MidnightInvincibleChildren

夏の夜の不思議

 

体力、減ってませんか?僕は減っています。

 

この間も久々に会う人たち(前職でアルバイトをしていた)と飲み会があって、夜の大宮へ向かった。飲み放題だったので生ビールをガブガブ飲んでいたら、ある瞬間からふと「これはふわふわし過ぎだな」という感覚になるもまあいいかとそのまま終電を迎えるまで飲み続けた。そして退店。会計後に店の前でみんなが集まるのも待たずにフラフラ駅へ向かうとなんとか終電に乗車。そこで意識が途切れる。気がつくと誰ものっていない電車に一人。「この電車は、回送電車です。」みたいなアナウンスだけが流れていたので慌ててホームへ。ここどこだよ、と思うも、のった電車がそもそも終電なのでもうどうしようもないなという判断だけはすぐにつき、改札を出た。営業時間外のコンビニが一軒あるだけの静かな駅前だった。週末の終着駅ということでどのベンチも埋まっていた。気持ち悪かったので、とりあえず近くのフェンスにもたれかかるかたちで腰を下ろした。

 

気を張っていたのかもしれない。飲み会では近況報告以外、なにを話したのかあまり覚えていない。「ドーパミン中毒」という言葉を10回以上は口にした気もする。おしゃれ好きな面々にかけていた眼鏡のブランドを聞かれたので、なんでもない風を装ってちょっと溜めてから「JINS」と早口で答えるとちょっとだけウケた。同棲する彼女がトイレに入るたびイソップの芳香剤を使うのがもったいないと話している人もいた。大卒地方公務員の初任給が額面でもかなり低いことに驚いたりした。焼きそばが美味しかった。

 

駅前で再び意識を失いかけていると、声をかけられた。二人組みだった。一人は本格的なカメラを手にしていて、もうひとりはスケッチブックのようなものを抱えている。テレビの人だ、とわかった。終電終わりの深夜、駅前でカメラを回してインタビューを行っているといえば、ある番組がすぐに浮かんできた。絶対それだ。まさかこんな日が来るなんて。僕は「終電で寝過ごしてしまい、ここで始発を待っている」旨を焼けた声でダラダラ伝えた。家までのタクシー代を払ってくれるんじゃないかと期待していたが、ただのインタビューだけで終わった。でも自販機でお水を買ってくれた。その水を飲みながら、またフェンスにもたれかかった。次に気がついたときには駅のホームに明かりがついていて、アナウンスも流れていた。時計を見ると朝の五時前だった。知らない街も青く染まりつつあった。松本大洋が短篇集『青い春』のあとがきで書いていた青春の青さがこれか、と考えながら始発に乗った。登山の格好をした人たちが結構いて驚いた。みんな体力あるな。僕はもうだめだ。

 

ずっと最終回みたいな気分でいる。いろんなものが順に終わっていくのを待っている感覚だ。でも終わらないみたいなのだ。たしかによくよく考えてみれば、ここで終わられても困る。でも終わってほしいことも山ほどある。

 

幸せすぎて泣きたくなることがある。辻褄が合ってないだろと思うことがある。

 

マジでなにもしたくないが、同時にやりたいこともたくさんある。

 

コンディションの良い日なんて特にない。不調のまま誰かに優しくしたい。優しくされるためには、たぶん必要なことなんだろう。こんな動機でも別にいいのだろう。

 

舞城王太郎の作品で『僕が乗るべき遠くの列車』というタイトルの短篇がある。別に今回の内容とシンクロするわけではないが、妙に頭を離れないいいタイトルだなと思う。興味があればぜひ。