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橋本環奈が麻薬カルテルと戦う映画『HOLA! HOLA! HOLA!』(ネタバレあり)

 

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 〇どっひゃ~!なんて企画を通してるんじゃ~い(汗)

昨今、ハリウッドのアクション映画などにおける悪役として台頭しているのがメキシコの麻薬カルテルである。ざっと思いつく範囲でも『savages/野蛮なやつら』、『エンド・オブ・ウォッチ』、『悪の法則』、『サボタージュ』などがあるし、ドラマでいうと『ブレイキング・バッド』、『皆殺しのバラッド』というドキュメンタリー映画も作られたほどだ。現実世界においてもその凶悪性がインターネットを通じて世界に拡散されるようになり、ぼくたちは彼らの蛮行を日本にいながらにして垣間見ることができる。彼らは処刑一つするにしてもユーモアを忘れない。暴力をいかに“気の利いた”ものにできるかと競い合うような姿からも、彼らの恒常化し半ば麻痺しつつある残虐性を垣間見て戦慄する。その残虐さを、止めようのないこの世の邪悪な理として描いた『悪の法則』は本当に恐ろしかったし、あのシュワちゃんをもってしてもバーにたむろする組織の末端どもを殺すので精一杯という姿を見せつけられた『サボタージュ』も衝撃的だった。前作でミャンマーの軍隊を相手に大殺戮を繰り広げたランボーが次作で衝突する相手もメキシコの麻薬カルテルらしいし、今後も麻薬カルテルが登場する映画が増えていくことだろう。メキシコ麻薬カルテルは現在における悪のアイコンと化しているのだ。

 

 

 

そんな麻薬カルテル映画の最新作であり、我が琴線を叩きちぎるかのような衝撃を与えてくれたのが本日紹介する『HOLA! HOLA! HOLA!』なのである。主演はあの橋本環奈。麻薬カルテルと橋本環奈。ちょっと異常だ。このふたつの要素を組み合わせようだなんてお酒が入っていない限り思いつくはずがない。しかし、““この世の絶望に対してこの世の希望をぶつける””という視点を持つことができれば、今作の構造を理解することができるのではないだろうか。まあ実際その内容は血みどろ残虐絵巻なんだけど、橋本環奈ちゃんというどんな状況にも効果を発揮する清涼剤が主演を張ることによって絶妙なバランスを保つことに成功しているのだ。すごい。

 

〇本編内の“奇跡”たち

以下、ぼくが今作を愛するに至った要素をざっくばらんに紹介していきたいと思う。完全にネタバレありなので、それが嫌な人は携帯を破壊し文明に抗うほかない。

 

アバンタイトル

冒頭、メキシコ某所。ナルコ・コリードが鳴り響く中、酒場で豪遊する男たち。腰にささったギラギラの銃や野蛮な会話の内容から、彼らがカルテルの構成員であることがわかる。


"HEISENBERG SONG" COMPLETA CON ...

※ナルコ・コリードとは、麻薬カルテルギャングスタラップのようなものだと思ってください(参考動画:『ブレイキング・バッド』より)

 

仲良しコンビが連れションをしにトイレに入ってくる。“エル・グアポ(ハンサム野郎)”と呼ばれる組織の殺し屋がエルパソの国境沿いで殺された件についての会話が弾んでいる。話題は“ラ・ブルハ(魔女)”と呼ばれる謎の暗殺者に関するものへと移るが、そこで彼らは背後にある個室がガタガタと騒がしいことに気づく。やれやれと苦笑する二人。誰かがお楽しみ中らしい。やがて個室が静まり返り、ゆっくりとドアが開くも二人は気づかない。そこにはサプレッサー付のハンドガンを構える橋本環奈。間髪入れずに男たちの後頭部を次々と撃ち抜き、動かなくなったその体にもパスパス弾丸を撃ち込んでいく。その動きに躊躇はない。個室の中にはワイヤーが首に食い込んだ男の死体が横たわっていた。ナルコ・コリードの音量が次第に上がっていく中、男たちの腰にささった装飾入りの45口径を手に取りほくそ笑む橋本環奈。手洗い場の鏡で前髪を整える橋本環奈。死体から奪ったテンガロンハットをかぶる橋本環奈。彼女はトイレを後にする。制作会社、キャスト、監督のクレジットが表示される中、スローモーションでパーティーの中を歩く彼女は、満面の笑みでギャングたちに紛れ、体を躍らせながら出口へと向かう。もちろんぼくはこの時点で号泣。主人公がノリノリで踊る映画に傑作は多い。画面は再び死体の転がるトイレに戻る。酔った男がトイレに入ってその惨状に驚愕。慌てて声をかけながらうつぶせになっている死体をひっくり返すと、下敷きになっていたいくつもの手榴弾が転がり出る。その表面には赤文字で「HOLA!」

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粉塵がたちこめ、轟音や悲鳴が木霊する中、画面いっぱいに表示されるタイトル。とんでもない映画が始まってしまった……。

 

 ②“ベイビードール・スクワッド”の日常

橋本環奈は少女のみで構成される暗殺集団に所属しており、アメリカのどこかにある(ぼんやりしている)森の奥の大豪邸を拠点に日夜犯罪者どもを血祭りにあげている(この屋敷の場面は浮世離れしており、どこか幻想的で、フランス映画の『エコール』を思わせる)。そんな彼女たちの日常がテンポよく紹介されていくのだが、華やかなドレスに身を包んだ少女たちが、豪華ホテルのペントハウスで開かれたマフィアのパーティーに潜入して紳士淑女を虐殺しまくるシーンは壮絶の一言。Nappy Rootsの『Good Day』が流れる中、出入り口を背にして横並びした少女たちが『CoD:MW2』の空港ステージさながらの一斉掃射を始めるのだ

テラスに避難した連中さえも狙撃担当の双子に頭を吹き飛ばされるという徹底ぶりには思わず破顔した。本作は制作にマイケル・マンが関わっているため、銃器の描写がとにかくリアル。音響も鳥肌が立つほど重く、腹の底まで響くほどの迫力がある。大仕事を終えたメンバーが帰りの車内で窓を開け、夜風を浴びながらキャッキャとはしゃぐシーンで再度号泣。まるでこの瞬間が永遠だと信じているかのようだ。集団の中で生きるアイドルとしての橋本環奈をあえてキャスティングした効果がここで顕著に現れている。しかし、部屋に戻ってベッドに入るやいなや悪夢にうなされる橋本環奈。汗だくになって部屋の家具を破壊して回り、心配する他のメンバーに抱きしめられてなだめられるシーンには、彼女の置かれた境遇の残酷さが胸に迫る。泣かないで!こんな仕事もうやめて!しかし彼女たちの戦いはこれからも続いていくのだ。不毛な麻薬戦争の闇が、この映画を覆っている。

 

③「掃除屋」

これは事前には知らなかったのだけど、少女たちがしくじったりした際に後始末を任されて派遣される最強の「掃除屋」として“ウォー・ゾーンのパニッシャー”ことレイ・スティーヴンソンが出演している。渋い俳優だ。そんな彼が登場シーンにおいてデンゼル・ワシントンジェイソン・ステイサムに次いでいま話題の“事後演出”をかましたところでぼくは絶頂。駅に着き電車を降りた「掃除屋」が仕事終了の電話をかける。背後で動き出す電車。彼とは反対方向へ走りゆく車両内すべてが血まみれ!まったく説明がないので「掃除屋」がどういった連中を相手にしていたのか、なぜ電車なのかと混乱はするがそのインパクトありきの勢いに感服。窓から死体の足が飛び出していたりするのもオツだ。麻薬カルテルを相手にするにはこれくらい異常な連中じゃなきゃならない、という前提も示されていて実に痺れるシーンだ。

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※『ウォー・ゾーン』の続編待ってるよ!

 

④麻薬カルテルの残虐さ

 一方でこの映画、麻薬カルテルの恐ろしさも余すところなく描いているので油断できない。スナッフビデオ撮影シーンはトラウマ必須の残酷さ。バット1本で人間が肉塊になるまで殴り続ける長回しギャスパー・ノエの『アレックス』を彷彿とさせる)は挨拶がわり。挙句の果てには死体にまでそんなことをするなんて!という極悪ぶり。そしてなにより強烈なのが物語中盤、“ベイビードール・スクワッド”のメンバー3名が作戦に失敗してカルテルに捕まってしまう場面。安否を心配する環奈ちゃんたちの元に、拉致されたメンバーのひとりが傷だらけで戻ってくるのだが、鼓膜が破られ会話が成り立たない上に半狂乱。そんな彼女が引きずる大型のスーツケースの中には、バラバラにされた上で“ひとつ”に結合された狙撃手の双子が入っていて……。劇場では、このシーンで席を立つお客さんが三人ほどいました。スーツケース内にはさらにDVDが入っている。映画内で中身は示されないが、それがスナッフビデオなのは明らかである。カルテル側からの強烈な報復。広大な裏庭で埋葬されるメンバー。そこにはすでに無数の墓石が並んでいる。喪服姿で佇む橋本環奈は息を呑むほど美しいが、その据わった目はまるでメル・ギブソン。物語が加速する。

 

⑤お礼参りa.k.a.「HOLA! HOLA! HOLA!」

 殺されたメンバーと橋本環奈は親友だった。序盤で彼女がパニックになった際になだめてくれたのもその少女。スクワッドの逆襲が始まる……かと思いきや、上からの指示がなかなか下りない。そんな中、橋本環奈は唯一生きて戻った少女のお見舞いに向かう。そこでの筆談シーンで完全に気が触れてしまったと思われていた少女から「復讐して」とのメッセージを受けとるシーンは熱い。真夜中、橋本環奈は身近にあった銃器を手に屋敷を抜け出す。プッシャーの家に殴りこみをかけ、特殊警棒でボコボコにする場面ではクラヴ・マガを使う橋本環奈が拝めて最高。仲間を解体した犯人にたどり着くまで襲撃、拷問を繰り返すその計画を「友達の輪作戦」と称する彼女はもはや阿修羅。口を割らせるためには容赦なく装飾入りガバメントの引鉄を絞る。そんな彼女の暴走に、麻薬カルテル側もメキシコから精鋭ぞろいの殺し屋部隊を呼び寄せ、迎え討つ態勢を整え始める。さらには彼女の所属する組織もあの「掃除屋」を派遣。三つ巴の衝突によって、街は戦場と化すのであった……。

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※以下、物語の結末部分に触れています。
 
 
 

〇World Is Yours.

 今作は本当に恐ろしい映画だ。復讐の鬼と化した橋本環奈、麻薬カルテルの殺し屋部隊、そして“ベイビードール・スクワッド”&「掃除屋」による場所を選ばぬ激しい戦闘は戦争映画さながらである。敵に包囲されるも、ピンを抜いた手榴弾を握ったまま会話を続ける橋本環奈はかなりクールだったし、これまでコレクションしてきた何挺ものカルテルハンドガンを全身に装備し、次々と撃ち尽くしながらナイトクラブを駆け抜けるシーンは神がかっていた。そこで流れる曲がThe Walker Brothersの『Walking In The Rain』というのも気が利いている。

また、襲撃した先がギャングの武器庫であることに気づき、声を殺してガッツポーズをとる姿は100億点。その他、道路から建物内目掛けて催涙ガス弾をしこたま撃ちこんだあと、ガスマスクを装着しツインテールをなびかせながら突入、マチェットサラマンダーで敵を切断していくスローの横スクロールアクションも捨て置くことはできない。

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※マチェットサラマンダー

 

一方の麻薬カルテル側も巻き添え上等の躊躇なき銃撃を行い、街中でRPGをぶっ放すのは当たり前。50口径の機関銃が取り付けられた改造車でハイウェイを滅茶苦茶にするシーンはマイケル・ベイ映画と見紛うほどの破壊が繰り広げられる。また、「掃除屋」がドリフトでギャングを轢き殺しながらフルオートショットガンによるドライブバイで通りの「清掃」を行うシーンなど、各キャラの見せ場も欠かさないところも心憎い限り。

 

そして物語はついに局面を迎える。双子を解体したカルテルの構成員が潜伏するナイトクラブをブラッドバスに仕上げた橋本環奈の前に、ひとりの少女が立ちはだかる。歳の差はほとんどないように見える彼女の名はリサ。“ハードキャンディ”と呼ばれる拷問屋だった。そんな彼女を演じるのは『バトルフロント』でステイサムの武闘派娘を演じていたイザベラ・ヴィドヴィッチちゃん。

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ストクロエと呼ばれていた彼女がこんな役を演じるなんて……というのも、この“ハードキャンディ”のプロデュースによって双子は殺されたのである。血の海で取っ組み合う少女。ここではミシェル・ロドリゲスvsロンダ・ラウジーよりも狂ったキャットファイトが展開する。互いに一撃一撃が致命傷狙い。血で足を滑らせた橋本環奈がその勢いを活かして大車輪をかまし、バーカウンターの向こうまでイザベラちゃんを放り投げる場面では劇場からどよめきが漏れる。しかしこのリサという少女、幼い顔してとてつもないタフネスを見せるのだった。というのもなんと彼女、実年齢が32歳の成人。ホルモンの異常により身体の成長が止まった女だった。橋本環奈はリサと死闘を繰り広げながらも、大きな迷いを覚えてしまう。彼女は未来の自分なのではないか?この地獄のような日々の先に待つ、成れの果てなのでは?隙を突かれ追い詰められる橋本環奈。諦めかけたそのとき、“ベイビードール・スクワッド”がナイトクラブに突入。リサの脚を撃ち抜くことで攻撃を封じ、橋本環奈にも銃口を向ける。見つめ合う環奈とメンバー。そこにカルテルの残党も現れ、ふたりを間に挟んでのメキシカン・スタンドオフ状態。張り詰める空気の中、リサのわずかな動きも見逃さなかった環奈目掛けて、メンバーが落ちていた銃を蹴ってくれる。一斉に火を噴く銃口。弾丸が飛び交う中、床の上を滑ってきた銃を手に取る環奈、見事にリサを仕留める。ちなみにこのシーン、さりげなく顔面にダブルタップをかましているので頭が弾け飛ぶというすごいシーンとなっている。

 

復讐は達成した。しかし彼女を縛る呪いが解けたわけではない。この地獄の中で、これからも生きていかなければならないのだ。さらには組織の指示もなしに暴走したことに対する落とし前もつけなければならなかった。終わりのない銃撃の中、粉塵に包まれ髪を振り乱す少女たちの姿がスローで映し出される。そこで場面が暗転。しばしの沈黙をはさんでこの曲が流れ出す。

 


ここで終わりなのか?と思いきや、晴天の下、車のシートに腰掛け風に前髪をなびかせながら寝息を立てる橋本環奈が映し出される。まさか天国描写?その心配を一蹴するように、運転手である「掃除屋」が陽の光に目を細めながらハンドルを握る姿。車は荒野の一本道を進み続ける。曲は車内のラジオから流れていた。やがて見つけたガススタンドで彼女は車を降りる。視線を交わしたあと、無言のまま車を発進させ去ってしまう「掃除屋」。陽光に目を細める橋本環奈は、風に踊る前髪にひとり気だるげに微笑むのだった。

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この物語は決してハッピーエンドではない。彼女は一見自由の身になったかのようだが、過去のすべてがリセットされるわけではない。麻薬カルテルが彼女を見逃すはずもなく、今後も追手は現れ続けるだろう。 それでもラスト、彼女が見せたあの表情からは、必ずしもネガティブな感情だけが感じられるわけではない。彼女は今この瞬間の生を生きている。屍の山を築き上げ、ようやくたどり着くことのできた光の当たる高み。たとえその光が一縷のものであろうとも、屍の山が容易く崩れるものであろうとも、その瞬間の彼女は確かに全力で生きているのだし、世界は確実に彼女のものなのだ。

 

ぼくらはまた新たな奇跡を目の当たりにしたのである。