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東京overture

日記

 


10538 Overture Electric Light Orchestra - YouTube

 

 

 

 

勢い余って東京に出た。

 

といっても長期滞在を目的とした強固な意志なんてなく、一年間続けたバイトが終わり次へのステップを踏むにあたって自分の中でわかりやすい変化が欲しかったのだ。

 

東京。

 

沖縄でのこの一年を思うと、東京に出たってだけでえらく出世した気になるから不思議だ。

 

毎朝七時半にバイト先へ向かい、午後の六時頃帰宅するというとりたてて変化の乏しい毎日をのどかで開けた風景の中、何を思うでもなく続けていた。

 

もちろん心のどこかで常にちょっとした焦燥がうずいていたのも事実で、東京で座布団の上でぶつぶつ独り言をいったり伸びた前髪を振り乱しながらベースを弾いたり編集長にいびられながらも歯を食いしばって耐えたり自らの“特性”への周囲からの理解の乏しさに喘ぎつつも日々頑張っている友人たちのことが気にならなかったかと言えば全然そんなこともなく、考えすぎて夜眠れなくなることも多々あった。

 

ただ平気なふりをするのも癪なので一念発起し(親にいわれたので)地方公務員試験を受けたり(落ちた)資格取得のため国家試験を受けたり(落ちた。二度目)してはいたけれど、かねてから薄々感づいていたように、僕は山田詠美の書いた小説に出てくる口が達者で女にもモテる高校生のクソ主人公をブチ殺したくなるほどに勉強ができないのであった。

 

そういうわけで結局なにも得られないまま一年が経った。

 

僕は昼に起床し、DVDを鑑賞、二度オナニーして、二度お風呂に入るしごはんはちゃんとおかわりもする毛まみれハートのオーナーとして悠々自適な生活を四月の一日より満喫していた。

 

しかし育ちが良くて根が真面目で善良にできている僕は、親の小言対策としてできる限りの家事をしながらも現状を良しとはできず、東京行きのチケットをひっそりと購入。バッグのチャックが壊れるほどの荷物を担いで、とりたてて大好きではないのに根っこを掴んで放してくれないマイカントリーOKINAWAを後にしたのだ(なにかの役に立つだろうと持参していたハサミは機内に持ち込めないとの理由から空港で取り上げられた)。

 

東京にはこれまでにも何度か訪れていたが、今回の上京に関してはほんのちょっとばかりとはいえ、期待と不安を胸にしていたこともあってか身構えている自分がいた。

 

しかし花の都大東京、そんな僕にはおかまいなく、豊島区及び総務省への罵詈雑言をそこそこの音量で独りまくし立てているお婆ちゃんや「おれはこれから刑務所に行かなきゃならねえんだよ」とやっぱり独りでしゃべっている短パンのおっさん、ながらスマホの逆ギレババア(こいつだけは千回鼻潰したい)なんかを優しく無関心に放任していた。

 

和光市在住のイケメンハンサムジゴロの城にもぐりこんだ僕は不躾ながらロフトを一夜でジャック、以降拠点として寄生し続けることにした。

 

社会人としてこの一年、東京で叩き上げられた彼はとても頼もしく映ったが、一方で僕は……と考え始めようとしたところで“まあいいや”という脳内麻薬が分泌され精神の安定が図られた。

 

僕は久しく再会したマッスルホリックと新宿や高円寺を巡ったりもした。

 

東京各地にあるというパブで昼間からビールをあおった。

 

新宿の各地を巡り、高円寺に移動した僕らは町並みを堪能しこれから待ち受けているであろう“第二の青春”の気配に胸を躍らせていた(“第一の青春”とはすべての美しい記憶を指す)。

 

映画もたくさん見た。

 

『アクト・オブ・キリング』『ワールド・エンド』『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』『クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』『ファイ 悪魔に育てられた少年』『リベンジ・マッチ』……中にはそうでもないのもあったけど概ね最高に楽しめた映画ばかりだった。

 

沖縄の友人にも会った。

 

座布団の上で独り言をいってお金をもらっているやつとベース弾いてるやつだ。

 

二人とも人前に出る仕事だということで差し歯にしていた。

 

クソみたいな高校生活の中で期待するという贅沢を許してくれた数少ない友人たちが、かつて好きだったもので生計を立てている姿を見ると思わず指をくわえてしまう。

 

僕はなにがしたいのかもはや考えたくもなくなっているいま、改めてこのなにも得られなかったはずの一年を『親の金』という小説にして芥川賞をとってWikipediaの項目をつくってもらうばかりかかつて僕のことを馬鹿にしたすべての人間の心に逆卍マークをナイフで刻んでやりたいというぼんやりと、しかし確実に熱を孕んだ思いが頭をもたげた、ような気がしなくもないくらいの高揚感をおみやげに夜の渋谷をひとりふらふらしたあと和光市へと帰った。

 

そこには日々、遅くまで仕事を頑張ってから帰宅するハンサムジゴロ。

 

ああ、素晴らしい日々よ、どこまでも伸びる眩きレッドカーペットよ、この僕をみんなとともに導いてくれ、輝かしきその先へ、先の先の先へ、ずっとずっとどこまでも続いてくれ。

 

一身上の都合により一時沖縄に戻ったいま、僕はハローワークへ向かい腕立て伏せを五十回、時間をたっぷりかけてこなしたあとお母さんの作ったシチューを食べジョルジュ・サンピエールの動画やフルオート仕様のイズマッシュ・サイガを連射するデブ白人の動画を食い入るように鑑賞している。