MidnightInvincibleChildren

セルフカットの憂鬱

 

セルフカットに失敗した。明日に迫る『マッドマックス/怒りのデス・ロード』にむけて髪を切りたいと思ったのだけどIMAX3Dでの鑑賞代に回すため意を決して自ら手を出してみたのだ。鏡を見つめて思うのは、こうはならなかった平行世界について。こんなはずじゃなかった。

 

セルフカットの思い出といえば高校一年の頃。右側の襟足が逆毛であるぼくは、髪が伸びると後頭部にしっぽのような盛り上がりができてしまう。別にいいんだけど高校生の頃はそれが気になって気になってしょうがなかった。そこで自宅にあったサビの浮いたすきバサミを勘で振り回していたら、素手で引きちぎったかのようなドキッとする襟足になってしまったのだ。友達に見せてみたら「ちょっとこれは……」と言われたので泣きながら家に帰り、父親に整えてもらった。二度と自分で切らないと思ったがその数ヵ月後、またぼくはセルフカットを試みていた。

 

こういうとき歴女なら「いつの時代も人間ってそういうものだから」と笑ってくれるのかもしれない。

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セルフカットに関する自分の歴史を遡ると幼稚園のころ、前髪をセンター分けするアニメキャラに憧れ(『ドラゴンボールZ』のトランクスとか『飛べ!イサミ』の雪見ソウシとかのことである)自分の前髪の中央部をカットしたことがあった。それを見た友達が「いいね。おれにもやってよ」と言ってくれたので、同じ部分をカットしてあげたんだけど、後日そいつの母親に呼び出されてものすごい剣幕で怒られてしまった。良かれと思ってやったことが実を結ばないことをぼくはこのとき学んだのである。今思えば「髪を切る」という行為が「虐め」と捉えられかねないという認識さえなかった無垢なぼくに、「この世はあらゆる暴力で満ちている」ことを示唆してくれたのは友達のお母さんだったのだ。

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↑ いまではこいつらのなにがいいのかまったくわからない。大嫌い

 

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↑ こういった作品の良さがわかるようになったことからも、自らの成長を感じずにはいられない。傷は乗り越えたときに輝きへと転じるのである

 

とにもかくにも『マッドマックス/怒りのデス・ロード』への期待でいそいそしてしまう。鑑賞後、自分がどうなっているのか想像もつかない。緊張していると言ってもいい。いまはただ『マッドマックス/怒りのデス・ロード』を知らない自分であればいい。今日中に腕立て伏せ、腹筋ともに変化が見られるまで行います。劇場を出るときそこは世紀末そのものになっているはずなのだから……

女になりてえ/『ハイヒールの男』

 

その男は伝説だった。

ヤクザのボスが部下を前にして語る。

「もしおれが大統領だったら、やつを側近にするか、銃殺刑にするかだ」

男の職業は刑事だが、悪党さえも陶酔した表情で彼を語る。鋼のような肉体にいくつもの傷痕を有し、どんな相手だろうとその凶暴性で圧倒してしまう男の名はユン・ジウク。

しかし彼には大きな秘密があった。

幼い頃よりずっと「女性になる」という願望を抱いていたのだ。

 

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韓国発「一体どういうことなんだ!?」映画こと『ハイヒールの男』を観た。最強の刑事が実は女性になりたいという願望を胸の内に秘め、日々葛藤しているという話。その話でなにをどうしたいのかわからないところがもう最高なんだけど、いざ鑑賞するとクールで残酷でおかしくて燃える映画だったので本当に最後まで超サイコーだった。

 

この主人公、とにかく強い。オープニングでいきなりヤクザの会合に殴り込んだかと思うと、たった1人で11人をボコボコにしてしまう。主演を張るチャ・スンウォンは長身かつ細身なためアクションがものすごくよく映える。さらには軸のしっかりした立ち回りでキレのある暴力をバシバシ放ってくれるのでこちらも安心して興奮できるのだ。串の束を首元にぶっ刺すなど、バイオレンス描写も信頼の韓国映画クオリティだ。

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またこの主人公、誰からも一目おかれる存在なのである。サイボーグという仇名までつけられ、同僚からは厚い信頼を得ている。ヤクザの№2なんてファンを公言するほどだ。しかし当人はというと、そういったイメージとは違った顔を次第に見せる。カウンセリングの先生に不眠を吐露し、医者にホルモン剤の効果が薄くなるから激しい運動はやめろと怒られ困り眉。そのときの仕草がさっきまでヤクザをしばいていた男とは思えずぼくは混乱。飲み物を飲む際は小指を立ててるし……というのは安直で笑ったけど、この人本当に女性になりたいっぽい。回想シーンが度々挟まれるが、彼が学生時代に同じクラスの男の子と恋仲にあったことも示されるので、その願望が積年のものであることもわかる。なるほど~……といった感じだ。

 

この映画、中盤からはこの主人公がニューハーフの先輩に教会で相談して泣いたり、ブスなニューハーフに思わずビンタしちゃってハッとしたり、思い切って女装しての外出を試みるもマンションのエレベーターで知らない一家が乗ってきてドギマギしたりとハプニング続き。さらには追っていた連続レイプ魔が捕まり取調室に赴くと、そのカスに「おかしいな。刑事さんの言葉を聞いてるとアソコが固くなってくる……」と内に潜めた女性性を見抜かれギクッ!とするなどもう大変。

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それでも彼は女性になることを諦めきれない。みんなに惜しまれながらも辞表を提出し、性転換手術のためアメリカに旅立つ決意をする。送別会において酔った後輩から「昔、捜査で兄貴が女装したことあったじゃないですか!あの姿を思い出すといまでも吐きそうになるんですよ!ワハハ!」と心無い言葉を吐かれて傷ついたりもする。かわいそうでならない。それにしてもこの主人公、最強であることの理由として「女性になりたい気持ちを抑えること」=「完璧な男として振舞う」といったロジックが成り立っているところが面白い。海兵隊に入隊し、いまでは暴力刑事として活躍するのも全ては自らの願望から目を背けるための行為だったのだ(ニューハーフの先輩は見抜いてくれる。曰く「わたしもそうだったから」)。

 

後半はヤクザ側の不穏な動きから再び全力バイオレンス映画へと復するのだが、彼自身の願いを許容しようとしない世界の残酷さが浮き立って切ない。主人公の願望を知った件の後輩が、酒に溺れながら主人公がコップを握った際の立った小指を回想して「兄貴……」となるシーンには笑っちゃったけど、容赦のない暴力は主人公からあらゆるものを奪っていく。これ以上わたしを「男」でいさせないで!そんな彼の願いも韓国ヤクザ名物・刺身包丁で切り裂かれるのであった。

 

とにかくこの映画、ぼく自身かなり興奮したし笑ったし最終的に意味不明なやる気を与えてもらったのだけど、最後まで観てもなんだか掴みどころがない。なにがしたかったんだろうと思うし、全部したかったんだろうという気もしてくる。韓国映画の新たな傑作の誕生に、つい先日tweetしたばかりの韓国映画オールタイムベストを更新したくなったほどでした。興味があればぜひ観てほしい。アクションのクオリティだけでも元が取れると思います。調べてみると撮影監督が『哀しき獣』『サスペクト 哀しき容疑者』 の人らしいけど、この2作に比べるとカメラの揺れも少なくとても見やすいアクションだったように思います。それは編集がいいのでしょうか?そこのところはよくわかりませんが、とにかくオススメします!観なさい!

 

ここじゃないどこかに賭け続ける/『サウダーヂ』

 

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山梨県甲府市を舞台に土方と右翼かぶれのラッパーと移民が登場する『サウダーヂ』という映画があるらしいことは2011年の時点で知っていた。ただしその当時にはぼくの住んでいた地域での上映はなかったし、監督の意向により劇場での上映のみでソフト化もされないとのことだったので、この映画を鑑賞するためには都合のいい上映時期・上映場所が一致するタイミングを虎視眈々と狙わなければならない。で、都合が合ったので先週火曜日に新宿K’s cinemaにて滑り込み鑑賞。けっこう混んでいた。

 

辞書によるとタイトルの「サウダーヂ」はポルトガル語で「郷愁」を意味する言葉らしい。ただ実際にはもっと様々なニュアンスが含まれている言葉らしく、日本語において一言で言い表すことはできないそうなんだけど、とにかく「胸がキューンとする感じ」を指す言葉だとか。それはつまりぼくの大好きなあの感情だ。なにかを懐かしむこともそうだけど、今となっては遠いなにか・どこかに思いを馳せるときのあの気持ちこそ「サウダーヂ」なのかもしれない。だとするとぼくはサウダーヂ・ジャンキーなので、日々なにかに思いを馳せ、いろんな味の溜息を吐いている。

 

本作では山梨県甲府市を舞台に、そこに住む様々な人々の群像劇が繰り広げられる。土方、ラッパー、在日外国人、東京から戻ったイベンター女etc……。みんなの共通点といえばここじゃないどこかに思い焦がれているという点。そんな面々が理解し合うという高いハードルを当然のようにう飛べないまま過ごす日々が、淡々と、かつユーモラスに描かれている。この映画3時間近くあるんだけど、「退屈な日常」を映画として工夫し見せてくれているので全然退屈しない。やりとりの面白さとか、編集のテンポなどでこちらの興味をちゃんと引っ張ろうと趣向が凝らされている。あれだけ長い映画が苦手なぼくだけど、サウダーヂ・ジャンキーとして感じ取った彼らの気持ちがとにかく痛く、目が離せなかったという部分もあったかもしれない。

 

ラッパーの田我流演じる「猛」という男の子がバイト先の退屈な飲み会の帰り道、シャッター商店街を歩きながらぶつぶつ悪態を吐き、それがやがてフリースタイルのラップとなっていくシーンが本作の白眉だという話はもうあちこちで言い尽くされていることらしいけどぼくも言いたい。パチンコ中毒の両親やタクシードライバーな電波弟と共にゴミにあふれた一室で生活する彼が思いの丈を発散させるために用いるのがラップというところに胸を打たれずにはいられないし、なぜ人がHIPHOPに惹かれてしまうのか、その根源に触れられた気もした。高揚しないわけがない。

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妻帯者にも関わらず若いタイパプ嬢に入れ込んで、いつか彼女とタイに移住することを夢見ている土方の精司が、いろいろあった末に煌く商店街という幻想の中を歩くシーンはまさに今作のタイトル『サウダーヂ』が炸裂する瞬間。そうなるはずだった(と彼らが思っていた)未来ともとれるところが切ない。

 

この映画に出てくるみんながみんなサウダーヂに囚われている。目の前にあるのはどん詰まりでくそったれな日常、ここじゃないどこかのことを考えなければやってられない。山梨県甲府市には、綺麗事とおためごかしを並べたご当地映画とは比べるのも失礼なほどの大傑作『サウダーヂ』があって本当に羨ましい。ここのところ函館の闇に焦点を当てた映画もちらほら見受けられるようになってきたし、この流れに乗って日本全国のあらゆる市町村もその地で生きる様々な人々を真正面から描いてみてはいかがでしょうか。ちなみに『サウダーヂ』に出てくるヤクザは本物の方々らしいですよ。車の発進のさせ方がすごく乱暴で迫力満点だったし……。

 

また日本のどこかでこの映画を観たい。ソフト化しないという監督の意向にも納得できるくらいに、この映画は観た人々に強烈なサウダーヂを抱かせる引力を持っている(これもさんざん言い尽くされたことなのかも知れない……)。

さっきキャバ嬢の隣で『ピッチ・パーフェクト』を観た

 

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最近のぼくはすこぶる好調。酒も飲まなければ煙草の副流煙すら容赦せず、動物性たんぱく質をとりすぎないよう納豆ばかりを食べる日々。それもこれも我が身を「最高のモルモット」にするためなのですがその件についてはまたいつか書くとして、そんな快調なぼくがすっかり夏のそれとなってしまった新宿の夜を歩きながら向かっていたのは映画館a.k.a.毎週水曜日は1000円で映画が観られるという最高のシアター、新宿シネマカリテ。そこで公開されている映画『ピッチ・パーフェクト』を鑑賞するためだった。アメリカでは現在『2』が公開中らしいけど、なんと『マッドマックス/怒りのデス・ロード』を抜く大ヒットとなっている模様。あの『マッドマックス』を抜くほどの大ヒット作の1作目なんだからとミーハー精神で席を予約したわけですが、もともと2012年公開の本作を本国で続編が大ヒットしているこのタイミングで慌てて公開する配給側への不満はもはや言うまい。『21ジャンプストリート』シリーズを劇場でかけないようなコメディ音痴の企業ばかりなので言うだけ届くかもわからない。ボケナスが。ぴったらずで爆笑していろ。

 

劇場に入ったぼくはまず驚愕。満席やないか~!隣がなんとオフらしきキャバ嬢でドキドキ。先週『新宿スワン』を読み始めたばかりだったのだ。そんなこんなで『ピッチ・パーフェクト』。めちゃくちゃ最高でした。

 

ぼくは楽器はもちろんのこと歌うことすらろくにできない人間であるため、その道にちょっとでも自分の居場所を見ることのできる人がうらやましいのですが、そんなぼくの羨望に見事応えてくれるかのような高揚がこの映画には満ちていました。ああいいなあ。歌うって楽しそうというかもう絶対最高だし、それはこうやって聴いているこちらにも伝わっていて、ということは「歌う」という行為、人間に与えられた能力の中でも最強なんじゃないか?なんて思っちゃうほどすべてのシーンが楽しい。アカペラ合唱クラブの話なので楽器は登場せず、いまそこにいる人間だけで空間を支配するという凄技を、支配される側としてこれでもかと味わいました。ぼくでも聴いたことのあるような曲も数々飛び出し、各々のアレンジを加えながらクールでホットなハーモニーを奏でる登場人物たち。ああちくしょう~、楽しそうだなあ。聴いているだけのぼくでさえこんなにも楽しいんだからな~。特に、お題として提示されたテーマに沿って次々と相手の歌を乗っ取り合っていくアカペラバトルシーンなんかずっと観ていたいくらい興奮しました。絶対音感と膨大な曲の知識がければ土俵に立つことすら許されない戯れ。達人の武術を見せられているみたいな気分にすらなりました。

 

それにしてもアナ・ケンドリックがこんなに歌うまいとは驚きでした。ふとした瞬間にベン・スティラーに見えるし、そのくせ谷間のサービスは欠かさないえっちなチンチクリン女優だと思っていたのに。あと『ペイン&ゲイン』に出ていたかわいいおデブちゃんも歌がうまい。出てくるみんな本当にうまい。この世で歌が下手なのが自分だけなんじゃないかと思えるくらいみんなうまい。あと歌わないけどチラッと出てくるクリストファー・ミンツ=プラッセもうまい。歌わないけどおいしい。思えばここのところ、クリストファー・ミンツ=プラッセが出ているコメディ映画には外れがないような気がする。『ネイバーズ』も最高だった。

 

ということでモルモット野郎のぼくに思春期のような甘いざわめきを与えてくれた『ピッチ・パーフェクト』には感謝の意を表明したいです。本当にありがとう。こういうポジティブな感情を盛り上げてくれる映画をもっとたくさん山ほど観たい。それこそアメリカが銃社会であることを忘れるほど浮つきました。

 


Foreigner Feels Like The First Time - YouTube

書き下ろし短編:『欝子の角栓』

 

 いろいろあるだろうとみんなは言うけど、別にみんなが思っているようなことはなにもないし、そのなにもなさこそ、わたしが部屋を出ない理由なのだ。朝~昼に起きてまずやることなんてなにもない。ああ起きてしまったんだと後悔して、また明日も目覚めてしまうんだと鬱々慄きながら夜を迎え、過ごし、ようやく眠る。眠っている間が一番まし。起きている間はずっと苦痛。例えば爪を切る。例えば鼻をかむ。例えば横になる。早く夜になれと思う。眠れないわたしは自分の顔を触る。しばらく鏡を見ていない。わたしはザラザラした鼻筋を撫でる。爪の先でこすればポロポロと表面が剥がれ落ちる。わたしは無心になる。ザラザラがあってポロポロとなって、わたしはわたしの一部だったものを眺める。そっと机の端におく。

 鼻を強くつまむと、たくさんの白いつぶつぶが浮き出てくる。それらをまた爪でこする。

 なにがどう間違ったなんて考えるのは変だと思う。わたしはずっとこうだ。ただしく現状に至っている。正直に生きている。

 向かいの家に住んでいたユウちゃんの弟が、最近バイクを買ったらしい。エンジンの唸る音が聞こえる。それは真夜中だろうと聞こえてくる。家族が文句を言っている声が聞こえてきたこともある。でもわたしはあの音が好きだ。眠れないわたしに寄り添ってくれている気がする。

 今日もわたしは眠れない。音が恋しい。

 ユウちゃんは今年結婚するらしい。子供ができたとか言っていた。わたしは部屋の窓から彼女の家を出入りする若い男を見たことがある。もしかするとわたしも知っている人かも知れない。

 最後に何かを楽しいと思ったのはいつだろう? 記憶を呼び起こそうとしても鈍い流れが渦巻くだけだ。煩わしい。有り余る時間の中でめぐり続けるこの思考をストップさせたい。地球の自転がピタッと止まればいいとわたしは思う。世界が一瞬にして粉々になれば、その実、みんな「まあいいか」と思うのかもしれない。

 さて、わたしはこんな毎日を終わらせようと思っている。どんな形であれ。

 わたしは鼻の頭を爪でこする。どうしようどうしよう。どうしようもないどうしようもない。

 その日は朝から窓を開けてみた。久しぶりの外気。その匂い。わたしは忘れていたいろいろを思い出す。楽しかったこと。寂しかったこと。向かいの家の前に、ユウちゃんが見える。赤ちゃんを抱いている。男の子か女の子かもわからない。でも小さな赤ちゃんが彼女の胸で眠っている。ユウちゃんがこっちを見て、ちょっとだけ笑った。わたしは思い出す。楽しかったこと。寂しかったこと。

 動けなかった。もっと楽しいことが欲しかった。寂しいことも。いろいろな気持ちが欲しかった。諦めることに慣れすぎた心を、綺麗に洗い流したかった。

 わたしは机の端に置いてある野球ボールほどのそれを手にとった。乾いて今にも崩れ落ちそうだ。急がなきゃ。

 わたしは窓の外目掛けて放り投げる。

 宙でほどけた無数の角栓は方々に舞って、照りつける陽光に鈍く透けゆく。風に乗って、煙のように昇っていく。ユウちゃんがわたしを見ている。口を開けたまま、やがて目を三日月型にする。懐かしい。わたしは今この瞬間を懐かしいと思っている。いつかとそっくりだ。でもそれがいつなのかは思い出せない。でも体が覚えている。喜んでいる?

「ユウちゃん!」

 わたしは叫ぶ。声が出る。わたしはこの声、意外と好きだったんだなと思う。

 そして轟音。粟立つわたしは道路を見る。わたしの角栓が風に乗って、こちらに向かっていたユウちゃんの弟に降り注いだのだ。驚いた彼は転倒してしまい、バイクはアスファルトの上を滑って電柱に激突した。遅れて転がり込んできた弟くんは、道の真ん中で停止し、かすかにだけど動いている。

「ごめんなさい!」

 わたしの言葉に目を見開いたままのユウちゃんが叫ぶ。

「大丈夫! 生きてるー!」

 全身がふざけるように震えていた。

 嬉しくてわたしは大きな声で泣いた。

 

 

橋本環奈が麻薬カルテルと戦う映画『HOLA! HOLA! HOLA!』(ネタバレあり)

 

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 〇どっひゃ~!なんて企画を通してるんじゃ~い(汗)

昨今、ハリウッドのアクション映画などにおける悪役として台頭しているのがメキシコの麻薬カルテルである。ざっと思いつく範囲でも『savages/野蛮なやつら』、『エンド・オブ・ウォッチ』、『悪の法則』、『サボタージュ』などがあるし、ドラマでいうと『ブレイキング・バッド』、『皆殺しのバラッド』というドキュメンタリー映画も作られたほどだ。現実世界においてもその凶悪性がインターネットを通じて世界に拡散されるようになり、ぼくたちは彼らの蛮行を日本にいながらにして垣間見ることができる。彼らは処刑一つするにしてもユーモアを忘れない。暴力をいかに“気の利いた”ものにできるかと競い合うような姿からも、彼らの恒常化し半ば麻痺しつつある残虐性を垣間見て戦慄する。その残虐さを、止めようのないこの世の邪悪な理として描いた『悪の法則』は本当に恐ろしかったし、あのシュワちゃんをもってしてもバーにたむろする組織の末端どもを殺すので精一杯という姿を見せつけられた『サボタージュ』も衝撃的だった。前作でミャンマーの軍隊を相手に大殺戮を繰り広げたランボーが次作で衝突する相手もメキシコの麻薬カルテルらしいし、今後も麻薬カルテルが登場する映画が増えていくことだろう。メキシコ麻薬カルテルは現在における悪のアイコンと化しているのだ。

 

 

 

そんな麻薬カルテル映画の最新作であり、我が琴線を叩きちぎるかのような衝撃を与えてくれたのが本日紹介する『HOLA! HOLA! HOLA!』なのである。主演はあの橋本環奈。麻薬カルテルと橋本環奈。ちょっと異常だ。このふたつの要素を組み合わせようだなんてお酒が入っていない限り思いつくはずがない。しかし、““この世の絶望に対してこの世の希望をぶつける””という視点を持つことができれば、今作の構造を理解することができるのではないだろうか。まあ実際その内容は血みどろ残虐絵巻なんだけど、橋本環奈ちゃんというどんな状況にも効果を発揮する清涼剤が主演を張ることによって絶妙なバランスを保つことに成功しているのだ。すごい。

 

〇本編内の“奇跡”たち

以下、ぼくが今作を愛するに至った要素をざっくばらんに紹介していきたいと思う。完全にネタバレありなので、それが嫌な人は携帯を破壊し文明に抗うほかない。

 

アバンタイトル

冒頭、メキシコ某所。ナルコ・コリードが鳴り響く中、酒場で豪遊する男たち。腰にささったギラギラの銃や野蛮な会話の内容から、彼らがカルテルの構成員であることがわかる。


"HEISENBERG SONG" COMPLETA CON ...

※ナルコ・コリードとは、麻薬カルテルギャングスタラップのようなものだと思ってください(参考動画:『ブレイキング・バッド』より)

 

仲良しコンビが連れションをしにトイレに入ってくる。“エル・グアポ(ハンサム野郎)”と呼ばれる組織の殺し屋がエルパソの国境沿いで殺された件についての会話が弾んでいる。話題は“ラ・ブルハ(魔女)”と呼ばれる謎の暗殺者に関するものへと移るが、そこで彼らは背後にある個室がガタガタと騒がしいことに気づく。やれやれと苦笑する二人。誰かがお楽しみ中らしい。やがて個室が静まり返り、ゆっくりとドアが開くも二人は気づかない。そこにはサプレッサー付のハンドガンを構える橋本環奈。間髪入れずに男たちの後頭部を次々と撃ち抜き、動かなくなったその体にもパスパス弾丸を撃ち込んでいく。その動きに躊躇はない。個室の中にはワイヤーが首に食い込んだ男の死体が横たわっていた。ナルコ・コリードの音量が次第に上がっていく中、男たちの腰にささった装飾入りの45口径を手に取りほくそ笑む橋本環奈。手洗い場の鏡で前髪を整える橋本環奈。死体から奪ったテンガロンハットをかぶる橋本環奈。彼女はトイレを後にする。制作会社、キャスト、監督のクレジットが表示される中、スローモーションでパーティーの中を歩く彼女は、満面の笑みでギャングたちに紛れ、体を躍らせながら出口へと向かう。もちろんぼくはこの時点で号泣。主人公がノリノリで踊る映画に傑作は多い。画面は再び死体の転がるトイレに戻る。酔った男がトイレに入ってその惨状に驚愕。慌てて声をかけながらうつぶせになっている死体をひっくり返すと、下敷きになっていたいくつもの手榴弾が転がり出る。その表面には赤文字で「HOLA!」

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粉塵がたちこめ、轟音や悲鳴が木霊する中、画面いっぱいに表示されるタイトル。とんでもない映画が始まってしまった……。

 

 ②“ベイビードール・スクワッド”の日常

橋本環奈は少女のみで構成される暗殺集団に所属しており、アメリカのどこかにある(ぼんやりしている)森の奥の大豪邸を拠点に日夜犯罪者どもを血祭りにあげている(この屋敷の場面は浮世離れしており、どこか幻想的で、フランス映画の『エコール』を思わせる)。そんな彼女たちの日常がテンポよく紹介されていくのだが、華やかなドレスに身を包んだ少女たちが、豪華ホテルのペントハウスで開かれたマフィアのパーティーに潜入して紳士淑女を虐殺しまくるシーンは壮絶の一言。Nappy Rootsの『Good Day』が流れる中、出入り口を背にして横並びした少女たちが『CoD:MW2』の空港ステージさながらの一斉掃射を始めるのだ

テラスに避難した連中さえも狙撃担当の双子に頭を吹き飛ばされるという徹底ぶりには思わず破顔した。本作は制作にマイケル・マンが関わっているため、銃器の描写がとにかくリアル。音響も鳥肌が立つほど重く、腹の底まで響くほどの迫力がある。大仕事を終えたメンバーが帰りの車内で窓を開け、夜風を浴びながらキャッキャとはしゃぐシーンで再度号泣。まるでこの瞬間が永遠だと信じているかのようだ。集団の中で生きるアイドルとしての橋本環奈をあえてキャスティングした効果がここで顕著に現れている。しかし、部屋に戻ってベッドに入るやいなや悪夢にうなされる橋本環奈。汗だくになって部屋の家具を破壊して回り、心配する他のメンバーに抱きしめられてなだめられるシーンには、彼女の置かれた境遇の残酷さが胸に迫る。泣かないで!こんな仕事もうやめて!しかし彼女たちの戦いはこれからも続いていくのだ。不毛な麻薬戦争の闇が、この映画を覆っている。

 

③「掃除屋」

これは事前には知らなかったのだけど、少女たちがしくじったりした際に後始末を任されて派遣される最強の「掃除屋」として“ウォー・ゾーンのパニッシャー”ことレイ・スティーヴンソンが出演している。渋い俳優だ。そんな彼が登場シーンにおいてデンゼル・ワシントンジェイソン・ステイサムに次いでいま話題の“事後演出”をかましたところでぼくは絶頂。駅に着き電車を降りた「掃除屋」が仕事終了の電話をかける。背後で動き出す電車。彼とは反対方向へ走りゆく車両内すべてが血まみれ!まったく説明がないので「掃除屋」がどういった連中を相手にしていたのか、なぜ電車なのかと混乱はするがそのインパクトありきの勢いに感服。窓から死体の足が飛び出していたりするのもオツだ。麻薬カルテルを相手にするにはこれくらい異常な連中じゃなきゃならない、という前提も示されていて実に痺れるシーンだ。

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※『ウォー・ゾーン』の続編待ってるよ!

 

④麻薬カルテルの残虐さ

 一方でこの映画、麻薬カルテルの恐ろしさも余すところなく描いているので油断できない。スナッフビデオ撮影シーンはトラウマ必須の残酷さ。バット1本で人間が肉塊になるまで殴り続ける長回しギャスパー・ノエの『アレックス』を彷彿とさせる)は挨拶がわり。挙句の果てには死体にまでそんなことをするなんて!という極悪ぶり。そしてなにより強烈なのが物語中盤、“ベイビードール・スクワッド”のメンバー3名が作戦に失敗してカルテルに捕まってしまう場面。安否を心配する環奈ちゃんたちの元に、拉致されたメンバーのひとりが傷だらけで戻ってくるのだが、鼓膜が破られ会話が成り立たない上に半狂乱。そんな彼女が引きずる大型のスーツケースの中には、バラバラにされた上で“ひとつ”に結合された狙撃手の双子が入っていて……。劇場では、このシーンで席を立つお客さんが三人ほどいました。スーツケース内にはさらにDVDが入っている。映画内で中身は示されないが、それがスナッフビデオなのは明らかである。カルテル側からの強烈な報復。広大な裏庭で埋葬されるメンバー。そこにはすでに無数の墓石が並んでいる。喪服姿で佇む橋本環奈は息を呑むほど美しいが、その据わった目はまるでメル・ギブソン。物語が加速する。

 

⑤お礼参りa.k.a.「HOLA! HOLA! HOLA!」

 殺されたメンバーと橋本環奈は親友だった。序盤で彼女がパニックになった際になだめてくれたのもその少女。スクワッドの逆襲が始まる……かと思いきや、上からの指示がなかなか下りない。そんな中、橋本環奈は唯一生きて戻った少女のお見舞いに向かう。そこでの筆談シーンで完全に気が触れてしまったと思われていた少女から「復讐して」とのメッセージを受けとるシーンは熱い。真夜中、橋本環奈は身近にあった銃器を手に屋敷を抜け出す。プッシャーの家に殴りこみをかけ、特殊警棒でボコボコにする場面ではクラヴ・マガを使う橋本環奈が拝めて最高。仲間を解体した犯人にたどり着くまで襲撃、拷問を繰り返すその計画を「友達の輪作戦」と称する彼女はもはや阿修羅。口を割らせるためには容赦なく装飾入りガバメントの引鉄を絞る。そんな彼女の暴走に、麻薬カルテル側もメキシコから精鋭ぞろいの殺し屋部隊を呼び寄せ、迎え討つ態勢を整え始める。さらには彼女の所属する組織もあの「掃除屋」を派遣。三つ巴の衝突によって、街は戦場と化すのであった……。

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※以下、物語の結末部分に触れています。
 
 
 

〇World Is Yours.

 今作は本当に恐ろしい映画だ。復讐の鬼と化した橋本環奈、麻薬カルテルの殺し屋部隊、そして“ベイビードール・スクワッド”&「掃除屋」による場所を選ばぬ激しい戦闘は戦争映画さながらである。敵に包囲されるも、ピンを抜いた手榴弾を握ったまま会話を続ける橋本環奈はかなりクールだったし、これまでコレクションしてきた何挺ものカルテルハンドガンを全身に装備し、次々と撃ち尽くしながらナイトクラブを駆け抜けるシーンは神がかっていた。そこで流れる曲がThe Walker Brothersの『Walking In The Rain』というのも気が利いている。

また、襲撃した先がギャングの武器庫であることに気づき、声を殺してガッツポーズをとる姿は100億点。その他、道路から建物内目掛けて催涙ガス弾をしこたま撃ちこんだあと、ガスマスクを装着しツインテールをなびかせながら突入、マチェットサラマンダーで敵を切断していくスローの横スクロールアクションも捨て置くことはできない。

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※マチェットサラマンダー

 

一方の麻薬カルテル側も巻き添え上等の躊躇なき銃撃を行い、街中でRPGをぶっ放すのは当たり前。50口径の機関銃が取り付けられた改造車でハイウェイを滅茶苦茶にするシーンはマイケル・ベイ映画と見紛うほどの破壊が繰り広げられる。また、「掃除屋」がドリフトでギャングを轢き殺しながらフルオートショットガンによるドライブバイで通りの「清掃」を行うシーンなど、各キャラの見せ場も欠かさないところも心憎い限り。

 

そして物語はついに局面を迎える。双子を解体したカルテルの構成員が潜伏するナイトクラブをブラッドバスに仕上げた橋本環奈の前に、ひとりの少女が立ちはだかる。歳の差はほとんどないように見える彼女の名はリサ。“ハードキャンディ”と呼ばれる拷問屋だった。そんな彼女を演じるのは『バトルフロント』でステイサムの武闘派娘を演じていたイザベラ・ヴィドヴィックちゃん。

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ストクロエと呼ばれていた彼女がこんな役を演じるなんて……というのも、この“ハードキャンディ”のプロデュースによって双子は殺されたのである。血の海で取っ組み合う少女。ここではミシェル・ロドリゲスvsロンダ・ラウジーよりも狂ったキャットファイトが展開する。互いに一撃一撃が致命傷狙い。血で足を滑らせた橋本環奈がその勢いを活かして大車輪をかまし、バーカウンターの向こうまでイザベラちゃんを放り投げる場面では劇場からどよめきが漏れる。しかしこのリサという少女、幼い顔してとてつもないタフネスを見せるのだった。というのもなんと彼女、実年齢が32歳の成人。ホルモンの異常により身体の成長が止まった女だった。橋本環奈はリサと死闘を繰り広げながらも、大きな迷いを覚えてしまう。彼女は未来の自分なのではないか?この地獄のような日々の先に待つ、成れの果てなのでは?隙を突かれ追い詰められる橋本環奈。諦めかけたそのとき、“ベイビードール・スクワッド”がナイトクラブに突入。リサの脚を撃ち抜くことで攻撃を封じ、橋本環奈にも銃口を向ける。見つめ合う環奈とメンバー。そこにカルテルの残党も現れ、ふたりを間に挟んでのメキシカン・スタンドオフ状態。張り詰める空気の中、リサのわずかな動きも見逃さなかった環奈目掛けて、メンバーが落ちていた銃を蹴ってくれる。一斉に火を噴く銃口。弾丸が飛び交う中、床の上を滑ってきた銃を手に取る環奈、見事にリサを仕留める。ちなみにこのシーン、さりげなく顔面にダブルタップをかましているので頭が弾け飛ぶというすごいシーンとなっている。

 

復讐は達成した。しかし彼女を縛る呪いが解けたわけではない。この地獄の中で、これからも生きていかなければならないのだ。さらには組織の指示もなしに暴走したことに対する落とし前もつけなければならなかった。終わりのない銃撃の中、粉塵に包まれ髪を振り乱す少女たちの姿がスローで映し出される。そこで場面が暗転。しばしの沈黙をはさんでこの曲が流れ出す。

 


ここで終わりなのか?と思いきや、晴天の下、車のシートに腰掛け風に前髪をなびかせながら寝息を立てる橋本環奈が映し出される。まさか天国描写?その心配を一蹴するように、運転手である「掃除屋」が陽の光に目を細めながらハンドルを握る姿。車は荒野の一本道を進み続ける。曲は車内のラジオから流れていた。やがて見つけたガススタンドで彼女は車を降りる。視線を交わしたあと、無言のまま車を発進させ去ってしまう「掃除屋」。陽光に目を細める橋本環奈は、風に踊る前髪にひとり気だるげに微笑むのだった。

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この物語は決してハッピーエンドではない。彼女は一見自由の身になったかのようだが、過去のすべてがリセットされるわけではない。麻薬カルテルが彼女を見逃すはずもなく、今後も追手は現れ続けるだろう。 それでもラスト、彼女が見せたあの表情からは、必ずしもネガティブな感情だけが感じられるわけではない。彼女は今この瞬間の生を生きている。屍の山を築き上げ、ようやくたどり着くことのできた光の当たる高み。たとえその光が一縷のものであろうとも、屍の山が容易く崩れるものであろうとも、その瞬間の彼女は確かに全力で生きているのだし、世界は確実に彼女のものなのだ。

 

ぼくらはまた新たな奇跡を目の当たりにしたのである。

 

 

 

    

おまえのことを忘れさせてたまるか/『ワイルド・スピード SKY MISSION』

 

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もうすでに感想は書いたのですが、ぼくがイオンシネマ無料券という魔法のチケットを持っていたこともあって贅沢にも二度目の鑑賞をしてきました。

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「これが魔法のチケットじゃ」

改めて鑑賞してこの映画、最高!そう思ったぼくは『ワイルド・スピード SKY MISSION』のいいところを記録しておかなければと思いました。自分の記憶力を憎んでいるぼくは、いまのこの興奮を必ず風化させる未来の自分への脅迫状としてもここに記しておかなければならないのです。とにもかくにも今作はいいところだらけの映画なので、興味があればぜひ観てほしいと思います。この前書いた感想も一応貼っておきますのでどうぞよろしくお願いいたします。

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そもそも『ワイルド・スピード』シリーズはどうしてこんなことになってしまったのか。元々は地元でたむろして車いじってばっかりのローカルヤンキー界でポール・ウォーカーが潜入捜査する話だったのに……いまならEXILE主演でドラマ化されて「やっぱりヤンキーは人間性が良い」みたいなことになりそうな話だったはずなのに……。ヤンキーいいやつテイストはこのシリーズにもしっかりありますけど、気が付けば『GTA』感覚で車を運転し、どれだけ派手にモノを壊せるか勝負みたいな映画になっていて、車への思いやりとは対照的にスクラップ台数が増え、筋肉が増え、ハゲも増え、火薬と被害総額も膨れ上がるゴキゲンなシリーズになっていました。そして今作『SKY MISSION』は、『GTA』でチートを乱用したときのような、狂気にも似た高揚感に満ちるモンスター映画となっていたのでした。

GTAⅤ】

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【SKY MISSION】

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 【GTAⅤ】

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 【SKY MISSION】

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GTAⅤ】

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【SKY MISSION】 

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 もう区別がつかん。

 

今作でとにかく最高なのが、最強の敵としてファミリー(マフィアのことではありません)の前に現れたジェイソン・ステイサム。彼が登場する冒頭シーンは本当に素晴らしく最高なので、ここだけでも100回は観たいくらい興奮しました。ステイサムが登場するといちいち流れ出す重低音も超ゴキゲン。この映画は全編トゥーマッチに彩られているので、冒頭でそのことを観客にハッキリと示しておかなくてはなりません。それらも含めて100億点の冒頭と言えましょう。

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よぉ、オレはデッカード・ショウ。プロの殺し屋だ。弟を昏睡状態にまで追い込んだアメリカの走り屋どもを抹殺すべく追跡を開始したぜ。手始めに捜査官のホブスをぶっ飛ばし、トーキョーでドリフトしていたアジア人を始末した。残るメンバーのもとにも爆弾を送ったり、葬式を覗いたりしていたら、連中にも火が付いちまったようだ。オレを探すべく「神の目」と呼ばれるハッキング装置を欲しがりやがった。探さなくともオレの方から現れてやるって言ってんだろ!言ってもわからねえチンピラどもには行動で示すしかねえ。連中が「神の目」奪還に躍起になっているその現場に車で乗り付けてやったぜ。なんだかんだで結局逃げられちまったから、続いてアブダビまで追いかけてやったというのに、なんとアイツら、車で飛んで行きやがった。フザケンナ!最後は連中のホームであるLAのストリートに誘われたわけだが、地元を戦場にするとはどういう神経をしているんだ。全く理解はできないが、とにかく全員ぶっ殺す。ただそれだけさ。最強のハゲはオレ一人で充分だ!

 

 

 

敵味方関係なくトゥーマッチな今作は、とにかく画をキメまくり。場面が変わり車でどこかに乗り付けるたびにヤンキーソングがガンガン流れ、ジェイソン・ステイサムが登場するたび重低音がガンガン流れ、衣装替えすれば横並びになった登場人物たちがスローで登場しその前をスタイルのいいプリケツ女たちが横切る。クネクネ踊る女の躰を舐めるようなスローで映し、劇場内の小学生たちが総勃起。名だたるアクションスターを次々と呼び寄せては過剰なテンションでぶつけ合わせ、「車に乗ってりゃ基本死なない」というGTAルールのもと繰り広げられる狂ったスタントの応酬。この映画のリアリティラインだと『テルマ&ルイーズ』のラストはまた違った意味を持ってしまうなあと思いながら感動しました。

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※『テルマ&ルイーズ』より。

 

なにより今作を語る上で外せないのが主演のひとりである俳優ポール・ウォーカーの件。今作には、撮影中に交通事故で亡くなった彼に対する今シリーズからのお別れがしっかりと描かれているのですが、そこはもはやこの映画でしか表現できない愛が溢れており、劇場で号泣。あのヴィン・ディーゼルが信じられないくらい穏やかな、でもどこか寂しげな表情で微笑むあたりから顔面大洪水。CG貼り付け顔のポール・ウォーカーを観ていると、彼がもう本当にこの世にはいないのだという事実に改めて直面させられ、熱い感情が胸に迫ります。「家族家族うるさいのが玉に瑕」とか思っていたぼくですが、こればかりは完敗。撮影中に亡くなった俳優(と演じていたキャラクター)へのはなむけとして、最高の演出だと思います。ジェームズ・ワンは最高、偉い、イイヤツ……。

 

それにしても次回作の制作も決定しているそうなのですが、どうなるのでしょうか。キャスト、ストーリーと今作以上のレベルが求められているわけで……とはいえ同じことを前作でも思ったので大丈夫なのかもしれません。とりあえず今作の衝撃はこうやって記録しておきましたので、次回作を観た未来のぼくは何を思うのか、今から楽しみです。とにもかくにも、ポール・ウォーカーさんお疲れ様でした。安らかにお眠りください。

 

 

 

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お父さんはもう後に引けん/『ラン・オールナイト』

 

ここ最近のリーアム・ニーソンは本当に人をよく殺す。『シンドラーのリスト』で救った人数以上に殺しているんじゃないだろうかと巷では専ら噂。そして今回もたくさん殺すよ!『ラン・オールナイト』!試写で鑑賞してきました。無料!ありがとうワーナー・エンターテイメントジャパンさん!

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~あらすじ~

マフィアの下で働いていた殺し屋のリーアムは、自らの人生には何も残っていない事を嘆いてアルコールに溺れる日々を送っている。唯一の肉親であるカタギの息子は、裏社会で生きるリーアムを嫌悪して孫の顔も見せてくれない。親友でありマフィアのボスであるエド・ハリスが気にかけてはくれるが、過去に犯した罪の意識に日々苛まれ続けるのだった。そんなある日、エド・ハリスのバカドラ息子が勝手に始めたドラッグの取引でしくじってしまい、取引相手であるアルバニアン・ギャングを殺してしまう。なんとその現場には、たまたまリムジンの運転手として雇われていたリーアムの息子が居合わせていた。バカドラ息子は、リーアムの息子に対してもその銃口を容赦なく突きつける。そうはさせるか!トラブルを知り、息子の様子を見に来たリーアムは咄嗟にボスの息子を射殺。いくら30年来の親友だったとは言え、最愛の息子を奪われたエド・ハリスは静かに宣告する。「お前とお前の息子を殺す」。親友にブッコロ宣言されたリーアムは、牙をむく夜のニューヨークを息子とともに奔走する……。

 

今作の監督はジャウム・コレット=セラ。名前がなかなか覚えられないこの人は、去年の『フライト・ゲーム』に続いてまたまたリーアム主演映画を監督していました。

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もっといえばその前の『アンノウン』もリーアム主演作。映画監督としてもフィルモグラフィのうち、その半分がリーアム主演作。リーアムのことが好きなのでしょうか。きっと、そうなんでしょうね。

 

今作でもリーアムはいつもと同じく最強のお父さん。ただし今度の相手は「睨むだけで人を殺せそうな男」エド・ハリス御大。捨て犬顔のリーアムと狼顔のエド・ハリスの顔面対決も見ものとなっています。どちらも「愛する息子」が行動理由なので、敵だなんだと区別するのもちょっと憚られる。「思い詰めたかわいそうなお父さん」は見ているだけで涙が出てくるものです。四面楚歌のニューヨークで、自分を嫌う息子を親友が仕向けた追っ手から守らなければならないリーアムの眉毛はどんどん下がっていく一方。とはいえリーアムなので一度敵が現れると迅速な動きで即・制圧。歴史が違うんだと言わんばかりに巨漢マフィアどもを蹴散らす様はリーアムのお家芸でありますからこちらもおひねりを投げたくなります。ちなみに今作でのリーアムはこれまで見せていたような手数の多い工作員ライクなファイトスタイルではなく、裏社会で培ってきた経験を伺わせるステゴロ・スタイル。愛銃もオートマチックではなく使い込んだ感じのリボルバーで、アウトロー度高めとなっております。

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「全員おれがぶっ殺す」

 

 

一方のエド・ハリスだって負けちゃいない。前半部ではスマートで優しい面も見せていたのに、事が起きてしまうと息子と組んでヤンチャしていたチンピラを呼び出し粛清!部下たちが蹴散らされるのも予想済みといった御様子で動じず、移動中の車内で重い口を開く……「“プライス”を呼べ」。“ボスが殺し屋を手配するよう部下に支持するシーン”好きのぼくとしては大変上がるシーンです。

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「絶対消す」

 

そこで呼び出されたのはプロの殺し屋“プライス”。演じるのはラッパーのコモン。こんな顔だっけ。髭剃ると印象が変わりますね。

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「自分、あいつ殺せるならタダでもいいっすよ」

 

リボルバーでガツンガツン撃ち殺していくリーアムとは対照的に、多弾数のオートマチックにレーザーポインタをつけ、ドラゴンボールスカウターライクなナイトビジョンまで持ち歩いてる現代っ子プライス。格闘だって負けちゃいないぜ!リーアムとボコボコに殴りあうシーンは必見だ。

 

子を想う気持ちをエネルギーに暴走する二大オヤジの激突でニューヨークはウォーゾーンに。「一線を越える」ことを決めた場面のリーアムは本作の白眉ともいえる勇姿を見せてくれます。監督があのジャウム・コレット=セラなので、演出は硬派でありながら外連味たっぷり。とにかくリーアムがここぞという時にキメるシーンでは、細かいカット割りで過程を見せたあとスローでググーっと引っ張ってからの……!!!ってこの演出、『フライト・ゲーム』でもほぼ同じ感じのやつありましたね。ぼくはこの演出が大好きなので、ここまできたら次作でもやってほしいくらいです。待ってるから!

 


映画『ラン・オールナイト』予告編 - YouTube

 

 

 

 

 

 

4月公開劇場鑑賞映画『皆殺しのバラッド』『海にかかる霧』『コワすぎ!【最終章】』『ワイルド・スピード SKY MISSION』『インヒアレント・ヴァイス』『セッション』の感想

 

五月になりました。ゴールデン・ウィーク、いかがお過ごしですか。ぼくはなんだかんだ、4月公開映画を結構鑑賞してきました。これまでのように一本一本感想を書きたいところなのですが、虚しいことにここのところ意気が上がらない。さらにパソコンも不調続きで、キーボードを叩いた数秒後に文字が表示されるといういっこく堂状態なので本当に憂鬱。夢の中で走っているときのようにうまく進められず、ストレスフル。そこで今日はこの場で一気に短い感想を書き連ねていきたいと思います。よろしくお願いします。

 

 

『皆殺しのバラッド』

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前売り券を使い渋谷のシアター・イメージフォーラムで鑑賞。メキシコ麻薬戦争の現状を、日々命懸けで取り締まる警察側と、ナルコ・コリードというギャング賛歌で彩る歌手側の両方に焦点を当てて追ったドキュメンタリー。鑑賞後残るのはなんといっても警察側の途方もなさ。「ここはぼくの生まれ育った街だから」と言いながら次々と同僚が殺されていく中、事件現場には報復対策のために覆面を被って捜査しなければならないという現状に愕然。一方、ナルコ・コリードを歌う歌手は女の子にもモテモテ。カルテルのパーティに招かれて曲を披露しては、ゴリゴリの装飾が施された45口径をプレゼントされるなど絶好調。徹底して光がない。麻薬カルテルの規模がでかくなりすぎるばかりか汚職も横行、まともに機能していない警察組織の中で、それでも戦うことをやめない警察の姿がせめてもの救い……といいたいところだけど、あまりにも絶望的すぎる戦況なのでひたすら暗い気持ちになりました。『ランボー』の新作ではあの大量破壊兵器ジョン・ランボーが麻薬カルテルとぶつかると言われているし、現実においても大麻合法化の流れが生まれて麻薬カルテルにお金を流さないようにするなどの動きがあるそうです。『悪の法則』とセットで鑑賞することをおすすめします。

 

『海にかかる霧』

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前売り券を使ってTOHOシネマズ新宿で鑑賞。あの傑作『殺人の追憶』で脚本を担当していたシム・ソンボの初監督作品。共同脚本と制作を担当するのは『殺人の追憶』、『グエムル』、『スノーピアサー』のポン・ジュノ。韓国の貧しい漁師たちが中国から朝鮮族を密航させる裏仕事に手を染める。初めはカップラーメンを振舞ったりと穏やかな交流が繰り広げられていた船内だったが、海洋警察の調査をかいくぐるためのある行動から惨劇が始まる、という話。ある程度覚悟はしていたけどここまで凄惨な話だったとは……。「この船ではおれが大統領だ!」と最高の言葉を吐く船長を演じるのはキム・ユンソク。『哀しき獣』では原始人級に野蛮で無敵の朝鮮族リーダーを演じていたことでも記憶に新しいあのオッサン。後で知ったことだけど、主役を演じていたパク・ユチョンは元東方神起のメンバーらしいですね。アイドル主演映画にこの内容を持ってくるのは頼もしい限りだ。あとこの映画、登場人物の発狂率もなかなかなのだけど、中でも女とヤリたすぎて発狂する馬鹿は最高でした。当たり前のようにゲスが登場するのもいい映画の証左ですね。

 

『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!【最終章】』

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渋谷アップリンクのサービスデイを利用して鑑賞。居候先のハンサムにお金を出してもらいました……。最高の男。『コワすぎ!』シリーズを最初に見たのは大学四年の頃。白石監督作の『オカルト』でとんでもなく衝撃を受けたぼくは、今シリーズを追い続けてきました。前作にあたる『劇場版』で異世界に飛んでしまった工藤Dと市川。1人残ったカメラマンの田代は現在東京の上空に現れた謎の巨人にまつわる噂を検証するためネットで動画配信を行っていたが、その最中に謎の男がどこからともなく現れて……ってお前は!『殺人ワークショップ』の殺人講師、江野くん!

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異世界の住人らしき江野くん、「工藤Dと市川を助けたければこれからいうことを実効せい」と田代にナイフを突きつける。そうしてふたりのミッションが始まるのであった。 実は江野くん、先述した白石監督作『オカルト』にも登場した非正規雇用者、江野くんと同一人物。ということで今回の『コワすぎ!【最終章】』は全編『オカルト』コンビである宇野祥平さんと白石監督が東京中を彷徨うバディムービーとなっている。さながら『オカルト2』。あんなにクズで頼りなかった江野くんがここまで頼もしい男になっているというだけで涙が出ます。田代カメラマンのことを「白石くん」と呼んでしまう江野くん……。ラストの握手……。監督の非公式報告書によれば、今作の江野くんは『魔法少女 まどか☆マギカ』の暁美ほむらから着想を得ているそうで、よりグッときました。今作はもうDVDがレンタル開始されているそうなのですぐ観れます。

 

ワイルド・スピード SKY MISSION』

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前売り券を使ってTOHOシネマズ新宿で鑑賞。IMAX3Dで観たのでプラス800円かかりましたが、落下シーンが多いので3Dで観る意味もちゃんとあったように思います。今度の敵はジェイソン・ステイサム!ハゲ率上昇しすぎ。冒頭のステイサム登場シーンの『イコライザー』likeな事後演出で爆笑。今回から監督を務めることになったジェームズ・ワンはステイサムとともに今シリーズへの転校生組として最高の挨拶をかましてくれていました。掴みバッチリじゃん!その他アクション一つひとつのボリューム、完成度も異常。最強の悪役として登場したジェイソン・ステイサムvsドウェイン・ジョンソンなんて怪獣映画レベル。撮影と編集も巧みで、複雑な動きにも関わらずいまなにが起こっているのかもちゃんとわかる!ぼくはジェイソン・ステイサムのバネを感じる鋭いアクションが大好きなので、ロック様の丸太パンチに対する手数の多い反撃も最高でした。

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そのほかポール・ウォーカーVSトニー・ジャーミシェル・ロドリゲスVSロンダ・ラウジーなど、贅沢マッチの目白押し。キツめのメイクをしたロンダ・ラウジー、ブッサイクだったなあ……。「アクション映画で観たい画」の連続でテクノブレイク寸前のぼくは3D効果も相まって酩酊状態。相変わらず話は感動するほど雑だけど、ニトロ充填超加速的勢いで気にする暇もなし!そしてなにより素晴らしかったのはラスト。今作の主役のひとりであり、撮影期間中の交通事故によりなくなったポール・ウォーカーへのはなむけ場面。正直言って今シリーズにめちゃくちゃ思い入れがあるというわけではないぼくですが、これでもかと感極まってしまいました。イオンシネマ無料券が一枚あるので、『クレヨンしんちゃん』に使おうかと思っていたんですけど、『SKY MISSION』再鑑賞もアリかなと思っています。

 

『インヒアレント・ヴァイス』

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5月1日のファーストデイにヒューマントラスト渋谷で鑑賞。トマス・ピンチョン作品は一冊も読んだことがありません……。でも監督がポール・トーマス・アンダーソンだし……というミーハー精神で挑みました。大麻を吸ってばかりのラリラリ探偵が元カノの依頼を受けて大富豪の身辺を調査するというのが大筋の物語。たぶん。この映画、全編謎の多幸感、優しさ、言うなれば愛に溢れているように感じられて、ぼくもなんだかピースフルな気持ちに。70年代最高。ここのところ鬼気迫ってばかりいたホアキン・フェニックスの終始脱力した演技。ジョシュ・ブローリンの野蛮なギャグ。悪い奴はたくさん出てくるんだけどどこかみんな能天気。「内在した欠陥」というタイトルが指すもの。どういう話だったか話せと言われても困るけど、「なんだか愛に溢れていた」という感覚だけは強く残る不思議な映画。大麻を吸ってラリっているときって、もしかしてこんな気分なのかな?そう思わせるラリラリ映画。お酒を飲みながらDVDでゆっくり鑑賞し直したい味わいでした。原作を読めばこの映画の凄さが改めて感じられそうな気もします。読もうかな……ピンチョン。

 

『セッション』

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席が埋まっていることによる鑑賞断念を二度経験し、ムビチケ前日予約によりようやく鑑賞。TOHOシネマズ新宿にて。鬼教官によるシゴキを受けながら腕を磨く音大ドラマーのお話。とにかくこの鬼教官フレッチャーが最高。理不尽な詰問から、血管の浮くスキンヘッドやぴっちり黒Tから覗く太い二の腕による威圧を駆使してとにかく学生を打ちのめす。差別用語上等どころか、何気ない雑談の中で得た個人情報も利用して相手をボコボコにするサイコ野郎。ぼくが大学時代にバイトしていた飲食店の店長も、和気あいあいとした雑談の中でぼくから引き出した個人情報を説教の中に織り交ぜてくる悪魔だったので、もう目が離せない。主人公のたるんだ顔が後半に進むにつれジャンキーのような凄みを獲得する点もすごい。そもそも主人公は「偉大になりたい」という欲求のジャンキーなので、ラストのあの破壊衝動の炸裂にも似たドラミングには圧倒。まるでバイオレンス映画を見たあとのような身体の強張りが得られるところも原題の通り。親戚と一緒にご飯を食べる場面の「このわからずや軍団!てめえら見てろよ!」という描き方も秀逸ですね。

 

 

 

以上です。思いのほか長くなってしまいました。

 

それじゃあまたね!楽しいGWを!

書き下ろし短編:『赤文字自重』

 

 

 彼女がニコ生での顔出しを目論んでいる。

「かれこれ二年くらい動画を上げてきてるし、あたしの動画を楽しみにしてくれてるって人も増えてきたでしょ? そろそろ新しい試みが必要だと思うの」

「それで顔を!」

「そうなの。しかも今夜の金曜ロードショー、なにやるかわかる?」

「あ! あー、なんだっけ」

「『ラピュタ』!」

「そうだった!」

「みんなで【バルス!】ツイートするでしょ? その賑わいに乗じれば生配信でたくさん人が見てくれると思うから、そこで大々的に顔出ししようと思っているの!」

 彼女がそう計画するのにはわけがあった。彼女はニコニコ動画において【みむー☆】というHNで活動中の踊り手なのだが、ここ最近の踊り手ブームの低迷を憂いているらしく、自らが袖をまくって顔出しを敢行することにより踊り手界の復興に一役買おうとしているようなのだ。愛しているよ、みむー。

「じゃあ、今日は早く帰ってこなくちゃだね」

「うん! 一緒に伝説つくろ!」

 うっひょー! おれは満面の笑みで家を出る。一抹の不安を胸に抱きながら。

 

 おれがみむーと出会ったのは去年のニコニコ超会議でのこと。おれは元々ニコニコ動画漬けの日々を送っていたので、みむーのことももちろん知っていた。彼女は動画で何度も見ていたように、セーラー服を着てちびうさのお面を着けたままでんぱ組.incの曲を踊っていた。そんな彼女のパンチラを撮ろうとおれが血眼になっていたところ、同じポジションで一眼レフを構えていたオッサンと肩がぶつかり、トイレ脇に連れて行かれる。

「モグリが」

 お前ごときが彼女の聖域を撮影していいと思ってるのか、という旨の警告を突風のようにまくし立てられたおれは悔しさで泣いてしまう。おれはこんな最低な経験、二度としたくない、もしもう一度味わえというのなら、死んだほうがマシ。そう思いながら駅までの道を歩いた。しかし、このまま帰れないとも思った。そこでおれは駅で待ち伏せをして、小走りで現れた腐った油粘土風中年を見つけるやトイレに連れ込み、【得体の知れない現代っ子】として大暴れした。奴のカメラを奪って土下座させ、一枚一枚、どのような内容の写真かを実況しながら削除した。ひと通り胸のすく思いをしたおれがルンルン気分でトイレを出ると、柱の影からこちらを見つめる一人の女の子が。

「あの! ありがとうございます!」

 そこには素顔のみむーがいた。驚くことにあの油粘土の男は、みむーがニコニコを通じて知り合った男で、三十九歳で、フリーターで、長男で、右利きで、太り過ぎにより右足の神経がむき出しで、ツイッターのアイコンがフォロワーの絵師が描いた美男子風イラストで、人の話を聞くときはずっと腕を組む癖があって、インキンタムシで、みむーの元彼で、現ストーカーらしかった。法治国家とは名ばかりのこの国におれは辟易する。

「もう、大丈夫だよ」

 それは彼女内ピラミッドの上位に、おれが君臨した日の出来事。

 

 色々あってみむーと同棲することとなったおれは、彼女のニコ活も影で支えるようになる。彼女が踊っている動画を撮影している間は玄関の外に立ち、苦情を言いに来た下の階の新社会人と取っ組み合い、ツイッター上で彼女の悪口を書いたアカウントに対しては、特攻用アカウントでカミカゼ・アタックを敢行。

 

 

 ちむりー@道隆寺タカシLOVE @love_love_doryuji 9時間前

 ニコニコの踊ってみた見てるんだけどみむーとかいうやつ手足短すぎじゃね??

 てか踊りも微妙wwwたぶんブサイクwwwwwww

 意識の高いドローン @minmu_lovelovelovelove 1分前

 @love_love_doryuji スマホが収まる大陰唇乙。

 

 

 ゴンゾウ @gonzo_ninpho 2時間前

 みむーたぶんブス

 意識の高いドローン @minmu_lovelovelovelove 10秒前

 @gonzo_ninpho その<censored>と<censored><censored><censored>!!!

 

 

 

 

 

「ねえ今どこ? 『ラピュタ』始まってるよ!」

 おれが駅に着いたちょうどそのとき、まるで示し合わせたかのように彼女からの電話が入る。

「ごめんごめん! いま駅着いたとこ! ソッコーで帰るね!」

 おれは前のめりの全力疾走。アパートまでは歩きで十五分ほどだが、走れば五分程度。『ラピュタ』における【バルス!】シーンは本編開始から一時間五十五分頃とほぼ終盤なので間に合わないはずはないんだが、中途半端な参加はみむーの機嫌を損ねる最大要因なのだ。

「みむーただいま! ごめんね、おみやげ買う暇なくて……」

「んもう! いいから、早く座って!」

 二人で『ラピュタ』鑑賞会。幸せなひととき。彼女はすでに顔出しの予告をしておいたようで、【バルス】祭りの直前から生配信を開始する予定のようだ。

 劇中の登場人物が三分待つという旨の言葉を吐く。「あ、くるよ!」みむーは立ち上がってパソコンの前に立つ。彼女はすでにいつものセーラー服姿に黒のニーソックスを着用済み。

「みなさん『ラピュタ』観てますかー! いよいよきますよ!」

 おれはカメラに映らない寝室に移動してスマホで彼女の配信を観覧。彼女の動画には無数のコメントが流れている。

 残り十秒。

 

 くるぞ…  くるぞ…      kるぞ…      くるぞ   くるぞ

       くるぞ…    くる・・・    くるぞ   くるぞ…

 kuruzo            くるぞ… くるお。。。      くるぞ…

 

 

みむー。

君が伝説になる瞬間だ。

 

 

  くるぞ…   くるぞ… 

                     くるぞ…  くるぞ…

       kるぞ くるぞ…                   くるぞ…

              くるぞ…  くるぞ…くるぞ…

くるぞ…    

          くるぞ… くるぞ…くるぞ…くるぞ…

    くるぞ…            くるぞ…  くるぞ…  くるぞ…

 

    o(*゚▽゚*)oo(*゚▽゚*)oo(*゚▽゚*)o 

 

     

   くる!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そもそも【バルス】とはラピュタ崩壊の呪文であり、かつて実況スレに書き込まれた膨大な【バルス】の負荷で2ちゃんねるのサーバが落ちたという事例はあまりにも有名だ。

 

 おれはみむーを強く抱きしめる。彼女の傍らにはグシャグシャに踏み砕かれたちびうさのお面。パソコンはひっくり返され、薄明かりが壁を照らしている。おれは彼女を抱きしめながら、絶えず声をかける

「大丈夫だよ」「大丈夫」「大丈夫だから」「ここは安全だよ」「気にしないでいいんだよ」「あいつらみんなクズなんだよ」「なにも怖くないよ」「ぼくがついているよ」「ぼくがついてるんだよ」「ぼくだよ」「ぼくがついているんだよ」

 おれは彼女の背中に回した手で握るスマホの画面を眺め続ける。

 そこには未だ無数のコメントが流れ続けている。

 

 

              バルス!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!   最近彼女が油臭いw

  油粘土のような臭いw  バルス! バルス!!!!!バルス

         バルスバルス  寝る直前までラインしてw

    バルス    バルス       相手を聞いても有耶無耶でw

         だから勝手に調査したw バルスバルス

四十迎えたあのオヤジw  バルス!!!!!!!!!!!!!!

               バルス    未だにみむーをつけていたw

 みむーもそのこと気づいていたw  バルスバルス バルス! バルス

                  バルス    なし崩し的に会っていたw

     バルス!!!!!!!!!   なし崩し的にヤっていたw  バルス

       バルスバルス  かれこれ半年ヤっていたw

     コスプレしたままヤっていたw バルスバルス

 バルスバルスバルスバルスバルス    カメラの前でもヤっていたw

生理のすぐあとヤっていたw  バルス!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! バルス! バルス

      生理中でもヤっていたw     バルス! 

        友引の昼にヤっていたw

   バルス     バ ル ス ! ! !   おれの留守中ヤっていたw

    バルス       バルス! バルスw  オッサンの家池袋w

     わざわざ出向いて片付けたw   バルスバルス バルス

    おっさんの家よく萌えたw     www バwルwスwwwww

 そもそもみむーはただのブスw   バルスバルス 調子に乗ったただのブスw

        バルスwwww    踊りもイマイチただのブスw

        性格まあまあただのブスw

            バ  ル  ス   ただのブスったらただのブスw

プレデター              プレデターwww

    プレデター乙  wwww プレデター

 大草原不可避    www

            wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 wwww     wwwwwwwwww

     なんて醜い顔だ・・・(赤文字)

バルスバルスバルスバルス バルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルス 

    バルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルス バルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルス バルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルス

 

   バルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルス          バルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルス バルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルス

  バルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルス バルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルス

  バルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルス バルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルス バルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルスバルス

 

 

 

 

 

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書き下ろし短編:『処女膜からやまびこ』

 

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

 喉をきゅっと絞り、腹から押し出すように放ったその言葉は虚空を漂って誰にも承認されず消滅した。

「一回ちょっと止めます」

 監督の指示が入る。おれが唇を噛むのと同時に、だれかの溜息が聞こえた。

「いまのとこもう一回お願い」

「あ、はい。……やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「もう一回」

「やっべえ!」

「ストップ。続く『おれ』との間に、気持ち間をおいてやってみて」

「あ、はい。やっべえ! …おれもっこりしちまった!」

「うーん……うん。うん。なるほどね。いまのどう思う?」

 監督が意見を求めたのはヒロインの声を演じる冨樫桃華。歳はおれと同じ二十一だが、いまじゃ飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍し、業界内、ネット共に評価の高い声優界のスーパーノヴァ。その卓越した演技力のみならず、本業のアイドルたちにも引けを取らないルックスがその人気の証左。そんな彼女演じるヒロインのパンチラを見て思わず陰茎に血が溜まってしまったクラスメイトBの声を、無名のおれが担当することになったことを思えば、人生って面白い。冨樫桃華は言う。

「うーんそうですね。わたしは、間はあけないほうがいいと思います。ここは勢いよく言っちゃったほうが、内容が内容ですし。変にもたついて下品が過ぎる印象を与えちゃダメな気がして」

「なるほど」

 監督はおれを指差すと「じゃあそういう感じで」と言って椅子の背もたれに深くもたれかかり頭上に両手を置いた。おれは冨樫桃華の顔を見て会釈をしたが、彼女はこちらを一瞥することもなく、マイクに向き直っている。パンツスタイルが印象的。その締まった上向きのヒップがよく映える。

「はいじゃあいきます」

 監督の声が届く。おれは目を閉じ、小さく息を吸う。

「やっべえおれもっこりしちまった!」

 

 おれは宮崎優翔。声優の卵で、親からは金食い虫と呼ばれている。円谷プロカネゴンかっつの。わはは。おれは高校でニコ動にはまりゲームの実況やアニソンの歌い手などを経て本格的に声優を目指そうと思った。高二の三者面談の場で初めてその意を親や先生に宣誓したわけだが、家に帰るやいなや親父に「大学に行け」と言われた。いまどき大学なんて時代遅れだっつの。専門学校で技術を身につけたほうがいいに決まっている。おれは折れなかったが、それは親父の血なのかもしれない。親父は絶対に金を出さないと言い出した。おれはニコ生の配信があったのでバイトをする時間がない。なんとか親に金を出して欲しかった。そこでおれはニコニコのイベントで出会ったポンチーさんに相談する。ポンチーさんはあらゆる手を提案してくれた。おれはその中の一つであった、親の定期預金の解約を行い、学費をゲット。どのみち大学への進学資金として貯めておいたものがあったのだから、おれへの投資という意味では変わりない。待っていてくれ親父に母さん。絶対超人気声優になって、出世払いするからさ。

 

「休憩入れますか」

 監督の声におれが「あ、はい」と言うのに重ねて「続けましょう」と冨樫桃華が言った。ほかの共演者さんたちも「ここまでは終わらせておきたいなあ」と口々に。

「新人さんもここで休憩入れるより、いま掴んでいる手応えの勢い、殺さないほうがいいと思うなあ」

 そう言ったのは男性声優人気ナンバーワンの小野寺HIROSHIさん。十八で神戸より上京し、下北沢の小劇団に所属していた演技派。くすぐるような掛け合いの上手さに定評があり、アニメのみならず、映画の吹き替えにも引っ張りだこの売れっ子だ。そんな彼らと同じアニメで声を担当できた時点でおれは現実味を喪失していた。おれはいま小野寺さんに声をかけてもらっているという、その現実に頭が追いつかない。

 だから本当は休みたいって言えない。

「監督、やらせてください。お願いします!」

 

 専門学校での日々はあっという間だった。おれは真面目に授業を受け、多くのノウハウの習得に努めた。講師は豊富な人生経験を積めといった。キャラクターに命を吹き込むには、多くの感情を理解しなくてはならない。

 そしておれは恋をした。

 埼玉から通っているという島崎純恋はみんなから「姫」と呼ばれる可憐な女の子だった。色が白く顔が小さく首が細長かった。背も低く手も小さく胸も小さく貧血持ちでやや腐っていた。好きなアニメがおれと同じだった。おれの配信を見たことがあると言っていた。おれみたいな男が好きだと言っていた。仲間でご飯を食べに行くときなど、何度か隣に座ってきたこともあった。一緒に駅まで歩いたりした。彼女はいい匂いがした。普段は舌足らずなのに、声を当てるときや歌うときには、芯のある凛々しい声を出した。純恋は周囲から一目置かれていた。おれも一目置いていた。講師も高く評価した。みんな彼女が好きだった。もちろん一部に敵もいた。そいつら全員ブスだった。ブスが陰口叩いてた。だれも気にせず無視してた。純恋は毎日笑ってた。そんな笑顔に癒された。彼女はおそらく処女だった。しゃべると処女膜響いてた。響く処女膜好きだった。みんなで純恋の噂した。みんな胸中踊ってた。姫はいったい誰好きだ。おれは当然姫好きだ。踏み出せないまま時過ぎた。やがてすべての嘘バレた。彼女は講師に抱かれてた。講師の他にも抱かれてた。とっくに処女膜剥がれてた。忘れようと頑張った。毎晩枕を濡らしてた。やがて心が落ち着いた。たくさん傷つきタフなった。いろんな感情理解した。悲しい感情多かった。それでも夢を見たかった。まだまだ前進したかった。そうしてここまでやってきた。

 

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「もう一回」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「もう、一回」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「なんか違う」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「どこか惜しい」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「もうすこし」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「なるほど」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「なるほど」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「全然ダメ」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「才能ゼロ」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「殺したい」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「鬱陶しい」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「悪寒が酷い」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「田舎に帰れ」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「両親に謝れ」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「家業を継げ」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「勃起したことある?」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「絶対モテない」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「生理的に嫌われるタイプ」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「資源の無駄」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

生活習慣病

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「原因不明の頭痛」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「不快な肉塊」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「金払うから殴りたい」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「ノイローゼの原因」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「いますぐ遺書をしたためたい」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」 

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

「やっべえ! おれもっこりしちまった!」

 

 

 

 

 

 この五年間は、本当に瞬く間だった。

 あの日都内某所のスタジオで経験したすべての出来事が、いまのおれの血肉となり、絶えず響き続けている。いまのおれを「奇跡」と称する人々も少なくない。勝手にすればいい。おれのスケジュール帳は真っ黒で、マネージャーはすでに二人倒れている。

 今日もおれは自宅マンションで飼うアチャモ(チワワのメス二歳)に別れを告げてハウスキーパーのジョイさんに鍵を渡しハイヤーでスタジオへ。すれ違うスタッフたちと挨拶。そして。

「おはようございます! 今日はよろしくお願いします!」

 新人の新垣大輔くんが頭を下げる。

「おはよう。今日はよろしくね」

「はい! よろしくおねがいします! あの、ぼく宮崎さんの大ファンで! 今日はご一緒できてすごく光栄です!」

「こちらこそ。期待してるよ」

 サブ室のドアの前で監督と話していた冨樫桃華がおれを見る。

「あ、優翔くん。おはよう。今日もよろしくね!」

「おー桃華さん、よろしくおねがいします」

「そうだ、あれよかったよ~、『劣悪少女隊ぱぴぷ@ぺぽ』の道隆寺タカシ」

「観てくれたんだ! ありがとう!」

「いますごい人気だよね~。今度大宮ソニックシティでライブやるんでしょ?」

「おかげさまで。といっても桃華さんの足元にも及ばないけど」

「まあね。なーんて」

「ははは!」

「今日の新人クン、どう?」

「いい感じだと思う。特に声がいい」

「なんかわたし思い出すんだよね~」

「え? なにを?」

「あの日の優翔くん」

 おれたちは顔を見合わせて微笑む。やがてスタッフのひとりが現れ、「それではみなさん、本日もよろしくお願いします」と言っておれたちをスタジオへと招き入れる。

 さあ始めよう。

「それじゃあ本番行きまーす!」

 おれは目を閉じ、深く息を吐いた。

 

「うわああああ! 処女膜からやまびこが! うわあああうわあああうわあああしょじょまくからやまびこがやまびこがやまびこが……(小声)」

 

 

 

ドーナツ屋でchill

 

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TOHOシネマズ新宿で『ワイルド・スピード SKY MISSION』のIMAX版を鑑賞しようと赴いたはいいものの、席が一番端しか残っておらず、別にいいんだけど、いやでも、ちょっといやだなと思ってしまったぼくと友達はそのまま『セッション』を観ようということにしたのですが、近い回とその次がすでに満席、歌舞伎町の真ん中で途方にくれました。それからドーナツ屋さんへ。マックの方が安いけど……と言いつつレシート裏などに絵を描いて過ごす。友達は三コマ漫画を描きました。以下で閲覧できます。
 
 
おもしろ3コマ漫画 - マークニズム宣言 http://t.co/IRBuD88TrG
 
 
ぼくは無職なので、映画は平日の空いてる時間に適当に観てこようと思います。明日は父に電話でもしてみようかな。
 

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