MidnightInvincibleChildren

若きウェルテルのポコチン

 
【前回までのあらすじ】
ある日突然、原因不明の腰痛に見舞われたぼくは、『ダークナイト ライジング』に勇気付けられ、病院へ向かう決意を固めたのであった。
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腰の痛みがまったく鎮まらないせいで、ついにはしゃがみこんで靴紐を結ぶことさえままならなくなったぼくは、ネットで調べて二番目に出てきた駅近くの整形外科へと向かった。看護師さんにいろいろ話を聞かれ、原因がまったくわからないことを伝えると、念のため腎臓も調べることになる。ぼくは糖尿病がとにかく怖いくせに、不摂生な生活を送っている自覚もあり、検尿用の紙コップを手渡されたときは、心の中でいろいろを諦める準備をしていた。
 
尿を提出後にレントゲンで骨の様子も撮ってもらい、いよいよ診察室へ。そこでは日に焼けた実業家風のドクターが待っており、物腰柔らかな対応をしてくれた。彼の触診に対して痛い、痛くないを訥々と返していると、ドクターは何かを納得したように息を吐いたのだ。椎間板ヘルニアだった。ぼくは保険適用のコルセットを購入し、日中はそれを身につけて過ごすこととなった。
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これが思いのほか苦痛を和らげてくれる代物だったのでもうゴキゲン。痛みを感じるような行動を極力避け、安静にすることで様子を見るとのことだったので、ぼくは寝るときもコルセットを巻いた。するとどうだろう。みるみるうちに痛みが軽減されていくではないか。単に慣れたというのもあるかもしれないが、腰痛に関するストレスはみるみるなくなっていった。その一方で、コルセットは素肌の上に直接巻くと肌が荒れてしまうとの説明を受けていたので、外出時には必ず2枚服を重ねなければならない。それがとても面倒だった。暑いのだ。とはいえやむを得ない代償だ。人並みに動ける幸せに集中しようと思った。

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それからしばらくして、ぼくは歌舞伎町へと向かった。『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』を鑑賞するためだ。劇中では、超高性能の義手を左に持つ哀しき暗殺者・ウィンターソルジャーが大暴れする。事もあろうにこのぼくは、ウィンターソルジャーと腰にコルセットを巻いた自分を重ねてしまった。コルセットを巻くことで突き出た神経をいたずらに刺激することなく動くことのできるぼくと、人間を放り投げられるほどの義手を持った殺し屋とじゃ、かなり趣が違うことは理解している。しかし、これからの気温の高い時期を思うと気が滅入る、そのバリバリとうるさい腹巻を、どこか誇らしく思えたのも事実なのだ。

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映画といえば、『アイアムアヒーロー』も観た。そのタイトルそのものをテーマに据え、散弾と血と肉片山盛りで描き切る気持ちのいい映画だった。原作を読んでいない人からすれば蛇足にすら思える有村架純でさえ、その有村架純力に魅了される始末。前半の日常崩壊シークエンスによって、息を呑む気配が劇場に満ちていくのを肌で感じた。痛快ですらあった。英雄の最後のセリフも原作には出てこない、素晴らしい一言だったと思う。大好きな映画だ。

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立て続けに「ヒーロー」が活躍する映画を観たこともあって、人並みにあったヒーロー願望が二倍近くに膨れ上がってしまった。『ボーダーライン』を観たあとはサイレンサーの付いた45口径が欲しくなったり、下半身のガッシリした男に憧れたりしたので、そもそもそういう人間なのである。特殊能力も金もないコルセット野郎にできることといえば見回りである。ぼくはGWで浮かれる夜の街をパトロールしていた。すると近所の公園に足を踏み入れてすぐ、怪しい人影が目に入った。男の子だ。たぶん高校生ぐらいだろうか。そしてその正面には、地面に膝をついた女の子の後ろ姿があった。ちょうど女の子の頭が、男の子の股間部分に重なっている形だ。口淫だろう。ぼくは驚きと興奮と怒りと疲労を同時に覚え、なにも見なかったふりをした。その男の子が慌てて女の子の肩をタップするのは見えた。続けて、ゴポッ、という音も聞こえた気がしたが、気のせいかもしれない。公園の、よりにもよって人目につくところで行為に及ぶなんて、大胆不敵もいいところだ。あまりのショックに泣きそうになった。少し離れたところにあるベンチに座り、おそるおそる振り返ると、彼らはまだその場所にいた。逃げる素振りすら見せなかった。それからぼくが再度確認しに戻った三十分ほど後まで、彼らはその場から動くことなく“なにか”を続けていたのだった。いったい何を考えているんだと頭を悩ませれば悩ませるほどに、足を取られるような感覚に襲われた。ぼくはヒーローにはなれなかったのだ。

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もしもう一度あのカップルと出会うようなことがあれば、ぼくはガツンと言ってやりたい。とはいえ、怒りを言葉にしてぶつけることがぼくは苦手である。自分の怒りを形にしようとした途端、白々しい気持ちになって、最後まで怒り切ることができないのだ。なので可能な限り、フリースタイル風にブチギレることができたらと思っている。ついさっきまでフリースタイルダンジョンを観ていたせいもあるだろう。MCコルセットの殺戮ライムであいつらを泣かしたい。そしてぼくも泣きたい。それからコンビニでサイダーを買って、みんなで飲みたい。ついさっきまでのことなんて忘れてしまったかのように、どうでもいい話をして、別れ、二度と会いたくない。それでも数年後、ラブホテルから出てきた二人とばったり遭遇したい。言葉はなくていい、意味のある会釈を交わしたい。そんなヒーローに、私はなりたい。

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P.S.それ町最高✌️