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誰でもないやつを過小評価するな/『Mr.ノーバディ』


『Mr.ノーバディ』を観た。

 

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監督のイリヤ・ナイシュラーは、前作『ハードコア』で「セリフなし」・「顔も見えない」主人公のちょっとした挙動からその愛らしい部分をしっかり演出していてグッときていたので、今回もめちゃくちゃ期待していた。そもそもボブ・オデンカークで殺人マシンものをやること自体すでに勝算がある。実際、とっても良かった。

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こういった作品で主役同様に重要なのが悪役だ。あくまで噛ませ犬なので…という手抜きが感じられると嬉しくない。こじんまりとさせすぎるのもどうかと思う。悪ければ悪いほど、強ければ強いほどいい。

 

今作の敵であるロシアン・マフィアのユリアン(アレクセイ・セレブリャコフ)は、その点でちゃんと最高なのだ。

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「超乱暴な車線変更」→「車行き交う大通りを徒歩で横断」→「クラブへ入る」→「酒」→「薬」→「カラオケ」→「仕事相手に挨拶」→「ガンを飛ばしていた男を殺す」→「みんなで乾杯」

という飛ばし過ぎな出勤シーンでそのキャラクター性を示してくれる。ステージ上で歌いながら左右に腰をくねらせるところは超かわいいので、愛嬌まで兼ね備えている。ちなみにこの作品、監督自身ロシアの人だけど(だから?)、ロシア系のチンピラたちの行動が目を見張るほど荒いのでちょっとギャグっぽくもなっている。特有の文化とかテンションを外からの視点でもって意図的に描いている雰囲気に、どことなく韓国映画のイズムも感じた。

 

無害そうな男がとんでもない人物だった系の中でも、今作が他と一線を画する点として、愛するものを奪われる必要はまったくないと示したところが挙げられると思う。復讐の動機づけのために用意された悲劇は不要なのだ。奪う側の発する気配・態度・未遂、それだけでめちゃくちゃキレるには十分だし、まだまだ全然やり足りないくらいだという主人公の態度は目からうろこ。そもそも相手にイキる暇すら与えない。それが答えだ!と日々怒り損じてばかりいる僕はそう痛感したのでした。


その他にもいいなあと思った点が細々とある。

 

・娘がとってもかわいい

・強盗探しとその顛末のちょっと切ない感じも好き

・「キスをしてからの大戦闘」は『ドライヴ』っぽかった

・「食事していることろを囲まれてからの“保険”」シーンは『ワイルド・スピード/SKY MISSION』のステイサム

・老人ホームを訪れる殺し屋役のイリヤ監督最高

クリストファー・ロイド最高

・RZA最高

・あの人がマイケル・アイアンサイド!?

 

なので観ている間、ずっと楽しかった。 

 

後半のバトルで主人公がジョン・ウィック風の動きを見せる場面もあったけど、そこは「Mr.ノーバディ」ことハッチ独自の「迷いなき暴力」という魅力の前ではちょっと野暮な感じがした。そこはまあ、とりあえずやっときましょうって雰囲気になるのもわからいじゃないので、こちらこそ野暮なのかもしれませんが。


Blu-rayも買うと思います。

 

懸垂したい。