高円寺ノースゲートパーク

 

歌う少年。サブカル少女。路地裏の放尿ハーフ。今夜、高円寺を生き延びろ。

 

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18日土曜日。目が覚めると母からのライン。何事かと思って確認してみると、「平成26年度近畿大学卒業式 堀江貴文氏メッセージ」と題された動画のURLだけ貼られている。ぼくは返信することも動画を開くこともせずに起床。その日は高円寺にある友人の家に泊まりに行くこととなっていたのであった~。

 

一緒に行くはずだったハンサムが現代社会の闇“休日出勤”の毒牙にかかったため、泣く泣く現地での合流を約束し、単身で東高円寺駅に降り立つ。物が乱雑に散らばっているクレイジーな部屋で待ち受けていた友人の話では、夜の八時に母親が郵送してくれたお肉が届くらしく、それを三人で食べようとのこと。いいね。ぼくは答えた。パーティーはこうして始まるのである。ヒュ~!前哨戦として『ドラゴンボールZ 神と神』を観た。ベジータが営業マンのように気を遣っていましたよ。

 

地獄の“休日出勤”を乗り越え高円寺に参上したハンサムも加え、三人で肉を焼いた。友人は一糸まとわぬ体の上に布団カバーを巻きつけ、ジーザスさながらの格好になった。サタデーナイトジーザスは独創的な味付けを施したライスの上に、同じく独創的な味付けを施した肉を盛る。取り分けるための小皿なんてしゃらくさい。パソコンからブルーハーブの『未来は俺等の手の中』やパブリックエネミーの『Harder Than You Think』が流れる中、ぼくらはスプーンを手にその山盛りになった肉丼をつつきながら酒を飲んだ。それから『ネイバーズ』のDVDを鑑賞。ゲラゲラ笑っているうちに宵が深まり酔い回り、続いて鑑賞した『イエローサブマリン』のサイケデリックなアニメーションに失禁、「朝になったら高円寺を散歩しようね」と約束して就寝した。

 

翌朝、完全に早起きできなかったぼくと元ジーザスは“休日出勤”という鬼畜生の所業に二日連続で弄ばれることとなったハンサムを見送ったあと、散歩に行く行かないで揉め(五時間も!)、その間に能年玲奈の現状を危惧する記事や、電波がどうこう言っている人のブログを読むなどして過ごし、午後の四時頃になってようやく外に繰り出したのだった。魅力的な遊歩道や裏路地をメインに進むぼくらの行く手には、文化と青春の街・高円寺における日曜午後の香りが待っていた。そして、そんな高円寺の放った刺客たちが次々と立ちはだかった。

 

①おいしいよおばさん

歩くのにも疲れたぼくらがとにかく安い値段でお腹を満たそうと商店街にある色々なお店をチェックしていたときのこと。ぼくらがある喫茶店の前で食品サンプルや店内の様子を伺っていると、背後から携帯電話を耳に当てたおばさんが「このお店おいしいよ」と電話の向こうにいる相手と会話をしながら現れたのだった。しかしぼくと友人には、どう見たってこのおばさんが「電話の向こうにいる相手と会話をしているふりをしながら、ぼくらにこのお店はおいしいのだと伝えてきた人」にしか映らず、ふたりして沈黙し、さっさと立ち去ってしまったおばさんの後ろ姿をただただ見つめる他なかったのである。商店街の繁栄のため、陰ながらそういった活動を行っている人なのだろうか?せっかく背中を押してもらったぼくたちではあったが、結句その喫茶店には入らなかった。昨年公開した映画『STAND BY ME ドラえもん』におけるドラ泣き云々とかいうゴミコピーに興醒めするような清い感性の持ち主であるぼくらは、品のない宣伝広告にはハッキリ「NO」を突きつけてしまうのだった。

 

②『美味しんぼ』一巻

結局ぼくたちは安い値段で結構な量食べられる洋食屋さんに入り、ハンバーグを食べることにしたのだけど、店に置いてあった『美味しんぼ』一巻に描かれているヒロイン・栗田ゆう子の絵が可愛くてびっくり。なんとも愛くるしい作画。今となっては愛くるしさなど見る影もないのに……。あんな食キチとの夫婦生活における心労がたたって顔つきが変わってしまったのだろうか?山岡はクンニリングスをするのだろうか?クンニリングスをしながら、デリカシーの欠片もない食レポを放ったりしているのだろうか?「品のない塩気だな」とか言うのだろうか?品がないのはお前だよ。いい加減にしてほしい。

 

③あぶないよおじさん

家路につくぼくらの前に、自転車に乗ったサラリーマン風の男性が現れ、チリンチリンを激しく鳴らしながら、抑揚がないのにやたらはっきりとした声で「あぶないよ」と二度繰り返した。危険を警告してくれているはずなのに、どこかパースの狂っているその態度がなんだか怖くてそそくさと逃げた。友人は「おれ以外まともなやつはいねえのかよ」と心底悲しそうな声で漏らしたが、そんな吐露でさえ、高円寺の夜に虚しく溶けていくだけだった。高円寺は全ての人間に優しい。平等なその態度は、時に残酷な側面もありのままのぞかせてしまうのだ。

 

 

高円寺には夢を持った人間が大勢いる。最近読んだ又吉直樹の『火花』でも芸人の主人公は高円寺在住という設定だった。そもそも高円寺は江戸時代初期までは「小沢村」という名称だったらしいが、徳川3代将軍の家光が鷹狩りで訪れた際に雨宿りのために宿鳳山高円寺を利用していたことから「高円寺村」と呼ばれるようになり今に至っているらしい。ここは人情の街。みんなで若いお姉さんの働く喫茶店で『美味しんぼ』でも読もうぜ。今日も高円寺の路地裏では、みんながブルースを歌っている。休日出勤を強いる、この世界に対して。