MidnightInvincibleChildren

殺人鬼+殺人マシン/『クリミナル 2人の記憶を持つ男』

 

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『クリミナル 2人の記憶を持つ男』を観た。監督は『THE ICEMAN/氷の処刑人』のアリエル・ヴロメン。脚本は『ザ・ロック』のデヴィッド・ワイズバーグ&ダグラス・S・クック。僕はとても勘がいいのでしょうか。この時点でなんだかゴキゲンな気がしていたのです。

 

あらすじ

ロンドンでCIAエージェント(ライアン・レイノルズ)が殺害される。彼はテロリスト(ジョルディ・モリャ)に追われるハッカーマイケル・ピット)を保護しており、その隠れ家を知る唯一の存在だった。テロリストの狙いは、ハッカーが開発した核ミサイルを遠隔操作できるシステム。一刻を争うCIA(ゲイリー・オールドマン一同)は、記憶移植手術を研究する博士(トミー・リー・ジョーンズ)を呼び出し、凶悪な死刑囚ジェリコケビン・コスナー)にその記憶を移植する人体実験を実行させる。エージェントの記憶が保たれる48時間以内にハッカーを捜すよう命じられるジェリコだったが、あまりにも性格が凶暴だったため、護送中に逃亡、シャバでの自由を謳歌するのであった……

 

ジェリコという男

ケビン・コスナーが凶悪な男を演じる映画といえばあの『スコーピオン』が思い起こされます。エルビス・プレスリーを愛してやまない異常者がカジノを襲撃するも、仲間に金を持ち逃げされたのでひたすら暴れ回るというゴキゲンな映画。ということで今作でケビンコスナーが演じるのは死刑囚、その名もジェリコ。なにをしてきたのかはぼんやりと語られる程度ですが、話を聞く限り大勢の人間を殺してきたらしい。その凶悪さを買って勧誘に来たギャングまで惨殺しているとのことなので、その見境のなさたるや、超危険人物であることは確かです。彼は激情型のサイコパスで、善悪の区別がつかないばかりか、自らの行動の結果を予想することもできない。いくら死刑囚とは言えそんな男に大事な記憶を移すなよ!と一瞬思いますが、彼は幼少期に父親からの虐待で頭部に怪我 → その後遺症で前頭葉が未発達 → 他者の記憶を植え付けるための余地が残っている、という物語上のロジックがあるので一安心。こういう一言があるのとないとじゃ没入度も変わってくるので嬉しい限りです。

 

今作においてジェリコはまさに「獣」。街に繰り出せばろくなコミュニケーションも取らずに暴力と略奪を繰り返すのみ。しかしそんな彼の脳内では移植されたCIAエージェントの記憶が徐々に蘇り始め、いままで感じたことのない感情の芽生えさせるのでした。暴言を吐いた直後に謝罪の言葉が口をついて出るなど、野蛮な行為にも歯止めがかかってしまう。しまいには一度も会ったことのない「妻」や「娘」に対する愛情まで芽生えるのだから、サイコパス的には大混乱。こういった「怪物に人間性が宿る」という普遍的なコンセプトが、ケビン・コスナーの疲弊の滲む顔にはよく似合っています。厚手の服を重ね着しているので、どことなくひょうきんな熊さんのようにも見えてきますね。

 

でもちょっと待った。せっかく野蛮なサイコパスだったのに、優しい心を手に入れたら面白みに欠けるのでは?そんな懸念が浮かんできたかと思います。でもだいじょうぶ!移植された心優しい記憶の持ち主は、とはいえCIAのエージェントなのです。言うなれば訓練を受けた殺人マシン。ジェリコの戦闘力はむしろ向上し、持ち前のバーバリズムと移植された戦闘スキルの合わせ技で大暴れを見せてくれます。手にとった家具や手斧で敵を滅多打ちにするそのファイトスタイルは、近年の韓国映画に見られるバイオレンス描写を彷彿とさせるほどリズミカルで重く、それがまた心地いい。ほとんどミョン社長(『哀しき獣』)です。殺したばかりの死体に向かって「ウアー!!!」と叫んで見せるところも最高。銃を手にすればテキパキした動きで発砲。お得なキャラクターだなあ。

 

作り手の真摯さ

キャラクターだけではありません。この映画は、エンターテイメントを丁寧に作り上げようという真摯な思いに溢れています。まず銃声がでかい!銃が怖くないと盛り上がりませんからね。さらに弾着効果も妙にこだわっていて、頭を撃たれたキャラクターの後頭部からビロビロの塊がぶら下がるのが一瞬見える。そんな細かい描写はなくても支障はないはずのに、それでも入れてくれる優しさ。さらに魅力的な女殺し屋も登場。丁寧な演出の中にケレン味も忘れない、その精神が実に大人です。銃とか弾着効果とか殺し屋とかそんな話ばかりしてますが、そういった点に目を向けられるほど大枠の物語に身を委ねられる土壌がある。そんなところが胸中を温かくしてくれます。

 

豪華キャストの共通項

ということでたいへん楽しい映画だったのですが、さらに重要なポイントがあります。ここからが本題といっても過言ではありません。というのもこの映画、キャストがとても豪華で、「知ってる!」顔が勢ぞろいしているのです。それもそのはず、ここ十年で大変な盛り上がりを見せているヒーロー映画出演者たちが、これでもか!と出演しているのです。以下、一覧!

 

ケビン・コスナージェリコ

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『マン・オブ・スティール』の父親(地球での)

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ライアン・レイノルズ(殺されたエージェント)

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デッドプール』のデッドプール

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ガル・ガドッド(エージェントの妻)

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ワンダーウーマン』のワンダーウーマン

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ゲイリー・オールドマン(CIAロンドン支局長)

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ダークナイト』シリーズのゴードン

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トミー・リー・ジョーンズ(博士)

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キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』の大佐

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ジョルディ・モリャ(無政府主義者

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アントマン』でプレゼンを聞いていた人

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アンチュ・トラウェ(ドイツ軍出身の殺し屋)

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『マン・オブ・スティール』のファオラ

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スコット・アドキンス(CIAエージェント)

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ドクター・ストレンジ』のカエシリウスの部下

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詳しく探せばもっと出てくるかもしれません。それだけ現在の映画業界におけるヒーロー映画が利かせる幅が広いということでしょう。

 

 

ということで『クリミナル 2人の記憶を持つ男』は、見所多い快作でした。唯一言いたいことを挙げるとするならば、スコット・アドキンスのアクションシーンが一切なかったところでしょうか。とはいえ、物語上その必要性を感じる場面は特になかったので、ストレスになるというわけでもないと思います。本作の脚本を担当したダグラス・S・クックさんは2015年に亡くなられています。エンドロールでは本作が追悼の意とともに捧げられていました。面白い映画をありがとうございます。R.I.P.

 

 

 

歌と踊りと覚めない夢と

 

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『ラ・ラ・ランド』を観た。IMAXで。思いのほか心踊らない。スクリーンじゃみんな踊ってるのに。勃起しないおチンチンに、泣きながら「おい!」と怒鳴りつけた夜のことが蘇る。ミュージカル映画との相性が悪いのかもしれない、という疑念に沈痛しつつ帰宅。
 
ミュージカル映画に明るくないため、「これまでのハリウッド(ミュージカル)史に捧げる」という視点が持てない僕は、この映画を「夢を見る二人」の物語として鑑賞することにした。ここでいう「夢」とは、ざっくり言うとハリウッドでの成功のことだ。でもあのエンディングを見る限りでは、これは違う視点の話のように思えた。あの2人の愛の物語なのだ。彼らの間には覚めない夢のような愛があって、それはラストのあるシークエンスで彩り豊かに描かれている。あそこは演出として大好きなタイプのものだったので、うるっとはきた。でも全体的に、よくわからない映画だった。本当にわからない。どうしよう。感情がポンと抜けるような瞬間に、ついには出会えなかった。
 
歌って踊り出す、というのは僕にとっては「作劇上の大きな嘘の一つ」という認識なので、変に文脈に沿ったりせず、空気が渦を巻くくらい盛大にやってもらった方が楽しいはず、と思う。どうせ歌って踊るのであれば、文脈を蹴散らすくらいにやってほしい。今回、それを感じられたのはそれこそ冒頭のハイウェイでのシーン。あそこは、そういう意味でワクワクした。
 
こうなったらミュージカルリテラシーを向上させてみるぞ!ということで、『ラ・ラ・ランド』鑑賞翌日に『雨に唄えば』を借りてきた。めちゃくちゃ面白い。ジーン・ケリーの歌唱力、及びダンスのスキルに愕然した。演舞であり、演武でもあった。ファンの女の子から逃げるために車を台にして路面電車の屋根に飛び乗り、そこから反対車線の走るオープンカーに飛び移るシーンなんて、それこそ個人的な映画の原初的な喜びであるジャッキー映画そのものだ。なるほど、ジャッキー・チェンジーン・ケリーが好きだったんだろうな。自分の愛するもののルーツを目にした僕は感動した。『シャンハイ・ナイト』のマーケットでのシーンなんて、ジャッキーからジーン・ケリーへのリスペクト溢れるオマージュじゃん、と遅ればせながら気づくこともできた。なるほどなるほど。ミュージカルリテラシー……アップ!!!!!
 
続いて『ジャージー・ボーイズ』を観た。ミュージカル映画、というわけではなかったけど、あの最高のカーテンコールシーン。ああ、なんて幸せなんだ。みんなが歌って踊っている。感情が昂ぶる至福のシークエンスだ。幸せ。そう思う僕は、同時にほかの映画のことも思い出していた。『ハッピーボイス・キラー』だ。
 
『ハッピーボイス・キラー』のアレをミュージカルと呼んでいいかに関しては判断しかねるんだけど、一応歌って踊っていたのでここに挙げておく。それこそ先述していたように、文脈を超えた形で歌って踊っていた。あの飛躍によってしかもたらせられなかった幸せな光景には号泣した。また観たいな。大好きな映画だ。
 
『ラ・ラ・ランド』に戻ろう。オマージュ元も、すべてではないが「なるほどね」と思える部分も出てきた。とはいえジーン・ケリーを観たあとだと、どうしても『ラ・ラ・ランド』の動きは『マトリックス』のカンフーシーンみたいに感じられてしまう。なにかが飲み下せたような気がした。なるほど、『ラ・ラ・ランド』はミュージカル版『マトリックス』なのかもしれない。
 

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みんなが踊っている。
力がみなぎってくる。
 
 

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なにはともあれ、またいつか機会を見て『ラ・ラ・ランド』を鑑賞したいと思う。待ってろ!『ラ・ラ・ランド』!その日を迎えた俺の、ミュージカルリテラシーを舐めるなよ!!!
 
 
P.S.
あと『ラ・ラ・ランド』、アカデミー作曲賞美術賞、撮影賞、歌曲賞、監督賞、主演女優賞受賞おめでとうございます!!!ステージの端の方に立っていたゴズリングが最高でした!
 
 
 
 

見たい夢を見る(長門有希編)

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夢をみていた

『ラ・ラ・ランド』日本版キャッチコピー

 

 

一度だけ、 見たい夢を見たことがある。

 

大学一年の頃、『涼宮ハルヒ』シリーズにどハマリした僕は、その中でも特に対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース(これを早口で諳んじるレベルでハマっていた)の「長門有希」にお熱。彼女は読書家という設定で、アニメ版では毎回長門有希が実在の本を読んでいることも見所の一つだった。中でも一期の実質最終回に位置するアニメオリジナル回『サムデイ・イン・ザ・レイン』において、彼女は阿部和重の『グランド・フィナーレ』と綿矢りさの『蹴りたい背中』を読んでいる。どちらも芥川賞受賞作ということで、この時期の長門有希ちゃんは芥川賞受賞作の消化期間中だったのかな?と推理した僕は、その日のうちに『蹴りたい背中』を購入。「にな川」というキモいアイドルオタクのことがどうしても気になってしまう主人公「ハツ」は、そんな彼の背中を見て「蹴りを入れたい」と思う。久々に読んだ『蹴りたい背中』は、そんな物語だった。その内容がどうしても長門有希ちゃんの心を代弁するかのようないじらしいものに思えて仕方がなくなった僕は、興奮の坩堝にダイブ、休憩を挟むことなく一気読みした。最高の小説だった。これを読んで、棚に戻すことなく部室の机に置いておくばかりか、居眠りをするキョンの「背中」にカーディガンをかけて去っていく長門有希やん。破顔する僕はベッドに寝そべりながら「ちくしょうマジか~」と漏らし、後頭部をかきむしっていた。窓からは初夏のさわやかな風が入り込んできた。

 

そして夢を見たのである。僕は青々とした芝生生い茂る知らない民家の庭にいた。そこにはビニールプールがあって、SOS団のメンバーが水浴びをしている。ホースからほとばしる水が陽光をキラキラと反射させている。最高の、夏の景色。その中で長門有希は、いつも変わらぬ無表情とアニメでも着ていた水着姿で、他の面々と水を浴びている。僕は彼女を性的な目で見ているわけではないので、その姿にやや気恥ずかしさを覚えるものの、僕はその夢の中において、恐らく登場人物の一人ではない感じだった。そんな実体のない、幽霊のように彷徨うだけの視点として目の前の光景を慈しんでいた自分だったが、不意に長門有希がこちらに向かって近づいてくる。彼女には僕が見えているのかな、やっぱり宇宙人だしそういうのもアリなんだろうな、と思う僕の腕を取った長門有希は、そのまま膝を付けと指示するように、腕を引いてきた。僕は当然のように芝生の上に膝をつくのだが、すると彼女は、どういうことか僕の背後に回り込むと、バン!と勢いよく蹴りを入れてきたのだ。前のめりに手をつく僕は、「これは『蹴りたい背中』だ」と思った。

 

目を覚ました僕は、冷めやらぬ興奮と同時に、どこか割り切れない想いを抱いていた。あまりにも直截的すぎて、夢の中ですら「そのまんまじゃん」と思っていた気がする。芸がなさすぎるあまり、貧しい気持ちになってきた。本当に欲しいもの、でも得難いものというのは、こんなふうに手に入れちゃダメなんだと思った。僕は人生における大事なことを、長門有希からの背中への蹴りで学んだ。

 

 好きなものを大事にしていきたい。僕は自分の好きなものをちゃんととっておき、ふとした瞬間に引き出しては、その色香に想起される記憶に触れたい。長門有希への好意にめまいを覚えていたあのころの僕は、函館の夏の匂いにつつまれていた。熱されたアスファルトの香り、釣具屋の磯臭さ、ひんやりとした夜気の爽やかな肌触り。僕はいつだって見たい夢を見ている。

 

 

 

 

過去にも 「夢」の話が出てくる日記を書いていたので貼ります ↓

『ぼくは勉強ができない』じゃございません

 

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Sweet - Fox On The Run - Promo Clip (OFFICIAL)

 

 

全然勉強ができない。そのことについてここ数年、考えたり考えなかったりしている。おそらく僕の知能レベルもさる事ながら、性格にこそ大きく起因する話なんじゃないかと最近になってようやく思い至るようになってきた。僕にはすぐ人に話を合わせてしまう癖があって、それはかなりの悪癖で、いろいろな弊害が後になって一気に押し寄せ、曖昧な笑みや過剰な謝罪で対応するしかなくなる。そういう場面はこれまでにも何度もあった。わかったふりをしてしまうのだ。会話の全貌をいち早くつかみたいがために、多少の疑問や謎を流してしまう。全貌にたどり着いたところで、要点をスルーしているので結果「は?」となることが多く、相手も「は?」となる。そうなるともう殺し合いだ。そのせいもあって殺伐とした日々を送っているが、殺伐ついでに勉強もできないとなると、それはやっぱり嫌だ。ぜんぶナシはおかしいでしょ、ちょっとくらい与えてくれ、という思いが尽きることはない。

 

なぜ話を合わせる癖があると、勉強ができないのか、というと、もうそのまんまなんだけど、言葉や文章に対してもテンションだけを合わせてしまうのだ。ふんふん、なるほどなるほど、と頭では思ってはいても、それはいつもの癖からくるリアクションというだけで、なにも頭に残りやしないのだ。そういうことから、資格の勉強などをしようにも、いざ本番を迎えたところで「は?」となる。そんなこんなであらゆる試験には落ちてきたし、「成功体験の乏しい自分」だけが月日とともに強化されていくだけ。もう疲れました。『ぼくは勉強ができない』という小説でも書こうかな。

 

な~~~にが『ぼくは勉強ができない』だ、と大学時代、『ぼくは勉強ができない』 を読んだ僕は思った。函館にある、函館山が望める日当たりのいい部屋のベッドの上に寝そべる僕は、村上龍『69 sixty nine』 の方が断然好きだったのだ。『ぼくは~』の方は、山田詠美の「私の理想のイケてるナマイキボーイ」感に、他の軟弱な男どもも見習いたまえ、という当てつけ臭さを感じ取ってしまい、鬱陶しくてたまらなかった。軟弱な男どもだからだ。一方で『69 sixty nine』の主人公だが、嘘つきで卑怯で軽薄ではあるものの、結局最後まで好きな女の子にキスひとつもできなかった。その一点だけとっても『エクスペンダブルズ2』の冒頭に登場する改造トラックくらい「なんだか」愛おしい。自分の感じた「なんだか」は蔑ろにしたくない。その感情こそ僕だけのものだからだ。当時の僕は、過ぎ去ったばかりの高校時代を振り返りながら、最高の男子高校生を描けるのはいったい誰なのかばかり考えていた。その一環として手にとった『ぼくは~』は苦手だった。主人公はぜんぜん馬鹿じゃなく、むしろ大人さえたじろがせるほど聡明なくせに、それなのになお、みんなに勝とうとばかりしている。端的に言えば全然ダサくないのだ。親父の金玉に帰れ。みんな慎ましくあるべき、だとは思わないので好き勝手やってもらって構わないけど、僕はちょっと遠くに離れておくね、ば~い。そんな小説だった。

 

そもそも男子高校生という生き物がダサくないはずがない。ブームを測る尺度としてすぐ登場させられる天下の女子高生がそもそも絶望的にダサいんだから、男子がダサくないはずがない。女子高生はダサい。おしゃれな服を着ていてもダサいし、髪を巻いてもすね毛剃っていてもダサい。男子はおしゃれしないし髪も巻かないしすね毛も生やしっぱなしなので言わずもがなダサい。極めつけは、ダサいダサくないに必死なところが一番ダサい。これがいわゆる「ダサイクル」というやつだ。石黒正数先生が『ネムルバカ』でそう描いておられた(いま調べたら「駄サイクル」でした)。

 

石黒正数先生といえば代表作である『それでも町は廻っている』 が最終回を迎えた。最終巻である16巻を読んだ僕はしんみり。ほとりちゃんの「夢への第一歩」を描くエピローグの加減が絶妙でとても良かった。あくまで「高校生活3年間」の話なので、大団円!!!すぎないあのラストもちょうど良かったと思います。だって人生はこれからも続くんだもの。

 

人生は続く。僕は勉強ができないし、往年のアイドルは線路に立ち入り、若手女優は出家、工作員が正男を暗殺する。余生にしがみつく生臭いクソジジイどもは、「かつての苦労」を盾に呪いの壁を築き続ける。レッドカーペットの染料はやつらの血で決まり。ニヒリズムを滅多刺しにしよう。僕はもう話を合わせるのをやめる。人との会話では否定から入るし、水だって差せば腰も折る。力ずくで自分の話題に持っていく。自分だけずっと喋る。そんな人間になるくらいなら、真面目に勉強したほうがマシ。

 

 

 

 

 

 

(*^^*) (*^^*) 

 

(ಠ_ಠ)

 

 

 

 

 

血にまみれたテメエ

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気分が沈んだときはどうしたらいいんだろうと毎回気分が沈むたびに考えている。元気なときには実行できるようなことさえままならない。昨日は特にひどくて、とにかく何もしたくなかった。布団の上に横になっている時が唯一まあちょっとマシかなといった程度で、あとはずーっと得体の知れない倦怠感に支配されていた。いままでなら本や映画などに触れて気分の切り替えを図れたところだけど、昨日に関してはそれすらもできず、唸り声を上げながら本を開くも文字が像を結ばない。ページにぎっしり詰められた何百字もの記号をただ眺めているような茫漠たる心地。じゃあ運動だ。そう思い立ち上がって数分ぼーっとしていた。それからまた横になった。やっぱりいま最もしっくりくるのはこの体勢だな、と思ってひたすら臥褥。神経症に対する治療に森田療法なるものがあって、症状への囚われから脱してあるがままの境地を手に入れるため、ひたすら横になる、という治療段階が設けられているのだけど、なるほどこれは効果てきめん。なにもしたくなければなにもしなければいいのだ。変に細かい義務感を積み上げることで手に負えなくなっているのなら放り投げてしまえ。そう思っていたはずなのに、気がつくと寝相の問題か、腰などの骨ばった部分が痛いような気がしてきてもう無理。僕はその場で横になったまま「ふざけんじゃねえクソッタレ!」と叫んで、両足をピンと伸ばした。それから立ち上がり、焼きそばをつくった。焼きそばを炒めながらも、「バカ、この……バカが」と乏しい語彙力で罵倒を続け、不謹慎な行動が授ける高揚を借りて元気になれることを期待していたというのにどんどん胸が悪くなっていった。こんなふうにつくった焼きそばなんて食えるか!そう思って味見をしたら美味しかった。僕はお腹が空いていたのでしょうか。

 

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ところで今日はバレンタインデー。バレンタインデーといえば学生時代のエピソードトークだけど、僕自身これといった思い出はない。というのも、部活に入っていない人間は問答無用で弱者扱いされるド田舎で育ったので、意識すらせずに済むほどなにもなかったのだ。しかし兄がサッカー部だったこともあり、兄のもらったチョコレートを弟と一緒に頬張った経験は何度かあった。その当時から僕は思っていた。所詮、女に見る目などないと。

 

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土曜日、午前中に起床した僕は天気がいいので外出でもするか~と思いながらテレビをつけた。すると「王様のブランチ」がやっていた。相変わらず洒落臭いテンションだけど、それが妙に心地いい朝だってあるのも事実。白湯を飲みながら着替えることもせずのんびりテレビを眺めていた。すると、バレンタインデー前ということもあり、チョコレートのCMに出ている三人娘(広瀬すず、土屋太鳳、松井愛莉)へのブランチ・インタビューが始まる。うひょ~、こりゃいいぞ、と僕は思った。可愛い女の子が大好きだからだ。すると、ブランチのインタビュアーが、三人にそれぞれの名の書かれた札を持たせて「この中で一番モテるのは?」という質問をした。結果は以下のとおり。

 

広瀬すず → 【土屋太鳳】

土屋太鳳 → 【広瀬すず

松井愛莉 → 【広瀬すず

 

これは穏やかじゃないぞ、と思った。僕は女の子同士が仲良くしている雰囲気は大好きだけど、垣間見える歪みは苦手だ。やっぱり嘘じゃん!という気持ちになるからだ。ここでインタビュアーは、広瀬すずに【土屋太鳳】と挙げた理由を聞いた。広瀬すずは「なんかもう、守りたいオーラ全開じゃないですか」と答えた。うるせえ。続いてインタビュアーはほかのふたりに対し、【広瀬すず】を挙げた理由を聞いた。まずは土屋太鳳が答える。「すずちゃんはメールがすごく可愛い」。インタビュアーはすかさず、それはどんな内容だったのか、と質問を重ねる。これには送り主である広瀬すずが答える。「お肉食べに行こうね、とか」。広瀬すず土屋太鳳両名爆笑。そのまま抱き合う。間髪入れずに番組は「ピコ太郎がジャスティン・ビーバーと共演を果たした」という内容のトピックへと移る。

 

本当にいいのかそれで。

 

松井愛莉が一言も喋ってなかった。すず&太鳳が盛り上がっていたメールの話題、それってもしかして、松井愛莉にはぜんぜん関係のない話だったのかもしれない。心なしか、表情も暗かった。土屋太鳳と広瀬すずが仲良さげなのは誰の目にも明らかだが、その影に隠れてしまっていた松井愛莉の姿を見ていると、気が気じゃなくなってくる。僕は知っている。三人でいるときの、一人でいるとき以上の孤独を。「あ、ふたりは頻繁にメールし合う仲なんだ……」、「お肉食べに行く約束とかしてるんだ……」などと、あの場にまったく関係のないはずの僕は胸を痛めていた。広瀬すずのような人間は、確かにいる。言葉にはしないが、態度などによるあたりが強いA行動パターンの人間は確かに多い(A=aggressiveness)。しかしその一方で「無邪気さ」に身を委ねることで、周囲に対する配慮を欠く自分から目を背ける人間も許せない。僕はチャーハンのグリーンピースや酢豚のパイナップルに一度も怒ったことはないが、無神経な言動にあぐらをかいて気持ちのいい思いばかりしている奴を見ると、なんとかして邪魔をしてやりたくなる。いつかの自分を重ねているから……。土曜の朝から嫌な気分になった。その後外出した僕は缶チューハイを手に入れ、GUで790円の紺のスウェットを買った。バカ野郎が。気分は晴れなかった。

 

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じゃあ三人の中で誰が一番タイプなのか?と聞かれれば、広瀬すずと答えるだろう。それとこれとは話が別だからだ。広瀬すずは可愛い。生意気そうなところも魅力に転じている。出演作にも恵まれている。土屋太鳳はこのまま『まれ』とかいう最低な朝ドラで主演を張ったという過去だけを錦の御旗にしている場合ではないと思う。あ、でも『鈴木先生』があったか。ごめん。松井愛莉に関しちゃ、もっとごめん。『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』のドラマ版であなるを演じていたのは覚えている。でもいまとなっては飯豊まりえのほうが露出多いよね。ごめんなさい。本当にこんな話するつもりじゃなかったんだ。みんなに幸せになってほしい。

 

気分が上がらないときは雑誌などに乗っている有名人の対談を立ち読みすると元気が出る、ということに最近気がついた。たまたまそれで元気になれるってだけの日だったのかもしれないが、対談を読んでいると、自分もその中にまじって一緒に会話しているような気分になり、脳内で「人と会話」という実績が解除されるからだと思う。『文學界』2017年3月号に載っている羽田圭介村田沙耶香の対談が今月のオススメです。朝井リョウとは違い、村田沙耶香さんの発言に対して真摯な返答をする羽田さんが見所です。

 

 広瀬すずと土屋太鳳のあの姿を、僕は忘れない。

 

 

 

 

書き下ろし短編:『白濁を耳に』

 

「う、ゥウッ……グッ……アッ……!」

 

 その少年の放った声は、講義室の静寂にいとも簡単に飲み込まれてしまった。おれはすぐさま言葉を添えることはせず、肌を刺すようなこの沈黙をもって、彼自身に感じてもらうことにする。少年はひどい猫背姿で立ち尽くしたまま、浅い呼吸を繰り返しているが……。

「うん、ありがとう。みんなはどうだったかな? いまの彼の演技を聞いて、どう感じた?」

 いくつも並ぶ白の長机には、大勢の生徒が敷き詰めるように座っている。みながみな、自らの中にある感想を咀嚼するように口をつぐんだり、俯いたりしていた。中にはまじまじとおれの顔を見つめる者もいる。いい顔だ。おれはさりげない微笑みでもって応える。

「そこの君」

 鳴らした指でそのまま指し示すと、その女生徒は小さな声で「ふぇ……」と漏らし、横断歩道を渡る前のように、左右を確認してみせる。

「そう、そこの君です。ポニーテールでメガネの君。お名前は?」

「ひゃ、ひゃい、あのう……渡辺美莉亜と言います。あ! わ、わたし宮崎先生の大ファンで! 大宮ソニックシティのライブにも行って……」

 先程までとは打って変わって、生徒たちからはあたたかな笑い声が沸き起こった。少女は饒舌になっている自分から、はたと我に返り、頬を赤らめ俯いてしまった。

「ありがとう美莉亜ちゃん。とても光栄です。そんな美莉亜ちゃんに質問をひとついいかな。緊張しないでね? いまの彼の演技を聞いて、どんな状況が頭に浮かんだかな?」

「うう……じょうきょう……ですか?」

「うん。なんでもいいんだ。自由に、感じたままを答えてほしいんです」

 彼女はあごの先に指を当て、天井を仰ぐ。伸びた前髪の隙間から覗く眼鏡のレンズが、鈍い光を放った。

「ええっと……えー、なんだろ……戦場?」

 再びあたたかな笑いが起こる。どうやら美莉亜ちゃんは、このクラスの人気者のようだ。おれはついつい、この空間にいるかつての自分を想像してみた。

「なるほど! いいですよいいですよ。戦場?」

「は、はい……若い兵士がいて……そこは戦場で……お腹を怪我してる? そんな姿が浮かびました……」

「あ~。なるほどなるほど。彼は若い兵士で、お腹を負傷している。それで漏れた声がさっきの田中くんの演技、ということだね?」

「は、はい……!」

 おれは手に持っていたメモ【勝気なヒロインに論破され、たじろぐ主人公】を教卓の上にそっと伏せる。

「いいですね~美莉亜ちゃん。まずね、想像力が豊か! これはとっても大切なことでね、豊かな想像力というものは演技にも活きてきます。いいですよ、ありがとう! じゃあ他には? 他にこんな情景が浮かんできたよ~というひと、いたら挙手をお願いします!」

 互いに顔を見合わせ、はにかむ生徒たち。その中の数名が遠慮がちに手を挙げる。素晴らしい。おれは長机の間を縫って歩きながら、「いいですね~いいですよ~、先生とてもやりがいがあります」と笑いを誘った。「じゃあそこの君! お名前と、浮かんだ情景!」

 

「えーと、花村拓人です。浮かんだ情景は……学園ですね。高校というか、そういう感じの。それで制服はブレザーで……あ、これも浮かんで……そのキャラの髪は黒でツンツンしていて、たぶんヒロインからはウニとかそんな感じのあだ名で呼ばれているキャラで――」

 

「石田輝留と申します。わたしも学園が浮かんできました。あとはそうですね、わたしの場合この主人公にはドSな親友がいてたぶん小学校のときからの関係で、あ、関係っていっても変な意味じゃなくいや変な意味でもいいんですけど――」

 

「リドル昌也っす~。あ、そうっす、一応ハーフっす~。自分の場合はアレっすね~。一応最初は学園ものなんすけど、一応ヒロインをかばって事故で死んで異世界に転生したばかりの一応主人公なんすけど、実は意外と一応適応力のあるキャラで――」

 

 気がつくと浮かんだ情景ではなくキャラ設定の妄想を発表する時間となっていた。おそらく一人目の渡辺美莉亜を褒める際に「想像力」というワードを意識して使用したがために、その言葉がみんなの頭の中でひとり歩きしてしまったのだろう。

 未だ教卓の横で猫背のまま立ち尽くし、自分の演技への感想はおろか、各々の勝手な妄想を聞かされている田中くんの気持ちを思うと、不憫で仕方がない。ここで一旦空気をリセットしなければ。特別講師としての腕が試されるときだと思った。

「はい! みんなありがとう! 今年の新入生は想像力が豊かな人ばかりなんだね。はっきり言って先生、驚いてます。先生が通っていた時よりもすごいです。はい。それはそうと! 先ほど田中くんに演じてもらった演技のお題なんですが、ここで改めてね、答えを発表しようと思います。じゃあここは田中くん本人の口から、与えられていたお題の発表、お願いできるかな?」

「え……あ、はい! お題? は、はい!」

「じゃあ……お願いします!」

「う、ゥウッ……グッ……アッ……?」

 再び静まり返る講義室の中心で、おれはかつて監督に何度もリテイクを求められた在りし日を思い出していた。

 

 

 

『劣悪少女隊ぱぴぷ@ぺぽ』の主人公・道明寺タカシ役での大ブレイクをきっかけに業界のメインストリームに躍り出たおれは、その後も勢いを落とすことなく若手声優界を牽引した。声優雑誌の表紙を飾り、メインパーソナリティーを務めたラジオ番組も大好評。デビュー当時からお世話になっていた先輩声優、冨樫桃華に気に入られていたこともあって、声優同士の交流を深める飲みの席にもよく呼んでもらっていた。

「ほんと、優翔くん、大物になったよねえ」

 ピクサー映画のメインキャラクターを演じることが決まった冨樫桃華が銀座のバーで開いた祝いの席にて、おれは彼女からそう言われた。周りにいる誰もが彼女の言葉に賛同し、おれの謙遜は瞬く間にかき消される。

「そんなことないですよ桃華さん。桃華さんの足元にも及びません」

「また~。前もそんなこと言ってたけど、すごいんでしょう? 若手男性声優と言ったら、いまや誰もが優翔くんの名前を口にする時代だもんねえ」

「いやいやいやいや。そうは言いますけどね桃華さん。今度のピクサーだって、メインどころはどうせ芸能人枠だからって誰もが思っていたところの大抜擢じゃないですか。天下のピクサーですよ。ぼく大好きですもん。『シュレック』とか」

「あはは~ほら~! すっかり口も上手くなってるし~! そりゃラジオも人気でるよね、わたしも大好きだもん」

「え! 桃華さん、ラジオ聴いてくださってるんですか?」

「実はヘビーリスナーなんです。うふふ。ラジオネーム【処女膜からやまびこ】。あれはわたしなんだよ」

「ま、マジで……え! うっわ、ちょ、待ってくださいよ、本当ですか桃華さん! まいったなあ……今後メール読むとき緊張しちゃいますよ~ははは」

「ねえ」

「あ、はい」

「桃華って呼んでよ」

「え?」

「桃華」

「…………桃華」

 その晩、おれと桃華はキスをした。

 だがそれっきりだった。

 その数日後、彼女のニャンニャン写真が流出したのだ。相手は、どっかのバンドのベーシストだった。

 

 おれは何日も酒に溺れた。あのキスは一体なんだったんだ。

 女とは。

 頭の中で渦巻く疑問の答えがそれであるかのように酒を煽り、店のトイレを汚し、ほかの客から顰蹙を買った。己の傷を見つめれば見つめるほど、自分がどれだけ冨樫桃華を尊敬していたのかを痛感した。たった一度のキス……その先に待っていたはずの……。おれは彼女相手なら、喉を生業道具とする声優にとって禁忌であるはずのオーラル・セックスだってしたはずだった。喜んでしたに違いない。いまだってしたい。したくてたまらない。オーラル・セックスがしたい。オーラル・セックスをすると、きっと楽しい。オーラル・セックスという救い。オーラル・セックスという秩序。オーラル・セックスという倫理。オーラル・セックスという茫漠。オーラル・セックスというなにがし。オーラル・セックスという……オーラル・セックスとは? スマホで調べてみる。「性器接吻」。オーラル・セックスとは性器接吻。オーラル・セックスこそ性器接吻。オーラル・セックスという性器接吻。

 性器オーラル・接吻セックス……。

 死すら覚悟していた。そんなおれを支えてくれたのは、同じラジオ番組でパーソナリティを務める新垣大輔だった。おれより五年ほど後輩だが、歳は三つしか違わず、人当たりのいい好青年。一人っ子のおれは、彼のことをまるで弟のように思い、接した。彼もまたこんなおれを慕ってくれた。

「宮崎さん、元気出してくださいよ」

 まだ出禁を食らっていない新宿のバーで彼と飲む。こんな場末で、ふたりの人気声優が酒を飲んでいるとは誰も思うまい。思う存分語らった。

「写真が流出……おれはね、大輔くん。この件に関してひとつ思うところがあるんだ」

「なんです?」

「なんでそんなものを撮るのだろう?」

「わかりますよ。ああいう人らは結局見てほしいんすよ。普通出て困るもの撮らないっすもん」

「やっぱり? まさか新垣くんも、撮ったりしてないよな?」

「撮るわけないです」

「彼女はいるの?」

「彼女はいます。これですけど」

 口の前で両手の人差し指を交差させる新垣大輔。なにはともあれ、人と会話をするだけでも、心の風通しは良くなった。

「大輔くん、ありがとう。乱暴に酒を飲むのも、今日で最後にする」

 しかしそうはならなかった。

 おれがやけ酒に溺れている間にも、着実に仕事をこなし、きちんと成果を出していた新垣大輔の人気は、瞬く間に手の届かない高みへとのぼってしまっていたのだ。

 

 

 

「みんな、実は先生、今日のために用意してきたものがあります」

 田中くんを席に戻したおれは一枚のCDをカバンから取り出す。

 みんながおれを見ている。

 おれも生徒ひとりひとりの顔を見つめ返した。

 呼吸は浅い。緊張している? この宮崎優翔が? 

 面白い。

 おれのすべてをかけたプロジェクト。

 その狼煙は、今日この場所で上がるのだ。

 

 

 

 新垣大輔の人気に疑問はない。甘いルックス。芯のある声。表現力豊かな演技。軽妙なトークに、時折出る地元関西の訛り。実際会って接していても、清潔感があり、いつもいい香りがする。肌だって綺麗だ。ヒゲなんて月に数回剃る程度なのだろう。ラジオの収録中に、トークのノリに乗じて抱きついたことがあるが……おっ勃った。男のおれでそうなのだ。彼と絡んだ女性声優に、女性ファンからの殺害予告が届くのも仕方がないと思えよう。それくらい、新垣大輔の人気に疑問はない。でも不満はある。おれだって人間なのだ。並べられた事実を、常に飲み下せるわけではない。そんな不満はラジオ番組中の態度に露骨に現れてしまった。ネットやSNSではおれの不機嫌そうな声色への批判が溢れ、大して年齢も離れていないというのに「老害」とまで言われる始末。

「おれが……老害……?」

 再び酒に溺れた。もうなにもかもをかなぐり捨てたくなった。

 そんなときだった。

 

「君、このまえもここで飲んでいたよね。オーラルセックスがどうのってずっとぶつぶつと言っていたから覚えているよ。悪い酒の飲み方をしている若者がいるな。そう思ったもんでね。いやなに、怪しい者じゃない。いまから名刺を渡すよ、ちょっとまってね、あれどこにやったかな、あったあった、ははは、しまった場所を忘れるとは……私はこういう者だ。話を聞いておいても損はないと思うよ」

 

 その初老の男は、栗原哲哉といった。プロデュースをしている、と言った。ぜひ仕事の話がしたい。栗原は微笑んだ。

「どうだい、宮崎くん。興味はあるかい」

 おれはバーボンを一気に飲み下し、グラスをカウンターに叩きつけるのと寸分違わぬ動きで首肯した。

 

 数ヶ月ぶりに、実家の両親へ電話。

「優翔? 元気かい? すごく活躍してるそうじゃない。母さん、もう年寄りだからさあ、あなたが出てる漫画とか……あ、ごめんなさい、アニメって言うのよね。ほんとうに疎くてねえ。でも頑張ってるんだってねえ。お隣のけっちゃん、もう高校生なんだけどね? あなたの活躍知ってるって。すごい人だって言ってたわよも~泣いちゃって私。あんたが定期預金を勝手に解約したときから母さん思ってたわよ。この子は大物になるって」

 母さん……。

「ほら、お父さんもちょっとは話しなさい。せっかく優翔が忙しい中電話くれてるんだから」

「ああ、はいはい。もしもし……優翔か? 母さんはああ言ってるけどな、父さんはあの日、お前のことぶん殴ってやろうかとも思ったんだ。ははは。でも父さんあまりにもショックでな、動けなくなったんだぞ。ははは。しかしそれがいまや……ああ、そうそう。この前のハワイな……良かったよ。ありゃいい場所だ」

 親父……。

 

 久しぶりに声優専門学校時代の友人、出川との食事。

「おれらの中じゃ、優翔が一番の出世頭だな。アニメも吹き替えも全部チェックしているぜ」

 出川は現在、製薬会社の営業をしているという。

「ところで覚えてるか、優翔。島崎純恋。いたろ、あのヤリマンだよ。あいつ結婚したらしいぜ。相手は戸塚だよ。講師の戸塚。子供が出来たんだってさ」

 おれは言葉を失った。

 今度、そこで特別講師をするよ。力なくそう伝えると、出川は自分のことのように喜んだ。

 

 真夜中にふと目を覚ますと、傍らには愛犬のアチャモがいた。

「あちゃもたん、パパですよ~。パパにちゅーは? ちゅー」

 普段からハウスキーパーに世話を任せっぱなしだったためか、顔のすぐ近くで激しく吠えられてしまう。なんて畜生だ。小型犬の鳴き声は、神経に障る。

「おまえだけは味方でいてくれよ!」

 ウィスキーグラスをフローリングの上に叩きつける。意外と頑丈なもので、割れやしない。ベッドから抜け出したおれは再びウィスキーグラスを手に取ると、改めてフローリングの上に叩きつける。ウィスキーグラスは甲高い音を立てながらフローリングの上を滑り、部屋の隅にそっと盛られてあった、出したてと思しきアチャモの柔らかな糞便にめり込んで音もなく止まった。おれはトランクス姿のままその場に崩れ落ちた。冷たいフローリング。言葉がない。漏れる嗚咽。

「ウッ……グウウ、クッ……ハッ……、ヌッ、グググ……ギイ……アッ、ンンッ……スウウウウウ、ヌハァ……アッ、ヌウウオッ、カッ……ハッ……ウッ……グウウ、クッ……ハッ……、ヌッ、グググ……ギイ……アッ、ンンッ……スウウウウウ、ヌハァ……アッ、ヌウウオッ、カッ……ハッ……ウッ……グウウ、クッ……ハッ……、ヌッ、グググ……ギイ……アッ、ンンッ……スウウウウウ、ヌハァ……アッ、ヌウウオッ、カッ……ハッ……ウッ……グウウ、クッ……ハッ……、ヌッ、グググ……ギイ……アッ、ンンッ……スウウウウウ、ヌハァ……アッ、ヌウウオッ、カッ……ハッ……ウッ……グウウ、クッ……ハッ……、ヌッ、グググ……ギイ……アッ、ンンッ……スウウウウウ、ヌハァ……アッ、ヌウウオッ、カッ……ハッ……ウッ……グウウ、クッ……ハッ……、ヌッ、グググ……ギイ……アッ、ンンッ……スウウウウウ、ヌハァ……アッ、ヌウウオッ、カッ……ハッ……ウッ……グウウ、クッ……ハッ……、ヌッ、グググ……ギイ……アッ、ンンッ……スウウウウウ、ヌハァ……アッ、ヌウウオッ、カッ……ハッ……ウッ……グウウ、クッ……ハッ……、ヌッ、グググ……ギイ……アッ、ンンッ……スウウウウウ、ヌハァ……アッ、ヌウウオッ、カッ……ハッ……ウッ……グウウ、クッ……ハッ……、ヌッ、グググ……ギイ……アッ、ンンッ……スウウウウウ、ヌハァ……アッ、ヌウウオッ、カッ……ハッ……」

 ふと、自らの嗚咽がある一定のリズムでもって繰り返されていることに気がついた。これも職業病というやつだろうか。悲しむことさえ演じてしまっているとでもいうのか。おれは自らの首を両手で掴むと、渾身の力で握り締めた。やめろ。やめてくれ。おれの本当の悲しみを返してくれ。おれはおれの悲しみを悲しみたいだけなんだ。

 気がつくと、ハウスキーパーのジョイさんがすぐそばにしゃがみこみ、その豊満な肉体で小さくなったおれの身体を包み込んでいた。

「Easy……easy……」

 耳元で囁かれる聖母のアンセムにおれは声を上げて泣き、やがて気を失った。

 気がつくと、閉め忘れていたカーテンの隙間から朝日が入り込み、泣き濡れた顔を照らしていた。

 おれはすぐさま栗原プロデューサーに電話をかける。

 

「ひとつ、企画案があるんですが」

 

 おれの反撃が始まる。

 

 

 

 

 

 

 学務担当者が用意してくれたラジカセに焼きたてのCDをセットする。

「これ、実はまだどこでもかけてないやつなんです。本邦初公開、ってやつですね」

 講義室内にどよめきが起こった。生徒たちは隣同士で顔を見合わせ、その興奮を共有している。

「といってもですね、これは曲――というわけではありません。みなさんがこれから学んでいく、プロの声優としての演技。その参考になるいわば教材というか、力になれるようなものを真剣に考えて作られたものなんです。ぼく自身、この専門学校であらゆることを学びました。当時の講師に言われたことは、今でもはっきりと覚えています。そんなぼくから、当時の自分に伝えたいこと。それを念頭において作りました」

 おれは再生ボタンに指をのせる。

 この音源の制作は難航した。自分にウソをつかない。それがなによりも譲れないルールだった。栗原プロデューサーとは何度も話し合った。時には衝突することもあったが、おれのこの熱意でもって納得させた。

「顔つきが変わったよ」

 徹夜続きの栗原プロデューサーは、濃いブラックコーヒーを飲みながらそう言った。

 過去の自分に戻れるうちは、人は変われない。

 

 そう信じてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 宮崎優翔の! 

『かんたんな感嘆』! 

 みなさんこんにちは。声優の、宮崎優翔です。今日は私宮崎が、声優を志す皆さんのために、様々な感情表現、いわゆる感嘆――の技術を、かんたんに紹介していきたいと思います(笑)。キャラクターに命を吹き込むのがぼくたち声優の、なによりの役割です。様々な感情を理解して、それを表現する術を身につけることで、アニメや映画、ナレーションなど、声優としてのお仕事で活躍することができるようになる……のかも(笑)?

 明日の主人公はテメエ自身!(©『劣悪少女隊ぱぴぷ@ぺぽ』)

  ってなわけで(笑)

 早速いってみましょう!

 

 

 生徒たちからは、自然と拍手が沸き起こった。

 

 

レッスン1 《基礎編》

 【驚き】

  「ンッなァ……?」

 【悲しみ】

  「グッ、うう、つうう……!」

 【喜び】

  「ンッフッ……」

 【怒り】

  「ックゥ……!」

 【後悔】

  「アッ……」

 

 

 みな、息を呑むように音声に聴き入っていた。おれは腕を組み、いまの地位に身を置いてもなお学びに貪欲であるかのような体で、音声が流れるラジカセを細めた目で見つめ続ける。

 

 

レッスン2 《応用編》

 【ヒロインが急に着替え出したとき】

  「なッ……!」

 【屋上から望む街並みが燃え盛っていたとき】

  「な……ッ!」

 【父親が黒幕だったとき】

  「ナッ……!」

 【通学途中に見かけた美少女が転校生として教室に現れたとき】

  「ンッ……ぁ……?」

 【背後の写真立てが突然倒れたとき】

  「ンッ……?」

 【犬の糞を踏んだとき】

  「ヌぅッ……?」

 【腹を殴られたとき】

  「カッ……アハァッ、ハァ……!」

 【顔を蹴られたとき】

  「ヌハアッ! ッカァ……!」

 【腹部への攻撃で吐血したとき】

  「ッ……ポゥあ……カァッ!」

 【惨劇を目の当たりにして嘔吐するとき】

  「んグゥッ……ボロロロロロロロロロロ!」

 【拷問されているとき(我慢編)】

  「グッ……ウウウウッ! ヌウゥウッ!」

 【拷問されているとき(絶叫編)】

  「グァ、がああああああああああああああああああああああああああ!」

 【そのまま覚醒したとき】

  「あああああああああぁぁぁァァァアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 

 誰かが唾を飲み下す音が聞こえた気がした。いや、幻聴などではない。おれのプロとしての技術――そのレパートリーの豊富さや繊細な表現力に、誰もが荒肝を抜かれたような顔をしていた。

 そして内容はいよいよ、おれが最後まで決して譲らなかった、執念の賜物とでも言うべき領域へと突入しようとしていた。

 

 

レッスン3 《成人向け編》

 

 

 ざわめきが起こった。

「すげえ」

 誰かの漏らす声が聞こえる。

 

 

 【乳首を責められているとき】

  「ハッ……なアァ……!」

 【局部を触れられたとき】

  「クゥッ……!」

 【オーラル・セックスをされているとき】

  「アァッ……! アア! ハアッ……!」

 【オーラル・セックスをしているとき】

  「じゅるるるるるるるるるるるる!」

 【オーラル・セックスをしぶられたとき】

  「ンッ! ンーッ!」

 【初めての挿入】

  「アッ……ハァ……ァッタ……カイ……!」

 【ピストン中】

  「んはァ! んはァ! んはあッ……ウウウギモチィッ!」

 【絶頂

  「あ、やばい! やばいやばいやばい!」

 【絶頂

  「ゴメンナサッ……ッッッ……!」

 【絶頂③】

  「スッ、スゴィうわっ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ」

 

 収録した内容とは異なる音声に、おれは我が耳を疑った。たいへんだ。CDにキズが入っている? あるいはこのラジカセが古いのか。おれは平静を装いながら、しかし迅速にラジカセを小突いた。

 

「ワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッワッ」

 

 音の細かな反復はさらなる加速を見せる。今更ながら、なぜ用意できるものがラジカセだったのか、データファイルではなくCDなのかという疑問が噴出する。しかしここで焦りを見せれば、この状況が招かれざるものであることが生徒たちに周知されてしまう。彼らの神聖な学びの場において、その熱意に水を差す真似は許されるはずもない。

 再度、小突いた。

 

「ワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワア、ア、ア、ア、ア、ア、ウワウワウワウワウワウワウワウワウワウワウワウワWOWOWWOWOWWOWOWWOWOWWOWOWWOWOWWOWOWWOWOWワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワウワウワウワウワウワウワウワウワウワウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ、ウ、ウ、ウ、ウ、ウワウワウワワワウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウワウワ…………

 

 

 講義室は、幾重もの声に包まれた。

 椅子から転げ落ちる男子。出口に向かって走っていた女生徒が彼にぶつかって転倒した。耳を押さえ悲鳴を上げる女生徒もいる。かばうようにして抱きしめる男子の姿も。絶頂時に漏れる声の断片が木霊するこの空間において、もはや平静を保てる者などだれもいなかった。まるで永遠に続くかのような……煉獄。そのリズムは限界まで加速していく。

 だが不思議なことに、おれの心は落ち着いていた。

 平穏、そのものだった。

 混沌に喘ぐ生徒たちのなか、自らの席に着いたまま、力強い眼差しでおれの顔を見つめている生徒がいた。その目には、うっすらと涙が浮かんでいるようにも見える。おれも彼の目を、その魂を見つめ返す。

 田中くんだった。

 おれは鳴らした指でそのまま彼を指し示す。

 彼は喉を隆起させたあと、迷いなく口を開いた。

  

 始めよう。

 おれたちの反撃を。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自宅鑑賞映画(2017年1月編)

 

『続・男はつらいよ』(1/1)

 

仁義なき戦い』(1/1)

 

進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』(1/1)

 

進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド』(1/1)

 

スカイライン‐征服‐』(1/2)

 

イコライザー』(1/3)

 

ミスター・ノーバディ』(1/10)

 

『葛城事件』(1/11)

 

『白鯨との戦い』(1/14)

 

宇宙戦争』(1/14)

 

『ハイヒールの男』(1/15)

 

『スノーピアサー』(1/17)

 

江ノ島プリズム』(1/20)

 

ちはやふる 上の句』(1/21)

 

ちはやふる 下の句』(1/21)

 

県警対組織暴力』(1/31)

 

 

 計16本!

側臥位Netflix鑑賞期(森田療法)

 

 

2017年となってはや1ヶ月が過ぎようとしています。むしゃくしゃはおさまるところを知りません。報われない努力。水泡に帰す時間。回らない頭。膨張する憂鬱。噛み合わない会話。潤わない財布。上がらないうだつ。殴りたいあいつ。殴れないあいつ。蓄積する殺意。いかない納得。半端な勃起。生半可な射精。無駄な責任。空回る正義。読めない文章。知らない制度。納める税金。バカの花金。わかない欲求。もたない集中。寄り添うスマホ。途切れるWi-Fi。床の陰毛。変わらぬ景色。無視せよ幸福。後悔は共有。下手くそ営業。似合わぬカラコンバカリズムの真顔。アイドルのリスカ。大学生。狂ったリーマン。朝井リョウ。生乾きのタオル。合わないシャンプー。生臭いリンス。濡れた靴下。顎関節の歪み。慢性的倦怠。無限のささくれ。動かぬ身体。聞き取れない台詞。不必要な考証。穴の空いた靴。したくない努力。水泡にキス。空っぽな頭。寄り添い型の鬱。すれ違う未来像。潤わない肌。増えない貯蓄。殴るべきあいつ。殴られるべきあいつ。ちょい漏れ殺意。いらない納得。軟派な勃起。断続的射精。無視しろ責任。下卑た正当性。下手くそ文章。ウザい制度。ほっとけ税金。バカのタマキン。くたばれ欲求。さよなら集中。ベタつくスマホ。途切れるやる気。国家の陰謀。体調の悪化。無視こそ幸せ。箱入り後悔。もういい営業。若さの前借り。バカリズムの笑顔。色白アイドル、虚弱商法。梅毒学生。頑張れリーマン。朝井の悪ノリ。捨てるべきタオル。新しいシャンプー。甘いリンス。臭わない靴下。歯列矯正。枯れない性欲。春の訪れ。軽い身体。胸打つ台詞。正確かつ物語を停滞させない考証。新しいスニーカー。2017の幸先。

 

 

 

 

 

 

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阿ッッッ!

 

 

 

 

 

 

ベストノーマライゼーションムービー/『ザ・コンサルタント』

 

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あらすじ

天才的頭脳を持つ会計士のクリスチャン・ウルフは、依頼を受けた大企業の会計監査で重大な不正を発見するが、直後、仕事を打ち切られ、命を狙われる。だが、クリスチャン・ウルフは最強の殺人マシンでもあった(ので安心)。

 

 

自閉症スペクトラム障害とは

主人公のクリスチャン・ウルフは自閉症スペクトラム障害アスペルガー症候群であったり、高機能自閉症などと呼ばれているものなどを統合した概念として「自閉症スペクトラム障害」というものがあるのだと思ってください。簡単に言うと「知的発達の遅れを伴わない自閉症」といったところでしょうか。「高機能」な自閉症ということなので、その言葉のニュアンスに関しては色々な議論がなされていますが、本来、自閉症知的障害を伴う確率が高いものとされているため、便宜上そう呼ばれているのだと思います。主な特徴として、コミュニケーションにおいて相手の気持ちを想像することが苦手だったり、同一性や反復する行動への強いこだわりなどが挙げられます。 程度の差はあれ、僕らの身の回りにも割といます。僕自身、自分がそうじゃないとも言い切れない、くらいのありふれたものだと思っています。

 

www.mhlw.go.jp

 

 

そんなクリスチャン・ウルフは、ジグソーパズルを絵柄のない背面だけを見て完成させたり、大きな数字の暗算を一瞬で行ったりと、天才的な頭脳を持つ反面、コミュニケーション能力に大きな問題を抱えていました。一度始めたことを完遂できないとパニックに陥り、パニックに陥ると周囲のものを破壊。彼を理由とした夫婦間の不和から母は家を出ていき、軍人である厳格な父からは「厳しい環境でも生きていけるように」と、虐待レベルの教育を受けて育つこととなります。ここのところは『キック・アス』のヒット・ガールですね。顎の割れた巨漢のヒット・ガールです。

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今年の暫定ベスト1!

劇場鑑賞はじめとして選んだ今作ですが、結論としてとても面白かったです。まだこれしか観てないんですけど、すでに今年ベストな気持ちですらいます。ものすごく完成度の高い映画、とは別に思っていませんが、胸中に明かりが灯るような、そんな優しさにあふれた映画だったように感じました。

 

合わせられない目線、指先に息を吹きかける癖、3つずつで構成された食事、噛み合わなくなると「冗談だ」で誤魔化す会話術、ぎこちないつくり笑い、「挙手」での挨拶。目の前に転がる生きづらさへの対処法を丸暗記して乗り越えようとしている主人公の描写の数々は、観ていてたまらないものがあります。そんな彼が毎晩振り返るのは幼少期の思い出。主人公の声紋を調査したFBIの分析官が「トラウマのある子供に見られる特徴」みたいなことを言うシーンがありましたけど、自閉症スペクトラム障害の子供は周囲とのズレから生じるストレスの影響からトラウマを抱えることがとても多いと言われています。これはそんな男の物語なのです。

 

幼少期に叩き込まれた武術がシラットというところも良かったと思います。監督のギャヴィン・オコナーのインタビューによれば、「効率的であり華やかでもある」ことが主人公のキャラクターに合うと思ったそうで、なるほど。ああいう父親が息子を連れてアジアに向かう感じも、なかなかリアルな気がしました。ヨーロッパ圏よりも、断然アジアに行きそうですよね。偏見ですけどね。

 

ガンアクションも良かったです。テキパキした正確な動きで確実に息の根を止めていくスタイル。数字に強い男らしくスライドストップ前にマガジンをこまめにチェンジするなど、キャラクターらしい戦い方の演出もされていたと思います。これ見よがしには描いていませんでしたが、相手が撃っている最中などにも残弾をカウントしているような「待ち」を見せていたように思います。心憎い。

 

 

 

着地点について

なかなか目まぐるしい展開の物語ではありますが、その着地点に関しては意見が分かれるだろうなという気配は感じました。僕はあの意表を突かれる感じがかなり好きです。物語的にシビアに落とすことだってできただろうし、それを望む声だってわからいじゃない一方で、あの展開には強く胸を打たれました。「ありがとう」という気持ちでいっぱいです。さらに最後の最後にも、この物語がどれくらいの「規模」で進んでいたのかが判明するある展開が待ち受けているのですが、そこでまた「ありがとうございます」という気持ちがこみ上げてきました。なんてノーマライゼーション精神溢れる映画なのでしょうか。また、ギャヴィン・オコナー監督の前作でも描かれていたような、「母の不在」を前提とした「父との関係」も顕著に現れていたと思います。本筋には大きく関わってはきませんが、障害者自立支援施設のあの人もまた「父」であると同時に、その奥さんの姿は最後まで現れません。鑑賞後に振り返ってみると、あの人の過去に関しても想像が膨らみます。

 

僕は物語における温度の高い部分に共鳴できたとき、その作品が愛おしいものになると思っています。『ザ・コンサルタント』は作り手が見せた登場人物たちへの眼差しに打ち震えたという点でも大好きな作品です。

 

彼はなぜ世界の不正と戦うのか。主人公は一度始めたことを中断できない性格なのです。そんな彼の「道の途中」を描いた今作、僕は断然支持したいと思います。そもそもアクションがかっこいいし、ベルト使うとこなんて最高〜。

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 ↓ 監督へのインタビューです。

www.gizmodo.jp

 

↓ アメコミになったそうです。翻訳版がこちらで読めます

www.gizmodo.jp

 

 ↓ 日本プンチャック・シラット協会会長のコメントがあります。トレーニングって脛ゴリゴリのことかな

wwws.warnerbros.co.jp

 

 

 

 

舞城王太郎と中条あやみはどっちも六文字

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2017年になりました。今年も楽しくいけたらいいなと思っています。それ以外に、なにを望むっていうんだ。急に太字になるのは最近海外文学を読んでいるからです。僕の考える海外青春文学っぽさです。とにかく今年は好きなものを声高に唱えていけたらいいなとも思っています。

 

海外文学などにも大きな影響を受けているっぽい作家といえば舞城王太郎がいます。もちろん村上春樹を挙げてもいいのですが、著作をほとんど読んだことがないので、ポスト村上と言われたり言われなかったりしている舞城王太郎を挙げさせていただきます。初めて読んだのは高校のころ、ド田舎に住んでいた僕はイオンの中にある田舎者のサブカル予備校ことヴィレッジヴァンガードで派手なポップとともに積まれていた『煙か土か食い物 』を手にとりました。それが出会いだったように記憶しています。メフィスト賞を受賞した舞城王太郎のデビュー作です。そのポップには「ウーファーの前にいるような文章」みたいなことが書かれていましたが、当時の僕はウーファーを知らなかったので「は?」となりました(のちにくるりの『ハイウェイ』を聴いてなんとなく察しました)。

 

ウーファー - Wikipedia

 

なにもいきなり好きになったというわけではありません。どちらかというとそのトゥーマッチな圧のある口語文体や奔放な展開(いわゆるスリップストリーム)に食傷気味になったほどです。そのくせ地元の図書館で借りたい本が見つからないときなど、なんとなく舞城王太郎の著作を手に取ることが何度かありました。『熊の場所』、『阿修羅ガール』……。ひー!面白いけどついていけない!そう思ってまたしばらく間を空け、卒業間近、進路が決定したことでなにかまた読もうかな。そう思って芥川賞候補にもなった『好き好き大好き超愛してる。』、続いて短編集『スクールアタック・シンドローム』を購入しました。『スクール~』に収められている文庫用書き下ろし短編『ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート』を読んだ僕は、そこで初めて自分の中で舞城王太郎という作家がなにかしらの位置を得た気がしたのです。チンポジのように。

 

スクールアタック・シンドローム(新潮文庫)

 

舞城王太郎の小説に関して言うと、なんだかんだ物語が帰結する先が「愛」とか「正しさ」である点が好きでした。そしてその結論に至るまでの「熟考」。とにかく「考えろ」という至上命題がそこにはあって、読み手は登場人物の目まぐるしい思考にライドします。そのテーマが極限まで達したのがSF長編『ディスコ探偵水曜日』なのではないでしょうか。はっきり言ってマラソンのような読書体験でしたが、そのキツさこそが「考えるのをやめるな」というテーマをより鮮烈に表現していたように思います。

 

僕は舞城の書く短編も大好きです。舞城の書く短編は、ひとつのテーマに向かって半ば過剰にも思えるほど、システマティックな構成で見せる物語が多い気がします。一番新しく発表された短編集である2013年の『キミトピア』では、書き下ろし作品も多数収められていて、たいへん充実した内容となっていました。しかしその一方で、『真夜中のブラブラ蜂』という短編を読んで、舞城の伝える「正しさ」に胸焼け、並びに懐疑的な思いも抱くようになってきたのです。もっと正直に言えば、主人公のことが全然好きじゃない、スネ・モードになってしまい、とはいえこの人物を肯定しなきゃ……と勝手にこしらえた義務感との間で葛藤し、ひとり混乱していたのです。僕のそういう衝動は衝動としてまた別の機会に考えなければならないものだと思います。

 

2017年になってまだそう経ってはいませんが、舞城は新作短編を発表しました。新潮 2017年 02 月号に掲載された『秘密は花になる。』です。その冒頭を読んだ僕は、また『真夜中のブラブラ蜂』っぽい話か!?と少々身構えてしまいました。子を持つ母親の話です。しかし今回は、どこか趣が違う。なんなら『真夜中のブラブラ蜂』や『やさしナリン』(同じく『キミトピア』収録)なども孕んでいた「圧の強い正しさ」へのセルフアンサーとも取れるような読後感がありました。まだ読んで日が浅いので咀嚼しきれていない部分も多々ありますが、「正しいかどうかより、考えること自体に用がある」という、なんだかんだいつもどおりの着地な気もします。そんな体幹のしっかりした舞城ですが、今年は『龍の歯医者』というアニメの原作・脚本を務めるらしいです。精力的でびっくりしますが、そろそろまた暴力的でアッパーな小説も書いてほしい気もします。待ってます。

 

 

P.S.

東出昌大似であることがだんだん気にならなくなってきた中条あやみさんですが、本名は中条あやみポーリンというらしいです。そこから派生して「ポーちゃん」と呼ばれているんだとか。なんだかジャッキー・チェンみたいですね。それではまたお会いしましょう。さようなら。 

 

ディスコ探偵水曜日〈上〉 (新潮文庫)

ディスコ探偵水曜日〈上〉 (新潮文庫)

 

 

キミトピア

キミトピア

 

 

2016年公開映画ベストワーストいろんな賞

 

 

【2016年公開映画ベスト10】

 

   1位 ボーダーライン

 2位 デッドプール

 3位 この世界の片隅に

 4位 アイ アム ア ヒーロー

 5位 映画 聲の形

 6位 ドント・ブリーズ

 7位 永い言い訳

 8位 ヘイトフル・エイト

 9位 マジカル・ガール

  10位 COP CAR コップ・カー

 

 

ベスト10選評

 
10位:『COP CAR コップ・カー』

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 なんにもないド田舎で繰り広げられる悪ガキ二人と汚職警官の攻防。些細な思いつきでも招く結果はしっかり凄惨。それでいて、ドライなテンションの果てに待つあの街の景色には強く胸を打たれます。創り手の眼差しに、かっこいい優しさがあったもんだと胸がいっぱいになりました。

 

 

9位:『マジカル・ガール』

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怖い夢を見て目覚めた夜、なんでもない暗がりに気配を感じたりする全自動想像力というものが僕らにはあるので、気にもとめなかった会話、ちょっとした仕草、あのドアの向こうに各々の絶望を見る。雨の有楽町で溜息が漏れるほどの不穏を味わいました。最高です。

 

 

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 長い長い映画だけど、ラストで味わうあの突き抜けるような感動は何なんだ。なんかもういろいろあったし、超疲れてるからいがみ合う体力もねえや、みんなおつかれ!という境地に観客を連れて行ってくれる、心洗われるような一本。大好きです。

 

 

 

7位:『永い言い訳

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「空っぽな人間」だからなんだってんだ。誰かにとっちゃどうでもいい。そんな誰かに触れることで、義務めいた雑念なんて一蹴できるかもしれない。そこから始まる何かがあるかもしれない。身につけた自己嫌悪なんて脱ぎ捨てて、いまそこにいる人たちと生きてみようと思えてくる一本。

 

 

 

6位:『ドント・ブリーズ』

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これを作ったことがもうかっこいい。そう思わせてくれる映画が今年は何本かありました。本作もそのなかのひとつ。 与え楽しませるのも技術で、その技術がスマートでありながらも、時に身の毛もよだつような逸脱まで見せてくれるのであれば文句なしでしょ。ということで最高に楽しんだ一本。超キモかった。

 

 

5位:『映画 聲の形』

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原作漫画にいたく感動した身としては映画『たまこラブストーリー』 を撮った山田尚子が監督を務めるという前情報で期待を大きくしていたのですが、いやあ、良かったですね。めちゃくちゃ居た堪れなくて。鑑賞時、とんでもなくささくれだった気分だったのに、気がつきゃ夜の池袋をズンズン歩いていました。僕も落ちていく誰かに手を出す勇気がほしいし、落下する僕を見てそう思う誰かがいてくれたらどれだけいいかとも思う。

 

 

4位:『アイ アム ア ヒーロー』 

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 漫画原作が完結していないのに映画化なんて尻切れトンボになるか続編つくるかのどっちかじゃん……と思って鑑賞したところ、非常にガッツ溢れる傑作でした。タイトルにテーマを絞るという英断。僕らの見知った「日常」の崩壊。なかなか火を吹かない猟銃。大泉洋の背中の眩しさ。なめててごめんなさい。最高でした。

 

 

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これも『ドント・ブリーズ』と同じで、物語の中身もさることながら、これを創りあげ、世に出したことそのもののかっこよさを感じた一本。当時の世界を描き、笑って怒って泣いて笑う。そんな日々の営みすべてに慈しみを持って触れたような感覚。膨大な情報なのに、圧があるのに、ずっと優しいままのその佇まいは畏敬の念を覚えるほど。能年玲奈の演技も含めてあまりにもたくましい映画だと思います。 

 

 

2位:『デッドプール

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不謹慎なふるまいもたまにすべる軽口もすべてがいじらしい。僕は誰よりも照れ屋なデッドプールが大好きだ。 好きな人と好きなところで幸せになってほしい。いや、なるべきだ。邪魔する奴はひとり残らずぶっ殺せ!

 

 

1位:『ボーダーライン』

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 私利私欲と際限のない暴力がひとつの機関となって回り続ける麻薬ビジネス。その渦中に放り込まれたFBI捜査官の視点で描く「狼」どもの世界。めそめそ泣こうが誰も相手にしない殺伐と、美しい撮影、わかりやすいのに重厚な演出など、ゾクゾクがおさまらない強烈な一本。ベネチオ・デル・トロの暗くて深いあの瞳が、銃口のようにこちらに向けられていて、ずっと気が気じゃなかった。

 

 

 

いろんな賞

 

【ベストガイ賞】

『映画 聲の形』より

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永束友宏(CV.小野賢章 

出てくるだけでもう泣きそうになります。『シークレット・サンシャイン』ソン・ガンホもそうですけど、無邪気でちょっと鬱陶しいけど、それでもそばにいてくれる誰かって最高ですね。

 

 

 

【ベストガール賞】

 

セーラー服と機関銃-卒業-』より

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星泉(橋本環奈)

 

 

この世界の片隅に』より

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浦野すず⇒北條すず(能年玲奈⇒のん) 

 

細かいことは下に貼った過去記事でも述べているのですが、ベストガールに選出させていただきましたこのお二方、実を言うと「まあまあやれてたらそれでいいかな」というどうしようもなく失礼な態度で臨んでしまったキャラクターでもありました。でも!バカが!演じる彼女らのポテンシャルを見誤った自分の薄汚い心に蹴りを入れ、この場で心より感謝の気持ちを伝えたいと思います。橋本環奈はその勝気な性格をうまく取り入れ、薬師丸ひろ子版とは一味違う星泉を演じきっていました。そしてのんこと能年玲奈も、キャラクターのちょっとした感情の機微まで大切にすくい取り、「ぼーっとしている子」の胸の内まで見事表現しきっていて打ちのめされてしまいました。本当にありがとう。ふたりとも来年も大暴れしてくれ。

 

sakamoto-the-barbarian.hatenablog.com

 

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【ベストビッチ賞】

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デイジー・ドメルグ(ジェニファー・ジェイソン・リー 

ジェニファー・ジェイソン・リーってほうれい線と顎の突き出し方がたまらないですね。騒ぐたびぶん殴られる、というシーンでも悲壮感がない、最後まで憎たらしいキュートな役でした。

 

 

 

【ベストタンクトップ賞】

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この肩幅と二の腕!

 

 

 

【ベスト無職賞】

『オーバー・フェンス』より

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白岩義男(オダギリジョー

函館で失業保険を頼りながら職業訓練校に通う男。なにもない部屋。ビール2缶とコンビニ弁当。地味な色のポロシャツ。夏の函館を彷徨うその姿は、どうしてあんなにも色っぽいのでしょうか。なめた態度の若いおねえちゃんたちに静かにキレる場面もグッときます。僕も夏の函館で無職として過ごしたい。そんな憧れを抱かせてくれました。函館いきてえ。

 

 

 

【どうしようもないクズ賞】

軽薄で卑怯で欲望に従順な虎の威を借る大馬鹿野郎。目の当たりにした「暴力」に興奮したこいつが商店街で暴れだすシークエンスでは不快度が天を突くようでした。しかも下の下としか言いようのないあんな行為まで……。それにしても樋口毅宏『テロルのすべて』 でもそうだったけど、キャラクターの大衆的浅薄さを表現するアイテムとして『ONE PIECE』 を使うという手法がここでも見られましたね。13巻でルフィがギャグとしてゾロを殺しかけるまではめっちゃ面白かったよ……。

 

 

 

【ベスト有村架純賞】

アイアム ア ヒーロー』より 

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早狩比呂美

にゃーん!

 

 

 

【ワースト有村架純賞】

『何者』より

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田名部瑞月

ベストの『アイアムアヒーロー』とワーストの『何者』ですが、有村架純の使い方で言えば「別にどちらも似たような感じだった」と思う方もいらっしゃるかもしれません。ぜんぜんちげえよ!個人的な所感として『アイアムアヒーロー』の場合、作り手が有村架純になにをさせたいか、なにをさせたら楽しいかを試みていた感じがあったので、観ていてたいへん気持ちよかったです。なんだかよくわからない「正しさ」を担わせる道具としての、がらんどうな有村架純なんて観たくありません。猫パンチで『ロボコップ3』 の忍者ロボットみたくさせてやる!

 

 

 

【ベストエンディング賞】

『貞子vs伽椰子』

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あの切れ味。劇場からは自然と笑いが沸き起こり、みな爽やかな気分で席を立つことができました。聖飢魔Ⅱの『呪いのシャ・ナ・ナ・ナ』も最高。

 

 

 

 【皆殺し賞】

アイアム ア ヒーロー』の地下駐車場

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守ることを決意する場面だけではよしとせず、「守り抜く」その過程を気の遠くなるような発砲、リロードで描ききった姿勢に感動。飛び散る血しぶきがこれまた景気よくとても良かったです。

 

 

 

【ベスト楽曲賞】

『貞子vs伽椰子』より

聖飢魔Ⅱ『呪いのシャ・ナ・ナ・ナ』

www.youtube.com

あの爽やかな余韻に一役買っている名曲。

 

 

デッドプール』より

DMX『X Gon' Give It To Ya』

www.youtube.com

笑っちゃうくらい過剰なオラオラ感がデッドプールのチョイスっぽくていいですね。

 

 

この世界の片隅に』より

コトリンゴの楽曲全部

www.youtube.com

映画の血肉となる素晴らしさだったと思います。

 

 

『何者』より

中田ヤスタカ『NANIMONO(feat.米津玄師)』

www.youtube.com

げー!『何者』っぽいな〜!という感じがちゃんとしていて良いと思います。

 

 

 

 

【ベストガン賞】

 

アイアムアヒーロー』の猟銃

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悪の教典』に続いて物語を加速させる装置としての猟銃メソッドを活用した新たなる傑作が生まれました。こちらの相手はゾンビなので、その威力を過剰なまでの弾着効果で表現してくれていたのでたまりません。 

 

 

『ボーダーライン』のアサルトライフル

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アサルトライフルが怖い映画は傑作」というセオリーがあるのですが、たまにサブマシンガンと大差ないような描き方をしている映画が出てくるとモヤモヤします。 『ボーダーライン』のアサルトライフルはしっかり命を奪う道具としての鋭利さを損なわない演出がなされていました。怖いですね〜。

 

 

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 薬莢に「50AE」と刻印されてあったので50口径のデザートイーグルっぽいです。パワー系ですね。これを好んで2丁使うあたりもヒーローものの醍醐味を感じます。

 

 

『COP CAR コップ・カー』のアレ

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UZI系列のなにかだろうと思っていたのですが、こういう空砲銃らしいです。 悪くないですね。

 

 

 

 


 

 

 

【2016年ワースト映画】

膨れに膨れ上がっていた期待値とのギャップにぶん殴られた一本。登場人物同士のやり取りも繰り広げられるアクションも「え!」というくらい心弾まなかったです。自分は映画を観ながら感じる「もったいない」という感情に耐えられないんだなという自己覚知を得られました。スリップノットは面白かったです。 

 

 

 

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洒落臭さにくじけた一本。柳楽優弥はとても良かったのだけど、演じるあのキャラクターや物語がぜんぜん魅力的に思えなくて、映画内のテンションが高まるにつれ、自分の感情とみるみる乖離していくのが寂しかったです。こういう話だとどうしても『ザ・ワールド・イズ・マイン』を連想してしまって、割り切るべきなんでしょうが比較をする自分がいました。一言で言っちゃえば菅田将暉のこともちゃんと殴ってほしかった。その一方で菅田将暉はとても良かったですね。本当にそういう人間に見えてきました。

 

 

 


 

 

2016年も多くの映画に出会いました。はっきりいって観た本数で言えば去年や一昨年よりも下だとは思いますが、それでも充分いい映画ばかり観たなあといった感慨でいっぱいです。また新しい年が始まります。何を楽しむにも一定の余裕というものが必要なので、それを維持・向上させつつ、やれアクションがかっこいいだの俳優が好みだのをこれからも言い続けていけたらなと思っております。

 

それではみなさん、良いお年を!

 

 

 

 

 去年のベスト10です ↓

sakamoto-the-barbarian.hatenablog.com

 

一昨年のベスト10です ↓

sakamoto-the-barbarian.hatenablog.com

 

 

 

 

何が欲しいのかを忘れないために記す

 

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貧乏はするもんじゃねえ。味わうもんだ。

五代目古今亭志ん生

 

 

2016年も残すところあと半月未満。みなさまいかがおすごしですか。ご機嫌はいかがでしょうか。僕はすこぶる悪いです。慢性的なお金のなさにどう立ち向かうかを考えているからです。「節約」や「我慢」が真っ先に浮かんできますが、それがもう情けない。「手に入れる」方に思考が向かわないのかと、自分が嫌になります。ということで、そんな自分を鼓舞するためにも、何が欲しいのかをリストアップすることにしました。やる気が萎れてきた時などに、この記事を振り返ることで気持ちを維持できるかもしれない。そんな期待があるのです。

 

ほしいものリスト

 

・冷蔵庫

部屋にありません。冬場なのでまあいいかと思ってはいますが、あると便利だとも思います。

 

・電子レンジ

これも部屋にありません。あると便利ですよね。

 

・ガスコンロ

これもありません。現在は代用品として電気鍋で調理をしていますが、よくブレーカーが落ちます。

 

・深剃りのできる電気シェーバー

髭が濃いのでほぼ毎日剃りたいところなのですが、冬の朝にカミソリで肌を削る日々にいくばくかの苦痛を覚え始めてしまいました。髭が濃いのが悪いのか、貧乏が悪いのか。この世界が悪いのです。

 

・テレビのリモコン

まったく反応しないやつならあります。反応するものがあると便利だからです。

 

・新しいメガネ

左右の視力に差があるので、左右でレンズの厚さが違うメガネをかけています。レンズの厚さを同じにするにはお金が必要だと言われたので、いつの日か、左右のレンズが同じ厚さのかっこいいメガネを調達したいです。フレームの太い大学生や日焼けした起業家のようなメガネは嫌なので、すっきりしたフレームの大人っぽいものだと、よりいいですね。

 

・GUのチェスターコート

GUじゃなくてもいいのですが、GUのチェスターコートが安かったからです。

 

・新しい靴

雨の日には、底の方から水が入ってくるからです。

 

・新しいパソコン

USBの差し込み口がなんの反応もみせなくなったので、スマホ内データのバックアップにも使えません。大学時代からの愛用品なので、キーボードの使い心地は最高です。

 

・新しいスマホ

iPhone5Cを使用していますが、画面が激しく損傷し、電池のもちもとても悪いです。寒い日などは、使用中に落ちることも増えてきました。

 

・腕時計

スマホあるからいいか」と思っていたのですが、スマホの画面が割れています。

 

・ソファー

あればいいなとたまに思います。

 

・本棚

そもそもあまり本を持っていないので必要がないといえばないのですが、ほしいです。

 

・いい香りのする芳香剤

いい香りのするものが好きだからです。

 

・自信

むかし持ってたような気もするのに、どこを探しても見当たらないからです。

 

・ギャツビーのヘアジャム

最近切らしたからです。ワックスより伸ばしやすいので気に入っています。

 

・『のん、呉へ。2泊3日の旅』

この世界の片隅に』での彼女の演技にいたく感動したこともあって、ぜひ読みたいですね。

 

・HK45 18歳以上用ガスブローバック

 近所の公園に青姦カップルが出没するのです。

 

・HK416Cカスタム 18歳以上次世代電動ガン

必要だからです。

 

 

 

 ざっと思いつくままに列記してみました。細かく計算はしていないのですが、100万円ほどあればすべて揃えることができると踏んでおります。100万円あればほしいものを揃えるだけじゃなく、久しぶりに友人らと会い、お酒を飲んだりすることもできそうですね。そんな日々はきっと、とても楽しいものだと思います。

 

 では、いったいどういったことを為せば100万円を手に入れることができるのでしょう。思い立った僕はいろいろと調べることにしました。手に入れる方法まで書いて初めて、上記の品々が「夢」ではなく「目標」になるのだと思います。以下、みなさまも参考までに。

 

 

100万円を手に入れる方法

 

太宰治賞を受賞する

太宰治賞

賞金100万円がもらえます。

 

北日本文学賞を受賞する

北日本新聞ウェブ[webun]:第50回北日本文学賞

賞金100万円がもらえます。

 

・九州佐さが大衆文学賞を受賞する

佐賀新聞ニュース/The Saga Shimbun :九州さが大衆文学賞

賞金100万円がもらえます。

 

・伊豆文学賞を受賞する

静岡県/しずおか文化のページ/伊豆文学フェスティバル/第19回伊豆文学賞募集要項

賞金100万円がもらえます。

 

・内田百聞文学賞を受賞する

岡山県郷土文化財団|内田百閒文学賞

賞金100万円がもらえます。

 

・やまなし文学賞を受賞する

やまなし文学賞 | 山梨県立文学館 | YAMANASHI PREFECTURAL MUSEUM of LITERATURE

賞金100万円がもらえます。

 

林芙美子文学賞を受賞する

第3回林芙美子文学賞募集要項 : 北九州市立文学館

賞金100万円がもらえます。

 

・北区内田康夫ミステリー文学賞を受賞する

募集要項|東京都北区

賞金100万円がもらえます。

 

・ちよだ文学賞を受賞する

千代田区ホームページ - 第12回ちよだ文学賞募集の概要

賞金100万円がもらえます。

 

文學界新人賞、群像新人文学賞新潮新人賞のうち、ふたつを受賞する

文藝春秋|雑誌|文學界_文學界新人賞原稿募集

群像

新潮新人賞 | 新潮社

三つとも賞金が50万円の文学賞なので、このうちふたつを受賞すれば100万円が手に入ります。

 

 

 

簡単にいくつかを挙げてみましたが、世の中にはまだまだたくさん100万円を手に入れる方法があります。これらを参考にしながら、より快適な生活環境を整えていけたらいいですね。そのためにも過去に蹴りを入れ、まだ見ぬ未来の胸ぐらを掴め。腹を空かせた猛虎の瞳。見えない膜を切り裂き、開け。眩い腸で暖をとるべし。