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橋本環奈が悪いヤクザと戦う映画『セーラー服と機関銃-卒業-』

 

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〇どっひゃ~!なんて企画を……

とはいえ橋本環奈がサブマシンガンを撃ちまくるってだけで個人的にはもう充分。最高ったら最高。ほかに何も言えないし映画も楽しみ。つっても基本的に橋本環奈に都合のいい世界のおはなしなんだろうけど、橋本環奈が幸せならそれでいい、そう思っていたぼくはこの映画セーラー服と機関銃-卒業-』を観てびっくりした。意外とそうでもなかったからだ。

 

〇本編内の“奇跡”たち

 以下、ぼくが今作を愛するに至った要素をざっくばらんに紹介していきたいと思う。まあまあネタバレはあるかと思うので、気になるという人はごめんなさい。

 

①橋本環奈と穏やかな日々

今作で橋本環奈が演じる星泉は、ご存知『セーラー服と機関銃』の主人公。愛する伯父さん(ヤクザ)を殺した敵対ヤクザどもにお礼参りをするため、自らもヤクザの組長になったという異色の過去を持つ女子高生だ。現在、いわゆるヤメ暴である彼女は、元組員らと一緒に「メダカカフェ」を経営中。これって巷で話題のJK社長ってことなのでは?と思っていると、カフェ自体は元組員武田鉄矢の的外れなテンションによって閑古鳥が鳴きっぱなし。堅気の仕事はどうも苦手らしい愉快な仲間たちとともに、それでも幸せな日々を過ごしていた。この「穏やかな日常」パートでは橋本環奈の姐御肌な態度がとても魅力的で楽しい。ヤクザをやめた身であれ、因縁の浜口組に呼び出されれば臆することなく乗り込んでいく。組長役の伊武雅刀相手にも啖呵を切ったりするが、思いのほか堂に入った姿に惚れ惚れだ。

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学校生活はというと、一番前の席であるにも関わらず授業中に居眠りをしている。先生も元組長を注意するのが怖いのだろう。星泉は事もあろうに、かつて敵対する組に殴り込んでサブマシンガンを乱射した際の夢を見ていたりする。そんな強烈な演出からも、彼女の豪胆なキャラクターが見て取れる。アンドロイドは電気羊の夢を、星泉は殴り込みの夢を見るのであった。

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②橋本環奈と恋

この映画は橋本環奈の様々な面を見せてくれる。こっちだってそれが見たくて劇場に足を運んでいるのだ。 映画の中盤、協力を持ちかけてきた長谷川博己a.k.a永月との待ち合わせのため、橋本環奈が武田鉄矢とラブホテルに入るというシーンがある。見慣れぬ室内の様子に興味津々の橋本環奈。ここで彼女が「恥ずかしがる」という演技を要求されていない点にも、「橋本環奈」という存在のありかたが見てとれるのではないだろうか。彼女がいちいちその程度のことで動じたり、あえてドギマギして見せるようなまどろっこしさなんかを持ち合わせているわけがないのである。武田鉄矢が「昔はモテた」というどうでもいい思い出話を延々垂れながしているその脇で、お湯の張られていない湯船に入り、楽しげに脚を伸ばす橋本環奈。そこで一瞬、彼女が自らのふくらはぎをつまむ。本当に一瞬なので、決して見逃してはならない。別に後半の伏線でもなんでもないただのふとした仕草だが、物語に奉仕をしないからこその豊かさに胸を打たれるはずだ。

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本作で星泉は、敵対する浜口組の若頭・月永に淡い恋心を抱く。ラブホテルで待ち合わせた彼が廊下でお水っぽい女と濃厚なキスをしている姿を偶然目にして呆然としたり、雨の中を二人で走りながら思わず楽しくなって笑っちゃうというインヒアレント・ヴァイスのようなシーンもある。環奈ちゃん、雑誌のインタビューで今は恋愛に興味ないって言ってたじゃん!とはいえこれは映画だし、環奈ちゃんや長谷川博己さんが絶妙なバランスで演じ、前田監督の丁寧な演出のおかげもあって、「星泉の恋」として割り切ることができた。この映画は実にうまいバランスで成り立っている。

 

③橋本環奈と暴力

さらに自分の驕りを痛感させられたのは、暴力の描き方に関してだった。ヤクの売人に尋問を試みようとする星泉はなぜか「拷問」という言葉をさらりと使う。ふと振り返ってみるに、この作品内において彼女は「暴力反対」といった態度は特にとらない。決して強調されているわけではないが、「やむを得ない場合はそれ相応の行動をとる」といった冷たいスタンスが根底に流れているのである。なかなかにザラついた世界だ。そして暴力の結果としての「死」だって当然のように描写されていく。本作は思っていた以上に人の死ぬ映画なのだった。そしてそれらの死によって磨り減っていく星泉a.k.a.橋本環奈。クラブでの大銃撃戦シーンでは、あろうことか首を吊られた彼女は身動きをとることもできず、ただただ凄惨な状況を見つめることしかできない。銃だけじゃなく、カランビットナイフを操る慢性鼻炎の殺し屋も出てきたりするし、長谷川博己も短刀を振り回す。そのため、結構な血が流れたりする。

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星泉はヤクザなので、山中に死体を遺棄したりもする。この場面がクラブでの大銃撃戦から順撮り(物語の流れ通りに撮影すること)されているということはドキュメンタリー番組で確認済みだった。つまり橋本環奈は、深夜の大銃撃戦から朝方の死体遺棄シーンまで、ぶっ続けで星泉を演じ続けているのである。疲労の色は隠しきれない。涙で目を腫らし、憔悴した表情で俯く姿のなんと画になることか。因縁の過去が明らかになった永月に銃を向けるその眼差しには、演技を超えた迫力が宿っている。普段から自らのネガティブな面の表出を良しとしないことでも有名な橋本環奈。そんな彼女の溢れんばかりの生々しい殺気に、誰もが息を呑むことであろう。

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④橋本環奈とみんな

 ここまで橋本環奈の素晴らしい点ばかりを挙げてきた。しかしそれらは、制作側の努力や工夫、他のキャストの好演あってこそ、あれだけのものになり得たとも言えるはずだ。

 

大野拓朗宇野祥平コンビは、星泉を献身的に支える組員を好演。「組長は背も小さければ器も小さいですもんね」とのイジリで消沈する彼女を元気づけるシーンなんて胸に沁みる。彼らの組長愛と、レディースのような声と態度でそれに応える橋本環奈の化学反応は思いのほか素晴らしかった。

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もうひとりの古参組員を演じた武田鉄矢も、いつも通りの武田鉄矢好演。やたらと捨て身の作戦ばかりを実行する特攻野郎な性格は後半のある展開にも生きてくる。鬱陶しいけどそばにいてくれるシークレット・サンシャイン』のソン・ガンホのような男にも思えなくもない、ような気もする、なかなか憎めないキャラクターだった。

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長谷川博己といえばここのところ過剰にアッパーな(というかおどけた)演技で苦手に感じていた俳優の一人なのだけど、いやいや、とはいえこの人は別にそれだけの人じゃないってことを思いださせてくれた。ダークスーツの似合うスタイルの良さと抑えた演技で、浜口組若頭を好演。そんなに多くはなかったけどアクションもかっこよかった!これからは園子温と組んでいるときだけ注意するね!

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敵対するヤクザのボスを演じた安藤政信は、記憶に新しい『GONIN サーガ』でのボンボンヤクザ以上の凶暴さで熱演。さすがはクラスメイト41名中13名を殺害した男、橋本環奈めがけて手元のコップを全力で投げつけるというシーンでは、こちらも思わずヒヤリとしてしまう。あとになって調べてみたところ、そのシーンは完全に安藤政信のアドリブらしく、本当に当たったらどうするつもりだったんだ……。しかし安藤政信といえば『GONIN サーガ』の撮影においても監督の「平手で」という指示を無視して土屋アンナグーで殴り続けたという前科がある。「橋本環奈を本気で傷つけるんじゃないのか?」とこちらが不安になるほどの迫力の甲斐あって、この映画から「主人公がちやほやと庇護されるだけの生ぬるい空気」が排され、絶妙なバランスの作品となり得たのかもしれない。安藤政信、偉い!なにより「それでも微動だにしない橋本環奈」という最高の画を引き出せた功績も併せて称えるべきだ(その隣に立つ武田鉄矢も動じていなかった。みんなすごい)。

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その他、セーラー服と機関銃で刑事を演じていた柄本明の息子・柄本時生がドラッグ事情に詳しいアッパーな情報屋で登場していたり、魚眼レンズっぽい画だったり、長回しだったりと、過去作へのオマージュ、のようなものも随所に見られた。星泉のその後の物語と謳いつつも、続編ともリブートともとれるという点がマッドマックス 怒りのデス・ロードみたいなつくりの映画だ。

 

なにより、橋本環奈の「生命力」に着目して演出を手がけたという前田弘二監督の功績を讃えなければならない。この企画上、主演の橋本環奈が魅力的に見えないと話にならないわけだけど、そこは早々にクリアしてみせ、さらに作品のクオリティを向上させるべく尽力している真摯さがちゃんと結果として現れていた。長回しでちょっとだけ目が回ったものの、そこには確かに「いまこの瞬間の橋本環奈」が活写されていて、ぼくは嬉しかった。

 

 

〇ありがとう、橋本環奈

今作を観てなによりも嬉しかったのは、橋本環奈がまだまだ全然底知れない存在だということを再認識させてもらった点だ。「演技はどうなんだろうな……」という一抹の不安もかき消されるほどの堂々とした演じっぷりに、ぼくは早くも橋本環奈の次回作が楽しみになっている。青春ミステリーである『ハルチカ』の制作が決定している今、彼女の躍進をどこまでも見届ける覚悟は出来ている。

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並べられた仲間の生首を前に、血の復讐を誓う彼女をスクリーンで拝めるその日まで首を長くして待とうではないか。

 

 

 

期待値との激しい攻防/『エージェント・ウルトラ』

 

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“ダメなぼくが殺人マシン?”

田舎町でコンビニバイトをしているマイクは、暇を見つけては猿のヒーロー「アポロ」が活躍する漫画を描いて過ごすボンクラ野郎。現在は「最高の彼女」ことフィービーとマリファナを吸いながら幸せな日々を送っている。人生で一番のラッキーは彼女と出会えたことだった。彼女と出会う前のことなんて覚えてすらいない。プロポーズを決意してハワイ旅行を計画するマイクだったが、町を出ようとするたびに現れるパニック発作のせいですべては台無し。そんな自分が情けないのに、フィービーは「怒ってない」なんていってくれるからたまらない。夜、2人で車のボンネットに寝そべりマリファナを吸う。遠くでは木に衝突した車がレッカー移動されていた。マイクは言う。「ぼくが木で君は車。ぼくが君を引き止めてるんだ」。メソメソするマイクをフィービーは優しく抱きしめる。

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そんなトロい男マイクがコンビニに現れた中年女性になぞの言葉を吹き込まれて覚醒、武器を持った男二人を瞬殺する殺人スキルをスパークさせるのが本作『エージェント・ウルトラ』。実は彼、CIAが極秘に進めていた「ウルトラ計画」の被験者であり、政府が秘密裏に管理する殺人マシンだったのだ。覚醒してしまった彼をCIAは放っておかない。田舎町を封鎖し、暗殺部隊「タフガイ」を送り込んでくる。国家重要機密であり殺人マシンでもあったボンクラが愛する彼女との日常を守るため、迫り来る脅威に立ち向かう……!

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「実は殺人マシンでした」ムービー界に投じられた新たな一石

ボンクラ男版『ボーン・アイデンティティー』な本作、あらすじ、予告編の雰囲気などからも、「これは絶対に好きなやつだ!」という気配をすごく感じていた。

 

ゴキゲンな予告編 ↓


「エージェント・ウルトラ」予告編

 

主演のジェシー・アイゼンバーグといえば『ソーシャル・ネットワーク』でFacebookの創設者マーク・ザッカーバーグを演じたことでもお馴染み「頭の回転は早いけど人の気持ちを察しないまま早口で捲し立てる」演技に定評のある男。『ボーン』シリーズのマット・デイモンは沖縄でもそのへんを歩いていそうなよくいる米兵顔のため「実は殺人マシンでした」と言われたところで受け入れるのもやぶさかではないのだが、見るからにもやしっ子なジェシーの場合だとそのギャップはより大きい。またヒロインを演じるクリスティン・スチュワートはやっぱりべっぴんさん。思えばこの二人、アドベンチャーランドへようこそ』の主演コンビじゃない?さらに監督はエスカレートしていく狂乱の一夜をPOV方式で描いたあのプロジェクトXニマ・ヌリザデ監督。ここまでの情報ですでにこの映画の面白さは保証されているようなものだ!ぼくはそう思っていた……のだが。

 

負けないで、もう少し

「あ!」とか「お!」と口を開けるも、そのままの状態で固まり、静かに口を閉じるような、そんな96分間だった。別に全然ダメとは言わないよ!言わないけど……という感じで、あれだけ楽しみにしていた過去の自分に気を遣ってしまうような、妙ないたたまれなさを味わうなんて思ってもみなかったのだ。やりたいことはわかる。でもはっきり言って、あまりにも中途半端すぎる気がした。なんだか妙にシリアスなのもそう思わせる一因なのかもしれない。別にシリアスなのはいいし、それで活きるギャグだってあるはずだ。ただ本作に関しては、明らかに羽目を外すべきところでも遠慮しているのか、気が利かないのか、いまいち盛り上げずに見せてしまうので、本来なら爆発できるはずだった面白いはずのシーンも湿気ちゃっている印象だ。

 

ぼくは欲深い豚

そもそもこの設定でお客さんがまず期待するのって、どれだけあのボンクラ野郎が強いのかという振り幅だと思うんだけど、その描き方が淡薄で弾けない。ここで温めておかなきゃ中盤だれるんじゃない?と思っていると、大きな見せ場もないまま進むので案の定中盤がだるくて仕方がない。人の死ぬ様子や弾着効果なんかは結構気合が入っているのに、展開として盛り上がるように配置されていない。歯がゆい……。

 

悔しかったのでどんどん言葉があふれてくる。そもそも作り手は覚醒した主人公の活躍にあまり重きを置いていないのかもしれない。じゃあ何が描きたいのかというと、主人公とヒロインのラブストーリーだ。こういうめちゃくちゃな設定の中で展開する、ふたりの切ない関係を描きたかったのかもしれない。『トゥルー・ロマンス』っぽい感じだろうか。でももしそうなのだったら、だからこそ観客を温めなくちゃいけない。土台となる「殺人マシンでした」展開もしっかり力を入れて描くべきだったのではないでしょうか。どうなんでしょうか。

 

フレーミング・スイッチON

もちろんいいところもたくさんあった。あらすじの方で書いた「ぼくは木で君は車」のシーンなんて、あまりに切なくて泣いてしまったのも事実だ。覚醒後、敵の持っている銃器や死因などを一瞬で理解してしまう自分に混乱しながらも思考を止められないといった演技なんてまさにジェシー・アクトの真骨頂だ。あとクリスティン・スチュワートは冷たい目元に憎々しげな態度も魅力的だが、同時にダメ男をほうっておけない割を食ってばかりいそうな感じも素晴らしい。捨て犬とかもバンバン拾ってきそうだ。なにより本作の一番の山場と言えばホームセンターでの大殺戮長回しのシーンが挙げられよう。『イコライザー』+『キングスマン』といった感じで、日用品を駆使した暗殺部隊との大立ち回りを披露してくれる。あそこは楽しかった。ただ、この映画は2013年くらいに公開されていたらもっと違った評価のされ方をしていたのかもしれないとも思った瞬間だった。ぼくらはもうすでに『イコライザー』や『キングスマン』を通過してしまっているのだ。

 

なのでぼくは中盤あたりから、もうこの映画を『アドベンチャーランドへようこそ』の続編的作品として楽しむことにした。『アドベンチャーランドへようこそ』は瑞々しくて切ない青春の黄昏を描いた大好きな映画だ。ぼくはたまに思い出しては「またあのふたりに会いたいな」と思っていたのだから、ちょうどいいじゃないか。本作は『アドベンチャーランドへようこそ2』なのである。

 

アドベンチャーランドへようこそ』

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アドベンチャーランドへようこそ2』

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そんなスタンスでいると、いい感じに気持ちがシフトしてきたところで「あ!」という面白くなりそうなシーンが登場して感情をゆり戻されてしまう。結局「面白くなり得た」可能性の瞬きがひとつひとつ消えていくのを見守る悲しみにくじけそうになるのだった。ぼくはもうどういうスタンスになればいいのか分からず、かといって怒る気にもなれないので、ちょっとだけ寂しくなった。ぼくは木でこの映画が車。いちいち引き止めてしまってごめんよ。

 

最高のロマンチックを求めて

ここまで複雑な心境を長々と綴ってしまったが、作り手が本作でたぶん一番やりたかったことだと思えるラストのあるシーンでケミカル・ブラザーズ『Snow』が流れた瞬間に関しては、ぼくの中の鬱陶しい感情は止まった。なるほどとも思った。シチュエーション的にもバカバカしくて、でも最高にロマンチックだ。だからもっとちゃんと地盤を固めておけば、なお良かったのにとも思ったけど。


The Chemical Brothers - Snow

 

不器用だけど悪い奴じゃない

そんなこんなで、事前の期待値を超えてくることはなかったものの、本作は憎たらしい映画ではない。感じは悪くないのだ。さながら、この映画の主人公のようだ……というのは強引だけど、またいつか再鑑賞することだってあるはずだとは思う。そのときは『アドベンチャーランドへようこそ』も用意して、ぶっ通しで鑑賞してみようと思う。『アドベンチャーランドへようこそ』は本当に素晴らしい映画だ。思えば監督は我が心の一本『スーパーバッド 童貞ウォーズ』を撮ったグレッグ・モットーラだ。あ!『エージェント・ウルトラ』もグレッグ・モットーラが撮っていればもしかしたら……なんてifは尽きないので、このあたりで筆を置こうと思う。好きな人は好き。そういう映画でした。ありがとうございました。

 

暗順応

 

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2016年が始まった。開始早々、穏やかじゃない事ばかり起こっている。ベッキーゲスの極み乙女の人と不倫をした。橋本環奈がサカナクション山口一郎のツイートにいいねしていた。SMAPの解散騒動はなんともキナ臭い感じになってきた。あと高岡奏輔が三軒茶屋で人を殴って逮捕された。ぼくはといえば嫌いな友人に毎日LINEで汚い言葉を送り続けている。世界の終焉が近づいているんじゃないかと思うくらい陰鬱な毎日だ。

 

映画初めは『ブリッジ・オブ・スパイ』だった。スピルバーグ作品は面白いに決まってるが、実のところ全然観るつもりじゃなかった作品だ。ここのところ映画を観るにあたっての心の弾力が弱くなってきている。でもやっぱり、いざ鑑賞すると面白かった。終わりを予見しながらも淡々と会話続ける男たちの姿は涙が出るほど美しい。

 

印象的な夢も見た。夢の話は、人からすれば絶対に退屈だからやめておけという定説は承知の上で書くけど、ぼくは見知らぬイオンに映画を観に行く。そこで上映している映画は『イット・フォローズ』。Twitterでも話題だし楽しみだと浮つく自分。始まったのは以下のような内容だった。

 

 ・アメリカ人の主人公(20代)はフラフラした日々を送っている

 ・高校の同級生であるヒロインとも付かず離れずな関係

 ・ここのところ主人公は過去のことばかり振り返っている

 ・頻繁に挿入される回想シーン。そのほとんどが高校時代の淡い日々

 ・一方現在の主人公は、ぼんやりとした「なにか」に日常を蝕まれていく

・出口のない日常への不安をホラーとして演出した映画なのか、と思っているとクライマックスへ

 ・画面が暗転し4 Non Blondesの『Wat's UP』のイントロが流れ始める。

 
 4 Non Blondes - What's Up

 ・主人公の暮らす町のいたるところで暴動が起こっている空撮映像

 ・スタジアムのような場所では観客が全員腕を波打たせながらグラウンドへとなだれ込んでいく

 ・主人公はそんな街をさまよいながら、荒れ狂う人々の中にヒロインを見つける

 ・ヒロインも主人公と同じく正常な様子で、こちらを見つめ返す

 ・微笑むヒロイン。ぼくはその顔を見て、「この事態はヒロインの仕業」なのだと思う

 

そこで映画は終わる。夢も覚める。ぼくはまたLINEで友人に汚い言葉を送り続ける。ちなみに実際の『イット・フォローズ』がどんな内容かは知らない。地元じゃ上映していないからだ。

 

LINEと言えば、こんな話ばかりで申し訳ないんだけど、ここのところ心から退会したいと思っているグループがある。それは高校時代のクラスメートで構成されたグループなのだけど、どういうわけか頻繁に結婚だの妊娠だのの報告と共に、祝福の言葉とありとあらゆるスタンプが流れていく。もちろんおめでたいことではあるし、それを見て焦りを感じたりするわけじゃないから気にしなきゃいいだけの話ではあるのに、ぼくはなんだか気にしないことを咎められている気になって、結果それを気にして、おめでとうの文字や諸手を上げた動物のスタンプなどを片っ端から硬い棒で殴りつけたい気持ちになる。でも祝福ムードの最中、「○○が退会しました」なんて表示をみんなに見せるわけにもいかないし、「あ、こいつ……」と言われるのも怖いので、定期的にグループごと会話を全削除することによりささやかな勝利に微笑んでいる。勝利の味はとても苦い。

 

とにもかくにも、眠れない日々が続いている。厳密に言えば、夜眠れないのである。なので日中とにかく眠い。幸いにも定職についていないので、睡魔に屈することも多いのだけど、定職についていないからこそやらなければならない数多くのことが蔑ろになってしまう。昼夜逆転生活は恐ろしい。朝日を浴びることによって分泌されるセロトニンを感じたい。今日だってこんなブログを書くはずじゃなかったのに、眠れないし頭も痛いので何か気の紛れることをしたくなり、なんの起伏もない近況の報告をしている。

 

腹が立ってきたので、腹が立ってきたついでに許せないものについて思いを巡らせてみたら、自分の腕っぷしを自慢する人間への不満が湧いてきた。実はケンカが強いみたいなことを匂わせるのは、はっきり言ってしちゃダメだ。許せない。そんなこと言われたら怖いに決まってるのに、怖がらせるようなことをあえて言う神経にうんざりする。たぶん舞城王太郎芥川賞候補作『好き好き大好き超愛してる。』のタイトルを見たときの石原慎太郎くらいうんざりしている。そもそも飲みの席なんかで喧嘩強い自慢をされたら、そんなこと自分で言うな、人にでも言わせてろとぼくは思うかもしれない。でもぼくは同時に、「俺の知り合いはマジでやばい」トークを始める人も苦手なので、お前自身の話じゃないのならその本人を連れてきて喋らせた方がマシだから黙ってろと思うだろう。そうやって行き場をなくした「自慢」が渦を巻き、1つの宇宙になればいい。

 

 

 

 

 

 

いますぐ奴らの喉を突き、鼻を叩き潰せ。膝を踏み抜け。頚動脈を圧迫しながら、長渕剛の『Capten of the Ship』をフルコーラスで歌え。

 

 

 

 

 

 

 

 

橋本環奈a.k.a.胸キュン特殊工作員 belong to Rev.from DVL【機密報告書】

 

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橋本環奈のことを考えながらご飯を食べることは胃に優しい。それだけ時間を忘れて咀嚼してしまうからである。咀嚼回数は多いほうがいいらしいので、橋本環奈について考えることは、すなわち健康増進への第一歩なのだ。

 

ぼくは昨年末にOVERTUREという名の雑誌を購入した。多くのアイドルを特集している雑誌だ。その2015年12月の号には特集として、プロインタビュアーである吉田豪氏による橋本環奈インタビューが掲載されていた。ぼくが橋本環奈について知っていることといえば、彼女がものすごく可愛いということだけだ。それで充分だとも思っていたが、ここは勇気を出してその内面も覗いてみようと思った。

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ちなみにそのインタビューは本当に素晴らしい内容だったので、気になる人はぜひ雑誌を買って隅から隅まで読んでほしい。以下には、ぼくがインタビューを読んで見つけた印象的な発言や新たに知ることのできた情報、ぼく個人の思ったことなどをざっくばらんに書いていきたいと思う。(出典:「アイドルであり続けること」橋本環奈×吉田豪 【OVERTURE No.005】 )

OVERTURE No.005

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(2016/1/10 19:07時点)
感想(0件)

インタビューではまず、彼女の普段の言動などに触れている。以下引用。

 

 

 

(ブログやインタビューでの発言なんかを見ていてもネガティブな要素がゼロと言われ)

私ですか? そうですかね?

この堂々たる態度にやられる。

 

(戸惑いや不安があってもリアルタイムで発言しない姿勢を指摘され) 

言いたくないです。だって言葉は悪いですけど、ウザくないですか?

かっこいい!

 

 (悩みとして過去に挙げられていたことが、「ほくろが多いこと」くらいだったことを指摘され)

そうそうそうそう! すごくしょうもない悩みですみません(笑)

んなことないよほくろもすごくかわいいよ。

 

(自分を売るよりもメンバーを紹介していきたいという思いがすごく伝わると言われ)

 なんでわかったんですか(笑) 私はグループで売れたい気持ちもすごくあるし、いまはこの形だけど、メンバーひとりひとり個性があるから、それはやっぱりみなさんに伝えていきたいじゃないですか。だけどすっごい一部ですけど、「もっとメンバーの名前を出したほうがいいんじゃないか」とか言われて。私、言ってるけどなと思いつつ。だからそれは伝わってないのかなって。

 メンバーへの熱い思いを吐露する一幕。後半ではやるせない感情を覗かせている。ぼく自身、「もっとメンバーの……」とか言っている「すっごい一部」の連中に対する激しい怒りを禁じえない。物事の上澄みのみ汲み取って、鬼の首を取ったかのように大声を上げているだけの愚か者に違いないので、決して許してはいけない。しかし、それでもファンを喜ばせることが第一だと言い切る彼女の姿勢には、激しく感服する次第である。

 

まずライブに来てほしいっていう気持ちが一番大きいんですよ。観てほしいし、観ずしてほかのメンバーどうこうって 書いてる人はちょっとなって。まず知ってほしいです。

 この発言を読んだ直後、ぼくはTwitterRev. from DVL全メンバーのアカウントをフォローしました。

 

(メンバーに会わないだけで寂しいという過去の発言について)

ああ、なんか寂しくなっちゃうんですよ、あのうるささがいいというか。 

 彼女のメンバー愛に疑いの余地はない。

 

(グループ名、よく間違われないかという質問に対して)

はい。「Rev.fromデビル」って呼ばれたりしますけど、REVってハイチの言葉で夢っていう意味がありますし、レボリューションの略でもあって。そこにはすごく思いはこもってるので……革命を起こしたいですね。

後半でいきなりチェ・ゲバラになる彼女。内で滾る魂の熱さを垣間見せた瞬間である。

 

(垣間見せる気の強さから九州女的な部分はあるのかとの質問に対して)

ああ、でもよく言われます。九州って、九州男児で亭主関白が多いって思われがちですけど、九州男児より九州女子のほうが強いんですよ。みんなお母さんのほうが強いって言いますし、私もその血は受け継いでるかもしれない(笑) 

 襟を正さずにはいられない発言である。

 

(同じ福岡出身の漫画家、松本零士の口癖が「ぶち殺すぞ」であることに関して) 

あの……私、そんな言葉は……。 

 

 (「福岡の人間にとっては挨拶代わりだ」という松本零士の発言を伝えられ)

ヤバいですね。訂正させてください! そんなことはないです! 女子はそんな言葉は遣わないですね(笑)

 男子に関しては否定していないところが心憎い。ちなみに橋本環奈の映画初出演作である『奇跡』(監督:是枝裕和)では、「バリクソいてえ」という彼女のはつらつとした発言を聞くことができる。

 

その後、インタビューは昨今のアイドルブームとその終焉の気配について踏み込んでいく。それに伴い、彼女の考えるアイドル論に関しても、次々と熱い発言が飛び出す。インタビューを読む限り、橋本環奈はアイドルという生き方に真摯に向き合っていることが明らかである。それもまた闇雲なひたむきさとは違い、自分の進むべき道を冷静に見据えるクレバーさが感じられるところも素晴らしい。ある時期を境に「私もうアイドルじゃないんで~」とか言い出すようなタイプに関してはっきり「嫌」だと言ってのける姿勢にも一切の迷いがない。アイドルを辞めるときも「夢のない辞め方」だけはしてほしくないとの言葉に対しても、あっさり同意を示す。ここでさらにインタビュアーの吉田氏は踏み込む。彼女が好きなタイプについて「器の大きい人」を挙げていることに関してである。彼女はここでもブレない。

 

だって好きなタイプを聞かれたらそう答えるしかないんですよ。特にないから。いま興味がないっていうのもありますけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

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どこからでもかかってこいと言わんばかりの、その態度。「神様!仏様!かんな様!ちっちゃいけど態度はデカイw」というキャッチフレーズに負けない威風堂々。彼女に認知すらされていないぼくが言うのも至極おかしい話ではあるが、彼女の眼中にないことがこんなにも嬉しいなんて、不思議な気分である。ここまで開かれた存在となると、もはや彼女が神々しい概念のようにすら思えてくる。ちなみに彼女は、好みのタイプを聞かれて身長何センチ以上だとか、かっこよくて脚が長くてだとかをピーチクパーチクのたまってせめてもの夢さえ抱かせないアイドルに対してもはっきり「嫌ですね」と言ってのけている。ありがとう。本当にありがとう。肩こりが治りました。腰痛が嘘のようです。慢性鼻炎が気にならなくなりました。心が穏やかになりました。人に優しくなれました。空を覆うような寂しさが晴れました。いくつもの眠れない夜がなんてことのない過去になりました。ちょっとだけ頑張ろうと思えました。言い訳より先に頑張ってみようと思いました。

 

2016年。

 

ぼくらの新しい年が始まる。

 

 

 

 

2015年劇場公開映画ベストワーストいろんな賞

【2015年劇場公開映画ベスト10】

 

      1位 恋人たち

 2位 クリード チャンプを継ぐ男

 3位 マッドマックス 怒りのデス・ロード

 4位 キングスマン

 5位 ストレイト・アウタ・コンプトン 

 6位 ハイヒールの男

 7位 ナイトクローラー

 8位 ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション 

 9位 ハッピーボイス・キラー

 10位 誘拐の掟

 

ベスト10選評

10位:『誘拐の掟』

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『ラン・オールナイト』も素晴らしかったけど、個人的な好みとしてはこちら。ド外道の手がかりを追って薄汚く寒々しい街を私立探偵が黙々歩く。それだけで楽しい。幸せ。「7:30」a.k.a.鬼畜なサイコ野郎である犯人コンビが獲物となる少女に出会ったその瞬間、ドノヴァンの『アトランティス』が流れ出すシーンの不謹慎な高揚感が忘れられない。45口径をガンガン撃ちながら強盗を追い詰める冒頭やDEAへのガラス越し顔面パンチ、ホームレスの少年との交流、地下室の惨劇など今振り返っても好きなシーンがたくさん。

 

9位『ハッピーボイス・キラー』

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なんといってもエンディング。謎の多幸感に苦笑しながらも号泣。ぼくにはこの主人公を身勝手な人間だと切り捨てることができませんでした。

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8位『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』

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前作も最高だった『M:I』シリーズ最新作。もはやトム・クルーズは観客に「どうかしている……」と思わせる天才になってしまったので、こっちの心配もよそにどんどん次のステージへと進んでいってしまうが、その姿はずっと見ていたくなるような謎の多幸感で溢れている。本人が喜々としてやっているからなんだろうけど、超人でありながらも今作では引き立て役を買って出るなど実にスマートな余裕まで見せてくれて、それがまたたまらない。ジャッキー・チェンに次ぐエンタメ・クレイジーなトム・クルーズにはまだまだ死んでほしくないけど、次回作だってこの高すぎるハードルを越えてくれるんじゃないか、まあ越えるんだろうなと思わずにはいられないのであった。あとレベッカファーガソン、超好き。足を引っ張る女性キャラなんてとっくに時代遅れだと、超大作映画がどんどん宣言してみせる年だった。

 

 

7位『ナイトクローラー

「進めサイコパス!」映画。おぞましい一方で痛快なところもたまらないですね。

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6位『ハイヒールの男』

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「どこまでが真面目なんだ……?」と思わせつつも、作り手の迷いのなさで一切白けることなく突き進む怪作。同じ枠に『神の一手』もある気がしますが、主演俳優のアンニュイで色っぽい表情と繰り出すアクションのキレが好みだったので、こちらを選出。ブスなオカマにビンタしてはっとしちゃうシーンなんて何度でも観たい。

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5位『ストレイト・アウタ・コンプトン』

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ヒップホップ弱者であるぼくだけど、創作することにまつわる快感であったり、大きな流れの中にいる高揚感、なによりぼくの大好きな青春の黄昏を描いているところがたまらない。実録ものは大体そうなんだけど、この映画でもエンドロールで号泣しました。それにしてもアイス・キューブの息子、似すぎだな~。

 

 

4位『キングスマン』

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ぼくは「ざまあみろ!」って気分になりたくて映画を観ているところがあるので、この映画におけるある「ざまあみろ!」シーンには感涙。教会大殺戮シーンなどもそうだけど、不謹慎で軽薄なものだからこそ表現できたこの映画の豊かさをかなり楽しみました。

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3位『マッドマックス 怒りのデス・ロード』

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 全水準が高騰している奇跡のような映画なのは言うまでもないけど、パーソナルな部分に引き寄せて拳を握ることだってちゃんとできたところもありがたい。走って撃って飛んで壊す。小賢しいセリフ抜きにあれだけのことを繊細に語り切った作り手たちの手腕にも感服仕り候。層が厚すぎてめまいがします。

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2位『クリード チャンプを継ぐ男』

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数多の熱いシーンもさることながら、さりげない演出の数々も心憎い一本。何人かの方も感想でおっしゃっていたけど、この映画はゆとり世代と揶揄された経験のある人なんかにこそ観てほしい。ぼくは泣き腫らした虎の目で劇場を後にしました。いまここで新しい物語が動き出したのだから、これから戦っていかなければならないぼくらも階段を駆け上がり、開けた視界に広がるフィラデルフィアの街並みを共に望もうじゃないか。ロッキー・バルボアはちゃんと存在しているんだぜ!

 

 

1位『恋人たち』

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誰かに話を聞いてほしい人々のままならない日常と、ちょっとした折り合いのつけ方は、普段ぼくらの生きる世界ではあまりにありふれていることだからこそ、映画として目の当たりにすることで強烈に身につまされる。とにかくぼくなんかは人の痛みに構ってられるほど強くないから、だからこそ、この理不尽な世界でどうにかこうにか生きていられるんじゃないかと思う一方で、人のなんてことない言動の中に、温度のある光のようなものを見いだせて初めて、今日は空が綺麗だとか、連なるように視界が開けていくのかもな、とも思う。以下、人生は続くのでした。

 

 

いろいろアワード

 

【オープニング賞】

 『ワイルド・スピード SKY MISSION』より

お見舞いオープニング

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 このシーンによって本作がどういった「ものの限度」で進む物語なのかが一発でわかるという最高の場面です。この映画のステイサムは範馬勇次郎っぽさがありましたね。思い出すたび観たくなります。

 

 

【ベストファイト賞】

 『ネイバーズ』より

ディルドーヌンチャクファイト

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 小型のディルドーを構えるザック・エフロンに対し、セス・ローゲン「俺のはお前のよりデカいぜ!」という顔をするところとか、たまらないものがあります。

 

 

【ベストガイ賞】

 『クーデター』より

ハモンドピアース・ブロスナン

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 クーデターによって外国人狩りの始まった東南アジア某国において、またとないほど頼りになった不良オヤジ。元007俳優というキャリアを楽しむかのような役柄も相まって超クールでした。ここのところのブロスナンを見ていると『エクスペンダブルズ』シリーズにも喜々として出てくれそうな温もりを感じる。

 

 

ファムファタール賞】

 『薄氷の殺人』より

ウー・ジージェン(グイ・ルンメイ

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エッチだった。

  

 

【オムファタール賞】

 『フォックスキャッチャー』より

デイヴ・シュルツ(マーク・ラファロ

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その圧倒的な、周囲を狂わせるほどの父性にくらくら。

 

 

【悪役賞】

 『マッドマックス 怒りのデス・ロード』より

イモータン・ジョー(ヒュー・キース=バーン)

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 はっきり言って全ての賞を『マッドマックス 怒りのデス・ロード』に捧げてもいいくらいの気持ちだってあるのですが、全部が全部そうなってしまうとただの『マッドマックス』の記事になってしまうため、すべてを代表してこのあたりでイモータン・ジョーを選出させていただきます。核戦争後の世紀末を生きる彼は、奪われた女たちを奪還しようと自ら率先して改造車を飛ばすなど、その行動力、統率力は紛うことなきリーダー。股間に二丁のリボルバーをぶら下げていたりとそのシンボリックな外見からもわかるように、彼は野郎どもの神でもあるのでした。休憩時に目を閉じて鼻歌を歌う姿もV8! 

 

 

【無職賞】

 『ナイトクローラー』より

ルイス・ブルーム(ジェイク・ギレンホール

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  今年は『キングスマン』に出てきたスパイになって世界を救うような無職もいた一方で、無職にありがちなすねた態度が一切見られなかった謎の好無職がこのルイス・ブルーム。金網などを盗んで生計を立てる後藤祐樹じみた彼は、自分を売り込むことになんのためらいもなければ出世意欲も絶倫状態。ズケズケ自分を売り込んでは鬼畜の所業をやってのけるアクティブガイなので、目的達成への最短距離を爆走し続ける。痒いから掻くくらいのノリでモラルを唾棄するその様は現代社会の歪さに順応してみせるニューヒーロー。みんなも彼に師事しよう!塗装が剥げるからガソリンは垂らすなよ!VPN

 

 

【皆殺し賞】

 『キングスマン』より

教会大殺戮

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  アメリカ南部にある教会で大規模な殺し合いが発生する様をワンカット風の演出で描いた壮絶なシーン。手間、見応え共に最高。レイナード・スキナードの『Free Bird』が流れる中キリスト教右翼の人々と英国紳士が阿鼻叫喚を築き上げるという不謹慎なギャグでありながら、あるキャラクターの尊厳が踏みにじられるという物語上の悲劇の場面でもあるところが胸に迫る。

 

 

【ベストダンス賞】

 『薄氷の殺人』のアレ

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 なんなら憎たらしくさえ思える絶妙なダンスを披露する主人公。このシーンのふてぶてしい感じが、ラストの奥ゆかしさに呼応していてまたいいんです。

 

 

【主題歌賞】

 『ハッピーボイス・キラー』より

The O'Jays『Sing A Happy Song』


The O'Jays - Sing A Happy Song (Philadelphia Intern. Records 1979)

 主人公が職場のレクリエーションでコンガ・ラインをつくって踊る際に流れる曲であり、エンドロールでも軽快に鳴り響くゴキゲンなナンバー。脚本では元々『恋のマカレナ』が流れるという設定だったが、監督がその曲を嫌いだったためにこちらになったとか。そもそもこういう明るく楽しい曲ってつらい感情があってこそ生まれるような気もするので、この映画の構造にもマッチしていて最高でした。楽しい歌を歌おうなんて言葉、なんの悩みもない人からは出てこないだろうし。

 

 

【エンディング賞】

 『ワイルド・スピード SKY MISSION』より

"FOR POUL

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 主要キャストが亡くなったという現実に対して、映画だからこそできる最も熱く切ないお別れではないでしょうか。映画と現実の境界が曖昧になる瞬間。直前までニヤニヤしていたというのにいきなりの号泣。ありがとう。お疲れ様でした。

 

 

 


 

 

 

【ワースト……】

 『96時間/レクイエム』

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の監督 オ リ ヴ ィ エ ・ メ ガ ト ン

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こ、このやろう……!

 今年はいい映画ばかり観てきたので、昨年の『渇き。』や『TOKYO TRIBE』のように個人的に癪に障る映画には出会いませんでした。なので特別取りざたすほどのものでもないって感じですが、一応『96時間/レクイエム』がキツかったです。一作目のおいしかったところが何も残っていない味のしなくなったガムのような映画で……って観る前から惰性で作っている感じプンプンだったのにリーアム・ニーソンが頑張ってるらしいのでワクワクして観たんですが、オリヴィエ・メガトンの、作品を撮るごとに酷くなる嫌がらせじみたカット割りの応酬とか、そのくせモタモタして見える人の生理に逆らうような編集とか、アクション映画を観に来たというのに、劇場の暗闇の中、前の人の後頭部をしばらく眺めてしまうほど憂鬱に。アクションに興味がないとかもう別にそれでもいいんだけど、せめて俳優の演技を殺すような真似だけはしないでほしい。リーアム・ニーソンは老体にムチ打ってスタントを使わなかったシーンなどもあるらしいので、おいメガトン、コラ!ジャンルへの興味のなさが演出の客観性に一役買っているならよかったのにね。本当に興味がないって態度だけ伝わって来るから、むしゃくしゃするんだろう。なんでぼくはどの作品の感想よりも長く『96時間/レクイエム』なんかに怒っているんだろう。ただメガトン監督、セガールとの相性は良さそうだとは思いました。セガールと大暴れしてくれたら文句なし。ふと思ったのですがメガトン監督、スマホをいじりながら観るのにちょうどいい映画をつくる才能は高いのかもしれません。映画館向きじゃなかっただけかもしれませんね。ずっと画面観ててごめんなさい。ぼくが悪かった。

 

 

 


 

 

 2015年も数多くの映画に出会えました。全体的に新しい時代の幕開けを告げるような映画を多く観たような印象です。また新しい一年が始まります。それではみなさん、良いお年を!

 

 

 

殺し放題12時間!/『パージ』&『パージ:アナーキー』

 

世の中には「変な法律もの」というジャンルがあります。スティーブン・キング死のロングウォーク』とか、その影響を色濃く受けている『バトル・ロワイアル』、『ハンガー・ゲーム』、山田悠介の小説などなど、枚挙に暇がありません。国の偉い人たちがめちゃくちゃな理屈からめちゃくちゃな法律を施行して、それに振り回される恐怖を市井の人々の視点で描くのが主流だ。そんな「変な法律もの」に新たなる息吹が。『パージ』シリーズの登場です。

 

 


 

 

『パージ』

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舞台となるのは経済崩壊後「新しいアメリカ建国の父たち」と呼ばれる人たちによって統治されている2022年のアメリカ。「パージ」とは「浄化」を意味し、1年で一晩(12時間)だけ全犯罪が合法化することで国民のフラストレーションを発散(犯罪率の低下が目的)させたり、非常時に自分の身を守れないような低所得者や路上生活者などを間引くことによる貧困率の低下を目論むとんでもない法律。人々はその日になると暴力行為のために武装したり、暴動に巻き込まれないよう自宅を厳重に施錠したりして過ごす。そんなパージ当日、富裕層の集まる一帯に住んでいるイーサン・ホークもまた豪華な自宅を万全のセキュリティで防護して家族と一晩のんびり過ごそうとしていた……。

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防犯カメラのモニターを眺めるイーサン一家。手前の少年は長男です。

 

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こちらは長女。歳上彼氏との交際を反対されているためパパとは喧嘩中。

 

しかし!パージが始まるやいなや、防犯モニターを眺めていた息子が逃げ惑う浮浪者の男を発見。泣きながら助けを呼ぶその姿にいてもたってもいられず、防犯システムを一時解除。邸内に招き入れてしまうのだった。倫理的には大正解でも、家族を守らなければならないお父さん的にはとんだアクシデント。なんてことをしてくれるんだ……。

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「ごめんなさいパパ……」と反省した様子ならまだしも、この長男、「ぼく間違ってないよね?」という態度でなかなかウザい。

 

招き入れた男をどうするか迷っているイーサン。このままじゃこの家が暴徒に襲われてしまう。混乱と不安でおろおろしていると、そこに突然娘の彼氏が登場!

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「死ね!!!」

 

なんと娘の彼氏、交際を反対されていたことを根に持っており、パージに乗じてイーサンの殺害を計画していたのだった。娘の男を見る目のなさにパパ号泣。16歳巨乳女子校生と付き合っていることを漫画化した34歳のオタクのように、「歳下女と付き合う男は色々と伴っていない」という偏見を強化させるようなダメっぷり。『親父の一番長い日』を百回聞いて反省してほしい。

 

バカ彼氏と撃ち合っているうちに、招き入れた浮浪者がいなくなってしまいもう大変。トラブルは矢継ぎ早にやってくるのだった。外を確認してみると、我が庭に銃器や刃物で武装した集団がわらわらと入ってくるではないか。

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ドキドキ……

 

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「こんばんはー!」

 

今年の10月末にも渋谷でたくさん見かけたような人たちがドアの前に立っている!彼らはマスクで顔を隠し正装に身を包んだ姿で挨拶をする。

「ども!ご自宅を拝見する限り、あなた様も僕らと同類のようですね。そんな貧乏人かくまってないで、早々に差し出してください。タイムリミットは、僕らがこのドアを破壊する道具を用意できるまでです。ワハハハハ!

馬鹿な大学生じみた集団はそう言い残すと庭でわいわい遊びだす。やばい!急いで浮浪者を探さなきゃ!かくして一家は、自宅内でかくれんぼを始めた浮浪者を探すことにするのだった。

 

 

 

パージという規模のでかい舞台設定を背景に、恐怖の一夜を過ごすこととなる一家に焦点を当てた今作。こじんまりとした話ではありながらもスリリングな展開のつるべ打ち。こういうパニック映画では半ばお約束である「あ、テメエ!余計なことしやがって!」という場面も多々見られますが、85分という短さに免じて目をつぶりましょう。「とはいえ、人助けはいいことだ!」と感じさせる展開もなかなかグッときます。

 

 

 

そして恐怖の一夜から1年後……

 

 

 

『パージ:アナーキー

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2023年アメリカ。今年もパージがやってきた!前作から一年後を舞台に、「今度は戦争だ!」と言わんばかりに無法地帯と化した都市部での地獄巡りを描いている。舞台が広がったため、登場人物も多いのである。

 

その①:親子

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ウエイトレスのエヴァは、父と娘の三人暮らし。来るパージに備え、住んでいるアパートの出入り口を施錠中。そんな中、父はこっそり部屋を抜け出し、表に停まっていた高級車に乗り込む。部屋で置き手紙を見つけたエヴァは、余命幾ばくかの父が富裕層のパージに身を提供するかわりに10万ドルを振り込ませる契約をしたことを知る。そんな……と悲しみに暮れる矢先、謎の特殊部隊に部屋を襲撃される。

 

その②:夫婦

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車で姉の家に向かっていたシェーンとリズの夫婦は、途中で立ち寄ったスーパーマーケットでパージに備える武装集団を見かける。おーこわ。早く行きましょうと先を急ぐが、道路の真ん中で車が故障。調べてみると何者かの手によって意図的に壊されていることを知る。スーパーマーケットにいたやつらだ……。残り数時間でパージが始まってしまう。目的地まで徒歩で向かうしかないのだが……。

 

その③:警察官

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自宅で銃器の用意をしている警察官のレオ。彼はパージに乗じ、飲酒運転で息子の命を奪った男への復讐を決行しようとしていた。改造車に乗って目的地へと向かう道中、彼は謎の武装集団に拉致される親子を目撃する……

 

 

人口密度の高い都市部でのパージはいったいどんな感じなの?というこちらの見たかったもうひとつのパージを描いたのが今作。画面奥を炎上した消防車が横切ったり、血まみれの女性が立ち尽くしているなど、ショッキングなカットの挟み方がなかなか気が利いている。ビール缶6本パックを引っさげて屋上でライフルを構えるおっさんや、改造バスに乗って爆走する男たち、オリジナルな宗教観をむき出しに高架でサブマシンガンを乱射するおばさんなど、明日からまた普通の生活に戻るとはとても思えないパージャーたちの描写もゴキゲンだ。中でも大型トレーラーに乗って移動し、拉致した住民を路上に並べてミニガンで一掃するオッサンが強烈。お金あるな~と思っていたら案の定なお方なので、権力への嫌悪感もどんどん沸騰。特設ステージまで用意された富裕層によるパージ・パーティーも催されていて、本当にうんざりだ。劇中でも、反パージ勢力によるネットでの呼びかけなどが描かれたりしている。

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パージが終了する朝の7時以降、この人たちはどんなテンションなんでしょうか。心配です。

 

そんな中、自らの目的があるにも関わらず出会った人々を助ける正義漢レオの活躍が熱い。劇中屈指の戦闘力で、迫り来るぶっ飛びパージャーを次々と撃退。そのくせ助けてもらっている側はギャーギャーうるさいしことごとく足を引っ張ってくるので、こちらも涙を禁じえなかったりする。

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一応前作との直接的なつながりはパージという世界設定以外にはあまり見られないのだけど、一人だけ引き続き登場する人物がいる。そのチョイスからも明らかだけど、このシリーズは「それでも助ける」ことを選択した人々をちゃんと肯定するし、そういう人たちは報われるべきだという倫理観が根底にあるので、安心して子供にも観せられるのだった。

 

 


 

 

ということでこの『パージ』シリーズ、監督は三作目も考えているらしいので楽しみですね。そういえばこれを書いていてふと思い出したんだけど、富裕層のパージに身を捧げたおじいちゃん、結局パージの残酷な側面として描かれただけで片付けられちゃってたけど、次回作ではちゃんとおじいちゃんの仇を討ってほしい。『パージ』、『パージ:アナーキー』と来ているので、プリクエルなんかにはしないで『パージ:アルマゲドン』とかにして、もう国家が壊れるところまで描くといいんじゃないでしょうか。悪い政治家とか悪い富裕層の頭が派手に爆発したりして……

 

 

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無職はBARにいる

 

 

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七尾旅人(TAVITO NANAO) "TELE〇POTION" (Official ...

 

ハロウィンにより無法地帯と化した渋谷で25歳の無職が警官をモデルガンで殴ったその日、警官を殴らなかった方の無職は高円寺にいた。高円寺フェスが催されていたので、友達とぶらぶらしてきたのだ。高円寺を訪れたのは今年の四月以来かもしれない。歩いていればなにかが起こる街として認識しているのだけど、今回もいろいろ起きた。

 

まず最新作『ラスト・ナイツ』のプロモーションを行っている紀里谷和明監督を見た。華があるというか妙に目を引く男の人だなと思って顔を見たらまさにその人だったのだ。でもぼくは紀里谷監督作を一本も観ていないので、後を追ったりはしなかった。最新作ヒットするといいですね、とは思った。

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高円寺駅周辺をウロウロしていると、仮面ライダーを見つけた。特定のポーズを取る際、スーツに付けられた電飾がピカピカ光るのだが、素肌にピカピカの模様を彫ったおじさんの登場で場は騒然。タバコと酒の匂いがひどいそのおじさんは、それからしばらくしてから再度見かけたのだけど、道端でバタンキューしていました。不摂政の極みにも耐えうる圧倒的なタフネス。凍死には気をつけてほしいものだ。

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それからも高円寺フェスを満喫するつもりでいたのだけど、友達がなんの脈略もなく触法行為に走り、どんな言い訳が飛び出そうとも有耶無耶にできないくらい、むしろ言い訳されればされるほど空気がみるみる最悪になっていったので解散。いつまでもずっと一緒だって思ってたのに……。ぼくはその後、沖縄の友達より高円寺で飲んでいるからお前もこないかとの連絡を受け、そちらに合流することとなった。

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場所は某BAR。いざ合流すると、落語家の友人と俳優志望工場勤務の友人のほかに見知らぬ顔が。その人は落語家の友人が大阪でお笑い芸人をしていたころの同期らしく、今年の七月に上京したとかなんとか聞いた。なんでも大阪の同期全員に嫌われたので東京に進出したらしいのだ。品川祐みたいなやつだったらどうしよう。ぼくに緊張が走る。

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とはいえそんな不安は杞憂に終わり、みんなで楽しくおしゃべりをした。BARのマスターに「君はなにしてる人なの?」と聞かれ、実家にいる両親のプライドのためにも無職とは言いたくなかったので、「作家志望です」などと、さもただものではないかのような顔をして言ってしまった。高円寺は文化の街なので「落語家」「芸人」「俳優志望」などと名乗っても「そりゃあいいね!」という受け入れられ方をするので素敵だ。ぼくもその仲間に入れてほしかったのである。

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文化の街の中心にあるBARだけにあらゆる情報が飛び交う。ぼくらが、男の人を愛せるようになれば人生の選択肢が増えて潤うのではないかという話をしていると某漫画家の方が現れたりした。某編集部の人間がかつてこのお店に来てあの新進気鋭若手直木賞作家の悪口を言っていたという話を教えてもらったりもした。なんとも刺激的だ。ぼくもよくTwitterなどで某部活やめる系作家への嫉妬の念を渦巻かせたりしていたので、「そりゃあ愉快だ」とその日一番の笑顔になった。「どんな悪口を言っていたの?」と質問してみると、友達は「いやあ……よくわかんないけどとにかくずっと悪口言ってた」とのこと。居合わせられたらどんなによかったかとぼくは悔やんだ。

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その後も話は弾み、「いきものがかりの聖恵ちゃんの顔は人々を対立させる」という話とか「人生で天才だと思える人に出会ったことはあるか」という話題について侃々諤々。天才と言われてもなあ……と思うぼくらに対して落語家の友人は自分の師匠を例に出し、「頭がとんでもなく良く、人のことを基本上から見ているので、相手に合わせてへりくだることも容易にできる」とか「ひとりの人間でそこまで出来るのかというレベルで物事を為す」みたいなことを言った。そりゃ君は芸事の世界に身を置いているんだからそういう人に出会える機会は圧倒的に多いし、日々成長って感じなんだろうねなどと思いつつ「天才か……。会ったことないけど橋本環奈かなあ」とだけ答えた。

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これは毎度のことなんだけど、俳優志望が酒の力によって言葉選びや他者への態度などあらゆる面で乱暴になってきたため、ぼくらはBARをあとにして始発までカラオケで過ごすこととなり、横になって眠ろうかとも思っていたのだが、落語家の知り合いである34歳経営者のお兄さんがハロウィンパーティーでたまたまカラオケ店に居合わせていたことから接待カラオケのような感じになって一睡することもできずに始発の時間を迎えることとなった。ぼくは「沖縄の気のいい兄ちゃん」的ノリが大の苦手なのだが、そのお兄さんも北海道出身でありながら沖縄の大学に通っていたらしくぼくら以上に訛りや方言が完璧で、ノリもまんま沖縄の青年会って感じだったため、改めてぼくは自分を見つめ直すことができた。ぼくは生まれ育った沖縄でさえうまくやれない落ちこぼれうちなーんちゅなのだ。自己嫌悪で人を殺せそうな気分だった。

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 朝の五時にみんなと別れ、早朝の高円寺をひとり歩く。ぼくはその日新宿で『バクマン。8:50の回を予約していたので、このままじゃ100%寝てしまうなと思いながら丸ノ内線に乗った。新宿のマックで三十分ほど仮眠をとってから映画を観たのだけど、面白かったので一瞬たりとも寝ませんでした。感想は以下のとおりです。絵はペイントで描きました。

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いまなんの脈略もなくふと思ったんだけど、朝井リョウの『武道館』でも読んでみようかな。 調べたところ、仕事の方は辞めてたみたいですね。ふーん。お疲れ。

 

 

 

小松菜奈という呪い。/『バクマン。』

 

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(Illustration by sakamoto)

 

バクマン。』を観た。大根仁監督の劇場用映画三作目となるそうです。記念すべき一作目である『モテキ』では女のためにあっち行ったりこっち行っする主人公が業界ノリな世界の中でヘラヘラしている感じにゲー!っとなったものの、続く『恋の渦』では監督の嫌味~な眼差しが物語に上手く作用していてかなり面白かったので気分はイーブン。で、今回の『バクマン。』。原作は大場つぐみ×小畑健の『デスノート』コンビが手がけた人気コミック。『デスノート』といえばロジカルな駆け引きのゲーム的な面白さが魅力ではあったものの、論破論破うるさい馬鹿なオタクが好きそうな大人げない話だと受け取っていたソリッドな感性のぼくは、同コンビの最新作と言われたところで食指も伸びずじまい。そのせいで今の今まで原作漫画もテレビアニメも一切見ていない状態だったのですが、信頼できる筋での映画『バクマン。』の評判があまりにも良かったのでサービスデイを利用して鑑賞。やられました。

 

信じられない数のアイディアを惜しみなく注ぎ込んで作られた作品で、至るところで気が利いている。冒頭に見せる週刊少年ジャンプの歴史からエンドロールの細かい芸に至るまで、あらゆる工夫が下地としてあるのでこちらも安心して物語にのめり込めるのだった。女の為に、という動機はあくまできっかけに過ぎず(最後までそのままだったら殺したくなっていたはず)、ライバルに打ち勝ちたいという思いから「漫画を描きたい」というエモーションに突き動かされる主人公たちには胸を打たれた。

 

ちなみにぼくも小学校五年のころに五ミリ方眼ノートに漫画を描き始め、ある程度たまったら友人に見せるということを繰り返していた人間だった。小六になると友達と一緒に自分たちのクラス版『バトル・ロワイアル』をスケッチブックに書き、クラスメイトをバンバン勝手に殺し合わせた上でそれを本人たちに読ませるという問題のある行動に出ていたし、中学に上がると今度は42人のオリジナルキャラを創作してまた『バトル・ロワイアル』を描き始めたのだけど、一緒に描いていた友達が中2で不良になったことを機に完結させるという目標は頓挫した。映画の劇中でも読者アンケートという残酷なシステムにより打ち切りになった漫画家であるおじさんのエピソードが出てきたが、ぼくはそのシーンを観ながら友達が不良になってしまったことを思い出したのであった。

 

役者陣の好演も印象的な今作。原作との印象が違う、と原作ファンが叫ぶ声を耳にしたりもするが、映画化に併せて調整したということなんじゃないかなと思うくらいに、一本の映画として観ている分にはなんの不満もなかった。実際には取材を断られたらしい連載会議のシーンなんて、俳優たちの演技による説得力で「こんな感じなんだろうな」と思わせてくれるところが素晴らしかった。

 

そしてなにより小松菜奈。映画『渇き。』では、関わる者すべてを闇に引きずり込むファムファタールを演じていた彼女だったけど、今作ではギャグっぽいくらいシンボリックなヒロインを演じており、とても可愛いなあと思いました。彼女が出てくるシーンでは決まって背景などがぼやけているので、もしかすると主人公の妄想の産物なのかもしれないとすら思えるところが“小松菜奈”力なのではないだろうか。

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まるで透き通るようだ

 

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はやく『富江』を撮ってくれ

 

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暑いのかな……

 

そんなこんなで映画『バクマン。』、すごく面白かったです。ほぼ徹夜状態での朝イチ鑑賞だったにも関わらず、一切寝落ちしなかったのはこの作品の持つ力に引っ張られたからだなのではないでしょうか。いや、そうに違いない。人によっては、この映画を観たあとは多幸感に包まれながら「なにかを作りたく」なるかもしれません。いや、そうに違いない。

 

大根仁監督の次回作にもご期待下さい!

 

 

 

 

正気でなんかいたくない!/『ハッピーボイス・キラー』

 

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『ハッピーボイス・キラー』を観た。『デッドプール』の公開も控えるライアン・レイノルズがちょっぴり変わった好青年、のような人を演じているっぽいぞ、くらいの予備知識だけで観たのだけどこれが本当に良かった。どれくらい良かったのかといえば、ぼくが映画のオールタイムベストを挙げる際に『パニッシャー:ウォー・ゾーン』に次いで名前が浮かんでくるあの大傑作『スーパー!』を思い起こしたくらい良かった。個人的に感銘を受ける類の映画だったのだ。なにに感銘を受けたのかというと、間違ってしまった人、それゆえに幸せにはなれなかった(ように傍からは見えちゃっている)人への優しい眼差しが感じられたのだ。

 

バスタブ工場で働く真面目な青年ジェリーはちょっと変。定期的に精神科の先生のもとへカウンセリングを受けに通い、自宅に戻れば口の悪い猫と慈悲深い犬と楽しくおしゃべり。もちろん犬猫が人間の言葉を話すわけないので ジェリーはなんらかの精神疾患に罹っている様子。まあいいんだそれは。今のご時世、珍しい話じゃないし。そんなジェリーは事務の女の子、イギリス生まれのフィオナに恋をした。社内パーティーで『Sing A Happy Song』に合わせたコンガ・ラインの場面なんて多幸感でいっぱいだ。勇気を出して食事に誘ったりとアプローチをかけてみるジェリーだが、そんなある日、予期せぬ事故が起こってしまうのだった。

 

主人公のジェリーは幼少期に大きなトラウマを抱えている。心を病んだ母親とそんな母親を煩わしく思う粗暴な義父との間で不安に苛まれ続けていた。彼はいまでこそ明るく振舞っているように見えるが、結局精神を病んだ状態は継続している。むしろ、正気のままじゃやっていられないのである。彼は薬の服用を意図的にやめており、脳内の天使と悪魔よろしく挑発する猫と牽制する犬の声に耳を傾けている。一度薬を飲んでしまえば犬や猫は言葉を発しなくなるし、糞尿やゴミにまみれた不潔で薄暗い最低な現実が目の前に突きつけられてしまう。

 

一度の過ちからズルズルとんでもないことになっていくジェリーだったが、正気じゃない彼の目から見た世界には悲壮感などない。露悪的なほどポップでキュートな世界で彼は歌い、笑い、愛し、悩み、時には涙するけど、現実というものは本当に足が速いのでそんなジェリーにもあっさりと追いついてしまうのだった。そんな彼が迎えた「ハッピーエンド」とそこに溢れる多幸感、並びに作り手の優しい眼差しにははじめこそ呆気にとられこそすれ、ぼくは馬鹿みたく泣いてしまった。この映画を観て改めて、主演がライアン・レイノルズなら『デッドプール』も心配ないなと思えた次第。こんなにも愛らしい「7:30」(『誘拐の掟』より)を演じられるのなら、好きなだけ暴れてくれって感じだ。しばらくThe O'Jaysの『Sing A Happy Song』が頭を離れなくなった。いまでもしょっちゅう聴いています。名曲。

 


The O'Jays - Sing A Happy Song (Philadelphia ...

いいから殴りたい

 

神様! 仏様! かんな様!

ちっちゃいけど、態度はデカイ!

橋本 環奈

 

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Gnarls Barkley - Crazy - YouTube

 

もはや死体と区別がつかない。尋常じゃない睡魔に襲われ平気で何時間も寝てしまうし、あれやりたいこれやりたいと思いこそすれ、いざ実行に移すと脳みその真ん中にある拳大の鉛が急に重みを持つかのように愚鈍になる。こうやって「なにも捗らない」の一言で済むことを長々書き連ねるくらい馬鹿。アホ。短気。ごうじょう。どん感。どじ。人とか殴りたい。でも痛いのも責任を負うのも嫌。そんなぼくは今月発売の「新潮」を書店で立ち読みし、新潮新人賞の最終候補者名簿に自分の名前が載っていないことを確認して「死ね」とつぶやきました。今年の二月、帰省していた大学生の弟から聞いた話を参考にしつつ、自分が大学生だった時から温めていたアイディアを煮詰めて書いた小説だったのに、と悔やむのも無駄なのだ。ふざけんなという思いを忘れず、自分の本当にできる範囲で出し惜しみによる遅延を避け進み続けるしかないのだ。ほぼ死体ながら。

 

先週『アントマン』を観た。べらぼうにゴキゲンだった。ぼくは幸いにも大学時代にMCUの世界に触れていたので、新作が発表されるたびに心が踊り、同時にとてもリラックスした状態にもなれるんだけど、『アントマン』はここのところの流れとはまた違った飄々とした態度の中にしっかりしたクオリティが保たれていて、そこがとにかくカッコよかった。シリーズのスケールが異様な広がりを見せるなら、ミニマムな話だろうと主人公を小さくすることででスケールを演出すればいいというスマートなアイディア。天才。こういうカッコよさに憧れてしまう。

 

先々週、あるいは先先々週かもっとまえの土曜日、沖縄出身の同級生があつまる飲み会が新宿で催されたので参加してきました。落語家がいたりバンドマンがいたりお笑い芸人がいたり鬱病がいたり無職がいたりと非常にバラエティ豊富な飲み会。参加メンバーが多種多様であっただけで、特別なにがどう楽しかったとかはなかったけれど、結局みんな始発まで過ごしました。同級生の誰が誰と結婚したとか、誰が逮捕されたとか、そういう話が一番盛り上がるような歳になってしまったことを痛感した次第です。

 

最近、平山夢明の小説を読み返していて思ったのですが、この人は本当に「厭な人」の描き方が神がかっていると改めて感じ入りました。ヤクザ、不良、クソガキ、毒親、教養水準の低い田舎者、キチガイなど、多種多様な「厭な人」を謎の実在感を維持したまま描けるのは才能としか言いようがありません。いまは平山夢明の「厭な人」テクニックの習得に向け、著作を読んではメモを取ったり、駅前までフィールドワークをしたりしています。いまのは嘘だけど、平山氏の『しょっぱいBBQ』と『無垢の祈り』は何度も読み返し「すげー」とつぶやいています。『無垢の祈り』は短編集『独白するユニバーサル横メルカトル』に、『しょっぱいBBQ』はこのブログでも紹介した短編集『他人事』に収録されていますので、ぜひ読んでみてください。

 

sakamoto-the-barbarian.hatenablog.com

  

ある日突然謎の能力を手に入れた主人公が公安や過激派やヤクザや殺し屋に追われながらクラス会に出席するべく居酒屋に向かうという話を1日で書き上げようと着手してからもう三週間ほど経ちました。なにも思い浮かばないというよりは書いていて楽しいから広がるだけ広げてストレスなくずっと浸っていたいと思っただけで、射精を我慢してずるずると間延びするオナニーにとてもよく似ている。低賃金で働く人々が副業で殺し屋をやっているという設定にしたり、女子大生が風俗でバイトしちゃうような感覚で殺し屋やってるとか、そういうことを考えながら街を歩いているときは最高に楽しくいそいそしてしまいます。実家に電話しなきゃなあとかも、たまに考えます。

 

近所に「おさせ」と名付けた人懐っこい野良猫がいるのですが、こいつが本当にかわいい。野良猫界のマーゴット・ロビー。すっかりぼくに懐いてくれているので、おさせの前を通りがかるだけで、向こうから走り寄ってきてくれます。しっぽの付け根を執拗に撫でることで、おさせが身をよじったり地面にべたーっと伸びながらニャンニャン鳴く様を眺めるのが心から楽しい。たまに興奮してなのか爪を立ててきたり甘噛みしてくることがあるんだけど、猫に詳しくないのでなにを言いたいのかはわかりません(意図せずしっぽを踏んだときは本気で噛み付いてきました)。おさせの生息するエリアには、毎日決まった時間に猫に餌を与えにくるおばさんが現れるのですが、その人が現れるや否や、おさせはぼくを置いて餌を食べに飛んでいってしまいます。ああいやだ。自分に価値があると信じて疑わない人間みたい。そういうときのおさせは、本当に薄汚い野良猫にしか見えない。実際、清潔ではないのだろうが。

 

そんなこんなでここ数日、体調の優れない日々を過ごしていたのですが、いまはなんだかすこぶる元気。鶏肉を食べたことによりセロトニンが分泌されたことが理由だと思います。こういうことを忘れずに、次回もまた鬱屈とし始めたら鶏肉やカレーを食べ(チキンカレーなら尚良し)運動をしようと思う次第です。あと今気づいたんですけどこの記事が100個目の記事になるらしいです。そんなに書いてきたのか。みんな、いままで読んでくれてありがとう!これからも名伏し難い思い、綴っていくぜ!いま一番ムカつく俳優は三✕春✕。落ち着いてください。本当に嘘です。

おれたちゃパジャマがユニフォーム/熱血治験レポvol.1

 

 


Radiohead ~ You And Whose Army (Kingdom of ...

 

金が必要なのだ。虎の眼で東京の街をさまよい歩くぼくは、職なし金なし希望なし。何が正しいのかを判断する利口な脳みそも持ち合わせていないため、衝動的に人を殴り、殴られ、女を抱いた。こんな日々いつまでも続くはずがない。西村賢太の小説を読みながら恵んでもらっている布団の上で丸くなれていることに感涙しつつもこのままじゃダメだ、もうあの手を使うしかない、そう思い喜んで禁忌へと飛び込むことにした。上等だよ。おれは健康優良モルモットだ。

 

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①治験情報紹介サイトに登録

ぼくはまずインターネットで「治験」と検索した。世の中には治験の情報を紹介してくれるサイトがあるらしいので早速登録。ここで登録料なるものをとるサイトもあるようだけど、ぼくの選んだサイトではそんなものはなかった。タダで紹介してもらわなきゃ、モルモットになる意味がない。

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②治験情報紹介サイトから病院を選出

そもそも治験は「どこで行われているものなのか」を知らなければならない。大手製薬会社が市販する新薬のテストをしていたり、既存の市販薬の更新を行うためにテストをしたりなどもあれば、医療現場において薬の効果などのデータを取る際にテストを行うなど様々だ。ここでぼくは気になった実施団体を片っ端からネットで検索し、評判をチェックしてみた。その中で入院中の生活の様子など、なんとなくイメージを固めることもできるのだ。ぼくは評判の良かった医療法人の行っている治験にメールによる申し込みを行った。もちろん人数によっては選考から漏れることもあるのだけど、同時にいくつかの治験を行っている場合がほとんどなので、こちらの希望を伺いながらそれらのうちどれかに食い込めたりもする。2日ほどすると病院側から電話があり、ぼくは希望したやつとは違う治験に参加することが決まった。

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③事前の健康診断

 薬を試す上で、健康状態は重要である。ぼくははるばる治験会場でもある病院へと赴き、健康診断を受けた。身長体重から血圧、尿検査、心電図、採血といった感じだ。前日は夜の九時から絶食。大量の水を飲むよう指示があり、当日の朝も空きっ腹に2リットルほど水を飲むように言われていた。恐らく血がサラサラになるのだろう。看護師さんは若い女性が多く、ぼくは血圧で引っかかってしまった。「緊張してますか」と腕を揉んでくれる看護師さんに対して、頬を赤らめ乙女のようにウブな気持ちになった。この日は健康診断に併せて、治験で使用する薬の説明がある。冊子を渡され、どのような目的か、どういった効果がある薬か、副作用はあるのか、謝礼はいくらなのかなど丁寧な説明がなされる。ぼくが服用する予定の薬は、血中のなにかを上げるか下げるかする薬だった。副作用といえば、やや下痢っぽくなる人が出たり出なかったりと、そんな感じだった。日程は4泊5日を2回。通院1回。説明を受けながら、首の関節と拳を鳴らした。

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④入院までの日々

健康診断で無事に通過したかどうか、後日病院に確認の電話を入れなくてはならない。ぼくはなんと血液検査で引っかかってしまったので、再検査に赴いた。健康診断前は筋トレをするなと言われていたのに、ダンベル運動をせっせと行っていた結果が血中に現れていたのである。再検査をなんとかパスしたぼくはいよいよ入院に向けて身体づくりを始める。脂っこいものや塩分糖分を摂りすぎず、酒もダメ。カフェインも控えるように言われ、飲み物といえば水か麦茶。動物性タンパク質を摂りすぎることにより血中のなんとかが上がることも避けなければならないので、とても健康的な生活を送ることとなった。

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⑤入院当日

ぼくは入院生活に備えてあるものを用意した。それは古本だ。読みたいと思っていた本を買い込んで、日がな優雅に読みふけろうという算段だ。それからパソコンも持込み、創作活動にも勤しんでやろうと思った。結果、荷物は重くなった。本もパソコンもかさばって鬱陶しい。ちなみに入院中はむこうが用意してくれるパジャマに身を包むので着替えは行き帰り分持っていれば問題ない。そのかわり下着は山ほど持っていった(もらすかもしれないと不安だった)。

当日もぼくは水だけを摂取し、病院に到着して早々に尿、血液、血圧などを検査する。ここで引っかかったら当日帰宅を余儀なくされたりもするらしい。ぼくは問題なかったのでそのまま病室へ。部屋は共同。まずベッドにいくと用意されていたパジャマに着替え、番号の入った札を首から下げ、スリッパで院内を移動。スケジュール表が壁に貼られているので、それをチェックしながら空いている時間は基本好きに過ごさせてもらえる。もちろん運動はダメだけど、院内には漫画も数多くあるし、談話室的なところにテレビもあるので、時間はいくらでも潰せるのである。

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⑥入院生活

ぼくはとにかく持参した本や漫画を読み漁った。漫画で言えば『新宿スワン』を読んだ。『うしおととら』も読んだ。あとは適当にいろんな漫画の1、2巻を読んで次といったスタイルですごしていた。驚くべきことにゲームまである。プレステ2で『バイオハザード4』をプレイした。でもメモリーカードがないので、進んだところでセーブはできない。刹那的な遊び方である。

食事はお弁当が支給される。栄養バランスが計算されているので残すことは厳禁だが、おいしかったので問題はない。お風呂は予約表に記入して入るシステム。一人30分。洗面台はずっと解放されているので、顔はいつでも洗い放題だった。

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⑦薬

2日の朝に薬を飲んだ。粉薬で、決められた分量を残すことなくきっちり水で飲み下し、その後、何度も採血を行った。同じところに針をブスブス刺すわけにもいかないので、プラスチックの細い管を血管に刺しっぱなしにし、そこに通したチューブで定期的に血液を採取することとなった。ぼくは自分の血がチューブを出入りするさまを見ていると気分が悪くなったけど、見なければいいだけの話だ。前かがみになった看護師さんの垂れた前髪の揺れを眺め、ぼーっとすることに専念した。ぼくは末端冷え性なので、血の出が悪くなることが多々あり、その都度看護師さんに腕をもんでもらっていた。でも血管に管が刺さった状態で揉まれるとなると、素直に喜べるわけでもなく、ずっと平静を装っていた。生理食塩水でチューブ内の血液を押し返す際のひんやりした感覚は気持ちよかった。

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⑧謝礼

謝礼には様々な受け取り方がある。まず健康診断に赴くだけで交通費3000円が手渡しされる。お金をもらって健康状態を確認できるので、これだけでも素晴らしいことだ。

また、一度目の入院期間が終了し、退所する際にも10,000円が手渡しされる。残りは二度目の入院終了の際に、事前に伝えておいた口座に振込まれるといった手はずだ。もちろんこれは治験内容によって様々ではあるが、結果としてぼくは計10万近くの謝礼金を受け取ることができた。その間のぼくはというと、本を5冊読み切り、数々の漫画の冒頭部に触れ、たっぷり睡眠をとるなど、超健康的な生活を送っていたのである。

 

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ざっくりとここまで書いてきたが、以上がぼくの体験した治験の現場である。治験に参加したいけどなんだか怪しいので迷っている、そんな誰かの参考になれば幸いである。お金をもらって健康診断を受けるという最初の部分だけでも十分お得だと思うので、ぜひお試しあれ。ちなみにぼくは副作用か、女性に対してちょっと怒りっぽくなりました。

 

 

 

はい。私は向上心が高く、仕事の覚えも早い人間です。/『ナイトクローラー』

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『ナイトクローラー』を観た。主演はあのジェイク・ギレンホール。昨年公開されたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の傑作『プリズナーズ』では事件の謎を負う「刑事」を演じるにあたり、チック症やフリーメイソンの指環、タトゥーなどといった設定を独自で付け足したとか言われている男だ。実際、本筋には直接関わりのないそれらの要素が、映画により濃厚な闇や物語の象徴性を漂わせることに成功していた気がする。そんな彼が一人二役で主演を張った同監督の『複製された男』にもガツンとやられたぼくはもうジェイク・ギレンホールに首ったけ。『デイ・アフター・トゥモロー』に出ていたことはすっかり忘れていたけど『エンド・オブ・ウォッチ』も最高だったし、なにより最新作の『ナイトクローラー』の予告で見せる気味の悪いギョロ目ルックもたまらない。これまた頼まれてもないのに12キロも減量し、一週間寝ずに過ごしたあと撮影に臨んだとか言われている。死ぬぞ!すごいけど早死にだけはしないでくれ。


映画『ナイトクローラー』予告編 - YouTube

 

主人公、ルイスは無職。偶然なことにぼくも無職であるからか、この時点でつい身を乗り出してしまった。彼は銅線などを盗んで販売することで生計を立てている後藤祐樹のような男。そんな彼が高速を移動中に、交通事故現場に遭遇する。そこにはカメラを持った男がいて、警察が怪我人を救出する姿を撮影していた。その男は報道専門のパパラッチa.k.a.ナイトクローラーで、「それって儲かる?」と訊ねるルイスに「儲かるぜ!」と男は返した。これだ!ピンときたルイスは盗んだ自転車を質屋に売り、その金でカメラと無線機を買う。警察の無線を傍受し、事故現場を撮影していく。刺激的な映像が撮れれば大金持ちになれるぞ!かくしてモラル無き無職のアメリカンドリームが、いま幕を開ける。

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今作の主役、ルイスは完全にサイコパスだ。人当たりだけはいい信用ならない笑みを終始浮かべ、ペラペラとどうでもいいことを捲し立て、欲しいものを手に入れるためなら手段を選ばない。後悔や反省とは無縁で、自尊心がすこぶる高く、Facebookに蔓延るような胡散臭い自己啓発文を暗唱し、わからないことはなんでもネットで調べる。ネットさえあればなんでもできる。ネットでわかることにしか用はない。彼にはそれで充分なのだ。

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身近にいたら絶対に迷惑なはずのルイスだけど、夜のLAを走り回る彼は残酷なまでに魅力的だ。安物カメラを片手に、車を飛ばし血まみれの犯罪被害者を接写する。テレビ局に売り込みに行けば、熟女プロデューサーがアドバイスをくれる。

「被害者は貧困層マイノリティじゃダメ。富裕層の白人が一番よ」

自らを「覚えが早い」と豪語するルイスは即ガッテン!夜のLAを徘徊し、数々の不幸にカメラを向ける。画的にショッキングであれば問題ない。ライバルパパラッチに先を越され悔しい思いをしても自分の信念を曲げずに邁進。そのモラル無きゆえの快進撃に不謹慎な高揚を覚えてしまうのも確かだ。自宅でコメディ番組を観るルイスが、オチからワンテンポ遅れて大袈裟に笑うシーンには寒気を覚えるが、それでも彼が次にどんな恐ろしい手を使うのかどこかで期待している自分がいる。彼には迷いがない。後ろめたさにもたつくこともない。目標への最短距離をあっさり選択してみせる。たとえそこに他者の不幸が多分に含まれていようとも躊躇なんて微塵も見せない。ルイスはみるみる衝撃的な映像を撮影し、周囲からの評価を得ていく。この世界は、彼のような人間が出世するには最適の場所なのだ。多くの欺瞞に目くじらをたてるのではなく、共犯関係に身を置くことこそ成功への近道なのかもしれない。そんなクソみたいな話信じたくはないけど、この映画はこの世界におけるそういった気の滅入るような真実を強烈に皮肉ってみせる。そこにまた不謹慎な高揚が伴っているのも心憎い。ルイスの目の前でショッキングな出来事が起こるたび、ぼくも恐ろしく興奮した。ラストに待つ展開なんて、わけもわからず涙が溢れてきたほどだった。

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おそらく本作は今年を代表する猛毒エンタテインメントになるので、現在無職でFacebookの友人の投稿に心を折られている人なんかはこの『ナイトクローラー』を観るといいでしょう。また、ブラック企業に勤め、「上の考えてることがわからない。最悪だ」と思っている人も、敵の側面に立って世界を観ることができるという意味でも『ナイトクローラー』を観るといいでしょう。現在の日本には上記二種類の人間しかいないので、みんな『ナイトクローラー』を観るといいでしょう。みんなもそろそろ、モラルが邪魔だと思っていたころでしょう。

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