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殺し放題12時間!/『パージ』&『パージ:アナーキー』

 

世の中には「変な法律もの」というジャンルがあります。スティーブン・キング死のロングウォーク』とか、その影響を色濃く受けている『バトル・ロワイアル』、『ハンガー・ゲーム』、山田悠介の小説などなど、枚挙に暇がありません。国の偉い人たちがめちゃくちゃな理屈からめちゃくちゃな法律を施行して、それに振り回される恐怖を市井の人々の視点で描くのが主流だ。そんな「変な法律もの」に新たなる息吹が。『パージ』シリーズの登場です。

 

 


 

 

『パージ』

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舞台となるのは経済崩壊後「新しいアメリカ建国の父たち」と呼ばれる人たちによって統治されている2022年のアメリカ。「パージ」とは「浄化」を意味し、1年で一晩(12時間)だけ全犯罪が合法化することで国民のフラストレーションを発散(犯罪率の低下が目的)させたり、非常時に自分の身を守れないような低所得者や路上生活者などを間引くことによる貧困率の低下を目論むとんでもない法律。人々はその日になると暴力行為のために武装したり、暴動に巻き込まれないよう自宅を厳重に施錠したりして過ごす。そんなパージ当日、富裕層の集まる一帯に住んでいるイーサン・ホークもまた豪華な自宅を万全のセキュリティで防護して家族と一晩のんびり過ごそうとしていた……。

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防犯カメラのモニターを眺めるイーサン一家。手前の少年は長男です。

 

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こちらは長女。歳上彼氏との交際を反対されているためパパとは喧嘩中。

 

しかし!パージが始まるやいなや、防犯モニターを眺めていた息子が逃げ惑う浮浪者の男を発見。泣きながら助けを呼ぶその姿にいてもたってもいられず、防犯システムを一時解除。邸内に招き入れてしまうのだった。倫理的には大正解でも、家族を守らなければならないお父さん的にはとんだアクシデント。なんてことをしてくれるんだ……。

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「ごめんなさいパパ……」と反省した様子ならまだしも、この長男、「ぼく間違ってないよね?」という態度でなかなかウザい。

 

招き入れた男をどうするか迷っているイーサン。このままじゃこの家が暴徒に襲われてしまう。混乱と不安でおろおろしていると、そこに突然娘の彼氏が登場!

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「死ね!!!」

 

なんと娘の彼氏、交際を反対されていたことを根に持っており、パージに乗じてイーサンの殺害を計画していたのだった。娘の男を見る目のなさにパパ号泣。16歳巨乳女子校生と付き合っていることを漫画化した34歳のオタクのように、「歳下女と付き合う男は色々と伴っていない」という偏見を強化させるようなダメっぷり。『親父の一番長い日』を百回聞いて反省してほしい。

 

バカ彼氏と撃ち合っているうちに、招き入れた浮浪者がいなくなってしまいもう大変。トラブルは矢継ぎ早にやってくるのだった。外を確認してみると、我が庭に銃器や刃物で武装した集団がわらわらと入ってくるではないか。

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ドキドキ……

 

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「こんばんはー!」

 

今年の10月末にも渋谷でたくさん見かけたような人たちがドアの前に立っている!彼らはマスクで顔を隠し正装に身を包んだ姿で挨拶をする。

「ども!ご自宅を拝見する限り、あなた様も僕らと同類のようですね。そんな貧乏人かくまってないで、早々に差し出してください。タイムリミットは、僕らがこのドアを破壊する道具を用意できるまでです。ワハハハハ!

馬鹿な大学生じみた集団はそう言い残すと庭でわいわい遊びだす。やばい!急いで浮浪者を探さなきゃ!かくして一家は、自宅内でかくれんぼを始めた浮浪者を探すことにするのだった。

 

 

 

パージという規模のでかい舞台設定を背景に、恐怖の一夜を過ごすこととなる一家に焦点を当てた今作。こじんまりとした話ではありながらもスリリングな展開のつるべ打ち。こういうパニック映画では半ばお約束である「あ、テメエ!余計なことしやがって!」という場面も多々見られますが、85分という短さに免じて目をつぶりましょう。「とはいえ、人助けはいいことだ!」と感じさせる展開もなかなかグッときます。

 

 

 

そして恐怖の一夜から1年後……

 

 

 

『パージ:アナーキー

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2023年アメリカ。今年もパージがやってきた!前作から一年後を舞台に、「今度は戦争だ!」と言わんばかりに無法地帯と化した都市部での地獄巡りを描いている。舞台が広がったため、登場人物も多いのである。

 

その①:親子

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ウエイトレスのエヴァは、父と娘の三人暮らし。来るパージに備え、住んでいるアパートの出入り口を施錠中。そんな中、父はこっそり部屋を抜け出し、表に停まっていた高級車に乗り込む。部屋で置き手紙を見つけたエヴァは、余命幾ばくかの父が富裕層のパージに身を提供するかわりに10万ドルを振り込ませる契約をしたことを知る。そんな……と悲しみに暮れる矢先、謎の特殊部隊に部屋を襲撃される。

 

その②:夫婦

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車で姉の家に向かっていたシェーンとリズの夫婦は、途中で立ち寄ったスーパーマーケットでパージに備える武装集団を見かける。おーこわ。早く行きましょうと先を急ぐが、道路の真ん中で車が故障。調べてみると何者かの手によって意図的に壊されていることを知る。スーパーマーケットにいたやつらだ……。残り数時間でパージが始まってしまう。目的地まで徒歩で向かうしかないのだが……。

 

その③:警察官

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自宅で銃器の用意をしている警察官のレオ。彼はパージに乗じ、飲酒運転で息子の命を奪った男への復讐を決行しようとしていた。改造車に乗って目的地へと向かう道中、彼は謎の武装集団に拉致される親子を目撃する……

 

 

人口密度の高い都市部でのパージはいったいどんな感じなの?というこちらの見たかったもうひとつのパージを描いたのが今作。画面奥を炎上した消防車が横切ったり、血まみれの女性が立ち尽くしているなど、ショッキングなカットの挟み方がなかなか気が利いている。ビール缶6本パックを引っさげて屋上でライフルを構えるおっさんや、改造バスに乗って爆走する男たち、オリジナルな宗教観をむき出しに高架でサブマシンガンを乱射するおばさんなど、明日からまた普通の生活に戻るとはとても思えないパージャーたちの描写もゴキゲンだ。中でも大型トレーラーに乗って移動し、拉致した住民を路上に並べてミニガンで一掃するオッサンが強烈。お金あるな~と思っていたら案の定なお方なので、権力への嫌悪感もどんどん沸騰。特設ステージまで用意された富裕層によるパージ・パーティーも催されていて、本当にうんざりだ。劇中でも、反パージ勢力によるネットでの呼びかけなどが描かれたりしている。

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パージが終了する朝の7時以降、この人たちはどんなテンションなんでしょうか。心配です。

 

そんな中、自らの目的があるにも関わらず出会った人々を助ける正義漢レオの活躍が熱い。劇中屈指の戦闘力で、迫り来るぶっ飛びパージャーを次々と撃退。そのくせ助けてもらっている側はギャーギャーうるさいしことごとく足を引っ張ってくるので、こちらも涙を禁じえなかったりする。

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一応前作との直接的なつながりはパージという世界設定以外にはあまり見られないのだけど、一人だけ引き続き登場する人物がいる。そのチョイスからも明らかだけど、このシリーズは「それでも助ける」ことを選択した人々をちゃんと肯定するし、そういう人たちは報われるべきだという倫理観が根底にあるので、安心して子供にも観せられるのだった。

 

 


 

 

ということでこの『パージ』シリーズ、監督は三作目も考えているらしいので楽しみですね。そういえばこれを書いていてふと思い出したんだけど、富裕層のパージに身を捧げたおじいちゃん、結局パージの残酷な側面として描かれただけで片付けられちゃってたけど、次回作ではちゃんとおじいちゃんの仇を討ってほしい。『パージ』、『パージ:アナーキー』と来ているので、プリクエルなんかにはしないで『パージ:アルマゲドン』とかにして、もう国家が壊れるところまで描くといいんじゃないでしょうか。悪い政治家とか悪い富裕層の頭が派手に爆発したりして……

 

 

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