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文学フリマ東京37に行ったビジターC

 

文学フリマ東京37に行ってきました。

 

関東で生活するようになって長いが、初文フリとなっております。というのも埼玉の北の方に住んでいると、東京が遠い。今回も会場である流通センターまでの道のりをスマホで調べたときに、2時間近くかかると表示されて行くのをやめようかとも思った。未だに油断していると電車で酔うし。しかし年に何度か訪れる「家で過ごしてなんになる?」モードでもあった僕は、会場の雰囲気を味わうことを第一の目的に設定し、肩肘張らず出発することにした。参加される方々を詳しく調べたりとか、そういうのは現地でもできるだろう、それこそ巡り合いだろうという堂々とした不精。ぼんやりと「ナナロク社から木下龍也と舞城王太郎のコラボ作品が出る」とか、「『鬱の本』を出す点滅社がフリーペーパーを配っている」くらいは知っていて、それらがゲットできればもう百点満点ということにした。

 

 

移動時間は長かったものの、モノレールで曇天に見下ろされたTOKYOビル群の隙間をグイグイ縫う感覚はちょっと楽しかった。いざ流通センター駅に到着した時点でもう終盤に差し掛かっていたが、会場は大賑わいだった。会場周りの自販機がほとんど釣り銭切れになっていたのもその証左だと思う。来場者は来場者シールを、出店者は出店者シールを胸のところに貼っていた。僕も胸のところに「Visitor C」と書かれたシールを貼りました。三池崇史監督の『ビジターQ』みたいでかっこいい。心なしか、会場には「一張羅で来たな」と思しき人がたくさんいた。みんなの文フリへの思い入れをひしひしと感じる。

 

 

ナナロク社も点滅社も、会場入り口からみた正面の一番奥【Z】エリアで出店していた。会場をざっくり突っ切って雰囲気を味わいつつ向かえるのでありがたい。まず僕はナナロク社のブースで早々に舞城関連品を三点買った。去年売られていたものもあったので、迷わず買った。

 

それからその隣の点滅社ブースへ。人が何人か立っていたので、タイミングを見てフリーペーパーを頂戴する。『どこにいても死にそう』と題された文庫サイズのそれを持って、一旦外の空気を吸うため裏の搬入用スロープに出た。巨大な倉庫群を背にしながら荷物を整理し、その場でパラパラと『どこにいても死にそう』を読んだ。今日来てよかったなと心から思った。改めて点滅社のブースに向かい、「おしまいステッカー」を2枚買った。ブースに座っていた(おそらく屋良朝哉さんと思しき)方に、『鬱の本』も絶対に買いますと声をかけた。僕はああいう場で声をかけることが本当に苦手なのだが、なんだか気持ちを伝えずにはいられない、みたいな気持ちになっていた。『どこにいても死にそう』の文章を書いた人と対面している興奮もあったのだと思う。

 

それからふわふわした気持ちで会場をぐるぐる回る。事前に調べていなかったせいで、後々色々と後悔する予感を覚えつつ、そのエネルギーを浴びた。敬称略で一気にいきますが、木下龍也、佐藤友哉海猫沢めろん、pha、TBSラジオ記者の澤田大樹を見た。改めて文フリってすごい場所だなと思いつつ、帰宅ラッシュに巻き込まれるのも怖いので早々に駅に向かった。滞在時間はかなり短かったが、なにもない頭の中で、ただただ「やってやるぜ……」という気持ちが煮えていた。

 

乗換駅である東京駅で一度改札を抜けると丸の内側に出てバカデカビル群を眺めながら散歩した。「格差」って感じがいたるところにあってはじめはちょっと悲しくなったが、だんだんどうでもよくなり、『あのこは貴族』を観たくなった。

 

東京駅でカレーを食べた。時を同じくして大規模なシステム障害が起こっていたらしく、あとから入店した外国人親子が発券機でクレジット決済できず、店員の人たちがみんな困っていた。もしもお金持ちだったら、あの人達のぶんまで現金で支払い、せっかくの旅行を楽しんでと伝えたかった。僕はTwitterでSINGO☆西成さんから「粋」だとリプをもらったことのある人間なのに、いかんせんお金がない。

 

帰りの電車では座れなかったが、特に酔いもしなかったので万事快調。風の強い駅のホームに降り立つと、前を歩くオシャレな男子大学生のトートバッグにちいかわとハチワレのぬいぐるみがぶらさがっていることに気づいた。ワッ、と思った僕は息を呑んだ。それから思わず


「なんだ、もう、朝かと……」

 

と背後から語りかけるようにして歌った。僕には、せわしなく歩を進めていた彼が反応したのがわかった。歩く速度を落とし、片方のイヤーポッズを取り外しながら彼は振り返った。目はこちらを向いていて、なんとなく、不安そうに見えた。何かに驚いているのかもしれなかった。


「……ひとり、ごつ」

 

彼はそんなふうに続きを歌った。僕が微笑んだのは、彼が微笑んでいたからだ。

 

文学フリマに行けてよかった。次は高円寺にあるそぞろ書房にも行ってみたいと思った。外に出ると、こうやって気持ちの置き場所が前へ前へとつながっていくことがある。それをとても嬉しく思う。

 

おしまい

 

買ったもの。全部いいです。