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ブローグではなくオックスフォード/『キングスマン』

「マナーが人を作る Manners Maketh Man」 

ハリー・ハート

 

今年は「絶対いいはずだ」と観る前から確信してしまうような映画が目白押しな気がするが、その中でも『マッドマックス 怒りのデス・ロード』 に次いで個人的に期待値を高めていたのがこの『キングスマン』だった。監督は『キック・アス』 のマシュー・ヴォーン。原作はマーク・ミラーのアメコミで、夢も希望もない街のチンピラが秘密組織にスカウトされ訓練を受けることにより最強のスパイになるというもの。同じマーク・ミラー原作で映画化もされた『ウォンテッド』 も冴えないサラリーマンが秘密組織にスカウトされて最強の殺し屋になる話だった。いいのだそれで。ここじゃないどこかへ連れて行ってもらい、そこで華々しく暴れる物語はみんな好きだ。ぼくも大好きだ。『シンデレラ』に憧れる女の子がいるように、ここじゃないどこかにまだ見ぬやばい世界があって、そこで暴れることを夢見ている25歳の無職だっているのだ。

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幼い頃に父を亡くしたエグジーは、大学を中退し母と同居している無職。まずここで泣かずにはいられない。家には二人目のパパもいるが、いい歳して子分を引き連れている地元ヤクザなので、子供の目の前でセックスをおっぱじめるしDVだってお手の物。クソみたいな環境から脱するための仕事もなく、自己評価も下がる一方なのでとりあえずグレている。盗んだ車で走り出したはいいものの、害獣指定のキツネを避けて事故を起こす始末。お先真っ暗だ!消沈する彼のもとにひとりの紳士が現れる。彼の名はハリー・ハート。高級テイラーキングスマン」の仕立て職人にして国際諜報機関のエージェントだった。

「マナーが人を作る」とハリーは言う。

「『大逆転』という映画を観たことある?」

「ない」

「『ニキータ』は?」

「いや……」

「『プリティ・ウーマン』は?」

「……」

「まあいい。人は生まれじゃない。私は君をぜひともキングスマンにしたい」

「『マイ・フェア・レディ』みたいに?」

かくしてやさぐれエグジーは精鋭紳士キングスマンになるべく過酷な試験を受けることになるのだった。がんばれ無職!試験に受かって世界を救え!

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貧しい労働者の家に生まれ、肉体労働を転々としていたショーン・コネリーが後にジェームズ・ボンド役に抜擢されたように、粗暴な若者にスーツを着させ、紳士へと成長させるスパイ映画がこの『キングスマン』だ。キングスマンであるハリーは、自己評価の低迷に喘ぐエグジーに紳士たるマナーと自信を与え、新世代を担う立派なエージェントへと育てていく。 今作は本当にスーツが色っぽくフェティッシュに撮られていてかっこいいし、それを身にまとい大暴れを繰り広げるエージェントたちを見ているとその様式美に陶酔せずにはいられない。

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演出面でもマシュー・ヴォーン監督お得意の不謹慎なケレン味で溢れている。部位破壊や人体切断などのバイオレンスシーンだって下品になる一歩手前の涼しげな見せ方をしているし、全体に漂うそこはかとない余裕とすました雰囲気が英国紳士の佇まい然としていて心憎い。なによりマシュー・ヴォーンはここ最近のスパイ映画がリアル志向に全力疾走している現状へのカウンターとして今作を遊び心あふれる楽しいスパイ映画にしているみたいなので、そういやあんまり見なくなってきているなあと思っていた秘密兵器も数々登場する。防弾スーツに防弾傘、毒針シューズにライター型手榴弾から電気ショック機能のついた指輪までバラエティに富んでいる。キングスマンの使用する銃がトカレフなのはちょっと不思議だけど、これだってただのトカレフじゃない。バレルの下にショットシェル用の発射器がとりつけられているゴキゲンな代物。とんでもないなあ。

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↑ とんでもなさ

 

スパイ映画に欠かせないのは「とんでもないことを目論む悪役」だけど、今作の敵はサミュエル・L・ジャクソン演じる黒いスティーブ・ジョブズ。世界を良くしようと真剣に考えるIT成金の彼は、「人類こそ地球のウイルス」という考えに行きつき、世界規模の大殺戮を計画する。一方でこいつがなかなか憎めない。血が大の苦手で目にするだけで吐いてしまう繊細な性格であり、ハンバーガーをこよなく愛するリベラルなアメリカ人なのだ。

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↑ ニューヨークヤンキースのキャップをいつもかぶってるよ。モデルはラッセル・シモンズだって

 

さらに悪役の側近としてキャラの立った殺し屋を用意するのも忘れない。ガゼルは両足にブレード付き義足を装着しており、ぴょんぴょん飛び跳ねながら敵をバラバラに切り刻む女版殺し屋1。顔がブルース・リーに似ているのも最高だ。

 

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↑ 愛想はいいよ

ラストは世界中が大混乱に陥ったり秘密基地が登場したりたくさん人が死んだりするので本当にお祭りのような高揚感に酔いしれることができる。相変わらず派手なアクションシーンでの選曲がゴキゲンだった。ぼくは『キングスマン』鑑賞以来ずっとKC & The Sunshine Bandの『Give It Up』を聴いて踊っています。


Give It Up - KC & The Sunshine Band - YouTube

 

今作『キングスマン』は9月11日に公開されることが決定しているそうです。今回ぼくは試写で一足先に鑑賞させてもらったのだけど、それだけでもラッキーだというのに、なんと試写終了後にトークショーまで開かれたので驚いた。そこには敬愛する映画秘宝アートディレクターでありライターの高橋ヨシキさんをはじめ、脚本家の中野貴雄さん、映画監督の松江哲明さんが登場。マシュー・ヴォーンの生い立ちもこの映画と重なっていることや、スパイ映画の醍醐味という点から楽しい話を約三十分ほど聞くことができた。最高だ。「金持ちが大勢死ぬ映画は最高」「映画の中でくらいスカっとしよう」など頼もしい発言まで飛び出し大満足。

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興奮冷めやらぬ思いで上映室を出て、スタッフに劇中の暗号を伝えると傘と非売品プレスをもらえました。KADOKAWA最高。『涼宮ハルヒの消失』 を観たときからずっと大好き。ぼくは夜の飯田橋で中華そばを食べて帰りました。最高の誕生日だと思いました。

 

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