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親の金

日記


The Sound of Silence (Original Version from 1964 ...

 

早朝、東京駅から高速バスに乗り、成田空港へと向かった。年末なので地元に戻ることにしたのだ。

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今月号の映画秘宝を購入し、バスの中で寝て、空港でも寝て、朝九時発の便でまた寝て、地元の空港に到着すると、母親がわざわざ迎えに来てくれていた。母親のみならず、母の妹であるおばさんまできてくれていた。車に乗り込むと、お昼ご飯を食べてから帰ろうという話になった。いたれりつくせりとはこのことだなあと思いながら、ぼくたちは定食屋へと向かった。

 

どこかで薄々その可能性もあるなと思いはしていたものの、やはり今年の三月より影で進行していたと思われる母親姉妹のマルチ商法プロジェクトはまだ息があったようで、座席について早々にその話をされた。スマホでゲームはよくするの?おばさんはいまある会社のなんらかの権利を持っているらしく、不労収入がなんらかのからくりでどうのこうのらしい。おばの話では芸能人でも権利収入を得ている人は多いらしく、その例として某携帯会社の電子マネーのCMにて半笑いで「いいねえ」と連呼しているだけの道楽じじいや、元人気アイドルグループに所属していた過去を持ち、ウルトラマン俳優とのショットガンマリッジで方向性を転換、同性に嫌われるママタレとして活躍する目頭切開女などを挙げていた。ちっとも心は隆起せず、目の前の定食に箸を伸ばす気分も削がれ、ただただお茶を飲み続けていた。

 

これまでにも不定期に「“説明会”にあんたも是非参加してほしい」との声掛けがあったりしたものの、どうせその勢いも長くは続くまいと高をくくっていたのだった。「“そういうひと”が集まる場所に行って多くの情報を得るとか、ちゃんとアンテナを張っておかないと」などと新たな価値観を提示したつもりになって得意げに口を動かす五十をすぎたおばさんを前にして食べる定食の味をぼくは初めて知る。その後もおばは自らの説を強固なものにすべく世に蔓延る愚民どもを痛烈批判。なによりショックなのは、おばはもともと性格の穏やかな人間だったということであり、そんなおばをここまで高慢にさせた“説明会”とはいったいどれほど恐ろしいものなのだろう。胸の奥に拳大の鉛を埋め込まれたような気だるさで背中も曲がっていき、近年、若年層のそれが増加していることが問題として取り上げられていることでも有名な猫背における百点ともいえる姿に成り果てたぼくは、相槌もままならないまま空になった湯呑を口に運んでは喉を潤しているふりを続けた。

 

「こんどの日曜日ぜったい空けておいてね。友達誘ってもいいから」

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「……」

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 もちろん絶対に友達は誘わないし、ぼく自身ほかの予定を入れておこうと決意した次第ではあるが、いずれまた近いうちにさらなる軍勢を引き連れたマルキチ三平たちとの本格的な衝突が待ち受けているはずなので、覚悟と戦略を固めておかなければならない。

 

実はテーブルの下でこっそりiPhoneの音声メモ機能を利用しておばの発言を録音しておいたので、実家暮らしの無職が悪徳マルチ商法に走った母親を助けるために奮起した結果いろいろあって猟銃で大勢を射殺するに至る小説の資料として使わせてもらいます。タイトルは『親の金』です。