MidnightInvincibleChildren

Where is my mind? Here!

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※今回の内容には映画『ノック・ノック』のネタバレが含まれております

 

 

 

心に不安の種があると映画や小説をうまく咀嚼できない、ということはこれまでにも何度も言ってきたのだけど、僕はもうここ数年ずっとそれだ。頭も感情も物語についていけないまま、一向に良くならない。それでも観たいし読みたい。なんなら自分でも考えたりしたい。なのにうまくいかない。注意も散漫でジッとしていられない。どうしようもない。

 

 

 

 

 

 

去る土曜にオフ会をした。サシ飲みだった。メインで使用しているTwitterアカウントを作ってかれこれ5年経つが、その方のことは初期からフォローしていたので、Twitter上での付き合いも5年ということになる。雨の赤羽で落ち合った僕らは、そのまま駅前の鳥貴族に入った。いい感じの店を開拓するのもアリだけど、なんかちょっと怖いからとの理由が一致したのだった。サシ飲みという状況に緊張しながらも、結局その夜は5時間も飲んだ。ダイエットを始めたての僕は久しぶりにビールを飲み、いい気分で帰宅。帰りの電車を間違えた。

 

 

つい先日『ノック・ノック』を観た。「家族思いのよきパパ」であるキアヌ・リーヴスが、ひとり過ごしていた雨の夜に突然現れた見知らぬ若い女二人といろいろあって3Pしてしまう。翌朝目が覚めると台所を散らかしながらはしゃぐ二人の女。彼女たちは帰る素振りを一向に見せず、彼の生活を蝕んでいく……という話だ。

 

 

サシ飲みしたその方は、Twitterで「怨念マン」と名乗っており、誰もが胸のうちに抱きつつもその表出を躊躇しがちな言葉を真摯に吐き出し続けている。その揺るぎなき一貫性。筋の通った方に違いないと思っていた。会って早々、怨念マンさんは鞄から袋を取り出した。「もうお持ちでしたら申し訳ないんですけど」と彼が差し出してくれたのは一冊のアメコミ。

え!!!

僕は愕然とした。それは『パニッシャー MAX:ビギニング』の邦訳本だったのだ。

  

 

アメコミヒーローの中でパニッシャーが一番好きな僕は、この邦訳本も必ず買おうと決意したまま、なにもせず漫然と日々を過ごしていたのだ。忘れたころに、まさかこのような形で手に入れられるとは思ってもみなかった。完璧なタイミング、完璧なチョイス。身震いした。自分はいまとんでもない男と対面している。鞄の中に財布とレシートとゴミしか入っていない自分が恥ずかしかった。

 

 

『ノック・ノック』を観終わった僕は、手元にあるメモを見返してみた。冒頭でも書いたように僕はここ数年物語に集中することが非常に難しい状態なのだけど、せめて映画から受けた着想をメモしようと、ノートとペンを傍らにおいて鑑賞している。趣味である創作活動にも役立てたいからだ。そのノートには「うるさい」「死ね」「はやく終われ」の文字が何重にも書き殴られていた。

 

 

怨念マンさんとは簡単な身の上話から映画、アメコミ、学生時代のちょっとエモい話などをした。エモい話というのは、その対象への隠しようのない憧憬が必須なのだけど、僕と怨念マンさんの「そうあってほしかった学生生活」と「振り返ってみれば意外と輝いて見えるあの一瞬」観が一致したのかもしれない。僕は人の学生生活の思い出話を聞いて胸をキュッとさせるミュータントなので、しみじみその時間に耳を潜めた。私服でニーハイを履く女はヴィランだし、友人の活躍はちゃんと嬉しいのである。

 

 

『ノック・ノック』を許せない。我が胸の裡にヒエッ、と思いつつも、僕はまだイライラしていて、口元を何度も手で拭った。うっすら髭が生えてきていた。ちょうどむしゃくしゃしていた時期だったことも影響しているのかもしれない。いや、そもそもちっとも趣味じゃない。よりにもよってなんでこんな気分にならなければならないんだ。

 

 

怨念マンさんは、僕がネットにあげている自作小説を褒めてくれた。読んでくれていたのだ。まあまあ長いのもあるに……。そのときの僕はなぜ人が醜い行いに手を染めてまで偉くなりたがるのか、その片鱗をみた気がした。褒めてほしいのだ。承認欲求という言葉が選別なく蔑視されつつある昨今、日頃の生活で小銭のように承認を貯めていけるのであれば僕だって小説を書きこそすれども、ネットに上げるようなことはしなかったはずだ。イレギュラーな方法じゃなきゃ得られそうもないからそう選択したのだ。そんな僕のへの温かなレスポンスに出会え、心から嬉しかった。

 

 

なにが一番不愉快だったかを考えたとき、ルイスの件は絶対に見過ごせない。過去に訳あり的なほのめかしも鬱陶しい。あいつらはいじめっこだ。村上龍の小説『半島を出よ』 で、福岡を占拠した北朝鮮のコマンドに対しイシハラが堂々と宣言した言葉が脳裏をよぎる。こいつらは敵だ。

 

 

怨念マンさんにいただいた『パニッシャー MAX:ビギニング』を読んだ。年老いパニッシャーを政府が暗殺者としてスカウトするという物語だ。僕の愛してやまない映画『パニッシャー:ウォー・ゾーン』に大きな影響を与えているという情報は得ていたが、序盤のパーティー襲撃や、鉄柵に突き刺した敵を真上から踏み抜くという暴力描写まで引用されていた。燃え尽きることのない怒りに囚われた男フランク・キャッスルの向かうところはすべてが阿修羅道。だから彼は先に言う。「逃げろ」。痺れるぜ。

 

 

僕は『ノック・ノック』に言ってやりたい。「逃げろ」。悔しかったのでマイリストから速攻で削除してやったぜ。この怒りを糧になにか楽しいことをしてやる。絶対にしてやるぞ。僕はいま泣いているのです。どうしたらいい?どうすれば。まず泣き止むべきだ。それからなにかを食べるべきだ。しっかり睡眠もとる。暖かくする。運動をする。清潔でいる。それでもだめなら相談する。どの策も怠るな。敵は多い。尽きることもない。

 

 

怨念マンさんとの飲み会はとても楽しかった。精神衛生の向上をハッキリ覚えた。彼だってままならない日々を生きているのだ。しんどい現実をひとりじっと見つめるのはよくない。劇場で観る映画のように、他者の気配に助けられることもあるのだと思う。それを忘れないように、ここに書いておく。背景タイラー・ダーデン様。僕はジャックの『ノック・ノック』に激怒し、無様な人生の継続を誓った灰色の脳です。

 

 

 

 

 

P.S.

現在構想中の短編は「クラウドファンディング池松壮亮をぶっ飛ばす映画の制作費を集める中条あやみファン」の話です!よろしくお願いします!

 

 

 

note.mu

 

 

 

 

埼玉のいいところ

 

 

 

 

 

『埼玉のいいところ』

Lyrics:MCバー坂

 

 

 

 

 

うるせえ馬鹿 海ねえからなんだ 東京までだいたい電車一本

池袋もほぼレペゼン埼玉 東上線 埼京線 関根元

どんどんアゲていこうぜレートにテンポ 御託はもう十分だろ

飲み込むバイブス やばい名産物 一都五県 南無阿弥陀仏

 

 

埼玉いいとこ 家賃安い

埼玉いいとこ 晴れ多い

埼玉いいとこ 一部都会

埼玉いいとこ 挙げろ今すぐ

 

 

まゆゆぱるるこじはるにみおりん ももクロにいるプリティな緑

スタダつながりエビ中のぁぃぁぃ スパガの巨乳浅川の梨奈ぴ

同じく巨乳で女優の夏菜 彼女の生まれたしかあそこ戸田

脚の長さじゃスバリ菜々緒だ 新川優愛も後を追うそうだ 

加藤で言えばシルビアに綾子 みな実に裕子は芸人が好き

竹内結子ミムラ海荷 まだまだ尽きない美女のメッカ

だけどもう 弾切れだ これ以上は もう無理だ

夏は暑いしヤンキー多い 『スーサイド・スクワッド』舞台は埼玉

 

 

埼玉いいとこ ほぼ東京

埼玉いいとこ ニッカボッカ

穿いた男挨拶を無視

MA-1 肩にかけるヤリマン

 

 

無理に褒めることがマジで不毛 遊びに行くより住む専用

心霊スポットマジ多い ワンボックスカー改造マジ多い

火事多い、かは統計を調べろ 無責任発言炎上のもとだろ

星野源とかも生まれてる 風間ゆみは乳揉まれてる

 

 

群馬は都丸紗也華がいる

千葉には桐谷美玲いる

茨城磯山さやかいる

栃木はあいつだ手島優

神奈川はもはや挙げきれねえ

埼玉 マジで愛してる

埼玉 これからもよろしくね

どこまでも続く彩の国

その奥に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

我がS極たち

 

 

三連休を利用して沖縄に帰ることになったのは良いものの、スタンリー・キューブリック恩田陸や大学時代にブログを愛読していた風俗嬢がそうであるように、僕も飛行機が苦手なのでした。風俗嬢も同じ理由を書いていたが、根本的に鉄の塊を信用していないからだと思う。同じ理由から絶叫マシンも嫌いで、たとえ事故の起こる確立がかなり低いものだとしても、自分はその確率の低い事象にからまれるような人間だと思っている。だから帰省のたびにいくらかの緊張を覚えてしまう。

緊張対策として、僕は飛行機にのる際は必ず音楽を用意するようにしていた。個人的にはあの巨大な鉄の塊が轟音を立てて加速し地面から浮遊する離陸時のバイブスが特に苦手なので、そのタイミングに合わせて音楽を聴き、気分をごまかすようにしている。今回、成田発沖縄行きの飛行機の離陸時に僕が再生したのはカニエ・ウェストの『パワー』だった。

 

Netflixでダウンロードしておいた『ボーダーライン』を鑑賞し、二本目の『ヒーロー・ネバー・ダイ』鑑賞中に那覇空港に到着した。1年ぶりの沖縄は夜の9時過ぎ。関東はすでに朝夕と冬のような気温を見せる日もあるというのに、ここはまだまだ夏。湿度も高いので空気がまとわりつくようでうざい。でもいくらか気持ちは緩んでくる。このうざさにはどこか浮ついたものも感じる。久々の実家に着いて早々、物置と化している部屋に荷物を置いてくたびれた布団で寝た。めちゃくちゃ暑かったのでクーラーを付けて寝た。実家で過ごす夏のイメージは、クーラーから漂うほのかなカビ臭さに凝縮されている気がした。

 

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翌日になると今度は弟が帰省したので、父親と一緒に空港まで迎えに行き、帰りに沖縄そばを食べた。僕と弟は父と別れ、祖父母に顔を見せてこようとドライブすることになった。車の中でBAD HOPの『MOB LIFE』を流しながら、『フリースタイルダンジョン』の晋平太戦におけるパフォーマンス並びにその後ラジオでの弁解までを含めたT-Pablowの悪口で盛り上がった。

 

祖父は耳が遠いので補聴器をつけている。おしゃべりな祖母の悪口が嫌いなので、けっこうな頻度で聞こえないふりをするという『レボリューショナリー・ロード』のようなテクを見ることができる。夏頃はあまり元気がなかったと聞いていたので心配していたが、ここ最近はまた盛り返してきているとのこと。一緒に行った居酒屋でも出てくる品々を次々と平らげていた。88歳の食欲に負けじと僕と弟も出された料理を食べまくった。後ろのテーブルではその店の小学生の娘がもやしのひげ根をとっていた。

 

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僕はこの帰省で初めて姪っ子と対面した。兄はこの春先に父になっていたのだ。眉毛が驚くほど太いその子は、その大きな目に映るものをなんでも凝視した。抱っこされながらも必ず外側を向きたがるので、どさくさに紛れて僕が抱きかかえたところで気づかれなかった。感動したので、たくさん写真を撮った。兄たちが帰ったあとに見返してみても、とにかく眉毛が太かった。

 

昼寝しているあいだに叔母がやってきて母とだべり始めたので挨拶をすると「太ったね」と笑われ、太っている従兄に似ているとまで言われた。これとまったく同じことを前日に母方の祖母にも言われていたので、寝起きの僕は大変に気分を害し、海まで歩くことにした。ラジオクラウド爆笑問題・田中とハライチ岩井が猫についてトークするだけの番組を聴きながらさとうきび畑の間を縫って海まで降りていく。日は沈みかけていたし、僕は便意に襲われていたので、観光施設に立ち寄って排便。地平線に沈む夕日を眺めていると、特別楽しい訳でもないのに楽しいような気持ちになった。

 

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僕は確実に太っていた。祖父のお祝いのため久々にスーツを着たところ、ズボンがあまりにもきつすぎて吐きそうになったのだ。でもそんなことはどうでもよくて、祖父のお祝いは和気藹々と進められた。また姪っ子と対面できたので、その点でも心がウキウキする。僕たち兄弟は賑やかしを頼まれたので、それに応えるかたちでカラオケを歌ったり、祖父へのメッセージを述べたりした。最後にはお祝いの締めとして、みんなでカチャーシーを踊ることになった。沖縄を出てからのほうが、こういう沖縄っぽい流れをすんなり受け入れられるようになった気がする。その日は普段あまり踊りたがらないシャイな祖父も自ら立ち上がって踊っていたので、お祝いが無事成功したことを実感した。帰りはみんなで祖父の家により、オリオンビールを飲んでダラダラしてから解散した。母の運転する車でシーサイドレストランに寄り、ハンバーガーを買って食べた。

  

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三連休はあっという間に終わる。留学帰りの弟は留学先で「アニメのイントネーションってやっぱり変だよね?」と言われ『ONE PIECE』のゾロとサンジの声真似をしたらウケたという話をした。そんな彼は僕よりも一日はやく沖縄を出た。僕は僕で部屋に置きっぱなしにしていた小説や漫画を持ち帰ろうと段ボール箱に詰めていく。ふと机の一番下の引き出しに入れっぱなしにしておいたAVも回収しておかなければと思い、一年ぶりに引き出しを開ける。するとそこには僕のAVが綺麗に並んで収められていた。つぼみのDVDはCDでいうところの星野源の『恋』みたいなものだからしょうがないにしても、北原夏美のドラマ仕立てAVを家族の誰かに見られたという事実は、一応覚悟はしていたこととはいえなかなかの心許なさで手が震えた。段ボール箱ふたつ分の荷物をコンビニから送った僕は行き先も決めずにドライブをする。なにか映画でも観ようかなと思って我が青春の詰まった町・北谷町美浜に行ってみたけれど、沖縄市に一昨年出来たイオンライカムに客を取られたと思しきその寂れ方に痛いほどの寂寥感を覚えた僕はなにも観ずに帰った。心がS極に引っ張られているのを感じた。

 

目に映るあれこれが僕の心をつかんで離さなくなる不安定な精神状態のとき、僕はそのあれこれのことを「S極」と思いこむ癖があった。それは大学進学前、残された時間を満喫しようと友達と毎日ドライブをしていたころにも陥った状態だった。「S極」はつまり人や物や景色を通して見えてくる「何かの終わる予感」なのだと思う。たった数日いただけで?と混乱した僕は家に戻ってFMラジオを聴きながらソファーに寝込んでしまった。するとラジオからはアンジェラアキの『手紙~背景 十五の君へ~』が流れてきた。高校の卒業式では、卒業生全員でこの曲を歌った。「もう18歳だけどな」と思いながら歌ったことをよく覚えている。式で僕の隣に座っていたのは学年のミス1位に選ばれたクラスメイトの女子で、全然話したことなかったけど最後の最後に「こいつ歌下手だな」と思われたくないと思って一生懸命歌った。なんだか「一生懸命歌った」という文章からは、綺麗な歌声は聞こえてこない気がする。とにかくそんなことを思い出してまた哀しくなった。同じ制服を着て、体育館に並んで、電車もない田舎で、畑ばっかりで、そんなところで18年!胸のうちのN極がバグりそうだった。

 

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そんなこんなで僕は強烈に小説を書きたいと思った。かつて沖縄を舞台に書いた『マザファッカーズ・リユニオン』という小説に不足していることを自覚しつつも、うまくつかむことのできなかった要素が僕の中に蓄積しつつあるように感じたのだ。群像か新潮の一次選考も通過しなかった拙作で、思い入れが強すぎるあまりコントロールできなかった不細工な作品だ。距離が必要だったのだと思う。そして今回も結局、距離をとるために時間に頼ってしまった。もうずいぶんといろんな時間が流れてしまっていた。焦るというより、機が熟したのだと思いたい。のんきに太っている場合ではないのだ。

 

 

 

帰る日の朝、母親が早くからクッキーを焼いてくれた。僕はそれを手に飛行機に乗り込んだ。離陸時のBGMはM.O.P.の『Ante Up』。ぜんぶ帳消しにする。

 

youtu.be

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自宅鑑賞映画(2017年9月編)

 
 
 
 
『ネイキッド』(9/2)

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Netflixで鑑賞。結婚式当日の1日を全裸スタートで何度も繰り返す新郎版『恋はデジャ・ブ』。「どう式場まで駆けつけるか」から「なぜ自分は全裸なのか」に目的が移っていくのも楽しい。ただ女性器に関するあるネタで、いたたまれない気持ちになった。もっと優しくしてほしい。
 
 
 
『ソウ ザ・ファイナル』(9/3)

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Netflixで鑑賞。話やオチはまあ何でもありな感じなので特に感動はないけど、ホフマンが超むかつくくせに万能でうんざり。このシリーズは一番腹立たしいやつほど万能で長生き。それはさておき、ネオナチが4人同時に試されるゲームのシーンが一番面白い。もうめちゃくちゃ。
 
 
 
ザ・ガンマン』(9/4)

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Netflixで鑑賞。大好きピエール・モレル監督作。劇場公開時にけっこうな不評を耳にしていたのだけど、ショーン・ペンのバキバキの肉体、グロック18、破片の恐怖をしっかり描写する爆発シーンなど、アクションへのフェティッシュさで最後まで楽しみました。でも部屋でダラダラ見るのに適している感じはある。マーク・ライランスは偉い。ピエール・モレルの次作も楽しみ。

 

 

 

ピクセル』(9/6)

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Netflixで鑑賞。ギャグの対象年齢が低いのか高いのかブレを感じてしまうのはまあしょうがないと思う。まあまあ面白かったです。いや、悪くなかったです。

 

 

 

『愚行録』(9/6)

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レンタルDVDで鑑賞。人と接する際に訪れる嫌な瞬間の切り取りと、そこに向けられた妻夫木聡の虚無の滲む笑みがたまらない。「悪い東京の大学生」映画としても最高。なにより小出恵介演じる男が、個人的なある知人に何から何までそっくりだったので、彼のシーンでは瞬間最大風速的に感動してしまいました。個人的にはあのキャラクターを描いただけでもう勝ち。満島ひかりの細くて長い指が気持ち悪く蠢く場面も忘れがたい。イヤミスらしいあんまりなオチもほどよくて、そのほどよさが僕は好き。もっとエグく見せても当然いいけど、この塩梅も悪く無い。

 

 

 

サウスパーク/無修正映画版』(9/8)

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Amazonプライムビデオで鑑賞。子供に悪影響なコメディアンをめぐってアメリカとカナダが戦争する……楽しい!フセインにセフレ扱いされているサタンがこれまた良いキャラで泣ける。

 

 

 

スポットライト 世紀のスクープ』(9/14)

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レンタルDVDで鑑賞。このちょっと前にヴァーホーベンの『エル/ELLE』を観たことからカトリックがテーマとして扱われる映画を観たいと思ったのがきっかけ。幕引きシーンとエンドロールに示される町の名前一覧に絶句。途中出てくる虐待神父の「あ……これは……」といった雰囲気などからも感じたけど、世界規模の宗派かつ信仰による絶対的な関係性が成り立つ場で暴力的な支配が生まれないわけがない。そんなシステムへの絶望が浮かび上がる中、自らのできる範囲で真摯に真実を追い求めていく登場人物たちの姿勢には感動。フィクションじゃないぶん胸糞も悪いが、『セブン』のラストでサマセットがつぶやいたセリフのような気持ちにもなる。

 

 

 

『ルーム ROOM』(9/15)

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レンタルBlu-rayで鑑賞。トラックの荷台から見上げる「薄曇りの空」にこれだけ衝撃を受けるとは。本編はいたるところに「ああ、そりゃそうだよな」と思わせるシーンが散りばめられている。内容が内容だけに見ている間本当に気が滅入ってしまい、だからこそ母を見つめる子の視線にすがりたくなった。ラストシーンで「部屋」に感じる印象の変化も秀逸。と同時にこういう事件が今もどこかで起こっているのかもと考えて気が張ってくる。ちなみに脱出後に会話する警官がしっかり有能に描かれている点も超いいですね。

 

 

 

 『あなたを抱きしめる日まで』(9/16)

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Netflixで鑑賞。こちらもカトリック教会の悪行隠蔽体質を暴いた実話がモデル。ラストでシスターの吐く言葉があまりにも虚しいのと、それでも信仰に則って言葉を返したジュディ・ディンチが痛烈。この内容でいてめちゃくちゃテンポが良いのも嬉しくて、取材を引き受けるかどうかの葛藤を五秒くらいでサラッと描いたのは画期的。気難しいジャーナリストとわかってないようでいてわかっているおばあちゃんのコンビものとしても楽しい。生き別れた息子役の俳優さんの顔がまたよくて、見ているだけで泣けてくる。

 

 

 

ベルファスト71』(9/17)

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Netflixで鑑賞。IRAが潜伏する町へパトロールに赴いた軍隊の新兵がたったひとり取り残される話。暴力の即物的な感じが良い。なにより工作員役のショーン・ハリスの顔面力。目が真っ黒。これを機に北アイルランドの歴史やIRAのことを遅ればせながら勉強しています。

 

 

 

『ミッドナイト・スペシャル』(9/20)

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Netflixで鑑賞。超能力を持った息子をカルト教会や政府から守るというかぐや姫みたいな話。マイケル・シャノンのラストの表情にやられた。

 

 

 

『エイリアン』(9/25)

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レンタルDVDで鑑賞。『プロメテウス』観るつもりだったけど再生できないディスクを借りてしまったので。小さい頃から銃とかエイリアンの造形とかが大好きだったんだけど、いまでもチンチンっぽいものはだいたい大好きです。

 

 

 

ブレードランナー』(9/27)

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 レンタルBlu-rayで鑑賞。ディレクターズカット版のラストの切れ味が好きだけど、劇場公開版も映画に入っていきやすくて好き。

 

 

 

 以上13本!

 

 

落書き犯はだれだ?/『ハノーバー高校 落書き事件簿』

 

Netflixで『ハノーバー高校 落書き事件簿』を観た。全8話ほぼイッキ見だった。

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白昼の落書き事件

それは2016年3月15日に起こった。

ハノーバー高校の教職員用駐車スペースに停められた車27台に、スプレーによる卑猥な落書き(ペニス27本!)が描かれていた。

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学校側は事件の翌日、最上級生のディラン・マクスウェルを呼び出し話を聞く。

 

 

容疑者ディラン・マクスウェル  

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なぜディラン・マクスウェルが真っ先に疑われたのか?

それはディランが容疑者としてはあまりにも理想的だったからだ。

 

 

①目撃者

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事件当日、落書きをするディランを見たという生徒が現れる。彼の証言では、落書きをしていたのはディランで間違いないらしい。

 

 

②アクセス権

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消去されていた監視カメラの映像。そのサーバーにアクセスする権利は放送研究会に属する9人の生徒にしか与えられていない。ディランは撮影機材を目的に、放送研究会に所属していたのだ。

 

 

③動機

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事件では、スペイン語教師の車だけタイヤがパンクしていた。このスペイン語教師は、以前にもディランによるいたずらの被害にあっている。

 

 

④イタズラ遍歴

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ディランと仲間たちは「ウェイバック・ボーイズ」と名乗り、イタズラ動画を撮影してはYouTubeにアップしていた。内容はといえば、道を歩く子供に接近してオナラをして走り去るとか、公園などで子守をしているお父さんのズボンをずりおろし「小児性愛者だ!」と叫ぶなどだ。さらに彼には校内のホワイトボードに週四でペニスの絵を描くというライフワークまであった。

 

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本当に犯人はディランなのか?

そんなディランだが、彼自身は一貫して犯行を否定。にもかかわらず、状況証拠から教育委員会は彼を退学処分にする。そのやりかたに疑問を持った放送研究会のピーターとサムは、事件の全貌を明らかにするために『アメリカン・ヴァンダル』というドキュメンタリー番組の制作を決意。それが本作ということになる。

 

 

バカバカしい学園ミステリ!からの……

本作は、「バカなあいつのバカな事件」という大勢に共有された文脈と戦う物語だ。真実を追う主人公ふたりはディラン犯行説にあらゆる観点からメスを入れていく。落書きペニスとディランが描くペニスの決定的なタッチの違いや、目撃者の信憑性、教師陣のもうひとつの顔などなど。調査する側も高校生なのでどこか牧歌的ですらある。事件の内容が内容だけに「ペニス」だの「玉毛」だの「手コキ」などの言葉が頻出し、ちっとも様にならない感じも楽しいし、学校内の噂話や浮かび上がる人間関係にゴシップ的な息を潜めたくなる高揚感も味わえる。

なにより、1話あたり30分前後というミニマムさもありがたい。普通に真実も気になるので、あとちょっと、あとちょっとといっているうちに全8話を観終わってしまう。

 

 

全8話を観終わった僕は呆然とした。単純な事件のはずだった。少なくとも僕はそう思って観ていた。しかし 追えば追うほど真実は靄に包まれるかのように、また新たな謎が生まれる。ヘラヘラ笑っているうちに引き返せない場所まで来てしまったような不穏さが満ちている。文脈は錯綜する一方。「学校」という場所がそもそもはらんでいる底なし沼のような側面に足を踏み入れてしまったんだと焦りすら覚えた。そして落書きされた「ペニス」が象徴するものについてだとか、何気なく見過ごしていた言葉や、最後まで明かされないこと、『American Vandal』という原題にについてなど、とにかく心が忙しい。僕はちゃんとショックを受けていて、なんらかの作品に触れてショックを受けることの感慨をしかと味わっている。なんだか居心地が悪くて最高。本作は学園ノワールの傑作であり、僕の愛してやまない「青春の黄昏映画」としても後を引くエモさをはらんでいる。すごい。

 

ちなみに僕は吹き替えで見ました。情報量が多い作品なので、そちらもおすすめです。

 

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マーファカナイト

 

寒い町から友人が来た。ここでは便宜上【君のフランチェスコ】と呼ぶ。彼は「僕の大学時代の友人の、高校時代の後輩」だ。自分でもいまいちピンときてないので、読み返しやすいように太字にしました。つまり大学が同じわけではないので、大学を卒業するまで会ったことすらなかった。しかしSNSが隆盛を極める現代においてはそんなこと関係ない。初めて会った場所は埼玉で、駅前の和民で昼間から飲んだ。その後彼は地元に帰ったので、会うのは今回で三度目だし、三年ぶりということになる。

 

土曜の夜だった。僕は電車を乗り継ぎ都内のO町に向かった。【君のフランチェスコ】は東京旅行の最中で、【イノウエ】の部屋に泊まっていた。ちなみに【イノウエ】ともSNS界のコンプトンことTwitterを介して知り合った。つまりストレイトアウタツイッターな僕らは合流するや即日高屋へ向かってビールで乾杯。おつまみ三品盛りを食べながらおしゃべりをした。色々話しているうちにサム・ライミ版『スパイダーマン』の話題になり、「キルスティン・ダンストは全然ブスじゃない」という話をした。「石原さとみとかをアイコンにしているようなくそったれどもがキルスティン・ダンストをディスっているのがどうしても許せない」と【イノウエ】は震えながら漏らした。おそらくかなり怒っていたのだろう。この世界には悪いやつが多すぎる。

 

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夜の東京を歩くのは久しぶりだったし、それを楽しいと感じる体験もまた、久しく味わっていなかった気がする。ビルがでかいねとか、急に住宅街だねとか、あのマッサージ店はエッチな行為ありかなとか、この町マッサージ店ばっかりだねと話しながら【イノウエ】邸に向かう。コンクリ打ちっぱなしの壁がクールなその部屋で、またお酒を飲んだ。ベイビーレイズJAPANの動画を観ながら【イノウエ】並びにすでに布教済みである【君のフランチェスコ】両名の推しを確認したり、Amazonプライムビデオで『パニッシャー:ウォー・ゾーン』のアクションシーンだけを観たりした。それから、なんとなく盛り上がるかなと思い『ストレイト・アウタ・コンプトン』を流した。

 

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【イノウエ】の部屋には音楽制作機材があり、そこから流れるビートに合わせてフリースタイルっぽく振る舞いながらただ喋る、という遊びをした。これは前回【イノウエ】と遊んだ際に酔った勢いで始めたことなのだが、リズムに合わせて言葉を紡ごうとする能動的姿勢が思いもよらぬ本音を引きずり出してくれることが多々ある。僕は最近あった嫌なことやムカつく人間のことを思い浮かべては韻も踏まずに早口の悪口をまくし立てていた。しかしその日は度数9%のチューハイを控えていたことから、言葉がうまく出てこないし自分を鼓舞するフロウも生まれない。また、僕の中にあるヘイト残高が雀の涙ほどしかないことも災いしていた。本来喜ぶべきことのはずだが、いざとなると物足りなくも感じる。クソが。僕はTwitterInstagramをのぞいてはカチンと来ることを探す、そんな不毛な行為にまで走った。

 

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そのときだった。【君のフランチェスコ】が僕のあとに続いた。彼は「インスタ映え」と「しょうじょう蝿」で痛烈な韻を踏んだのだ。羨ましかったので、僕も慌てて韻を踏もうと必死で考えたが、考えれば考えるほど脳が硬化していくような感覚に襲われ、ついにはなにも言えなくなった。興に乗ったらしき【君のフランチェスコ】はその後も強烈なパンチラインを叩きつけた。テレビ画面ではシュグ・ナイトが駐車場で男をボコボコにしていた。

 

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午前11時ごろ目覚めた。成増のコメダ珈琲で豆を食うという予定も面倒なのでやめにする。僕らは各々のタイミングで起床し、目覚めのビートを流したり、昨夜の残り物であるポテトチップスや煮干しを食べたり、YouTubeなどを観て過ごした。最後にみんなでカフェに行って日曜の午後を彩ろうということになった。外に出るころにはすでに日は傾きかけていて、気持ちのいい風が吹いていた。あまりにもあっというまだ。日曜の午後に碇をつけたいと思った。いつだって気がつけば夕日と共に地平線の向こうに消えてしまう。日曜は静かに遠のいていった。

 

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本当ならもうひとり友人がくる予定だったのだ。しかし彼は急な出張を入れられてしまい、長野に行っていた。それはとても残念なことだし、同時にその苦痛を察したりもするが、ここではあえてまたの機会を設ける口実にしたいと思う。ということで、僕はそんな彼にLINEで送るために何枚かの写真を撮っていた。和気藹々とした雰囲気が伝わればとの思いを込めて何枚も撮影した。最後にそれらの写真をここに貼って筆を置こうと思う。あの夜、同じ月夜のもとにいたことを、ここに残しておくのだ。

 

 

 

 

 

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我が懸賞生活

 

ポストに不在連絡票が入っていたので確認すると、送り主のところに「Tジョイ」と書いてあった。Tジョイといえばシネコン会社だ。なにかが当たったに違いない。そう確信して、過酷な労働を強いられている運送会社に再配達を依頼した。すべての労働がもっと楽になってほしいと願いつつ、届けられた長いダンボールを受け取る。この大きさと形からして中身はもしや……

 

 

あ!!!

 

 

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スパイダーマン:ホームカミング』の公式ポスターだ!!!

 

 

サイズを測ってみたところB1サイズ。でか。

 

部屋に飾ろうと額縁を検索してみたところ、B1サイズは最安値でも2500円くらいはするそうです。でもせっかくなので飾るつもりです。

 

思えば今年は懸賞に応募して当選することが多い気がする。そもそも積極的に応募するようになったのも今年からだから、この当選率がとれほどのものなのか比較する対象がありません。

 

四月にも『レゴ®️バットマン ザ・ムービー』のTシャツが当たったし、先月はデスプリのキウイのぬいぐるみも当たりました。でもまだまだ欲しい。なんだって欲しい。底なし沼に投げ入れられた石が波紋を生む。俺の欲望は拡散される。今年中にあと1つは当ててやりたい。なにかを絶対に当ててやる。額縁を買わねば。

 

 

 

他意無

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とにかくお金がない。慢性的な金欠。もちろんその責任は自分にあるのだけど、お金がないので反省や未来のための計画立案にカロリーを割く精神的余裕もない。そういうことにして怠けたい。殺したくなるから説教も遠慮したい。渾身の反省もポーズでしかない。これだけ悲観していればなにかしらの免罪符が得られるだろうという浅薄な考えが性根に刻まれているがゆえの下卑た脊髄反射でしかない。とにかくお金がない。勝手にお金が入ってきてほしい。本音を言うと僕のnoteに投げ銭してほしい。ほしい物リストを公開したときに、あれこれ恵んでほしい。広告を連打してほしい。Amazonのリンクから買い物してほしい。でも本当はこんなこと言いたくない。ずっと涼しい顔をしていたい。困っている人を助けたい。困っていない側として街を歩きたい。

 


 

大学四年の卒業間近、ゼミの四年生メンバー三人で教授になにかをプレゼントしようという話になった。女子Aから上がった案は、詩人にメッセージを代筆してもらい、それを額縁に入れプレゼントするというものだった。え、詩人?と一瞬だけ思った。本当に一瞬だけ思った。でもその詩人がどういう人か、実際に見てみる前からイメージだけで判断するのはよくない。だから僕らは休日に詩人のもとへ向かった。詩人は頭にタオルを巻いてジンベエを着ている30代くらいの人で、奥さんも子供もいるとのことだった。お土産品店がいくつか入っている建物の一角にスペースを借り、長机とパイプ椅子で音楽を聴きながら浮かんできた言葉ささっと書き出すことで生活しているらしい。僕はちょうど内定をもらえないまま卒業が決定した身だったので、なるほどそうやって糊口をしのぐことだって可能なんだなとか、努めて好意的なことを思うようにしていたのだけど、内心では「大丈夫か」と思っていた。『アフロ田中』で田中が似たようなことしていたからだ。しかし立案から予算のことまでぜんぶ女子Aに任せてしまっていたので、ここにきていっちょまえに水を差すわけにもいかない。だからまあいいか、そう思っていざメッセージを依頼。すると詩人はヘッドフォンを耳に当て、音楽を聞き出した。ミスチルだった。それから小さな声でぼそぼそ歌を口ずさみ、身体を前後左右に踊らせながら色紙に筆を走らせていく。僕ら三人は静かにその様子を見守っていた。途中、女子Bと目が合ったけどすぐに逸らした。

 

完成した詩を手に、スターバックスに寄ってみんなでコーヒーを飲んだ。確か当時の僕もとにかくお金がなく(学生なので当然)、本当はスターバックスになんて行きたくなかった。コンビニで100円のコーヒーでも買って早々に解散しても充分だと思っていた。とはいえ卒業間近なのだ。こういうひとときを無下にはしたくないと思った。

 

女子Aはスタバの店員(たぶん同じ大学の人)と知り合いだったらしく、カップに「Thank you!」というメッセージを書いてもらっていた。続く僕と女子Bのカップにメッセージはなかった。スタバのそういうところがな~と思いながら、席について書かれたての詩をみんなで読んだ。とにかく無難な言葉が並んでいて、プレゼントとしてはむしろ好都合にも思えた。それから卒業間近っぽい話をした。誰々がようやく進路決まっただの、来月の何日にこの街を出るなど、そういう話だ。同じ分野の男女がこのタイミングで付き合ったという話も聞いた。ふたりとも地方公務員になることが決まっており、それぞれの内定先である行政も近いとのことで、卒業後も充分に交際を続けられると判断してのことらしい。今にして思えばなにひとつ面白くない話だけど、当時の僕は「あいつとあいつが?」という点に気を取られ高揚していた。全然意外な二人ではなかったのだが、人の色恋沙汰が大好きなのだ。

 

不意に女子Aが「残念だったね」と言ってきた。

なんで?と聞き返すと、「あの子のこと好きなんだと思ってた」と笑う。どんぐり眼でひっくり返った。なんだって!?と思った。

 

確かに、関わりのある女の人が誰かと付き合うと、大なり小なり残念な気持ちが湧いてきたりもするかもしれない。「選ばれなかった」という事実がそこに残るからだ。かといってじゃあどうしても選ばれたかったのかと言われれば違うし、好きだったのかとなると話は別だ。バカにしてもらっては困るのだ。一応良い匂いがする人だな、とは思っていた。それに同じ分野でいえば、僕は別のおっぱいの大きい女子のほうが好きだった。一度なにかの飲み会の帰りに、そのおっぱいの大きい子と雪道を歩きながら進路の話をしたことがある。その子は「わたし、ほんとになにもしたくないんだ」と言って笑っていた。「おれも!」と同意した。その子にはずっと彼氏がいて、その彼氏は卒業後、消防士になったと聞いた。 なんだか公務員ばかりが登場する話になってしまった。僕の周りでいい思いをしているのは、決まって堅実なやつらだ。なぜ気づかなかったのか。気づかないふりをしていただけだ。

 


 

 

でもいいのだ。どんな立場でいようと悩みは尽きることはないと思う。悩むことによって、諸行無常に対するチューニングを行っているのだ。このまえの土曜日、いまの部屋に引っ越してから初めて友達が遊びに来てくれた。サイゼリヤでワインを飲み、フードコートで缶チューハイを飲み、夜のベンチでもまた色々と飲んでいたら恥も外聞もなくサイファーが始まり、フリースタイルだからという免罪符のもと罵詈雑言を吐き散らしてゴキゲンになっていると一人が潰れ、結局みんなで僕の部屋に向かって寝た。全然悪くなかった。言葉にするには腰が引けるが、たぶん不幸とは違うところに僕たちはいたと思う。そんな夜だった。

 

だからもう大丈夫です。僕のnoteに投げ銭したり、ほしい物リストを見てあれこれ恵んでくれたり、広告を連打したりAmazonのリンクから買い物してくれなくても結構です。今夜はなにか美味しいものでも食べてください。だって金曜日なのだから。僕はディスカウントストアで買った60円のカップラーメンを食べながらそんなあなたのTweetに「いいね」を押します。『ダイ・ハード4.0』のパソコンみたいに、エンターキーを押した瞬間に爆発したらどれだけいいか。風の薫りがすっかり秋です。

 

 

 

僕のnoteです。他意はありません。

note.mu

 

僕のほしい物リストです。欲望の欠片たちをぜひ覗いてみてください(他意無)。

www.amazon.co.jp

 

 

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自宅鑑賞映画(2017年8月編)

 

 

sakamoto-the-barbarian.hatenablog.com

 

 

『クラウン』(8/4)

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Netflixで鑑賞。この監督はずっと子供対大人を描いている。

 

 

 

『ドラゴン×マッハ!』(8/4)

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レンタルDVDで鑑賞。過ちは犯すものの、正しい道にしがみつこうと戦う男たちの話。アクションも文句なし。マックス・チャン最高。

 

 

 

『哭声/コクソン』(8/4)

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レンタルDVDで鑑賞。振り回されながら観た。最高に面白い。

 

 

 

『Mr.&Mrs.スパイ』(8/6)

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レンタルBlu-rayで鑑賞。グレッグ・モットーラの描く、不意に訪れる眩しい時間が今回もばっちりあった。大好きな監督。

 

 

 

ネオン・デーモン』(8/7)

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レンタルBlu-rayで鑑賞。集中力がもちませんでした。

 

 

 

ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』(8/9)

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レンタルBlu-rayで鑑賞。ティム・バートンX-MEN。ホローのルックがいいですね。

 

 

 

『キングのメッセージ』(8/11)

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Netflixで鑑賞。派手さはないけど面白い。敵を襲うため金具店で購入するのが自転車のチェーンというところも南アフリカのストリートを生き抜いた男の選択といった感じがあって良い。

 

 

 

スパイダーマン』(8/14)

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Amazonプライムビデオで鑑賞。最高。

 

 

 

バーニング・ブラッド』(8/22)

『デンジャラス・プラン 裏切りの国境線』(8/23)

Netflixで鑑賞。感想は別記事にて。

sakamoto-the-barbarian.hatenablog.com

 

 

 

『バッドママ』(8/25)

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Netflixで鑑賞。名演説映画。アメリカのコメディ映画は敵にも優しい。

 

 

 

 

ヒットマンズ・ボディガード』(8/25)

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Netflixで鑑賞。愉快な佳作。目新しいアクションは特にないけど、いつもの感じで安心して楽しめる。

 

 

 

Death Noteデスノート』(8/26)

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Netflixで鑑賞。全然あり。というかかなり好き。原作が大嫌いなのでまったく期待してなかったというのもあるけど、登場人物がことごとく無様なのが良かった。「青春の黄昏」を描いている点も好き。途中に出てくる「ルールが多すぎる!」というセリフもちょっと面白かった。「人間ておもしろ!」なのは、個人的にこっちだったってことなんだと思います。

 

 

 

以上、13本!

 

 

 

 

【スコット×麻薬カルテル】2本立て/『バーニング・ブラッド』&『デンジャラス・プラン 裏切りの国境線』

 

vs麻薬カルテル

現代のハリウッド映画における「敵」は、テロリストから麻薬カルテルに移行しつつある。かくいう僕も麻薬カルテルものが大好きだ。ドラマで言うと『ブレイキング・バッド』を始めとして『ナルコス』、『オザークへようこそ』と傑作揃い。あのシュワちゃんなんて『ラストスタンド』、『サボタージュ』と2作連続で麻薬カルテルとぶつかっているし、 『ランボー』最新作は麻薬カルテルが相手という噂が立ってから、はや二年が経っている。

 

実はつい最近も僕は麻薬カルテルものの映画を2本観た。そして偶然にもどちらも主演がスコットという名の俳優だったのだ。スコット・アドキンススコット・イーストウッドである。どちらもこじんまりとした映画だが、光る部分のある作品で面白かった。

 

 

 

スコット・アドキンスvs麻薬カルテル/『バーニング・ブラッド

 

 

スコット・アドキンスといえばめちゃくちゃ動けるアクション俳優。『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』ではあの悪名高いデッドプールのスタントも担当している。『エクスペンダブルズ2』ではヴァン・ダムの右腕を演じ、あのジェイソン・ステイサムとバネとキレのある格闘を披露していたし、最近だと『ドクター・ストレンジ』でマッツ・ミケルセンの部下も演じていた。

 

本作では、開始早々アドキンスが麻薬カルテルの本拠地に単身殴りこみ。ベルトのバックルに仕込んだナイフ一つで武装した男たちを次々と殺していく。彼の身体能力が遺憾なく発揮されていて、めちゃくちゃ楽しい。

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でもどうしてこんな無茶を?と思っていると、彼は奥の部屋に監禁されていた一人の女性を救出する。それはアドキンスの姪だった。姉の再婚相手が麻薬密輸の仲介人なのだが、お金を誤魔化したかなにかでカルテルの怒りを買い、娘を人質に取られていたのだ。おじであるアドキンスは元軍人で、上官をぶん殴って逃走するほどの暴れん坊。姪っ子奪還に一役買ったわけだ。

 

そんなアドキンスは姪っ子を連れて姉の家に帰宅。ろくでもない男と結婚しやがって! と姉を詰りつつ、いますぐ荷物をまとめ追手から逃げるよう忠告。しかしカルテルに買収されている保安官(ニック・チンランド)が訪問し、逃亡の身であるアドキンスを逮捕しようと時間を稼ぐ。こういうキャラも麻薬カルテルものには欠かせませんね。

 

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その間、メキシコからはSUV三台分の武装した男たちが向かってくるのだが、ここでいちいち全員の名前をテロップで紹介。心憎い演出だ。

 

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なかでも“狂犬”J.J.クルスが印象深い。中盤でスコット・アドキンスとタイマンを張るのだが、アドキンスにも引けをとらない身体能力を見せるのである。

 

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ラッパーの般若にちょっと似てる。 

 

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ナイフでさっさと殺してしまおうと向かってくるアドキンスに対し、自らのベルトを素早く外して応戦するなど、「実戦に長けている」演出もあり。アドキンスのサッカーボールキックへのカウンターとして、体をよじらせ地面に押し倒すなどアッ!と驚く動きも見せる。ついつい嬉しくなってしまいます。

 

カルテルには復讐の他にも目的があった。それはアドキンスがうっかり持ち帰った手錠の鍵に、滅茶苦茶大事な情報の詰まったUSBフラッシュメモリもぶら下げられていたのだ。かくしてアドキンスは姉の家に立てこもり、警察にも頼れない状況でカルテルの殺し屋たちを迎え討つ。人手が足りないので姉や姪の力も借りる。ど田舎の荒野と一軒家を主な舞台に据えることで低予算でも問題なし。あとは役者たちの身体性で引っ張るという潔い映画で、しかもたったの85分。このちょうどよさ。ごちそうさまでした。

 

 

 

 

スコット・イーストウッドvs麻薬カルテル?/『デンジャラス・プラン 裏切りの国境線』

 続く二本目は、クリント・イーストウッドの息子、スコット・イーストウッド主演で綴られるあまりにも苦い青春映画。

 

 

主人公は無職。仕事を探せどろくな求人がない。あっても経験者のみの募集。母親は乱暴な男と付き合っているし、家にいても退屈なテレビを眺める無為な時間がただ過ぎゆくだけ。

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そんなある日、彼は友人の誘いに乗ってメキシコまで遊びに行く。友人はバーで女を買うが、なかなか戻ってこない。カウンターで飲んでいた主人公のもとにやってくるのは怒りに震えるメキシコ人の男だった。

「金を払え。おまえのダチは俺の女房を抱いて逃げた」

バカバカしい強請りだ。主人公は相手にしない。しかし男があまりにもしつこく高圧的なことから、ビールの瓶でその頭を殴ってしまう。有り金をすべて奪われた状態で放り出される主人公。そこに一人の若者が近づいてくる。

「見てたよ。散々だったな。朝食をおごるぜ」

おしゃべりなその若者は仕事を紹介したいという。彼が呼び寄せたのはキャプテンと呼ばれる初老の男だった。キャプテンは麻薬カルテルを襲撃し、金を奪うことで生計を立てていた。帰りたい場所などどこにもない主人公は、キャプテンについていくことにする。

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といった感じのあらすじなのだが、本作では麻薬カルテルはあまり登場しない。キャプテンという男は麻薬カルテルへの襲撃や強奪を生業としているが、その実行は引き取った不良や身寄りの無い子供たちで組織した私設部隊にさせているというろくでもない男だ。そんなキャプテンのもとで働きながら、少しずつ頭角を現す主人公。おまえにはリーダーとしてみんなをまとめてほしい。キャプテンから直々にそう伝えられるが、本作の主人公はどんなときであろうとどこか居心地の悪そうな顔をしている。立ち入り禁止の母屋でキャプテンが囲っている愛人とこっそり関係をもったりもするのだが、かといって深い仲になるわけでもない。常にどこか虚無に包まれている。

 

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ちなみに愛人役のアンジェラ・サラフィアンがこれがまた眠そうな目をした美女なので、「うっかり一線を越えてしまいそう」な説得力がある。

 

 この主人公は暗黙のうちに「そういうものだ」とされている物事に対してどこか敏感だ。きついシゴキに対しても、キャプテンのやり方に対してもどこかのれないまま、仕方なく付き合っている感じ。こいつがずっと無職だったのもわかる気がする。そんな彼の窮屈な心情を、メキシコ国境沿いの広大な荒野が象徴している。どこに行ってもなにもない。ああ面倒くさい。しかしそんな彼にも捨てきれないものがある。それはちょっとした正しさだった。

 

ということでこれといった派手な見せ場があるわけじゃないが、子供も容赦なく死んでいく倫理の彼岸メキシコと、そこでのあまりにも苦い青春の物語として観ると胸に迫るものがある。また今作のように、麻薬カルテルの悪行から派生した隙間の物語が、今後はどんどん増えていくんだろうなとも感じた。

 

 

今後の麻薬カルテルものに欠かせないもの

何の気なしに「麻薬カルテルものであること」「主演がたまたまどっちもスコット」などを理由に選んだこの二作だが、意外な共通点が見受けられた。

 

 

 

 

 

 

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どっちもニック・チンランド!

 

 

麻薬カルテルの悪行から甘い汁を吸おうとする悪いアメリカ人像を担う俳優として、向こうではポジションが確立されているのかもしれない。今後麻薬カルテルものにニック・チンランドが登場した際は、充分警戒したい。今後も麻薬カルテルものから、ますます目が離せない。

 

 

 

 

能動的絶対生存宣言

 

小学生のころ、ある本を読んでいてとても印象的な言葉に出会った。それはトンチを利かす小坊主が活躍するシリーズもので(たぶん)、夜道で出くわすと必ず質問をしてくるという怪僧との問答の中に出てきた(と思う)。

 

「“生きている者”とは?」

 

「“必ず死ぬ者”なり」

 

確かに!と思った。それからやべえじゃんという強烈な不安にも襲われた。おれもいつか死ぬんじゃん、というのちのち定期的に直面することとなるこの世界の約束事を強く意識した初めての瞬間だったかもしれない。生きてるってことはいつか死ぬ。それがたまらなく恐ろしい夜もあった。とはいえそれも遠い日の記憶で、今じゃいつか死ぬのかとかそういうことを考えようとしても、いたずらに切迫しないよう脳が深追いしなくなった。蓄積された時間と記憶から成る制御装置がこめかみのあたりに入っているのだ。

 

 

去る金曜日、沖縄のともだちふたりと新宿で飲んだ。

このふたりとはちょうど1ヶ月前にも渋谷で飲んでいる。関東のあちこちに散らばっているので、飲むとなれば東京都心と相場は決まっていた。待ち合わせ場所である新宿駅東口の広場に一番乗りしていたのは友人Hで、僕は二番目だった。居酒屋を予約してくれていた友人Yはまだ来ていなかったので、僕とHは中野区が配布している路上生活者向けの活動案内パンフレットを読んで過ごした。

 

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登場したYは真っ黒に日焼けし、ヒゲだらけの顔を人懐っこそうに崩していた。向かった居酒屋の個室にはブラックライトが設けられていて、おしぼりが光っていた。僕らはビールを飲みながら、お盆休みをどう過ごしたかという話をした。Yは沖縄に帰っていたそうだ。Hは会社勤めではないのでお盆休みというものがなく、その話はすぐに終わった。そういうこともあって、僕はHが吉原の高級ソープにいったものの射精はあくまで射精でしかなかったと感じて虚しかったという話をしてくれとふった。僕はその話が好きで、Hに会うたびせがんでいる。さすがに飽きてきた気もしていたけど、今回はその話に対する「ぐっさんも同じことテレビで言ってたぜ」というYのコメントが引き出せたのが新鮮だった。思えば僕らはもう十年以上も射精しているのだ。数字で見るとばかみたいだね。ビールが倍苦くなった。

 

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金曜日でお店も混んでいたから、僕らは時間きっちりに追い出された。新宿はまだまだ全然賑わっていたし、どこも明るく視界がクリアだ。僕とYは二丁目で飲もうと提案したが、Hは強烈に渋った。その日公開のアニメ版『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』をバルト9で観るつもりだったそうだ。いいよやめとけよ、どうせ『君の名は』みたいにはいかないぜ、と僕は言ったが、それでもHは帰りたがった。映画はあくまで言い訳だということもわかっていた。Hは自分の時間もしっかり大事にする男だ。僕もそこんところは同じスタンスなので気持ちはわかる。しょうがないので三人でラーメン屋に入り、とんこつラーメンを食べた。僕はぜんぜんお腹が空いていなかったが、ふたりがすぐに完食してしまうので、慌てて麺をすすった。

 

Hと別れた僕とYは宣言通り新宿二丁目に向かった。去年の四月にも遊びに行ったお店があって、そこはノンケの人や女性でも入れる。入り口を開けた瞬間、浴衣を身に着けたママならぬパパが友人Yの顔を見て声を上げた。一年以上も空いているのに覚えているらしかった。僕らはそこで朝の五時まで飲んだ。Yは異常なバイタリティの持ち主なので、来る人来る人に話しかけては「女とはやったことある?」というヒヤヒヤするほどデリカシーのない質問を繰り返していた。なのに、Yは異常にモテた。この店一番のイケメンに「一回フェラさせて。そうすればわかるから」と言わせたあたりまではまあそういう接客トークなんだろうで片付けられたが、来店した若いイケメンに「いまいるなかで一番タイプは誰?」と尋ね、恥ずかしそうに指を差されていたあたりからは漂う信憑性を無視できなくなっていた。僕はお酒のせいで若干気分が優れなかったこともあり、そんなYの隣りにいるなんでもないやつみたいな空気にはっきりとした不満を覚え、ウソでもいいから少しくらい僕もチヤホヤしてくれよ!とひっそり寂寥にもたれかかっていた。

 

茨城からきたという二十代前半の仲良しノンケ三人組とも話した。彼らも久々に都内で飲んでいたらしく、キャバクラか二丁目で迷って、この店を選んだそうだ。それを聞いた店員のイケメンは「それは正解。キャバクラのなにがいいの?」とキャバ嬢のトークスキルの低さをこれでもかと罵った。僕は沖縄で働いていたころに上司に連れていってもらった地元のしょぼい店にしか知らなかったが、概ね同意した。途中、『ピンクフラミンゴ』のディヴィアンそっくりのベテランと同伴する男の人が来店。たぶんなんらかの業界人なんだろうなと思って眺めていたら、どこかで見たような顔で、何回か前の芥川賞を受賞した作家にそっくりだった。そんなこんなで始発の時間を迎え、僕らは店を出た。帰り際、イケメン店員が見送りに出てくれ「すごく癒やされた。あなたみたいな人がいると日本もまだ安心だわ」と豪快なことを言ってくれた。なに言ってんだとも思ったが、こういう優しい嘘に信じるという嘘を重ねることに酔って刹那的な事実に変えてしまえるんじゃないかと思い、やったー!と言った。

 

外はすっかり明るくなっていた。頭が痛く、これから電車にのることが億劫で仕方なかった。Yはゾッとしないほど元気で、「これから朝キャバ行こう」と言った。冗談だろと思ったので絶対嫌だと言ったら渋々引き下がってくれたが、底なしのバイタリティにめまいがした。

 

僕は新宿駅から東京駅に向かい、そこから乗り継いで家まで帰ることにした。中央線に乗って東京駅まで向かうと、ここらで一旦吐いておいたほうがいいと思った僕はトイレを探した。構内には始発を待つ人たちがそこかしこにいた。見つけたトイレの個室に入ると、僕は気合を入れて喉の奥に指を突っ込んだが、なかなか胃の中のブツは出てこなかった。ちくしょうめ、こちとら電車で酔いたくないんだ。しばらく試行錯誤していると、昨夜のラーメンの塊がちょっとだけ出てきた。えらく水分が少ないな、と思っていると喉に違和感。咳払いを続けても呼吸が楽にならない。しまった、と思った。完全に油断していた。小説なんかではよく目にしていた「嘔吐物が喉に詰まる」という描写だが、それがまさか自分の身に起こるだなんて想像もしてなかった。僕は個室から飛び出ると、かすれた声を上げながら壁掛洗面器に向かった。どれだけ強く咳き込んでも喉の通りはまったくよくならない。パニック状態の頭は一方でひどく冷たく、意外と人はこうやって死ぬのかもしれないな、と考えていた。

 

まず思ったのが、たくさん嘘をついてきた、ということだった。現在進行形の嘘だって山ほどあった。死んでようやく明るみに出ることだってあるんだろうな。それを知った人たちのリアクションなんかを想像してみる。このまま死ぬのはちょっとみっともないな、と思った。

 

自動水栓からの水を手のひらに受け、それを飲み下すと同時に呼吸が楽になった。引いてダメなら押すんだ。僕は拍子抜けすると同時に、また急に呼吸ができなくなってしまうんじゃないかという恐怖にまとわりつかれていた。死ななくてよかった。早朝の駅のトイレで、友人と別れた直後に死にたくなんてなかった。本当によかった。酔いは覚めていたが寝不足気味ではあったので頭はぼんやりとしていたが、瞬間最大風速的恐怖の名残はしばらく尾を引いていた。

 

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死んでたまるか。僕は帰りの電車で爆睡した。ちゃんと生きるためだ。建前ではなく、能動的に湧いてきた欲求に感動して、土曜日は結局一日中寝ていた。ご飯もよく噛んで食べるよう意識し始めた。バリカタ麺を急いで食べなければ喉に詰まることもなかったはずなのだ。いや、それ以前に気持ち悪くなるまで酒なんて飲むのがくだらない。身の程を知り、余裕を維持するのだ。臨死体験の反動からバイタリティを得た僕は、先日クソみたいな営業マンのあやふやなセールストークに飲まれて契約してしまったWi-Fiも速攻で解約した。いまの僕なら営業マンをぶん殴って追い返せる。拉致ってボコボコにする様子をビデオに録画し、本社に送りつけ身代金を要求したっていい。でもやらない。僕の大事な人生への関与を、絶対に許可してやりたくないからだ。

 

今後の日本のためにも、食べ物はとにかくよく噛まなければならない。

 

 

 

 

 

日本版『ファーゴ/FARGO』の舞台は血にまみれた埼玉!/『GYODA』

 

 

 

 

日本にも『FARGO』はあった

『ファーゴ』といえば、コーエン兄弟が1996年に制作した映画で知られている。ノースダコタ州の都市ファーゴとその周辺を舞台に、ちょっとした邪な思いつきをきっかけとして、事態が徐々に酸鼻を極めていく様子をブラックでオフビートなコメディタッチで描いている。さらには物語の頭で「これは実話である(THIS IS A TRUE STORY)」という文言を提示してみせるという大胆な演出も本作の特徴として有名だ。

2014年にスタートしたドラマ版『ファーゴ/FARGO』は、映画版を原案としたシリーズであり、こちらの方も2017年現在、サードシーズンまで製作されるなど好評を博している。

 

     

 

シリーズとして見た場合の特色としては、田舎を舞台にちょっとした欲望が悪い連鎖を起こす点と、その過程、あるいは行く末にオカルト的要素が絡んでくる点などが挙げられる。なんとなく、日本を舞台にしてもでもできそうな気がする。

 

和製『ファーゴ』で思い浮かぶのは、2005年に山下敦弘監督が撮った『松ヶ根乱射事件』だ。雪の降り積もる「日本のどこか」を舞台に、本家よろしく「実話」であることを堂々提示しながら次々と陰惨な出来事が進行していくところなど、「田舎は最悪映画」としても個人的に大好きな一本である(過去記事でも触れています)。

 

 

 

 

 

 今度の舞台は日本の関東

そして今回、なんと本当に日本版『FARGO』と呼べるドラマが登場した。その舞台はなんと関東。しかも埼玉なのである。タイトルはずばり『GYODA』。まんま行田市だ。

 

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ここです。

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行田市 - Wikipedia

 

このドラマも本家『FARGO』と同じように、タイトルとなった地、及び近隣の町々を舞台に物語が展開していく。いったい埼玉県北部にどんな物語が待ち受けているというのか。 作中のキーワードを確認したい。

 

 

作中キーワード

 

【爬虫類専門店 Exotic Pleasure】

熊谷にある爬虫類専門店。物語の中心を担う。

 

 星野幸雄(ダンカン)

55歳。Exotic Pleasure店長。輸入した爬虫類を法外な値段で売りつける詐欺行為に手を染めている。そのためトラブルには事欠かないが、何年も前から殺人にも手を染め、その遺体を秩父山中にある心霊スポット『闇の森公園』内の廃墟で解体している。自称30人殺し。

 

斎藤常信(児嶋一哉アンジャッシュ

43歳。爬虫類専門店を経営していたが、星野に声をかけられビジネスパートナーとなる。妻子持ちであり、星野の凶行と、共犯としての自分に強い恐怖を感じている。

 

星野愛子(浅野温子

54歳。星野幸雄の妻。前夫との間にできた長女と、星野との間にできた次女がいる。夫の犯罪行為を指揮している。

 

 

 

【埼玉県警】

渡部ふみ(荒木優子)

28歳。刑事部捜査第一課所属。数年前から埼玉県北部で度々発生している失踪事件に目をつける。

 

新井康夫(安田顕

49歳。刑事部捜査第一課所属。2年前に妻を亡くした。幼少期の星野幸雄を知っている。

 

後藤太郎(山口智充

43歳。刑事部捜査第四課。城石組若頭の失踪に関して捜査を進めている。

 

 

 

【城石組】

埼玉県北部を縄張りとする暴力団

 

及川喜久雄 (花山司)

55歳。城石組若頭。星野と懇意な間柄だったが、金銭的なトラブルにより関係が破綻。脅迫を続けていたところ、星野に殺害される。県内の高校に通う15歳の愛人がいる。

 

村田眞一(青木崇高

35歳。城石組構成員。及川の失踪に関与していると確信を持ち、星野を執拗に追い詰める。極真空手二段。

 

窪田想(池松壮亮

21歳。高校を中退し、地元の友人らと不良行為に明け暮れていたところ、親の知人であった及川のもとに預けられる。及川の運転手として見習いを続けているが、盃をもらい城石組の正式な構成員となることを望んでいる。

 

 

 

【須藤会】

群馬に拠点を置く暴力団。城石組の縄張りを奪おうと画策している。

 

山之内昇司(木下ほうか)

50歳。須藤会若頭。早稲田大学商学部卒。

 

真壁彰(渋川清彦)

40歳。須藤会若頭補佐。柔道三段。一卵性双生児。

 

真壁優(渋川清彦) 

40歳。須藤会若頭補佐。剣道三段。一卵性双生児。

 

 

 

【窪田会】

城石組の窪田想を中心とした不良グループ。

 

工藤勇太(駒木根隆介)

28歳。自動車修理工。窪田想の幼なじみ。ヤクザの見習いをしている窪田に羨望の念を抱いている。別れた妻との間に子供が二人いる。

 

萩野晋平(高杉真宙

19歳。ヤンキー。窪田の後輩。 

 

 

カップル】

行田のアパートで暮らすカップル。

 

水田譲治(満島真之介

30歳。上尾の警備会社社員。精神を病んだ彼女と同棲、結婚を考えている。 

 

橋本久美山田真歩

28歳。元看護師。鬱病を患い、自宅で療養している。

 

山岡さん(黒田大輔

49歳。水田と同じ警備会社社員。親身に相談に乗ってくれている。

 

 

【工藤姉弟

母親からネグレクトを受けている小学生の姉弟

 

工藤紗綾(福田美姫)

11歳。家に帰らなくなった母親の代わりに弟の面倒を見ている。

 

工藤焚摩(加藤憲史郎

10歳。「闇の森」でUFOを呼ぶことによる救済に密かな希望を抱いている。

 

工藤麻美子(本田翼)

28歳。新たな恋人ができたことを機に、子供を置いて家を出た。

 

 

 

【殺し屋】

須藤会によって東京から招かれた五人組。

 

佐藤くん(山口一郎:サカナクション

無口。

 

鈴木くん(岩寺基晴サカナクション

しゃべらない。

 

高橋さん(草刈愛美サカナクション

しゃべらない。

 

田中さん(岡崎英美サカナクション

しゃべらない。

 

伊藤くん(江島啓一サカナクション

しゃべらない。まばたきもしない。

 

 

 

【闇の森公園】

秩父山中にあると言われている地図に載っていない謎の敷地。廃墟が点在しており、心霊スポットとしても知られている。建ち並ぶ建造物の内部にはトイレがなかったり、二階へと続く階段がないなどの不思議な点が多いこと、またその近辺で謎の発光体がたびたび目撃されていることなどから「UFO基地」なのではないかとの噂もある。モデルとなったのは心霊スポットの『山の牧場』。

 

 

 日本一気温の高い地獄

 鬱蒼とした木々の輪郭がぼんやりと浮かびあがる月夜。画面中央には文字が映し出される。

 

【これは実話である。】

 

聞こえてくるのは誰かの鼻歌。そのメロディは玉置浩二の『田園』だ。バスルームと思しきタイル張りの部屋で、真っ赤な肉魂を解体する中年の男女(ダンカン&浅野温子。顔を見合わせ微笑み合うふたり。そこに一人の男(アンジャッシュ児島)が現れる。

 

「コーヒーどうぞ」

 

『田園』のイントロ鳴り響く中、血に塗れた状態でコーヒーブレイクをする三人の姿。彼らの日常をモンタージュで見せていく。爬虫類専門店で接客する姿。多くの客を騙し、トラブルになった者は殺害。「闇の森公園」と呼ばれる廃墟にてその死体を処分する。翌日、店で振りまく笑顔に変化はない。そのモラルなきバイタリティ。彼らはまた新たに一人の男を殺害した。それは城石組の若頭(花山司)だった。 

 

この殺人事件をきっかけに、物語は動き始める。行方不明になった若頭を探して城石組が動き出し、混乱状態にある城石組のシノギを狙う須藤会も暗躍を始める。その不穏な動きを嗅ぎつけた埼玉県警も捜査に乗り出す。

 

捜査第一課に配属されたばかりの渡部ふみ(荒木優子)は、過去の捜査資料に目を通していた。彼女はここ数年の間に県内で起きた数々の失踪事件に、ある男の影があることに気づいた。上司である新井康夫(安田顕に相談したところ、新井は幼いころからその男を知っていると話す。街一番のホラ吹きだったその男は、虚栄心の塊で、息を吐くように嘘をついた。高校には進学せず地元の寿司屋で働いていたが、その店はのちに火事で全焼。それ以降、この男の周囲には不穏な事件が度々見られるという。もちろん捜査の手は及んだが、どうしても逮捕の決め手となる物的証拠が見つからない。

 

死体が見つからないのだ。

 

そこに業を煮やしているのは警察だけではなかった。以前から若頭と親交のあった星野に目をつけた城石組の村田眞一(青木崇高は、こちらの追求をのらりくらりと交わしていく星野に怒りをつのらせ、次第に過激な行動へと乗り出していく。かくして地獄の扉が開かれるのだった。

 

 

 メインである爬虫類店をめぐる物語は、かの有名な埼玉愛犬家殺人事件をモデルとしている。園子温監督の手によって映画化もされたあの陰惨極まりない事件だ。

 

 

しかし本ドラマの第1話においては、事件の詳しい経緯は描かれない。知名度ある事件がモデルであり、でんでんの怪演や過激な描写から話題を呼んだ映画などを考慮したうえでの判断かもしれない。しかしなにより、「事件はこれまでも、そしてこれからもこの地で起こり続ける」という視点を視聴者に植え付けるため、第1話で渦中に叩き込む狙いが感じられる。不穏で軽薄な茫漠がすべてを包み込んでいる。

 

 

 脇を固める市井の人々

 

どこまでも広がる畑と建ち並ぶ鉄塔。閑散とした国道沿いにぽつんと現れる、場違いな外観のラブホテル。

 

この物語は殺人鬼とヤクザの揉め事に終始しない。その地に住むあらゆる人間が混沌の一員として事件に絡め取られていく。

 

 

第一話の中盤にて、城石組の窪田がATMに入金するためコンビニに立ち寄る場面が出てくる。その際に漫画雑誌を立ち読みしている小学生の男の子が、のちの第二話以降も登場する少年・工藤焚摩(加藤憲史郎だ。彼はゴミだらけのアパートで、ふたつ上の姉・工藤紗綾(福田美姫)と二人だけで生活している。母親は新しい恋人の元へ出かけたきり帰ってこない。そんな彼らが夜な夜な耽るのは「闇の森公園」の噂話だった。

 

 

城石組で運転手を務める青年・窪田想(池松壮亮には地元の不良仲間がいる。先輩である工藤勇太(駒木根隆介)は、首元まで覗くタトゥーが印象的であると同時にどこか憎めない雰囲気をまとう。彼は歳下でありながら城石組で働く窪田に憧憬と嫉妬の入り混じった複雑な思いを抱く。物語中盤において、窪田が盃を交わすことで正式に城石組の組員となった際、全国チェーンの居酒屋でささやかな祝賀パーティを催すその哀愁。泥酔した彼らは、かつての自由な日々に思いを馳せる。真夜中、あてのないドライブを続ける工藤は、一人道を歩く女性に目をつける。

 

 

上尾にある警備会社で働く水田譲治(満島真之介は、行田市内の安アパートで橋本久美山田真歩と同棲していた。橋本久美はもともと看護師をしていたが、鬱を患い退職。現在は自宅で療養生活を送っている。安い月給で生活も苦しかったが、水田は近いうちに彼女と籍を入れようと考え、職場の先輩・山岡(黒田大輔に相談していた。そんなある日、仕事で疲弊していた水田は今後への不安を吐露する橋本と言い合いになってしまい、不眠気味の彼女に背を向け、先に就寝する。

翌朝水田が目覚めると、部屋に橋本の姿はなかった。

 

 

ハイエースの車内でタバコを吸う工藤たち。後部シートには顔を腫らした橋本の亡骸が横たわっている。外で電話をかけていた窪田がスライドドアを開け工藤に言う。

 

「死体消せる人間を知ってる」

 

窪田は、現在自らも若頭失踪の件で追求を続けている爬虫類専門店、Exotic Pleasureに向かうのだった。

 

 

そしてオカルト

 

※以下、終盤の展開に関するネタバレあり

 

 

混乱の中にある城石組を潰そうと須藤会が乗り出す。彼らは東京から殺し屋(サカナクションを招き、城石組に差し向けるのだった。一方の城石組も人員と武器を増強させ、須藤会との抗争と同時進行で星野夫婦の殺害も決定する。

 

そんななか、密かに死体の処理を依頼していた窪田(池松壮亮星野(ダンカン)から二百万円を要求される。しかし星野殺害が決定した今、その二百万円を用意する必要はない。しかし窪田は二百万円を工面するよう工藤(駒木根隆介)らに伝える。その金を自らの上納金に充てるつもりだった。

 

失踪した彼女の捜索を続ける水田(満島真之介は、山岡(黒田大輔の力も借り、他の部署から複数の映像を入手する。失踪当日に近くを走っていた車や人影をくまなく調べる。やがて生活安全課の刑事から伝えられた情報などから、窪田会の関与を知るのだった。

 

際限のない暴力は加速していく。物語は佳境を迎える。

 

命の危機を察知し逃亡を企てた星野夫婦だったが、その直前に城石組に拉致される。村田(青木崇高によって拷問される星野(ダンカン)。妻の愛子(浅野温子がすんでのところで遺体の在り処をほのめかしたことにより、「闇の森公園」まで案内するよう命じられる。

 

そんな村田たちの後をつける一台の車。その車内には須藤組の双子(渋川清彦:二役)と若い衆が乗っていた。双子は殺し屋に連絡を入れる。殺し屋たちはすでに「闇の森公園」で待機していた。

 

復讐の鬼と化した水田(満島真之介工藤(駒木根隆介)の働く板金工場にて彼を拷問する。この場面は、星野の拷問シーンとカットバックされる。暴力によってそれぞれの行先が開かれる、おぞましくも目の離せない場面となっている。あの日なにがあったか、橋本久美がいまどこにいるのかを吐き出させた水田は、工藤にガソリンをかけ火を放った。

 

捜査第一課の渡部ふみ(荒木優子)新井康夫(安田顕は、斉藤常信(アンジャッシュ児島)失踪の件で話を聞くため、星野夫婦の自宅を訪ねた。しかしそこに星野夫婦の姿はなく、渡部は捜査第四課の後藤太郎(山内智充)に連絡を入れる。

 

 

すべてが「闇の森公園」に引き寄せられていく。

 

 

「闇の森公園」内にある廃墟で待ち構えていた殺し屋の襲撃により、すべての火蓋は切って落とされる。反撃に追われる城石組の隙を突いて逃走を図る星野夫婦。結束バンドによって互いに結び付けられているため、その姿は運動会の二人三脚さながらだ。この夫婦がこれまでもこうしてお互い支えあいながら生きてきたことが感じられる。どこまでも軽薄で冷酷な二人だが、夫は妻を、妻は夫を確かに必要としている。

 

そこに現れる復讐鬼・水田。板金工場から拝借してきたと思しき工具と、仕事で使っている特殊警棒を手に狙うは城石組の窪田想だ。

 

廃墟にはもうふたつ小さな影がある。工藤姉弟だ。UFOの噂を信じ、道無き獣道を歩いてのぼってきたのだ。彼らは廃墟の二階から、目下で繰り広げられる殺し合いを眺めていた。

 

そしてあたりは突然まばゆい光に包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

木々に囲まれ四角いキャンバスさながらの空にはまばゆい光を放つなにかが浮かんでいた。その尋常じゃない光量にあてられ、誰もが動きを止める。

 

腹を撃たれ息も絶え絶えに空を見上げる村田。

 

殺戮の限りを尽くしていた殺し屋たちすらその目に困惑の色を浮かべている。

 

須藤組の真壁彰は、顔を撃たれて動かなくなった弟の手を握りながら光に目を細めた。

 

混乱に乗じて逃走を図っていた窪田想は、後方に広がる光に目を奪われ滑落。全身の骨を折り、茂みの中に消えてしまう。

 

誰もが空を見上げる中、水田は地面に落ちていた切れかけのヘアバンドを見つける。それは橋本久美のものだった。

 

工藤紗綾と焚摩も空を見上げている。その表情からは、彼らの心情がはっきりとは読み取れない。その光は彼らの求めていた希望なのだろうか。

 

正体不明の発光体は、「闇の森公園」に向かう県警のパトカーからも見えていた。山の中腹がまばゆく光を放っている。渡部ふみは心もとない表情でその光を見つめる。

星野夫婦は、廃墟の壁にもたれながら光りに照らされた互いの顔を見る。

 

「愛してるよ」

 

「当然でしょ」

 

日本犯罪史上類を見ない大事件は、こうして幕を閉じた。

 

 

呪われた地

全10話をイッキ観した僕は衝撃で動けなくなった。最終話で「光」と対面した登場人物さながらだ。 人々の思惑など一切構わない、そんな抗いようのない力が有象無象を飲み込むかのようなあの展開に、僕はこの世界の持つ魔力のようなものを感じた。

 

最終話のエンドロールあとについている映像も印象深い。そこでは失踪したと思われていた斉藤(アンジャッシュ児島)がバスタ新宿の待合室に座っている。隣りに座る外国人のスマホに映し出される事件のニュースを横目に、時計を確認する斉藤。彼の乗るバスの行き先は秋田。そこでドラマは完全に終了する。しかしどうしてここまで不穏な余韻が僕を掴んで離さないのだろう。おそらく彼の乗ったバスの行き先がどこを示していようとも、同じような胸騒ぎを覚えたかもしれない。きっとまたどこかで凄惨な事件が起こる。というよりも、きっといまも起こり続けているのだ。我々の欲望や、それに応じた知略がどれだけめぐらされようと、そんなものなどまったく通用しない強大な摂理が待ち受けているのだ。

 

いまも世界の何処かで『FARGO』は誕生し続けている。空回りする我々の絶望を飲み込みながら、その茫漠が永遠に膨張し続ける様をこのドラマは描いている。

 

 

 

 

 

 

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