MidnightInvincibleChildren

自分、帰宅部っす。根性には自信があります。

 


去年書いた2万字くらいの短篇をブラッシュアップしている。正直そんなに捗っていない。そういうものほど頭を占めがちで、興奮と焦燥が交互に押し寄せている状態が続く。


それでも「ふとした拍子」としかいいようがないタイミングで、案が湧いてくる。まだ力むことへの懸念があって、力を抜いたからこそたどり着いたんだろうな、みたいな話をたくさん書いていきたい。かっこつけたい。そういう欲は持っていたい。


更生保護のことを勉強したくて『すばらしき世界』を観た。刑務所から出所するまでの事務的な流れを描く冒頭から、のめりこんで観た。役所広司、声張るとなにいってるかわからないときがあるが、うますぎる。主人公であるヤメ暴ブチギレ男に、決して冷たすぎない(十分とはいわないが)世界の描き方の塩梅がよかった。はじめて仲野太賀が良すぎるとも思った。居場所を求める男の目から見たこの世界。あのラストは、いまの僕としては鼻白むものではあったけれども。

 

『東京都同情塔』で芥川賞をとった九段理江の前作『School girl』を読んだ。表題作は、どこかミニマムなようでいて底しれない感触が残る。良かったけどよくわかっているわけではない自覚はある。併録されたデビュー作『悪い音楽』は最高だった。生徒を猿だと思っている中学校の音楽教師ソナタの話です。韻も踏みます。笑えます。


ネット上のライフハックをすぐ信じるのでペペローションを使ってヒゲを剃ってみた。ヒゲが濃くて範囲も広い。でも肌はそんなに強くない(最悪)。ぺぺは軽すぎてうわ滑っている感じ。水ですぐ洗い落とせるという企業努力が、髭剃りには向かなかった。僕的に、弱酸性の洗顔フォーム(ペースト状を直塗り)が一番で候。


呉勝浩の『爆弾』を読んだ。ずっと読みたかったが、分厚いからともったいぶってしまった。いざ読み始めると2日で読み切ることができた。楽しい。高校のころ、かっこつけで挑戦した純文学がついにわからずエンタメ小説に切り替えたときのリーダビリティへの興奮が蘇ってきた(どっちが良いとかじゃないよ)。酔って人を殴った容疑で取り調べを受ける「スズキタゴサク」を名乗る中年男性が、これから起こる爆発について語り始めたことで、東京中をパニックに陥れる大事件の幕が上がる。このスズキタゴサクと名乗る男の食えなさがたまらない。事件の全貌は?目的は?そもそもおまえは何者?二字熟語系タイトルかつ人間のダークな面を描く作品なので、川村元気あたりがプロデューサーとして関わって東宝あたりが映画化しそう(『告白』『悪人』『怪物』…)。僕は劇中の描写との乖離こそあるが、スズキタゴサクにトム・ブラウンのミチオを当てて読んでいました。


芸人のミナミカワが昔映画館でアルバイトをしていたとき、東宝社員である川村元気がシフトを作っていたらしい。


Netflixで『バッドランド・ハンターズ』観た。マ・ドンソクのパワーとスピードが合わさったアクションやばすぎる。更には『ザ・レイド』オマージュをふんだんに盛り込んだ廊下バトル。見応えが凄まじいものになってしまった。マ・ドンソク演じる主人公も世紀末用の倫理観なのでショットガンに鉈と、一撃必殺スタイルなのも気持ちいい。ちゃんと強いボスキャラとの一騎打ちもある。一方でこの映画の敵に関する「設定」のあれこれはあんまり好きじゃない。なんだかんだ一番のおもしろポイントはこれが『コンクリートユートピア』と同じ世界の話だということだと思う。


YouTubeで理容室で施術されてたり、マッサージを受けている人の動画をよく見る。海外だと首がもげるんじゃないかってくらいに頭皮を揉みまくるものとかあって楽しい。頭のマッサージをしている最中、急に両手を叩き合わせて「ボンッ!」とか音を立てたりすると嬉しくなる。マッサージ業界にはタップ音文化がある。髪を逆なでするのは本当に気持ちがいい。生活のなかで、体中の滞っているものが急に許せなくなるときがあります。


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永野のラジオ聴いてたら年末の仕事が最悪だったという話をしていた。午前中のしごとで会場にはファミリー層もいたのに出演者(ホスト側)のひとりが泥酔したまま登壇、女性器の別名称を連呼、舞台裏でもその感じだったのを見ていたので「◯◯(運営側)の発展のためにこいつをクビにしろ!」と会心のツッコミを入れたらその出演者が激怒。凄まじい声量で罵声を飛ばしてくる。イベントを進行している最中もずっと睨んできていたので、永野は司会者に挙手し、怖くて言葉が出ない旨を申告。すると相手はさらに怒ったのでそのまま歩み寄り、なだめつつ、ハグをした。すると相手の機嫌が良くなり(機嫌良くなってなお女性器の別名称を連呼)、お客さんもいくらか安心した様子のままイベントは終了。泥酔していた人から「すいませんでした、観たことあるかもしんないっスけど、全然どういうネタとかはわかんないんで、全然わかんないっす」と謝罪。運営側もヘラヘラした様子で「すみませんでした、なんかうちのが」と話しかけてきたので永野も怒る気にもなれず終わらせようモードで切り抜けて帰宅。

 

「年末」「泥酔」「ガラ悪い」「運営もヘラヘラ」という情報から、たぶん格闘技係のイベントだろうと予想した僕は早速検索。すぐ見つかりました。嫌な世界~~~。その後永野は「結婚式に疑問を感じている」というリスナーメールを読んでまたスイッチが入っていた。いい回でした。

永野③#8「年末の最悪な仕事」 - 芸人お試しラジオ「デドコロ」 | Podcast on Spotify

 

永野のいう「アメリカのおもちゃを愛でてる芸能人(成功者のこと)」っていまいちピンときていない。

 

GUで胸ポケット付きヘビーウェイトロンTが990円になっていたので2枚買った。

 

化繊のものは化繊、綿のものは綿で合わせたほうが静電気は起きにくいらしい。

 

覚えて帰りな。

 

 

 

へべれけの全母音=E

 

 

 

外が騒がしいなと思って窓を開けるとアパートの別の部屋から煙がもくもくと上がっていた。一定間隔で鳴るアラームも聞こえる。住人らしきひとが電話している声も聞こえるので耳を澄ませると、スピーカーで通話していて、対応するオペレーターの声も同時に聞こえてくる。かけてる方も受け手も冷静な口調だったのでちょっと安心した。煙はすぐに落ち着いたが、遠くからサイレンの音が響いてきて、すぐに重装備の消防隊員が何名も現れた。みんな「もう火は消えてる?」とか「たしかに煙の臭いはあるな」とか話しながらもやっぱり落ち着いた様子だったので、さらに安心した。僕はそのまま窓をしめて、コーヒーを入れました。


静電気に悩んでいる。去年の冬と同じ服着ているのに、今年のほうが静電気がひどい。体内の水分不足?小さいころ、おばあちゃんが綿100の服をやたら持ち上げていた理由がわかった。

 

Amazon Primeで『レッド・ロケット』を観た。結構笑った。風景がずっと美しかった。起こっていることの薄っぺらさ、残酷さとの振り幅でめまいがする。そんなめまいも映画の醍醐味な気がした。時間が経てば経つほど染みる予感がする。

 

Twitter(現X)を控えている。年末年始に連続してつらいニュースが続き、それと連動して見たくもないもの(見る責任すら生まれようのない恥ずべきゴミ情報)が飛び込んでくるようになった。そういうものを一度目にすると、気分を挽回できるような別の刺激を求めてスクロールを続けてしまう。結果、また別種の露悪を浴びる。ロボットコピペにも気が沈む。その瞬間に過ぎ去ったわずかな時間に謝りたくなる。

 

食後スクワットは続けている。

 

Twitter(現X)を控えている。大好きなある人物が、最悪人間*1とツーショットを撮っていた。おれ馬鹿だからよくわからねえけどよ……各々にブランディングってものがあるらしいな。つまりビジネス上の関係もあるんだろう。なので僕の目には入らないようにした。それだけだ。思い入れというエゴを振り回しているだけかもしれない……そんな自問は尽きないが、この心の面倒を見ることは僕にしかできない。

 

痩せたい痩せたい思わなくなってから、顔がちょっとだけシュッとしてきた。

 

右肩ずっと痛い。

 

政治家は羞恥心のない人間には就けないものにしたほうがいい。

 

しかし権力が羞恥心を感じにくくさせる可能性もある。権力と羞恥心の関係性、熟考。

 

「令和米騒動の足音を聞けい!」

 

芸人もお笑いも大好きだけど、見てて疲れることのほうが増えてきた。

 

元気になりたい。

 

ドラマ『アトランタ』にハマっている。何年も前から楽しいとは思っていたけど、1エピソード観て満足して数ヶ月寝かせる、みたいなリズムで過ごしてきた。Chillと猛毒の塩梅がたまらない。アーンもペーパーボーイも、心から楽しんでいるような瞬間がないように見える。

 

綿100%のボクサーパンツほしい。

 

ヤーレンズのANN楽しかった。出井さんのnoteもいい。楢原さんはアベノマスクずっと使っていたのでヤバい人だと思っている。

 

芸人を好きになるのが怖い。

 

対話は重要だと思う。

 

気力も体力も足りない。いろんなことに気力や体力を奪われている感覚がある。僕が何らかの支配を行うとするならば、対象から対話する機会を奪うだろう。

 

たとえ地面にのびた状態でも対話をやめずにいたい。

 

最近の永野を普通に楽しんでいる。

 

『チャンスの時間』観てたらノブが『コンビニ人間』について「直木賞」とコメントしていたので被せるように「芥川賞」と叫んだ。

 

自分を捧げない戦い方をしたい。

 

楽しながらいろんなことを良くしていきたい。

 

アラームかけずに寝た日は、肌の調子がいい。

 

 

 

 

 

 

*1:冷笑ミソジニストの虐殺煽動クソラッパー

短篇『くすけえ』

 

 

 

 

 

※下記はコンビニプリント用ZINE『Midnight Invincible Children Vol.Ⅳ』(2023.12.29~2024.01.05)に収録されたものです 

 

 

 

 

 

 

比嘉原城跡(ひがばるじょうせき)は、沖縄県本島中部にあったグスク(御城)の城趾。ならびに、城趾を中心とした記念公園の名称。西海岸を一望できる丘上に曲線上の分厚い城壁が築かれている。規模は大きくないながらも、当時の石造建築技術の高さを示す貴重な史跡である。2000年に世界遺産に登録。

 

 

一、比嘉原城跡(ひがばるじょうせき)の噂について

(以下、インターネットの某ブログ記事より抜粋)

【兵隊の霊】…真夜中に城跡内の階段で転倒すると現れるといわれている。

【自殺の木】…城跡内の一角にぽつんと生えた木がある。その木では首吊り自殺が後を絶たないらしい。

【女性のうめき声】…西側広場のトイレから夜な夜な女性のうめき声が聞こえる。

【落ち武者の霊】…詳細は不明だが、敷地内で度々目撃されている。

  記事へのコメント(3件)

  2020/07/01  今度行ってみます!

  2021/04/21  嘘言うな、そんな話地元に全くないぞ。

  2022/08/15  そんなことないだろ

 

 

二、比嘉原城跡(ひがばるじょうせき)での火災について

 8月31日午前0時頃、「比嘉原城跡敷地内から火が上がっている」と119番に通報があった。西側広場にある公衆トイレが激しく燃えており、数時間後に火は消し止められる。放火の疑いがあるとして警察と消防が調査中。けが人などの情報は入っていない。

 

 

三、動画について

 8月30日の午後11時半頃、コミュニケーションアプリ内の地元青年会グループに投稿された音声なしの動画(22秒)。

 激しく動き回る薄暗い画面のなか、比嘉原城跡駐車場近くにある東屋や、白スニーカーを履いた足などが映り込んでいる。火災のあった公衆トイレは映像の場所から目と鼻の先であることから、その関連について様々な憶測を呼んでいる。

※動画の送信者である國吉照尊(くによしてるたけ)は30日の夕方ごろ、自宅で家族に目撃されたのを最後に行方不明。現在も見つかっていない。

 

 

四、動画視聴後に報告された各現象

 頭痛、耳鳴り、眠気、悪寒、顔の火照り、高熱、吐き気、捻挫、金縛り、うなり声、ラップ音、人の気配、犬の無駄吠え、猫の威嚇、香煙の直線化……(現在も動画はSNSを中心に拡散されている)

 

 

五、國吉照尊(くによしてるたけ)の失踪理由について

仮説① 県外不良グループとのトラブル

 昨年より交流があったことを國吉本人が周囲に話しており、何らかのトラブルに巻き込まれた可能性がある。

 

仮説② 米軍関係者とのトラブル

 交通事故を発端とした場合の仮説。失踪当日の夜、比嘉(ひが)原城跡(ばるじょうせき)近くを猛スピードで走り去るYナンバー車が目撃されている(國吉は車に乗って出かけたまま行方がわからなくなったとされている)。

 

仮説③ 神隠

 投稿された動画から、火災当日の夜に國吉が比嘉原城跡を訪れていた可能性が高く、なんらかの事態に遭遇したのではないかという噂が後を絶たない(『一、比嘉原城跡の噂について』も参照)。

 

仮説④

 普段なにをしているかについての質問が嫌いだ。おれはベッドで寝転がっている。八月の下旬、月が出ていて風のないその蒸し暑い夜に、窓から入ってくる高い湿度のにおいを浴びている。虫の声とか、遠くから響いてくる太鼓の音とか、隔てたドアの向こうのくぐもった話し声とかに傾きかける自分の耳を、枕に押しつけ目を閉じている。

 あるいは服を着替えて外に出かける。親の車を借りてイオンタウンまで向かい、駐車場に面したベンチに腰かけている。そこではたいていひとりで過ごしている。ただじっと過ごしている。本を読んだりスマホをいじったり飲み物を飲んだりしている。

 いま挙げたものがおれにとっての普段に他ならない。誰かを満足させるような答えと、事実が異なることなんて全然ある。曖昧に見えたのなら、曖昧なままでいいのではないかと考えることも、ちょっとずつ増えてきた。

 

 

 てーるー先輩はおれの三個上で、青年会のエイサーではチョンダラーを担当していた。深く交流があったわけではないが、どういう人かは知っている。素行はあまりよくなかったみたいだし、たまたま大事にはされなかっただけの噂もよく聞いていた。実際、どれだけ笑っていても声を張っていても、いまいち温度の感じられない人だと思っていた。それでもてーるー先輩は口がうまかったし、大人に気に入られるのも得意だったから、だれにもちゃんと怒られることのないまま大人になってしまったのである。これはかなりの不幸だとおれは思っている。そういう状況が生まれることが。そういう状況によって育まれたものがいまもそこにあることが。

 一度、青年会メンバーであるつねよしにそんな話をした。つねよしはどうもピンときていない様子だったので、ほらみろ、とおれは思う。おまえみたいなのがてーるー先輩のふるまいを生きながらえさせているんだ。つねよしはあろうことか「なにかされたば?」とおれにたずねる始末で、一応笑ったが、笑えなかった。笑わなければよかった。

「いや。別になんも」

「それともあれか? カイトーのせいか?」

「カイトーはいま関係ないだろ」

「でもカイトーだろ」

「ちがう」

「でもよ、あれはあれさ」とつねよしがいうと、違うテーブルのてっちゃんが「こいつアレアレうるさい」と笑う。でもつねよしは続ける。「あいつの彼女が悪いだろ」

 おれは言葉を返さず、テーブルの下でつねよしのすねでも蹴ろうかなと考えていた。おれの返事がワンテンポ遅れた隙を突いて、斜め前に座っていたまーゆーが会話に入ってくる。

「でもわたしはわかるけどね」

「なんか、おまえまで」

「顔でしょ?」

 つねよしが笑い、興味が移ったのがわかった。おれも遅れて笑った。まーゆーはおれのことを見ていたので、イラつかれているのかもしれないと思った。なのでなにも気づいていないふりをした。

 飲みが終わって駐車場に出て、それぞれで呼んだ代行サービスを待っていると、まーゆーがおれの隣にやってくる。彼女は低い声で「あんたさ」といった。

「あんま先輩(しーじゃ)の悪口とかいわんほうがいいんじゃん? つーねーとかはアホだからすぐ忘れるけどさ。万が一だれかに届いたらだるいさ。中にはキレやすい人もいるわけだし」

 まーゆーの香水の匂いに、誰かの吸うタバコのにおいが混じって届いた。

「ああ、ごめん」

「うそだよ」

「は?」

「ビビったでしょ? 田舎者モノマネ」

「ははは」

「ビビってるし」

「ビビってないし。あと普通にここ田舎だし」

「ちなみにだけど、まーゆーもてーるーさんのこと好きじゃないってのはガチだよ」

「それはやっぱあれ?」

「顔もある。でも一番は性癖」

「性癖ってなに?」

「知らん? てーるーさん、外でやるのめっちゃ好きって話」

「知らんよ」

「これマジだから。外ってしかも公園のトイレとかだからや?」

「なんで?」

「なんでだと思う?」

「そんなのクイズにすんな」

「じゃあ答えね。てーるーさんが童貞卒業した場所が公園のトイレだから」まーゆーはいまさら声を潜める。「しかも小学生のとき。キモくない? これ知ったときマジ鳥肌たったからや」

 代行の車が二台、駐車場に入ってくる。誰が先に乗るかでじゃんけんが始まった。

「まあ性癖は百歩譲るとして」

「は? 譲るな」

「問題は見境ないところだと思う。普通に真面目な話でごめんだけど」

「うん」といって、まーゆーは口を結んだ。「そういえばカイトーは元気? 最近会ってる?」

 代行にはつねよしが乗り込んだ。窓を開けてかちゃーしーを踊りながら遠くなっていく。

「このまえごはん行ったけど微妙かも。あんまり食べてなかったし」

「心配だね」

「代わりにおれが食べたけど」

「じゃあこうしよう。今度三人で飲まん?」

「え?」

「で、てーるーさんの悪口大会」

「あーなるほど」

「いつがいい? わたしは次の金曜いける。それ以降はドンキのシフト決めてからだけど」

「ちなみにおれは全然いつでも」

「でしょうね」

「カイトー次第だな。聞いてまた連絡するんでもいい?」

「全然。ごめんだけど、お願いしていい?」

「まあ、あんまり期待は」

「大丈夫。してないからそもそも」

 その日の飲み会にもカイトーは顔を出していなかった。行けたら行くといっていたので、どうせ来ないだろうと思っていた。

 

「いつもなに見てるば?」

 

 イオンタウンのベンチで缶コーヒーを飲んでいると、カイトーが質問してきたことがあった。なにをしているかはよく聞かれていたが、なにを見ているかを聞かれるのは初めてだった。なのでおれは黙る。そういやおれはなにを見ているんだろう。考えるいいきっかけだなとすら思っていた。ベンチに座ったままのおれが駐車場の奥を指さすと、目線を合わせるべく、隣に立ったカイトーが腰を落とす。

「あの奥の方あるだろ」

 おれがいうと、すぐ横の喉奥で「うん」という音がした。

「茂みあるだろ」

「あのお墓の?」

「え、あそこお墓?」

「だろ? じゃないば?」

「指さしちゃった。やば」

「気にすんな。それで?」

「だからあのお墓の茂みと、空の境目」

「うん」

「を、見てる」

「なるほどね」

 詩でも書けば、とカイトーはいった。

 すぐ近くを猫が歩いていた。毛が白黒で、人に近寄るかは日による。その日はおれとカイトーの二人体制で、おしゃべりもしていたから、その猫はこちらを一瞥するだけで悠然と駐車場を歩いていった。触ったことある? とカイトーが聞くので、このまえ撫でたことを話すと、飼えば? とやつはいった。それは無理だな、とおれは答えた。動物を飼ったのはハムスターが最後だった。カイトーがおれにくれたのだ。ジャンガリアンハムスターを二匹もらって、半年ほど経って片方が死んだ。共食いだった。おれたちは小学四年生だった。

「なつ」と歯を見せて笑うカイトーは、Tシャツの胸元をつまんで前後に揺らした。漂っていた柔軟剤の香りがすこしだけ動いた。

「カイトー、いっしょに埋めたの憶えてる? おれがどうしても触れないってなって」

「憶えてるぜ。たしかにあれはビビるや。はじめてだと特に」

「血もすごかったからな」

「いまでも無理か?」

「平気ではないけど、責任があるだろ」

「成長だな」

「あんときはマジでありがとう」

「別にだろ。全然」

「あ、じゃああれは?」とおれが両手を合わせると、カイトーもおれを指さす。

「待って。線香のこと?」

「それ!」

「完全にいま思い出したぜ」

「おまえがもっとちゃんとしたほうがよくない? って急にいいだして、ちゃんとってなに? って思ってたら線香持って登場したよな」

「いっしょに合掌(うーとーとー)したやつだろ?」

「あんときのおまえ、小四にしてはしっかりしてたよな」

「一旦帰って仏壇あさってたらおばーに見つかったんだよな」

「あ、マジで?」

「一瞬焦ったけどよ。事情を説明したらそっこー火つけてからこれ持っていきなさいって」

「ありがたすぎる。そういえばおばあちゃんは元気?」

「元気、元気。脚は悪くなってるけど、めっちゃ肉食う」

「だったらまあ、上等じゃん」

「でもあれ小四? 小五じゃなかった?」

「ん?」

 中学まではいっしょで、高校は別々だった。といっても連絡は取りあっていたし、休みの日に会って遊ぶこともあった。高校を卒業したおれがイオンタウンのベンチで時間を潰すようになってからも、カイトーは定期的に会いに来てくれた。カイトーは高校卒業後、地元の直売場に就職してフォークリフトを操縦していた。イオンタウンのベンチで会うときは決まってベンチのすぐ横にある自販機で飲み物を買い、お互い話すことがあれば話し、話題が尽きると昔の話をし、それすら尽きるとひたすら黙った。お互いがお互いに、そこにいるなと感じているだけの時間も、実際多かったと思う。おれがなにもしたくないような日でもカイトーは基本的にずっとニヤニヤしていて、おれの沈黙に付き合い、ごくまれに彼女の話をした。

 カイトーの彼女である嘉手苅華音(かでかるかのん)とは一度も会ったことがない。それでもいくつかのことは知っていた。カイトーより二つ下で七月生まれ。母親と二人暮らし。教習所の仮免試験に二度落ちている。

 このときはまだ知らなかったのだが、もともとカイトーはおれのことを青年会のエイサー練習に勧誘するべくイオンタウンまで足を運んでいたのだった。そして未だに考えてしまうのは、果たしてどのタイミングでカイトーは勧誘を諦めたのだろう? ということだった。なにも知らないおれがただじっと例の境目を見ている間も、カイトーは汗だくで大太鼓を叩いたり、先輩の呼び出しにかけつけたり、空き缶の上蓋をライターで炙ってくりぬいた即席のコップに、泡盛の水割りをつくって回したりしていた。なにが好きでそんなことを、とカイトー本人にいいかけたことがあったが、おれはいわなかった。いわなくてよかった。カイトーだって別にそういうことが好きでエイサー練習に参加していたわけではなかった。彼女といっしょにいろんなことをしたり、見たり、味わったりすることを、ただただ大切にしていただけなのかもしれない。

 

 

 だからこそカイトーの復讐には賛成だった。やつがてーるー先輩の車のタイヤに突き刺す予定だったアイスピックも、おれがイオンタウンの百円ショップで調達した物だ。

 八月の下旬、月が出ていて風のないその蒸し暑い夜に、おれはカイトーをさがしていた。カイトーはおれからの連絡に返事をしなかった。おれは親に借りた車に乗って、ユーミンのベストアルバムが流れるなか、イオンタウンや与那嶺(よなみね)ストアーのベンチ、公民館、カイトーのアパート前を回った。思えばおれが協力を申し出た際も、やつはなにもいわなかった。それでもおれはカイトーをさがし続けた。どうしたカイトー。やつはおれからの連絡に、すぐには気づかなかったのだった。時を同じくして、カイトーはコンビニでエナジードリンクを買っていた。駐車場でそれを飲んで過ごしていた。カイトーには計画と呼べるものはなにもなかった。先輩の車が庭に停めてあれば実行。なかったら、少しでも厳しそうな気配があったら、すべてを中止する。中止? 中止はあり得ないような気がしていた。中止を検討するほど、明確なビジョンなんてそもそもなかったからだ。アイスピックを受け取った際におれがいっていた「手伝うぜ」という言葉を思い出しながら、空き缶を捨てるため、カイトーはまたコンビニ内に戻った。外に出ると、一台のレンタカーが駐車場に入ってきて、なかから大学生くらいの四人組が降りてきた。カイトーは入り口を出てすぐのところで立ち止まり、店内で買い物をする彼らの様子をしばらく眺めていた。それからようやく夜道を歩き出した。街灯の少ない住宅街を、てーるー先輩の家まで黙々と歩いた。ボディバッグには財布とタオルと、それにくるまれたアイスピックが入っていた。もしも職質されたらどうしよう。なるようになるだろうか? その都度考え、柔軟に動くだけでいい。それができなければ、どうせこの先なにもうまくはやれないんだから。カイトーはほどけたスニーカーの紐を結ぶためにしゃがみこんだ。あたりには誰もいなかった。このまま立ち上がらなかったらどうなるだろう? ふと考えてみたが、なにも浮かばなかった。その可能性になにも興味を持てなかった。八月の下旬、月が出ていて風のないその蒸し暑い夜、てーるー先輩は家にいて、車も庭に停められていた。それですべては決定したのである。カイトーがスマホを取り出すと、おれからの連絡が通知として残っていたが、返事はしなかった。あとでしようとも考えなかった。それから夜がすっかり更けて、おれはサイレンの音を頼りに比嘉(ひが)原城跡(ばるじょうせき)まで向かった。そして木々の茂みからかすかに覗く煌々としたあかりと、立ち上る煙を見た。車は一度も停めなかった。そのまま家に帰って、風呂に入り、スマホの画面をただ眺めてから、すぐに寝た。

 

 

 旧盆とともにエイサー祭りが終わって、夏の夜が静かになってからも、おれはやっぱりイオンタウンのベンチにいた。

 噂では聞いていたし、おれのところにも警察は来たので、嘉手苅華音も行方不明になっていることは知っていた。あの日から一週間があっという間に過ぎて、おれはまーゆーと二人でごはんを食べに行く。おれたちはてーるー先輩と、あとちょっとだけカイトーのことを話し、カイトーの分まで頼んだ料理をぜんぶ食べた。今度はカイトーを探しにいこうと彼女はいった。おれは頷いた。

 夜だとさすがに怖いので、明るいうちに比嘉原城跡に向かったおれは、ブルーシートの張られた公衆トイレの前に立つ。日に照った草のにおいがあたりに満ちていて、時折、風に揺れるシートが音を立てた。おれは自販機で買った缶コーヒーを地面に置くと、一瞬だけ手を合わせる。その短さのなかで祈る。

 どうかうまくいきますように。

 こんな祈りなんて届かないくらいの速度で遠くに行けますように。

 心地のいい場所で、心地のいい時間を、少しでも過ごせますように。

 あたりに気になるものでも落ちていないか探したが、なにも見つけられなかった。おれは少し迷ってから缶コーヒーを回収して、その場を後にした。

 

 

 ベンチの背もたれに押しつけた背中が湿っている。駐車場を出入りする無数の車がライトを点灯しだすなか、おれはいつもの境目を眺めていた。缶コーヒーはぬるくてまずかった。飲みきらずに捨てようか、迷うほどだった。いつのまにか軽さを得た夜風に吹かれ、あるのかもわからない意図を探していていた。

 だから、いつからそこに立っていたのかもわからなかった。

 それが人だと気づいたのは、闇夜に目が慣れてきたからなのか、境目に重なるように、そのふたつの影はならんでいて、直立していて、たぶん、こちらを向いている。そう思って背もたれから身体を起こし、両膝に肘をおいた。目を大きく開けたり、細めたりした。ふと、人影がちょっとだけ動いた気がして、おれは動きを止め、なぜか息も潜め、もっと目が慣れることを期待すると同時に、焦っていた。気のせいなんかじゃなかった。だからなんとなく、本当にろくに考えもせず、おれも片方の手を上げた。

 それっきりだった。

 おれはこのベンチで祈っている。

 それ以外の時間は、とくになにもしていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

短篇『そこから先のあなたの自由』

 

※下記はコンビニプリント用ZINE『Midnight Invincible Children Vol.Ⅳ』(2023.12.29~2024.01.05)に収録されたものです 

 

 

 

 

 

 結婚指輪に何種類かある? みたいなことをマジで知らなくて話についていけなかったことがある。職場関係の飲み会で。いや、ついていけなかったって、そんな卑下することでもないか。どうでもよかったし。

 わたしは調剤薬局に勤めていて、年末なので病院さんの忘年会に誘ってもらったのだった。先生のおごりでフランス料理のコースを食べた。飲み物も頼み放題なので、シャンパンを頼んでみる。ほそいグラスで飲むからか、とても美味しかった。同じテーブルには看護師の横田さんがいて、その薬指にキラキラした指輪があったので結婚指輪ですか? とわたしがきいたら、エンゲージリングだといわれた。エンゲージリングってなに。婚約指輪のことらしい。婚約指輪と結婚指輪ってちがうんですか。ちがうらしい。へえ、そうなんだ。そのままわたしは黙った。不用意なことをいって、しらけさせちゃったらまずいだろうなと思ったからだ。

 

 このあいだも優子から結婚式へのお誘いがあって、断ったばかりだった。報せを受けたところで、おめでたいのかもわからない。だって……結婚って結構グロいことも多いし……わたしのおめでとうが誰かの絶望の一端を担うことになるかもしれない。一応おめでとうとは伝えた。幸せであるなら、それ以上のことはないわけだし。命の恩人がこないなんてさあ……と優子はかなり粘っていたが、わたしがそういうのに屈しないってのもたぶんわかってくれていて、また今度飲もうねといってくれる。今度飲むにしても地元に帰る気はない。優子が東京に遊びに来るんであればいいけど、結婚すると、そういうのもやっぱしづらくなるもんかい。

 

 わたしは払わなかったご祝儀分散財してもいいことにして、日比谷に映画を観に行って、その日見つけたコートを買い、ファミレスの四人席でひとり、ワインをデカンタで飲む。ふと思い立ってご祝儀について調べてみたら、出席できなくても渡すべきみたいな記事が出てくる。醒めるわ。コート買っちゃった。しかしよくよく調べてみれば、不参加での相場は一万円だとも出てくる。なんだ一万か。えーでも一万か。百円の百倍か。一円玉だと十キロ分。まてよ。そもそもこういうのって誰が決めたんだろう。

 わたしは以前勤めていた会社でマナー研修会というものに参加させられたことがある。いまになって思えばあのとき教えられたことは全部嘘で、よくわからないマナーを生み出し、それを押しつけるというマッチポンプで生活している人たちがこの世にはいて、そのくせ妙にハイというか、威丈高だということを学んだ。むなしくなった。そもそもマッチポンプという言葉の意味を理解したきっかけもマナー講師だった。この社会はこんなしょうもなさを放置しているのか。叩き潰せよ。やってるほうも、叩き潰されるまでもなくそんなしょうもないことするなよ。笑えることしろよ。人に恐怖を植えつけてもてあそぶなよ。世間の無関心につけ込むなよ。

 

 高校のころ学校で大規模な事件があって、生徒の半数以上が病院に運ばれた。ふたりの生徒のささいな喧嘩がそれぞれの派閥を巻き込んでの衝突となり、文化祭準備期間のゆるっとした空気に殺気がふわっと広がってそれははじまった。一部の生徒が敵対グループの子を襲って大けがをさせ、その反撃にと関係ない生徒まで加勢して事態がエスカレートし、あちこちで物が壊され、襲われた先生たちは日頃の過重労働も祟ってか職員室内にバリケードをつくって籠城してしまい、警察が駆けつけるまでの数十分間、学校は無法地帯となった。わたしも違うクラスの男子を突き飛ばして窓に突っ込ませて大けがを負わせた。優子の髪をつかんで引き倒そうとする後輩女子の手首を落ちていた文鎮で叩き折った。混乱に乗じて誰彼かまわず殴って楽しんでいた先輩を背後から襲って静かになるまで蹴り続けた。わたしはその先輩のことをずっといい人だと思っていた。実際、いい人だった時間はあったのだと思う。あの空間での選択が、その根拠となる認知がそれぞれ異なっていただけで。だけ? わたしはいつもそこに引っかかる。わたしはこうやって、諦めながら振り返っている。

 事件のきっかけとなった二人のうち、片方は親友だった。

 親友。

 当時はなんの抵抗もなく使えていた言葉だ。

 安全圏となっていた屋上のドア越しに、彼女はいった。

 

「わたしの勝ちだから」

 

 それがみっちーと交わした最後の言葉だった。

 わたしは「あっそ」とだけ伝え、階段をおりた。

 

 刺すように冷たい風を浴びながら買ったばかりのコートを羽織る。タグは切ろうか? いまはそのままでいい。スーツを着た若い男の人たちがビルを背に大声で笑っている。道に広がっていてすぐそばを通るのが億劫で、そんなに車通りもなかったから車道に出て、歩道との境界線を綱渡りみたいに進む。

 

 わたしと優子はアルミのシートを羽織って運動場のすみっこで温かいココアを飲んでいた。西日さすなか、グラウンドには何台もの救急車やパトカーが停まっていて、教職員用駐車場からは黒煙が上がっていた。ずいぶん前から、報道ヘリの分厚い音が肌を叩き続けている。震えが止まらないと優子がいうので、こっちに入る? といってわたしと優子はくっついて、そのうえから一枚のシートでくるまった。優子の体は本当に震えていて、なんかわたしまで震えているみたい、といって笑ったら、優子はわたしに密着していた体をちょっとだけ離し、どん、と体当たりした。紙コップのなかのココアはもう少なかったので、波打つだけですんだ。ぶつかり優子だ、とわたしがいうと、優子の震えのリズムがちょっとだけ変わって、彼女は顔をクシャクシャにして泣いていた。いや、笑っていたのだ。両方だった。

「みっちー、駅でぶつかりおじさんにぶつかられて転んだって」

「いってたね」

「嫌なことばっかりだったんだと思う。ずっと怒ってたんだよ」

「うん」

「それが今回の原因だっていいたいわけじゃないけど」

「わかってる」

「でも無関係じゃないよね。無関係でいられるものなんてないよ」

「うん」

「疲れたね」

「ね」

「たぶんこれ文化祭無理だよね」

「たぶんね。誰も気分じゃないよ」

「打ち上げのお店予約してたんだけど」

「あ、そうなの?」

「電話しなきゃ」

「ありがとう」

「いや、キャンセルするの」

「ううん。予約してくれてたこと。ありがとう」

「そっちね」

「そっち」

「ねえ。これおかわりありかな?」

「あ、いいよ。もらってこようか」

「わたしもいく。おー腰いってえ」

「うおー立ちくらみ」

「誰も死んでないといいな」

「ね。切に願う」

 そこに他のクラスの子が走ってくる。屋上からなかなかおりてこないみっちーに呼びかけるため、警察が仲のいい生徒を探しているとのことだった。優子は反射的に走り出した。それからふと立ち止まって、一歩も動いていないわたしのほうを振り返った。西日が強くて、優子はもう半分消えているみたいだった。わたしが小さく首をふると、彼女はうなずいて、騒がしさの残る校舎のほうへと消えていった。

 どっちが無意味なんだろう。

 いまはなにを優先すべきなんだろう。

 やっぱりまだ間に合ったりするのだろうか。

 強い鼓動にふらつきながら、わたしは考えている。

 

 十年経っても考え続けている。

 

 風に吹かれるたびに、肌の熱を自覚する。

 おなかも温かい。

 幸せだ。ずっと後ろめたい。

 でもこの後ろめたさの純度には疑念があり、本来なくてもいい押しつけも混じっている気がするのだ。そんな濁りと闘って、純度の高い後ろめたさをわたしは手に入れてみせる。ちょっとずつ透き通って見えてくるもの、それはたぶん、この世界での日々を心から楽しむことはないってことかもしれない。別にそれでいい。これから先も、理不尽にでかい顔させる気は毛頭ない。もう二度と「あっそ」なんていわない。

 

 

 

 

 

 

 

短篇『気持ちだけとっとけ』



※下記はコンビニプリント用ZINE『Midnight Invincible Children Vol.Ⅳ』(2023.12.29~2024.01.05)に収録されたものです 

 

 

 

 

 

 

 混雑が嫌いなのに年末の池袋にいる。

 忘年会のお誘いは毎年のように島袋から来ていたが、ここ数年は断り続けていた。年末も繁忙期に含まれる仕事だったので参加する余裕がなかったのだ。今回は新しい上司の意向から、全員が分散して二日以上のまとまった休みをもらえることになった。そして島袋から指定された日がちょうどおれの休みの一日目だった。二日目とかぶっていたら断っていただろう。おれは東口へと出る階段をかけあがる。

 かれこれ四年ぶりだな、みたいな話はすぐに終わった。

 その居酒屋は雑居ビルの四階にあって、よくあるチェーン店ではなかった。料理が適当でしょぼい割に値段設定が強気の、一年で別の店に変わっているような、そういう場所っぽいなと思った。上京したてのころはそういう店でよく飲んでいた気がする。例によってメンバーは聞かされていなかったが、島袋のほかに前田と新垣がいた。全員高校がいっしょで、学生時代はそこまで交流があったわけではなかったものの、数少ない上京組として、何回か飲んだことがあった。

「おーす久しぶり。元気だった?」

「元気元気。いつぶり?」

「たぶん、四年ぶり」

「そんなにたつ? やばいな」

「島袋とは三年かな。ふたりでもんじゃ食べに行ったよな」

「あのときも池袋じゃなかった? 西口の」

「そう。そういえばあれも年末だったっけ」

「そうだっけ?」

「ところで飲み物はどうする?」

「じゃあごめん、おれもビールで」

「おっけ。飯は?」

 メニューを開くと案の定強気な値段が並んでいた。バイトはどう見ても全員学生で、料理も大衆向けの居酒屋メニューだ。一方で内装には妙に力が入っていて、床のくりぬかれた部分に白い石とか敷き詰められており、その上に謎の壺が置かれ、本物かどうかもわからない竹が挿してある。

 四年前。島袋は役者を目指しながらアルバイトをしていた。いまはなにをしているのかわからない。直接聞く気はないので、会話の端々から読み取ろうと思った。

 四年前。前田は起業した会社の経営をやっていた。おそらくいまもその会社を経営しているのだろう。三年ほど前にラインで結婚式に招待されたが、ご祝儀の相場をネットで調べ、あり得ない金額が出てきたのでそのまま断った。

 四年前。新垣はなにをやっていたか覚えていない。みんなの会話からスポーツ関係の仕事だということだけ思い出す。マッサージ。整体? スポーツ整体師? そんな感じだった気がする。

「しかしあれだな、久しぶりだな」

 そういや東恩納はまだなのか、と新垣がいった。島袋はスマホを眺めながら、返事が来ない、とだけいった。

「東恩納もくるんだ。久しぶりだなあ」

「東恩納? 久しぶりだよな?」

「おう」

「いや~」

 東恩納は高校卒業後に大阪で養成所に入り、卒業後数年を経て上京した。ずっと芸人をやっている。今日会うとすれば四年ぶりになる。

「まあでも」前田がいった。「あいつ大丈夫? メンタルの調子崩してんでしょ?」

 おれはほかの二人の顔を見た。島袋は「あれ? もう大丈夫なんじゃなかった?」といった。

「え、だいじょうぶなの?」

「二年くらい前でしょ。いっても一時期よ」

「へえ」

「でも今日は正直厳しそうだな。まあ、いいよ」

 ビールを二杯飲んだタイミングで、これ以上人数増えないんであれば店かえてもよくない? と前田がいった。さすが経営者というべきか、状況を見て判断するまでの流れが迅速だ。だれもこれといった意見がなかったので、会計をお願いし、想像よりもやや高めの金額をいったん前田が立て替えてくれ、ちかくの焼き鳥屋に移動することになった。

「さむ」

 どの通りも人で賑わっている。焼き鳥屋も人であふれていた。カウンター内にいる大将に人数を告げれば、二階を案内してもらえる。店内は狭く、おれたちはカウンターに座る人々のお尻にお尻をこすりつけながら奥へと進み、急勾配の階段をのぼる。

「とりあえず盛り合わせでいい? 塩か?」

「んー。塩」

「あとすみません、生ビール四で」

 東恩納からの連絡はない? みたいな話がまた出てくる。ないねえ、と島袋が答える。新垣が三年付き合った彼女に結婚の話を出されて断って別れた話になる。島袋が新垣を必要以上になじって、なんとなく笑って終わる。

「もう四年ってマジかあ」

「早いよな」

「早いって」

「光陰矢の如しだな」

「おい、下ネタやめろよ。もう大人だぞおれら」

 串の盛り合わせとビールがそろった段階で、新垣がスマホで面々とテーブルがすべておさまるよう写真を撮る。

「インスタにあげるわ」

 インスタにあげるんだ、とおれは思う。焼き鳥はおいしかった。値段も安く、今度個人的にまた来ようかなと密かに考えるほどだ。

「お。早速ゆーたろからコメント」

 新垣がいう。「外れだなって。え? なにこいつ……どういう意味?」と新垣がみんなにスマホの画面を向けた。正式には「はずれだな(笑)」だった。そのままの意味だと思った。わざわざみんなに見せないほうがよかったコメントだとも思う。みんなもなにもいわなかった。地元で学校に通っていた当時の居心地を思い出しながら、食欲だけを満たしていく。

「次どこいく? 予約するけど」と島袋。

「もう? はやいだろ」と前田がいう。

「このまえ近くのバーで飲んだからそこいこうぜ」と本当に島袋が電話をかけ出す。予約をする。このあと9時から四名いけるって。

 なんだか懐かしい感じがしないのはなぜだろう。ずっと考えていたが、それはみんなのテンションが残業時のそれに似通っていたからだと気づいた。

 バーに移動する。そのお店は焼き鳥屋から二十メートルほど離れた雑居ビルの地下にあった。狭くて、人でごった返していた。小さなテーブルに椅子を無理矢理四つ用意して座ったが、人が横を通るたびに誰かが椅子を降りて壁際の人間にギュッとくっつかなければならなかった。それと同様に、トイレに向かうにはドアの前で飲んでいる人にどいてもらわなくてはならなかった。

 トイレは全体的にびしょびしょだった。

「解散しよう」

 前田が前置きもなくいって、新垣も、昨日まで連勤だったので疲れているといった。なのでおれも明日は仕事があると嘘をついた。島袋だけは「え!」と大きい声でいったまま固まったが、ほかのみんなはそういうギャグなのだと考えることにした。

 

 帰り際、ホームで電車を待ちながら東恩納に「無理せず、また今度飲もう」とだけメッセージを送った。それからふと気になって、東恩納のSNSアカウントを検索した。最新の投稿が一時間前だった。普通に仕事の先輩と飲んでいた。

 家について、手洗いうがいを済ませて、すぐにシャワーを浴びた。シャワーを浴びながら、同時に歯も磨いた。頭を拭いた時点でタオルが生乾きくさかったので、新しいタオルに替えた。寝間着のスウェットを着てたくさん水を飲み、先ほどのタオルを我が家にある一番大きな鍋に突っ込んで、水で浸し、煮沸した。立ちのぼる蒸気を顔に浴びながらスマホを確認したが、返事はなかった。おれは火を止めると、右手に鍋掴み、左手に食器用布巾を備えて鍋を掴みあげると、洗濯機まで向かった。洗濯機の蓋は開いていたので、鍋を傾け中身をすべて放り込んだ。激しいしぶきの中央で濡れたタオルがドチャッと音を立てた。洗濯機の湿ったボタンを指で拭き、風乾燥モードで十五分稼働させた。

 今日あの場に東恩納がいたらどうなっていただろう。

 だれもが気づいていた。それでいて無視を決め込んだあの茫漠に対して、衒いなく不遜をあらわにしたかもしれない。いちはやく言及し、狼狽するおれたちに、苦み走った相貌で舌を打ったかもしれない。やがて掘りごたつが揺れ、地震か? と思ったかもしれない。掘りごたつの下を覗くと、東恩納が目を疑う勢いで貧乏ゆすりしていたかもしれない。それは片足ではすまなかったかもしれない。テーブルが共振してグラスまでカタカタ鳴り、それを東恩納が乱暴に手で押さえつけたかもしれない。みんな同時に肩を強ばらせたかもしれない。恐怖による沈黙が流れたかもしれない。なので新垣が写真を撮る隙すら与えなかったかもしれない。万が一その隙があったとして、インスタにはアップさせなかったかもしれない。万が一その隙があったとして、ゆーたろーのコメントは読み上げさせなかったかもしれない。万が一その隙があったとして、新垣のスマホを奪い取ったかもしれない。新垣のアカウントのまま、ゆーたろーに返信したかもしれない。「死ねよ」。それからスマホSIMカードを抜き取ったかもしれない。串入れに溜まった束をひとまとめに握るかもしれない。テーブルに置いたSIMカード目がけて串の束を振り下ろしたかもしれない。ついでに新垣のスマホも叩き潰したかもしれない。止めに入った新垣を滅多刺しにしたかもしれない。飛び散る血が料理を汚したかもしれない。誰もが自分の番だと覚悟を決めたかもしれない。そこで走馬灯を見るかもしれない。それは東恩納が放課後の廊下で披露した古典落語の『死神』かもしれない。時が止まったように感じるかもしれない。不意に前田が「なんで式に来なかった?」とおれに聞いてくるかもしれない。おれは目を白黒させるかもしれない。それから「一般的とされる額のご祝儀を渡せるほど、生活に余裕がないから」と答えるかもしれない。答えてすぐに、不安に襲われるかもしれない。ちゃんと伝えるということは、そういうことなのかもしれない。それで前田は「そうか」とつぶやくかもしれない。意外にも、それだけかもしれない。次の瞬間、東恩納の影がさし、前田を滅多刺しにするかもしれない。その血を顔に浴びるかもしれない。そういえば島袋のことを完全に忘れていたかもしれない。思い出したついでに島袋が滅多刺しにされるかもしれない。残ったおれは東恩納にいうかもしれない。おまえが今日こないと知って、少し安心したかもしれない。そうしておれも滅多刺しにされるかもしれない。いや、そうじゃないかもしれない。やっぱりされないかもしれない。すでに斃(たお)れたみんなの流れから、パターンを掴んだかもしれない。左手を犠牲にして串の束を受け止めるかもしれない。右手に握ったグラスをテーブルの角で叩き割るかもしれない。鋭く尖ったグラスの断面を東恩納の喉元にたたき込むかもしれない。「自己の権利を防衛するためやむを得ずにした行為は罰しない」というかもしれない。それは早口かもしれない。東恩納の喉にめり込んだグラスの内側で何らかの音がこだまするかもしれない。その音を聞きたくてグラスの底に耳を当てるかもしれない。「ゼーボーゴポポ?」と聞こえるかもしれない。東恩納は「正当防衛?」といっているのかもしれない。おれは頷くと同時に、原初的な喜びに打ち震え、すこしだけ微笑むかもしれない。意外や意外、東恩納も微笑むかもしれない。そのときになっておれはようやく、自分の心の声に耳を傾けるコツを掴むかもしれない。しかしもうなにもかもが手遅れで、左手も使い物にならず、なのにそれが哀しいことだとあまり思えないのは、おれのなかにまたひとつ健全への道を歩んだ感覚があるからかもしれない。

 これが生きるということなのかもしれない。

 おれはもう恐れていないかもしれない。

 そこから先は瞬く間、東恩納の喉に突き刺さったグラスがポンッ、とひとりでに飛び出してテーブルの上をはねて転がり、それに目を奪われていた隙に東恩納は膨張を始め、皮膚の限界を迎え飛散、おれは衝撃で壁まで吹き飛び背中を強打、咳き込みながら体を起こすと、東恩納が朝露のような光の粒となって店内を優しく舞っていて、ゆっくりと落ちていき、めいめいの亡骸を包みこんで、その内側に広がる空洞に問いかける。

 おまえはどうしたい?

 すると【時間】がこたえる。

「たまには違うことでも」 

 その瞬間『手遅れ』が死語となる。轟音とともにすべてが巻き戻り、店内に充満していた東恩納の粒子が空間の一点に向けて集約しはじめたかと思うとまた肉塊としての東恩納を成す。おれはギュンと背後の壁に吸い込まれて背中を強打したあとまた前方に引き寄せられるように宙を舞い東恩納の目の前に着地する。床に転がっていた割れグラスが東恩納の喉元にスポンと収まる。おれはすかさず耳を当てる。逆再生される声。ああ。おれたちの会話もなかったことになるのだろう。そうしておれの予感は当たるが、めそめそする頭のなかの、忙しない思考や記憶は、この状況に干渉されていないことに気づく。

 色々あってみんなも生き返る。

 さっきまでズタズタだった島袋が、砕けていないグラスを手にいった。

「四年ぶりか?」

 そんなことどうだっていいんだよ。

 いまこの瞬間。

 それがすべてだろ。

 

 

 

 

 

 

「って、なんで俺くんが!?」とのことです。

 

昨年末に『Midnight Invincible Children Vol.4』というZINEを出しました。

sakamoto-the-barbarian.hatenablog.com

 

 

読んでくれた皆様、本当にありがとうございます。

 

大変ありがたいことに感想まで頂戴しております。自分が書いたものに感想をいただけるのは幸甚極まりないことです。本当に嬉しい。SNSやDM画面などはスクショしてまとめて壁とか殴りたいときなどに読み返しています。

 

ある方からは今回のZINEに感想+曲まで送っていただきました。

 

youtu.be

 

最高。

 

感銘を受けたので、僕も各短編を書いていた際に聴いていた音楽をメモしていきたいと思います。今後もそういうメモを作って、感想とともに読み返したいと思います。

 

 

 

プレイリスト『Midnight Invincible Children Vol.4』

 

■『気持ちだけとっとけ』

RIPSLYME『マタ逢ウ日マデ』

youtu.be

 


■『そこから先のあなたの自由』
ROTH BART BARON『Kid and Lost』

youtu.be

 


■『くすけえ』
MONGOL800『小さな恋のうた』

youtu.be


日出克『ミルクムナリ』

youtu.be

 

琉球民謡『唐船ドーイ』

youtu.be

 

THE BOOM島唄

youtu.be

 

MONGOL800『神様』

youtu.be

 

 

 

またな!

 

 

 

 

 

第四ZINE!『Midnight Invincible Children Vol.4』

 



年の瀬です。ZINEを作成いたしました。

例によって掌篇の3本を収録しております。

すべて書き下ろしです。お忙しい日々の隙間で楽しんでいただけると幸いです。

 

◼️発行場所:

 全国のセブンイレブン/ローソン/ファミマにあるマルチコピー機

◼️印刷料金: 240円(紙幣使用不可……)

◼️印刷期限: 2024年1月5日(金)23:59まで

◼️印刷方法:

セブンイレブンでの印刷方法

 

ローソン/ファミマでの印刷方法

ローソン/ファミマでは、こちらのQRコードを読みとらせることでも印刷できます。

 

※印刷金額が「240円」以外になっている場合、設定に誤りがある可能性がございます。

 

前回のZINE作成後、「次回のZINEはまるまる高校生の話だけをまとめた、比較的厚みのあるものを予定しております。」と書いていましたが、本当に長くなるとコンビニプリント代も馬鹿にならないと思い、また別の形で出せたらなと考えております。

 

以下もよろしくお願いいたします!

sakamoto-the-barbarian.hatenablog.com

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レッドカーペットを歩く方法

 

下記のリンクですが、1日1回クリックするだけでスポンサーから寄付が発生します。その寄付金はパレスチナのために使われます。その他にも、「女性」「子どもたち」「環境」「貧困」「難民」など項目を選べ、それらすべてに1日1回クリックができるようになっています。

 

arab.org

 

僕は世界最強の人間ではないので、毎朝これらのクリックから一日を始めています。

 

各位、様々な最悪の中を生きていらっしゃるかと思います。とはいえ、知らないだれかの「最悪」を考えなくてもいい理由にはしたくありません。

 

痛みのなか、みんなであらゆる後ろめたさを受容していけたらと思います。

 

 

↓ぜひこちらもお目通しください。

www.cultureagainstapartheid.jp

 

 

認知バイアスとビーフ

 

 

目標がない。これになりたい、あれやりたいとあまり思わない。十代のころは思っていたかもしれない。実はいまだって思っている可能性はあるが、自己認識が追いついていないのかもしれない。目標がないというより、目標を立てたところでつらい気持ちになりそうだなと思っている。進みたい道の障壁を避けるべく、関係ない横道にどんどん入っていって、元いた場所に戻る画策もせず、居心地の悪い場所に立ち続けている。そんなふうにずっと過ごしている。

 

欲求も減ってきた。なにかを欲すると、がんばらないといけなくなる。身近にある物だけで完結させようとする。なので日々に広がりがなく、風通しも悪く、いざというときに足を取られる。

 

嫌いなものばかり増えていく。自分に近づけるか突き放すかで動いている。ずっとエネルギーがないから、最小限の動きでなんとかしようとして、もうちょっと手を伸ばすだけで触れたはずの物を無視する。はじめからそこになかったかのように振る舞う。

 

あらゆる思いつきをストップさせる悪い認知を見つけ、その首根っこを掴まえたい。自分の中に、他者を多く介在させたい。悪い記憶ばかり優遇させたくない。楽しかった記憶を、過去だけに独占させない。まずは「楽しかった」ではなく「楽しい記憶」と呼ぶことから始める。それは今この瞬間にも存在しているものとして扱う。とかいいつつ、いまはなにも浮かんでこない。そこにわざわざ傷つくこともしない。ちょっと眠いだけだし、ちょっと身体が重たいだけだ。そういえばここ一ヶ月ほど、右肩をずっと痛めている。原因はわからない。寝違えたか、キーシファイティングメソッドの真似をしたのがよくなかったのか、なにも覚えていない。

 

本当になにも知らないので、この世界にどういう場所が、どういうふうに存在するのかよく知らない。知らないことを選択肢にできない。なので選択肢をそもそも持っていない。調べても調べ方が悪いのか、よくわからないままでいる。

 

いまある物が減っていくだけの人生なのだとどこかで思っている。自分を消しゴムみたいな存在に見立てている。そんなことないよって誰かにいってもらいたいし、実際いってくれる人も大勢いるのだろうが、いざその言葉を受けたときにちゃんとキャッチできるのか、その能力が自分にはないんじゃないかって、そんな不安を今日も心臓が全身に回し続けます。

 

 

 

 

 

 

 

 

と、過去の僕は書いております。

 

ここからは「気分がいくらかマシになった」状態の僕が、その間に何をしたのかを記していく。

 

・外に出た
・パン屋で100円のパンを買って食べた
・ホットのほうじ茶を飲んだ
・人と会話した
UNIQLOで試着した
・『鬱の本』2ページ読んだ
・早めに風呂に入った
・夕飯をつくった
・それを食べた

 

上記のどれに効果があったのかはわからない。そもそも上記のことをする間に流れた時間も無視できない。さらに忘れてはならないのが、僕は一度自分の気持ちを冒頭のように書いて吐き出した。すべてが複合的に僕のコンディションを立て直したのだと思う。そんなふうにこれからもやっていくと思う。なので一度、ここに記録し、思い出したときにでも振り返られたらなと思った。

 

 

 

 

 

映画のパーティークラッシュ

 

映画などに出てくる、悪い奴らが催すパーティーがめちゃくちゃになるシーンが好きだ。

 

ただ楽しんでいる人たちに水を差すのが好きというわけではない。悪い奴らが楽しんでいるのを邪魔するのがいい。例えば、以下のように。

 


ザ・ファブル

ザ・ファブル

★会場:どっかの料亭
★出席者:ヤクザ&海外の犯罪組織
★パーティークラッシャー:ファブル

ポイントとしては開始のタイミング。ヤクザの親分が海外組織の偉い人に日本刀を贈呈し、贈られた側がハイテンションでそれを構えてみせるその瞬間に謎の銃撃が始まる。パーティーを台無しにする際は、せっかくだからタイミングにもこだわりたい。参加者が一番盛り上がっている瞬間をつく、この台無し感は高得点です。

 

 


ブレイド

ブレイド (字幕版)

★会場:食肉処理場奥の秘密クラブ
★出席者:ヴァンパイアたち
★パーティークラッシャー:ブレイド

映画冒頭、食肉処理場の奥に隠された秘密クラブに若者たちが入っていく。そこはなんとヴァンパイアたちのクラブ。スプリンクラーから大量の血液を散布させながら音楽に乗って乱舞している。そこに現れるのがブレイドだ。みんなが音楽に身を任せる中、重そうなコートを来て仁王立ち。微動だにしない。ちょっとうつむいてすらいる。パーティーを台無しにする気満々。そして、大暴れです。いろんな道具を使います。

 

 


パニッシャー:ウォー・ゾーン

パニッシャー:ウォー・ゾーン (字幕版)

★会場:マフィアの豪邸
★出席者:ファミリー
★パーティークラッシャー:パニッシャー

ニューヨークを牛耳るマフィアの大物が裁判にかけられるも、証言台に立つ予定だった目撃者を暗殺することで無罪放免。それを祝う厚顔無恥そのものなパーティーが、今回のターゲット。ご馳走がテーブルに運ばれるなか、豪邸の明かりがすべて消える。困惑する面々。すると突然、テーブルの上で発煙筒が真っ赤な光を放つ。照らされるはスカルマーク。そう、孤高の人間断頭台パニッシャーの登場だ。その後マフィア相手に殺戮の限りを見せる。

 

 


キングスマン

キングスマン(字幕版)

◯会場:秘密基地(世界各地と中継あり)
◯出席者:各国の上流階級の皆様
◯パーティークラッシャー:キングスマンたち

今回紹介する中でも最大規模のパーティークラッシュといえば『キングスマン』が挙げられる。IT長者の過激派エコロジストが計画した「地球を救うため人口を削減する」という選民思想丸出しの大規模テロに世界中の上流階級が加担。こともあろうに実行の様を酒を飲みながら楽しむという飛び抜けて最悪なパーティーを「あ!」と驚く手法でおじゃんにする。規模が規模なので、おそらく一番人が死んでいるパーティークラッシュでもある。BGMが『威風堂々』なところもいい。みなさんは悪いパーティーを台無しにするとき、どんな曲を流したいですか。ちなみに今作では、敵が計画を実行する際にもノリノリのディスコソングを流していています。深淵。

 

 

 

 

 

 



 

 

 



 

 

 

 

忘備røk(2023年12月6日更新)

 

最近見た映画・ドラマ・読んだ本、コンテンツについて。

 

 

【映画】


『ザ・キラー』(2023)

youtu.be11/1にシネマート新宿で、その後Netflixで配信された際に3回観た。今年一番回数観た映画。かっちりした画でうっすらしょうもないのが面白い。語弊のある言い方だけど、面白すぎないので何回も観てしまう。面白すぎないのが一番面白い、みたいな、これは日高屋の中華そばと同じだ。みんな脇が甘くて楽しい。映像面ではフィンチャーのセルフオマージュ的な画がたくさんあって、その余裕な態度にも興奮した。

 


『SISU/シス 不死身の男』(2023)

www.youtube.com劇場鑑賞。今年の頭に予告をちらっと観たときからずっと気になっていた。台詞を多くは用いず、不屈の男VSナチをエクストリームな描写満載で描くTHE!活劇!!!チャプターのタイトルが表示されることで先の展開を想像させる演出も楽しい。一方、メンタルの調子があまりよくないタイミングで観てしまい、楽しいけど上の空みたいな時間があったことも記録しておきます。また家で楽しみたい。女の人たちのシーンでは泣きました。

 

 

ゴジラ-1.0』(2023)

youtu.be埼玉県民の日に劇場で鑑賞。ゴジラ、よかった。ゴジラに気持ちを入れて観ていました。なにかと話題にのぼるドラマ部分は腑に落ちないところも多いが、作品単体でのまとまりをいうのであれば「見やすかった」んじゃないでしょうか。予算的にゴジラの登場時間を倍にしてほしかったというのは無茶な要求なんでしょうが、これだけヒットしているのなら次はもっと予算を出して、三倍くらい建造物を粉々にしてほしい。僕はゴジラが建物をめちゃくちゃに破壊するさまを眺め、無力で無意味なことを痛感する瞬間がなによりも好きなので。

 


『由宇子の天秤』(2020)

youtu.be

Netflixで鑑賞。自殺した女子高生のドキュメンタリーを制作中の由宇子は、並行して父の経営する学習塾で起こったある問題に直面する……という話。2時間半あったが、劇場公開時から気になっていた作品なので迷わず再生。面白かった。例によって、男性性が大勢を不幸にする話でした。地獄の王はきっとペニスの形をしていると思います。とにかく厭~な映画なのですが、なにより劇中で一番自分を重ねてしまったのが萌の父親。生活力なくて融通もきかなくてでも日々を慈しむ心は捨てられなくて、その生きづらさ故にすぐカッとなるあの感じ。演じる梅田誠さんもすごくよかった。

 


『ボトムス ~最底で最強?な私たち~』(2023)

ボトムス ~最底で最強?な私たち~

Amazon Prime Videoで鑑賞。アホすぎて笑ったし、あまりにも下品で乱暴すぎる……と突き抜けているようで、リアリティラインが妙にぎこちない。これどっち?と思う箇所がままあった。コメディ映画で雑に人が死ぬのは全然楽しいし大好きだけど、「ただ雑に死なせているだけ」で笑わせるのであれば、本作における基準の提示がどこかにはほしい……というのも、登場人物たちがラストのその後、普通に罰されるんじゃないかとちょっとだけ不安になった。物語上「雑に死んだ」というより、あれは、ねえ。主演二人の目の暗さに代表されるように、キャストがフレッシュでその魅力には抗いがたいものもある。だからこそ歯がゆい。歯がゆさは、絵の具の黒に近いパワーをもっている。

 


『スクリーム』(1996)

スクリーム (吹替版)

シリーズ最新作が盛り上がっているので、そういえば『2』しか観たことないなと思い、配信レンタルで鑑賞。スラッシャー映画をメタ的に描く作風はなんとなく知っていたが、犯人の正体とそのあまりもの薄っぺらさにちょっとした寒気を覚えた。主人公のすでに死んでいる母親のエピソードなど、振り返れば振り返るほど「厭~」な話だし、予想以上におぞましくて楽しかったです。このままシリーズを追っていこうと思いましたが、最新作の主演俳優がイスラエル批判をしたことから降板させられたというニュースを観て気持ちが失せました。ジェノサイドを肯定できる理由なんて存在しません。

 


『ナイアド 〜その決意は海を越える〜』(2023)

youtu.beNetflixで鑑賞。知人の敏腕ディレクターさんからLINEがきたので観ることにした実話ベースの映画。人生はしんどいけど、負けたくねえんだって話でした。無謀に思える挑戦でも、チームでならやれる。気の遠くなるような遠泳のさなか、息継ぎする際の一瞬の景色にあなたがいてくれることがどれだけの力になるか。普通に泣きました。

 


『TAR/ター』(2023)

youtu.beAmazon Prime Videoで鑑賞。本当は劇場で見ようかと思っていたけど、2時間半あるので躊躇っているうちに見逃した系映画。天才マエストロ、リディア・ターの孤高な日常と忍び寄る不穏なノイズの話。情報量が多いものの脚本が手取り足取りでもないので油断ならないこの感じ……『裏切りのサーカス』を観たときの気持ちに似ている。パワハラにグルーミングと、過ちだらけのターがたどり着くあのラストははじめこそぽかんとしてしまいましたが、あれこれ調べて振り返るにつれじわじわきています。ジョギング中に聞こえる謎の絶叫、夜中に動き出したメトロノーム、本編中に数回映りこむ◯◯……など不穏すぎる演出も楽しかった。

 

副読本として最高の内容だったので、主義に反しない方は鑑賞後にでもぜひ…↓

ameblo.jp

 

 

 


【ドラマ】

 

『ジェン・ブイ』

ジェン・ブイ ティザー予告

Amazon Prime Videoで全話鑑賞。『THE BOYS』のスピンオフドラマ。スーパーパワーをもった若者たちの学園が舞台の血みどろ青春もの。面白かった。アメリカの若者の包茎の扱いが割とフラットなのも学べます。

 


『ハッピー・バレー 復讐の町』シーズン1

第1話

Amazon Prime videoで鑑賞。参考にしているドラマウォッチャーの方々が高確率で名前をあげる2013年のドラマ。ハッピー・バレーと呼ばれるイングランド北部の小さな町で若い女性の誘拐事件が発生。ある小心者のふとした思いつきからエスカレートしていく地獄を描いた映画版『ファーゴ』のような導入からはじめる犯罪ドラマ。特筆すべきは8年の刑期を終えたチンピラのトミー・リー・ロイス。大体の行動が他者への権利侵害という最悪すぎるキャラクターなのだが、そんなトミーとの間に最悪すぎる因縁を抱えた主人公キャサリンがあんなやつはサイコパスだと一蹴する一方、元夫が「(トミーは)愛されずひねくれて育っただけだ」と訂正する。このやりとりに象徴されるような誠実さが芯となっているドラマだと思います。みんながみんな正解ばかりは選べないし、割り切れない悲しみが容赦なくふりかかるが、大きく振り回されるだけじゃ終われない。互いにぶつかりあってそれでも生きていく様が胸を打つ、とても素晴らしいドラマでした。S2もキツそうだけど楽しみ。

 


『FARGO/ファーゴ』シーズン5

庶民の悲劇

Amazon Prime videoで鑑賞中。大好きなドラマシリーズ『FARGO/ファーゴ』最新作が毎週1話ずつ配信中です。3話までしか観ていないけれど、良いです。個人的にジュノー・テンプルが主人公を演じていることからも、今作では『キラー・ジョー』*1のその後を描こうとしているんじゃないかと勝手に思っています。『FARGO/ファーゴ』名物でもある放浪する殺し屋もいい感じにスピリチュアル要素かましてて、期待が高まります。

 

 

 

【小説】


イヤミス短篇集』真梨幸子

イヤミス短篇集 (講談社文庫)

イヤミス読みて~ってときありませんか。ちょうどその時期だったのでいかにもすぎるタイトルの本著を手に取りました。冒頭の一篇が「これはイヤミスなのか?」な話だったのでちょっと距離ができてしまいましたが、後半にいくにつれ「厭さ」にブーストが掛かるので結果楽しかったです。

 


『6』梨

6

『祓除』つながりで梨さんの気味悪い話読みて~となったので。『かわいそ笑』に続く二冊目の連作短篇集です。面白かったし怖かったんですが、ネットに掲載されるような軽薄で、つかみどころのない気持ち悪さのほうが好みかなという感じではあります。

 

 

ポッドキャスト

 

『どうせ死ぬ三人』

open.spotify.com

というポッドキャストを聴き始めた。「おじさん」についてのトークが最高だったので散歩しながら過去のも聴いています。「歌詞の検討」シリーズが楽しいです。

 

 

 

 

以上です。また!

 

 

 

 

 

タイトルを思い出せない作品について考えているときの、次々挙がる正解ではないタイトル集

 

ふとした拍子に、以前気になっていたものが再燃する時がある。僕はある漫画のことを思い出した。数年前にネットで無料公開されていた数話を読み、続きが気になるなと思いつつも読まずじまいで、結果今にいたる。

 

主人公は大学生1年の男の子で、下宿先のアパートである女の子に出会う。あまり詳細は覚えていないが、その女の子は性に奔放な性格らしい。実際に彼女と性交渉をもった大学生が他に出てくる。しかしどういうわけかその大学生は死ぬ。「その女の子と性交渉すると凶暴化して死ぬ」っぽい?みたいなルールが読者には提示され、その謎を追う、みたいなあらすじ。

 

久々に検索してみようと思うも、タイトルが思い出せない。漢字二文字だったのは覚えている。どうしてこの内容にこのタイトルなんだ、という喰えない感じが興味をそそったのを覚えている。でも忘れた。なので書き出してみた。

 

祝祭

 

番台?

 

学祭

 

獺祭

 

 

 

そういえばそれを読んでいた当時、Twitterでそのことをつぶやいたら友人が「けっこう読んだけど微妙だったよ」という旨のことをリプで教えてくれた。それでも読むつもりでいたが、単純に忘れて時間が空いて思い出すこともなく、今に至った。じゃあ当時のつぶやきをチェックすればいいじゃん。そう思って検索した。

 

 

『圧勝』でした。

 

圧勝|裏サンデー

urasunday.com

 

この作品はすでに完結しているようで、ネットで調べると毀誉褒貶出てきますが、ちゃんと自分の目で読んでみたいなとは思っています。あの内容に対して『圧勝』と題するその姿勢にわくわくするのはたしかなので……。

 

予想で挙げたタイトルがどれも全然かすってすらいないのが驚きだったのですが、見返してみると「i」の音で終わるタイトルだったに違いないという認知が透けて見える気も。

 

何かに引っ張られている?

 

そこでふと気づいた。Aマッソがテレ東の大森時生と組んでやったライブのタイトルがこんな感じじゃなかったけ?また書き出してみる。

 

合葬

 

顰蹙

 

祭壇

 

褥瘡

 

 

 

 

 

Aマッソライブ「滑稽」 - YouTube

youtu.be

 

 

『滑稽』でした。