『何者』を観た。朝井リョウの書いた原作 は発売直後に購入して一気読み。当時大学四年生だったぼくは無内定のまま就職活動を放り投げ、せめて卒業だけはしようと卒論を書いていた時期だったので、読了後は原作を宙に放り投げたあとでワンワン泣いて過ごした。ぼくは朝井リョウが早稲田大学在学中に『桐島、部活やめるってよ』で華々しくデビューし、卒業後はあえて専業作家の道を選ばず就職したことも知っていた。会社での業務をこなしながら「就活とSNSによって浮かび上がる大学生の危うい自意識」を描いたこの『何者』を上梓したってことなのか?物語のそんな背景にまず心を折られていたし、それがのちに直木賞を受賞することも併せて、ひとり絶望感を募らせていた。さらにぼくは劇中にも登場するSNS、Twitterにちょうどドハマリしていた時期でもあったので、そんな思いをあーだこーだTwitter上に書き散らしもしたが、まるでやつの手のひらで踊らされているような気分だった。できるやつはできて、できないやつはできないという身も蓋もない現実を見せつける朝井リョウという存在に怒りを燃やしたぼくは、それまで苦手だった腕立て伏せを休まずに百回こなせるほどに落ち着きがなくなった。どう考えたって『何者』はいけすかない小説だ。就活という大学生の一大イベントで明らかな勝利を収めた作者が、下々のすったもんだをこういう風に描くなんて、下々である当時のぼくには見過ごせなかった。いったいいくつ痛いところを突けば気が済むんだとの怒りで湯が沸きそうだった。それくらい大学四年時のぼくは混乱していたのだ。将来というものの得体の知れなさに。
この物語において、登場人物たちは人生の分岐点に立ち、混乱している。まだ自分のことをどう捉えていいのかもわからないのに、社会からは上手く提示するよう求められ、試行錯誤を重ねる。それが「得意」である人間もいれば「苦手」な人間も当然いて、その違いはいったいなんだ? というドツボにはまってしまう。
はっきり言って今回映画化された『何者』を観て、ぼくはかつてのようなバツの悪さを味わうことはなかった。バツの悪さが極限で炸裂するあのラストも、いま観ると「君たちはお似合いなんだからそのまま付き合っちゃえば……?」くらいに思えたほどだ。それはたぶん演者が全員超魅力的だったおかげもあると思う。就活のために髪を短くしました感あふれる佐藤健、狂おしいほどの人たらし菅田将暉、象徴としての有村架純、感じ悪いのにちゃんとダサエロい二階堂ふみ、妙に清々しい岡田将生、安定の山田孝之と、各々がキャラクターをしっかり立てていた。旬の実力派若手俳優たちが一堂に会するという点だけでも、観ていてとても楽しかった。
「Twitterに垂れ流される自意識問題」みたいな点に関しても、別にいいじゃないのと思う程度で、まるで自分の心臓が左から右に移動してしまったかのような気持ちで観終えることができた。Twitterは最高だ。なにを隠そう、今回こうやって『何者』を鑑賞できたのも、Twitterがご縁で仲良くさせてもらっている方にポイントを恵んでもらえたからだ。Twitterは最高なのだ。そもそもぼくのいま使っているアカウントだって元々は「裏アカ」だったわけだし、そんな小さなことを気にしてぐるぐるしている間は、朝井リョウの思うツボなのだ。
Twitter最高!
ぼくはついに勝利を収めた。かつての自分にフォロワー数で。
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