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『ラストミッション』と劇場のオッサン

 


映画『ラストミッション』予告編 - YouTube

 

『渇き。』を鑑賞したその日、娘のために父親が奮闘するつながりでケヴィン・コスナー主演の『ラストミッション』も観た。『トランスポーター』や『96時間』などでお馴染みヨーロッパコープの作品。要はリュック・ベッソン案件。今回も脚本にはリュック・ベッソンが関わっているし、娘のために最強の親父が頑張るっていうと『96時間』そのまんまじゃないか。なんで同じ話また書いてんだあのオッサン。と思ったがそもそも娘のために頑張る最強のオヤジというとセガール映画も大体そんな感じだし、なにやってんだよセガール。早くエクスペンダブルズに出ろ。

 

ちなみに『96時間』と今作の大きな違いといえば主人公が余命を宣告されていること。むこうのリーアム・ニーソンは最後まで圧倒的な戦闘力で敵を殺しまくったが(そもそもセガール映画的プロットをリーアム・ニーソンに演じさせるという面白みが勝算の映画だし)今回のコスナーは戦闘力こそ高いものの毎回肝心なところでガン治療薬の副作用に襲われて敵を逃すし、そのせいで今作はヨーロッパコープのアクション映画にしては長い(117分もある)んじゃないかとも思えてくる。

 

長年CIAのエージェントとして一線で活動してきた主人公は、ガンによる余命宣告を受けたことからCIAを辞めて別れた家族の住むパリへと向かう。彼には16になる娘がいるが長年ほったらかしていたことからどう接していいのかもよくわからない。これまで顔を出さなかった理由が「時間が開いたら気まずくなって連絡できなかった」というのもちょっと泣ける。

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正直、ガンによる余命設定は早々から特効薬が登場するから結構どうでもいい。ということは娘を拉致されていない方の『96時間』だと思えばいいのか、ということで観ていた。大分ゆるい映画であることはしょうがないけど僕がこの映画を切り捨てられずにいるのは繰り広げられる父娘の物語と前の座席に座っていたオッサンが理由だ。ケヴィン・コスナーは娘との交流を図るために、自転車をプレゼントする。でもその自転車を見た娘は気まずそうに「え、なにこれ、いらない……」とかいって受け取ろうともしない。受け取るくらいいいだろ!と思っていると色々あって中盤あたり、娘がある告白をする。そこで初めてケヴィン・コスナー「ああ、俺は娘のことなにもわかっちゃいなかったんだ」と痛感するのだ。

 

それからケヴィン・コスナーは、早朝のパリで娘と束の間のランデブーをする。すると先ほどの告白からこれまで溜めていた感情のダムが堰を切ったかのように「お父さんは他に娘がいるんじゃないの?」「私よりそっちの娘の方が大事なんじゃないの?」といった思いが娘から吐き出されるから完全に油断していた僕はちょっと泣いた。ふと前の席に座っていたオッサンが鼻をすすりまくっているのに気づいてチラリと目をやるとメガネを外して涙を拭っていた。おのオッサンにも娘さんがいるのかもしれない。なにか思い起こすものがあったのかもしれない。このハゲたオッサンはいま、ケヴィン・コスナーなのだ。僕はもうそれだけで充分だった。

 

ヨーロッパコープ作品はびっくりするほど気張らなくていいところが好きなんだけど、今回は劇場で観てよかったなと思える体験ができて満足だった。それにしてもこの映画の軽さとケヴィン・コスナーの相性は良かった気がする。馬鹿にしてないよ。軽妙というぴったりな言葉がある。僕はケヴィン・コスナーの顎を引いた苦い表情が結構好きだ。

 

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