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オタクvsビッチと人生。/『ぼんとリンちゃん』

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腐女子が抑揚のないかなりの早口で小ネタがふんだんに散りばめられたトリガーハッピー的トークを繰り広げることは周知の事実だと思うけど、ぼくは大学時代、同じ大学にいる女タランティーノのような連中を病気かってくらいに敵視していた時期があって、それ以来、条件反射的に腐女子に抵抗を抱くようになっていた。腐女子リテラシーを要する情報をダムが決壊したみたいにまくし立てるので、初めこそ圧倒されながらも耳は傾けるのに、次第に頭がぼんやりしてきて宇宙のこととか考えてしまうのだ。腐女子とされる人々の頭の中には本当にあらゆる思考がテレビの砂嵐のように暴れまわっていて本人も抑制しようがなく仕方なしに吐き出すしかないのかもしれない、と分析し理解を示そうと思うと今度は「腐女子にもまともな人はいる」とか別にそんなこと知ってるよということをムキになって言ってきたりするので、彼女たちなりに自意識と闘っていると感じられることも多々あった。銃に例えるとミニガンみたいだよね、とか下手に言うと深読みして傷ついたり攻撃的になったりするところも含めて、意外とセンシティブな人たちみたいなのだ。

 

『ぼんとリンちゃん』という映画が新宿シネマカリテで上映されていることはぼんやり知っていたが、オタクが主人公でオタク文化(小ネタ)もたっぷりっぽいけど、どうも食指が動かない。そもそもぼくはアニメを全然観ないし(『涼宮ハルヒ』シリーズだけですべての喜びを知ったつもりになっているから)、知らないあるあるネタには真っ向から疎外感を覚えるタイプということもあって「うわちゃ~オタクものか。オタクなら知っているって感じのアニメネタ披露してくすぐってくるんだろうなあ、それだけで映画終わったりして、勘弁してくれ~」くらいにしか思っていなかった。でもいざあらすじを読んだぼくは馬鹿野郎!と先程までの自分に蹴りを入れ、あわてて劇場へと向かったのだった。

 

地元で大学生をやっている腐女子のぼんちゃんと浪人生のオタクボーイ・リンちゃんは共通のオタク趣味からなんとなくいつも一緒にいる。そんな二人には上京した女友達がいて、彼女はどうも同棲中の彼氏にDVを受けている様子。そんな被DV女である通称「肉便器」ちゃんとの連絡が途絶えたことをきっかけに、ネットで知り合ったオタクのおっさん・べびちゃんの協力を仰いで肉便器救出作戦を実行すべく二人は東京に赴くのであった……という話。ふわふわと優しく温かい世界を描いたぬるま湯オタク映画ではないみたい。こんな問題、オタクたちに解決できるのだろうか。ウッチャンナンチャン主演の『七人のおたく』という映画ではオタクがそれぞれの得意分野の技術を活かして赤ちゃん奪還作戦を敢行するが、腐女子なんてただまくし立てるだけだし、綺麗な顔したオタクボーイも終始受け身な感じなので役に立たなそう。東京のべびちゃんは気弱なデブのおっさんだし……という勝算のなさがたまらなく魅力的に思えた。要はこれってフィクションを愛する彼らが現実の(しかも結構ヘビーな)問題に立ち向かわざるを得ない状況になる話ってことだ。それだけで胸を打つものがある。

 

この映画の特徴として長回しが多いという点が挙げられるけど、腐女子特有の抑揚なき早口のまくし立てをカットで割ることも噛むこともなく演じきっていたぼん役の佐倉絵麻さんはすごい。というかもうみんなすごい。長回しの中で繰り広げられるそれぞれのやりとりを眺めていると、だんだん息が詰まってくるような緊張感と圧迫感を覚える。そこで話されているのは、なぜオタクなのか、人生ってなんなのかなどのありふれているかつ答えが未だはっきりしていない疑問だったりするから、一緒になってう~んと唸ったりもした。なによりこの映画の白眉として輝いていたラストのぼんちゃんvs肉便器ちゃんの会話。肉便器を演じるは沖縄のローカルCMで大暴れを繰り広げていた比嘉梨乃(旧芸名:ヒガリノ)ちゃん。上映終了後のトークショーにも来ていたけど、映画の中の演技もすごく良かった。正直なめてた。監督にはしきりに陰がある点を評されていたけど、満島ひかりしかり二階堂ふみしかり、沖縄出身女優は沖縄というイメージに引っ張られがちだけど、みんな暗い側面をのぞかせる役でいい味出している気がする。ぼくもいい加減ポジティブを努めなくていいんだと嬉しくなった。

 

あらゆるアニメや漫画や本や先人から得た言葉で構築した自分の意見をまくしたてるぼんちゃんと、あらゆる経験や葛藤を通して自分の考えを持った肉便器ことみゆちゃんの口での殴り合いはものすごく興奮したし痛かった。人生ってなに?なんてテーマ、使い古されて薄ら寒く感じる面もあるかもしれないけど、一方でちゃんとそこに決着つけてくれよという思いもあって、そんな終わりの見えない思考を、隣に寄り添ってくれているリンちゃんに対して漏らし続けるぼんちゃんの姿には目頭が熱くなった。いかにも腐女子っぽいあのまくし立てが、答えの出ない問いへの食らいつきとして見えてきたあの瞬間のショックと愛おしさ、同時に腐女子としての誇りを持って下品なオチで話を茶化すあの感じも、ふてぶてしさ転じて頼もしさすら感じた。進めぼんとリンちゃん。人生ってやつはもうわけわかんないし、かつこれからも幾度となく考えたくなっちゃうことなんだろうけど、とりあえずいまはBL読んでゲームしよう。それが答えだって可能性もなくもないかもしれないし。