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『TOKYO TRIBE』ネバエバダイ……!

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なんじゃこりゃ!

 

なんでもありが一番つまらないとはよくある話で、制約なき状況下でいくら凄惨なことや滑稽なことが起ころうとも、心の踊りようがないじゃん……という感じだけで駄作だなんだ言うつもりはないけど、今作に関してはメリハリがなさすぎて、過剰なのがフラットに続くので結構本気でキツかった。そのキツさから改めて「満たされているっぽい園子温監督」への戸惑いが生まれた。『地獄でなぜ悪い』にもちょっと感じたことです。

 

今作に関して監督はインタビューで『ゴッドファーザー』を撮ったフランシス・フォード・コッポラ監督を例に出し、ジャンルへの理解が必ずしも成功につながるわけではないとのたまっていた。コッポラ監督はマフィアが大嫌いで、『ゴッドファーザー』を監督することを渋っていたという。しかし嫌いながらも、その距離感から見事な映画に仕上げた……的なことを雑誌で言っていた。今回の『TOKYO TRIBE』も、ラップミュージカルというジャンルの映画であるものの、園監督自身はヒップホップに興味はないと明言していた。だからこそ、あのときのコッポラのようなことが起こるかもしれないと言いたかったのかもしれないのだが……

 

嫌悪と無関心はエネルギーがまず違うし、テーマに対する思い入れはまあその程度なのかという印象も与えかねない迂闊さがあって、観る前から不安はあったのだ。そしたらやっぱり、その関心のなさが映画を散らかしたままネグレクトしてる感じだった。いやむしろ無闇に甘やかしてる感じなのかもしれない。裸にしとけ乳首出しとけ派手に殺しとけバカやらせとけって、いやそういうのも好きだけどだったらもっと気持ちを入れてくれと思った。これをカオスとして楽しむのもよしとはできない。

 

新人の女の子に強気な武闘派を演じさせる趣味も相変わらずで、もうその時点で「おいおい」と満島ひかり的な気分になってしまった。演じる清野菜名吉瀬美智子似の美人ではあるが、まあ、吉瀬美智子から年相応感を抜いたと考えると複雑だし、役はいつもの園子温ヒロインだ。パンツの食い込んだお尻などは最高だったけど、これ見よがしなパンチラや乳首はもう食傷気味なのであまりありがたみがなかったのは自分でもびっくりだ(勃起はした)。

 

あとオーディションのテンションを引きずってる感が全編に漂っていてつらい。この子はオーディションで運動神経を見込まれたとか、本人そのままのキャラで出してもらってるんだなといった現場のノリが結構ノイズ。また、俳優が披露するラップも正直織り込み済みだろうけど寒いこと多々で、こちらが気を遣ってしまった。ギャグもベロベロバーって感じだった。園子温はなにかがエスカレートして笑っちゃう、みたいなギャグが面白いんだけど、元から過剰な設定の中でおちゃらけられても笑いが流れて行ってしまい、「あ、いまのはギャグか……」と居心地が悪くなっていく。

 

とにかく業界の面白人間をそのまま出してみた、みたいなキャスティングが特別苦手というのも大きいと思う。サイボーグかおりとか。作ってるあんたたちは楽しいかもしれないけど……という業界ノリへの心の距離とそこに生まれる寂寥感に終始してしまった。しょこたんブルース・リーの真似をさせるのは確かにお馴染みではあるけど、あれを一体どの層が喜んでいるのか、実はよくわかっていなかったりする。拍子抜け?させるためのオチも予告でバンバン流してるため、ああ、やっとそのシーンきたからそろそろ終わるんだな、というサインにはなっていたのは良かった。

 

園監督は衝動で物語るその迫力が最高に魅力的な監督だと思っていたので、凄まじい熱量がギュウギュウに詰め込まれた『愛のむきだし』や、過剰な暴力性と冷たさが共存して笑いにまで転化していた『冷たい熱帯魚』は大好きだけど、最近のエンタメに徹したような方向性は、たぶんぼくに合っていないのだ。『地獄でなぜ悪い』にはまだモノづくりに対するエモーションがあったが、今作は本当に試しにやってみた感がすごい。というか、ノリだけを重視しているようにも思う。全編ノリで成立させたその力技はすごい。すごいとは思う。すごいんじゃないかな。まあちょっと苦手なアレだったけど。あと今作でも合間合間に地震が起こったりしつつ、登場人物たちが狼狽えずに暴れ続けるというシーンがあって、そこにエネルギーを受け取る人もいるんだろうけど、そもそものところで映画をもっとちゃんと楽しくしといてくれなきゃとぼくは思ってしまう。ふざけやがって。メリハリのmの字もねえからノレねえし上がりません。

 

関係ない話だけど、この映画を見ている間、ぼくは高校三年のころの文化祭で観た、違うクラスの演目である劇を思い出していた。クラスの代表格であるサッカー部の連中が先導したと思しきノリでハーフ顔のサッカー部員にジャック・スパロウの衣装を着せて盛り上がったりというあの空気だ。おえー!ぼくは高校のサッカー部が大の苦手で、『ランボー 最後の戦場』におけるミャンマーの軍人どもをサッカー部に置き換えて鑑賞するという最高の娯楽に浸っていたほどだ。今作『TOKYO TRIBE』も文化祭臭が凄まじいが、そう考えるとオーディションのノリをそのまま持ってきた感じや、初挑戦ラップでたどたどしくなった空気、いろんな意味で緊張感のある長回しなどぜんぶに納得がいってしまうことに気がついた。あくまでもなるほどって感じだ。ぼくだってみんなと音楽にのるように、物語の中を揺蕩う経験がしたかった。

 

ポスターは最高なので前売りの半券をラミネートして本の枝折にします(しています)。新しい試みを評価するべきとの思いもわかるけど、退屈なやつを無理に褒める義理もありません。園子温監督はたぶん全力で承認しちゃダメなんだ。この人はキレて反抗しているときが一番面白いとぼくは思う。