MidnightInvincibleChildren

書き下ろし短編:『愛のテーゼ』

 

sakamoto-the-barbarian.hatenablog.com

 

 

 東條さんが消えて、見つかって、また消えた。次見つかったらもうおしまいでしょと思っていたのに、数で攻めろと送り込まれた十人近くのアルバイトのうちひとりのスマホから動画が送られてくる。

 

 燃える建物を背にした真っ赤な東條さんの自撮りだ。

 

「(モゴモゴ)行く」

 

 なんて? さっき起きましたって感じの声だった。「行けたら行く」? そんな飲み会みたいな。

 

 わたしはその動画を転送してもらい、バックアップも取る。東條さんは嘘つきなので、そうはいってもほんとは来ないんじゃない? と思ってわたしが別件で滋賀にいっている間に都内で大勢が死んだ。東條さんのことを殺す殺すと息巻いていたダルマの田邑からさらに両目が奪われた。わたしは東條さんに対する田邑の執着が、不健全な恋愛を見ているみたいで気分が悪いのだが、さすがにもうこれ以上はなにもできないんじゃないかと思う。いやわからんな。そもそも、懲りる懲りないではないのかもしれない。きっと田邑にとっては東條さんのことを考えている時間以外に生を感じない系のやつかもしれないし、だったらいっそのこと自分でさっさと死ねばいいんじゃないのかとも思うが、田邑は田邑で後輩の生田によくない愛され方をしているのでそれも無理だ。生田は田邑なしの人生なんて考えられないだろうから、田邑を絶対に死なせないはずだ。でも馬鹿だから何度も守り損ねている。いまにも憤死しそうな勢いで、また多くの金と命を浪費するのだろう。そうやって東條さんは彼らの世界の臓器にあたるものをちょっとずつだめにして、機能不全をもたらすつもりなのかもしれない。

 

 じゃなきゃ「消える」みたいに希望をもたせるようなことはしないはずだ。

 

 がらんとした部屋でコーヒーを飲みながら、東條さんの動画を何度も見返す。トイレでも見たし、戻ってからも再生する。くちびるの動き的には「今から行く」かもしれない。東條さんのこの動画、狂ったソロキャンプ配信みたいでちょっと楽しい。せっかくだから自分も人を楽しませたいとか、そういうポジティブな気持ちが湧いてくる。

 

 新しい風が吹いてくる。人生への復讐は続く。

 

 それから三十分ほどして男が現れる。そのクソみたいな人生を挽回しようという意識から子供を大勢つくり、支配し、搾取し、結局三人を殺し、避難した三人目の妻から子を取り戻すという「使命」に暴走するゴミ。わたしの流した偽情報を信じて偽の保護シェルターに現れ、偽職員のわたしに詰め寄ってその人生を終える。

 

 東條さん、また会えたらどうでもいい話をしましょう。

 

 あなたとの出会いにありったけの感謝を。

 

 どうかお元気で。