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女になりてえ/『ハイヒールの男』

映画

 

その男は伝説だった。

ヤクザのボスが部下を前にして語る。

「もしおれが大統領だったら、やつを側近にするか、銃殺刑にするかだ」

男の職業は刑事だが、悪党さえも陶酔した表情で彼を語る。鋼のような肉体にいくつもの傷痕を有し、どんな相手だろうとその凶暴性で圧倒してしまう男の名はユン・ジウク。

しかし彼には大きな秘密があった。

幼い頃よりずっと「女性になる」という願望を抱いていたのだ。

 

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韓国発「一体どういうことなんだ!?」映画こと『ハイヒールの男』を観た。最強の刑事が実は女性になりたいという願望を胸の内に秘め、日々葛藤しているという話。その話でなにをどうしたいのかわからないところがもう最高なんだけど、いざ鑑賞するとクールで残酷でおかしくて燃える映画だったので本当に最後まで超サイコーだった。

 

この主人公、とにかく強い。オープニングでいきなりヤクザの会合に殴り込んだかと思うと、たった1人で11人をボコボコにしてしまう。主演を張るチャ・スンウォンは長身かつ細身なためアクションがものすごくよく映える。さらには軸のしっかりした立ち回りでキレのある暴力をバシバシ放ってくれるのでこちらも安心して興奮できるのだ。串の束を首元にぶっ刺すなど、バイオレンス描写も信頼の韓国映画クオリティだ。

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またこの主人公、誰からも一目おかれる存在なのである。サイボーグという仇名までつけられ、同僚からは厚い信頼を得ている。ヤクザの№2なんてファンを公言するほどだ。しかし当人はというと、そういったイメージとは違った顔を次第に見せる。カウンセリングの先生に不眠を吐露し、医者にホルモン剤の効果が薄くなるから激しい運動はやめろと怒られ困り眉。そのときの仕草がさっきまでヤクザをしばいていた男とは思えずぼくは混乱。飲み物を飲む際は小指を立ててるし……というのは安直で笑ったけど、この人本当に女性になりたいっぽい。回想シーンが度々挟まれるが、彼が学生時代に同じクラスの男の子と恋仲にあったことも示されるので、その願望が積年のものであることもわかる。なるほど~……といった感じだ。

 

この映画、中盤からはこの主人公がニューハーフの先輩に教会で相談して泣いたり、ブスなニューハーフに思わずビンタしちゃってハッとしたり、思い切って女装しての外出を試みるもマンションのエレベーターで知らない一家が乗ってきてドギマギしたりとハプニング続き。さらには追っていた連続レイプ魔が捕まり取調室に赴くと、そのカスに「おかしいな。刑事さんの言葉を聞いてるとアソコが固くなってくる……」と内に潜めた女性性を見抜かれギクッ!とするなどもう大変。

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それでも彼は女性になることを諦めきれない。みんなに惜しまれながらも辞表を提出し、性転換手術のためアメリカに旅立つ決意をする。送別会において酔った後輩から「昔、捜査で兄貴が女装したことあったじゃないですか!あの姿を思い出すといまでも吐きそうになるんですよ!ワハハ!」と心無い言葉を吐かれて傷ついたりもする。かわいそうでならない。それにしてもこの主人公、最強であることの理由として「女性になりたい気持ちを抑えること」=「完璧な男として振舞う」といったロジックが成り立っているところが面白い。海兵隊に入隊し、いまでは暴力刑事として活躍するのも全ては自らの願望から目を背けるための行為だったのだ(ニューハーフの先輩は見抜いてくれる。曰く「わたしもそうだったから」)。

 

後半はヤクザ側の不穏な動きから再び全力バイオレンス映画へと復するのだが、彼自身の願いを許容しようとしない世界の残酷さが浮き立って切ない。主人公の願望を知った件の後輩が、酒に溺れながら主人公がコップを握った際の立った小指を回想して「兄貴……」となるシーンには笑っちゃったけど、容赦のない暴力は主人公からあらゆるものを奪っていく。これ以上わたしを「男」でいさせないで!そんな彼の願いも韓国ヤクザ名物・刺身包丁で切り裂かれるのであった。

 

とにかくこの映画、ぼく自身かなり興奮したし笑ったし最終的に意味不明なやる気を与えてもらったのだけど、最後まで観てもなんだか掴みどころがない。なにがしたかったんだろうと思うし、全部したかったんだろうという気もしてくる。韓国映画の新たな傑作の誕生に、つい先日tweetしたばかりの韓国映画オールタイムベストを更新したくなったほどでした。興味があればぜひ観てほしい。アクションのクオリティだけでも元が取れると思います。調べてみると撮影監督が『哀しき獣』『サスペクト 哀しき容疑者』 の人らしいけど、この2作に比べるとカメラの揺れも少なくとても見やすいアクションだったように思います。それは編集がいいのでしょうか?そこのところはよくわかりませんが、とにかくオススメします!観なさい!