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ニート・フォー・スピード

 

「評判だし……」という理由で『グランド・ブダペスト・ホテル』を観に行くことにした。上映している映画館は家から車で一時間ほどのところにあって、普段よく利用している映画館の倍遠くにある。そのぶん車を長く運転しなきゃならないんだけど僕は車の運転があまり好きじゃないし得意でもないのでこれはなかなかに勇気のいる思い立ちなのである。

 

ただ運転しているだけってのも本当に退屈で疲れるので気分の乗る音楽でも聴こうと行きがけにTSUTAYAによってAKB48のアルバムを借りた。僕の頭の中には停滞する気持ちを変えるにはアイドルソングを聴かなければ、という思いがあって、アイドルコーナーで十分ほど迷っていたのだけど、一番目立っていたAKBを借りることにした。僕はまゆゆのお尻とぱるるが好きだ。『恋するフォーチュンクッキー』を聴きながら国道を南へと走る。無事映画館についていざ映画の券を購入しようとした僕は肝心の上映時間を三十分以上間違えて覚えていたということに気づく。『グランド・ブダペスト・ホテル』はとっくに始まっていた。ふざけんなくそ死ねと思いながらもせっかくここまで来たんだしこのまま父の日のプレゼントだけを買って帰るのも勿体ないのでほかの映画でも観ようと上映時間の一覧を眺めながら適当な映画を探す。上映開始時間が一番近いやつがいいな、と思って目に止まったのは『ニード・フォー・スピード』だった。

 


映画 ニード・フォー・スピード:日本版予告編 - YouTube

 

正直、初めて予告を見たときには「『ワイルド・スピード』があるのに……」という思いが脳裏をかすめたのも確かで、違法なカーレース、改造車、そこに絡められる様々な思惑など、いま改めて描くことにはどういった勝算があるのだろう?という点では気になってはいた。だって『ワイルド・スピード』シリーズは既に結構な領域まで足を踏み込んでいて、キャスト的に見てもカーアクション界のラーメン二郎みたいな存在となっているのに……などとの心配もそうだけど、そもそも僕は車やカーレース自体にあまり興味がなくて、速さを競うより車が如何に壊れるかとか爆発するかとかいった点にばかり楽しみを求めるところがあるのだった。

 

なにより「車に興味がない」とかしゃらくさいことを言っている人間に観られる『ニード・フォー・スピード』の気持ちも想像してみろとも思った。「アクションに興味がない」とか言っている人がアクション映画を観て「つまらない」だけならまだしも「暴力はよくない」などと半目でのたまおうもんなら、いくら事なかれ主義者の僕であっても「人間味」の一言じゃ片付けられない。とにかく僕は野暮な門外漢たる勇気がなかったので、五分くらい迷った。それからとりあえず券を購入した。

 

以下、面白かった点を箇条書き。

 

・主人公のスタイルが悪かった

・イギリス訛りのヒロインがかわいかった

ドミニク・クーパーの小悪党演技が潔かった

マイケル・キートンがノリノリだった

・カーアクション時のエンジン音が気持ちよかった

・クラッシュシーンの「ああ!」っと唸らせる迫力がよかった

・空からナビゲートしてくれる黒人がひょうきんで優しかった

・「ああっ!」と驚く給油シーンがよかった

・行く手を阻む狼藉集団とのカーアクションが燃えた

・主人公のスタイルの悪さがだんだん観る者の心に温もりを宿した

・ラストの主人公の行動が気持ちよかった

 

失礼ながら意外と面白かった……。そもそも『ニード・フォー・スピード』はエレクトロニック・アーツから出ているゲームが原作らしく、『ワイルド・スピード』よりもずっと以前から発売されているシリーズらしい。登場する高級車の数々への興奮はいまいちな僕とて、べらぼうな速度で公道を爆走するスリルに関してはこれでもかと味わえたしヒロインが漫画みたいでかわいかった。主人公はドラマ『ブレイキング・バッド』で一躍有名になった俳優らしい。勉強になる。

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主役のアーロン・ポール。この人に決まる前はテイラー・キッチュにもオファーがいっていたそう。

 

今作の監督はあの『ネイビーシールズ』のスコット・ワウ監督。スタントマン出身ということもあって、今作のカースタントでは本物の高級車が横転浮遊大破していく様を惜しげもなく見せてくれるのでとてもリッチ。最近でいうと『アウトロー』中盤での重さのあるカーチェイスが、もっとド派手になってたっぷり見られるといった感じで「アメリカ映画」を観ているという不思議な高揚感がある。CG技術の向上でユニークな演出がエスカレートする昨今の映画も楽しいけど、ここにきて敢えて『ニード・フォー・スピード』のような、アスファルトをえぐるように駆け抜ける重みのある車体と舞い上がる砂利を大画面で鑑賞する、そういう楽しさもある。と思う。

 

面白いからオススメだけど『グランド・ブダペスト・ホテル』の方が話題だし実際あまりお客さんも入っていないみたいで僕は悲しい。でもそういうところにいじらしさを覚えなくもないので人の好意というものはどこまでも身勝手だ。

 

帰りはもちろん安全運転に徹した。運転が不得手なやつが激しい事故シーンのある映画なんて観るもんじゃないけど、そのおかげもあってか異常なほどの「かもしれない運転」で帰路につくことができた。僕が車の運転に対して臆病なのは、うちの父親に「車内でさだまさしの『償い』を流してしまう」という症状があるからで、「無職なのに『闇金ウシジマくん』を愛読する」といった形で見事遺伝している血の呪いについても改めて考えさせられた一本だった。

 

ちなみに今回のタイトルはベンチに腰掛けてATMのお金を回収する警備会社の人を眺めながら思いついた。「ふふ」っと笑みが漏れたことも付記しておこう。僕は本当にお金が好きだからリッチさを感じさせてくれる映画は大好きだ。