうんでもない。あんなに広い範囲を吹き飛ばせる威力もないんですね~、はい。いや、ほんとYouTubeとか見ればいっぱい出てくるからペチャクチャペチャクチャペラペラペ〜ラ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

う、うわあああああああああああ!!!

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ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!

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ぼくは彼と話していると、人を殺す人の気持ちを理解できる気がしてくる。彼はぼくが『昭和歌謡大全集』を好きだということを知っていて、この話題をわざわざ持ち出したということに間違いはない。ぼくが一番理解に苦しむのは、「その話題を出すことで、ぼくにどうしてほしいのか?」という点である。「てことはこの作品には考証的に誤りがあるのか。じゃあダメだね」とでも言ってほしいのだろうか? ぼくのこの作品への愛情が、その程度の情報で揺らぐような脆弱さだとでも思っているのだろうか? だとしたらぼくの想いを見くびったひどく傲慢な態度であるので、彼は死ぬべきだ。あるいは、「おまえは考証的に間違った作品をベストに上げているのだ」ということを親切心から指摘してくれているのだろうか?「YouTubeとか見ればいっぱい出てくるから」という言葉から感じられる高圧的なニュアンス。「それくらい調べればわかるから」「知らないで褒めてたら恥かくよ?」ということなのだろうか? “余計なお世話”という恥ずべき行為への恐れはないのだろうか?ぼくはひとまず落ち着くことにした。血圧を下げるためにいろいろ調べた際に学んだ、ゆっくり長く息を吐く、という技を用い、撃鉄を起こしたこの心をなだめることにした。震えながら息を吐き続けるぼくのそばでも彼はしゃべり続けていたが、ショーツに包まれた女の人のお尻を想像してやりすごす。いくら彼でも、さすがにそこまで好戦的な振る舞いをするとは思えない。そもそも本人にこれが好戦的に受け取られてしまいかねない言動だという自覚があればの話だけど。自覚がないのであれば、それもひどく浅薄で傲慢で無神経な行いなので、人間的欠陥を恥じて死ぬべきだ。しかし仮に、いま挙げた二つの理由がどちらも違うとした場合、彼はいったいこの発言で何を伝えたかったのだろうか。ぼくが思うに、彼はただ単純に「正しい情報」を伝えたかっただけなのかもしれない。聞き手がそれを受けてどう思うかなどにはいっさい考えを巡らせず、そういうことを吐き出し、すっきりしたかっただけなのかもしれない。だとしたらぼくは、彼の拙く幼稚で扇情的な言葉からではなく、インターネットから直接学んだほうがいくらかマシだと思う。そもそも、考証的な誤りが作品評価に甚大な影響を与えるという考え方自体、ぼくは持ち合わせていない。それは、これまで数多くの言い合いを経て、彼にもちょっとくらい伝わっているものだと思っていた。彼はかつて、SF映画に出てくるレーザー光線に文句をつけたことがあった。そこまでくるとはっきり言って、彼はフィクションを鑑賞することそのものが向いていない。ぼくは『昭和歌謡大全集』という作品の持つフィクショナルな部分にこそ魅力を感じているし、物語がエスカレートする快楽を愛していた。そんなぼくからすれば、「実際は~」などと、とくとく説明してくること自体がナンセンスなのだけど、人の心のそういう繊細な部分はうまく理解できないのだと思う。ぼくは短く息を吐き続ける。君の信奉するその退屈な「正しさ」で、人の感動に水を差さないでほしい。ぼくの好きなものに、金輪際、触れないでいてほしい。その汚く礼節のなっていない足で、上がってこないでほしい。偉い、すごいと思われたいのなら、瞳孔の開いた目で御託を並べるのではなく、小手先以外の考えでもってぼくを感動させてほしい。いつまでそういう「インターネットが大好きな中学生」じみたスタンスでいるつもりなんだ。ぼくらもう25だろ。周りはみんな結婚とかしてるんだぞ。ぼくもなんでこんなことをブログに長々と書いているんだよ。本当に恥ずかしい。誰も得をしないし。あと前例がいくつもあるから一応書いておくけど、人が曲がりなりにも考えたり感じたりしたことの表明を「ひねくれてる」の一言で一蹴するのもやめてね。そういうことを平気で言ってくる無神経なやつらに高らかな笑い声をぶつけるためにぼくら面白いことを求めているんじゃなかったのかよ。いつからこんなにつまらないことになっちゃったんだよ。でも違ったね。君が最初からそういう人間だったということに遅れて気がついたぼくが悪いってことくらい知っている。勝手に期待したほうが悪いのだ。だからぼくはぼくの人生のために頑張ることに決めた。君の些細な言葉でカッとなるのも、ぼくがひどく狭い環境の中で君を寄る辺として捉えているからに過ぎない。数少ない友人である君に、元も子もない、つまらないことを言ってほしくない、そんな独りよがりな希望ありきの絶望こそ、なにもかもをだめにさせた原因なのかもしれない。「期待なんてしないほうが楽」みたいな悲しい言葉がある。そのそっけない「正しさ」にそれでも抗いたいと思うこの気持ちがしょうもない青臭さなのだとしたら、ぼくはもっと広い世界を知り、もっと面白い人がいることを実感し、大らかな態度で君に接せられるよう頑張ろうと思う。

 

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彼がその話題を出したとき、ぼくはテレビの真っ黒な画面に映る自分の輪郭を眺めていた。肩幅が狭くて、猫背で、ひどく情けない形をしていた。結局、本当に考証的誤りを指摘しただけで、そのあとに続くものはなにもなかったことにも驚いた。ぼくの好きなものをなんとか否定してみせたかった、以外に受け取り様がなくて、本当に困った。ぼくは散らばった愛をまとめる時間に、もう振り回されたくないので、彼のいないところで頑張って、彼がしょうもないわがままをぶつける対象としてぼくを選ばなくなるまで、どんどん広い世界を見つめようと思った。最後に『昭和歌謡大全集』最終章のタイトルでもある尾崎紀世彦の『また逢う日まで』を彼に送ろうと思う。できることなら町ごとてめえを消し去ってやりたいところだけど、現実的には、ありえないことなので。さようなら。

 

 


また会う日まで 尾崎紀世彦

 

 

 

【PS】

彼は件の話題を出す前に『サウスポー』のムビチケとスミノフをぼくに恵んでくれました。優しいだけではなく、筋肉質でスタイルもよく、顔もかっこよければ、喧嘩も強いので、それを踏まえたうえで改めて上記の内容を振り返ってみてください。そのときあなたの目に映るのは、いったいどちらの愚かしさなのでしょうか……

 

 

 

 

 

若きウェルテルのポコチン

 
【前回までのあらすじ】
ある日突然、原因不明の腰痛に見舞われたぼくは、『ダークナイト ライジング』に勇気付けられ、病院へ向かう決意を固めたのであった。
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腰の痛みがまったく鎮まらないせいで、ついにはしゃがみこんで靴紐を結ぶことさえままならなくなったぼくは、ネットで調べて二番目に出てきた駅近くの整形外科へと向かった。看護師さんにいろいろ話を聞かれ、原因がまったくわからないことを伝えると、念のため腎臓も調べることになる。ぼくは糖尿病がとにかく怖いくせに、不摂生な生活を送っている自覚もあり、検尿用の紙コップを手渡されたときは、心の中でいろいろを諦める準備をしていた。
 
尿を提出後にレントゲンで骨の様子も撮ってもらい、いよいよ診察室へ。そこでは日に焼けた実業家風のドクターが待っており、物腰柔らかな対応をしてくれた。彼の触診に対して痛い、痛くないを訥々と返していると、ドクターは何かを納得したように息を吐いたのだ。椎間板ヘルニアだった。ぼくは保険適用のコルセットを購入し、日中はそれを身につけて過ごすこととなった。
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これが思いのほか苦痛を和らげてくれる代物だったのでもうゴキゲン。痛みを感じるような行動を極力避け、安静にすることで様子を見るとのことだったので、ぼくは寝るときもコルセットを巻いた。するとどうだろう。みるみるうちに痛みが軽減されていくではないか。単に慣れたというのもあるかもしれないが、腰痛に関するストレスはみるみるなくなっていった。その一方で、コルセットは素肌の上に直接巻くと肌が荒れてしまうとの説明を受けていたので、外出時には必ず2枚服を重ねなければならない。それがとても面倒だった。暑いのだ。とはいえやむを得ない代償だ。人並みに動ける幸せに集中しようと思った。

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それからしばらくして、ぼくは歌舞伎町へと向かった。『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』を鑑賞するためだ。劇中では、超高性能の義手を左に持つ哀しき暗殺者・ウィンターソルジャーが大暴れする。事もあろうにこのぼくは、ウィンターソルジャーと腰にコルセットを巻いた自分を重ねてしまった。コルセットを巻くことで突き出た神経をいたずらに刺激することなく動くことのできるぼくと、人間を放り投げられるほどの義手を持った殺し屋とじゃ、かなり趣が違うことは理解している。しかし、これからの気温の高い時期を思うと気が滅入る、そのバリバリとうるさい腹巻を、どこか誇らしく思えたのも事実なのだ。

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映画といえば、『アイアムアヒーロー』も観た。そのタイトルそのものをテーマに据え、散弾と血と肉片山盛りで描き切る気持ちのいい映画だった。原作を読んでいない人からすれば蛇足にすら思える有村架純でさえ、その有村架純力に魅了される始末。前半の日常崩壊シークエンスによって、息を呑む気配が劇場に満ちていくのを肌で感じた。痛快ですらあった。英雄の最後のセリフも原作には出てこない、素晴らしい一言だったと思う。大好きな映画だ。

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立て続けに「ヒーロー」が活躍する映画を観たこともあって、人並みにあったヒーロー願望が二倍近くに膨れ上がってしまった。『ボーダーライン』を観たあとはサイレンサーの付いた45口径が欲しくなったり、下半身のガッシリした男に憧れたりしたので、そもそもそういう人間なのである。特殊能力も金もないコルセット野郎にできることといえば見回りである。ぼくはGWで浮かれる夜の街をパトロールしていた。すると近所の公園に足を踏み入れてすぐ、怪しい人影が目に入った。男の子だ。たぶん高校生ぐらいだろうか。そしてその正面には、地面に膝をついた女の子の後ろ姿があった。ちょうど女の子の頭が、男の子の股間部分に重なっている形だ。口淫だろう。ぼくは驚きと興奮と怒りと疲労を同時に覚え、なにも見なかったふりをした。その男の子が慌てて女の子の肩をタップするのは見えた。続けて、ゴポッ、という音も聞こえた気がしたが、気のせいかもしれない。公園の、よりにもよって人目につくところで行為に及ぶなんて、大胆不敵もいいところだ。あまりのショックに泣きそうになった。少し離れたところにあるベンチに座り、おそるおそる振り返ると、彼らはまだその場所にいた。逃げる素振りすら見せなかった。それからぼくが再度確認しに戻った三十分ほど後まで、彼らはその場から動くことなく“なにか”を続けていたのだった。いったい何を考えているんだと頭を悩ませれば悩ませるほどに、足を取られるような感覚に襲われた。ぼくはヒーローにはなれなかったのだ。

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もしもう一度あのカップルと出会うようなことがあれば、ぼくはガツンと言ってやりたい。とはいえ、怒りを言葉にしてぶつけることがぼくは苦手である。自分の怒りを形にしようとした途端、白々しい気持ちになって、最後まで怒り切ることができないのだ。なので可能な限り、フリースタイル風にブチギレることができたらと思っている。ついさっきまでフリースタイルダンジョンを観ていたせいもあるだろう。MCコルセットの殺戮ライムであいつらを泣かしたい。そしてぼくも泣きたい。それからコンビニでサイダーを買って、みんなで飲みたい。ついさっきまでのことなんて忘れてしまったかのように、どうでもいい話をして、別れ、二度と会いたくない。それでも数年後、ラブホテルから出てきた二人とばったり遭遇したい。言葉はなくていい、意味のある会釈を交わしたい。そんなヒーローに、私はなりたい。

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P.S.それ町最高✌️
 
 

 

『ダークナイト ライジング』が沁みる春


埼玉に舞い戻って早々に腰を痛めた。原因は不明だけどかなり長引いている。湿布を貼ってみたけどダメ。体操もダメ。人とは争ってばかり。何もかもが嫌になる。腰痛といえば『ダークナイト ライジング』が挙げられよう。

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強敵ベインに背骨をやられたバットマンは、「奈落」と呼ばれる穴の中で、なにかいろいろなことをしてもらい、腰を治していた。

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ぼくはこの映画を大学四年の誕生日翌日に鑑賞した。トム・ハーディ演じるベインが好きだ。筋肉隆々のルックスにくぐもった声。ジョーカーとはまた違い、フィジカルな方法でバットマンを苦しめていく様など、気持ちのいい男だった。しかしその実、一番苦しんでいたのもベインだった、と解釈することのできるラストは、今思い出しても胸に迫る。


明日にでも整形外科に行こう。この春、ぼくはriseする。早く不労所得でも得て、友達と対等に接したい。