MidnightInvincibleChildren

マーファカナイト

 

寒い町から友人が来た。ここでは便宜上【君のフランチェスコ】と呼ぶ。彼は「僕の大学時代の友人の、高校時代の後輩」だ。自分でもいまいちピンときてないので、読み返しやすいように太字にしました。つまり大学が同じわけではないので、大学を卒業するまで会ったことすらなかった。しかしSNSが隆盛を極める現代においてはそんなこと関係ない。初めて会った場所は埼玉で、駅前の和民で昼間から飲んだ。その後彼は地元に帰ったので、会うのは今回で三度目だし、三年ぶりということになる。

 

土曜の夜だった。僕は電車を乗り継ぎ都内のO町に向かった。【君のフランチェスコ】は東京旅行の最中で、【イノウエ】の部屋に泊まっていた。ちなみに【イノウエ】ともSNS界のコンプトンことTwitterを介して知り合った。つまりストレイトアウタツイッターな僕らは合流するや即日高屋へ向かってビールで乾杯。おつまみ三品盛りを食べながらおしゃべりをした。色々話しているうちにサム・ライミ版『スパイダーマン』の話題になり、「キルスティン・ダンストは全然ブスじゃない」という話をした。「石原さとみとかをアイコンにしているようなくそったれどもがキルスティン・ダンストをディスっているのがどうしても許せない」と【イノウエ】は震えながら漏らした。おそらくかなり怒っていたのだろう。この世界には悪いやつが多すぎる。

 

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夜の東京を歩くのは久しぶりだったし、それを楽しいと感じる体験もまた、久しく味わっていなかった気がする。ビルがでかいねとか、急に住宅街だねとか、あのマッサージ店はエッチな行為ありかなとか、この町マッサージ店ばっかりだねと話しながら【イノウエ】邸に向かう。コンクリ打ちっぱなしの壁がクールなその部屋で、またお酒を飲んだ。ベイビーレイズJAPANの動画を観ながら【イノウエ】並びにすでに布教済みである【君のフランチェスコ】両名の推しを確認したり、Amazonプライムビデオで『パニッシャー:ウォー・ゾーン』のアクションシーンだけを観たりした。それから、なんとなく盛り上がるかなと思い『ストレイト・アウタ・コンプトン』を流した。

 

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【イノウエ】の部屋には音楽制作機材があり、そこから流れるビートに合わせてフリースタイルっぽく振る舞いながらただ喋る、という遊びをした。これは前回【イノウエ】と遊んだ際に酔った勢いで始めたことなのだが、リズムに合わせて言葉を紡ごうとする能動的姿勢が思いもよらぬ本音を引きずり出してくれることが多々ある。僕は最近あった嫌なことやムカつく人間のことを思い浮かべては韻も踏まずに早口の悪口をまくし立てていた。しかしその日は度数9%のチューハイを控えていたことから、言葉がうまく出てこないし自分を鼓舞するフロウも生まれない。また、僕の中にあるヘイト残高が雀の涙ほどしかないことも災いしていた。本来喜ぶべきことのはずだが、いざとなると物足りなくも感じる。クソが。僕はTwitterInstagramをのぞいてはカチンと来ることを探す、そんな不毛な行為にまで走った。

 

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そのときだった。【君のフランチェスコ】が僕のあとに続いた。彼は「インスタ映え」と「しょうじょう蝿」で痛烈な韻を踏んだのだ。羨ましかったので、僕も慌てて韻を踏もうと必死で考えたが、考えれば考えるほど脳が硬化していくような感覚に襲われ、ついにはなにも言えなくなった。興に乗ったらしき【君のフランチェスコ】はその後も強烈なパンチラインを叩きつけた。テレビ画面ではシュグ・ナイトが駐車場で男をボコボコにしていた。

 

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午前11時ごろ目覚めた。成増のコメダ珈琲で豆を食うという予定も面倒なのでやめにする。僕らは各々のタイミングで起床し、目覚めのビートを流したり、昨夜の残り物であるポテトチップスや煮干しを食べたり、YouTubeなどを観て過ごした。最後にみんなでカフェに行って日曜の午後を彩ろうということになった。外に出るころにはすでに日は傾きかけていて、気持ちのいい風が吹いていた。あまりにもあっというまだ。日曜の午後に碇をつけたいと思った。いつだって気がつけば夕日と共に地平線の向こうに消えてしまう。日曜は静かに遠のいていった。

 

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本当ならもうひとり友人がくる予定だったのだ。しかし彼は急な出張を入れられてしまい、長野に行っていた。それはとても残念なことだし、同時にその苦痛を察したりもするが、ここではあえてまたの機会を設ける口実にしたいと思う。ということで、僕はそんな彼にLINEで送るために何枚かの写真を撮っていた。和気藹々とした雰囲気が伝わればとの思いを込めて何枚も撮影した。最後にそれらの写真をここに貼って筆を置こうと思う。あの夜、同じ月夜のもとにいたことを、ここに残しておくのだ。

 

 

 

 

 

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