MidnightInvincibleChildren

見たい夢を見る(長門有希編)

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夢をみていた

『ラ・ラ・ランド』日本版キャッチコピー

 

 

一度だけ、 見たい夢を見たことがある。

 

大学一年の頃、『涼宮ハルヒ』シリーズにどハマリした僕は、その中でも特に対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース(これを早口で諳んじるレベルでハマっていた)の「長門有希」にお熱。彼女は読書家という設定で、アニメ版では毎回長門有希が実在の本を読んでいることも見所の一つだった。中でも一期の実質最終回に位置するアニメオリジナル回『サムデイ・イン・ザ・レイン』において、彼女は阿部和重の『グランド・フィナーレ』と綿矢りさの『蹴りたい背中』を読んでいる。どちらも芥川賞受賞作ということで、この時期の長門有希ちゃんは芥川賞受賞作の消化期間中だったのかな?と推理した僕は、その日のうちに『蹴りたい背中』を購入。「にな川」というキモいアイドルオタクのことがどうしても気になってしまう主人公「ハツ」は、そんな彼の背中を見て「蹴りを入れたい」と思う。久々に読んだ『蹴りたい背中』は、そんな物語だった。その内容がどうしても長門有希ちゃんの心を代弁するかのようないじらしいものに思えて仕方がなくなった僕は、興奮の坩堝にダイブ、休憩を挟むことなく一気読みした。最高の小説だった。これを読んで、棚に戻すことなく部室の机に置いておくばかりか、居眠りをするキョンの「背中」にカーディガンをかけて去っていく長門有希やん。破顔する僕はベッドに寝そべりながら「ちくしょうマジか~」と漏らし、後頭部をかきむしっていた。窓からは初夏のさわやかな風が入り込んできた。

 

そして夢を見たのである。僕は青々とした芝生生い茂る知らない民家の庭にいた。そこにはビニールプールがあって、SOS団のメンバーが水浴びをしている。ホースからほとばしる水が陽光をキラキラと反射させている。最高の、夏の景色。その中で長門有希は、いつも変わらぬ無表情とアニメでも着ていた水着姿で、他の面々と水を浴びている。僕は彼女を性的な目で見ているわけではないので、その姿にやや気恥ずかしさを覚えるものの、僕はその夢の中において、恐らく登場人物の一人ではない感じだった。そんな実体のない、幽霊のように彷徨うだけの視点として目の前の光景を慈しんでいた自分だったが、不意に長門有希がこちらに向かって近づいてくる。彼女には僕が見えているのかな、やっぱり宇宙人だしそういうのもアリなんだろうな、と思う僕の腕を取った長門有希は、そのまま膝を付けと指示するように、腕を引いてきた。僕は当然のように芝生の上に膝をつくのだが、すると彼女は、どういうことか僕の背後に回り込むと、バン!と勢いよく蹴りを入れてきたのだ。前のめりに手をつく僕は、「これは『蹴りたい背中』だ」と思った。

 

目を覚ました僕は、冷めやらぬ興奮と同時に、どこか割り切れない想いを抱いていた。あまりにも直截的すぎて、夢の中ですら「そのまんまじゃん」と思っていた気がする。芸がなさすぎるあまり、貧しい気持ちになってきた。本当に欲しいもの、でも得難いものというのは、こんなふうに手に入れちゃダメなんだと思った。僕は人生における大事なことを、長門有希からの背中への蹴りで学んだ。

 

 好きなものを大事にしていきたい。僕は自分の好きなものをちゃんととっておき、ふとした瞬間に引き出しては、その色香に想起される記憶に触れたい。長門有希への好意にめまいを覚えていたあのころの僕は、函館の夏の匂いにつつまれていた。熱されたアスファルトの香り、釣具屋の磯臭さ、ひんやりとした夜気の爽やかな肌触り。僕はいつだって見たい夢を見ている。

 

 

 

 

過去にも 「夢」の話が出てくる日記を書いていたので貼ります ↓