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ベストノーマライゼーションムービー/『ザ・コンサルタント』

 

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あらすじ

天才的頭脳を持つ会計士のクリスチャン・ウルフは、依頼を受けた大企業の会計監査で重大な不正を発見するが、直後、仕事を打ち切られ、命を狙われる。だが、クリスチャン・ウルフは最強の殺人マシンでもあった(ので安心)。

 

 

自閉症スペクトラム障害とは

主人公のクリスチャン・ウルフは自閉症スペクトラム障害アスペルガー症候群であったり、高機能自閉症などと呼ばれているものなどを統合した概念として「自閉症スペクトラム障害」というものがあるのだと思ってください。簡単に言うと「知的発達の遅れを伴わない自閉症」といったところでしょうか。「高機能」な自閉症ということなので、その言葉のニュアンスに関しては色々な議論がなされていますが、本来、自閉症知的障害を伴う確率が高いものとされているため、便宜上そう呼ばれているのだと思います。主な特徴として、コミュニケーションにおいて相手の気持ちを想像することが苦手だったり、同一性や反復する行動への強いこだわりなどが挙げられます。 程度の差はあれ、僕らの身の回りにも割といます。僕自身、自分がそうじゃないとも言い切れない、くらいのありふれたものだと思っています。

 

www.mhlw.go.jp

 

 

そんなクリスチャン・ウルフは、ジグソーパズルを絵柄のない背面だけを見て完成させたり、大きな数字の暗算を一瞬で行ったりと、天才的な頭脳を持つ反面、コミュニケーション能力に大きな問題を抱えていました。一度始めたことを完遂できないとパニックに陥り、パニックに陥ると周囲のものを破壊。彼を理由とした夫婦間の不和から母は家を出ていき、軍人である厳格な父からは「厳しい環境でも生きていけるように」と、虐待レベルの教育を受けて育つこととなります。ここのところは『キック・アス』のヒット・ガールですね。顎の割れた巨漢のヒット・ガールです。

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今年の暫定ベスト1!

劇場鑑賞はじめとして選んだ今作ですが、結論としてとても面白かったです。まだこれしか観てないんですけど、すでに今年ベストな気持ちですらいます。ものすごく完成度の高い映画、とは別に思っていませんが、胸中に明かりが灯るような、そんな優しさにあふれた映画だったように感じました。

 

合わせられない目線、指先に息を吹きかける癖、3つずつで構成された食事、噛み合わなくなると「冗談だ」で誤魔化す会話術、ぎこちないつくり笑い、「挙手」での挨拶。目の前に転がる生きづらさへの対処法を丸暗記して乗り越えようとしている主人公の描写の数々は、観ていてたまらないものがあります。そんな彼が毎晩振り返るのは幼少期の思い出。主人公の声紋を調査したFBIの分析官が「トラウマのある子供に見られる特徴」みたいなことを言うシーンがありましたけど、自閉症スペクトラム障害の子供は周囲とのズレから生じるストレスの影響からトラウマを抱えることがとても多いと言われています。これはそんな男の物語なのです。

 

幼少期に叩き込まれた武術がシラットというところも良かったと思います。監督のギャヴィン・オコナーのインタビューによれば、「効率的であり華やかでもある」ことが主人公のキャラクターに合うと思ったそうで、なるほど。ああいう父親が息子を連れてアジアに向かう感じも、なかなかリアルな気がしました。ヨーロッパ圏よりも、断然アジアに行きそうですよね。偏見ですけどね。

 

ガンアクションも良かったです。テキパキした正確な動きで確実に息の根を止めていくスタイル。数字に強い男らしくスライドストップ前にマガジンをこまめにチェンジするなど、キャラクターらしい戦い方の演出もされていたと思います。これ見よがしには描いていませんでしたが、相手が撃っている最中などにも残弾をカウントしているような「待ち」を見せていたように思います。心憎い。

 

 

 

着地点について

なかなか目まぐるしい展開の物語ではありますが、その着地点に関しては意見が分かれるだろうなという気配は感じました。僕はあの意表を突かれる感じがかなり好きです。物語的にシビアに落とすことだってできただろうし、それを望む声だってわからいじゃない一方で、あの展開には強く胸を打たれました。「ありがとう」という気持ちでいっぱいです。さらに最後の最後にも、この物語がどれくらいの「規模」で進んでいたのかが判明するある展開が待ち受けているのですが、そこでまた「ありがとうございます」という気持ちがこみ上げてきました。なんてノーマライゼーション精神溢れる映画なのでしょうか。また、ギャヴィン・オコナー監督の前作でも描かれていたような、「母の不在」を前提とした「父との関係」も顕著に現れていたと思います。本筋には大きく関わってはきませんが、障害者自立支援施設のあの人もまた「父」であると同時に、その奥さんの姿は最後まで現れません。鑑賞後に振り返ってみると、あの人の過去に関しても想像が膨らみます。

 

僕は物語における温度の高い部分に共鳴できたとき、その作品が愛おしいものになると思っています。『ザ・コンサルタント』は作り手が見せた登場人物たちへの眼差しに打ち震えたという点でも大好きな作品です。

 

彼はなぜ世界の不正と戦うのか。主人公は一度始めたことを中断できない性格なのです。そんな彼の「道の途中」を描いた今作、僕は断然支持したいと思います。そもそもアクションがかっこいいし、ベルト使うとこなんて最高〜。

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 ↓ 監督へのインタビューです。

www.gizmodo.jp

 

↓ アメコミになったそうです。翻訳版がこちらで読めます

www.gizmodo.jp

 

 ↓ 日本プンチャック・シラット協会会長のコメントがあります。トレーニングって脛ゴリゴリのことかな

wwws.warnerbros.co.jp