鬼畜作家・平山夢明の超傑作短編集『他人事』を読んだ

 

 

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平山夢明といえば、実話系怪談本などでお馴染みの作家だが、同時に「隣のキチガイ」系小話を大量に書いていることでも有名な鬼畜系エンタメ作家だ。同じ鬼畜系と評されがちなジャック・ケッチャムのように、人間の弱さを深く見つめその残虐性を浮き彫りにするというような「実はモラリストなのかもしれない」という印象とはまた違って、読んでいて心の底から気分の悪くなるような、「理解不能」な世界を痛みや臭いを詰め込んで描いているので本当に困る。この人本当に大丈夫?というくらい人として間違っているような世界を間違ったまま描ききるので、読んでいて本当にげんなりするし、読後は外に出たくなくなってしまうことも多々。あまり乗り気ではない誘いを受けた場合には、「平山夢明を読んだあとだから……」と伝えればすんなり断れることでも有名だ。

 

ぼくは高校のころに初めて平山夢明『いま、殺りにゆきます』 』を手に取り、タイトルふざけているのに中身はマジで怖いじゃねえかと心底ショックを受けたが、その衝撃が忘れられずに平山さんの著作を読みあさることとなった。同じく「隣のキチガイ」系の小話詰め合わせである『東京伝説』 シリーズや『ゆるしてはいけない』 なども読んで、「まだ幽霊だったほうがマシ!」と戦いていた。その他にも『独白するユニバーサル横メルカトル』『或るろくでなしの死』 といった短編集や、長編で大藪春彦賞も受賞した『ダイナー』 など、どれを読んでも凶悪な話ばかり。一編読むたび消耗する。消耗しながらもその救いのなさにカタルシスを覚えるといった最高の読書体験を味わっていたし肌はどんどん青白くなっていった。

 

それで今回、「これまだ読んでなかったし一編一編が短くて読みやすそうだな」という低い志から手にしたのが『他人事』だった。

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これが全14編すべてがあまりにも凶悪で最高。なんでもっと早く読まなかったんだろうという思いを抱くくらい楽しいし最低で人でなし。ざっと以下に羅列するので好きなように読んでね。ネタバレはできるだけ避けるよ。

 

 

 

 

 

1.【他人事】

 事故により崖の淵で落ちかけた状態のままひっくり返っている車にとり残された男女二人。後部座席にいた女の子の姿はなく身動きも取れない。車の近くには通りすがりらしき男がいるが、どれだけ助けを依頼してものらりくらりと場にそぐわない返答をしてきてもううんざり!なんなのコイツ!ってあれ……?もしかしてこいつ……という話。身も蓋もなく言っちゃえば、極限状態における頼みの綱がキチガイだったらという話で繰り広げられる理不尽な会話、激昂する女になだめる男、車外に投げ出された瀕死の娘など、生と死の際で、いますぐ逃避してしまいたい現実とどう向き合うかというのっけからウルトラヘビーな話。時にはめっちゃくちゃ嫌いな相手にも頼みごとをしなければならないという社会的な生き物であるわれわれ人類の普遍的な恐怖が意地悪く描かれている。

 

2.【倅解体】

 引きこもりの果てにDVに走った巨漢の息子をぶっ殺して解体しようと目論む初老の夫婦の絶望を描いた傑作。書店でこの話を立ち読みして購入を決意した一篇でもあって、くたびれた夫婦の息子殺害計画に関する会話のリアルさがたまらなかった。また、日々の暴力から疲弊して常にぼーっとした様子の妻の口から飛び出る「え、それもっと早く言ってよ!」という現状を仕事人間である語り手が知る場面もおぞましい。

 

3.【たったひとくちで……】

 ある料理研究家の妻のもとにやってきた初老の男は、その家の娘を誘拐したと告げる。返してほしければ私の指示に従えと、どういうわけかディナーの支度を始めて……。平山夢明の作品における怖いポイントは「こいつだって全然信用ならねえだろ」という気持ちにさせてくれること。根本的に相互理解を目指しはすれど、完全に理解することなんて不可能な我々人類だし……という基本に立ち返らせる、知ってるつもりで全然知らないという居心地の悪さを味あわせてくれる一編。

 

4.【おふくろと歯車】

 高校生の主人公にはチャコと呼ばれる彼女がいるが、その彼女は義父である巨漢の彫師(口癖が「家族は父親のサンドバッグです」というクソ)に凄惨な虐待を受けている。ある日そんなチャコから悲痛な電話を受けた主人公は、新興宗教にはまっている母親が宗主に貢ぐための10万円を手に助けに向かうが揃いも揃ってボコボコにされてしまう。目を覚まし、なんとかチャコと逃避行する主人公だが、チャコの体には謎の異変が現れ……。めちゃくちゃ陰鬱でブラックな青春劇といった感じだが、痛くて痛くて読み進めるのが辛かった。平山さんの暴力描写における「体が損壊される」という恐怖とラストの切なさが秀逸な一編。

 

5.【仔猫と天然ガス

 片足のないひとり暮らしの女性の家に、近所に住むふたりの高校生が押し入ってきて……という平山版『ファニー・ゲーム』といった一編。『ファニー・ゲーム』より最悪。漫画家・冨樫義博さんのあとがきによるとこの話が一番好きだと書いていることから、あの人の漫画から強く感じる隠しようのない黒さに納得もできる一編である。

 

6.【定年忌】

 高齢者の権利に対する国からの保障が一切なくなった日本を舞台に、定年を迎えた男が部下から凄惨な暴力を加えられるという痛快作。「おまえのあのときの嫌味を忘れない」「おまえのせいで子供の運動会に出られなかったからあの子はグレた」「母の死に目に会えなかった」など様々な恨みを炸裂させる部下の面々に黒い笑いをおぼえつつも、高齢者の権利が一切保障されていない社会があるとすれば、これだけ暴力的なことが起こるのもあり得るだろうなという怖さもある。許されたらそりゃしちゃうよなあ。攻撃を加える側としての自分を省みてしまうという嫌な居心地を味わえる人もいるはず。

 

7.【恐怖症召喚】

 ヤクザの主人公が人を発狂させる能力のある中国人の女の子とその側近であるジジイとともに、組織にめをつけられた連中を片っ端から発狂させていくというノワールな一編。相変わらず出てくるヤクザも制裁される側も嫌な描写で彩られているが、なかなかハードボイルドな短編でもある。裏社会の男と少女という組み合わせはだいたい最高だ。主人公がカメラで記録するよう命じられていたり、発狂させる際の恐怖描写などPOVとの相性も良さそうなので、ぜひ白石晃士監督に映像化して欲しいものである。

 

8.【伝書猫】

 付き合った男のDV&ストーカー行為で大学を辞めてしまった二十歳の女のもとへ、飼い猫が一本の切断された人間の指を咥えて帰ってくる。しかもその指には「タスケテ」という傷がつけられていて、さあどうする!という話。ゾクゾクする素晴らしい設定。ラストはどんぐり眼必須!

 

9.【しょっぱいBBQ】

 ふたまわりも上である46歳のおばさんと結婚している24歳の主人公。間には4歳になる息子もいる。そんな主人公は勤め先であるプレス工場で知り合ったじじいからおすすめBBQスポットを紹介してもらい、いざ家族で赴くが、立ちションをしていると淵で揺れる少女の遺体を発見してしまう。せっかくの家族の団欒の邪魔になると奥さんに言われ、何もみなかったことにするが川の向こうに猟師らしき男が現れたことから事態は最悪な方向に向かうという一編。育ちが悪そうなババアの独特の言葉遣いやら、主人公がババアにキスをされた際の「濡れた雑巾の味」という感想など、熟女描写がいちいちげんなりくる。オチも最悪。事勿れ主義の行き着く先としての悲劇かもしれないけど、この結末を責められるほどお前は立派なのかと言われれば口を閉ざしてしまう、そんな読後感。特にお気に入りの一篇。

 

10.【れざれはおそろしい】

 匿名のいじめ告発文から端を発したある名門進学校での出来事を、職務日誌や2ちゃんのスレ、匿名の手紙などのみで物語った異色作。すべてが文書の体で語られていくので、一見無表情なようでその裏にある邪悪な存在が次第に浮き彫りとなっていく構成が最高。平山夢明版『告白』といった感じだ。得体の知れない悪意の表現に関しては、やはり平山節のほうに軍配が上がる気がする。

 

11.【クレイジーハニー】

 犯罪者ばかりを集めて作業させている宇宙基地内で、性処理用アンドロイドが暴走、大殺戮を繰り広げるというSF。暴走の理由が変態オタクの性癖といったところも愉快だし、アンドロイドが襲撃の際に終始『キューティーハニー』の歌を爆音で流している様も滑稽でいい。2500名の人間の減り具合がカウントダウン式に挿し込まれているのもいい。冨樫さんもあとがきで「どんどん人が減る話は大好き」って言っていた。

 

12.【ダーウィンとべとなむの西瓜】

 勤務態度が好ましくないせいでクビを宣告された運送屋の主人公が、ある仕事を引き受けたらクビを取り消してやると言われ、前任者が逃亡したというある仕事を引き受ける、という話。70~80年代のアメリカが舞台かな?と思わせておいて……という設定が面白い。哀愁漂う渋い一編となっております。

 

13.【人間失格

 やっぱり太宰治のあれか?というこちらの予想を汲み取るように、自殺の名所である橋の上で、自殺しようとする女と、半年前に心中に失敗した男の交流を描く一編。タイトル通りの話。

 

14.【虎の肉球は消音器(サイレンサー)】

 いよいよ最後の一編!にして個人的に本著において一番グッときた物語でもある。高校時代から仲良しだった三人組が中年に至るまでの、それぞれの人生を追った一編。なかなかままならない部分もあるが、それでも生きていこうぜといったどこか切ない物語のラストに起こるある出来事と、それに対するオカやんのつぶやく言葉が頭を離れなくなる。ここにきて純文学テイストの一編。ちゃんと嫌な描写もいれながら、この余韻を与えてくれるとは平山夢明はただもんじゃないと改めて思った。

 

 

平山夢明の短編集は数あれど、その凶悪さを余すことなく詰め込み、かつハッとした感動を与えてくれる珠玉の短編集だと思った。といっても著作をぜんぶ読んだわけではないのでまだわからないが、このお手頃感からは想像もつかないところへ連れて行ってくれたという点でも、最高な読後感だった。さくっと刺激的な本を読みたいという人にはぜひ読んでほしいし、むしゃくしゃしている人にもこの黒いエネルギーで精神衛生の向上を図ってみてほしい。