橋本環奈が悪いヤクザと戦う映画『セーラー服と機関銃-卒業-』

 

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sakamoto-the-barbarian.hatenablog.com

 

〇どっひゃ~!なんて企画を……

とはいえ橋本環奈がサブマシンガンを撃ちまくるってだけで個人的にはもう充分。最高ったら最高。ほかに何も言えないし映画も楽しみ。つっても基本的に橋本環奈に都合のいい世界のおはなしなんだろうけど、橋本環奈が幸せならそれでいい、そう思っていたぼくはこの映画セーラー服と機関銃-卒業-』を観てびっくりした。意外とそうでもなかったからだ。

 

〇本編内の“奇跡”たち

 以下、ぼくが今作を愛するに至った要素をざっくばらんに紹介していきたいと思う。まあまあネタバレはあるかと思うので、気になるという人はごめんなさい。

 

①橋本環奈と穏やかな日々

今作で橋本環奈が演じる星泉は、ご存知『セーラー服と機関銃』の主人公。愛する伯父さん(ヤクザ)を殺した敵対ヤクザどもにお礼参りをするため、自らもヤクザの組長になったという異色の過去を持つ女子高生だ。現在、いわゆるヤメ暴である彼女は、元組員らと一緒に「メダカカフェ」を経営中。これって巷で話題のJK社長ってことなのでは?と思っていると、カフェ自体は元組員武田鉄矢の的外れなテンションによって閑古鳥が鳴きっぱなし。堅気の仕事はどうも苦手らしい愉快な仲間たちとともに、それでも幸せな日々を過ごしていた。この「穏やかな日常」パートでは橋本環奈の姐御肌な態度がとても魅力的で楽しい。ヤクザをやめた身であれ、因縁の浜口組に呼び出されれば臆することなく乗り込んでいく。組長役の伊武雅刀相手にも啖呵を切ったりするが、思いのほか堂に入った姿に惚れ惚れだ。

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学校生活はというと、一番前の席であるにも関わらず授業中に居眠りをしている。先生も元組長を注意するのが怖いのだろう。星泉は事もあろうに、かつて敵対する組に殴り込んでサブマシンガンを乱射した際の夢を見ていたりする。そんな強烈な演出からも、彼女の豪胆なキャラクターが見て取れる。アンドロイドは電気羊の夢を、星泉は殴り込みの夢を見るのであった。

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②橋本環奈と恋

この映画は橋本環奈の様々な面を見せてくれる。こっちだってそれが見たくて劇場に足を運んでいるのだ。 映画の中盤、協力を持ちかけてきた長谷川博己a.k.a永月との待ち合わせのため、橋本環奈が武田鉄矢とラブホテルに入るというシーンがある。見慣れぬ室内の様子に興味津々の橋本環奈。ここで彼女が「恥ずかしがる」という演技を要求されていない点にも、「橋本環奈」という存在のありかたが見てとれるのではないだろうか。彼女がいちいちその程度のことで動じたり、あえてドギマギして見せるようなまどろっこしさなんかを持ち合わせているわけがないのである。武田鉄矢が「昔はモテた」というどうでもいい思い出話を延々垂れながしているその脇で、お湯の張られていない湯船に入り、楽しげに脚を伸ばす橋本環奈。そこで一瞬、彼女が自らのふくらはぎをつまむ。本当に一瞬なので、決して見逃してはならない。別に後半の伏線でもなんでもないただのふとした仕草だが、物語に奉仕をしないからこその豊かさに胸を打たれるはずだ。

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本作で星泉は、敵対する浜口組の若頭・月永に淡い恋心を抱く。ラブホテルで待ち合わせた彼が廊下でお水っぽい女と濃厚なキスをしている姿を偶然目にして呆然としたり、雨の中を二人で走りながら思わず楽しくなって笑っちゃうというインヒアレント・ヴァイスのようなシーンもある。環奈ちゃん、雑誌のインタビューで今は恋愛に興味ないって言ってたじゃん!とはいえこれは映画だし、環奈ちゃんや長谷川博己さんが絶妙なバランスで演じ、前田監督の丁寧な演出のおかげもあって、「星泉の恋」として割り切ることができた。この映画は実にうまいバランスで成り立っている。

 

③橋本環奈と暴力

さらに自分の驕りを痛感させられたのは、暴力の描き方に関してだった。ヤクの売人に尋問を試みようとする星泉はなぜか「拷問」という言葉をさらりと使う。ふと振り返ってみるに、この作品内において彼女は「暴力反対」といった態度は特にとらない。決して強調されているわけではないが、「やむを得ない場合はそれ相応の行動をとる」といった冷たいスタンスが根底に流れているのである。なかなかにザラついた世界だ。そして暴力の結果としての「死」だって当然のように描写されていく。本作は思っていた以上に人の死ぬ映画なのだった。そしてそれらの死によって磨り減っていく星泉a.k.a.橋本環奈。クラブでの大銃撃戦シーンでは、あろうことか首を吊られた彼女は身動きをとることもできず、ただただ凄惨な状況を見つめることしかできない。銃だけじゃなく、カランビットナイフを操る慢性鼻炎の殺し屋も出てきたりするし、長谷川博己も短刀を振り回す。そのため、結構な血が流れたりする。

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星泉はヤクザなので、山中に死体を遺棄したりもする。この場面がクラブでの大銃撃戦から順撮り(物語の流れ通りに撮影すること)されているということはドキュメンタリー番組で確認済みだった。つまり橋本環奈は、深夜の大銃撃戦から朝方の死体遺棄シーンまで、ぶっ続けで星泉を演じ続けているのである。疲労の色は隠しきれない。涙で目を腫らし、憔悴した表情で俯く姿のなんと画になることか。因縁の過去が明らかになった永月に銃を向けるその眼差しには、演技を超えた迫力が宿っている。普段から自らのネガティブな面の表出を良しとしないことでも有名な橋本環奈。そんな彼女の溢れんばかりの生々しい殺気に、誰もが息を呑むことであろう。

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④橋本環奈とみんな

 ここまで橋本環奈の素晴らしい点ばかりを挙げてきた。しかしそれらは、制作側の努力や工夫、他のキャストの好演あってこそ、あれだけのものになり得たとも言えるはずだ。

 

大野拓朗&宇野祥平コンビは、星泉を献身的に支える組員を好演。「組長は背も小さければ器も小さいですもんね」とのイジリで消沈する彼女を元気づけるシーンなんて胸に沁みる。彼らの組長愛と、レディースのような声と態度でそれに応える橋本環奈の化学反応は思いのほか素晴らしかった。

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もうひとりの古参組員を演じた武田鉄矢も、いつも通りの武田鉄矢好演。やたらと捨て身の作戦ばかりを実行する特攻野郎な性格は後半のある展開にも生きてくる。鬱陶しいけどそばにいてくれるシークレット・サンシャイン』のソン・ガンホのような男にも思えなくもない、ような気もする、なかなか憎めないキャラクターだった。

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長谷川博己といえばここのところ過剰にアッパーな(というかおどけた)演技で苦手に感じていた俳優の一人なのだけど、いやいや、とはいえこの人は別にそれだけの人じゃないってことを思いださせてくれた。ダークスーツの似合うスタイルの良さと抑えた演技で、浜口組若頭を好演。そんなに多くはなかったけどアクションもかっこよかった!これからは園子温と組んでいるときだけ注意するね!

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敵対するヤクザのボスを演じた安藤政信は、記憶に新しい『GONIN サーガ』でのボンボンヤクザ以上の凶暴さで熱演。さすがはクラスメイト41名中13名を殺害した男、橋本環奈めがけて手元のコップを全力で投げつけるというシーンでは、こちらも思わずヒヤリとしてしまう。あとになって調べてみたところ、そのシーンは完全に安藤政信のアドリブらしく、本当に当たったらどうするつもりだったんだ……。しかし安藤政信といえば『GONIN サーガ』の撮影においても監督の「平手で」という指示を無視して土屋アンナグーで殴り続けたという前科がある。「橋本環奈を本気で傷つけるんじゃないのか?」とこちらが不安になるほどの迫力の甲斐あって、この映画から「主人公がちやほやと庇護されるだけの生ぬるい空気」が排され、絶妙なバランスの作品となり得たのかもしれない。安藤政信、偉い!なにより「それでも微動だにしない橋本環奈」という最高の画を引き出せた功績も併せて称えるべきだ(その隣に立つ武田鉄矢も動じていなかった。みんなすごい)。

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その他、セーラー服と機関銃で刑事を演じていた柄本明の息子・柄本時生がドラッグ事情に詳しいアッパーな情報屋で登場していたり、魚眼レンズっぽい画だったり、長回しだったりと、過去作へのオマージュ、のようなものも随所に見られた。星泉のその後の物語と謳いつつも、続編ともリブートともとれるという点がマッドマックス 怒りのデス・ロードみたいなつくりの映画だ。

 

なにより、橋本環奈の「生命力」に着目して演出を手がけたという前田弘二監督の功績を讃えなければならない。この企画上、主演の橋本環奈が魅力的に見えないと話にならないわけだけど、そこは早々にクリアしてみせ、さらに作品のクオリティを向上させるべく尽力している真摯さがちゃんと結果として現れていた。長回しでちょっとだけ目が回ったものの、そこには確かに「いまこの瞬間の橋本環奈」が活写されていて、ぼくは嬉しかった。

 

 

〇ありがとう、橋本環奈

今作を観てなによりも嬉しかったのは、橋本環奈がまだまだ全然底知れない存在だということを再認識させてもらった点だ。「演技はどうなんだろうな……」という一抹の不安もかき消されるほどの堂々とした演じっぷりに、ぼくは早くも橋本環奈の次回作が楽しみになっている。青春ミステリーである『ハルチカ』の制作が決定している今、彼女の躍進をどこまでも見届ける覚悟は出来ている。

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並べられた仲間の生首を前に、血の復讐を誓う彼女をスクリーンで拝めるその日まで首を長くして待とうではないか。