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「ヤー、イーセッキ!」精神炸裂/『テロ,ライブ』

映画

 


映画『テロ,ライブ』予告編 - YouTube

 

韓国映画はいろんな人が劇中で感情をむきだしにしているので観ているこっちも興奮してくる。あと韓国人はよく舌打ちもするので(大学の韓国語の先生もよくすると言っていました)、感情の起伏が目に見えてわかることからも、終始刺激に富んでいる映画が多い。そんな韓国映画界、映画への情熱もパワフルで様々なエンターテイメントの形に挑戦し、見事な水準で仕上げることにも成功しまくっているから恐ろしいのである。

 

この『テロ,ライブ』は舞台がまず放送局のスタジオを出ない。かつてなにかをやらかしたっぽい元人気テレビアナウンサーが主人公で、演じるは『チェイサー』『哀しき獣』『ベルリン・ファイル』『悪いやつら』で最高の演技を見せつけてくれたハ・ジョンウ。

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生放送のラジオ番組でリスナーからの生電話をさばいていたら、あるひとりのリスナーが喋りをやめようとしない。なんとか話をまとめて通話を切り替えるも、なぜかまた同じ男からの声。どうも電波をジャックされているみたい。さらにその男は「爆弾を仕掛けた」とか言い出すので呆れた主人公はCM中に電話先に向かって「うるせえな、なら爆発させてみろよバカ野郎」と思いっきり挑発。すると放送局ビルの窓から見える麻浦(マポ)大橋が大爆発、おいおいちょっと待てよと思っていると再びあの男から電話。「おれは何十年も前にあの橋の建築に関わったがある事故で三人死んだ。政府が勝手な都合で修復を急かしたからだ。安い賃金で生活も苦しいのに酷い待遇!だからおれは生中継で、大統領の謝罪を要求する!」という発言まで飛び出してくる。なんてこった。しかし主人公、再びテレビの世界に返り咲くため、このネタを独占して生放送で犯人の要求を中継してしまおうと目論む。警察にはまだ知らせるな!放送の用意をしろ!こうして正体不明のテロリスト対落ち目の人気アナウンサーの対決が始まるのだった。

 

韓国映画の信用できるところはなんといっても魅力的なクズを迷いなく描ききる点だと思う。今作の主人公だって自分の出世と別れた奥さんとの復縁しか考えてないし、その上司のおっさんも自分が出世するために主人公の提案を引き受けてしまう(大事なところで邪魔もする)。そして始まるテロライブ。犯人の要求である「大統領謝罪」だが、政府は煮え切らない返答だけを繰り返し、犯人は苛立ちを募らせる一方。爆破されて切り離された橋にはまだ人々が取り残されているが、さらなる爆発を警戒して救助のヘリは近づけない。しかも取り残された人々の中にはリポーターとして現場に赴いていた主人公の前妻も含まれているのだ。やばい。早く大統領来いよ!と思うし、前の奥さんが心配だしということでいてもたってもいられないのに犯人は主人公へこっそり告げるのだ。「おまえの耳にも爆弾を仕掛けてある。放送をやめ、そこを離れたら爆発する」

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……。

 

主人公は否応なくこのテロライブを最後まで敢行しなければならないのであった。

 

限定された空間で展開される映画といえば『SAW』シリーズなども有名だけど、いざ韓国映画界がそこに挑戦すると相変わらずサービス満点になることを証明した映画『テロ,ライブ』。そもそもテロ映画というものはテロリスト側の動機や悲しみも魅力の一つなので、今回のこの映画における「ブラックすぎる体質の韓国社会に対する恨(ハン)」には胸を打たれるものがあったし、そもそも今年の四月に起こったセウォル号の大惨事だって想起させる。一方、自分や元奥さんの命がかかった途端に必死に犯人側の要求に同調し出す主人公も面白い。いいから謝れよ、謝るだけじゃん!みんな死ぬんだよ!という思いとは裏腹に韓国政府はなかなか動かない。ようやく動いたと思えば、超喧嘩腰の警察庁長官が現れて生放送中にめちゃくちゃ見苦しい言い合いを始めるなど、あそこは緊張感が一転して笑いが起こるほど面白かった。実際、テロの実行犯相手にあんな態度はないとは思うけど、ああいうオッサン、いるよなあと思いながら観ていた。「このオッサン全然空気読めねえ!今すぐ黙らせなきゃ!誰か殴れ!」みたいな人、いますよね。いないですか?いますよ。意志を貫き通すとかいう美辞麗句に酔っているだけで周囲に迷惑をかけるだけのオッサン。ああ!憎たらしい!と思っていると溜飲の下がる展開が訪れるのでこの映画はわかっている。

 

後半は恐ろしいほどド派手な展開になるところも素晴らしいし、自分本位のクズであった主人公が、ラストで見せるある行動には落涙々。どいつもこいつもクソだ。ケーセッキが溢れている。前半はスリルある展開に引き込まれるがラストは感情が揺さぶられ、98分のライブに幕が下ろされる。切ない。でもざまあみろ!ああ、でも切ない。

 

ということで今年の韓国映画の豊作具合はすごいですね。まだまだ『監視者たち』『さまよう刃』『悪魔は誰だ』『サスペクト 哀しき容疑者』『泣く男』がありますよ。たぶんどれも面白いんだと思います。