『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』を観た。バーズ・オブ・プレイってどういう意味なんだ?と思って調べたら「猛禽類」のことらしいです。映画はいつでも僕に新しい知識をくれます。
ジョーカーと別れたハーレイ・クインは、思い出の場所も景気よく吹き飛ばしてスッキリ……かと思いきや、ゴッサムの悪党軍団にとっては「フェアゲーム」宣言にほかならず、街を歩くだけで命を狙われる日々。そんなある日ボンボンでナルシストでミソジニストで情緒不安定なギャング:ローマン・シオニス(a.k.a.ブラックマスク)に捕まってしまったハーレイ・クインは、命のかわりにシオニスの大事なダイヤを盗んだある少女の捜索を買って出るが……
マーゴット・ロビー版ハーレイ・クインといえばデビッド・エアー監督の『スーサイド・スクワッド』で脚光を浴びたが、どちらかというとビジュアル面先行で、いざどういうキャラクターだったのかに関しては割と薄い印象しか残っていない。僕は『スーサイド・スクワッド』のジョーカー&ハーレイカップルが、高校時代の友人が初めてできた彼女とよくない方向に関係を深めて周囲にやたら攻撃的になったときの雰囲気を想起させるので好きじゃないのだけど、今作は予告の時点で破局を明言していたし、まあいいか。という感じで普通に楽しみにしておりました。
前回の『スーサイド・スクワッド』鑑賞時に、ハーレイ・クインは舞城王太郎の文体みたいな語りとかが似合いそうだなと思った。なんと今回は冒頭からハーレイ・クインのモノローグ。僕は吹替版を鑑賞したのだけど、自らの生い立ちから今に至るまでを饒舌に語ってみせるこのシーンで一気に心をつかまれた。思えば前回は大勢の中の一人、程度だったので自分語りをのんびり行える環境になかったもんねとか思いつつ、そもそもハーレイ・クインのプロフィールをよく知らなかった僕は普通に「へー」と見入っていた。
今回のハーレイ・クインも戦闘力はかなり高め。グレネードランチャーを駆使した警察署殴り込みシーンでは、使用する弾の種類がコロコロ変わることで画面も鮮やか。
殴る、蹴るの肉弾戦に関してもバリエーション豊富で、特にこれでもかと膝下を攻めるので膝の折れる描写がやたら出てくる。悪党どもが肩を怒らせ仁王立ちする姿に象徴される不愉快な圧を、画的にそのまんま砕いて見せているので清々しい。またスプリンクラー作動による浸水によって各々の動きが強調されるところなど、状況によってアクションの見せ方に勝算をもって臨んでいる感じも気持ちよかった。
そして「BIRDS OF PREY」の面々。
彼女らが各々の目的に向かう過程で偶然居合わせ、ついさっきまで殺し合ったり罵り合っていたはずなのに状況打破のためサクッと結託するあの感じにもぐっときた。ただ生き残るため、それがやがて大きな目的を持つチームとなって動き出す気持ちよさを、あくまで軽いノリで見せてくれる。
今作のヴィランことブラックマスクの、最強ではないものの嫌な奴ゴッサム代表みたいなところもいい。表の顔はナイトクラブ経営者なのでキザなスーツをいつも着ており、かつ潔癖なのかあらゆる場面で手袋をしている点もフェティッシュな感じがして好きだ。おまけに髑髏を模した真っ黒な仮面を装着して、悪党軍団の前で一席ぶつところの大仰な感じも敵として好感が持てる。どことなく僕の大好きなマーベル映画『パニッシャー:ウォー・ゾーン』に出てくるヴィランことジグソウを思わせるキャラ造形なのもその理由かもしれない。
久々に映画館で観た映画ということもあって大いに楽しんだ次第でございます。時系列をいじくる演出に関してはないならないで問題なさそうだったけど、まあハーレイ・クインの思考回路に付き合う気持ちでいればなんともなし。回想シーンだろうと意地でも顔を映さないことに徹底しているジョーカーまわりの演出はちょっと面白かった。なんにせよ冒頭であれだけ美しい絶縁宣言をしてみせたハーレイ・クイン。登場人物たちが「破壊による突破」を楽しそうに試みる今作は景気がいい。いばらの道と人は言うかもしれないが、一張羅で闊歩しよう。