MidnightInvincibleChildren

『バキ童ちゃんねる』と

 

『バキ童ちゃんねる』とはお笑い芸人「春とヒコーキ」のYou Tubeチャンネルである。ボケ担当のぐんぴぃと、ツッコミ担当の土岡で「春とヒコーキ」。ボケ担当であるぐんぴぃ氏がABEMAニュースの街頭インタビューで日本の童貞率の高さについて質問された際、「誠に遺憾です」「バキバキ童貞です」と答えたことからインターネットミーム化、フリー素材のように扱われることにより多くの人の目に触れ、話題となったのが2019年の出来事。当時、僕もTwitterなどでチラチラと目にはしていた。これが僕の【バキ童】初認知となる。しかし「童貞ネタ」に忌避感を覚えているタイプの僕は、特にディグることはしなかった。彼らのYou Tubeチャンネルを見始めたのも、ここ数週間のことだ。2023年。我々も年をとった。

 

はじめから熱心な視聴者というわけではなかった。映画やドラマをじっくり観たい気分ではないが、なにかしたい、音がほしい、みたいな時間が一日の中にはある。そこでなんとなく再生したのが『バキ童ちゃんねる』だった。特別気持ちを入れずに何本か視聴した。片や元ブックオフの店長、片や元ニート。青学の落研出身で、話が面白い。それが心地良い。力の抜けた感じもまた憎い。そんな感じでついつい動画を再生していた。

 

生い立ちなどパーソナルな話をする系のやつが入り口として楽しいです。ずっと聴いていられます

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【バキ童】ことぐんぴぃ氏は、同じお笑い芸人たちとルームシェアをしていた。通称「キモシェアハウス」。基本的に全員不潔で、攻撃的で、しょっちゅう喧嘩する。2021年にこのシェアハウスは解散しているが、現在も交流は続いていて、今年の五月にはメンバーでフィリピンに行っている。

 

ちなみにぐんぴぃ氏、自身のnote*1に「フィリピン編」の動画再生数があまり伸びていないことへの思いを綴っていた。配信でも語っている。ぐんぴぃ氏がこれまで避けてきた「内輪」山盛りのものだったからだ。正直わかる。僕も最初のころはキモシェアハウス関連の動画を飛ばしていた。チラッと観てみたこともあったが、基本的に画面に写っている部屋の状態も話している内容もかなり不潔だし、ほとんどのメンバーが攻撃的なのでよく喧嘩もしている。

 

僕は大学時代にオタサーに所属していたので、そういうカテゴライズをあてがわれる、あるいはその自覚をもった男たちの想像以上にマッチョな感じはよく知っている。その証左として、オタサーの人ほど「AT限定」免許をバカにする傾向にある。さらにたちが悪いのは、いざ対面では「運転するだけなら全然AT限定でもいいと思いますよ」とかいいつつも、SNSでは「AT限定免許は認めない」みたいなつぶやきをしたり、その投稿に「自分もそう思います」とリプを飛ばしたり、そういうことを平気でする。たまたまそんなやりとりを見つけてしまった僕は、これは走馬灯用素材になりそうだな……と背中を丸めた。とにかく、そういう人*2はかなり多かった。がんじがらめなのだ。それが自分を苦しめる歪なルールだったとしても。

 

しかし、キモシェアハウス動画をながら再生しているうちに慣れてくるのも事実だった。まず安心してほしいのが、画面越しに臭いは届かない。極めて下品な話もただの音として笑って聞けるようになってくる。やがてメンバー個々のパーソナリティにも理解が深まり、興味がわく。また、童貞を研究するスウェーデンのピーター博士が登場したのも大きかった。フィールドワークとして彼もキモシェアハウスで暮らすのだが、そこで客観的な外からの視線が付与されることにより、風通しがグッと良くなった気がする(ピーター博士の順応性があまりにも高いため、その効果はすぐに薄まるが)。


そんな近所にいると話は別な個性豊かな面々が交わす日常的な会話がやっぱり面白い。日高屋の中華そばみたいなので、続けて観てしまう。「仲良くしろよ……」と思って眺めていた喧嘩も、いまとなっては楽しい日常。何気なく飛び交うワードが、つい一時停止したくなるようなひっかかりを保持しているので、くすぐったくなってくる。メンバーも全員面白い*3


ちなみに「フィリピン編」だが、キモシェアハウスメンバーでフィリピン旅行したのにはある目的があるのだ。それはメンバーの一人である【レンタルぶさいく】がフィリピンで就職し、疲弊しているとの噂を聞きつけたため。みんなで救出に向かうためだった。フィリピンの地で再会した彼らは、かつてひとつ屋根の下で苦楽を共にした仲間同士で再び笑い、傷つけ合い、対話する。比較的多くの本数アップされているため、観終わるまでの時間もかなりかかるだろう。それでも最高の瞬間が山のように収められていた。生を実感するための人間大砲。射撃場でぐんぴぃ氏らが銃をおおはしゃぎで撃つ場面では、見学のピーター博士が「欧米ではインセルという破壊的な童貞サブカルがあって……」と神妙なトーンで話し出すことで見事に相対化していた。慣れないナイトクラブでヤケになって踊り狂う場面なんて、音を消して再生したら『aftersun/アフターサン』*4だった。

 

僕個人としては、エンディングで涼宮ハルヒのキャラソン『SOSでもだいじょーぶ』を流してほしいほどの感慨に包まれた。なので観終わったあと、実際に曲を再生して余韻に浸った。オタサーにいながらも最終的に壁をつくり、二度と関わることもないだろうと判断したかつての自分に、その壁の向こう側に進む方法だってたくさんあったはずだと思わせてくれた。そこで待っていたかもしれない景色を見せてくれた。今夜は中秋の名月キモシェアハウスでもだいじょーぶ!ウォォー!

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*1:

フィリピン編のたくらみ|ぐんぴぃ(バキ童・春とヒコーキ)

*2:低い自尊心をマチズモに預けて威を振るう、本当のかっこよさに触れられなかった人々

*3:個人的にはガクヅケ木田さんの、絶妙な小芝居を瞬時に入れてくるところが好き。Wikipediaにも『顔マネ(上地雄輔濱田岳)』という特技が記載されていて合点がいった。

*4:現状今年のマイベスト映画です。

映画『aftersun/アフターサン』公式サイト 5/26(金)公開