「福祉計画について教えて」
講義終わりに荷物をまとめていると、目の前に座っていた広瀬すずが振り返っていった。一限で眠いからか薄目なのに、その分厚いまつげの下からは有無を言わせぬパワーが漏れ出ている。
「いいけど、僕もあまり詳しくないよ」
「まず策定義務があるのは?」
「義務ね。高齢者関係からいくと、【都道府県老人福祉計画】と【市町村老人福祉計画】。策定期間に縛りはなし。これと一体として策定するのが【都道府県介護保険事業支援計画】と【市町村介護保険事業計画】。こっちは3年を1期とし、管轄は厚生労働省」
「続けて」
「障害者関係だと、【都道府県障害者計画】と【市町村障害者計画】があって期限はなし。これは内閣府管轄。別で【都道府県障害福祉計画】と【市町村障害福祉計画】、【都道府県障害児福祉計画】と【市町村障害児福祉計画】があって、これらは3年を1期として策定、管轄は厚生労働省」
「管轄でいうと、広義なやつは内閣府、専門性のあるやつは厚労省?」
「そんな感じ」
「どんどんいこう」
「次に児童関係、【都道府県子ども・子育て支援事業計画】と【市町村子ども・子育て支援事業計画】、これは5年を1期とし、市は都道府県に、都道府県は内閣総理大臣に提出しないとならない。つまり管轄は内閣府。少子化の問題は国全体の課題とされているからだね」
「なるほど~」
「策定義務があるのは大まかには以上かな。おまけで【自殺対策計画】とか。都道府県・市町村に策定義務あり」
「自殺のも義務なんじゃん」
「命の話だから。あとやたら多いから」
「えーじゃああれは。行動計画ってのもなかったっけ」
「ある。任意ね」
「任意か」
「児童分野のもので、正式名称は【次世代育成支援のための行動計画】といって、【都道府県行動計画】と【市町村行動計画】がある。国が5年ごとに指針を策定するんだけど、都道府県・市町村の策定は任意。5年を1期」
「児童関係だからここも5年か」
「ただし大きなポイントがあって、従業員数101人を越える事業主には策定義務がある。数ある福祉計画の中でも、行政が任意なのにある条件下にある一般事業主に策定義務があるのは行動計画くらいだね」
「じゃあ一部義務ね。レアってことね。そういえばさあ、なんで児童系のやつは5年周期なの」
「わかんない。キリがいいから……?」
「んだよそれ」
「あ、あと“都道府県だけ義務”ってやつが残ってる。【医療計画】。医療提供の量……まあ病床数とかそういうの管理したり、医療の質の評価についてだったり。6年ごとに策定して厚生労働大臣に提出します。おまけで【健康増進計画】。生活習慣病改善しましょうみたいなやつ。都道府県だけ策定義務があって期限なし」
「【医療費適正化計画】も都道府県と国に策定義務だよね。たしか6年1期」
「その通り。このまま医療系いきます。【都道府県計画】と【市町村計画】。これは名称がシンプルだよね。シンプルな名称でなんの計画だよってなったら医療関係の計画だと思うといいかも。ちなみにどっちも任意」
「任意ゾーンはいった?」
「入った」
「ちなみに医療系のやつ、なんで6年?」
「これは介護保険事業支援計画の3年周期と重ねる、要は足並みをそろえるためにもともと5年だったところを6年に変えたんだよ。医療と介護は密接でしょう?」
「こっちは知ってんのかよ」
「義務じゃないのもいる?」
「あ、ごめんもう行かなきゃ。サンキュー」
そういって広瀬すずは弾むように立ち去っていった。僕はその背中をじっとみつめ、思わず口走る。
「【介護保険事業計画】と【老人福祉計画】は一体のものとして作成!」
「【障害福祉計画】と【障害児福祉計画】は一体のものとして策定できる! できるってだけ!」
「【市町村介護保険事業計画】(介護保険)と【市町村計画】(医療系)は整合性の確保が保たれたものでなくてはならない!」
「【都道府県介護保険事業支援計画】と【都道府県計画】と【医療計画】は整合性の確保が保たれたものでなければならない!」
【恋の福祉計画】
根拠法:恋
策定者:僕
策定義務:任意
期間:なし
ただし、【理想押し付け防止計画】と一体として策定しなければならず、また【自尊心向上計画】【日常生活維持計画】と調和の保たれたものでなければならない。