(Illustration by sakamoto)
『バクマン。』を観た。大根仁監督の劇場用映画三作目となるそうです。記念すべき一作目である『モテキ』では女のためにあっち行ったりこっち行っする主人公が業界ノリな世界の中でヘラヘラしている感じにゲー!っとなったものの、続く『恋の渦』では監督の嫌味~な眼差しが物語に上手く作用していてかなり面白かったので気分はイーブン。で、今回の『バクマン。』。原作は大場つぐみ×小畑健の『デスノート』コンビが手がけた人気コミック。『デスノート』といえばロジカルな駆け引きのゲーム的な面白さが魅力ではあったものの、論破論破うるさい馬鹿なオタクが好きそうな大人げない話だと受け取っていたソリッドな感性のぼくは、同コンビの最新作と言われたところで食指も伸びずじまい。そのせいで今の今まで原作漫画もテレビアニメも一切見ていない状態だったのですが、信頼できる筋での映画『バクマン。』の評判があまりにも良かったのでサービスデイを利用して鑑賞。やられました。
信じられない数のアイディアを惜しみなく注ぎ込んで作られた作品で、至るところで気が利いている。冒頭に見せる週刊少年ジャンプの歴史からエンドロールの細かい芸に至るまで、あらゆる工夫が下地としてあるのでこちらも安心して物語にのめり込めるのだった。女の為に、という動機はあくまできっかけに過ぎず(最後までそのままだったら殺したくなっていたはず)、ライバルに打ち勝ちたいという思いから「漫画を描きたい」というエモーションに突き動かされる主人公たちには胸を打たれた。
ちなみにぼくも小学校五年のころに五ミリ方眼ノートに漫画を描き始め、ある程度たまったら友人に見せるということを繰り返していた人間だった。小六になると友達と一緒に自分たちのクラス版『バトル・ロワイアル』をスケッチブックに書き、クラスメイトをバンバン勝手に殺し合わせた上でそれを本人たちに読ませるという問題のある行動に出ていたし、中学に上がると今度は42人のオリジナルキャラを創作してまた『バトル・ロワイアル』を描き始めたのだけど、一緒に描いていた友達が中2で不良になったことを機に完結させるという目標は頓挫した。映画の劇中でも読者アンケートという残酷なシステムにより打ち切りになった漫画家であるおじさんのエピソードが出てきたが、ぼくはそのシーンを観ながら友達が不良になってしまったことを思い出したのであった。
役者陣の好演も印象的な今作。原作との印象が違う、と原作ファンが叫ぶ声を耳にしたりもするが、映画化に併せて調整したということなんじゃないかなと思うくらいに、一本の映画として観ている分にはなんの不満もなかった。実際には取材を断られたらしい連載会議のシーンなんて、俳優たちの演技による説得力で「こんな感じなんだろうな」と思わせてくれるところが素晴らしかった。
そしてなにより小松菜奈。映画『渇き。』では、関わる者すべてを闇に引きずり込むファムファタールを演じていた彼女だったけど、今作ではギャグっぽいくらいシンボリックなヒロインを演じており、とても可愛いなあと思いました。彼女が出てくるシーンでは決まって背景などがぼやけているので、もしかすると主人公の妄想の産物なのかもしれないとすら思えるところが“小松菜奈”力なのではないだろうか。
まるで透き通るようだ
はやく『富江』を撮ってくれ
暑いのかな……
そんなこんなで映画『バクマン。』、すごく面白かったです。ほぼ徹夜状態での朝イチ鑑賞だったにも関わらず、一切寝落ちしなかったのはこの作品の持つ力に引っ張られたからだなのではないでしょうか。いや、そうに違いない。人によっては、この映画を観たあとは多幸感に包まれながら「なにかを作りたく」なるかもしれません。いや、そうに違いない。
大根仁監督の次回作にもご期待下さい!