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落書き犯はだれだ?/『ハノーバー高校 落書き事件簿』

 

Netflixで『ハノーバー高校 落書き事件簿』を観た。全8話ほぼイッキ見だった。

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白昼の落書き事件

それは2016年3月15日に起こった。

ハノーバー高校の教職員用駐車スペースに停められた車27台に、スプレーによる卑猥な落書き(ペニス27本!)が描かれていた。

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学校側は事件の翌日、最上級生のディラン・マクスウェルを呼び出し話を聞く。

 

 

容疑者ディラン・マクスウェル  

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なぜディラン・マクスウェルが真っ先に疑われたのか?

それはディランが容疑者としてはあまりにも理想的だったからだ。

 

 

①目撃者

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事件当日、落書きをするディランを見たという生徒が現れる。彼の証言では、落書きをしていたのはディランで間違いないらしい。

 

 

②アクセス権

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消去されていた監視カメラの映像。そのサーバーにアクセスする権利は放送研究会に属する9人の生徒にしか与えられていない。ディランは撮影機材を目的に、放送研究会に所属していたのだ。

 

 

③動機

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事件では、スペイン語教師の車だけタイヤがパンクしていた。このスペイン語教師は、以前にもディランによるいたずらの被害にあっている。

 

 

④イタズラ遍歴

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ディランと仲間たちは「ウェイバック・ボーイズ」と名乗り、イタズラ動画を撮影してはYouTubeにアップしていた。内容はといえば、道を歩く子供に接近してオナラをして走り去るとか、公園などで子守をしているお父さんのズボンをずりおろし「小児性愛者だ!」と叫ぶなどだ。さらに彼には校内のホワイトボードに週四でペニスの絵を描くというライフワークまであった。

 

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本当に犯人はディランなのか?

そんなディランだが、彼自身は一貫して犯行を否定。にもかかわらず、状況証拠から教育委員会は彼を退学処分にする。そのやりかたに疑問を持った放送研究会のピーターとサムは、事件の全貌を明らかにするために『アメリカン・ヴァンダル』というドキュメンタリー番組の制作を決意。それが本作ということになる。

 

 

バカバカしい学園ミステリ!からの……

本作は、「バカなあいつのバカな事件」という大勢に共有された文脈と戦う物語だ。真実を追う主人公ふたりはディラン犯行説にあらゆる観点からメスを入れていく。落書きペニスとディランが描くペニスの決定的なタッチの違いや、目撃者の信憑性、教師陣のもうひとつの顔などなど。調査する側も高校生なのでどこか牧歌的ですらある。事件の内容が内容だけに「ペニス」だの「玉毛」だの「手コキ」などの言葉が頻出し、ちっとも様にならない感じも楽しいし、学校内の噂話や浮かび上がる人間関係にゴシップ的な息を潜めたくなる高揚感も味わえる。

なにより、1話あたり30分前後というミニマムさもありがたい。普通に真実も気になるので、あとちょっと、あとちょっとといっているうちに全8話を観終わってしまう。

 

 

全8話を観終わった僕は呆然とした。単純な事件のはずだった。少なくとも僕はそう思って観ていた。しかし 追えば追うほど真実は靄に包まれるかのように、また新たな謎が生まれる。ヘラヘラ笑っているうちに引き返せない場所まで来てしまったような不穏さが満ちている。文脈は錯綜する一方。「学校」という場所がそもそもはらんでいる底なし沼のような側面に足を踏み入れてしまったんだと焦りすら覚えた。そして落書きされた「ペニス」が象徴するものについてだとか、何気なく見過ごしていた言葉や、最後まで明かされないこと、『American Vandal』という原題にについてなど、とにかく心が忙しい。僕はちゃんとショックを受けていて、なんらかの作品に触れてショックを受けることの感慨をしかと味わっている。なんだか居心地が悪くて最高。本作は学園ノワールの傑作であり、僕の愛してやまない「青春の黄昏映画」としても後を引くエモさをはらんでいる。すごい。

 

ちなみに僕は吹き替えで見ました。情報量が多い作品なので、そちらもおすすめです。

 

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