跳梁、2018

 

2018年が始まって1ヶ月が経とうとしている。2008年は、僕が高校3年生だった年だ。田舎の高校で、悩んだり開き直ったりを繰り返していた。いまでもそれは変わらない。この1ヶ月の間ですら悩んだり開き直ったりを繰り返し、去年の10月とくらべて体重が5キロ減った。

 

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去る金曜日、地元の友達が出張で東京に来ているからと関東近辺にいる同級生を新宿に集めた。平日ということもあり、プレミアムフライデーとは無関係な日々を送っている面々の集まる時間はまばらで、僕が待ち合わせ通り指定の居酒屋に入るとまだひとりしか来ていなかった。彼女こと【留学帰り】は高校の頃の同級生だけど、当時からそんなに絡んでいたわけでもなかったので意外と話題が思い浮かばず、「どれだけ久しぶりか」だけをテーマに10分くらい過ごした。会場である居酒屋は一軒め酒場で、【留学帰り】は「ここ予約する店じゃないよね」と言った。彼女の左手の薬指には指輪がはめられていたけど、みんなが集まってから聞こうかなと思って、一旦見なかったことにした。

 

次に現れたのはYだった。去年の夏、早朝の東京駅で死にかけたあの日に、二丁目で朝まで飲み明かしていた相手ことYだ。髭がボーボーなのは変わらなかったが、髪まで伸ばし、伊達メガネをかけていた。本人曰く「from イングランド」とのことだった。そんな話をしながらビールを飲んでいると、Y a.k.a.【イギリス】が「またこの三人か」と言った。2016年の春に花見を催したときも、この三人しか集まらなかったという過去があった。しかも【留学帰り】が途中で離脱したので、結局残った僕と【イギリス】で新宿二丁目に向かって朝まで過ごしたのだ。また今日もみんなこねえんじゃねえの、と僕は思った。

 

しかし花見のときとは主催者の人望が違うため、そんなことにはならなかった。次に現れたのは、座布団の上で正座して独り言をまくし立てることで生計を立てているHだった。Hは最近初めて夏目漱石の『坊っちゃん』を読んだそうで、「主人公がずっと田舎者の悪口を言っていて面白かった」と言った。以下、Hのことを【坊っちゃん】と表記する。ちなみに【坊っちゃん】はいつも同じグレーのチェックシャツを着ている。

 

それからしばらくして、ようやく主催者である【ハンサム】が現れた。僕が【ハンサム】と会うのはかれこれ2年ぶりで、あまりのウキウキからオリジナルTシャツを持参していた僕は、それを彼にプレゼントした。「マジで絶対返さないけどいい?」と喜んでくれた【ハンサム】は、去年彼女と婚約している。二年前と比べ、目に見えて太っていたけど、それは彼の幸福度と生活水準の高さを物語っているに過ぎない。その日集まったメンバーの中で一番の高収入を誇るのがおそらくこの【ハンサム】だ。なにかを妬む瞬発力に関しては定評のある僕だが、こと【ハンサム】に関しては不思議とそういう感情は芽生えない。その理由を強いて言うなら、僕の好き嫌いだ。

 

そこから先も続々と人が集まっていく。中学を卒業して以来会っていない友人もふたり現れた。【空手部】と【っ】だった。例によって当時からそこまで会話をする間柄ではなかったふたりでも、互いに「学校」とか「第二次性徴期」という呪いから解放された今のほうが楽しく会話することができる。【空手部】は酔うと感情が大きくなり、道を歩きながら前方から人が歩いてくると「あいつらこっちを睨んでいる。お前はどっちをやる?」とか言い出すめちゃくちゃダサいやつだ。【っ】は高校卒業後に通っていた専門学校を、プロサッカー選手になることを理由にやめてしまったという逸話を持つ男だった。その話は県外にいた僕にも届くほど有名だった。なぜそこまで拡散力をもっていたのかというと、【っ】は小学生の頃からずっと野球部だったからだ。改めて本人にその話について聞いてみると、ちょっとだけ恥ずかしそうにしつつも、決してウケ狙いのたぐいではなかったことを話してくれた。彼は当時19歳。19歳のころの僕は大学に行っているふりを続けながら引きこもっていたので、なんとなくそういうこともあるよなと思った。

 

お笑い芸人をやっている友達も来た。高校時代はAAAの西島隆弘そっくりなチャラい男だったのに(しかもサッカー部!)、今となっては体重も増え、映画監督の白石晃士そっくりだ。一応ここでは【にっしー】と呼ぶことにする。最近、所属事務所の先輩が逮捕されたばかりなのでそのことについて色々質問をしてみたものの、「俺はなんも知らん」の一点張り。背後に敷かれている箝口令を強く感じた。

 

その後も【バンドマン】をやっている友達、小さな会社ながら【代表取締役】をやっている友達、制作会社勤務のみんなの【アイドル】までが加わり、一軒め酒場じゃ収まりきらない数となってきたので金の蔵に移動。【空手部】は明日の朝六時から仕事とのことで離脱。半分以上が知らないメンバーであるにもかかわらず来てくれる【っ】に感動しつつ、みんなで始発までの時間を過ごす。バイタリティの塊【イギリス】が「三人同時に同じ音から始まる別々の言葉を発し、その中のひとりが発した言葉をみんなで当てる」ゲームをいきなり考案、【ハンサム】【坊っちゃん】【代表取締役】が実際になにかを叫び、【坊っちゃん】の発した言葉をみんなで予想した。答えは「たいこ」だった。正解者には【イギリス】から1ポイントが与えられた。

 

 その後も言葉を発するメンバーを変えて「三人同時に同じ音から始まる別々の言葉を発し、その中のひとりが発した言葉をみんなで当てる」ゲームを二回やった。その間に【イギリス】は人の言動に加点減点を行うことにハマってしまった。もうすっかり真夜中で、高校時代から居眠りの常習犯だった【バンドマン】は寝ていた。【坊っちゃん】は【っ】の顔を「夢に出てくる男(This Man)」にそっくりだと言い出し、それをネットで検索した【アイドル】の提示した画像がまったく関係のない不気味なモンタージュ写真でみんなが引いた。【留学帰り】は外国に住んでいる彼氏と婚約したことを話し、 【イギリス】は「今度から昼に集まって夜解散しよう」と言った。

 

 

僕はその間ずっと、なんだか懐かしいなあと思っていた。眠かったのかもしれない。このあと始発に乗り、長い時間をかける帰宅を億劫に思っていたせいかもしれない。

 

もっと頻繁に友達と会うべきなのだ。1年も2年も一瞬だから、楽しいことを後に回している場合じゃない。そんなことを、酔いの醒め始めた無理のない頭で考えていた。

 

 

 

ちなみに今回最も印象的だったのは、「地元の友達の結婚式に、こっちでできた彼女同伴で参列したら、参列者に私服でキャップかぶっている奴がいるし、黒ネクタイ締めてる奴なんかもいて、本当にびっくりした。結婚するとしても、式は地元で挙げない」という【代表取締役】の話だ。【坊っちゃん】なら当然のように馬鹿にするだろう。僕もFacebook経由でInstagramをチェックし、あらゆるハッシュタグを肴に酒を飲みたい。「友達の彼女」問題についても議論を進めたいし、昼に集まって夜に解散したい。