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舞城王太郎:『深夜百太郎 出口』

 

深夜百太郎 出口

 

 

前半作品はこちら↓↓↓ 

sakamoto-the-barbarian.hatenablog.com

 

 
五十一太郎『ダムでカヤック
ダムに取り憑かれた彼女を心配する一編。しっかり怖い、しっかり切ない、というこの強度。
 
五十七太郎『残業の梶師』
不条理系。個人的に、この話の展開は超超嫌。
 
五十八太郎『つけっぱなしのテレビ』
引き延ばされた末の真相……にこちらを安堵させつつのあのオチ。『ほんとにあった!呪いのビデオ』的な感触。
 
五十九太郎『駐車場の私の車』
これはちょっとあまりにも哀しすぎる。
 
六十太郎『僕の中の鏡』
舞城流ツイストにちょっとときめく、かわいい掌編。
 
六十三太郎『車内放置ワゴン』
車内放置怪談。謎の女の描写がどこか哀しい。
 
六十四太郎『トンネル師匠』
ラストのちょっと突き放した、人と人とのシビアな空気のほうが僕としては肌寒く感じる。
 
六十六太郎『次の電車』
都市伝説「きさらぎ駅」がモチーフかな?という一編。が、そこからのエッセンスが強烈。
 
六十八太郎『ムカデの巣』
不安が頭を駆け巡ってなかなか眠れない子供の話。僕も思春期入りたての頃、夜が急に怖くなって眠れなくなることが多々あったので、そのことを思い出しつつ。最後にたどり着く気持ちも、わからなくもない。
 
六十九太郎『押すな押すな』
マンションのエレベーター内に落ちていた謎のメモの通りにボタンを押すとどうなる?という設定からして楽しい一編。一人称ゆえの「その先」が主観で覗けるところも好きです。
 
七十三太郎『出戻りの家』
訳ありで出戻ってきたお隣の息子さん。主人公はその家の門の前に夜な夜な現れる親子の霊を見かけてしまい……。壮絶な「呪い」の物語。壮絶であるからこそ、呪われる側への想像もかきたてられる一編。
 
七十四太郎『空き家の草取り』
「決して返事をしてはいけない」声の聞こえる曰く付きの空き家で草取りをする話。怪奇現象におけるルールについて思案するなかで、ふと自分の中にある感情に気づいた主人公……からのツイストが好き。文脈に飲まれてたまるかよ。
 
七十五太郎『我が家の花子』
家のトイレを利用している謎の半透明美少女の出現に端を発したドタバタ劇。好き。怪異そのものよりも、そこから浮き彫りになる人の愚かしさへの視線が冷たいのも、舞城王太郎モラリスト的一面を強く感じる。
 
七十六太郎『枕元にハサミ』
寝てる主人公の枕元に娘たちが夜な夜なハサミを置くので、だんだんと情緒不安定になる話。後半の勢いが温かいです。
 
七十七太郎『恋するクーラー』
息子に恋をしたらしいエアコンと、それを楽しむ主人公。このタイトルでまさかの壮絶さ。
 
七十八太郎『執着コトメ』
息子に関して干渉してくる義姉への怒りを我慢できない主人公の話。ここまで読んできて「母親」をいろんな形で描いている舞城。いまの僕は正直引いたのだけど、二度目はまた違う視点で入ってくる気もする後味。
 
七十九太郎『宅配深夜便』
真夜中に荷物を届けにくる謎の宅配業者。詳しく話を聞いてみるとどうやら死んだ姉から日記が送られてきているようなのだが……という話。こちらも毒親エッセンスあり。そもそも日記というものは……と主人公が思うラストの一言がなかなか厳しくて面白い。
 
八十二太郎『電車停車中』
超壮絶。人身事故を起こして停車する電車内に、少しずつ外の異様な気配が忍び寄ってくる掌編。パニックが伝染していく様子のスピード感がさすが。オチの塩梅も粋だと思いました。
 
八十七太郎『落雷地点』
人生で二度も落雷に直撃した父親から「必ず現場で見かけるおかっぱつり目の長身女」の話をされた主人公が同じ特徴を持つ女の子のことが怖くてしょうがなくなる、という話。気味は悪いが後味としては爽やかな、夏の雨上がりのような一編。
 
八十七太郎『女の城』
義母が台所に絶対人を入れないことが気になる主人公。あるとき義母が入院したことから、ついつい台所に足を踏み入れてみるが……。こちらもすごく楽しい話で、解決策がグッとくる。
 
九十太郎『友達案山子』
36歳の誕生日に静かに絶望した男が深夜徘徊中に案山子と友達になる話。なにそれ?と思うけど本当にそういう話で、これがまたすごくいい。
 
九十太郎『迷子の守護者』
迷子の経験以来、迷子を見つけると必ず助ける男の子の話。ヒーロー誕生譚のような余韻。『ディスコ探偵水曜日』とリンクしてそうな世界設定だなとも思う。
 
九十三太郎『花火の帰り道』
花火帰りの人混みの中を歩く女子高生たち。ふと気づくと喪服姿の人々の流れを歩いていてどうしよう…という話。かなしく切ない。
 
九十四太郎『山のアカンボ石』
穴を風が通ると赤ちゃんの鳴き声にそっくりな音をさせる不思議な石と、最近村に越してきた「ずっと怒っていてヤバい」お嫁さんの話。問題のある人を描くのが相変わらず上手いしオチが笑える。
 
九十五太郎『あぶり出しメール』
ママ友同士の疑心暗鬼もの。読んでる間は普通なんだけど、あまりにも堂々とした異変にあとからじわじわ寒くなる感じ。
 
九十八太郎『寝ずの番』
神様のような人だったおじいちゃんが亡くなり、八百万がその遺体を求めて襲ってくるので家族総出で町の斎場まで運ぶという話。全100話中最長の作品。もう最高。シチュエーション、やりとり、すべてに高揚感が伴うハッピーな一編。
 
九十九太郎『呪い』
全100話中最短の作品。怖~。それにしても舞城王太郎は「九十九」という文字がほんとうに好きですね。
 
百太郎『アタシシ死』
ある日家に押し入った見知らぬ男に息子ともども惨殺されてしまった女の霊(?)視点で進む作品。ものすごく恐ろしい円環の物語。一太郎『アナタタ』から続いて百話目に今作を持ってきたことで、またここにも不穏な円環構造が完成するところも憎い。
 
 
以上! 
 

後半に進むにつれ僕の感覚がノッてきたこともあってか、グッと来る作品は比較的【出口】に多かった印象。登場人物を魅力的に見せつつ、あっさり突き放してしまう語り口も全体にいい温度を与えていた気がする。それにしても、あらゆるテクニックを用いて全百話もの怪談を書ききったのはそれだけでため息が出る。お疲れさまでした。めちゃくちゃ面白かったよ!
 

個人的に特に好きな作品は

四十八太郎『忠犬バッチ』
七十三太郎『出戻りの家』
八十二太郎『電車停車中』
九十太郎『友達案山子』
九十八太郎『寝ずの番』

です。
 
これ書いているときに玄関のドアの向こうからスマホで写真を撮る音が聞こえてきましたが誰もいませんでした。