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【スコット×麻薬カルテル】2本立て/『バーニング・ブラッド』&『デンジャラス・プラン 裏切りの国境線』

 

vs麻薬カルテル

現代のハリウッド映画における「敵」は、テロリストから麻薬カルテルに移行しつつある。かくいう僕も麻薬カルテルものが大好きだ。ドラマで言うと『ブレイキング・バッド』を始めとして『ナルコス』、『オザークへようこそ』と傑作揃い。あのシュワちゃんなんて『ラストスタンド』、『サボタージュ』と2作連続で麻薬カルテルとぶつかっているし、 『ランボー』最新作は麻薬カルテルが相手という噂が立ってから、はや二年が経っている。

 

実はつい最近も僕は麻薬カルテルものの映画を2本観た。そして偶然にもどちらも主演がスコットという名の俳優だったのだ。スコット・アドキンススコット・イーストウッドである。どちらもこじんまりとした映画だが、光る部分のある作品で面白かった。

 

 

 

スコット・アドキンスvs麻薬カルテル/『バーニング・ブラッド

 

 

スコット・アドキンスといえばめちゃくちゃ動けるアクション俳優。『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』ではあの悪名高いデッドプールのスタントも担当している。『エクスペンダブルズ2』ではヴァン・ダムの右腕を演じ、あのジェイソン・ステイサムとバネとキレのある格闘を披露していたし、最近だと『ドクター・ストレンジ』でマッツ・ミケルセンの部下も演じていた。

 

本作では、開始早々アドキンスが麻薬カルテルの本拠地に単身殴りこみ。ベルトのバックルに仕込んだナイフ一つで武装した男たちを次々と殺していく。彼の身体能力が遺憾なく発揮されていて、めちゃくちゃ楽しい。

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でもどうしてこんな無茶を?と思っていると、彼は奥の部屋に監禁されていた一人の女性を救出する。それはアドキンスの姪だった。姉の再婚相手が麻薬密輸の仲介人なのだが、お金を誤魔化したかなにかでカルテルの怒りを買い、娘を人質に取られていたのだ。おじであるアドキンスは元軍人で、上官をぶん殴って逃走するほどの暴れん坊。姪っ子奪還に一役買ったわけだ。

 

そんなアドキンスは姪っ子を連れて姉の家に帰宅。ろくでもない男と結婚しやがって! と姉を詰りつつ、いますぐ荷物をまとめ追手から逃げるよう忠告。しかしカルテルに買収されている保安官(ニック・チンランド)が訪問し、逃亡の身であるアドキンスを逮捕しようと時間を稼ぐ。こういうキャラも麻薬カルテルものには欠かせませんね。

 

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その間、メキシコからはSUV三台分の武装した男たちが向かってくるのだが、ここでいちいち全員の名前をテロップで紹介。心憎い演出だ。

 

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なかでも“狂犬”J.J.クルスが印象深い。中盤でスコット・アドキンスとタイマンを張るのだが、アドキンスにも引けをとらない身体能力を見せるのである。

 

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ラッパーの般若にちょっと似てる。 

 

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ナイフでさっさと殺してしまおうと向かってくるアドキンスに対し、自らのベルトを素早く外して応戦するなど、「実戦に長けている」演出もあり。アドキンスのサッカーボールキックへのカウンターとして、体をよじらせ地面に押し倒すなどアッ!と驚く動きも見せる。ついつい嬉しくなってしまいます。

 

カルテルには復讐の他にも目的があった。それはアドキンスがうっかり持ち帰った手錠の鍵に、滅茶苦茶大事な情報の詰まったUSBフラッシュメモリもぶら下げられていたのだ。かくしてアドキンスは姉の家に立てこもり、警察にも頼れない状況でカルテルの殺し屋たちを迎え討つ。人手が足りないので姉や姪の力も借りる。ど田舎の荒野と一軒家を主な舞台に据えることで低予算でも問題なし。あとは役者たちの身体性で引っ張るという潔い映画で、しかもたったの85分。このちょうどよさ。ごちそうさまでした。

 

 

 

 

スコット・イーストウッドvs麻薬カルテル?/『デンジャラス・プラン 裏切りの国境線』

 続く二本目は、クリント・イーストウッドの息子、スコット・イーストウッド主演で綴られるあまりにも苦い青春映画。

 

 

主人公は無職。仕事を探せどろくな求人がない。あっても経験者のみの募集。母親は乱暴な男と付き合っているし、家にいても退屈なテレビを眺める無為な時間がただ過ぎゆくだけ。

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そんなある日、彼は友人の誘いに乗ってメキシコまで遊びに行く。友人はバーで女を買うが、なかなか戻ってこない。カウンターで飲んでいた主人公のもとにやってくるのは怒りに震えるメキシコ人の男だった。

「金を払え。おまえのダチは俺の女房を抱いて逃げた」

バカバカしい強請りだ。主人公は相手にしない。しかし男があまりにもしつこく高圧的なことから、ビールの瓶でその頭を殴ってしまう。有り金をすべて奪われた状態で放り出される主人公。そこに一人の若者が近づいてくる。

「見てたよ。散々だったな。朝食をおごるぜ」

おしゃべりなその若者は仕事を紹介したいという。彼が呼び寄せたのはキャプテンと呼ばれる初老の男だった。キャプテンは麻薬カルテルを襲撃し、金を奪うことで生計を立てていた。帰りたい場所などどこにもない主人公は、キャプテンについていくことにする。

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といった感じのあらすじなのだが、本作では麻薬カルテルはあまり登場しない。キャプテンという男は麻薬カルテルへの襲撃や強奪を生業としているが、その実行は引き取った不良や身寄りの無い子供たちで組織した私設部隊にさせているというろくでもない男だ。そんなキャプテンのもとで働きながら、少しずつ頭角を現す主人公。おまえにはリーダーとしてみんなをまとめてほしい。キャプテンから直々にそう伝えられるが、本作の主人公はどんなときであろうとどこか居心地の悪そうな顔をしている。立ち入り禁止の母屋でキャプテンが囲っている愛人とこっそり関係をもったりもするのだが、かといって深い仲になるわけでもない。常にどこか虚無に包まれている。

 

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ちなみに愛人役のアンジェラ・サラフィアンがこれがまた眠そうな目をした美女なので、「うっかり一線を越えてしまいそう」な説得力がある。

 

 この主人公は暗黙のうちに「そういうものだ」とされている物事に対してどこか敏感だ。きついシゴキに対しても、キャプテンのやり方に対してもどこかのれないまま、仕方なく付き合っている感じ。こいつがずっと無職だったのもわかる気がする。そんな彼の窮屈な心情を、メキシコ国境沿いの広大な荒野が象徴している。どこに行ってもなにもない。ああ面倒くさい。しかしそんな彼にも捨てきれないものがある。それはちょっとした正しさだった。

 

ということでこれといった派手な見せ場があるわけじゃないが、子供も容赦なく死んでいく倫理の彼岸メキシコと、そこでのあまりにも苦い青春の物語として観ると胸に迫るものがある。また今作のように、麻薬カルテルの悪行から派生した隙間の物語が、今後はどんどん増えていくんだろうなとも感じた。

 

 

今後の麻薬カルテルものに欠かせないもの

何の気なしに「麻薬カルテルものであること」「主演がたまたまどっちもスコット」などを理由に選んだこの二作だが、意外な共通点が見受けられた。

 

 

 

 

 

 

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どっちもニック・チンランド!

 

 

麻薬カルテルの悪行から甘い汁を吸おうとする悪いアメリカ人像を担う俳優として、向こうではポジションが確立されているのかもしれない。今後麻薬カルテルものにニック・チンランドが登場した際は、充分警戒したい。今後も麻薬カルテルものから、ますます目が離せない。