『クリミナル 2人の記憶を持つ男』を観た。監督は『THE ICEMAN/氷の処刑人』のアリエル・ヴロメン。脚本は『ザ・ロック』のデヴィッド・ワイズバーグ&ダグラス・S・クック。僕はとても勘がいいのでしょうか。この時点でなんだかゴキゲンな気がしていたのです。
あらすじ
ロンドンでCIAエージェント(ライアン・レイノルズ)が殺害される。彼はテロリスト(ジョルディ・モリャ)に追われるハッカー(マイケル・ピット)を保護しており、その隠れ家を知る唯一の存在だった。テロリストの狙いは、ハッカーが開発した核ミサイルを遠隔操作できるシステム。一刻を争うCIA(ゲイリー・オールドマン一同)は、記憶移植手術を研究する博士(トミー・リー・ジョーンズ)を呼び出し、凶悪な死刑囚ジェリコ(ケビン・コスナー)にその記憶を移植する人体実験を実行させる。エージェントの記憶が保たれる48時間以内にハッカーを捜すよう命じられるジェリコだったが、あまりにも性格が凶暴だったため、護送中に逃亡、シャバでの自由を謳歌するのであった……
ジェリコという男
ケビン・コスナーが凶悪な男を演じる映画といえばあの『スコーピオン』が思い起こされます。エルビス・プレスリーを愛してやまない異常者がカジノを襲撃するも、仲間に金を持ち逃げされたのでひたすら暴れ回るというゴキゲンな映画。ということで今作でケビンコスナーが演じるのは死刑囚、その名もジェリコ。なにをしてきたのかはぼんやりと語られる程度ですが、話を聞く限り大勢の人間を殺してきたらしい。その凶悪さを買って勧誘に来たギャングまで惨殺しているとのことなので、その見境のなさたるや、超危険人物であることは確かです。彼は激情型のサイコパスで、善悪の区別がつかないばかりか、自らの行動の結果を予想することもできない。いくら死刑囚とは言えそんな男に大事な記憶を移すなよ!と一瞬思いますが、彼は幼少期に父親からの虐待で頭部に怪我 → その後遺症で前頭葉が未発達 → 他者の記憶を植え付けるための余地が残っている、という物語上のロジックがあるので一安心。こういう一言があるのとないとじゃ没入度も変わってくるので嬉しい限りです。
今作においてジェリコはまさに「獣」。街に繰り出せばろくなコミュニケーションも取らずに暴力と略奪を繰り返すのみ。しかしそんな彼の脳内では移植されたCIAエージェントの記憶が徐々に蘇り始め、いままで感じたことのない感情の芽生えさせるのでした。暴言を吐いた直後に謝罪の言葉が口をついて出るなど、野蛮な行為にも歯止めがかかってしまう。しまいには一度も会ったことのない「妻」や「娘」に対する愛情まで芽生えるのだから、サイコパス的には大混乱。こういった「怪物に人間性が宿る」という普遍的なコンセプトが、ケビン・コスナーの疲弊の滲む顔にはよく似合っています。厚手の服を重ね着しているので、どことなくひょうきんな熊さんのようにも見えてきますね。
でもちょっと待った。せっかく野蛮なサイコパスだったのに、優しい心を手に入れたら面白みに欠けるのでは?そんな懸念が浮かんできたかと思います。でもだいじょうぶ!移植された心優しい記憶の持ち主は、とはいえCIAのエージェントなのです。言うなれば訓練を受けた殺人マシン。ジェリコの戦闘力はむしろ向上し、持ち前のバーバリズムと移植された戦闘スキルの合わせ技で大暴れを見せてくれます。手にとった家具や手斧で敵を滅多打ちにするそのファイトスタイルは、近年の韓国映画に見られるバイオレンス描写を彷彿とさせるほどリズミカルで重く、それがまた心地いい。ほとんどミョン社長(『哀しき獣』)です。殺したばかりの死体に向かって「ウアー!!!」と叫んで見せるところも最高。銃を手にすればテキパキした動きで発砲。お得なキャラクターだなあ。
作り手の真摯さ
キャラクターだけではありません。この映画は、エンターテイメントを丁寧に作り上げようという真摯な思いに溢れています。まず銃声がでかい!銃が怖くないと盛り上がりませんからね。さらに弾着効果も妙にこだわっていて、頭を撃たれたキャラクターの後頭部からビロビロの塊がぶら下がるのが一瞬見える。そんな細かい描写はなくても支障はないはずのに、それでも入れてくれる優しさ。さらに魅力的な女殺し屋も登場。丁寧な演出の中にケレン味も忘れない、その精神が実に大人です。銃とか弾着効果とか殺し屋とかそんな話ばかりしてますが、そういった点に目を向けられるほど大枠の物語に身を委ねられる土壌がある。そんなところが胸中を温かくしてくれます。
豪華キャストの共通項
ということでたいへん楽しい映画だったのですが、さらに重要なポイントがあります。ここからが本題といっても過言ではありません。というのもこの映画、キャストがとても豪華で、「知ってる!」顔が勢ぞろいしているのです。それもそのはず、ここ十年で大変な盛り上がりを見せているヒーロー映画出演者たちが、これでもか!と出演しているのです。以下、一覧!
『マン・オブ・スティール』の父親(地球での)
ライアン・レイノルズ(殺されたエージェント)
ガル・ガドッド(エージェントの妻)
ゲイリー・オールドマン(CIAロンドン支局長)
『ダークナイト』シリーズのゴードン
トミー・リー・ジョーンズ(博士)
『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』の大佐
ジョルディ・モリャ(無政府主義者)
『アントマン』でプレゼンを聞いていた人
アンチュ・トラウェ(ドイツ軍出身の殺し屋)
『マン・オブ・スティール』のファオラ
スコット・アドキンス(CIAエージェント)
『ドクター・ストレンジ』のカエシリウスの部下
詳しく探せばもっと出てくるかもしれません。それだけ現在の映画業界におけるヒーロー映画が利かせる幅が広いということでしょう。
ということで『クリミナル 2人の記憶を持つ男』は、見所多い快作でした。唯一言いたいことを挙げるとするならば、スコット・アドキンスのアクションシーンが一切なかったところでしょうか。とはいえ、物語上その必要性を感じる場面は特になかったので、ストレスになるというわけでもないと思います。本作の脚本を担当したダグラス・S・クックさんは2015年に亡くなられています。エンドロールでは本作が追悼の意とともに捧げられていました。面白い映画をありがとうございます。R.I.P.