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「出逢う」というSF/『君の名は。』

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君の名は。』を観た。新海誠監督の作品は『秒速5センチメートル』しか観たことがなかったので、綺麗な絵を描くいじけた童貞といった印象しか持っていなかったのだけど、その最新作である『君の名は。』を観た弟が興奮のあまりネタバレさせてほしいと懇願するほどに感動していたので、冗談じゃない、ぼくも劇場へと急いだのだった。綺麗な絵を描くいじけた童貞の何が悪い?ていうかそもそも、いじけてなんかいなかった。ごめんよ!

 

アラン・ムーア原作のアメコミ『ウォッチメン』に登場する無敵のヒーロー、Drマンハッタンは「地球上のあらゆる人間が奇跡だ」と言った。酸素が自然と金に変わるほどの天文学的低確率で我々はこの世に誕生しているのだ。人と人とが出逢うことも、その奇跡を成す重要な一部なのだ。本作は人と人とが出逢うことの、狂おしいほどの奇跡的側面を、美しい作画と糸のように織り成す時間を用いて描いていた。

 

はっきり言ってこの映画そのものが監督の祈りのようなもので、劇中で描かれていたようにフィクションの中で救える命があるのならいくらでも救えばいいとぼくは思う。もう戻れない過去に祈りが届いたっていい。忘れるべきではないと思うのに、忘れてしまっていたあらゆる過去に、いま一度振り返る機会をこの映画はくれたようにも思う。

 

ということで弟がエモいエモいと繰り返したのも納得のバックトゥザ思春期……以上の映画だった。大学生のころ、大阪で芸人をやっていた友達と『涼宮ハルヒの消失』を観に行った帰りの電車で「背景とかあれだけリアルに描かれるともう実写でよくない?と思わない?」と言われたことを思い出した。「いや!それは違う!」と返そうと思ったのに理由がうまく説明できずに言葉を飲んだのだけど、今のぼくなら言える気がする!言うぞ!アニメーションとはなにかを再現する行為であって、そこには描き手の表現したい、伝えたい想いがはっきりと込められる。的なあれをあの日友人に言ってやりたかったのだ。そしてぼくは新海誠監督の描く美しいアニメーションから監督自身の強い祈りを感じた。今作は、より明確に多くの人たちに祈りが届くよう開かれた物語でもあった。今作がこれだけヒットしているということは、その祈りは確実に多くの人の内側に隠れていたあらゆる感情を揺さぶったということなのだとぼくは思う。

 

P.S.

朝起きて異性の身体になっていたらまずすること、という話題で盛り上がれるのもこの映画の特徴だ。個人的にはパンツを穿いた自分のお尻を鏡に映しながら、飽きるまで撫で回したい。

 

 

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