“フランク”という男
ぼくはある感情が沸点まで達した結果“逡巡”の仕方を忘れてしまった男たちの映画が大好きです。そういう映画ばかりを好んで鑑賞しては「おれだって限界まで行けば“ヤバい”んだぜ?」と虎の目をして心で凄むことで精神衛生を保っているといっても過言ではありません。そんなぼくがある日大事な作業を後回しにしてぼんやりしているとふと頭に浮かんできたものがありました。
「フランク……」
ぼくが愛する映画の中で沸点超過型の暴力をふるう男たちには共通して“フランク”という名がつけられていたのです。
「うわあああ!フランク……!!!」
1ドル紙幣に某巨大組織のシンボルマークが隠されていることを知ったときもうるさいと一蹴したぼくですが、この発見には我ながら衝撃を受けてしまいました。
「いったいこれは……」
以下、代表的な3作品に登場するそれぞれのフランクさんを通してこの不思議な共通点の謎に迫っていきたいと思います。
①【フランク・キャッスル】
登場作品:『パニッシャー』シリーズ(※画像は『パニッシャー:ウォー・ゾーン』より)
沸点超過理由:公園でピクニック中、ギャングの銃撃に巻き込まれ家族が全員死亡。本人も重傷を負う。
主な活動:悪そうなやつはだいたい処刑
言わずと知れたアメコミヒーローでもある【パニッシャー】ことフランク・キャッスル。彼は家族を奪ったギャング(引いては犯罪者全員)を罪の大小関係なく処刑しまくる人間断頭台。あまりに見境がない&勢いがよすぎるため、ごくたまに潜入捜査官をうっかり殺してしまうこともあります(ちゃんと反省もします)。元海兵隊所属の軍人ということもあり重火器の扱いや格闘術に長けており、ドラッグや贅沢な暮らしでたるみきった悪党どもなど会釈するように殺せてしまいます。そのため職人芸とも思える殺害方法も多々考案。クリエイティブな発想が重視される昨今、フランク・キャッスルのような人間はどの業界からも必要とされる人材ではないでしょうか。
②【フランク・ダルボ】
登場作品:『スーパー!』
沸点超過理由:最愛の奥さんがドラッグディーラーと浮気し、せっかく克服しかけていたドラッグ中毒を再発。そんな折にふと神の啓示が降りてきて……
主な活動:【クリムゾンボルト】という名のヒーローに変身し、町に蔓延る悪党を配管用レンチで殴打する。「シャラップクラアアアアアアイム!」と叫ぶ点が個性的。
クリムゾンボルト仕様(“ヤバい”)
苦痛の連続だった人生において、いまも輝かしく存在し続ける「Two perfect moments(二つの完璧な瞬間)」のひとつであった“最愛の妻”が悪党に奪われた……。悲しみに暮れていたこちらのフランクは、心神深い人間であったこともあってかある日ふと神の啓示を受けヒーローになることを決意します。お手製の真っ赤な衣装に身を包みスイカも一撃で粉砕する配管用レンチで街にはびこる悪を討つ!麻薬を売るな!子供を虐待するな!列に割り込むな!あまりにも真っ直ぐなその瞳に宿るは正義の炎かはたまた狂気か……こんなやつ近くにいたら真っ先に通報せざるを得ない、どう考えてもアウトな彼ですがその叫びが響き渡るとき、胸の奥にこみ上げる熱きなにかを無視することはできないのではないでしょうか。
③【フランク・マードック】
登場作品:『ゴッド・ブレス・アメリカ』
沸点超過理由:連続する不幸とウザいテレビ番組
主な活動:バカ殺害行脚
妻子に逃げられ誤解によるセクハラ容疑で会社を解雇になったばかりか医者に末期ガン宣告をされたハードすぎる人生の主人公フランク・マードックは自殺を思い立ち口に銃を突っ込むが、つけっぱなしのテレビから流れてくるのは馬鹿なセレブのガキがわがままをほざき倒すだけの私生活を公開するというビッグダディスタイルの番組……なんで俺が死ぬんだ、死ぬのは奴らだ!!!一念発起したフランク、早速銃を手に車でおでかけ、番組に出演する有名人気取りのアホ女を射殺!偶然その様子を目撃していたロキシーという少女に「あたしも連れてって!」とせがまれやむなく同行させつつ、二人でアメリカ中の馬鹿どもを殺しまくるという人生最後の一大イベントを敢行することに。八つ当たり的暴力を炸裂させているうちにみるみるエスカレートしていくその姿には「いくら不幸だからってそれはちょっと……」と倫理的な思考を取り戻させてくれる効果があります。文科省の推薦希望!
絶望のその先に……
以上の三作品に共通するものはなにも名前だけではありませんでした。それぞれの“フランク”は三者とも耐え難い苦しみを経験しています。
強烈な痛みのその先に待つ衝動としての怒りを、彼らは抗うことなく炸裂させているのです。
いうなれば自分の気持ちに対して倫理や常識やおためごかしから一旦離れ、フランクな状態で向き合うこと。
それが彼らが「フランク」たる所以なのではないでしょうか。
それが彼らがフランクたる所以なのではないでしょうか。
それが彼らがフランクたる所以なのではないでしょうか。