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ちなみにそれはバンジージャンプではない

 

修学旅行の夢を見た。三津田信三の『作者不詳 ミステリ作家の読む本』という分厚いお化け小説を読んでいるうちに寝落ちしてしまい、真夜中に目覚め、自分が北枕で寝ていたことにゾッとしたあと二度寝した。夢の中でぼくはちゃんと高校生だったが、登場した友人は落語家で、ちょっとした休みを利用して参加した、みたいな態度がムカついた。所詮は夢なのでいざどこへ行ったなどという重要なところは一切登場せず、気が付けば最終日、バスターミナルで解散した生徒たちがぱらぱらと散っていく中、ぼくはしばらく友人とベンチに座って寂寥感を噛み締めたあと、家に向かって歩き始めた。楽しい時間の終わりに直面しているのに、流れる時間に為すすべもなく、でもまあいいか、またなにか楽しいことでもあるだろうと思う、あの感傷や諦観が凝縮された夢だった。

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バンジージャンプする』という2001年公開の韓国映画を見た。主演はいまやハリウッドでも活躍するイ・ビョンホン。ヒロインには2005年に24歳の若さで自殺したイ・ウンジュ。以前から「この映画はやばい」という評判を耳にしていたのだが、最近感受性が著しく鈍化しているぼくはこの映画を楽しめるのだろうかと不安だった。結果から言えばできた。物語前半は、公開当時大ブームを巻き起こしていた『冬のソナタ』にも通じる淡い恋物語。大学生のイ・ビョンホンが、ある雨の日に相合傘をしてバス停まで送っていった名も知らぬ女性に一目惚れするのだが、なんとその人は同じ大学の彫刻科に在籍していて……というものだ。いろいろあって付き合うようになったふたりは愛を深めていくのだけど、中盤から物語は17年後に飛び、国語教師となったイ・ビョンホンの日常を描いていく。ここから物語は「おや?」という方向に進み出すのだけど、興味のある人はぜひ観てほしい。ぼくは真綿で首を締められるように狂気に侵食され、見終わるころには寒気すら覚えていた。日本の映画やドラマに出てくるキチガイといえば、目を見開いて呼吸を乱し、刃物を力強く握りながら舌を出して凄むのが常だけど、この映画はその対極にある佇まいだ。穏やかで落ち着いていて警戒心を抱かせない佇まいの人がいて、ついこちらもその人の話に耳を傾けるんだけど、別れ際の挨拶のときになってようやくそいつが完全に壊れている人間だったと発覚するみたいな、そういうどんでん返しを味わった。いったいどういう気持ちで作ったんだろう。まったく察せなくてとにかく怖い。

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先週木曜に同級生と成増で飲んだ。彼はいま埼玉に住みながら俳優を目指しているらしい。映画を一切観ないのに園子温の映画にエキストラで参加したり、園子温の個展にスーツを着て赴いてスカウトを期待してそのまま帰ったりしているアクティヴな男だ。ビールを飲みながら共通の友人である落語家(夢のあいつ)のことを「妙な説教癖がある」と馬鹿にして過ごした。入った沖縄料理屋の窓からは、向かいのビルにあるトレーニングジムが見えた。屈強な黒人がバーベルを上げ下げする様を眺めていると、不意に友人が「おれもう筋トレしてないよ。頑張ることをやめたんだ」と言い出した。彼はぼくの知る人間の中でも、一・二位を争うほどの筋トレお化けだったはずなのに。理由を尋ねてみると、彼はある日ふと、自分は自信がないから筋トレをしているんじゃないのかと思ったらしい。怖かったから筋肉が欲しかったんだ。おれはもうそいう頑張りをやめたとゲラゲラ笑いながら言うのである。ぼくはその夜以来、筋トレを始めることにした。頑張れるやつが頑張るのをやめた今こそ頑張らなきゃ、ぼくは一生頑張れる人間には勝てない。勝てるうちに勝っておかないと、負け癖はついてまわる。ぼくはもう本当に頑張るし、引き算ばかりのやりとりもやめるし、女も殴る。

 


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