書き下ろし短編:『屋烏を喰う』

 

 

 

「あ、お湯で洗って」「お湯? 使ってるよ」「えだって湯気立ってないよ」「でも温かいよ」「ならいいや」と会話する僕を見た夏海が怯えた表情で言った。

  

「だれと話してるの?」

 

 思えばここのところ、なにかと考えに耽るようになっていた。夏までのバタバタした日々が急に落ちついて感じるのは、季節の変化にリンクしているからなのだろうか? 僕は自分の歩く速度さえ変わってしまったように感じる。駅までが遠い。道を間違えたのかと思うも、イヤホンから流れる曲はまだ変わっていなかった。

 なにを考えているのかというと、例えば出社してやることの順番についてだとか、今週やるべきこと、もうしなくていいこと、昨日の晩寝る前に沸き起こったささやかな欲望、いま飲みたいもの、財布の残金、次の休みのこと、夏海としたつまらない話、どうしてそれがつまらなかったのか、自分の部屋の使い方に関して、すっかり忘れてしまった習慣、口周りに感じる肌の乾き、気になっていた化粧水、駅周辺のドラッグストア、目の前のおしり、明日の天気……

 僕は仕事をやめた。厳密にはやめていない。やめたつもりで毎日動いている。こだわらなくなれば、少しは楽になるのだろうなという目算があったが、どうなんだろう? いまの僕は楽なんだろうか? 

 

 ある夜、ちっとも寝つけなかった僕は無性に苛立っていて、夏海と口論になった。彼女は「八つ当たりしないで」と言った。八つ当たり? つまり僕には本来、ほかに怒りをぶつける対象があるということか?

 「それってなんだと思う?」

「それ私に聞くの?」と夏海は伏せていた目を僕に向けた。「仕事のこととか、そういうんじゃないの? それだけじゃないんだろうけど、とにかく私にそういう態度とるのやめて。どうしていいかわからない」

「ごめん」

「別にいい。でも今日は一緒に寝られない」

「了解」

 僕は自分の枕と毛布を持ってソファーで横になる。カーテンの隙間からかすかに差しこむ灯りが、暗い天井でゆらゆらと揺れるのを眺めながら、別にいいと言った際の夏海の表情を思い出していた。一緒に寝られないんなら、別にいいってのは嘘じゃないのか? 許せないんなら、許したふりなんてするなよ。胸がより騒がしくなって、眠気も更に遠のいてしまった。ひとりになりたかった。こうやって寝床を分けるのではなく、本当の本当にたった一人になって、ついにはなにも考えずにすめばどれだけいいか……ということをグルグル考えたまま朝を迎えた僕は、のっそり起き上がると重たい体を引きずって唸り、シャワーを浴びながら唸り、髭を剃って唸った。

 

 

 

 十年ほど休みがほしい。 

 

 

 

 そういえば友人でひとり、十年ほど休み続けているやつがいる。

 彼の長い休みがまだ終わっていませんように。

 

 

 

 更衣室のロッカーから上着をとり、歩きながら羽織る。まだ人の温度にあてられていない廊下の空気を抜け、事務所のタイムカードを切ると、すぐさまエレベーターでふたつ上の階まで移動。そこは窓のないフロアで、ドアには電子ロックがかかっている。テンキーに暗証番号を打ち込むと淀んだ空気が僕を迎えた。クリップボードに挟んだチェックリストを手に大きな機器の間を練り歩く。ぜんぶで十一のサーバーがあり、それぞれに付属する機器が二つずつある。すべての電源を項目にそって入れていく。僕はこの作業が億劫で、どこかのタイミングで思いもよらない出来事によって流れが中断されるんじゃないかという恐怖がつきまとう。たのむたのむたのむ。タッチパネルを操作してパスワードを入力する。ここでタッチパネルが反応しなかったら? 機器上部で横一列に並んだ七つのスイッチを左から一、二、三、五、六七同時、四の順に押しながら、機体に耳を寄せ、起動音を確認する。ここで異音がしたら? 薄い金属板の向こうで細かな機器が連動しあうか細い音がする。一、二、三、五、六七、四。異常なし。異常なし。異常なし。一、二、三、五、六七、四。チェック。チェック。チェック。機械の音にまじって僕のため息が聞こえる。チェック。チェック。昨夜の夏海のことを思い出していた。一、二、三、五、六七、四。チェック。一、二、三、五、六七、四。ここまでは大丈夫。一、二、三、五、六七、四。大丈夫。 一、二。三? 五! 六七……チェック。チェック。チェック。あ、四。チェック。ん? チェックの数変じゃないか? という声がしてハッとする。自分だった。変……でした。まあいいか。チェック。チェック。うっ。

 

 なにかたのしいことないかな。

 

 夏。早朝の大雨が嘘のように晴れ上がった夜、夏海を駅まで迎えに行った。僕は自転車で、彼女と二人乗りをしながらパトロール中の警官に見つからないよう細い路地ばかりを選んでアパートまでの道を進んだ。ネットでみたニュースの話で笑いあっていると、ふと沈黙が訪れた。星が綺麗だったが、気持ちはそう盛り上がらなかった。しばらくして、僕の背中に身体を押し付ける夏海が何かを言った。うまく聞き取れなかった、というより、その音が言葉としてすぐには入ってこなかった。彼女は「泣きそう」と言ったのだ。

 

 作業台に戻ってパソコンを開く。メールを見る。作業場の温度確認をする。湿度確認をする。デジタル時計の秒数を調整。+1なので修正……完了。僕はイスの背もたれを支点に背中をそらす。ソファーで寝たせいで朝から肩が重かった。僕はイスを引いて両手を前後に大きくゆっくりと回す。じんわり熱を帯びた肩甲骨が、また少しずつ冷めていくのを感じながら、自分の呼吸音に集中する。機械音が騒々しい。僕は同じサイズにカットして束にしてある裏紙にトゥードゥーリストを書き込んでいく。デイリー、ウィークリー、週末に備えた準備……まずは昨日のうちに終わらせられなかった事務作業を片付けていくことに決めた。Shift + C……Shift + V……クリッククリック。マウスの反応がなくなる。軽くバウンドさせてみる。なぜ? 裏返すといつもは点灯しているはずのブルーのライトが灯っていない。僕はペン立てをどかし、単三電池を探す。が見当たらない。別の部署まで貰いに行こうか。そう思い立ってイスから立ち上がる。

 

 ぱぼん

 

 聞き慣れない音がした。

 パソコンからだった。

 メールの通知ではない。デスクトップにはなんらかのお知らせが出ていた。タッチパッドの操作がオンになったことを告げる通知らしい。なぜ。僕はこのラップトップに一切触れていなかったし、切替画面を開いていたわけでもない。身体の左半分が粟立っていた。作業台の横には壁があり、上部だけが繰り抜かれて隣室とつながっているのだが、そこからだれかが僕を見ている気がしたせいかもしれない。こういうときは考えられることだけを考えるしかない。たしか、タッチパッドを直接二回タップすれば操作のオン・オフを切り替えることができるのだが、僕は席を立って背を向けていた状態なのでそれも無理。

 だけど無視。

 

 

 

 暖簾をくぐり、嗅ぎ慣れた蒸気の温もりを浴びながら空席を探していると、違う課の月村さんがテーブル席でひとりランチセットを食べていた。軽く挨拶だけでも済ませておこうと近づくと、「あ、どうも。てかどうぞ」と正面の椅子に誘導される。いま人と関わるのはちょっと面倒だな、断ろうかなと思うころには、僕はもう椅子に腰を下ろしたあとだった。メニュー表を開いて悩んでいるふりをしながらいつもと同じ一番安い中華そばを頼み、月村さんにさっきのパソコンの話をした。

「えー、出た。真山さんよくあんなとこひとりでいられますよね」

「まあね。でも仕事だし」

「怖くないんですか?」

「めちゃめちゃこわいよ」

「やば。うける」

 月村さんは僕の知らない話を大量にもっている。

 総務部の三宅マネージャーが新卒で入ってきた武田ちゃんと付き合っているらしい。ほぼロリコンだねと僕が言うと「みんなも言ってます」と月村さんは笑う。みんなも言っているのなら結構笑い事じゃないのかもなと僕は思いながら、営業の樋口くんがかねてよりアプローチをかけていた石原さんにめちゃくちゃ嫌われているという話を聞く。ちょっと面白い。

 ところで月村さんは営業部の高尾くんとほんとうに付き合っているのだろうか? もちろん直接聞いたりはしない。随分前に、駅を一緒に歩いているところを見かけたことがある。高尾くんには彼女がいたはずだけど、別れたのかもしれない。

「面談終わりました?」

 月村さんがテーブルの上においたスマホを指先で叩きながら言った。ラインのトーク画面が開かれていたので、目をそらした。「来週。予定ではね」

「そうなんですね。普通に終わりますよ。わたしのときも雑談みたいな感じでしたし」

「そうなんだ。なにか意見とか出した? 改善してほしいところとか」

「いいえべつに」

「そうか。思ってたより楽そうで安心した」

「そもそも面談いらなくないですか?」

「でもまあ、ああいう場だからこそ伝えられることもあるんじゃない?」

「わたし思うんですよ」

「はい」

「ああいう場で、本当のこと言うわけないじゃないですか」

 

 僕の前任者である宇野さんは精神に不調をきたして退職したので、事前に準備しておく諸々もなしに僕が業務を引き継ぐことになったのだが、その彼だって何度か行われた面談において特別なにかを訴えていたわけではなかったそうだ。これは総務部の三宅マネージャーから直接聞いた話で、彼は首を傾げていた。労働はアルコールと同じで、合わない人間にとってはとことん毒でしかない、というただの常識がまったく共有されていない時点でこの会社はもう終わりです。宇野さんは周囲の呑んだくれどもの影で静かに疲弊し、ある日限界を迎えたわけだ。胸のうちが自然対流のようにぐるぐるたぎるのを感じていた。突っ伏す寸前のような姿勢でスマホを見る月村さんのつむじから視線を外すと、斜め向かいに位置するシートの背もたれ越しに顔半分だけをのぞかせた女の人と目が合った。あれ。でもそんな気がしただけで、席は無人だった。ふと壁に貼られたビールのポスターがはらりと剥がれ落ちた。店員さんにそのことを伝えようかと思ったが、疲れていたので黙っていた。

 

 

 

 長い休みがほしい。

 朝が来ないでほしい。

 かといって夜もうざったい。 

 

 

 

 夏海とベッドに並んで眠る。目を閉じながら、布団内部の高まる温度を寝返りでかきまぜる。深夜三時を回ってもついに眠れなかった僕は、寝息を立てる夏海を置いて部屋を出た。スウェットだけじゃあまりにも寒いのでブルゾンを羽織った。最寄りのコンビニまで歩いて、それから戻ろう。頭髪の隙間まで冷たい夜気が染みこんでくる。通りかかった公園の遊具が風もないのに揺れていた。公衆便所からうっすら灯りが漏れていた。人も、動物も見当たらない。猫でもいたらいいのにね。深呼吸すると骨まで冷えるようで、僕は長い長い道を足早に進む。コンビニにつくと、店内をぼんやり五周ほどした。もう一度歯を磨くのが面倒なので、結局なにも買わずに出てしまった。レジカウンターの中にいた店員はなにかしらの作業に勤しみながら、絶えず僕の気配を意識してくれていたというのに。自動ドアを抜けると、先ほどのような鋭さはもう感じなかった。部屋まで続く住宅地には街灯が少ない。行きより帰りがずっと暗い。

 

 コンビニを出る前からずっと、僕はさっきの公園の前を通りたくないと思っていた。かといって遠回りを選ぶほどの気力もなかった。足がやけに軽いのに、進みだけがいやに遅く感じて首を何度も回していると、道路脇になにかが立っているのに気づいた。一瞬、人かと思った。真っ黒で、起伏がなく、まっすぐだった。その長方体と僕との距離は五メートルほどで、しかし僕は立ち止まらなかった。気づいていることを、向こうに気づかれたくなかったのだ。後頭部からゆっくり後ろへ倒れていくような感覚にややのけぞりながら、それでも歩を進め、ああ。そこでわかる。

 

 墓石だ。

 真っ黒な墓石。

 

 道の脇に墓石がある。

 

 依然として静かなままだった。僕以外、音を立てるものはなかった。視線はすぐまえのアスファルトに向けている。もうすぐ朝がくる。もうすぐは、しかし今ではないのだ。

 一、二、三、五、六七、四。

 一、二、三、五、六七、四。

 一、二、三、五、六七、四。

 ああ。墓石の横を通り過ぎる。ああ。ずっとそこにあったのかもしれないし。たまたま行きでは気づかなかっただけかもしれないし。僕は歩く。いまどこかからか聞こえた気のする、地面をこするようなざらついた音が、自分の立てたものなのかもう判別できない。わざと大きな音を立てて僕は地面を踏みしめる。 

 一、二、三、五、六七、四。

 一、二、三、五、六七、四。 

 一、二、三、五、六七、四。

 月極駐車場の看板が見える。その後ろからなにかが顔を覗かせているかもしれない。カーブミラーが見える。なにがうつっているかもわからない。僕は自分の履いている靴を見る。靴紐が解けている。いまは結ばない。立ち止まる理由はすべて無視する。

 

 あああああああああああああああ

 

 アパートの階段を昇りきると、ドアの前に夏海が立っていて、僕は無音の悲鳴を上げた。そのまま腰を抜かし、階段の二つ下の段に手を突いてなんとか体を支えたが、股関節が変な開き方をしてちょっとだけ痛かった。

「起こしちゃった?」

 僕の言葉に彼女は応えなかった。

 ああしまった。もしかして僕はいま、夢をみているのだろうか?

「風邪ひくよ」

 彼女はそう言うと、すんっと息を吐きながらこちらに背を向けた。いまなんで笑ったの?   僕の質問は彼女には届かなかった。 

 

 

 

 出勤すると、作業台にニ枚のメモが置いてあった。

 一枚目には次の日曜も出勤してほしいという旨とその理由。

 二枚目には不在時に僕のデスクから内線電話が入ったという旨の内容。それらを丸めてゴミ箱に投げ入れた僕は、しばらく突っ立ったままホワイトボードに敷き詰められた数字を画として眺め、それからスマホで高良に連絡を入れる。

    翌日の仕事終わりに、池袋で飲む。

    高良と会うのは数年ぶりで、彼は上下スウェットに軽そうなダウンジャケットを着て現れた。スウェットといっても僕が部屋着にしているような類のものではなく、どちらも上等な生地で、細く締まった足首の先には蛍光色のラインが入ったスニーカーを履いている。

「給料いくらもらってんの?」

 僕の質問に高良は笑った。「ぶしつけやなあ」

 綺麗な歯並びだった。指摘して初めて、彼は直属の上司が関西の人間であることを教えてくれた。

「にしても真山、思ってたより元気そうやん」

「そう?」

「ははは。でもちょっと痩せたろ」

「かな」

「痩せたよ」

「もともと体重の増減激しいタイプだから」

クリスチャン・ベイルっすね」

「それ言ったらそっちこそぽいよ」

「なんで?」

「『アメリカン・サイコ』っぽいよ」

「おまえ〜」

 高良はこの会話の間にジョッキをひとつ空にした。全身から放つ雰囲気……それこそ肌ツヤからして違う。代謝もいいに違いない。僕はいまこの瞬間も肩から背中にかけてが重いというのに。ビールのアルコールも、まだ高揚感にはつながらない。

「なんかストレスたまってるっぽいな」

「わかる?   てかその話していい?」

「今日はそのためじゃないの?」

「そうだけど一応ほら。せっかく来てくれたのに辛気臭い話はだるいだろ?」

「平気だよ。おれは」

「へえ」

「だって俺は調子悪くないもん。良いし」

「え~なんだよそれ」

「辛いほうが吐き出す。調子いいやつが受け止める。そういうことでしょ」

 僕はもみあげのあたりをガリガリかきながら背後の壁にもたれる。「ありがたいな」

「憑かれてる?」

 高良にそう言われて僕は固まってしまった。この頭の中にしかなかったはずの文脈が、全世界に共有済みであることをバラされた気分だった。あとちょうど酔いも回ってきたこともあって、言葉に詰まった。

「なんでそれを」

 と、なんとかつぶやく僕を見て高良は「ん?」と首を前に落とす。

「ん?」

「いや……ん?」

「ん!?」

 混乱が音となって頭蓋の内側に溢れていると高良がやや距離のある笑みを浮かべる。

「ストップ。落ち着け。マジで疲れてんじゃん?」

 今度はふっと腑に落ちる。頭のなかで言葉がきちんと変換された。僕は自分の呼吸がやや浅くなっていることに気がついて、小さく笑いながらビールを飲む。軽く口に含む程度のつもりだったが、そのまま勢いがついて一気に飲み干す。大きく息を吐きだす。おしぼりの包みがテーブルの上を滑って小鉢にあたって回る。

「なんだなんだ。ごめんよ。びっくりした。いや。ほら。いまちょっと言葉が……違う変換しちゃってさ」

「変換って?」

「つかれたって言葉。違う方のやつだと思っちゃって」

「……違う方って言うと」

「ほら、取り憑かれるとかの」

「ああ。ははは」

「なんか妙にバチッとハマっちゃって。ごめんごめん」

 高良は腕を組み、お尻を前に引くことでテーブルの縁にぴたりと身体を寄せた。僕は質問を待った。

 

「なんかあったろ?」

 

 僕は職場での作業時に起こる現象の数々や、一昨日の真夜中に遭遇した巨大な黒い墓石についても話す。職場の壁を殴って穴を開けてしまい、そこに書類を貼って隠していることや、夏海が部屋を出て行って三週間経つこと、前任者の作業ノートを隠し持っていること、前任者が三宅マネージャーに経歴を笑われ、ひどく傷ついていたこと、ここのところ親知らずが痛いこと、夏海と新宿御苑にいったときの写真でオナニーをしてしまったこと、俺が俺であること、三宅マネージャーと付き合っている武田ちゃんのSNS非公開アカウントを知っていること、貯金がないこと、職場で人を殺してしまうんじゃないか不安であること、よそはよそであること、うちはうちであること、俺が俺であること……

 うんうんと相槌を絶やさない高良に喋っているうちに、僕は胸にすーっとした空気の通りを感じて、あれ? なんでしょうねこの話。高良は優しい声で「それはあかんな」などと言いながらも、なんだよ、ちょっと笑ってやがる。なので僕もひとまず笑っておこうと思う。二人して互いの雰囲気に飲まれてへらへらした笑いが止まらなくなり、気がつくと大声こそ出しはしないが僕も高良も肩を小刻みに上下させていた。息を切らした高良がビールを口に含んでむせ、僕が喉の奥からアザラシの屁みたいな音を出して前後に揺れていると、ついには括約筋が緩んで放屁した。放屁といえば、「屁」は「へ」なのに、「放屁」のときは「ひ」なんだな、ということを言うと、にんげんだってそうやん、と高良が言った。僕はやつのことをじっと眺めてみる。僕だって高良みたいに良い服が着たいのだ。あの肌ツヤがほしいし、引き締まった身体がほしいのだ。

「ところでおまえが見たっていうお墓なんだけどさ」

「うん」

「本当にお墓?」

「しらない」

「別のなにかじゃない?」

「別のなにかって?」

「羊羹とか」

 ありがとな、高良。

 それから高良は自分の仕事に関する話をする。取引先のパーティで知り合った政府高官から、某国のミサイル発射をきっかけに第三次世界大戦が始まるとの話を聞いたらしい。冗談じゃないんだよ、おれもおまえも跡形もなく吹き飛ぶんだよ、どうこうできる話じゃないよ、でも自分じゃどうにもできないことで、人生に関するあらゆる選択が必要なくなると思うと、すごく楽じゃない?

「楽なのはだいたい好きだ」

 と僕は言った。な!? せやろ? と高良の弾む声を浴びながら、僕は頬杖をついて目を閉じた。ああ、そうだよ。僕は忘れないうちに、十年休み続けている友人について聞いてみる。高良は彼と仲がよかったはずだし、ついでに連絡先でも教えてもらえるんじゃないかという期待があった。なのに「ああ、ごめん」と高良は言った。 

「あいつおれもここ三年くらい連絡とってないよ。おまえとだってそうだったじゃん。仕事とかしだすとなかなかさ」

「まあそうか」

「たしかに、またみんなで集まりたいな」

「そうだな」

「あ、ふふふ。そうだほら、覚えてる?」と高良はガールズバーの女の子たちと開催した合コンの話をしたが、僕はそれに誘われていない。

  店員が裏にして置いていった会計の紙に手をのせて、雑多なテーブルの上をしばらく眺めていた。それからちょっとだけ勇気を出して、僕は僕の期待を口にした。

「まだ休んでるといいな」

 高良は真顔で肯いた。

「だってあいつの天職だから」

 

 店を出てすぐの交差点で、彼は乗り継ぎ先の終電に間に合わないからと、彼女のマンションまでタクシーで向かうと言った。

「今日は来てくれてありがとう」

 駅までの短い道のりだった。人はまだ大勢歩いていたし、街も明るかったが、気温だけはすっかり真夜中のそれで、僕らは肩を強張らせたまま足早に歩く。

「これからいくマンションの彼女、おれの知ってる人?」

「いや、知らないなあ。付き合ったの今年入ってからだし」

 クラクションが鳴る。歩道を自転車が通り抜ける。

 駅の入口が見えてきた。僕は一旦立ち止まって、高良と向かい合い、すでに言ったような挨拶を何度も繰り返す。高良は僕の肩に手をのせ、二度叩いた。

「根つめるなよ」

「うむ」

「あと適度になにもするな」

「そうだな。ありがとう」

「ひとりで悶々とする時間をちょっとでも減らせよ。俺でよければまた飲もうぜ」

 地下鉄の座席は温かくて僕はうとうとする。駅から部屋までの道のりはイヤホンからの音楽を大音量にして歩いた。途中にあるコンビニで僕は大量の衣類用消臭剤を買う。ボス戦前のセーブポイント気分だ。両手に霧吹きを握りながら羊羹の化け物を探したが、その日はどういうわけかなにも起こらず、僕は歯を磨いて冷たいベッドに潜り込んで寝た。なんと11時間。

 

 

 

 お昼休み、休憩室のテレビでニュースを見ていると武田ちゃんが入ってくる。入って早々、彼女は「真山さんいい匂いしますね」と言った。

「これなんの匂いですか?」

「今日は森林の香り」

 僕は衣類用消臭剤を振りまく手振りをしてみせた。愛想笑いの彼女はケトルに水を入れ、そのスイッチを入れてしばらくシンクに手をついたあと、「お腹すいた」と小さく呟く。武田ちゃんはアニメに出てくるような声をしている。三宅マネージャーはオタクっぽいので、きっと武田ちゃんのこういうところも好きなのかもしれないな、と僕は思った。ちなみに月村さんからの最新情報では、彼女はもう三宅マネージャーとは付き合っていないらしい。SNSのアカウントも削除されていた。僕はまだ三宅マネージャーを殺したい。

 ケトルからマグカップにお湯を注ぐ武田ちゃんが、沈黙を気にしているように見えたので、僕は僕でテレビを注視しているふりをした。児童虐待の容疑で30代の夫婦が逮捕された。警察が女児を保護するに至ったきっかけとして、ある男性の勇敢な行動が紹介されていた。その男性がインタビューに答えている。

 

 

「日頃から……そうですね、泣き声とかは気になっていました。迂闊に動くのもどうかなとは思いつつ、万が一の可能性を見過ごしてしまう方が危険に感じたので。それでちょうど、私は現在仕事を休んでいる状態でしたので、まとまった時間がありましたし、児童福祉関連の施設や通告義務、保護の過程などをネットで調べまして、結果的には普通に110番通報したんですが……」

 

 

 不意に「聞きました?」と武田ちゃんが言った。なにを?    「月村さんと高尾さんの話です」と彼女は声を潜めた。

「不倫してるみたいですよ」

「え、そうなんだ」

「でもただの噂です」

「へえ」

 僕は武田ちゃんに「好きなの見ていいよ」とリモコンを渡して休憩室を後にする。作業場まで戻るのに階段を使うようになった。肩で息をしながらテンキーに指を伸ばした僕はすぐに思いとどまり、腰にさげた道具入れから衣類用消臭剤の霧吹きを手に取る。

 午後も無事終えられますように。

 今日は勤務終了後に面談がある。

 正中線をなぞるように一吹き。森林の香りには、脳のもやを晴らす効果がある気がする。

 もやか。作業台の下に、エアダスターの空き缶が大量につまれてあったのでそのガス抜きを行うことにした。ぜんぶで何本だ? 数えながらふと、夏海に謝らなきゃなと思う。いやいや、ふと思ったわけじゃない。ずっと思っている。謝らなきゃ。もっとちゃんと。ちゃんとってなんだろう? という自問で逃げる事は絶対に許さない。夏海に会いに行かなくちゃならない。夏海に会うには休みがいる。休みを得るには、仕事を片付けなくてはならない。 

 どうしたもんかねえ。数本目のエアダスターのガスを抜きながら、そういやこれって可燃性だよな、と思う。作業台のパソコンが、ぱぼん、と音を立てた。

 

 

 

 

 

 



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どうでもいい話だけする

 

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去年の12月に、高校時代の友人をポケモンカードに誘った。

 

適当な居酒屋の個室を予約して、酒を飲みながらバトルしようというねらいだったが、実現しないまま3月を迎えてしまいました。1月はわりと長めに感じたのだけど、2月に至っては3日分ほどの記憶しかない。思い出せるとしても仕事関係の記憶ばかりで、それがとてつもなく癪だ。僕は仕事が本当に嫌いなので、実際に長らく無職でいたほどの男だ。みなさま、その節は大変お世話になりました。

 

ポケモンカードに誘ったその友人だが、高校時代は居眠りの常習者だった。一番前の席でも堂々と居眠りするので、まるでそこには誰もいないかのように振る舞う先生も出てくるほどだった。

あるとき、眉毛の細い三十代の現代文教師(空手部顧問)がその友人の態度に激怒して廊下に連れ出し怒号を浴びせた。その教師が大嫌いだった僕としては、傍から見ているだけでも居たたまれない状況だったのだが、その友人は表情を変えることなくただじっと時を過ごしていた。

ああいうときって一体何を考えているんだろう?と僕はずっと気になっていたが、それを聞くのは随分改まった行動のように思えてこっぱずかしいので、一緒に弁当を食べたりする際も基本的にどうでもいい話だけをしていた。

 

どうでもいい話とは、村上龍の『イン・ザ・ミソスープ』に出てくるフランクが最強だから読んでみて、とか、浦添の高台にそびえ立つライオンズマンションは国道側から見上げるとめちゃくちゃ胸にくるとかそういう話です。 

 

僕と友人は実際に浦添にあるライオンズマンションまで行ったりもした。間近で見上げるマンションの、無数の窓にきらめく物語の予感に興奮し、かといってほかにやることもないので、早々に友人のおじいちゃんに迎えを頼むも、なぜか電話に出てもらえず、仕方なくマックに寄ってクラスの女子の話をして、いよいよ迎えを諦めてそれぞれの家まで3時間ほど歩いた。僕らは高校生だったので夜の10時以降は補導対象となってしまうのだが、歩いて帰るにはあまりにも家が遠く、僕らはまんまと国道沿いで夜の10時を迎えてしまった。僕は警察に補導されてそのことが学校で問題にされたら嫌だな、と怯える一方で、こいつは補導されたところであの無表情のままやり過ごすんだろうな、とも思って自分を鼓舞した。

 

高校を卒業して、僕は県外の大学に進学した。友人は浪人生となったが、勉強せずとも入れるような地元の私立に進学するからと、あいも変わらず堂々と過ごしているらしいことが、僕のもとにもなんとなく届いた。

 

6月の半ばのことだった。友人が僕の携帯に電話をかけてきた。深夜のことだった。

 

「もしもし」 

 

友人は普段から声が小さいので、本当に携帯を耳に当てて喋っているのか、机の上にでも置いて語りかけてるんじゃないのかと不安になるほどの声量で言った。

 

「ハメハメをしてしまった」

 

当時友人は浅野いにおの『おやすみプンプン』にハマっており、作中でプンプンが童貞を卒業した際に用いた語彙でもって僕に報告したのだった。僕は『おやすみプンプン』を読むといたずらに気分が暗くなるので読むのをやめていたのだが、その文脈だけはかろうじて読み取った。

 

「え? なに?」

 

僕は狼狽していた。それでも平静を装い、「よかったじゃん」とだけ言った。すると友人は「よくねえよ!」と怒り出した。

 

「なんだかよくわからないが、ショックをうけている」

 

らしかった。

僕は僕で、まあそういうもんなのか、という思いからちょっとだけそわそわした。たしかによくよく考えてみれば、童貞を卒業して、だからなんだという気もする。卒業ということは、なにかの始まりでもあるのだ。ああ、かわいそ。これでもう新しい世界に踏み出して行かなくちゃならないね。おれはここでシコってるけどね。

 

彼は童貞卒業後、兼ねてからの予定通り大学に入学するも早々に中退した。らしいっちゃらしかった。しかし短い在学期間で知り合った友人らとバンドを組み、間もなく上京する。wikipediaに項目ができる。セカオワのDJ LOVEが隅っこでスマホをいじっているような打ち上げにも行く。無職時代の僕と年に数回飲む。しかし年中お金がないので、スマホの通信を止められる。H&MのフリーWi-Fiを使って連絡を取り、渋谷で待ち合わせをする。

 

そして僕にポケモンカードで負ける。

 

ふつうに大変なんだろうけど、僕は昔からずっと彼のことを羨んでいる。でもこんなことを言っていると「よくねえよ!」と怒られるかもしれないので、どうでもいい話だけする。

 

 

 

 

 

 

長い1月

 
 

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スマホ用のBluetoothキーボードを買った。
 
打鍵に問題アリかと思っていたが結構強めに打つと調子がいい。この文章はコクーンシティのスタバで打っている。バチバチ打っている。殴りつけるような打鍵。それが俺の文章のグルーヴを焼き付ける秘訣なのだ。
 
 
なにが文章のグルーヴだ。日曜に『蜘蛛の巣を払う女』を観た。楽しいサスペンスアクションで、画の見せ方にきちんと血が通っていて丁寧な印象……要するにめちゃくちゃ楽しかった。フィジカル面でも活躍するハッカー最強演出に疑問を抱く人もいるだろうけど、個人的には「何かに精通している人はその他のこともある程度器用にこなす」という持論があるので、むしろ腑に落ちるような印象。物事の理を解いているからこそなんらかのエキスパートになれたはずなのだ。ということでマイケル・マン監督の『ブラックハット』に引き続き、リスベット・サランデルという女傑の誕生を心から楽しみたい。氷上を走るバイクのシーンの目の覚めるような興奮は忘れません。サイコー!
 
 
などと言っている間に1月が終わる。
 
 
今月は正月早々大してやることもないのに職場で文鎮としての役割を全うした。動かざることマグロのごとし。そのおかげか、今月の給料がちょっとだけ増えていた。
 
 
職場のあまり人望のない人の開催した小規模な新年会にも参加した。計5人集まった。みんな翌朝早いという人ばかりで、2時間半でお開きとなった。僕は新しい環境に飛び込むのも大事だなという気持ちを胸に2019年を過ごしていきたいと思っていたので、参加したという実績解除に満足した。
 
 
今月はTwitteきっかけで二名の方と会った。一人目はディレクター業に始まり様々な活動に従事している方だった。昨年末にお誘いいただいたこともあって大宮のサイゼリヤで三時間ほどお話した。本気の身の上話をし合って、僕は僕の人生のあまり振り返ってこなかった部分を振り返り、伝えることで、取りこぼしてきた諸々の感情をいくつか咀嚼できたような気がした。大学時代に引きこもって、その状況から抜けたはいいものの、日々に対する居心地の悪さと後悔からくる諦めの強要に疲弊していた僕はオタサーのドアを叩いたのだ。そこにいたみんなが僕の当時の状況を「人によってはままあること」としてさり気なく受け止めてくれ、僕もそこにすんなり甘えられたのでうっかり忘れていたが、実はめちゃくちゃありがたいことだったなとか、そういう気持ちを十年越しに抱いたりした。僕の話を傾聴し、引き出してくれたMさんあっての経験だし、これはある程度一緒に過ごしてきた人相手にはしづらいものなので、やっぱりどんどん、いろんな人に会うべきだと思った。
 
 
二人目の方からはポメラDM20を譲っていただいた。ポメラはめちゃくちゃ高いので、数カ月先を目処に金でも貯めるかと思っていたのだけど、まさか無償で譲っていただけるなんて。Twitterは時としてとんでもない側面から光を差しやがる。2019年、世界はこんなにもめちゃくちゃで心が曇ってしまいそうにもなるが、いやいや本当にありがたいことです。僕はもう東京方面に足を向けて眠れません。さらにそのお方は、ポメラの調子があまりよくないからと、お菓子のおみやげまでくださり、脳がパンクした。僕は物をいただく側のくせになにも用意しておらず、いくら生活苦のまっただ中とはいえ誠意を示すべきだった。今年こそ『HIGH&LOW』に手を出すぞ。本当にありがとうございます。
 
 
なぜ生活苦に陥っているのかというと、給料が低いのもそうだが、新年早々、部屋のブレーカーが腐食していたせいで給湯器とエアコンがショートしたからだ。よりにもよってこんな寒い時期に。しかもシフト制の勤務形態のため、確認やら修理やらで部屋を訪問してくれる業者の方との時間がなかなか合わず、ほぼ一週間近く風呂なしの生活が続いた。さすがに風呂には入らないといけないので、薬缶で沸かしたお湯で洗髪したり、蒸しタオルで身体を拭いたりしていたが、ひと駅隣にある銭湯まで赴いたりもした。それが結構な出費と疲労を生み、僕はすっかり虎の目に。職場の機械が不調を起こしそうになるたび「今年は機械運に恵まれていないのではないか」「おまえも僕をこけにしているのか」ときつい態度に出た。
 
 
だからこそ一週間ぶりにお湯が出た日の感動は忘れられない。
 
 
でもたぶんすぐ忘れる。
 
 
この前、インスタントコーヒーを飲もうとして、スイッチを入れ忘れたケトルから直接水を注いでしまった。幸いにもすぐ気づいたが、そこで僕は新しい粉を追加するよりも沸かし直したお湯を多めに入れることでなんとかしようとした。結果、ぬるくてめちゃくちゃ薄いコーヒーが完成したわけだが、こんなふうに、なにかを取り繕おうとしてめちゃくちゃになることが多い。絡んだ紐の両端を勢いよくひっぱるような真似ばかりしている。
 
 
なにはともあれ、これからも色んな人に会っていけたらなと思う。
 
 
結局のところ、いい人頼みの人生なのだ。昔っから。
 
 
 

 

 
 

今週短歌(1/21〜1/27)

 

 

 

ため息を浴びたパソコン構われずやがてうっすら顔色翳り

 

 

丸まる背伸ばして気づく壁のシミもう続きのない家系図みたいで

 

 

長押しで全消しされた我が願い よかったとっくにツイートしてて

 

 

億劫と戯れ飽きた三十路前 また自慰行為に二時間かけて

 

 

インスタで見つけた画像触れたくて指紋で汚れたハートの点滅

 


つゆだくの窓のひかりのつぶどもが配信ドラマをきらきら邪魔する

 


中学生らしきカップル手をつなぎ互いの太ももさするはスタバ

 

 

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2018年公開映画ベスト&色んな賞

 

 

【2018年公開映画ベスト10】

 

 1位 スリー・ビルボード

 2位 ミッション:インポッシブル フォールアウト

 3位 ビューティフル・デイ

 4位 イコライザー

 5位 来る

 6位 ウインド・リバー

 7位 search/サーチ

 8位 ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ

 9位 オーシャンズ

 10位 アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー

 

 

 

 

ベスト10選評

 

10位:『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』

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当初から示されていたラスボス・サノスの本格的な登場&大暴れが炸裂する今作。地球と宇宙両方で繰り広げられる死闘それぞれの異常に高いクオリティと、「ついにこんなところまできてしまった」という感慨の深さ。MCUというエンターテイメントのパワーを再々再度強く実感した今年の一本。こんなに苦いお祭りもない。はやく『エンドゲーム』を!

 

 

 

9位:『オーシャンズ8』

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最高の服を着て歩く。それがどれだけ楽しいことか。このシリーズに共通するヘラヘラとしたノリも健在で嬉しい。助っ人のテキトーな登場など、肩の力が抜けていて、それでいて決めてくるところが本当ににくい。

 

 

 

8位:『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ

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麻薬王の娘イザベルを演じたイザベラ・モナーの存在力と、メキシコのチンピラ集団に届いたブラックホークの轟音に痺れた一本。境界線の向こう側を絶対に見届けたい。 

 

 

 

7位:『search/サーチ』

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カーソルの点滅で示す逡巡。投稿されずに消された言葉。膨大な情報からすくいとる小さな真実。絶対に娘を諦めない父親のクリックに涙。

 

 

 

6位:『ウインド・リバー

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極寒の地で死んでいく少女たち。突発的で乾いた銃撃戦。閉じ込められた呪詛。アベンジャーズがサノスと戦っている間、ホークアイは保留地でハンターをやっていました。

 

 

 

5位:『来る』

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中島哲也の新作かよ~と思っていた僕に、豪速球の除霊エンターテイメントをぶつけてきた今作。日本最強の霊能者・比嘉琴子を演じた松たか子のかっこよさに始まり、 沖縄から上京するユタ軍団、新幹線にのってあらわれたスーツ姿の男達、女子高生巫女sに隻腕の柴田理恵など、霊能者版『スモーキン・エース』化してからはもう興奮の坩堝。原作を楽しく読んだ僕でも「かかってこいやぼぎわん!」と拳を強く握りしめずにはいられない。ストレスを抱えた妻夫木聡が居酒屋の店員に怒鳴りつけたシーンで居酒屋店員がすぐ臨戦態勢に入るなどの中島哲也っぽい世界観は相変わらずですが、ぜひとも『ずうのめ人形』もよろしくお願いいたします!

 

 

 

4位:『イコライザー2』

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 今回もロバート・マッコールが心優しき異常者としてちゃんと描かれていたので良かったです。笑顔でピストルを撃つ真似をするシーンのあの恐ろしさは、ロバート・マッコール以外の誰に出せましょう?

 

 

 

3位:『ビューティフル・デイ

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なんか『ドライヴ』っぽい!と思って楽しんだ一本。PTSDの症状としてフラッシュバックされるだけの過去など、無駄を削ぎ落とした演出のさなかふと現れる、予想外のエモーション。

  

 

 

2位:『ミッション:インポッシブル フォールアウト』

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トム・クルーズがまたやべえことやってるぞ!で映画館に向かう体験の豊かさ。トイレ大破の肉弾戦。パリ市内のバイクチェイス。ロンドン全力疾走。ヘリ宙吊り&操縦と書き起こしきれないサービス精神。向こうが全力でやってくれてるんだから、こっちも全力で楽しみに参ります。という今後への誓いを立てた一本。

 

 

 

1位:『スリー・ビルボード

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今年は完全にこの映画にやられた一年でした。あれやこれや思い出すと同時に、こんな話がつくれたらなあなどとぼーっと考えてしまうなど、一年を通して費やされた時間が最も長かった一本。ほんとうに許せないと一度でも思った人間であんなにも泣かされるとは。あのラストの塩梅も非常に好き。この世界に対して「怒るな」なんてとても言えないけど、怒りだけじゃ絶対に足りないのだ。

 

 

 

 

色んな賞

 

 

【ベストガール賞】

ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』より

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イザベラ・レイエスイザベラ・モナー) 

メキシコの齋藤飛鳥って感じでいいですね。

 

 

【ベスト無職賞】

『ヴェノム』より

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エディ・ブロック(トム・ハーディ) 

物語開始早々クビになって時間ができたからこそ、ヴェノムとの交流の時間を設けることができたのだと思います。

 

 

 

【結局誰だかわからなかった賞】

 

ミッション:インポッシブル フォールアウト』より

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トイレの男(リャン・ヤン) 

どうしてあんなに強いのよ。

 

 

 

【ベスト楽曲賞】

 

『ヘレディタリー/継承』より

www.youtube.com

『Both Sides Now』(Judy Collins)

歌詞の意味が響いてくるのもさることながら

どこか抜けの良さがある良い選曲だと思います。

 

 

 

【ベストアバンタイトル賞】

 

ミッション:インポッシブル フォールアウト』より

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テッテレ~。

 

 

 

 

【ベスト・スタンドオフ賞】

 

ウインド・リバー』より

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 火災報知機を見たときに押した自分を想像してヒヤッとするようなあの嫌な緊張感と、その崩壊を望む不謹慎な衝動が入り交じり、思わず呼吸を忘れてしまいました。

 

 

 

【ベストTバック賞】

 

ウインド・リバー』より

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ジェーン・バナー(エリザベス・オルセン

キャラの説明にもなっているナイスなTバックでした。 

 

 

 

 

 

~総評~

今年はワーストだと感じるような作品には特に出会いませんでした。嫌いであろうと予想される映画にはなから近づかなくなったからかもしれません。

しかしさらによく考えてみれば、楽しんだ映画でさえ、詳細が記憶からこぼれ落ちていっているような感覚があります。ベスト10は選出しましたが、今年は例年にもまして心ここにあらずといった状態が続いていたようです。心配です。

日々、僕自身から数少ない豊かさが滲みでて乾いてこぼれ落ちていきます。あまり気張らず、来年も映画と好きな様に接していきたいと思います。

 

 

 

 

 

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『イコライザー2』/リアルサウンド映画部さん、試写状ありがとうございました

 

イコライザー2』の試写状が当たったので早速観てきた。

 

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観ている間、日常で不安に思っていることなどが意識に忍び込んでくることもなく2時間ずっと楽しかった。それこそ鑑賞中に「あれ?いまんとこまだ余計な心配事で映画に集中できていない、みたいなことが起こっていない。いまこうやって意識的に確認しても画面で起こっていることのほうが重要だと思えているし、早くその先を知りたいという衝動が最優先されている、こんなふうに映画に釘付けになるのはいつぶりだろう?それこそ隣のおばあちゃんがなぜか口呼吸で、その口臭がけっこうキツイのだけど、よくよく観てみると映画に釘付けで口が開いてしまっているんだ、なんだ僕と一緒じゃないか、よかった、この口臭もちょっと嬉しくなってきた、あんぐり口が開いてしまっているのだ、あんぐり口が開いてしまう経験なんてそうそうできるもんじゃないだろうに、つまり『イコライザー2』を鑑賞できているこの瞬間の喜びがより増しただけにすぎない、期待しすぎてちょっと不安、とか思っていた自分もいたのに、開始早々、悪党にあの分厚い拳を叩きつけるロバート・マッコールを観てその迷いのない演出に破顔したし、直後に訪れる死臭すら感じさせない静寂と、その静寂のなか佇むロバート・マッコールの画を絶対に忘れない点からも伝わるアントワン・フークア監督の強い気持ち・強い愛に僕は全身の余計な力を抜くことに何の迷いもなくなったのだ、そこにいるのはイコライザー、ロバート・マッコール、そこに君臨した、いや、降臨したかのような圧倒的な存在感、目撃してしまったというこちらの戸惑いをものともせず、迷いない言葉で悪党に語りかける。

 

選択しろ。

 

選択するのは悪に手を染めたやつらのほうなのだ。その頑なで真っ直ぐな姿勢にこちらはもう、ただただその結果を見届けるだけ、介入なんておこがましい、ロバート・マッコールがやってきたのだ。ロバート・マッコールがやってくるだけのことを、してしまったのだから。お前が見るのはあの深淵のような瞳だ、そこに映っているのはなんだ?選択したお前自身の顔だ。それ以外にはなにもない。

 

選択しろ。

 

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★★★★★

 

本当に最高で、最高であることが嬉しかった。

 

試写会って、一回しか上映してくれないの?」と思ってしまったほどだ。

 

また観ます。

 

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BANG!BANG!晩秋

 

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AV男優の箸の持ち方がどうしても気になって、動画を一時停止させて注意深く確認しているうちにWi-Fiの接続が切れ、ディスプレイの中心で小さな円がくるくる回り、再接続するのも面倒で、そのままパソコンごと電源を落としました。もう秋です。

 

Netflixオリジナルの『オザークへようこそ』というドラマがあり、そのシーズン2が配信されたので全話鑑賞。メキシコ麻薬カルテル資金洗浄係をしていた会計士が、同僚の裏切りによってカルテルの怒りを買い、殺されない条件としてとんでもない額のマネーロンダリングを期限付きで請け負うという話。ジェイソン・ベイトマン演じるこの会計士だが、妻と二人の子供がいるので、一家揃ってシカゴからオザークというど田舎まで避難し、家族総出で資金洗浄に勤しむのだが、これまたわんこそばのようにトラブルが舞い込むので鑑賞も止まらない。ものすごく忙しかった日はあっという間に一日が終わってしまうように、全10話がすぐだった。麻薬カルテルは怖い。『ベター・コール・ソウル』シーズン4も観なきゃ。

 

世の中、面白いコンテンツが大量にあり、かつ簡単にアクセスできてしまうのでほんとうに困る。

 

前も書いたようにポケモンカードにハマっているのですが、カードの生産とトレーナーたちの欲望がどうにも釣り合っていないらしく、近隣の店を回っても目的のパックにありつけないなんてことがザラなので、どうしたもんかなと思っていると、職場のネット通の人が「2ヶ月先にやばいパックが発売されます。でも、すでに予約できません」とか言い出し、もうなにもかも嫌になってきました。

 

適度な刺激が続かないと、大概の欲望はひとりでに燃え尽きてしまうのかもしれない。鉄は熱いうちに打て。シコり始めたらさっさと出せ。欲望があるうちが華なのよ。僕の頭のなかで広瀬すずがそう言っています。

 

逆に、これには触れなくてもいいと判断がつくような事前情報があるとありがたいような気がする。「福田雄一監督」とか、「サンマーク出版」とか、そういう情報には何度も助けられてきました。これを逆手に取って、あえて我慢しておきたいものに「福田雄一監督」とか「サンマーク出版」などと足しておけば、一時の激しい欲望を一旦封じ込めることができるのかもしれません。

 

 

ポケモンカードイクラスパック「GXウルトラシャイニー」(福田雄一監督)

ポケモンカードイクラスパック「GXウルトラシャイニー」(サンマーク出版

 

 

でも欲しいものは欲しいのです。

 

僕はいまポケモンカードイクラスパック「GXウルトラシャイニー」という11月発売予定のパックがめちゃくちゃ欲しい。ネット予約はどこも全滅。Amazonだと定価の2倍以上の値段で売りに出されている始末。まだ9月なのに。頑張ってポケモンカード取扱店に問い合わせれば、まれに予約することができるとネットには書いてあるが、季節の変わり目、僕はとても疲れてしまいました。どうせ転売目的のしょうもねえやつらが買い占めているので、ここは公式さんが大量に追加生産して、しょうもねえやつらを全員泣かしてほしい。

 

僕はただ、近所の団地に集まってみんなで遊んでいたときのように、ポケモンカードに触れていたいだけなのです。しかし結局は財力がモノを言う。財力財力財力。ここでもまた退屈な約束事に縛られて、うんざりです。

 

 

・『ポケモンカードやめます』(福田雄一監督)

・『ポケモンカードをやめたら人生うまくいった』(サンマーク出版

 

 

 

すべてを手に入れたかのように見えた買い占め転売野郎どもが、最後の最後、脳裏に思い浮かべるのは、きっと「塗装の剥がれたラッキーのコイン」なのだと思います。

 

 

 

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15年ぶりにポケモンカードにハマりました

 

 

職場の人に誘われてポケモンカードを始めたらハマってしまった。

 

職場の人とは基本的に恋バナ以外で交流を持ちたくないとか思っていたのだけど、ポケモンカードはハマった。というのも、僕は小学生のころにポケモンカードをがっつりやっていた時期があったからだ。

 

僕の家のすぐ向かいに建っているアパートにHという同級生が住んでいた。Hはポケモン以外の娯楽をほぼ禁じられていた男で、彼の家にはポケモンカードが山のようにあった。彼には歳の離れた兄がおり、僕らが小学校中学年くらいのころにはすでに高校生だったその人もポケモンマスターだった。カードを几帳面にコレクションし、日々デッキの鍛錬に余念のない男だったのを記憶している。当時小学生だった僕だが、この男はただもんじゃないなという空気だけははっきり感じ取っていて、Hと遊びつつ、その兄が学校から帰ってくると少しだけ緊張したものだった。そんな兄に日々鍛えられていたH。しかし特別カードバトルが強いというわけではなかった。才能云々の話なんかしたくない。Hはたぶん、優しすぎたのだ。

 

僕の部屋の窓がHのアパートに面している側についていたことから、互いにカーテンの開き具合などから判断してよく遊んだ。夏休みなんて毎日バトル三昧だった。近所に公営団地があって、そこにも多くの同級生がいたことから、よく遊戯王カードなどをもって遊びに行っていた。でもポケモンカードにまで手を出したのはHとHに誘われた僕くらいだったので、ポケモンカードはHとしかバトルしなかった。

 

Hは現在音信不通だ。

 

15年という歳月は、そういうことが起こる余地を十分にもっていた。

 

ポケモンカードを再開するにも、昔のカードがどこにあるのかなんてわからない。新しいカードを揃え、デッキを作る必要がある。そんな懸念を抱いていた僕だったが、なんといまではタイプ別のデッキがワンコインで買えるのだ。

 

www.pokemon-card.com

 

僕は闘タイプのデッキを選択した。

 

 

ゲーム版のポケモンは『金/銀』で止まっているので、ルガルガンなんてポケモンは知らないし、GXという概念も僕がやっていた当時のポケモンカードにはなかった。新しいことを始めるのはいつだって怖い。でも、進まなければ。

 

いざバトルのルールなどを振り返ってみる。いまはスマホでなんでも調べられるので、ローカルルールのようなものが生まれにくいんだろうなとかちょっとだけ思った。

 

www.youtube.com

 

GXとは「1バトルに1回だけ使える強力な技を持ったポケモン」のことだった。

 

そんなこんなで数回のバトルを経験し、なんとなく当時の勘も思い出してきたあたりでちがう目的が生まれる。デッキを強化したい。もっといいカードがほしい。じゃあどうすればいいのか。手に入れるしかない。

 

他のポケモントレーナーたちに話を聞いてみると、みんなそれぞれの方法でデッキの強化を図っていた。ある者は同タイプのGXスタートデッキを2つ買い、ポケモンやエネルギーカードの配分を変更したオリジナルブレンド・デッキを組み立てていた。またある者は拡張パックに手を出していた。拡張パックとは、1パックあたり5枚~のカードがランダムで入っているものだ。

 

www.pokemon-card.com

 

そんなものに手を出してしまったら、目的のカードが出るまで購入を止められなくなってしまうのは目に見えていた。それでも僕はホビーショップに赴き、なんの考えもなしに店頭で目に入った拡張パックを購入した。闘タイプデッキで無双する、未来の自分を夢想しながら。

 

そして運命的な出会いを果たす。

 

マーシャドーGX」を手に入れたのだ。

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そもそもマーシャドーというポケモンを僕は知らなかったのだけど、闘タイプでGXでしかもたねポケモン(進化が必要なく、即戦力となるポケモンのことをそう呼びます)であるマーシャドー。早速デッキに加えてみる。ルールから60枚で構成されていることに変わりはなかったというのに、デッキの厚みが増した気がした。

 

いざバトルで活躍させてみると、その使い勝手の良さにマーシャドーへの愛着も増す。GXにしてはHPが低めなのが玉に瑕だけど、これだけ活躍してくれているマーシャドーにそんなこと思う必要があるのだろうか。僕が戦法をしっかり練ればいいだけの話。我がデッキに入ってくれてありがとう。いまはもうそれだけだ。

 

バトルの最中にその魅力に気づくカードも多々ある。GXスタートデッキに最初から入っているスタジアムカード「せせらぎの丘」なんてまさにそれだ。闘タイプと水タイプデッキにとってこんなにも都合のいいスタジアムカードもない。

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そんな「せせらぎの丘」とコンボで出したいポケモンソルロック

 

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例によってこのポケモンを僕は知らなかったが、場にスタジアムカードが出ていれば、エネルギーカード1枚だけで相手に40ダメージを与えることができる。こういった技を使うと、自分が利口になったような気になれて楽しい。

 

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一見、愛嬌だけで一定のポジションを得たようなやつに思えるヌイコグマ。GXスタートデッキに最初から入っていた。しかも数枚。愛嬌だけでなんとかなっているやつを見るのが嫌いだ。そう思っていた僕だったが、ヌイコグマは恐るべき進化を見せる。

 

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キテルグマ。相変わらず見た目は愛らしいままだが、その実力はモンスターの名に恥じぬ怪物っぷり。炎タイプ以外からの攻撃は➖30されるのがデフォルトという防御特性から、恐るべき破壊力を有した技まで飛び出す闘タイプデッキのキーポケモンだ。否定ばかりじゃ人もポケモンも成長しない。褒めそやすことで圧倒的なパワーを見せる者も世の中にはいるのだ。ヌイコグマの化け方から、僕は世の摂理を見た。

 

 

そんなこんなでポケモンカードを楽しんでいる。楽しみだすと、あれもこれもと気持ちが湧いてくる。「せっかくのデッキを専用のケースに入れたい」とか、「カード一枚一枚をスリーブに入れて保護したい」などだ。もちろん公式サイトを眺めれば、それらのグッズも充実していることがわかる。でも僕はもう少し、ストリートなスタイルでいたい。そんなワガママが僕を公式グッズから遠ざける。

 

僕は近所の100円ショップに向かった。そしてデッキケースとカードスリーブをそれぞれ購入。前々からその存在だけは認識していたので、いざ必要となると行動も早い。

 

写真はダイソーのカードスリーブ。上がちょっとだけ余るけど、幅はジャスト。

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さらにはメルカリでコイントス用のコインまで購入。ピカチュウかと思ったらピカチュウっぽい知らないポケモンメタモン系なんでしょうか。

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 そんなこんなで、僕はポケモントレーナーとしての長い道のりを再び歩き始めたのである。

 

 

 

デッキをシャッフルしていると、高確率でHのことが頭をよぎる。きっと彼は、いまも沖縄のどこかにいて、ポケモントレーナーとして納税していることだろう。そうであってほしい。じゃなきゃ困る。

 

僕はもう一度、Hとバトルがしたい。

 

きっといつかの夏と、同じにおいがする。

 

 

 

 

 

 

書き下ろし短編一覧(2019年3月23日更新)

 

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書き下ろし掌編:『Beat inside the bush』

 

 

 

須藤さんと飲むのが好き。好き好き。好きなの。うふふん。須藤さんは職場の先輩だった人。過去形なのは転職してしまったから。面接の際に、うちの職場の待遇のヤバさを不採用覚悟で愚痴ってみたら同情を買って親身になってもらえたとか話していた。須藤さんにはそういう気持ちのいい正直さがある。だからほぼ毎週飲んでる。てか、須藤さんの転職先はうちよりもずっと待遇がいいらしく、しょうじき羨ましい。か~。やだやだ。悔しいのでビールいいですか? あっし飲みますので。須藤さんも「どんどん飲みな飲みな痛風だけは気をつけな~」と言ってくれるので、うふふふふふ、じゃあもういっぱいだけ、中ジョッキで。須藤さんと飲むときは決まって割り勘だけど、転職してからは羽振りがいいので、いつもちょっと多めに出してくれる。ので、申し訳ない。いや、やっぱありがたい。マジ超好き!

 

みたいなテンションも近くに座る大学生軍団の大声にかき消される。でけえバッグ大量に並べてるところからしてテニサーか? テニサーだね。コールしてますね。コールしてるね、若いね若いね。声量やっば。みたいな感じで私たちが枝豆ほじくりながら話すのは、私の職場にいる安達健さんについて。新卒採用でうちの会社に入って数年、私よりもふたつ歳下だけどいまではマネージャー的ポジションについていて、休日は積極的に社長と食事とかゴルフに行ったりするような、そういうタイプの社員。まあ一言で説明できちゃうんだけどいまちょっと言葉出てこないので私は自分の手を重ね併せてすりすりすり……。背はそんなに高くないけど色白で髪が真っ黒で、実年齢よりもちょっと幼く見える。実年齢よりもちょっと幼く感じるのはなにも見た目だけの話じゃなく、未だに全然学生っぽい言動を見せるので、こっちもそんなに気をつかうことなく接することができるっちゃできる。といっても安達さんはたぶん家とかではネットばっかり見てるタイプの人っぽいので、ネット用語的な言葉が会話の端々で突然とびだしたりと、そういうノリはちょっと寒いと思うが、まあ、それはいま一旦置いておこう。大事なのは、今日出勤した彼の首に、赤いキスマークがついていたという点だ。

 

安達さんは違う部署で同い年の北川紗矢華ちゃんと付き合っているが、本人的にはそれを秘密にしているつもりみたい。でもみんな知ってる。私は朝の通勤時に、駅から職場までの道のりで前を歩くふたりが腕を組んでいるのを観たことがあったし、須藤さんは駅構内にあるカフェで二人がモーニングをとっているところを観たことがあるらしい。

 

私はいまの会社に転職して研修時に会ったときから北川紗矢華ちゃんのことが苦手だ。なんというか、彼女のなぞっている「女子」像が幼く感じるのだ。小学生のころいた、いじわるな子って感じで、物事や人に対していちいち現金なところがある。そういう振る舞いに義務感でも感じてるの? とすら思うときもある。

 

ちなみに北川さんは安達さんと違う部署なので、例のキスマークは安達さんと同じ部署の女達に対する牽制の意味もあるんじゃなくって? と須藤さんが言うのを聞いてなにかがいやに腑に落ちる。そもそも彼ピッピの首にキスマークって、マーキングだよね? ひえ~。うちのダーリンだっちゃ? あの女~! とゲラゲラ笑っていると心が急に罪悪感との均衡をとろうと働いたのか、私は自分の話を始める。

 

「でも気持ちはわかるんですよ。私も大学のころ付き合っていた彼氏にキスマークつけようとしたことありますもん」

 

「あ、そうそう。気持ちはね、私だってわかる。ただ百歩譲って学生ならね。仕事でそれするか~と思うんであって」と須藤さん。それですね~まさに。

 

「でもでも、私のとき、学生ですけど、彼氏は嫌がりましたよ。いやいや、首だと見えるじゃん。見せるためにやってるじゃんって。まあそりゃそうじゃん、と思いましたけどね。でも確かにあのときは彼氏の言うことが冷静でしたね。ダサいっすもんね。あぶね~」

 

「そうそう、もう見せつけが先に来てるから、彼氏も気分よくないんじゃないの? よっぽどおめでたくないかぎりは」

 

「ですよね。ってことはじゃあ、安達さんはおめでたいってことですね」

 

「そりゃ安達さんはおめでたいよ」

 

「かかか、あ、だってほら。まえ話したっけな。安達さん、自分が友達と飲んだときに撮った動画とか見せてくるんですよ。し、か、も! 見せる前に『おれの友達、マジでばかでさ~』みたいなこと言って! そう言われてから見せられるもの、だいたいリアクションに困らないですか?」

 

「わかる無理~」

 

「いや普通に若い男の子たちがギャハギャハ笑ってるだけのなに言ってるのかもわからない動画ですよ? 人に見せるものじゃないですって。しまえしまえ」

 

「安達さんね~、そこも学生っぽいよね、結局」

 

新しいビールが到着した。泡の涼しげな苦味で口の中を満たす。ジョッキの表面を覆う霜に、指先で丸を描いてみる。キスマークがダメなら、じゃあなんならいいのか、そもそもマーキングが必要なくなるにはどうすればいいのか? お酒が回って私も須藤さんも「あれ」とか「みたいな感じ」とか「なんとか」を多用するので、まったく話が深みを得ない。

 

はは、深みって。

 

深み、要るか? 要りません。だって話はぐるぐる迂回しながらもちゃんと進展し、私に大事な経験を思い出させてくれたから。脳の片隅に置きっぱにしていたものに、ようやく光が当てられたのです。わかる? 私はわかる。

 

愛のあるセックスについて。

 

私が口に出した途端、須藤さんは口を放した風船みたいに笑い始めるが、私は自分の発した言葉の響きにハッとして固まる。あ、あああ愛のあるセックス? ワオ~。素面だったら即死だった。

 

でも私は知っている。愛のあるセックスについて。だからこそ、ここで私は笑わなかった。この言葉の強度を信じられているから。

 

もちろんキスマークを残そうとしたような私だ。当時の彼氏とて、キスマークを断ったというだけで、ちょっとAVっぽい真似をしてみたいという提案なんかはわりとしてきて、私もまんざらじゃなかったので、エッチな下着をつけて相互オナニーとかした。穿いているパンツに射精もされた。私のことを笑っている須藤さんだが、本格的に奔放なのは須藤さんのほうだと私は思っている。最近いつセックスしました? と聞こうと思っていると、ふと須藤さんが神妙な顔で「私ね」と言った。

 

須藤さんは潮を吹けるタイプらしい。

 

潮吹きって痛いって聞くけど実際はどうなんだろう?

 

でもお気に入りのAV女優は潮吹きを売りにしているけど毎度「気持ちいい~!」と言いながら吹いているから、痛いなんて嘘なのかなと思っている。須藤さんにも聞いてみようかな。でもそれはちょっと違う気もする。いまは喉にストッパーがかかっていて、質問を投げられない。

 

私は潮を吹いたことはない。

 

「やっぱ潮吹くときって『イク~!』とか言うんですか?」

 

 という私の質問に、須藤さんは首を傾げる。

 

「え、でもあんまり『いく』とか言わなくない? キムは言う?」

 

いわれてみればそうか。「言わないっすね」

 

「いくときは基本黙ってるね」

 

「黙~……まあそうですね」

 

でも潮を吹くことが究極の絶頂というわけではない的なことを、以前どこかで読んだことがあるので、あまり悔しくはない。まあ比べることでもないのか。だってべつに潮は吹けなくていい。もちろん、わざわざ告白してくれた須藤さんの前では言わないけど。

 

だってね須藤さん。私一回だけあるんです。どうしても忘れられないことが。

 

ビールのジョッキについた霜がとけて水滴となり、私の描いた丸の上に一本の筋をつくっている。あれ、急に静かになって。ちょっと須藤さん、聞いてますか? ていうか起きてますか? 聞いてくださいよ。私、大学時代に彼氏とセックスして、一回だけ、もう二度とないんじゃないかってくらいめちゃくちゃ幸せで、絶頂のとき思わず叫んじゃったんですよ。どうしても伝えたくて。なんて言ったと思います?

 

優しい、って言いました。

 

その瞬間、テニサー軍団から爆発的哄笑が沸き起こり、私の言葉よりも優先的に須藤さんの鼓膜と脳がそっちに反応しちゃう。そんで私は須藤さんからサイパン土産であるリップクリームとハードロックカフェTシャツをもらった。めちゃくちゃ嬉しかったので「優しい~!」と一応言ってみたものの、須藤さんには私なりの文脈では伝わらなかったみたいです。

 

 

 

 

 

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書き下ろし掌編:『Midnight Invincible Chilldren』

 

うわ~終わった~。

定額制のアダルトサイトに登録したら最初の二週間は無料とのことだったので、その間にAV観まくって有料期間になる前に退会しようかな、へへへと目論んでいたぼくはここにきてあろうことか恋をした。企画物の女優さん。名前がわからない。なんかソファーに座って軽くインタビューを受けているシーンでは「あき」って名乗っているけど、名字は何なのか、仮に名字はないとして、「あき」がひらがな表記でいいのかカタカナなのか、漢字だとしたらどう書くのか、もしかすると「AKI」かもしれない。はあ~? どう検索すればこの女優さんの他の作品ディグれるの? ぼくはブックマークから企画モノなどに出演している素人系女優の名前を検索する専門のサイトを開いた。作品名ならわかっている。それを打ち込んで出てきた情報をしらみつぶしにしていくと、どうもぼくの観た作品は長く続いている人気シリーズの総集編だったらしく、お目当ての女優さんは本来そのシリーズのVol.18に出演しているとのこと。じゃあVol.18で検索。出演者、の、名、前……出た! あれ? 計六名の女優さんが出演している作品なのだが、出てきたのは五名分の名前だけで、まあ六分の五ならたどり着けるだろうとひとりひとりをググッて画像で顔を確認していく。違う、違う、違う……ときてあれえこれもしかしていなくない? ぼくがのけぞると安もんのワーキングチェアがぎいいっと騒ぐ。よりにもよって六分の一で情報のない女優さんに恋をしてしまうなんて。さらに不幸は重なる。無料期間は残り一日なのだ……という意味での「終わった~」でした。

 

いや、始まってもねえわ。

坂本にLINEする。

 

 

〈最近のAV女優さんに詳しい?〉 既読

 

 

《なんで急に笑》

 

 

なんでいつも笑ってんだこいつは。まあいいか。

 

 

〈企画物に出ている人なんだけど名前が出ないの。専門の検索サイトにもなかった。協力おねがいです〉 既読

〈商品ページURL〉 既読

 

 

《この中のだれ?》

 

 

と質問されてぼくはためらう。

例えば恋バナをしていたとして、だれが好きなの? と聞かれて即答できるタイプの人間じゃないのである。「あき」って人はどちらかというと顔が丸くて鼻も丸くてちょっと垢抜けない感じの女優さんだ。もちろんそこが超可愛いのだが、ほかの人がどう思うのかはちょっと気になるところだ。というのもぼくは高校のころの「オススメAV女優を発表しあう会」にて、ガチな熟女系の女優を発表し、場を困惑させた前科があるのだ。また思い出しちゃった。みんな高校生で臆病だったってのもあるだろうけど、露骨なほど狼狽した面々にたいへんなショックを受けたのだ。そのときの心の傷は、いまだ滲出液でてらてらしているというのに……。

 

なんて怯えているぼくの返信を待たずに、坂本からURLが送られてくる。

 

 

《検索したら5人出てきた。この中にいる?》

 

 

そこには、さっきのぼくがたどり着いた五名と同じ名が並んでいた。

 

 

〈おれもそこまでは調べられたんだけど、5人の中にいないの泣〉 既読

 

 

《まじか。おけ》

《ちょっとまって》

 

 

頼もしい。

もうちょっと自分でも調べてみるかと、再度あらゆる検索ワードを捻出していると、LINEがくる。

が、坂本じゃない。

加藤。

うわ、久しぶり。高校卒業して最初の夏に会った以来じゃないっけ?

 

 

《藤沼ゆうじゃない?》

 

 

加藤の文面を長押しして検索する。藤沼ゆう。いや美人だけどこういうタイプの顔じゃないんだよなあ……。もっと味のある顔なのだ。っていうか坂本のやつ、加藤にも連絡したのか。うお~、ちょっと恥ずかしいけど懐かしい~。っていうかいまふと気づいたが、ぼくは彼女がインタビューシーンで「あき」と名乗っていたことを先に伝えるべきだ。早速坂本と加藤にそのことを送信。

 

 

《なるほど》

 

 

《了解》

 

 

頼もしい二人です。と思っていると三人目からのLINE。

 

 

《キカ単女優の場合、名前が複数あったりするからなあ。月本希美は?》

 

 

誰やねん。

LINEの登録名も「たー」だし。ぼくは一応、月本希美で検索する。顔を見た限り……。

ぼくはまた背もたれをぎいぎい鳴らす。どうしてこんなにも遠いんだ。

 

 

〈ありがとう。でも違うみたいです…〉

 

 

念のため敬語……。既読がつくのを確認するまえに坂本に質問を飛ばす。

 

 

〈たーって誰?〉 既読

 

 

《あれ? 久留米だよ。知らない?》

 

 

え! 

マジか! 

久留米嵩!

懐かしい~。LINEやってたんだ。もっと早く知りたかったなあ。ぼくは束の間、スマホの画面を眺めながら胸の内側でたっぷりふくらんだ郷愁にひたる。背もたれをぎっこぎっこ鳴らしながらイスを回転させ、すぐそばの窓に向き直る。夜気にのって虫の声が届く。月ははっきり光を放ち、周囲の雲を浮かび上がらせている。坂本とは定期的に連絡をとっているとはいえ、加藤に久留米と、ちょっとした同窓会のような気分になったぼくは久留米に話しかけてみる。

 

 

〈ていうか久しぶり。元気? おれは元気~〉 既読

 

 

《だろうね。久しぶり~~~》

 

 

〈久々に話すのがこんな内容ですまぬ〉 既読

 

 

《まあ大事なことだから》

 

 

……痛み入る。

それから「あき」さんそっちのけでぼくは久留米と近況報告をしあう。彼女できた? できてない。大学どう? 夏休みどうすんの? などと話していると、加藤から上原亜衣とのLINE。はあ~? なに急にやる気なくしてんのこの人~、ってかまあいいのかやる気なんてなくたって。ここまで付き合ってくれただけで、ぼくは嬉しいんだもの。

 

で、結局ぼくはこの四人でグループを作る。みんなで夏休みの予定を出し合い、帰省のタイミングを調整してどこかで四人集まれたらいいねと話している。他にだれ帰ってくるのかな。クラス会とか企画しないのかな、などと話していると、急に加藤が《花火!》といいだし、一枚の写真を上げた。

 

写り込んだ民家の屋根らしきものがちょうど夜空を四角に切り取っているその写真には、星空に伸びた花火の軌跡が、重なり合い、消えかけていた。

 

ぼくはAV女優を五十音順にリストアップしたサイトに並ぶ女優の顔と名前を流し見ている。レーベルごとに区分けできるので、ぼくは「あき」さんの出演している作品のレーベル名を打ち込み、出演女優一覧をぼんやりと眺めた。そのサイトには女優さんのプロフィールとして、スリーサイズとバストのカップまで表記されている。ふと思い出してみるに、「あき」さんの胸は比較的小ぶりな印象であり、特筆すべきポイントはあのパンと張ったお尻なわけで、そのあたりも念頭に置きつつ画面をスクロールしていく。

 

その中にひとり、愛らしい鼻をした女の人を見つけた。バストサイズは八十のD。うお。マジか。ぼくは手元にあった紙のはしにボールペンで「宮崎あき」とメモする。その他にも別名義として「白石きき」とか「忽那りな」などの名前もある。名字と下の名が、ぜんぶ脚韻を踏んでいるな。別タブで出演作品一覧も開く。あ、少ない……し、早々にアナルを解禁している、というか、それが引退作品らしい。ぼくはアナルプレイにはそんなに興味がないし、この待遇はちょっと納得がいかない。

 

でもぼくの納得に関係なく、世界は進み続けるのだ。

 

無数の暴力がいま、いま、いま、いまこの瞬間にだって誕生し、その結果をもたらしている。結果は派生し、新たな流れを生む。無数の文脈が世界に張り巡らされ、この星、なんなら宇宙にまで影響を及ぼす小さな種に、また水を与えるのだ。

 

ぼくは切なくなる。でも少しだけだ。ここで少しなのは、すべてを理解するにはぼくの心や頭の出来が脆弱すぎるからなのだろう。せめてもの願いは、和姦だ。いやらしかろうと、そこに愛があれば、どれだけいいか。もうすでに引退しているっぽい彼女の、和姦系の作品を支持し続けよう。ぼくのその選択により、また新たな未来が、止めようもなかった悪しきレールを外れ、光の道をつくるかもしれない──。

 

洗面台で手を洗い、ベッドで横になりながらスマホをいじる。「あき」さんのことは、坂本たちには内緒にしておこう。ぼくはもう無料期間の終了にも戸惑わない。

 

あのころと同じにおいがする。

 

ちょっと目を離していた隙に、三人は「サッカー部・野球部のイケイケメンバーが帰省時にペンションを借りて乱交パーティーを開催するらしい」「女子は誰々集まるのか」「それは本当に合意の上なのか」「お酒を飲ませて行為に及べば準強姦にあたる」「準強姦は、強姦のソフトなやつという意味ではなく、罪の重さ的には同じ、れっきとした凶悪犯罪」「じいちゃんのマニュアル車なら出せる」「マニュアル車は久留米しか運転できないので、ドライバーは久留米」という話をしていた。そして、いくつもの《どうする?》スマホ画面に並んだまま会話が止まっている。

 

あ、ぼくの意見を待ってくれているのだ。

 

おいおいマジか。ぼくは思う。いつまで高校時代のマインドを引きずってるんだっての、こいつらは。どうするったってそんな。ぼくはスマホで時計を見る。え! もう2時半。時間こえ~。

 

 

 

そりゃ行きますよ。

 

 

全員ぶっ殺そうぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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描き下ろし掌編:『ウキウキ、キックミーアップ!』

 

 

眠れぬ夜をこえて迎えた朝に、俺は思う。眠すぎる。これ以外思いようがないので、ベッドから降り立ったさいの、ぺたりとした足の裏の感触や、背中一面を覆う鈍重な後ろめたさに気分をかすかに上下させつつ、カーテンを開け、朝陽を浴びた。するとどうだろう。これは合図だ、と言わんばかりに頭が冴えてきて、冴えたら冴えたでもうなにもかもが嫌になって、そのなにもかも、例えば今日一日にやるべきこと……というかやっておいたほうがいいこと、例えばなんの気なしに触れた乳首に生えている硬い毛を抜くとか、まあその程度のことなんだけど、ってことはなんだ? 俺はべつになすべきことなどほとんどもたないのである。仕事してないし。ならばなぜ早く起きたのかというと、睡魔を上回る飢餓感に襲われたからだ。そもそも空腹だったから眠れなかったのかもしれないし、だったら今日は腹いっぱいにものを食べ、爆睡してやろう。後のことはもう知らない。たっぷり睡眠をとった、未来の自分に任せます。そう決めてしまえば、途端にこの一日が輝かしいものに見えてきた。いまからアイスコーヒーでも飲んで、なすべきことを探そう。俺は自由で、自由は無敵だ。誰でもいいからかかってこい。

 

その意気込みが態度に現れていたのか、散歩がてら立ち寄ったコンビニでニッカボッカを穿いた赤ん坊のように小さな目をした男に舌打ちされた。道を塞いでいたからだと思う。確かにこちらが悪い。でも、態度が不快だ。頭に血が上ったままおりてこない。殺してえ。こんなことならもっとちゃんと眠っていればよかった。おさまらない怒りも睡眠不足が原因なのだろう。睡眠は大事だ。カフェインの含まれたアイスコーヒーなんて飲んでいる場合じゃない。帰り道、八つ当たりも兼ねて半分ほど残ったコーヒーを道端に撒いてみた。すると犬を散歩中の、定年退職を迎えたばかりで、髪が薄く、黒縁の眼鏡をかけ、ラコステの鮮やかなグリーンのポロシャツを着た男に舌打ちをされた。真っ白でふわふわの大型犬を連れていて、はねたコーヒーで犬が汚れるのを懸念したのかもしれない。でも俺は頭に血が上っているので、ロジックでの理解を上回る怒りにより、はっきりと表情を歪めた。向こうは向こうで、朝からなんて男に会ってしまったんだと言わんばかりに、顔を歪め返してきた。鼻の穴がむず痒くてしかたがないというような、目も当てられない表情だった。こらえきれず、叫んだ。

 

「でけえ犬だなおい!」

 

家もでかくねえと飼えねえよな! いい気なもんだぜ……。

 

それから家に帰って八時間寝た。

 

寝起きに頬を撫でたそよ風が心地よく、急に自分が嫌になり、大声を上げて泣いた。

 

 

 

聞こえますか。

 

 

 

いつでも遊びに来てください。

 

 

 

 

 

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