『ジョン・ウィック:チャプター2』を観た。キアヌ・リーヴスが柔術ベースの格闘術とコンバットシューティングを組み合わせた画期的なアクションを披露して話題を呼んだ殺し屋映画の続編。キアヌ、殺し屋、銃、格闘術、復讐と、個人的に好きな要素だらけだったからこそ、チラつく鈍臭さをスルーできなかった映画でもあった。
今作のオープニング、殺し屋ジョン・ウィックは売り飛ばされた愛車を取り戻すべく犯罪組織に殴り込みをかける。そこでは悪役俳優ピーター・ストーメアが部下に言う。
「あれが誰の車が知ってるのか。ジョン・ウィックだぞ……やつがくる」
敵はもうビビっている。今作は2作目なので、続編としての掴みでいえばそれもありだとは思うけど、『ジョン・ウィック』シリーズに関して言えば1作目からすでにこんな感じだった。「あの伝説の……」という前提がみんなの中に共有されているところから物語が始まるのだ。ジョン・ウィックについて語るとき、人々は彼をあらゆるものに例える。ブギーマン、死神……。前作でも僕はこの時間が苦手だった。なぜなら何回も出てくるからだ。1作目の最初の1回まではワクワクできても、頻出するとガスがたまってくる。観客が勝手に思っているぶんには全然良いのに、劇中のキャラまでもが念を押してくるので、その間話が停滞して見えてくる。
この「ジョン・ウィック一目置かれすぎ問題」は、ジョン・ウィックを演じている愛され俳優キアヌを前提としたメタ的な要素なのはわかる。わかるけど、このくどさじゃキアヌの押し売り、ずっと話しかけてくる服屋の店員と同じだ。欲しくても一旦店を出たくなってしまう。
またストーリーとしても今作は「復讐」ではなく過去を清算する話なので、興味の持続も弱まった気がしないでもない。アクションもクラヴ・マガのような手数の多いものではなく柔術ベースなので取っ組み合いからの投げ、その一連の流れを長回しや引きの画で撮っているため、後半になるとやや鈍重さの方が前に出てきて失速感も否めなくなってくるし……
それでもキアヌはやっぱり良いのです。
鍛錬を積んだ柔術や、実弾でトレーニングした銃の扱いは、とはいえ相変わらずカッコいい。前作では基本装備がアサルトライフルにハンドガンだったが、今回はそこにセミオートショットガンが加わっており、シームレスな動きからガツンと重い一撃が飛び出す、そのテンポが超気持ちいいのだ。弾詰まりを直し、排莢口からチャンバー内に直接散弾を装填して撃つ手捌きもちゃんと決まっていて惚れぼれする。
それに何度も出てくるマガジンチェンジの場面。銃を握ったまま手首をねじるその勢いで空のマガジンを脇に飛ばしたり、リロードのたびにキンバー1911のスライドをちょっとだけ後退させチャンバー内を確認するなど、実銃を扱う際にやるであろうマジっぽい動作をキチンと見せてくれることで殺しの説得力が増す。思えばチャンバー内のチェックなんかはデビッド・エアー監督作『フェイク・シティ』でもやっていたので、あの頃からすでにキアヌの銃捌きは磨かれていたのかもしれません。いや、『ハート・ブルー』のころかも。とにかくキアヌはガンアクションが上手いのだ。
その他にも個人的に印象に残ったのが、コモン演じる殺し屋と雑踏の中でサイレンサー付きの拳銃でプシュプシュ撃ち合うシーン。人混みの中、周囲に気づかれないように澄まし顔でスタスタ歩きながら撃ち合うふたりの姿はあまりにもギャグっぽくて笑ってしまった。海外の映画館で鑑賞した弟に聞いてみたところ、そのシーンで観客はみんな爆笑していたらしい。それにキアヌとコモンが戦うと言えば、ここでもやはり『フェイク・シティ』が想起される。その他にも『マトリックス』シリーズで共演したローレンス・フィッシュバーンも出演しているので、キアヌのフィルモグラフィーに並ぶ作品群へのオマージュ的キャスティングなのかもしれない。
後半に出てくる『燃えよドラゴン』オマージュと思しき鏡間でのアクションもハッとさせられる。アクションというのは一手一手ロジックの積み重ねだと思って見ているので、戦う2人の動きが鏡によって反対側からも確認でき、一方向からしか見ることができないという視点の縛りが解かれ、とても充実していた。AVなどでもフェラチオシーンにおいて女優の顔を正面から撮りつつ、背後に置いた姿見鏡などでお尻も同時に収めてみせる画づくりがよくみられるが、僕はその構図が大好きだ。パンツを穿いたお尻が一番好きだからだ。
今作のラストを観るかぎりでは続編もきっとあるのだと思います。展開を見るに、僕好みの話になっていきそうなところも期待が膨らむ。一方で、前作を共同監督したデヴィッド・リーチ監督によるシャーリーズ・セロン版『ジョン・ウィック』こと『アトミック・ブロンド』も公開を控えている。てっきりそっちもチャド監督だと思っていたけど、同じスタント出身監督としてどう色の違いを見せてくれるのか、滅茶苦茶楽しみ。